「篁中尉!?」
「死んだって聞いたぞ!?」
篁中尉が新しい責任者と聞いたアルゴス小隊一同は、激しく混乱していた。
だが、無理からぬことだろう。狙撃事件の翌日には、篁中尉と神田少尉は死んだと伝えられたのだから。
すると唯依も、同意するように頷いて
「私が生きられた理由は、少尉の挺身もあるが……これだ」
と言って、懐から蓋が激しく歪んでいる懐中時計を取り出した。
「ん? こんな時計で防げるわけが……」
「いや待て! これ……スーパーカーボン製だぞ!?」
それを見たVGが首を傾げていると、半ば遮る形でヴィンセントがその懐中時計のガワがスーパーカーボン製な事に気付いた。
実はその懐中時計は、唯依の父。篁裕唯が揺光計画に携わって完遂した証として、帝国が与えた特別製だったのだ。
裕唯はその懐中時計を唯依に譲っており、それを唯依は何時も懐に入れていた。
そして、スーパーカーボン製のガワにより弾丸が止められたので、唯依の命は救われたのだ。
「それで、神田少尉は……」
「……神田少尉は、今も意識が戻っていない。幸いにも一命は取り留めたがな……」
そして唯依の前に飛び出た神田尚人は、幸いにも主要な臓器を外してはいたが、激しく出血した為に意識が今も戻っていないのだ。
「そうか……早く目覚めるといいな……」
「ああ……私も、そう思っている」
唯依は語らなかったが、唯依を助けたのはスピリッツだった。直哉達は機体の整備の為に一時帰隊していたが、入れ替わりにシュン率いるジェミニ隊がユーコン基地に入っており、フェアバンクス基地に運ばれた後に外交ルートを使って、アメリカに来ていた帝国所属のムリヤ(見た目だけで、中身はスピリッツが改造した別物)に運ばれて、その中の治療ポッドで必死の治療が行われた。
その甲斐あって、狙撃事件から三日後には意識が戻って、母親の旃奈から懐中時計の話と尚人がまだ目覚めていない事を聞いた。
その後、何の後遺症も無いのを確認した後にユーコン基地に戻ってきたのである。
そして今回の狙撃事件だが、帝国からアメリカとソ連の両方に外交的圧が加えられた。
その理由が、残っていた楯無機によって撮影された映像。
帝国はその映像を使って、ソ連とアメリカに対して圧を与えて、ユーコン基地における双方の動きを牽制。更に、計画に対して少しでも不利なことをすれば、報復することも示唆したのだ。
こうなっては、ソ連は確実に動けなくなった。
そしてアメリカも、ユーコン基地に配備していた特殊部隊を全て引き上げた。
ユーコン基地でのRLFの計画を、アメリカ軍は事前に察知しながらも、RLFの計画を敢えて見逃したのだ。
帝国は入手したその情報も使って、アメリカ軍特殊部隊を引き上げさせたのだ。
そして、唯依に危険が無くなったと判断してから、唯依をユーコン基地に戻したという訳である。
「けど、無事で良かったわ……」
「だな……あ、後で弐型・フェイズ3のデータを見てくれよな! 凄い機体に仕上がったからな!」
「ああ、確認させてもらう」
タリサの言葉に、唯依は頷いた。
療養している間、確かに弐型開発計画も心配だったが、ユウヤを信じたのは正解だった、と唯依は思った。
唯依が離れている間に、弐型はフェイズ3になり、しかも実機によるデータ収集もされている。
そうなれば、計画の終わりも近いだろう。
そう思っていたのだが、事態は思わぬ方向に動き始めたのは、イーダル試験小隊との模擬戦からだった。
模擬戦の展開事態は、一同の予測通りだった。
積極的に動くのは、1番機のみ。
2番機から4番機も今回は動いているが、VG達により簡単に足止め出来ていた。
ユウヤは単機でイーダル1と交戦していたのだが、その挙動に違和感を感じていた。
「なんだ……前より、動きが鈍いし遅いな……」
チェルミナートルに乗っていた時に行った模擬戦では、常に冷や汗を掻くレベルの攻撃と機動で追い詰められていたが、今の機体。
SUー47・ベルクートに慣れていないのか、どうにも攻撃タイミングや機動が僅かに遅い。
衛士はイーニァと復帰したらしいクリスカの二人なのだが
「なんだ……何か、おかしい……」
今も長刀とモーターブレードで切り結んだが、やはり攻撃タイミングが僅かに遅かった。
SUー47・ベルクート
ソ連軍が発表した最新鋭機で、分類は第三世代機になる。ソ連軍内部では評価の高い機体のチェルミナートルを発展強化した機体で、チェルミナートルより機動性、密集格闘戦能力が高い。
機体はチェルミナートルより一回り大きくなっているが、跳躍ユニットの出力が高い為にむしろ機動性は向上し、大型化した為に継続戦闘時間も向上している。
ユウヤからしても、油断ならない機体なのだが
「クリスカ……何が起きてる!」
とユウヤが叫んだ、その直後だった。ベルクートのモーターブレードを避けたら、ベルクートはそのまま倒れたのだ。
「なに!?」
ユウヤが動揺の声を挙げた時、オープンチャンネルで
『模擬戦中止! 繰り返す! 模擬戦中止!! アルゴス及びイーダル両隊は、現在地にて待機! 医療班が急行する!』
と通信将校が指示してきたのだが、ユウヤは即座に機体の膝を突かせて機動から降りると、急いでベルクートに駆け寄ってコクピットハッチの開放コマンドを入力した。
戦術機はコクピット部分が前だけでなく、後ろにも出るようになっており、どんな体勢でも脱出・救出できるようになっている。
今回ベルクートはうつ伏せになっているので、機体側の判断で背中の武装パイロンが強制排除され、背中側からコクピットブロックが出てきたのだが
「クリスカ! しっかりして、クリスカ!!」
イーニァが涙目で、クリスカを揺すっていた。そのクリスカは、顔面蒼白で意識が無い様子だった。
だからユウヤは、イーニァの肩を掴み
「落ち着け、イーニァ! 頭を打ってる可能性があるから揺するな!」
「ユウヤ! クリスカが! クリスカが!?」
ユウヤは半狂乱状態のイーニァを引き離すと、クリスカの強化装備と自身の強化装備を有線で接続。クリスカの体調を見たのだが
「意識を失ってるだけなら、何なんだ、このパラメーターは!?」
クリスカのコンディションを示すパラメーターが、異常な数値を示していた。基礎的な医療知識しかないユウヤには、クリスカに何が起きてるか分からなかった。
その時、車が乱暴にだが停車する音が聞こえたので、ユウヤはクリスカを搬出することにした。
「イーニァ、手を貸せ! クリスカを医療班に引き渡すぞ!」
「うん!」
ユウヤとイーニァは一緒にクリスカを機体から搬出し、近くまで来ていた国連側の医療班に引き渡した。
その後、模擬戦は一時中断されることが決まって、ユウヤはクリスカの事が気になりながらも、アルゴス隊のハンガーまで戻った。
その直後
「全員、動くな! 我々はアメリカ防衛省諜報局だ! 貴様らが運用する試験機に、アメリカ軍の軍事機密が使われている疑いが掛かっている! これから調査する!」
アメリカ防衛省諜報局。通称DIAが押し入り、アルゴス小隊の試験機。不知火弐型の一時差し押さえ許可証を提示した。