秘密の日記10
「ヴェル君、今夜も私を愛してくれてありがとう」
「そんな、俺にはアマーリエ
「私はヴェル君の女なのよ、もうずっと、そうなれてよかったと心から思っているの。だから、私を望むがままにして、お願い」
「……じゃあ、いつものようにしてください」
「女としての私を求めてくれて感謝しているの、すごく愛しくて、何でもできてしまうの」
「う、はぁ、そんなに激しく吸わないで、あっ、噛んだら痛いですよ、優しく舐め上げるように……」
「そんなの無理よ、こんな淫らな女にしたのはヴェル君なんだから、あぅ、大好きなの、これが欲しいの……」
「ね、義姉さん、俺にも義姉さんを愛させて、ください、早く、お尻を」
「うう、感じる、いいわ、私なんかが、こんな気持ちよくなっていいの……」
「義姉さんのここ、本当にきれいですね。とても子供を産んだとは思えない。だから欲しくてしかたないんだ」
「……本当に、本当なの、私なんかを?」
「俺も義姉さんもすべてをさらけだして、思い切り淫らな男と女になれる、唯一の相手なんですよ。他の誰もマネできない」
「エ、エリーゼさんたちには悪いけれど、凄く幸せなの、今の私は……」
◇
私が“あてがい女”として愛人を務めてきたヴェル君は、エリーゼさんたちと結婚して間もなく親善訪問団で訪れたアーカート神聖帝国の内乱に巻き込まれ、一年以上も国を留守にしていました。
最初のうちはまったく情報もなく、不安に苛まれる日々でした。しかも彼が行方不明になって間もなく、さる有力貴族が「われわれが手伝うからマインバッハ家でバウマイスター伯爵家を奪ってしまおう」と実家に持ちかけてきたのです。
「家を乗っ取って当主となった弟の生死がわからず子供がいないのなら、亡き長男の息子であるカールとオスカーこそがバウマイスター家の正当な嫡子であり、相続権第一になると主張すべきだ。これが認められたらマインバッハ家は、実質的にバウマイスター領を支配できるだろう。宮廷での政治工作は当家がやるから、代わりに未開地開拓の利権を半分もらいたい」
震え上がった父はローデリヒさんやエーリッヒさんに連絡を取り、国王陛下が自ら動いて貴族の蠢動をやめさせたとか。ローデリヒさんから事情を説明されて、初めてそんなことが起きていたと知った私は愕然としました。
「こうした事態を予測された陛下は、私と協力して対処するようエーリッヒ様をバウマイスター伯爵領へ派遣しておられました。申し上げにくいのですが、マインバッハ家はバウマイスター伯爵家関係者の中で一番弱い
亡き夫もルックナー財務卿の弟にそそのかされて欲を出したのがヴェル君を抹殺しようとしたきっかけでしたし、地方の零細騎士爵家など利用するだけ利用した果てに平然と踏みにじる貴族などいくらでもいるのでしょう。
しかも、ローデリヒさんから聞かされた話を手紙で父に急報したところ、折り返しでマインバッハ家の執事が問題の貴族に情報を流していたことが発覚したと知らせてきたのです。
本人は「カール様とオスカー様にバウマイスター領を継承させられたら、家を発展させられると思って誘いに乗った」と釈明したそうですが、エーリッヒさんが調べたところ実現したら相応の利益供与を裏で約束されていたのが判明し、家族もろとも領外へ追放処分となりました。私が子供の頃から仕えてくれた、信頼できる人だったのに。
「マインバッハ家を操ろうとしていた貴族は陰謀が失敗しただけで、別に処分もされませんよ。クルト兄さんを破滅させたルックナー会計監査長と同じく、そんな連中は王都の貴族社会では珍しくもない風物詩のようなものなんです。歴史や爵位はあるけれど、借金や職なしで困っている貴族なんて王国中に掃いて捨てるほどいますから。機会があれば他人の財布に手を突っ込もうとする連中にとって、今のバウマイスター家はおいしい獲物としか見えないのでしょうね」
貴族の多くは泥棒と変わらないと溜息をつくエーリッヒさんの話は、嫌な気分になりますが実家や亡夫のことを思うと納得できるものでした。ヴェル君が死んだという前提で動く厚顔無恥な面々に怒りを覚えましたが、現に彼の消息が知れなかったためバウマイスター家の家臣にまで裏切りの誘いがあったとかで、ローデリヒさんたちも防戦一方だったようです。マインバッハ家にも似たような話があり、ローデリヒさんから警告を受けていた父や兄は対応に苦労していました。
しかし、ヴェル君が健在で内乱で活躍中という情報がもたらされると、おかしな連中は一斉に動きを止めました。本物の戦争で活躍しているヴェル君は畏怖の対象であり、戻ってきたら報復されると恐れたのでしょう。
実際、帝国の叛逆者ニュルンベルク公爵を打倒して内乱を終結させた英雄扱いで帰国したヴェル君はローデリヒさんから留守中の事件を知らされると、直ちに手を出していた貴族に絶縁状を送るとともに各家の関係者でバウマイスター伯爵家に仕官していた人を解雇し、関わりのある商人に領地出入り禁止を言い渡すなど強硬な報復措置に出たそうです。
「貴族家の当主が何人も交代したり、有力商人が破産しましてね。これまで貴族社会では家中の揉め事に首を突っ込まれてもやり返したりせず、なあなあで済ませていたのです。相手がつながっている権力者から仕返しされるかもしれないので。今度もそのつもりだったのでしょうが、伯爵様は貴族らしい見て見ぬふりなど一切しませんでした」
トンネル周辺開発の話でパウルさんを訪ねてきたアルテリオさんによれば、王都でかなりの混乱が起こったとか。最初にマインバッハ家に誘いをかけてきた子爵家では、バウマイスター伯爵家に仕官していたのを辞めさせられた当主の弟が、寄親であるブレンメンタール内務卿を味方につけて兄を追放し自分が当主になったそうです。
「一夜で爵位を失った前子爵様は、貴族として当然のことをしただけで何が悪いのかと居直ったそうですが、伯爵様との関係修復を優先させた内務卿をはじめ周囲すべてに見捨てられて、今じゃスラムの住人ですよ。似た話は他にもあります。伯爵様のお怒りはごもっともながら、まるで悪いとは思っていない連中ばかりなので逆恨みされないか心配ですね。ローデリヒさんも危惧して伯爵様に意見したものの、聞き入れられなかったとか」
もし実家の父が悪質な貴族の口車に乗っていたらと想像したら、ぞっとしてしまいました。いつもは穏やかなヴェル君ですが、本気で怒らせたら怖いのは身にしみています。さもなければ、実の兄である亡夫を葬り去るなどできないでしょうから。
でもこれで、エーリッヒさんが嘆いていたようなバウマイスター伯爵家に手を出そうとするろくでもない貴族は減るかもしれません。いなくなると断言できないのが残念ですが、ヴェル君の下で栄えるであろうバウマイスター家は嫉視と欲望の対象であり続けるでしょうから。
ヴェル君が帰国後も私に連絡はなく関係は自然消滅したと思っていましたが、リーグ大山脈の古代トンネル問題をきっかけに再会した彼は「一緒に住みましょう」と誘ってきたのです。
正直そこまで私に執着してくるとは予想外でしたが、息子たちが私から引き離されて教育のため実家に預けられるのが決まった直後で、義両親やパウルさんと同じ家に居候の立場である私は今後どうしようか悩んでいたところだったので、奥さん方には悪いと思いましたが誘いを受けることにしました。
こうして私は、トンネル発見に沸くバウマイスター伯爵家へ侍女長の肩書で迎えられたのです。到着した日、私が伯爵家に入るのを認めてくれた正妻のエリーゼさんに「ご迷惑をおかけします」と頭を下げると、聖女の微笑みで「ヴェンデリン様にはあなたが必要なのです」と返されました。
「見た目は平然としておられますが、あの人は戦争で心に深い傷を負われました。私たちもできるだけ助けていますが、どうしても行き届かない部分があります。そこをアマーリエさんには見ていただければと」
「心に傷とはどういう……」
「妻とはいえ他人の口からは申せません。ご自分で話せるようになれば、少しは癒されたと思えますので」
私は本物の戦争を知りません。帝国の内乱では多くの死傷者が出たと聞いています。強力な魔法使いとして有名なヴェル君ですが、まだ十代で情が厚い人ですから向こうでできた友人を亡くしてショックを受けたのかもしれません。できることがあれば何でもしてあげなくては。
バウマイスター伯爵家に来てからしばらくはヴェル君の身の回りの世話をしたり昔話の相手をして、少しでも彼が普通の日常生活を送れるよう心がけました。ちょうど古代トンネルの利権をめぐってオイレンベルク家の娘であるカチヤさんが王家をも巻き込む騒ぎを起こしており、その始末に奔走するヴェル君を支えるのが私の仕事でしたから。
ようやくトンネル騒動も収まり、新たに側室として迎えたカチヤさんが伯爵家に馴染んだ頃、私はヴェル君の寝室に呼ばれました。ほぼ一年半ぶりでしたが、さすがに奥さんたちを愛するこの部屋に入るのは躊躇われます。ガウン姿で待っていた彼は「やあ、義姉さん」と変わらぬ笑みを向けますが、外に出せない苦しみを抱えているのでしょうか。たまらなくなった私は立場を忘れてヴェル君に抱きつくと、夢中で唇を合わせていました。
「……え、アマーリエ義姉さん、どうしたの?」
「お願い、今夜は私の好きなようにさせて」
「何かありましたか?」
「私なんかを愛してくれるお礼がしたいのよ……とっくに忘れられてると思っていたから」
「そんなことありませんよ、義姉さんにはずっと俺のそばにいてほしいんです」
「そう言ってくれるのが嬉しくて、だから、ヴェル君を悦ばせたいの……」
夜着を落として全裸になった私は、ヴェル君に抱きついたままベッドに押し倒しました。キスを浴びせながら服を脱がせていくと、彼も黙って従ってくれます。添い寝をしながら半身を密着させ、片手で彼の逞しい男性を扱きながら唇だけでなく首筋、胸に腋の下までくまなく舐めたり吸っていきました。
数え切れないほど“せっくす”を重ねてきたはずなのに、長く接していなかったせいか初めてのように思えてしまって。目で、指で、舌で肌や肉体を確かめ、変わっていないか調べていきます。彼もくすぐったそうに体を震わせながら、私の胸やお尻を愛撫したり耳を舐めたりして、互いの肌のぬくもりを感じ合いました。
「ああ、本当に久しぶりだわ……“あてがい女”もお役御免で、もう愛されることもないと思っていたから」
「心配かけました。俺も嬉しいんです。また義姉さんを抱けて」
「ヴェル君……」
その一言が、どれほど嬉しかったことか。私は涙をこらえきれませんでした。
「え、義姉さん、なぜ泣いてるんですか?」
変わらず女として求め、愛情を示してくれたことに心が揺さぶられて。指先で涙をぬぐってくれた時、感情をせき止めていた理性が崩れました。手につかんでいた男に頬ずりしながら先端に舌を這わせていくと、さすがにヴェル君は驚いたようでした。
「あ、そんなことしてなんて俺は……」
「ああ、私を愛して、歓ばせてくれる逞しい、素晴らしい男に感謝したいの、また再会できてよかった、本当に」
そのまま私はヴェル君を咥えました。汚いとか貴族の娘らしくない振る舞いなどとは、露ほども思わずに。再び私のもとへ戻ってきてくれた喜びと感謝を込めて、思い切り吸ったり舐めたりを繰り返します。
「う、あぅ、ああ、き、もちいいです、そん、なに、は、げしく、吸わない、で……」
「も、もう、や、められない、の、す、きに、させてぇ」
そこだけ別の生き物のようにそり返る若く強い男を、私は夢中で頬張りました。愛しくて、おいしくて、今死ぬのなら幸せの頂点で息絶えたと確信できるほどに繰り返して。
「ね、義姉さん、俺も……」
「あ、わ、たしも、そん、な……」
ヴェル君が私の女の部分に口を押しつけてきました。横たわった彼に覆いかぶさるようにして、互いに相手を口で愛し合うなんて想像もしなかった。でも、上も下も快楽に満ちているんです。ヴェル君の愛妾になって女の歓びを知りましたが、こんなに激しいほど気持ちがいい経験はありません。
思い切り深くヴェル君を咥えたまま絞り込むように吸い上げると、同じように応じてくれます。吐息と喘ぎ声を洩らし続けた二人が同時に達した時も、熱いものを受け止めながら口から離さずにいました。
「すごくよかったです、義姉さん。まさかシックスナインができるなんて思わなかったな」
「えっと、その“しっくすないん”て何?」
「あの、今みたいな体位のことをそう呼んだと、古い本に書いてあって」
衝動的にやったことでしたが、すでに名前がついていたなんて。改めて口にすると、すごく恥ずかしくて顔が赤くなります。いえ、曲がりなりにも貴族の娘が“しっくすないん”などとんでもありませんが、したくてたまらなかったのです。互いに口で愛し合うことが、あんなに深い快感を与えてくれるなんて。もう寝室の中で身分や立場なんて気にする必要はないのです。
「ヴェル君、これからも求めてくれるなら、いくらでも“しっくすないん”をするわ。奥さん方のできないことでもしてあげる、ヴェル君だけの女として奉仕させて、お願い」
「義姉さん、いいんですか……」
年増の深情けなのかもしれませんが、息子たちや実家、亡夫のことなどは、ぬぐったように消えていました。激しく求められ、愛されるのならば壊れてもかまわない。ただ、このままずっと彼のそばにいたい。それだけが願いです。
「かまわないわ、今の私はヴェル君に抱かれて愛される以外の何の歓びも楽しみも感じられない女になってしまったんだもの、ずっと昔からそうだったとしか思えないわ……こんな私は迷惑かしら?」
無言で抱きしめられた私は、嬉し涙にくれていました。その夜は覚えていないほど何度も抱かれ、ふらふらになりながら「もっと、もっと」と欲望を解放して求め続けたのです。
それからは月に数回ほどヴェル君の寝室へ呼ばれるようになりましたが、必ず最初に“しっくすないん”で愛し合うのです。エリーゼさんたちが絶対にやっていないやり方は、ベッドの上だけではありません。
お風呂で二人してお湯につかりながら、腰を浮かした恰好のヴェル君が水面に出たところを胸や口で愛撫する“せんぼうきょう”や、いつもなら“しゃわー”を浴びながら抱かれるところを跪いた私が咥えたり、進んで肛門を舐めたりします。
普通じゃできない体験をするのが楽しくて、ヴェル君のために尽くすのが嬉しくて、肌をこすりつけ合いながらひとつになれたと実感できる瞬間がたまらなく愛おしいのです。やがてヴェル君は、戦争での出来事を少しずつ話してくれるようになりました。
そこで彼が、甦らされた亡き魔法の師匠と戦って自ら相手を葬ったと知ったのです。両親とのかかわりが薄かった昔の彼を知る私には、深く傷ついたのかわかりました。少しでも癒す力になれたらよいのですが。
最近はヴェル君の周囲にいる女性の中でも、立場や年齢が近いテレーゼさんやリサさんと仲良くなりました。お茶をしながら私が料理を教え、テレーゼさんは帝国内乱の思い出を語り、リサさんが冒険者としての経験を話したりして、午後のひと時を楽しく過ごしています。
けれど、いくら気兼ねなく話せる仲になろうとも、それぞれの夜の生活については決して話題にはしません。三人ともヴェル君の女になった経緯には口にしたくない部分がありますし、主人の性癖を公言するわけにはいかないので。ただ、テレーゼさんが意味ありげに話していました。
「ヴェンデリンはひとりの中に、全く違う別人が同居しておるのではと感じる時があるのじゃ。大人と子供、冷酷さと優しさ、天才的な魔法使いと普通の一般人であるのを望む者などがな。そうした内面での矛盾のぶつかり合いが寝室で、つまり妾たち女を抱く時に耐え切れず噴き出しておるのではないかな。そこがあやつの魅力であり、危うさでもあるがの」
その通りだと思います。強い魔法使いながら弱い内面をも抱えるヴェル君を守るのが、私たちの務めなのですから。