この話はその前振り。
バシッ!ボコッ!
リナリーの部屋へと向かう道中、ふいに何かを殴打するような音が聞こえる。
「何の音だァ?」
聞き慣れない、何か厚い布のようなものを叩くような音。
音のする方を見てみれば、彼らが探し求めていた姿があった。
「はぁッ!」
バシッ!ゲシッ!
支部の雰囲気が堕落しすぎているせいで長い間使われなかったサンドバッグ。
それを必死に一人の少女が蹴っていた。
彼女はアクマと戦うエクソシスト。
日頃の身体的な鍛錬は欠かせない。
「リナリー…さん…」
突然現れた驚きで、呆然とその名を口に出す男。
これから彼女をレイプするつもりでいたのに、急に腰が引けてしまったかのように声が小さくなる。
集中しているのか、リナリーは彼らが近くにいる事に気付かない。
「はっ!やぁッ」
さわやかな汗を流しながら、ひたすら訓練に励むリナリー。
訓練用に着替えたのだろう、ふとももを剥き出しにしたショートスパッツを履いて、肩を出したノースリーブ姿はあまりにも扇情的であった。
しなやかな脚は黒いニーソックスに包まれている。
男達はごくりと生唾を呑み、股間を膨らませてしまう。
「はぁ、はぁ…」
一旦動きを止めて、水をごくごくと飲むリナリー。
その間に彼らの存在にはっと気付く。
「…あれ?どうしたんですか?」
息を切らせながら、男達に話しかけるリナリー。
間近で初めて聞くその可憐な声に男達はさらに興奮してしまう。
「い、いや…その、たまたま近くを通りかかっただけなんだけど…」
「練習してたから、つい、見ちゃって」
何やらよそよそしい様子の男達に、リナリーは微笑みながら返す。
「あっ、ごめんなさい。ここ使って良いのか分からなかったんだけど、いつアクマが襲撃してくるか分からないから…」
いつ襲撃があるか分からないから、エクソシストである自分は訓練を欠かさない。
そんなひたむきで真面目な性格も男達の好感を誘う。
「あー、別にそれくらいだったら良いんじゃないかな?うん…」
生返事の男。
しかし、ほのかに香ってくる汗の匂いと間近で見た可愛らしい顔に心中は穏やかではなかった。
(たまんねえ~!間近で見るとめっちゃ可愛くて、もう…)
(スタイルすげー良いな…胸も意外とあるし…)
(汗だくセックスしてえ…このままシャワーに入らず押し倒して…)
憧れの美少女を前にして、思い思いに妄想と股間を膨らませる男達。
舐め回すようないやらしい視線で体中を見られている事に、無垢なリナリーは気付かず、ただ訝しむだけだった。
「あのー、何かあったんですか?」
「あぁいや、何も…」
男達の下卑た欲望は既にはち切れんばかりに大きくなっていた。
肌を触れ合う事はおろか、日頃から女性を見る機会さえ限られている彼ら。
性欲を発散すると言えば自慰行為や、たまの休みに風俗やソープに行く事くらいだ。
そんな彼らの前に、もし突如として10代の無垢で純真な美少女が現れたら…どうなってしまうだろうか?
「…ねぇ、もし良かったら、組手付き合ってあげよっか?」
ふいに一人の男がぽつりと言うのを、はっとした表情で見張る二人の男。
リナリーも「え…?」とぽかんと口を開けて驚いている。
「いや~、俺、昔はレスリングやってたんだよね。だから、リナリーちゃんの役に立てるかなーって思ってさ」
見え透いた作り笑顔でリナリーに協力すると話を持ちかける男。
出し抜かれた二人の男は少し恨めしげにその横顔を睨み付ける。
どうせまともな組手なんかするつもりはない、抱き付いたりセクハラまがいの事をするのだろう。
邪な劣情がその言葉には含まれているのが二人の男にはよく分かった。
しかし、清純なリナリーには伝わらない。
「…え、えーっと」
邪な気持ちに気付いていなかったとしても、この誘いにはいかにも応えがたい。
エクソシスト同士ならともかく、相手は内勤の戦闘経験のないであろう男。
正直、相手にならないのはリナリーには分かっていた。
泳ぐリナリーの視線がそれを物語る。
「い、いやぁ~、俺もさ!最近中で働いてばっかりで運動不足なんだよね!…だから、そのー…お互いのためになれば良いかなって、思ってさ」
必死に言い繕う男。
なんとか強引にエロ組手に持ち込もうと頭をフル回転させる。
(へへへ…組手に持ち込みゃこっちのもんだ…どうせ俺相手にはイノセンスなんか使わないだろうし、そうなったらエクソシストといえどもただのヒョロい女だ。そうなりゃ強引に押し倒して…ぐへへ…)
どんな事をしてやろうか、寝技に持ち込めたらまず何をしてやろうか…
殊色の美少女を前に、妄想と股間が膨らむ。
「えっと…じゃあ、ちょっとだけ…なら」
「ぃよしッ!」
つい小さなガッツポーズをしてしまう男。
リナリーからすれば自分の父親にあたるような歳の相手から何か頼まれれば当然断りづらい。
ましてやこの支部に異動してきたばかりなら尚更だ。
「じゃあ早速やろっか!うは~、楽しみだなぁ」
「えっ!そ、その格好でやるんですか!?」
いそいそと服を脱ぎだした男に、リナリーが思わず声を上げる。
「いや~、教団服だと動きづらいからさ、しょうがないじゃん」
上だけ肌着になって、男は早速リナリーへと向かう。
でっぷりとした腹が白い肌着越しに現れて、非常に情けなく映る。
残された男二人は舌打ちをしながらひそひそ声で会話していた。
「チッ…あいつ一人だけ良い思いしやがって…」
「でもよぉ…実際どうなんだ?あいつがレスリングやってたとかどうとか知らねーけど、素手で勝てる相手なのか…?」
ウキウキした様子で準備運動と言わんばかりに体を動かす男。
腕を回しながら待ちきれずに声をかける。
「さあ、リナリーちゃん、そろそろ始めよっか?」
「は、はい…」
(まあ、適当にやり過ごせば良いかな…)
リナリーも本気でやり合うつもりは一切ない。
怪我させない程度に付き合えばいいかな、という心境だった。
「よぉーっし、行くぞお?」
ニタニタと卑らしい笑みを浮かべながらリナリーへ近付く男。
頭の中ではリナリーを組み伏せてどんなセクハラ行為をしてやろうか、まさに夢のような妄想で包まれていた。
5分後…
「はぁっ…!はぁっ…!ぜぇ…はぁ、はぁ…」
「あ、あのー、もうやめにしませんか?」
そこには男が思い浮かべたような景色は一切見えなかった。
近付いて組み付けば強引に押し倒せると思ったのが間違いだった。
リナリーは蝶のように素早く華麗に動き回り、男の突進を交わして指一本触れさせない。
(ち、ちくしょう…!まさかこれほどとは…)
甘く見ていた。
可愛らしい顔や華奢な体つきに騙されてしまった。
もう数十年間もまともに体を動かしてこなかった自分に勝てる相手ではなかったのだ。
何度も何度も突進を試みるも全て交わされてしまう。
おかしいくらい汗をかいて息も絶え絶えになっているのに、相手は息一つ切らせていない。
考えてみれば当然だ。
あの異形の化物と戦う人間なのだ。
そりゃあ勝てる訳ないよな、と真っ白になった頭の中で男は一人納得してしまっていた。
だが、この最高のシチュエーションを無駄にしていいのか。
この機を逃すと、リナリーは他の男に卑劣な罠にはめられてそいつの手に落ちてしまうかもしれない。
現に倒れ込む自分をせせら笑う後ろの男二人がそうだ。
せっかく組手をしてもらったのに、あんまり自分が弱いとリナリーももう組手をしてくれないだろう。
何か、何か一つでもしなければいけない。
男は最後の力を振り絞って、手を差し伸べるリナリーに突進した。
「きゃあっ!」
驚いて、反射的に脚が動いてしまった。
折り畳まれた脚がコンパクトに男の体へ突き刺さる。
「うぐぉおっ…!」
「あっ!ごめんなさい!」
尖った膝が股間へ直撃する。
くぐもった悲鳴を上げながら痛みに悶える男をリナリーは心配そうにしていた。
「医務室に運びますか?」
「いや、こんなのこいつの自業自得だし…まあ部屋で寝てれば大丈夫でしょ」
後ろで見ていた男が冷やかすように言う。
二人の男が立ち上がれずにいる男の腕を取ると、リナリーに一言かける。
「今日はごめんな、こいつがどうしてもって言うからこんな事になっちゃって…本当にごめんな」
「あ、私は大丈夫です。でも、その人は…」
「いいよいいよ、こいつは俺達がなんとかするから…」
引き摺るように股間を蹴られた男を運ぶと、そそくさと帰る。
(しかし、イノセンス無しでもあれだけ強いのか…ちょっと困ったな、どうやったら犯せるか…)
(今後はイノセンス対策も含めて、リナリーの動きを抑えられる策を考えないとな)
蹴られた男に肩を貸しながら、二人の男は思案していた。
股間を蹴られたのは無様と思いながらも、今後自分達が無策に突っ込んでいけばこいつと同じ目に遭う。
そう思えば他人事ではない。
無い頭を振り絞りながら、己の欲望を満たすために、ひたすら思案する。