※この作品はR-18です。

酒と思い出と約束   作:キヨラ

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久しぶりの更新です。遅くなりました。

前回の予告通りR18入れる予定が、話がビックリするほどまとまらず…!力尽きました…。
今回もノーマル回です。期待してくださった方、本当に申し訳ありませんm(__)m!

それでも大丈夫という方、このままどうぞお読み下さい^^
BL、妄想、捏造満載です、お気をつけて。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。



望と流れ落ちる滴

 

 

 

季節は秋。

 

 

 

 

耳を澄ませば聞こえてくる、鈴虫の軽やかな音色。

雲一つない空を仰げば、今も昔も煌々と輝く満月が一つ。

 

 

空気からは秋特有の、草木の柔らかでどこか懐かしい香りがした。

 

清らかな優しい風が、オレの疲れて火照った体を癒してくれる。

 

 

 

 

まさに絶好の晩酌日和だ。

 

 

 

 

 

「なーサスケェ。この酒、熱燗にしようと思うんだけどいいか?つーか、今日冷えるし…だから熱燗でいいよな?」

 

 

「…………おい、お前。その湯に浸かってるのは何だ?オレに聞く前にもう決定してんじゃねーかよ!!」

 

 

「…えぇ~しょうがねーじゃん。ほら、オレってば腹弱ぇし。こんな冷え冷え呑んだら明日大変だもん。……だめか?」

 

 

「…………。」

 

 

「………熱燗……。」

 

 

「…………。」

 

 

「……オレってば明日ずっと会議なんだ……そんな時に腹いたくな「――ああ…っ!わかった!熱燗でも何でも好きにしろ!だから……オレをそんな目でみるんじゃねぇ!!」

 

 

「…え?いいの?―――ヨッシャッ!!あんがとなぁ~サスケ!」

 

 

よくやったぞ、オレ!だてに今までサスケと一緒にいたわけじゃない。サスケの心情に訴えるコツはわかっている。小首を傾げて、子犬の様な目、がポイントだ。

 

サスケを上手い事懐柔できて気分上々。オレは鼻歌を歌いだしそうなほど高揚していた。

 

 

 

「………チッ。」

 

サスケはそんな調子に乗っているオレに小さな舌打ちを落とした。

チラリと顔を見れば、眉根はギュッとよせられ口元は不満の象徴、への字。心底悔しそうな顔だ。本当にわかりやすいやつ。思わずそんな顕著な不機嫌顔に両方の口端を上げたら、サスケの眉間の皺がことさら深くなった。慌てて咳払いをしてごまかす。

 

 

今こそ一家の大黒柱になってかなり丸くなったサスケだけど、ソレは完璧な球体じゃなくて角の残った粗削り。元より地雷を多く抱えてる男だ。

 

どこで爆発するかわかったもんじゃない。

 

 

現にギリギリと音が聞こえてきそうな程、オレに鋭い視線をねじ込んでくる。

 

 

「………こぇ~…」

 

「あ゛?」

 

「ぅっ…!!あ、あー…そうそう!熱燗にはアレが必要だったなぁ~」

 

 

 

(危ねぇ…!!地雷踏んだか!?)

 

 

 

やっぱり丸くなってねえ!!かなり苦し紛れに言葉を紡ぎながらサスケから視線を引き離したオレは、脱兎の如く台所から逃げ出した。その間もサスケの厳しい視線は背中に突き刺さってたけど、追って来なかったのが救いだ。サスケが見えなくなったところでホッと息を吐く。オレは廊下を進み。途中、ふと気になって子供部屋に立ち寄った。

 

まったく…ひでぇ寝相。四肢を投げ出して大口を開けて寝るわが子と、きっちり布団に収まり綺麗な顔で眠るサスケの子。ホントに対照的。クスリと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

実は月に三度ほど。

 

両家の妻が揃って不在の時がある。

 

 

 

今頃ヒナタは隊を率いて雷の国での任務に向け移動中だし、サクラちゃんは明日朝一にある手術の為に木の葉病院で泊まり込みの勤務だ。

 

そんな時オレ達はチビを連れて、オレの家かサスケの家。どちらかの家に集まって泊まるのが何時の間にか決まり事になっていた。

 

前回はサスケの家だったから今回はオレの家。うちはのチビ達が訪ねてきた。玄関を開けた瞬間、揃いも揃って同じ顔が3つ並ぶのにはわかっていても毎度吹き出してしまう。テメーのとこも同じだろうが!ってサスケに睨まれるのもお約束だ。

 

 

サスケのチビは、それはもうー生意気。

 

自分の親父の事は子供らしい可愛い声で、父様ぁ!なんて呼ぶくせに、オレのことは完全に呼び捨てだ。しかも悲しい事に、おいナルト!って呼び捨てるその小生意気な口調まで、サスケからそっくりそのまま遺伝している。

 

オレもさすがに言われっぱなしは癪だから、仕返しにツンツンの黒髪頭をグシャグシャにかき乱して茶化すんだけど、その度にしっかり急所を狙ったパンチ……これはサクラちゃん譲りの、クソ重い一発が飛んでくるんだから、堪ったもんじゃない。こいつら、一体どんな教育を受けているのかと疑いたくなる。何時だったか、なんでいつも呼び捨てにすんだよ?って聞いた事があった。そうしたら、フン!と鼻で笑われ『ソレで十分だから』と心臓を冷たい一言で一突きされたのは記憶に新しい。それにうちはのお家芸。火遁の術。

 

それを披露しに来た時には、それはもう―――――――号泣で絶叫だ。

 

 

オレが丹精込めて造園した我が家の庭が、半分ほど真っ黒な更地になったんだ。

 

それは見事に雑草の一本も生えていない。サスケはそんな我が子を、よくやった!と親バカ全開で褒めちぎり、可愛いわが子はその有様を見て蒼眼をキラキラさせて。スッゲ~!!と、それはもうキャッキャッと手を叩いて喜んでいたんだけど……。

 

オレはちっとも笑えない…!!

オレってばこれでも火影なのに…!

 

 

そんなに威厳がないのか!?と心内でしょぼくれてるのは内緒だ。

 

 

それでも唯一の救いは、そんな生意気なサスケのチビも、オレのチビとは仲が良いってことだろう。これは親としても心底安心している。

 

 

赤ん坊の頃から一緒にいる事が多かったのもあって息がピッタリ合っている。チビの時から一緒なら、それはある意味当たり前かもしれないけど、それ以上に強い絆で結ばれているのがわかる。互いを意識しあい良い方向へ導き合う。チビ達の姿は友達っていうより、本当に血の繋がった兄弟の様だ。喧嘩をしたとしてもしばらくしたらお互いぺこりと頭をさげ、それから直ぐニッコリ笑って手を繋ぐんだから微笑まずにはいられない。

 

 

互いを認めあい、強い意志でもってその絆を繋ぎ続ける。それがどんなに大変で大切か。

 

それがわかっているのは、ひとえにヒナタとサクラちゃん、母の教えと愛情の賜物だろう。2人には本当に感謝だ。そういうところはオレとサスケに似なくてよかったと本気で思った。

 

オレとサスケは―――――――……まぁ、うん。残念なガキ時代だったから。

 

 

 

 

そんなやんちゃ坊主達を遊ばせ、飯を食わせ、風呂にいれ、寝かしつける。それが本当に苦労する。

 

しかも今回は指名の任務が入ったサスケが、チビ達を送り届けてから不在という不運に見舞われた。その任務を承諾しサスケに与えたのは他ならぬオレだったんだけど、まさかヒナタもサクラちゃんもいない時に重なるなんて!それがわかった時は執務室で雄叫びをあげてしまった。すっ飛んできた綱手のばあちゃんに脳天に響く拳を頂いたのは言うまでもなく。

 

何とかその指名任務をずらせないもんかと小細工してみたけど、結局ダメ。『めんどくせぇ~』が口癖のクセに、仕事になると本当に容赦のない参謀にバレちまって。火影の権限を悪用すんじゃねぇ!!って、それはもうたっぷりと説教をくらった。その後バツとしてたんまりと書類を持たされてしまったもんだから、オレもうかうかしてられない。明日までに完璧に仕上げなくては、ヤツお得意の影縛りの術で執務室に一日磔の刑だ。

 

飯はおろかトイレにすらもまともに行けなかったりするんだから、ホント冗談じゃねぇ!

 

 

 

書類をさばきつつ子守りに買い物、掃除、洗濯、飯の準備。

 

影分身をフル活動させたのは言うまでもなく。夜、サスケが任務から戻ってきた頃には足元がフラフラで、覚束ない有様だった。たぶん呂律も怪しかったと思う。サスケはそんなオレの姿をみてギョッとしていた。それでも、しっかりすべての仕事をやり終えたのだから自分で自分を褒めてやりたい。

 

 

 

 

オレ達はそんな自らの頑張りを称え労う為に、今夜もチビ達が眠った後密やかな晩酌の会を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと。たしかこの下に入っていたはず――――…」

 

 

壁のスイッチを手探りで探し、パチリと電気をつける。

子供部屋を後にし居間へ向かったオレはその光の眩しさに顔をしかめた。少し背の低い茶色い飾り棚。オレは身を屈めて一番下の扉の中を覗き込む。

 

 

 

(―――ああ、あった!あった!)

 

 

 

藍色の紐でむすばれた、年月を感じる桐箱がひとつ。

それは、今日の晩酌に欠かせないものだ。

 

オレはそれを手に取り、手のひらに乗せた。箱自体はさして大きくない。それでも大きさに似合わない重厚感がある。ソレを神妙な面持ちで一瞥し、シュルリと藍色の紐を解き蓋を開けた。柔らかで上品な薄紅色の布に包まれたそれは、確かな存在感を持ってそこに鎮座している。

 

 

雪のように柔らかな釉薬が口から胴に掛けられた、光沢の美しい漆黒の酒器。

 

それが二つ。

 

 

綱手のばあちゃんが、火影就任の祝いにくれた業物。

 

 

 

千手柱間と千手扉間。

 

彼の兄弟が酒を酌み交わした時に愛用した猪口だった。

 

 

 

火影に就任したらいいものをくれてやる。そう言われて就任式後に渡されたこの猪口。その持ち主と歴史を聞いて、顔がどんどん青くなったのを覚えてる。

 

まさかこんな木の葉の文化的にも重要な物を価値のわからないオレにくれるなんて!ばあちゃん、ついに可笑しくなったか!?と声を荒げたけど、どうやらばあちゃんはオレが火影になる随分前から、この千手一族の大切な猪口を譲ろうと思っていたらしい。お爺様方も忍界大戦時にはお前の事をいたく気に入っていたからな、かまわんだろう!ワッハッハッと豪快に笑って渡すんだから、本当にばあちゃんは大物だ。

 

 

 

――――大切な者と盃を交わす時に使え。

 

 

そう一言添えて、渡された猪口。

 

オレはばあちゃんの言葉に目を見開き、一拍した後、深く頷いた。

 

 

 

けして気後れしてたわけじゃないけど、オレはこの猪口を実は一度も使ったことがない。

 

 

圧倒的な力と智、そして徳と愛。それらをもって木の葉を創設した忍界に誇る兄弟。忍界大戦時にはオレも何度も救われたし、実際に言葉を交わし見えたその内の本当の意志の強さに憧れた。オレもこうでありたい。こういう火影になりたい。そう思わせてくれた兄弟だ。特に二代目、扉間じいちゃんの開発した術にはお世話になりっぱなしで頭が上がらなかった。

 

その兄弟が愛用したものが今ここにある。そう意識すると、何だか恐れ多いような……使うのがもったいないような。不思議な気分になる。そんなこと考えるなんて全くオレの柄じゃないのに。

 

 

 

 

でも今夜は、この酒器でサスケと一杯やりたい。

 

 

 

 

 

 

千手兄弟は何を語りながら、盃を交わしたのか。

サスケと彼の兄弟を思いながら酒を呑むのはきっと面白い。

 

 

それに今夜は運の良いことに、満月。

 

 

鈴虫の声を聴きながら酒器に満月を映し愛でる。そうして交わす酒は絶対に美味いだろう。

 

 

「よし!!」

 

そう思ったら何だか急に浮き足立ちそうだった。こうなったら早い事、酒宴を始めよう。息巻いたオレは大事に桐箱を抱え立ち上がる。さあ、サスケの元に行こう。

 

そう足を一歩踏み出した。

 

 

 

 

―――――――――その瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

「…イ゛ッーーー!!?」

 

 

 

ビキッ!!と何かが砕ける音が体の内から響いた。

 

 

すっかり治ったと思っていた腰が突然悲鳴を上げたのだ。これは言うまでもなく、地獄のお馬さんごっこの影響。またはサスケを懐柔して有頂天だったオレへの罰なのかもしれない。

 

 

(なんで…このタイミングで―――…っ!?)

 

腰骨が軋しみ、力を失った膝がガクン!と勢いよく折れる。

悪態をつけないほどの激痛だ。

 

そうこうしている間にも顔面に固い床が迫ってて。

 

 

 

しかも最悪な事に、目の前を2つの漆黒が横切った。

 

 

 

 

 

―――――――猪口だ。

 

 

 

 

 

 

「…ぁ……ヤベェ…ッ!!!」

 

 

 

 

 

余程勢いよく箱から飛び出したのか、猪口が黒い残像を残しながら空中を滑空する。このままいけば確実に固い床に衝突、そして粉々になるだろう勢いだ。床から15センチのところ。オレは唯一自由の効く腕をそこ目掛け必死に伸ばした。

 

 

 

(――――――間に合え…!!!)

 

 

そしてほんの少しの間の後。

左手に感じた、滑らかな感触と重み。

 

 

間一髪、オレは桐箱から飛び出した猪口をキャッチしたのだ。

 

その衝撃で手の中で猪口同士が激しくぶつかり、カチン!っと大きな音が鳴った。割れたか!?と慌てて見れば、表面に傷もヒビも何も無く無傷。ホ…っと嘆息が漏れる。

 

けど残念な事に確実に無傷では終わらないものが一つあった。

 

 

 

オレの体だ。

 

 

 

「―――――よかったぁ……。」

 

 

 

猪口を見てそう安堵の呟きを漏らした時にはもう遅い。オレの体と床との間には少しの隙間もなかった。

直後、大きな衝撃音が響く。

 

避けられるわけもなくオレは派手に転倒した。

 

 

 

―――――ドガッ…!!!

 

 

 

 

 

「――――――グッ…ぅ゛!!」

 

 

―――ゴキ…ッ。

 

続いて聞こえてきたのは骨の砕ける鈍い音と今までで一番の激痛。

 

咄嗟に受け身を取ろうしたけどやっぱり間に合わなくって。激痛の元を見れば腰はあらぬ方向に捩れていた。もちろん叫びだしそうなほど痛い。それに硬質な床に強打した右半身――――――特に右肩の痛みはひどかった。

 

 

 

(―――――コレ、……イッたな。)

 

 

右肩から下の感覚が全くない。だらりとそこにあるだけで使い物にならない腕に、動けと命令してもやっぱり指の一本も動かせない。もう確定だ。

 

 

肩骨が完璧に折れている。

 

 

「………ハァ…。」

 

(……ちくしょう。オレも鈍ったかなぁ…、ッ!!イ、テェ…ッ!!)

 

腕は使いものにならないのに、しっかり痛覚は働いているのが憎い。

激痛で視界が歪むし鼻の奥がツンっとする。涙が出る前振りだ。それなのに冷静に自身の状況が分析できるのは忍ならではの嫌な職業病だった。気を失った方が幾分ましだと言うのに。

 

 

(それにさっきからだんだんと強く漂てくるこの嫌な臭い……。)

 

オレは視線を折れた肩から、胸元に移した。

臭いの元を辿って固く組まれた腕の中を見れば―――――――やっぱり。

 

余程強く守るために抱え込んだのか。桐箱の角が体を強打した衝撃で、右胸部の肌、そこを深く突き破っていた。

 

しかも砕けた桐箱の木片が裂けた肉の中にいくつも突き刺さて散らばっている。最悪なオマケ付きだ。想像以上に激痛が走るのはこのせいか!よくよく見れば砕けた木片の一つ一つが深く突き刺さっている。嗅ぎなれた鉄臭いものが鼻について顔が歪んだ。

 

だらだらと刺傷から溢れた生温かい血が、オレの白いシャツを赤く染め上げていった。

 

 

「―――はあぁ~…。」

 

今日一番の長い溜息が漏れたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「おい…!!大丈夫かよ…!?」

 

「……おーサスケェ。悪いんだけど手ぇ貸してくんねえか?」

 

 

オレの派手にすっころんだ音が聞こえたのだろう。つまみの用意をしていたサスケが台所から何事かと飛び出してきた。珍しく声を荒げている。

 

折れた右肩はまだいいとして大元の腰が思うように動かないから、体を起こすのに左腕一本じゃ頼りない。オレは、自身の有様に似合うなんとも情けない声で助けを求めた。けどサスケはオレがそう声をかけ終わる前にはすでに真正面に立ち、素早く屈んでいた。そこで初めて気付いたのか、オレの胸に出来た大きな赤いシミに目を見張る。その瞬間、端正な顎がグッと強張った。余程驚いてるみたいだ。

 

 

「かってたる家の中で何してんだよ…お前は!」

 

 

ありえねぇぞ、このドベ!!呆れた様な、それでいて怒っている様な声。サスケはそんな何時かの時代よく聞いた台詞を、喰いしばった歯の隙間から吐き捨てる様に言った。オレはサスケの言葉そのまんまの顔に、苦い笑みを浮かべるしか出来ない。いや~ごめん、ごめん!二ヒヒッと笑って誤魔化せば、何笑ってんだよ!って、般若の如く恐ろしい顔で一蹴された。それでもオレを支えるこの手は突き放さないでいてくれる。うん、やっぱりサスケは優しい。

 

派手に怪我をしてもなお何故かニコニコ微笑んでいるオレに怪訝な顔をして。訳が分からんと言わんばかりにサスケはその整った眉をしかめる。そうしながらオレの背に腕を回し抱き起した。

 

 

「イッ…!!」

 

「…たく。ほら頑張れ。」

 

「うぅ~…。」

 

腰が刺激される度に襲ってくる激痛。抱き起こされる途中途中で呻き声をあげるオレに、サスケはその都度ぴたりと抱き起すのを止め優しく背中を摩ってくれた。その手つきはあやす様に優しくひどく温かい。それをオレの腰が完全に座るまで何度も何度もしてくれるんだから、口元がムズムズ動いちまうのは仕方無いよな。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「どうする?誰か呼ぶか?」

 

 

オレに肩を貸し寝室まで運んだサスケは、ベッドの上に座らせた後てきぱきと応急処置を施していった。

 

まずは肩を固定し、胸部の傷痕から突き刺さった木片を丁寧に一つ一つ取り除く。素早く取り除いてくれるから、痛みはそれほど感じなかった。それが終われば止血をし薬を塗ってから、素早く包帯を巻きつける。

 

その手つきの見事さと速さと言ったら―――医療忍者顔負けだ。サクラちゃんに教わったんだろうか。

 

 

(おーすっげぇ。はえー!)

 

サスケの手さばきに心内で感心の声を上げながら、オレはサスケの問いに首を横に振った。

飲み込んだ鎮痛剤が水と一緒に胃に滑り落ちていく。

 

 

「火影が家ですっころんで怪我したなんて、そんなのダセェ。恰好悪すぎだってばよ。それに怪我は明日までには全部綺麗に治ってるだろうし。」

 

「……ハァ。明日って、お前…骨まで折れてんのにか?」

 

「平気平気!九喇嘛が何とかしてくれるってば!」

 

 

(な!だから頼んだぜ、相棒!)

 

 

二カッと笑って丸投げすれば、腹の奥から九喇嘛の唸り声が聞こえた。

 

直ぐに『何でもかんでもワシに頼りやがって!!もっとしっかりしろ、馬鹿が!』ってお叱りの言葉が飛ばされる。けどそう言いつつチャクラを練ってくているんだから、やっぱ九喇嘛も優しいよな。オレの無茶を何時も受け止めてくれる。ありがとなって言ったら、フン…!と照れ隠しが返ってきた。

 

オレは傷が痛まないようゆっくりベッドへ横たわる。うん、横になればすこしは楽だ。ここにチビ達がいなくて本当に良かった。いたらきっと絶叫やら、号泣やらでゆっくり休んでられないだろう。懇ろ怪我が悪化しそうだ。そんな事を思って嘆息をついていたらサスケが流れるような手つきで布団をかけてくれた。

 

鎮痛剤が効いてきたのか、身を包む温かさと相まって眠気が生まれる。

 

 

 

「サスケー。」

 

「ん…?」

 

「晩酌。……悪りぃな。台無しだ。」

 

 

火影になってからオレはめっきり怪我をする事がなくなった。怪我をしたとしても、ほんの擦り傷や切り傷程度だ。だらだらと流血したのもかなり久しぶりだし。一体何年ぶりだろう…。

 

だからなのか痛みの耐性が昔に比べかなり弱くなっている様だ。けどそんなのは言い訳にすぎない。昔のオレだったらこんな痛みどうってことなかっただろうし、そもそもあんな無様な転倒なんて絶対していない。

 

 

「まったく…情けねぇ…。」

 

サスケにウスラトンカチやらドベやら言われてもしかたないよな。惨事とばかりに包帯でグルグル巻きになった胸を見て苦笑を浮かべた。

 

 

(……怠慢の極み、か。)

 

 

怪我の痛みと自分の不甲斐無さ。

 

顔を歪め苦笑したオレを、サスケはただ黙って見ていた。今日何度目かもわからない溜息を落とした時、ギシッとベッドマットが軋み微かに傾く。眠気から閉じかけていた視線を動かせば、そこにサスケが座っていた。ちょうどオレの腹の横に空いていたスペースだ。真っ黒な瞳にありありと疑問の色が浮かんでいる。じっとオレを見てから片眉を上げた。

 

 

「お前さ…。そもそも何であんな派手にすっころんだよ?」

 

「…う!…あ、ぁ~……。」

 

サスケさん…察してくれ!そういえばサスケは現場を見てなかった。見たのは事が全て終わった後。オレが身悶え、老人よろしく体をプルプル震わせていて時だった。……その姿は火影としてどうなんだろう…。どうやら己の無様さをもう一度再認識しなくちゃいけないようだ。

 

オレは顔を顰め布団から手をだした。寝室の隅に置かれてる小さなテーブルの上をノロノロと指差す。そこにはオレが派手にすっころんだ原因があるはずだ。サスケもオレの手の動きにうながされ後ろを向いた。ジッとしばらくそこにあるもの見てから、怪な顔でオレを向き直る。まるでわからないって顔だ。

 

 

「猪口…?」

 

 

困惑した声。チラッと猪口をもう一度見てからまたオレを見る。何度見てもよくわからんって眉間に皺の寄った顔のサスケに、オレは小さく笑って答えた。

 

 

「そう。猪口が箱から落ちて割れそうになったんだってば。猪口は割れずにすんだんだけど……オレ自身が間に合わなくってさぁ。すっころんで腰捻って強打したはずみに骨接……。おまけに、箱が腕の中にあって。」

 

「そいつがブッ刺さって、流血―――ってワケか。」

 

「そう、ご名答!」

 

もうやけくそだ!二カッと笑って親指立てる。そんなオレを呆れたと空を仰いでから、ポツリと漏らした。

 

 

「ただの猪口に……こんな怪我か。」

 

その言葉にオレは少しばかり切ない気持ちになる。

 

でもしょうがない。サスケはオレが何でこの猪口を必至に守ったのか、その本当の《理由》を知らないんだから。オレもばあちゃんから、この猪口の話を聞かされてなかったらきっとサスケと同じ様に言っていたんだろうな。同意する様に一つ頷いてから微笑んだ。

 

 

「サスケ。この猪口はただの猪口じゃないんだ。」

 

 

少し首をのばして視線を上げる。寝室にだだ一つある窓。その外を見た。

 

 

煌々と輝く満月が見える。

 

 

(うん。―――ちょうどいいな。)

 

 

 

「おい…!ナルト!?」

 

「ッ…グッ!」

 

 

オレはサスケの静止を無視して上半身を起こした。

 

 

(やっぱ滅茶苦茶イテェ…!)

 

まだ鎮痛剤は完全に効いていないようだ。眠気も瞬時に吹っ飛んでしまった。ズキズキと胸を刺す痛みが襲う。それでも今は我慢だ。オレはサスケと視線が交わる様になるまで体を起こし顔を突き合わせた。

 

 

「あの猪口……。実は、初代と二代目が愛用してたもんなんだ。」

 

「……柱間と扉間の?」

 

「ああ。」

 

 

忍界大戦時、猛然と力を揮った兄弟。その圧倒的な姿はサスケの記憶にも強烈に残っているだろう。静かでありながら、驚きの含まれた声が耳に届いた。

 

偉大な二人の愛用した酒器。それでサスケと一緒に酒が呑めたら楽しいだろう、そう単純に思ったのもあるけど。オレが怪我をしてでも守ったのには別のワケがある。それこそ、オレがサスケとこの猪口で盃を交わしたかった《理由》だ。そのためにも猪口は絶対に守らなくちゃいけなかった。

 

 

「綱手のばあちゃんが火影に就任したときに祝いだって言ってオレにくれたんだ。何でも…千手兄弟が”願掛け”につかった猪口なんだと。」

 

 

「願掛け?」

 

 

 

 

――――――願掛け。

 

 

 

オレはサスケの言葉に一つ頷いて微笑む。

窓の外を仰げばそこにあるのは今も昔も煌々と輝く金色の望月だ。

 

オレはそれを見上げ、ばあちゃんが教えてくれた話をした。

 

 

「――――成し遂げたい何かがある時、もしくは絶対になさねばならない事がある時。この猪口に酒を注ぎ……猪口の水面に映る満月に願を懸ける。そしてその願掛けした月を呑むんだ。その願いが己が血肉に返る様に――――――――……てな。ばあちゃんが猪口をくれた時に言ってた。」

 

「―――……。」

 

 

ばあちゃんの話だと、千手兄弟は何度も何度も盃に満月を浮かべ願掛けしたそうだ。

 

 

―――――ただ戦の無い平和な世界が来ればいいと。

 

 

満月を背に酒を酌み交わすお爺様方の姿はどこか宙を思わせ、神秘的で崇高な感じがした。まるで神さんみたいだったよ。そう言ってばあちゃんは笑っていた。

 

 

「もう―――戦が起こることは無い。子供達はみんな安心して笑って大人になれる。無益な戦いで傷付いたりすることもない。きっとオレ達みたいに、酒を呑んで昔を懐かしんだりできるってば。オレはそう思う。」

 

第四次忍界大戦が終結した後。五大国の結束はより強まり、そこには確かな絆が出来ていた。そしてそれは今も変わらず存在し、忍世界が平和な世界へ近着いている証だ。オレは火影になり家族も出来た。失った命もあるけど、これから誕生する命を見守れる。十分すぎる程、幸せだ。

 

 

「でも……あと一つだけ願掛けしたいことがあるんだ。」

 

 

暗い寝室に届く月光は、儚げで優しい。何時の間にか、サスケも無言で窓の外を仰いでいた。目の前の端正な横顔が月明りにてらされて輝く。陽炎の様にゆらりとサスケの影が動いた。黒曜石を思わせる瞳がオレを映し出して。

 

 

 

 

「サスケ。お前の幸せだ。」

 

 

 

ゆらりと揺れた。

 

 

その瞬間。サスケの顔の上を様々な表情が現れては消える。困惑、唖然、驚嘆―――――吃驚の表情が多かったけど、その中に行き場を求めて彷徨う。救いの手を求め足掻く小さな子供の様な表情が現れたのをオレは見逃さなかった。

 

 

里に帰って来てからのサスケがどれだけ苦しい思いをして今の己を作り上げたのか。その想像を絶する歩みを、傍で見てきたオレにはすべてわかる。

 

サスケは忍界大戦の終結に尽力した功労者であっても、元を辿れば里を抜けた大罪人だった。

 

五影会談を襲撃し、志村ダンゾウを殺害。暁に加担しビーのおっちゃんを襲った。国を超えた諸々の罪は簡単に消ない。サスケは視界の一切を断ち切られ投獄。うちは所有の土地、財産、関わりのある物すべてが奪われ。投獄が明けてからは、名も奪われ暗部として完全な闇の中に消えた。全てを奪われ、それでいて何者にも求められない。それは……想像を絶する孤独だ。それでもサスケは己の犯した罪を償い、自身の力で里に認めれ光の下に帰ってきた。

 

 

オレはそんなサスケの幸せを願って止まない。

 

 

 

 

 

「…………ナルト。」

 

 

俯いたサスケの表情は黒髪に隠れて見えなかった。

 

それでも声は掠れ震えているのがわかる。サスケはゆったりとした動作で、向き合っていたオレの肩にコツリと頭を預けてきた。肩が小刻みに震え、ポツポツと落ちてきた水滴がオレの肌を濡らしていく。呟く様に吐き出されたオレの名前。そのたった一言がすべてを物語っていた。

 

 

 

「サスケェ。包帯が濡れちまうー。」

 

「………うるせぇ、ドベ…。」

 

「なあ。…オレの願掛けに付き合ってくれるか?」

 

「………しょうがねぇから…付き合ってやるよ。」

 

「ブハッ…!素直じゃねー!」

 

「うっせー…。」

 

 

 

大人になると涙もろくて適わない。

 

肌にあたる温かい滴に笑みを漏らしながら、オレは美しい望月を見上げ眼を細めた。

 

 

優しい月光が瞼をくすぐる。

 

 

 

 

 

少しでもこの優しい男の痛みが和らぐように――――…そう願いをこめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ここまでお読み頂き有難うございます。
そして数々の妄想、捏造失礼いたしました。

チビ達の名前はまったく思い浮かばず、誤魔化し継続。そしてサスケはナルトにとにかく甘い設定です。ナルトもまた然り。イメージ違いでしたらごめんなさいm(__)m

次回こそはR18!ぶっこんで行きたいと思います!頑張ります^^

のんびり更新ですが、またお付き合い頂けたら嬉しいです。

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