秘密の日記11
「さあ、バウマイスター伯爵さんよ、さっさと私を抱くんだよ!」
「おいおい、そんな濃い化粧の女が口にするセリフじゃないだろ?」
「凍らせるよ!」
「凍ってしまったら抱けないじゃないか。どっちがいいんだ?」
「ええい、クドクドと男らしくない! 寝室では男は黙って女の要求に従ってればいいんだよ! ベッドの中じゃ男が女を歓ばせるために奉仕するんだから!」
「いや、男も凄く気持ちいいんだけど……」
「面倒な奴め、寝間着なんか引っぺがしてやる!」
「うわっ、俺が女に脱がされるなんて立場が逆になった――って、リサも裸になっちゃって、脱ぎっぷりがいいね」
「いつまでも細々したことを抜かしてんじゃないよ! さっさと跪いて私を舐めるんだよ! あ、そこを、もっと激しく、奥まで……」
◇
初めての夜、自分が望んだこととはいえ私は蒼ざめ、震えていました。カタリーナさんに「ヴェンデリンさんは決して女を泣かせる方ではありません。嬉し泣きならさせますが」と言われていたものの、寝室のドアノブを摑めないほどでした。
「あ、あの、よろしくお願いいたします……」
手を取られただけでビクッとしてしまう私を、旦那様は苦笑しながらベッドに座らせました。
「なあリサ、夜は長いんだ。少し話をしてくれ」
「は、話とは何を……」
「昔のことを教えてほしい。夫婦になるなら、リサのこれまでの人生を知っておきたいんだ。二つ名を持つほど有名な魔法使いが実はこんな女性だったなんて、正直信じられなかったし」
「わ、私の過去なんか面白くもありませんよ、それに昔のことを知れば、嫌いになってしまうかも……」
「結婚とは男女が互いに相手を理解して一緒に暮らすことだろ? 男の言いなりだったり、子供を産む道具に甘んじるような女なんて俺は欲しくない。人生を共に過ごすなら仲良くやっていきたいし、深く知ればこそ愛しいと思う気持ちも生まれてくるんじゃないかな」
女をモノ扱いしたり、上から目線で命令してくる男ばかり見てきた私にとって、初めて聞く言葉でした。その気になれば金と権力にあかせて何でもできる大貴族の男性が、これほど男女を平等に扱うのが当たり前という考えの持ち主とは。
「そう、ですか、ならお話します。私はブロワ辺境伯領の片隅、旦那様が解放されることになるヘルタニア渓谷の山岳地帯を望む小さな農村に生まれ育ちました……」
「父さん怖いよ、悪魔が私を食べにくる、いやいや、助けて……」
野犬の鳴き声が聞こえたら部屋の隅で耳をふさいで震え、雷の大音響がとどろくと毛布をかぶって大泣きする。臆病なだけでなく極度の人見知りで、父と弟を除く男の人とは碌に話もできない。それが幼い頃の私でした。「ブリザードのリサ」などと大仰な二つ名を持つ私がそんな過去持ちだなんて、どの冒険者も信じないでしょうね。自分でも、こんな未来を予測できなかったのですから無理もありませんが。
私の生地は辺境伯領の主都ブロートリッヒから馬車で五日もかかる田舎ですが、父は農業だけでなく材木の運搬業と村で唯一の雑貨店を営んでいたため、辺境とはいえそれなりの暮らしをしていました。
両親とも私をかわいがってくれましたが、さすがにこの性格には困っていたようです。ある夜、目が覚めると食堂で二人が話し込む声が聞こえてきたのを覚えています。
「リサの人見知りはどうにかならないかな。あれでは結婚はおろか、奉公に出すのも無理だぞ」
「大人になるまでには直ると思いますが……」
「だといいが、場合によってはずっと家で面倒を見なければならないかもしれん。それに、髪のこともある。親として娘が美しい髪なのは嬉しいが、こんな田舎では男を引き寄せる甘い蜜にしかならん」
「わかってます。この間も名主のグラムさんちの息子のロベルトが酒を届けに来た時、リサはいないかと聞くんですよ。まだ十歳なのに、目だけは女を欲しがる男の眼差しでした」
「あんな子供はまだいい。うちの材木運びの連中なんか、ちらと見かけたリサのことがよほど印象深かったようで、待ち時間の話題にしていた。あんな綺麗な髪の嫁さんが欲しいと言って笑っていたがな」
「笑い話のうちはいいですけど本気になられたら」
「わしらでも守れるか自信はないし……」
そう、私は生まれついての濃い緑の髪でした。村には他にこんな髪の持ち主はおらず、特に手入れしたり気を遣ったわけでもないのに、成長するにつれて自分でも信じられないほど美しくたっぷり伸びていたのです。一応は見られる容姿だったこともあり、村の男衆は幼い頃から私に注目していました。
そんな目で見られるのが嫌で、どうしても外出しなければならない時は被りもので髪を隠していましたし、周囲の男たちと顔を会わすのを避けるため母の手伝い以外はほとんど閉じこもっていたのが、かえって好奇心をあおっているとは思いもよりませんでした。
家では縫い物や料理をするほか、手当たり次第に本を読んで過ごしました。商売のため読み書きのできた父は私や弟に文字を教えてくれましたが、引きこもりがちな私のためブロートリッヒへ行った折に本を買い込んでくれたのです。おかげで田舎の商人宅には不釣り合いにたくさんあった読み物の中に、表紙の取れかけた『初級魔法入門』のあったことがすべてのきっかけでした。
ブロワ領では魔法使いを探すための水晶玉を村々に配っていましたが、うちの村にはそんなものもなかったといえば田舎ぶりが想像できるでしょう。父も魔法などに興味はなく、どこかの店先に一山いくらで売っていた古本を中身も確かめず買ってきただけでしたし。
ところが本にある通りやってみたら、火をつけたり温度を操れたのです。自分には魔法の才能がある! あれほど嬉しかったのは、生まれて初めてでした。それから家族にも内緒の魔法修行が始まりました。火や水、土に風から治癒魔法まで、各系統の初級をひと通り習得した十歳のある日、両親に打ち明けたのです。
暑い夏の夜、もう得意になっていた気温を下げる魔法で室内を涼しくすると、父は飲んでいたエールの杯をテーブルに倒しても気付かないほど驚いていました。
「まさかリサにこんな才があったとは。親類でも誰ひとり魔法使いはいないのに」
「いいことかもしれませんけど……リサ、あなた冒険者になれるの? 魔物を狩ったり敵と戦うのが仕事と聞くけれど」
今の私からは想像できないでしょうが、母の言葉に「絶対に無理だ」としか思えませんでした。小さな村の自宅周辺しか知らない女の子が、遠い場所まで旅したり山奥で魔物と戦うなんてあり得ないと。
未来はともかく、両親は私の魔法の力を伸ばすことで意見が一致しました。ブロートリッヒや王都スタットブルクへ行くと魔法の本を探し、私の練習に付き合って励ましてくれたのです。教師について学んだわけではないので進み具合は遅々としていましたが、十三歳になる頃にはほぼ中級クラスの魔法書をほぼ習得していました。
ブロートリッヒの冒険者予備校で父がもらってきた説明書によると――ブロア家では魔法使い確保のため、こんな文書も用意していました――学校に特待生扱いで入学できるレベルでした。
それでも生まれつきの人見知りは治らず、相変わらず引きこもり状態は続いていたある日、父母が所用で外出し弟が友人宅へ遊びに行ってひとりで留守番していた私が内庭でごみ出しをしていたら、突然裏の林からボロ服姿の背の高い男が現れたのです。
「ようリサ、長いこと見ないうちに、すっかりいい女になったな」
「だ、誰なのあなた……」
「知らなくても無理ねえか、名主のグラム家の息子のロベルトだよ。昔ちょっとだけ見かけた時は絶対美人になると思ってたが、予想以上だぜ」
いつか、夕食の席で両親が話していました。名主家の長男がぐれて家出し、山小屋の一つに住み着いて盗みを繰り返していると。
「ちょうどいい、俺の女にしてやるから一緒に来いよ」
「い、いやです、帰ってください――」
「てめえ、女のくせに命令すんのか!」
豹変したロベルトは、いきなり私を張り倒しました。昨夜は大雨だった庭に転んで、私は顔から全身にかけて泥まみれになってしまったのです。
「あーあ、汚くなっちまって、美人が台無しだぜ。黙って言うことを聞いてればよかったのに。まあいい、俺が磨いてやろう。隅から隅まで丁寧にやってやるから、ありがたく思いな」
追い詰められた私は恐怖のあまり身動きがとれず……いえ、怖さなんか何も感じません。これまでにない怒り、それも信じられないほどの激怒と憎しみに身を震わせていたのです。
(こんな、こんな奴に好きなようにされるなんて……)
顔から髪、服まで汚れてしまった自分を意識すると、頭の中が真っ白になるほどの怒りが沸き上がりました。
「さっさと来い、今日から俺の家に住むんだ、たっぷりかわいがってやるから」
「いや……」
「あ、何だって?」
「誰が、お前なんかに! お前なんか凍ってしまえ!」
思わず手を伸ばして叫んだ瞬間、私も気を失ってしまったのです。私が目覚めたのは、自室のベッドでした。ずっと付き添ってくれていた母が気付くと、急いで父を呼んでくれました。
「リサ、無事でよかった。このまま起きないんじゃないかと心配したぞ」
「だ、大丈夫よ……それより、あいつはどうしたの?」
両親は顔を見合わせましたが、やがて父が話してくれました。ロベルトは氷に閉じ込められて凍死していたそうです。
「見た時は信じられなかったが、お前がやったのか?」
「ええ、襲われそうになって」
「だろうな。状況からして他にないが、あんな強力な魔法を使えるようになっていたなんて」
「わ、わからないの、怖いのと怒りがこみ上げてきて、凍ってしまえと叫んでからは何も覚えてない……」
「その恐怖と激怒がお前の魔法を高めたのかもな。一緒に読んだ中級魔法の本に、何かショックを受けて魔法の力が高まる例があるとあったろう」
確かにそんな文章がありました。ロベルトは私の魔法使いとしての力を上昇させる手助けをしたわけです。全然ありがたくありませんが。
「あいつは裏のため池に沈めておいた。氷が解けたら見つかるだろうが……リサ、お前はここにはいられないな」
「父さん……」
残酷ですが父の言う通りです。生地に愛着はありましたが、人を殺したのだという罪の意識に苛まれ、負い目になるでしょう。
数日後、遺体で見つかったロベルトは誤って溺死したものとみなされ、息子の素行不良に苦慮していた名主さんもほっとていたそうです。間もなく父が私を王都へ連れて行き、遠縁の商人に身元保証を頼んで冒険者予備校に入れてもらって以来、一度も故郷の土は踏んでいません。
下宿した家の奥さんから「このままではダメよ。男に食い物にされたくなかったら女優になるつもりで頑張らなくては」と化粧を教わり、別人のようなメイクと服装で強い女を演じるようになりました。
奥さんには本当に感謝しています。実際、冒険者になってからも女と侮って力づくで従わせようとした男に何度も巡り合って、私は深刻な男性不信に陥ってしまいました。強い酒でも酔わない体質だったので男どもを逆に酔い潰したり、大好きな甘味を我慢して味の濃いツマミばかり食べたり、からかってきた連中を死なない程度に凍らせるのを繰り返すうちに、誰も私を女としてみなくなってしまったのです。
それから十数年あまり、魔物を狩ったり荒地を旅するのにも慣れて「ブリザードのリサ」と呼ばれるほど名が知られるようになる頃には、女に負けたという不名誉を恐れて男が近寄らなくなり、結婚や出産など考えられなくなっていました。
そんな私に初めて土をつけたのが旦那様でした。可愛がっていた弟子のカチヤが、独身女冒険者としての仁義も忘れてバウマイスター伯爵と結婚したと聞き、私は怒りのあまり伯爵家へ殴り込みをかけました。カチヤが短期間で異常なほど魔力を増やしていたのを知って理由を探ろうとしたためもありますが、旦那様はより強力なブリザード魔法を駆使して私を破り――その時、強烈な寒暖差で傷んでいた服や装備がすべて崩れ去ってしまい、ずっとひた隠してきた「ない」事実も知られて完全に叩きのめされたのです。
その反動で子供の頃に逆戻りしたように極度の人見知りがぶり返して、平気で話せていたブランタークさんのような大人の男とは口もきけなくなってしまいました。
ここまで完膚なきまでに負けてしまった私には、もう旦那様以外の男は考えられません。それからは伯爵家で領地開発を手伝ったりして家宰のローデリヒさんにも認められ、ようやく希望を受け入れられたのでした。
長い話を終えると、旦那様が髪を撫でてくれるのが気持ちよく、嬉しく感じたのです。
「リサも苦労したんだな。それにしてもブロア領の出身とは、もしブロア家に召し抱えられていたら俺はリサと戦っていたかも」
「え、それは……」
「数年前、あそこがブライヒレーダー辺境伯に紛争を仕掛けてきたのも、自分のところに有能な魔法使いがいなくて格差が広がったのが原因だったのさ。リサが敵方にいたら、エチャゴ草原での腕比べで苦戦していただろう」
あの紛争では実家が巻き込まれていないのを確認してからは無関心だったので、初めて知る話でした。私のエクスラーという姓は身元保証人になってくれた商人のもので、王都の出身と偽ってきました。ブロア辺境伯家に忠誠心などなかったのですが、ブロア領の生まれと知れたら親兄弟を人質に仕官を強要されるかもと注意されたので隠してきたのです。
「それで、ご両親はどうしてる?」
「家業は弟が継ぎまして、私が援助してブロートリッヒへ移り住み、今は楽隠居です」
「親孝行だな。ならもうひとつ孝行しなくちゃ」
「もうひとつって……」
「孫の顔を見せてあげるのさ」
ま、孫? つまり、私が生んだ子を父母に――。顔が赤くなる私を、旦那様はそっと抱きしめてくれました。ひと回りも年下なのに、ずっと年長のような落ち着きを感じます。
「今夜は俺に任せてくれ。いろいろ経験して女の扱いは慣れてるから、嫌な思いはさせないよ」
「は、はい……」
何もかもが初めてでした。濃厚なキスも、全身くまなく施される愛撫も、男の前で生まれたままの姿をさらけ出すのも、女の大切な部分を指と舌でいじられ続けるのも。
「あ、は、恥ずかしいです、そこだけ大人になってないのに……」
「恥じなくていいさ、これもリサの個性なんだから」
「こ、個性ですか」
「みんな生まれも育ちも特徴も違ってる。その違いが俺は好きなのさ。リサにしかないものがね。リサのここは白桃みたいにまぶしく輝いていて、本当に綺麗だよ」
「あ、あう、そんなに激しく、せ、責めないで、お、かしく、なって、ひぃっ!」
旦那様に念入りに舐められ、敏感な部分を繰り返し転がすように舌先で愛撫され、奥まで指を入れられて刺戟され続けた私は、覚えていないほど喘ぎ叫びながら幾度も気が遠くなりました。男に愛されることが、これほどの快感を与えてくれるなんて。いえ、旦那様だからこそでしょう。カタリーナさんの言葉の意味が、ようやくわかってきました。
「あ、あう、もう、おかし、くなって、しまいます、た、助けて……」
「やめてほしいのかい、リサ?」
「い、いや、もっと、してくだ、さい、ほ、欲しいんです……」
「最後まで抱いていいのかな?」
「え、ええ、わ、ど、うか、好きなよう、にして、ください、お、ねがい、です……」
旦那様が私の手を取ると、太くて熱くて硬いものを握らせます。こ、これが男? これが、私の中に入ってくるの? 一瞬、十数年前の恐怖が甦るのを何とか押さえつけます。今の私は愛されている女なのだから。強く握って揉むように動かすと、旦那様が「うっ」と呻きながら張り詰めた乳首を甘噛みしてきました。痺れるような快感が乳房全体に広がって、今度は私が身悶えします。
未経験の気持ちよさに呆然としてしまった次の瞬間、硬いものが容赦なく押し入ってきました。思わず「あっ」と叫ぼうとしましたが、強く唇を吸われていてかすれ声を洩らしただけでした。その隙に一瞬の痛みの後は、甘やかな熱が広がっていったのです。
「う、あ、熱いです……」
旦那様の指と舌にとろけてしまっていた肉体は、ごく自然に受け入れていました。薄暗い室内で、私に入り込んでいる男が見て取れます。強く抱きしめられて打ちつけられるたびに腰が浮き沈みし、乳房を振り乱し、深く挿し込まれた男が蠕動するのです。
「あ、あ、な、に、はうぅ……」
こ、これが“せっくす”というものなのでしょうか。信じられない快感の波に何度も気が遠くなり、ベッドの上にあぐらをかいた旦那様にすがりついた格好で、悲鳴とも呻きともつかぬ声を上げ続けました。逞しい男は膨張し、奥底にぶつかるのをはっきり感じます。私は男の腰の動きに合わせて身をよじるしかありません。
ベッドが壊れてしまうのではと思うほどのきしむ音と私の喘ぎ声に加え、二人が汗にまみれた腰をぶつけ合う音が重なります。
「も、もう、だめです、お、かし、くなって、しまう、から……」
「もう少しだよリサ、今いかせてあげるから」
「い、いくって……」
「さあ、一緒に」
思い切り突き上げられて頭が真っ白になった私は、体を大きく弓なりにしならせました。私の中に熱いものがほとばしるのを感じ、感極まって絶叫しました。長い長い間、放たれていた熱が収まるまで私は覆いかぶさってきた旦那様の背に腕を伸ばしながら呼吸を整えていました。男の重みを感じながら、改めて歓びを覚えます。
「……旦那様、ありがとうございます、“せっくす”がこれほどいいものだなんて思いもかけませんでした」
「初めてで感じるなんて、リサは敏感な体をしているね」
「あ、あの、抱かれてる間は神経が研ぎ澄まされていたのに、今は何だか穏やかでやわらかい感覚が満ちているんです。こんなの信じられない」
「緊張してたのが解けて、ほっとしてるんだろう」
「かもしれません。こうやって二人が密着しているのが、凄く安心するような」
両親は私を娘として愛してくれましたが、今夜は初めて女として愛されたのです。これまで利用しようとする男にしか巡り合えなかったのは、よくよく男運が悪かったとしか思えません。だけど今夜、はっきりわかりました。男に愛されて抱かれ“せっくす”することで、女は磨かれていくのだと。
「そして、まだ衰えてないんだけど」
「え?」
あ、あれ、旦那様が私の中でまた動いています。終わってからほとんど時間がたっていないのに。
「残念だけどリサ、ほっとしている時間はないようだな」
「そ、そんな、ま、またわた、しをお抱きになられるの、ですか、あう、き、もち、いいです、も、もっと、は、げし、くお、ねが、いしま、す……」
こ、これが女として生きることなのでしょうか。初体験から私は男の上で嬉々として腰を振る女になってしまいました……。
こうして私の結婚生活は始まりましたが、旦那様が「次は前のような、冒険者時代の装いで来てくれよ」と言い出したのです。結婚した相手には見せたくないと断りましたが、言い出したら聞いてくれません。
仕方なく、久しぶりに厚化粧してショートドレスとロングブーツを着込むと、それだけで昔の私が甦ってきました。この格好で十五年あまり通してきたため、いったん「ブリザードのリサ」にスイッチが入ると抑制がきかなくなってしまうのです。
寝室のドアを蹴飛ばして乱入し、旦那様をお前呼ばわりした挙げ句、何度も何度も「まだ足りない、もっと抱きな!」と迫ったり。お風呂に入って化粧を落とすたびに我に返り、恥ずか死にそうになって悶え苦しみます。
やめてくれるよう何度も旦那様に頼みましたが、「おとなしく人見知りのリサと、気が強くて乱暴者のリサ。ひとりの女で二人を抱いているみたいで面白いじゃないか」と返すのですから。恨めしく思いましたが、どちらにせよ私自身は歓びに満たされてしまうので強くは反対できません。
結局、旦那様の寝室へ行く時は、化粧していくのとしないのを交互にするようになりました。精力回復魔法を心得ている旦那様は満足するまで離さず抱き続けるので、私はとうに限界が来ていた魔力量が再び増えるのと同時に肉体の感度も増していくのもわかりました。魔法使いとして、また女として成長する自分を感じる私は、恥ずかしさに耐えながらも旦那様と愛し合う夜を待ち望むようになっていきました。
そうこうしているうちに、三十歳近い私に奇跡が起きました。奥方のエリーゼ様たちに続いて、妊娠が判明したのです。医者に間違いないと診断された時は信じられませんでしたが、嬉しさのあまりアマーリエさんにすがって泣いてしまいました。
両親は私がバウマイスター伯爵の側室になったと知らされて卒倒せんばかりに驚いていましたが、子供ができたとの連絡を受けると魔導飛行船で駆けつけてくれました。旦那様に父母を紹介し、やっと本当に親孝行できた気分です。
けれど、生まれてくる子のために産着を縫っている私を見て、やはりみごもっていたカチヤが「姐御がそんなことしてるなんて嘘みたいだ。別人が化けてるんじゃないのか」などと失礼な口をきいてきました。思わずにらんでやると「ひっ」と悲鳴を上げて逃げていきます。
針仕事もできないカチヤよりも、私の方がずっとよき母になれるのは間違いありません。「ブリザードのリサ」は、大切な人を守るためにこそ存在するのですから。
これで完結とします。拙い作品を読んでいただき、ありがとうございました。また何か書きたくなったら、よろしくお願いします。