「待っていろ……今、ロックを外す」
サンダークはそう言って、ソ連軍警備隊ハンガーの電子ロックの解錠を始めた。やはり、そちらの電子ロックのキーコードも変更されていたようだ。
その間、臨時戦術機中隊と警備隊は周囲の警戒をしていた。そして、十数秒後
「開くぞ」
サンダークがそう言った直後、ハンガーのハッチが重い音をたてながら開いた。中を確認すると、一機も戦術機は無く、更にハンガー内には幾つもの死体が転がっていた。シンが、その内の一つに歩み寄り
「ソ連軍の整備士のようです。死因は、銃弾によるものです」
と報告した。それを聞いたサンダークは
「これは、我が方の人事部の連中も指導する必要があるな……」
と言いながら、落ちていた薬莢を拾った。どうやら、ソ連側の薬莢のようで、つまりはソ連側にもRLFの人員が紛れ込んでいた事を示している。
そしてサンダークは薬莢を放り捨てると、一つのコンソールに歩み寄り
「ふむ……推進材も弾薬も、豊富にあるな……補給を行えるぞ」
と警戒していた戦術機に知らせた。そして、二機ずつで補給と武装の調達を開始した。突撃砲はソ連式のだが、調達出来た。FCSの微調整が必要だが、どうにかなるだろう。その間、サンダークはイーダル小隊のことを調べたようだが
「……いかんな、ハンガーに居ないようだ」
「本当ですか、サンダーク中尉!?」
サンダークの言葉を聞いて、クリスカが思わず詰め寄った。すると、サンダークは
「ああ……ログを確認した……どうやら、このハンガーから出撃したラーストチカに追われたようだ……」
どうやら、RLFが差し向けたMIGー29、ラーストチカに追われ、イーニァ達はユーコン基地からの脱出を目指したようだ。そうなると、目指すのはソ連側の一番近い基地。гー04基地になる。
「それで、イーニァは!?」
「……まだ捕まってはいないようだが……分からんな……どうやら、一度見失ったようだ」
クリスカの問い掛けに、サンダークは淡々と答えた。いくら相手の数が多かろうが、イーニァも腕利きの衛士には変わらない。振り切ったようだ。
それに安堵するクリスカだったが、サンダークが言ってないことがあった。
それは、相手の戦力とイーダル小隊の現状だ。
(相手に、東欧連合のMIGー29OVT、ファルクラムが居る……相手にも腕利きの衛士が居るのか……そいつに、2から4は撃破されたか……あいつらも、相応の腕は有ったが……相手の方が上手だったか)
東欧連合軍が試験中のMIGー29OVT、ファルクラム。ファルクラムは原型のラーストチカと比べて、機動性が大幅に向上しており、その性能は第三世代に迫るとされており、更には機動格闘戦能力も大幅に上がっている。必然的に要求される衛士の技量も問われるが、相手には腕利きの衛士が居るらしく、たった一機に護衛の三機が撃破されている。
(もしや、連中が言っていた少佐とやらか? 改修されたとはいえ、我が方の機体を操縦出来るということは、元ソ連軍衛士か? 少佐ということは、恐らくは元大隊指揮官か……)
本部棟に居た時、通信で聞こえた少佐という呼び方。恐らく、その少佐という人物が、今回のテロの切り札とも言える人物だろう、とサンダークは結論した。
もし少佐というのが、元々いた軍隊での階級だとしたら、相当腕利きの衛士だろう。
(どうするか……私は一度、別行動してハンガーに行くか……? いやしかし……シェスチナの動きが分からん以上、下手に動くのは……)
そう考えていると、シンが
「サンダーク中尉、こちらの歩兵用装備を幾つかお借りしてもよろしいでしょうか? 我々の弾薬は、最早残り少ないもので」
と相談してきた。シン達は国連側の歩兵なために、一応はソ連側の指揮官の一人のサンダークに許可を上申してきたようだ。
「ああ、構わん。こういう事態だ。垣根を超えて、行動すべきだろう。使い方は大丈夫か?」
「はっ、一応、定期的に講習は受けておりますので、大丈夫です」
「分かった。好きに使え」
「ありがとうございます」
サンダークの許可を得て、シン達はソ連側の歩兵用装備を調達していく。そうこうしていた時
「サンダーク中尉! モニターを見てください!」
と尚人が、サンダークを呼んだ。そして、詰所のモニターを見ると、国連軍のBDUとボディアーマーを着用した黒人女性が映っていた。
『繰り返しお伝えする! 我々は決起した! 不当に扱われる難民達の為に! 我々が要求することは、難民達に対する救済である! 難民達が、難民キャンプで年に何人死んでいるのか、知っているか!? 一万人だ! 一万もの同胞が、餓死、病死していく! 満足な施しがあれば、死なずに済んだ命だ! 我々は、難民達の為に銃を取った! そして、今ここにある一つの真実を伝える! その名は、レッドシフトだ!』
そして、その黒人女性はレッドシフトの内容を告げた。
それは、アラスカの大地から程近いユーラシア大陸はカムチャッカ半島。
もしカムチャッカ半島でBETAが食い止められなくなり、アラスカに到達した時、今はソ連側の租借地になっている地の地下深くに埋められた水爆が一斉に起爆し、人工的に海溝を生み出してBETAの地上侵攻を食い止める算段らしい。
しかしそうなれば、その地に住むソ連の人達が犠牲になるだけでなく、水爆の一斉起爆により、大災害が起きるのは確実。
そして、そんなことを許し、条約として盛り込んだのは当時のソ連政府とアメリカ政府。
そのことを、殆どの人は知らない。
『このようなこと、断じて許さない! 大国だからと言って、自分の思い通りになると思うな! 我々は、断固として許さない! 我々は何度でも立ち上がる! もし我々の要求が通らない場合、我々は如何なる手段を用いてでも、後悔させるまでだ!』
そこで、モニターから黒人女性が消え、代わりにレッドシフトの詳細な情報が表示された。そして、唯依が
「サンダーク中尉……どう思われる?」
「……恐らく、レッドシフトは本当だろう。私は知らなかったが、租借した際にそういった契約が成された可能性は高い……幾らBETAとの戦争状態とはいえ、仮にもアメリカとソ連は敵国……しかも、我々は祖国の大地を失って、この地に逃げてきた……今は我々が最前線を支えているが、過日のように何時前線を突破されるか分からんのならば、保険を用意するのは常道……だが、そこまでするか」
唯依の問い掛けに、サンダークはモニターを見ながら答えた。それによれば、アラスカの大地は最低でも10kmは分断され、深さ600m級の人工海溝が形成される。
「クソッ……!」
そのことに憤るのは、ユウヤだった。ユウヤもアメリカ人で、今は国連軍に出向しているが、本籍はアメリカ軍になる。
ユウヤも少し前まで最前線を知らなかったが、カムチャッカ半島に行き、最前線を知った。
それを考えると、やるせない気持ちになった。
「だがよ、それを教えたからってなんだ? って話になるぜ? アメリカは非難されるだろうが……」
「……まさか」
VGが首を傾げた時、尚人が何かを呟き、地面をジッと見て
「……もしかしてですが……秘匿されているBETAの研究施設があるのでは? この広大な土地ならば、隠す場所にも困りませんし、相当な数を収容出来る筈です」
「おいおい、いくらなんでも」
「いえ、有り得ない話じゃないわ。国連軍の各方面軍の一部基地には、研究施設が有るって聞いたことが有る……それにアラスカ基地は、カムチャッカ半島に近い……輸送も可能な筈よ」
タリサは否定しようとしたが、ステラは肯定した。
もしもの話だが、そのBETA群を解放し、そのBETAが先ほどのレッドシフトのセンサーに触れたら?
アラスカの地は大変なことになり、最悪の場合は残ったアラスカの地に新たなハイヴが出来てしまう可能性すらある。
「そうなったら、俺達だけじゃ手に余るぞ!?」
「篁中尉……ここは、愚策になってしまいますが、戦力を別けるべきかと思います。最低単位の
尚人の要請に、唯依は腕組みして
「……ジアコーザ少尉、ブレーメル少尉はアメリカ軍基地に向かって、応援を要請してきてくれ。お前達のアクティブ・イーグルならば、間に合うかもしれん」
「了解した!」
「了解よ」
唯依の指示を受けて、VGとステラは駆け出した。そして、ユウヤが
「だったら、俺達は
と提案し、唯依は頷いた。
その時、外を警戒していたイーフェイから
『こちらに接近中の戦術機を確認! 数は1!』
と通信が来た。それを聞き、一瞬警戒したが
『……その後方に、更に四機! え、このIFF……イーダル1と
どうやら、味方のようだ。
「まさか……!?」
「イーニァ!?」
それを聞いたユウヤとクリスカは、ハンガーの方に走った。そして、外を見ると
『クリスカぁ!』
『姐さん! ここに居ましたか!!』
新たに、四機の仲間が増えた。
そして、反撃の幕が上がる。