秘密の日記6
(あ、あなた、は、激しすぎますわ、ど、うか、落ち着いて……)
(だめだ、今夜は許さない、みんな動けなくなるまで抱いてやる!)
(ひぃ、ヴェンデリン様、信じられないほど大きいのが、わ、たしの中で暴れて、いますわ……)
(容赦しないと言ったろう、俺は嘘は言わないんだ!)
(し、死んじゃうよぉ、もう、何も考え、られない、ヴェル君、たすけ、て……)
(死ぬなんて簡単に口にするな! この手で師匠を葬り、死体の山を築いた今の俺には、女も死体もモノでしかない!)
(ヴェルの、責任じゃないよ、戦争なんだから、うあ、そ、そんなに振り回さないで……)
(戦争、そうさ、竜殺しなんてお遊びでしかない、自分たちの正義を信じて殺し合う人間に比べれば、魔獣の方が百倍もマシだ!)
(ヴェル様、悲しまないで、どんなことでもするから、は、あひぃ、うああ……)
(なら黙って抱かれていろ! 何も聞きたくない、ただ忘れていたいんだ!)
(わ、わかりました、いくらでも、す、きなように、してください、それが、妻としての務めなのですから、あう……)
◇
アーカート神聖帝国への親善使節団に参加したヴェルに随行して、ボクたち五人の奥さんも帝国の首都バルデッシュへやってきた。初めての外国旅行が楽しみだったが、何と帝国の大貴族であるフィリップ女公爵テレーゼ様がヴェルに狙いを定めてきたんだ。
初めて会ったその日から、行きつけのランジェリーショップで自分の下着を選ばせるなど半ば公然とアプローチをかけてきたので、普段は温厚なエリーゼも静かにキレてしまい、ヴェルを「あなた」と呼ぶようになったほどだ。
あの時は火花を散らす二人が怖くてボクたちは見て見ぬふりに徹したけど、晩には接待役としての権力を乱用してヴェルの寝室に押しかけ、「そなたに種付けする権利を与えるぞえ」なんて迫ったらしい。旧知だというブランタークさんに止めるよう訴えたが、「婿探しに苦労していて二十歳になっても婚約者すらいない有様なんだ。大目に見てほしい」とかわされてしまった。
翌日、皇帝陛下主催の晩餐会に出席した夜も探知魔法で警戒していたのに、またもやテレーゼ様がナイトガウン姿でヴェルの寝室へ忍び込んだのを知ったエリーゼは、お茶のカップを置いて立ち上がった。
「これはバウマイスター伯爵の貞操の危機です。妻として看過できません」
アマーリエさんへの耽溺ぶりからして、本人が自覚しているよりも年上の女に弱いヴェルが押し切られるかもと危機感を抱いたようだ。エリーゼを先頭に雪崩れ込んだボクたちは、強引にテレーゼ様を追い出すとジト目でヴェルをにらむ。危うく陥落しかけていた彼は、いつもの強気は影をひそめて小さくなってしまった。
「あなた、帝国の公爵様の誘惑に屈したりしたら、王国と帝国の外交問題になりかねないのがわからないのですか?」
「いやその、あまりに強烈な色気で誘ってくるから……」
「私たちに色気がないとおっしゃいますの?」
「い、いえ、とんでもない、決してそのような……」
「新婚二か月で浮気する夫なんてひどいじゃない!」
「だ、だからまだ浮気したわけじゃ……」
「もうボクたちに飽きたの?」
「まさか、ご冗談ばっかり……」
「ヴェル様、厚化粧のおばあさんに誘惑されても屈しそう」
「ぐはぁ!」
あ、ヴィルマの毒舌にヴェルが血へどを吐いた。さすが。
「とにかく、あなたのお相手は私たちが務めます。今日からは六人で寝ましょう。よろしいですね?」
「はい……」
ボクとイーナちゃんが二人でヴェルの相手をしているのを信じられないという目で見ていたエリーゼがここまで言うなんて、よほど腹に据えかねていたんだな。しかも、その場で躊躇なくナイトガウンと下着を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になると、ヴェルをベッドに押し倒して夜着を脱がせ始めた。
「お、おい、エリーゼがこんなマネをするなんて、らしくない……」
「妻を悲しませた罰です。さあ」
呆気にとられていたボクたちも急いで裸になってエリーゼに加わり、たちまちヴェルを全裸に剥いてしまった。奥さんたちの剣幕に情けない顔をしているくせに、アソコだけはいつものように女を求めてたけり狂っている。下半身の人格は別物ってこういう意味か。
「さあ、最初は私が――あ、あぅ、い、いいですわ、あなた、今夜は思い切り、動いて、さし上げますから」
「あ、エリーゼ、いつもよりすごく激しくて……」
「さあヴェンデリン様、教えられた体位をすべて実践しますから、早く精力回復魔法をかけてください! あ、はぁーっ、やっぱり“ちゃうす”はいいですわぁ」
「は、はい、よろしく……う、カタリーナ、そんなに強く締めつけないで、苦しい……」
「妻に嫉妬させたヴェルの罪は重いんだから、もっと思い切り突き上げて、あ、あんんーっ!」
「はひ、イーナ、これじゃ、いくら回復魔法を使っても……」
「ねえ、イーナちゃんを抱いている間に舐めて、ボクを口でかわいがって、そう、もっと敏感な部分を舌で、あ、あ、いい、うあぁ」
「⏇☹☣❦†ↂ●〶 卐……」
「ヴェル様、ローラ様に学んだ最新のテクを披露する、二人とも気持ちよくするから、さぁ」
「ひ、は、う、く、へ、あ、あの……」
全員が二回ずつ繰り返して、ようやくひと段落ついた。いつもとは逆にボクたちがヴェルを犯してやったような気分だが、これはこれでいいかも。逆といえば、十回連続で相手をしなければならなかったヴェルが、さすがに汗まみれで打ち捨てられたボロ雑巾のように胸を上下させている姿は初めて見たな。
「う、う、男が女にマワされてしまうなんて、俺のプライドズタボロ……」
「プライドなら私たちにもあります。あなたの女であっても、いえ、だからこその」
「は、はい、思い知りました……」
「でも、おかげでこうするのも気持ちいいと知りましたわ。マンネリは夫婦の危機ですわね。常に新しいものを取り入れなくては」
「お、おい、カタリーナ、まさか……」
「うん、二人より五人でやる方が、女が主導権を握れるとわかったし」
「イーナ、で、でも……」
「ねえねえ、三人でするのが“さんぴい”なら、六人のは何て言うの?」
「そ、それは6P、かな。でもやっぱり……」
「快楽は男だけでなく女も追及してこそとローラ様も言っていた。これからもぜひ“ろくぴい”を」
青くなったヴェルが這って逃げようとしたが、ヴィルマに足を押さえられて動けなかった。
「な、なあみんな、少し昂ってるんじゃないか。貴族らしからぬテレーゼの振る舞いに同調しなくても……」
「何を申されるのですか、今夜は私たちがあなたを抱いてさしあげます、あ、そこ、もっと深く、強く!」
「エリーゼ……まさに肉食獣……」
「はあーっ、そ、そうですわヴェンデリン様、やっぱり“えきべん”は最高ですわね、も、もっと大きく揺すぶってくださいまし!」
「さ、さすがに腰が……」
「ヴェル、私も!」
「イ、イーナ、いくら何でも連続はキツいんだけど……」
「ボクは“うしろやぐら”でやって。この格好でヤられるのが癖になっちゃったみたいな、あーん、そう、その角度でぇー!」
「教育が、行き過ぎた……」
「やっぱり騎乗位がいい、ヴェル様を征服できる気分は最高!」
「し、死ぬ、死んでしまう、今死ぬ、すぐ死ぬ、ほら死んだ……」
あの好き者のヴェルがヤりすぎで死ぬわけないじゃん。そもそも、ボクたちをこれほど男好きにしたのは自分なのに何を言ってるんだか。精力回復魔法と治癒魔法万歳よね。
結局、夜が白むまでヤり続けた翌朝、今度はボクたちがカサカサに乾いて真っ白になったヴェルを風呂場に運んでふやかさねばならなかった。精力回復魔法はきいていたのだから、精神的なショックが大きかったようだ。六台つないだベッドの上は、すさまじい惨状になってたけど。
そんな騒ぎがあったのをおくびにも出さず、朝食の席でテレーゼ様は再びヴェルを露骨に誘惑してきたのだ。いくらフィリップ公爵家の内部事情で結婚相手が決まらないからって、ヴェルの種だけ欲しいだなんて大貴族様の思考回路はぶっ飛んでるのかしら。しかも、その理由が「
なのにテレーゼ様はお構いなしで「週に一度くらい遊びに来てくれるだけでよい。バウマイスター家内部の序列は乱さぬ、外国貴族同士の内縁婚として皇帝陛下の許可をいただく」と強引に迫ってきて、エリーゼすら対応に苦慮する破目になってしまった。まさか王国と帝国の関係拡大に利用されるかもなんて、想像もしてなかったよ。
ヴェルはヴェルで明らかに相手の色香に迷っている様子だったので、思い切り蹴りを入れておいた。その晩、また五人でたっぷり搾ってあげて、息も絶え絶えになってたのは自業自得でしょ。
とんだ旅行になっちゃったと溜息をついていたところへ突然、皇帝崩御の報が飛び込んできた。おかげでテレーゼ様は皇宮へ詰めきりとなり、ボクたちも葬儀や新皇帝選挙などに参加せねばならず多忙な日々が続いた。
それでも何とか時間を見つけたテレーゼ様がヴェルに「妾に早う種付けしてくれぬかの」などとちょっかい出すたびに、こちらが「私たちへの種付けに忙しいのです!」とキレて、はっきり拒絶しないヴェルを五人がかりで搾りとるというパターンが何となく成立していた。
「それにしても、なぜヴェル君はテレーゼ様の誘惑によろめくのかな? そのたびに搾られてるのに」
「よくよく年上に弱いのか、単なるバカなのか」
「妻としては前者だと思いたいけど……」
「ボクは後者と思うな。サルでも痛い目に遭えば学習するのに、まるで懲りないんだもの」
「女好きの宿命なのかもね」
まさかイーナちゃんと愚痴り合った夜、皇帝選挙で敗北したニュルンベルク公爵がクーデターを起こすとは予想もできなかったな。公爵はボクたちをも討とうとピーチュ四兄弟を追っ手に差し向けてきたけど、逆に皆殺しにしてテレーゼ様たちとフィリップ公爵領まで逃れることに成功した。
移動や通信の魔法を妨害する何らかのオーパーツを入手したのが明らかなニュルンベルク公爵を放っておけず、テレーゼ様を旗頭に北部諸侯で結成された解放軍(テレーゼ軍とは呼びたくない)に私たちも傭兵扱いで従軍が決まったのだが――。
「テレーゼ様、まだヴェンデリン様に手を出そうとなさるのですか?」
「頼りになる殿方がそばにいてくれたら、妾も楽なのじゃがな」
「戦時中なのですから、少しはお控えくださいませ!」
「そうは言うがの、ヴェンデリンとて何日もあっておらぬのだから妾が恋しくなっておるのではないか」
「じゃあテレーゼ様も六人目として参加されますか?」
「い、いや、妾はまだ処女なので、いきなりハードなのは遠慮したいのじゃが……」
「いざとなったら遠慮しないよ。ボクたちは実戦で何人も殺してるんだから」
「戦時だからこそ妾も潤いが欲しくての」
「テレーゼ様が覚悟を決めて加わればいいだけ」
「いや、その、じゃから妾は……」
戦争中ということで寝室はとっくに男女別となっていて、六人でやるのはゲームだったんだけどね。あちらが勝手に誤解してくれたのを訂正してあげる必要はなかったし。処女の分際で人妻を舐めんなよ!
戦いはヴェルやボクたちの活躍もあって、解放軍がニュルンベルク公爵と南部諸侯の反乱軍に優勢を保ったまま進んできたが、こちらの一大軍事拠点となっていたソビット大荒地で両軍が対峙した時に事件が起こった。ニュルンベルク公爵の秘匿していたターラントという魔法使いが、ヴェルの亡くなった師匠のアルフレッド様を召喚して襲わせてきたのだ。
ボクたちだけでなく導師様やブランタークさんも死力を尽くして戦ったがなかなか決着がつかず、穀倉地帯シーナ平原での戦闘でようやくターラントとアルフレッド様を討ち取った。それもヴェルが、アルフレッド様の心臓を一突きにして。
今度こそ成仏した遺体が消え去ると、血の出るほど拳を握り締めているヴェルへイーナちゃんとボクが声をかけたけど、「俺はもう悲しんではいないよ」と返しながら思い切り近くの木を殴りつけた。
「今あるのは怒りだけだ……ニュルンベルク公爵の野郎、絶対に許さない! この手で師匠を殺させやがって、死者を愚弄してまで新しい帝国を築こうなんてふざけた野望をもったことを徹底的に後悔させてやるからな、必ず!」
尊敬する師匠を自らの手で葬らねばならなかったヴェルは、その後の戦いでニュルンベルク公爵を討つべく巨大な魔法を何度も反乱軍に叩きつけた。導師様との訓練でも見たことのない姿は「伯爵様、狂気に囚われてるぜ……」とブランタークさんが首を振るほどだった。
おかげで追い込まれていた戦況を痛み分けまで戻せたが、公爵を取り逃がしたまま戦場から戻ったヴェルは、無念さと怒りのあまり触れたら発火しそうなほど危険な火薬だった。臨時の宿舎に割り当てられた大きな農家の一室へ入ると血と戦塵にまみれたマントを放り出し、いつもは口にしない強いお酒をラッパ飲みしてテーブルに突っ伏す。
「畜生、俺が未熟だったせいで師匠を……」
血走った目で呻く姿は、壊れる一歩手前のようだ。こんなヴェルを見たことがなくて、どうしていいかわからない。迷っているところへ、席を外していたエリーゼが戻ってきた。
「あなた、お疲れなのですわ。お風呂を用意させましたから……」
いきなり立ち上がったヴェルは、エリーゼの服を掴むと思い切り引き裂いた。厚手の修道服が薄絹のように破れ、純白の裸体がむきだしになる。驚く間もなくエリーゼを押し倒して下着をむしり取ったヴェルは有無を言わさず押し入っていく。
「え、あなた、あ、ひぃ……」
何の前戯もなく強引なそれは夫婦の交わりなどではなく、文字通りの暴力だった。最近みんなが裸になるのを見慣れ、同じベッドで“せっくす”をするのも当たり前になっていたけれど、これはさすがに違う。目の前で起こっていることが信じられず、ボクたちは絶句してエリーゼが犯される有様を見守るしかなかった。
「う、あう、ひ、あうぅ……」
きれぎれに漏れるのも聞き慣れた嬌声ではなく、暴行される女の悲鳴でしかない。キスも愛撫もなく、指の跡がつくほど乳房をきつくつかまれ、涙を流しながら蹂躙され続けるエリーゼが信じられず呆然としていたボクたちは、かすかな悲鳴でようやく正気に戻った。
「ヴェ、ヴェンデリンさん、何をなさっているのですか、やめてくださ……」
止めようとしたカタリーナの言葉が消えた。エリーゼが首を横に振っている。なぜ、あんなにひどく乱暴されているのに――。
ヴェルが泣いていた。無言でエリーゼを犯しながら、涙と汗を滴らせている。その手で師匠を葬らねばならなかったヴェルの心の悲鳴が、こんな形で決壊してしまったのだ。それを察したエリーゼは、痛みに耐えながら黙って受け入れていたのか。
「ひぃ、は、ああ、あなた……」
「く、は、うぅ……」
きれいに整えられたベッドではなく、ろくに掃除もされていない農家の床で埃まみれとなって交わる二人。荒い息をつきながら腕を伸ばすエリーゼを、泣きながら唇を嚙んで抱き続けるヴェル。その姿を座り込んだまま黙って見つめるボクたち四人。
傍からすれば異様な光景だが、全員が受け入れていた。ヴェルが師匠を倒したのを見ていたせいもあるけど、ボクたちの手も血に汚れていると自覚していたから。魔物狩りや古代魔法遺跡の探検で幾度となく大変な目に遭ったけど、命のやり取りをする本物の戦争に比べたら遊びでしかないと思い知らされたんだ。みんな殺し殺されかける経験を重ねて、どこでかネジが外れてしまったのかも。
「あ、あなた、どうか、きて、ください……」
「うぅ、く、なぜ、だ……」
二人の動きと息遣いが激しくなり、思い切り欲望を吐き出したヴェルはエリーゼの上に倒れ込んだ。みんな塩の柱と化したように動かない。立ち上がったカタリーナが裸になり、ヴェルのかたわらに膝を着く。
「ヴェンデリンさん……」
視線を上げたヴェルは、一言も話さずカタリーナを押さえつけて背後から強引に侵入していく。
「う、はぁ、んふ、くぅ……」
いつもヴェルとの“せっくす”を誰よりも楽しんで嬌声を上げるのに、今はエリーゼと同じく低い呻き声しか洩れない。次にイーナちゃん、ボク、そしてヴィルマも……。
たけり狂うヴェルは信じられないほど大きくなって、いつまでも暴れ続けた。愛し合う男と女の交わりではなく、戦場で傷ついた兵士がぬくもりを欲して人肌を求め、汗にまみれながら、ほんの一瞬でもすべてを忘れたいと願う時間。戦争だから仕方ないとごまかせるものじゃない。だけど間違いなくボクたちも、すべてを忘れられる行為を求めていたんだ。その夜は遅くまで歓びの声はなく、ただ肉のぶつかり合う音だけが室内に響いていた。
◇
翌朝、ヴェルは目覚めたボクたちの前で土下座した。
「みんな、すまない。男として人として、やってはいけない最低なマネをしてしまった……」
額を床にこすりつけるヴェルを、エリーゼは昨夜の指の痕がなまなましく残る胸に抱いた。
「顔を上げてください、あなた。戦争とは結局、人と人の殺し合いでしかなのです。あなたも弱いひとりの人間なのですから」
「それでも許されることじゃない。兵士たちのために慰安所をつくらなくてはと困っていたテレーゼに、俺は正直呆れていた。魔法を使える俺は戦争を舐めていて、そんなものが本当に必要なのかと侮っていたんだ。だけど、一番弱くて女に頼らなくてはならなかったのは俺だった。救いようのない愚か者だよ……」
「ヴェンデリンさんは師匠だったアルフレッド様を討たねばならなかったのです。誰よりも傷つき、苦しまれたのですから」
「俺は昔、語り死人だった師匠を成仏させた。ゾンビになりかけていた師匠は、俺に技を伝えられて魔物にならずにすんでよかったと感謝して消えていったんだ――あれから十年以上たって、こんな形でまた……」
しゃくりあげるヴェルは、まるで小さな子供のようだ。長い付き合いだけど、こんなに打ちのめされた姿は見たことがない。誰よりも優秀な魔法使いで、どんな時も奇妙な知識を駆使して飄々とした態度で乗り切っていたけど、本物の戦争に手ひどく心を痛めつけられていたのだ。
「ヴェル君、泣かないで。私たちも軍人じゃないし殺人が好きなわけないから、いくら戦場でも人を殺すのは辛かったんだ……」
「まして、一番尊敬していた人を殺さねばならなかったんだもの」
「今、殺しても平気なのはニュルンベルク公爵だけ」
裸のまま節々の痛みに耐えながら、みんなは涙にぬれるヴェルの頭をなでていた。
その日から結婚当初のように、ボクとイーナちゃんを含めて毎晩一人ずつがヴェルの夜の相手を務めるようになった。これまでのような激しさが影をひそめ、彼は静かにボクたちを抱いた。ただ“せっくす”するだけでなく、『ドラゴンバスターズ』時代の思い出話をしたり、肌を寄せ合って相手の体温や鼓動を感じるだけの時間を過ごしたりした。ヴェルがヴェルじゃなくなったみたいで戸惑ったけど、すごく新鮮だった。上半身と下半身の二重人格が、あの夜のおかげで統合されたのかな。
おかげでボクたちは、日々続く戦いにも精神的に落ち着いて臨めるようになっていった。ある晩、ヴェルが導師様たちと本陣での会議へ出かけた留守に、お茶を飲みながらエリーゼはしみじみとつぶやいた。
「不本意にも巻き込まれて辛い経験もしましたが、この戦争も私たちにとってヴェンデリン様と共に過ごす生活の一部なのです。ならば一緒に知恵を絞って、未来のために一日も早く勝利して帰国できるよう努めましょう。神に与えられた試練を乗り越えてこそ、私たちは成長できるのですから」
神様うんぬんはともかく、未来のため頑張らなくてはならないのは同感だ。いつか、ボクとヴェルの子供をこの手に抱くまでは。