幕間1 戦時中 睦月の物語
「今回も艦娘稼動実験は失敗か」
「もう敵がそこまで迫っているというのに。オリジナルだけでは直ぐに戦死して居なくなるぞ。
・・・我々人間はもう終わりか・・・」
「今回投入されたという、歩兵用の武装兵器でも大量の戦死者が出るに違いない。
・・・何故女性が装着出来ないのか?、この部分が解っていないそうだがね」
「・・・胸が小さければ装着出来るんじゃないですかね?」
「出来なかったそうだ。元々は女性が作っていて、プログラムの中に男性しか装着出来ないようなコードを仕込んでいるとされている。・・・噂に過ぎないがね」
「女性が無力のまま死ぬだけだ、という事で急ピッチで建造するよう言われたものの・・・」
「死んだ女性を改造して兵器としての生を受けさせることをするとはな・・・」
「やっている我々が言う台詞じゃないですよそれ?」
「こんなことでもやって戦力を多くしないと、物量的に我々人間は絶滅だ」
「これが成功すれば、十中八九の命中率を誇る艦娘の誕生なんだが・・・」
「ん?失敗作が動いたような?」
「まさかそんな・・・いやホントだ!。ん?、何故ここに妖精が?」
「・・・イヤァーーーーーー!!!」
「うわ!精神状態がおかしい。精神安定用の電波を出せ!」
「は、はい!」
それは妖精の気まぐれだった。
この惑星の妖精は人間の前に現れては悪戯をしていた。悪戯をする事は至福の一時だった。
人間と人間以外の者達による死闘が始まった。
それを目撃した妖精達が居た。人間側の圧倒的劣勢だった。反撃空しく全滅していた。
そこに未来を見た妖精が居た。
人間に悪戯をして喜んでいた妖精が、人間に悪戯が出来なくなる未来を見てしまった。
人間に救いの手を出す妖精が現れた。
人間よりも遥かな技術力と行動力を持った妖精達が居たのだ。
・・・だが、妖精は妖精だった。
第1次艦娘の失敗作を自分達の技術を入れてチョチョイのチョイで直して稼動させた。
能力強化もした。とりあえずそれは良い。
なんという運命の悪戯か、戦死した女性の魂をその艦娘の中に埋め込んだのだ。
全滅した中で最後の最後に死んだ魂を、その記憶が残った状態で埋め込んでしまった。
「・・・ぐすっ・・・うぅ・・・」
「まだ、話が出来る様な状態にならないな。会話用音声データ、戦闘用データ。
これぐらいを入れた精神的にまだ赤ん坊の状態の筈なんだが」
『すみません。私達がこの娘を直したついでに戦死者の魂を入れたんです』
「戦死者の魂を?」
『あまりにも可哀想だったので・・・。もう一度、生を受けさせてあげようとその魂を
入れました。その娘の記憶も入ってしまったようです』
「それは・・・立ち直るのに時間が掛かるな。映画でも観てるみたいだな」
「次の実験に移りましょう」
「妖精さん、次の艦娘の稼動実験も立ち会ってくれますかな?」
『・・・はい』
直後、警報が鳴る。
{緊急警報、緊急警報。深海棲艦がこの施設へ接近中。至急退避せよ。繰り返す・・・}
「もうこんな所まで来ているのか!?防衛軍は何をやっているんだ!?」
「早く退避しましょう!」
途端、轟音と共に激しい振動に見舞われる。壁や天井が崩れる。
『うわぁ~~~!』
研究員達が落ちてきた建造物の下敷きになる。しばらくして血の池が見え始める。
・・・奇跡的に先ほど稼動した艦娘1隻と妖精だけが生き残る。
建造物がほぼ倒壊し、遠くから迫る深海棲艦が見えてしまった。
「ひぅっ!?」
『艦娘の娘・・・いや睦月ちゃん!。すまない、またこんな絶望の中に入れてしまって・・・。
でも、君は今生きている!。立って!、逃げて!』
妖精が艦娘、睦月、に言った。
立とうとするが足が動かない。
『睦月ちゃん!?、早く!』
「う・・・動かないよ、動けないよぉ~!」
『しまった!足も整備する必要があったのか!?』
妖精がフッと消える。
敵が砲撃して来た。睦月への直撃コースだ。
「そんなぁ・・・、神様ぁ~!」
睦月は二度目の死を嫌々ながら認めざるを得なかった。
着弾による轟音と振動が起こる。埃が立ち込める。
「・・・あれ、まだ生きてる?」
煙が収まり、目を開けると眼前が遮蔽物で覆われている。
「君、立てるか!」
真後ろから声が掛かる。
「・・・神様?」
後ろを見ると鎧に身を包んだ何かが居る。男の声だ。
「立てるか、と聞いているんだが!?」
「た、立てないです!」
「私の首に抱きつけ!生きてここから出られるかもしれないぞ!?」
鎧の男はこめかみの部分から機銃掃射を行っている。
「は・・・、はい!」
睦月は夢中になってその立っている鎧の首元に抱きつく。
「飛ぶぞ、しっかり掴まっていろ!」
「え?、え?」
訳が分からないまま睦月は巻き付きを強くする。
足が宙に浮く。
「ひゃ!」
その感覚に睦月が小さく悲鳴を上げる。落ちそうになるが腰に腕を添えられ支えられた。
そのままどんどん空へ上昇して飛んでいく。
飛んでいる中で発砲音と金属同士がぶつかる音・爆発音を何度も聞いた。
やがて、飛んでいることを実感する風きり音だけになった。
トスン、という音と共に地上へ降りたようだ。視界に入った空模様はもう日没間近だった。
「君、離れて大丈夫だぞ」
「は、はい」
睦月が金属の鎧から離れる。所々穴が空いていたり、塗装の禿げた部分が見受けられた。
「生存者を救出しました!。保護をお願いします」
「・・・1人だけか?」
「・・・研究所は倒壊し、生体反応は・・・この娘だけでした」
「そう、か・・・。ご苦労だった」
「・・・すみません」
「いや、良くぞ生き残った。救援に向かわせた中で君だけが生還者だ。これからも、頼む」
睦月から見てこの場所での隊長らしき人が鎧を纏う者に対して深々とお辞儀をする。
「ええ、私も戦える限り、戦う覚悟です。では、これにて失礼します」
鎧の男は睦月から離れていく。睦月から後ろを向き、歩き始める。
「あ、あの、有難う御座いました!」
睦月の声に鎧男は手を目の位置に持ってくる。
瞬時に鎧が消え、傷だらけ・衣服の破けた男がいた。
睦月から遠ざかりながらサングラスの様な物を手に持っている。
「どういたしまして!」
サングラスを持った男は横顔を睦月に向けて微笑んだ。睦月に手を振っている。
睦月はその横顔と声をデータとして自身に保存した。
- あれ?録音の方がちゃんと出来なかったのかな?何言ってるか解らないや・・・ -
「ところで、君の名は?」
男が見えなくなったところで、隊長が話しかけてくる。
「・・・睦月です」
『ふぅ、ちゃ~んと足が動かせるようになったね!』
「お!?、妖精?どこから沸いたんだ?」
そしてこの睦月を助けた事により、第3次艦娘誕生への先駆けとなった。
睦月の妖精によって研究・開発が飛躍的に進んだのだった。
『ねえ、睦月ちゃん。力が欲しいよね?』
「う?・・・うん!」
『君の体ならどんな大砲でも持てる様になるよ。じゃ、チョチョイとね!』
「お!?ネ○アーム○トロ○グ(中略)アー○スト○ング砲じゃねえか!完成度高えなおい!」
ある時、お遊びで廃材となった金属で遊んでいる者達が居た。
「・・・ふん!」
睦月は立っていた棒の部分を片手で90度捻じ曲げる。それはこの惑星で最も硬い金属だった。
『ヒェ~!』
真っ青になって股間を隠していた。
『僕達は人間の手伝いをするよ。大丈夫、今の君ならこの戦争を生き残れるさ!』
妖精が睦月から離れる前に、睦月へ魔改造を施した。
戦闘に必要な能力が飛躍的に向上したのだった。
睦月は録画したあの男の横顔を再生しながら自身の訓練に励んだ。
戦線にも行き、深海棲艦も倒していった。
睦月は深海棲艦を打倒する為の艦娘である。
最初は自身の不幸を呪ったが、全てはまたあの男に会う為、
そして今度は自分があの男を守る為に戦線を押していく。
- あの男の人に恋しちゃったんだろうなぁ -
「あら、睦月さんも歩兵に助けられたことがあるの?」
とある所での休息中。睦月が身の上話をしたところで、1人が口を開いた。
「え?加賀さんも?」
「ええ、私も歩兵に助けられて今を生きている1人よ。・・・安全地帯に行くまで、
生きている実感は無かったわね」
加賀が遠い目をする。思いふけっている様子だ。
「そうなんだ・・・。ねえ、加賀さんはその人を好きになったの?」
「好き・・・そうね、好きになったのかもねぇ。・・・でも、その人は今生きているのかしら?」
「そう、だよね・・・」
現状、大量の深海棲艦の航空機襲来により、艦娘よりも歩兵の方が死者が多い。
人の乗る戦闘機はすべて破壊されている。輸送機が少し残っている程度だ。
制空権を奪還する為には、まだ数少ない艦娘よりも空を飛べる歩兵の方が重要なのだ。
『深海棲艦がこっちに向かっています!。敵航空機多数、数えられません!』
『この歩兵の数じゃ、私達全滅必至よ!?』
警報と共に歩兵が空へ上がっていく。上がっていった歩兵は9人、
最初は百人規模だったのに今はこの有様だ。
「私達・・・死んだかもね」
「でも、やるだけやるわ。私は生きてまたあの人に会いたいもの」
加賀が自身の航空機を発艦させる。
「私だって会いたい人が居るんだから」
「あら、お互い様ね」
睦月が対空砲・対空機銃を持って射程圏内に入るのを待つ。
『聞こえるか?援軍だ!味方を撃ってくれるなよ!?』
その声と共に空中から敵機に向かって水平に弾が向かっていく。敵機が煙を上げて落ちていく。
空気を裂くソニックブームが遠方で見えた。衝撃波が消えた後でさらに敵機が撃墜されていく。
そのあとに続々と推進装置を噴かせた歩兵が襲来し敵機に攻撃を撃ち込む。
『歩兵部隊の到着だ!ヒャッハー!』
『音速超えで意識を保ってる奴スゲェな・・・』
『ん?盾持ちの1人が色違いの盾を持ってるな・・・』
『盾!?。エースだ、エースが来たんだ!』
生き残っていた艦娘と歩兵の間で歓声が上がる。
「・・・これは意地でも生き残らなきゃ、私達艦娘の面目丸潰れね」
「・・・そうだね」
『打ち漏らしが来るぞ、対空戦闘用意!』
『人型はどこに居るんだ!?。うわ!、ガァッ!』
『キャー!、・・・危なかった。あっ!・・・よくもっ!』
墜落した歩兵に艦娘が反応する。
生き残っていた家族のような存在がまた1人、また1人と逝った。
「・・・人型発見!座標を転送します」
『了解、人型の殲滅に入る。後は自分自身を守れ!』
「了解、ご武運を」
『ムゥッ!隊長・・・後は任せました・・・』
『退け!退いてくれぇ!、後は私だけで良い!無駄死にするなぁ!』
『~~~!、了解!。後退します、ご無事で!』
・・・・・・
こうして睦月たちの部隊の、艦娘は、多数が生き残った。
百人以上居た歩兵は1人を残し殉職したのだった。
しかし、歩兵がいなければ艦娘達は生き残ってはいないのが現状だ。
「あれ?、さっき声の中に私の恩人が居たような?」
「奇遇ね、私もよ」
「・・・俄然やる気が出てきた!」
「本当ね」
睦月たち艦娘の部隊は同伴の歩兵部隊の壊滅と同時にベテランとして
別々の部隊へ配属されることとなった。
睦月と加賀については配属先を自由に選んで良いという通達が来た。
ベテランを超えた存在になったらしい。
睦月と加賀はどこへ行くか悩んだ。どこへ行っても地獄の戦場が待っている。
悩んでいる時に、色違い、黄金の盾を持った人の素顔を撮影した艦娘が居たそうで、
その顔の映像を貰った艦娘がテレビに映して見せびらかしてきた。
「ふふん!良いでしょ~。あたしの宝物~」
睦月と加賀があんぐりと口を開けて一言、
『あの人だ!』
と言った。
「え?、・・・知ってる顔だったの?」
映像を見せた艦娘が驚いて言った。
睦月は恩人を見つけたのだ。ついでに加賀もだった。
「加賀さんもこの人だったの?」
「そうよ。・・・でも、私の中でちょっと美化しちゃってたわね」
「・・・どうせ火の中に飛び込むんだから、この人の所に行っちゃう?」
「それも良いわねぇ」
「あのぉ~、この人の所に行くなら、どうか、あたしも連れて行って。お願い!」
先程の艦娘が頼み込んできた。
「良いけど、あの人の行く所は毎日が全滅してもおかしくない所だと思うよ?。
・・・それでも付いて来る?」
「あたしは・・・いや、第1次型は全員この気持ちだよ。睦月もそうでしょ?」
「・・・」
「少なくともあたしはこの人に何回も救われて、もう神様同然!。神様の傍に居たい!。
・・・あたしの見た光景を睦月に送る?」
「データ転送は遠慮します。でも・・・そう、だよねぇ。・・・そうなるよねぇ」
睦月は何回も再生している男の顔を思い浮かべる。
「私は止めはしないわよ」
「・・・あたしは、加賀がその生身の体で、よく行く決心がついたか不思議でしょうがないよ」
「あら、貴女だって当たり所が悪ければ一撃よ?」
「それは・・・、まぁ、そ、そうねぇ・・・」
加賀の返しにぐうの音も出ないようだ。
「・・・うん、睦月も良いよ。頼んであげる。よろしくね、北上さん」
「やりぃ!」
かくして睦月、北上、加賀の2隻と1人は最前線へ行くことになった。
戦争はようやく海に出れる所まで取り返していた。
軍艦の魂を持つ存在として、待ちに待った海上・海中戦に移行する。
睦月達以外にも同じ部隊への配属された艦娘が居た。
「あっ、睦月と加賀も来たの?」
「長良さんもあの人の部隊へ入るの?」
「そうよ。夢でも見てるみたい」
両手を頬につけて顔をフリフリしている。
「ん?北上さん、大丈夫なの?。こんなところに来ちゃって?能力平凡なのに・・・」
長良が北上を心配している。
「分相応の行動をするから、そんな問題ないと思うよ?」
「・・・もしかしたら配属される中で一番冴えてるかもね。よろしくね」
「よろしくぅ~」
その間にも艦娘達が集まってきている。
「鳳翔さん、貴女もここへ?」
加賀が鳳翔と呼んだ艦娘に問う。
「ええ、私は制空権確保の要としてここへ配属なりました。加賀さんも居れば安泰に
なりそうですね」
「・・・ですが、もしも、の時はお願いします」
「・・・ええ」
鳳翔が険しい顔で頷く。
『隊長との顔合わせを行う。配属となった艦娘達は指定された場所へ集合するように・・・』
アナウンスが流された。
「ね、ねぇ加賀さんが一番目に隊長さんと話してよ」
「え、私?。・・・良いわよ」
睦月が1番を任されていたが、緊張でオーバーヒートしそうになっていた。
機械の体なのに頭がくらくらしている。
男が入ってくる。動き易い軍服に身を包み、あまり緊張感を与えないような様相だった。
睦月の頭が少し落ち着いた。
「貴方が隊長?期待しているわ」
加賀が口を開いた。安心感を与える声音だった。
「おっと?収容所まで連れて行った・・・えぇと、すまん、名前を聞いてなかった」
「加茂美賀です。今後艦娘名の加賀と呼んでください。ちなみに航空母艦です」
「加賀、よろしく」
睦月の番だ。
「駆逐艦睦月です。よろしくお願いしま~す!」
最後が少し間延びしてしまったような気がするが、及第点だと思うことにした。
・・・何も言われなかった。顔をほぼ見ずに戦っていたのだから・人だからそんなものだろう。
「あたしは駆逐艦敷波、以後よろしく」
「軽巡洋艦長良です。よろしくお願いします」
「軽巡洋艦北上でーす。よろしくー」
「同じく軽巡の木曽だ。よろしく」
「軽空母鳳翔です。よろしくお願いします」
「潜水艦伊-168のイムヤよ。よろしく」
その他の艦娘の挨拶が滞りなく終わる。
「我々が戦っている場所は最前線だ。皆の健闘を祈る」
他の部隊へ配属であろう艦娘達がこちらを睨みつけている。
電波を送ってきている。
『羨ましい』
全員がこう伝えている。
睦月は不意に悪戯心が芽生えた。
前に手を出しVサインを作る。
『羨ましいでしょ~?』
睦月がこう伝えた。
『ムキ~!』
配属されなかった艦娘達が、行動には出さないが、心の中で地団駄を踏んでいた。
この後、睦月は自身の隊長と共に数多の死線を潜り抜ける事になる。
後に自身の提督にもなる男と共に。
「あっ!、忘れるところだった。副隊長を君達の中から選抜して欲しいんだが、
立候補者は居るかな?」
隊長の言葉に睦月以外の艦娘達全員が睦月を指差す。
「え?」
「・・・そうか、睦月、君を副隊長に任命する。異論はあるか?」
「は、はい!」
「あるのか・・・、では誰か他に・・・」
「あ、あぁ~!?。やります、睦月がやります!」
「そ、そうか。では、頼んだぞ?」
「はい!」
睦月が副隊長になった瞬間だった。
この睦月は、自分が艦娘中で一番実力のある存在だと知るのは何年も後である。