響は半月経っても、悪魔に殴られた後がジンジンと痛く、目を余り開けていられなかった。
ずっと手足を縛られた状態なので、鏡を見る事も出来ない。
「よくも、こんなにも長くやってくれたな」
響は自身に言われたと思い目を開く。タ級が目の前に居た。
「君の様な個体が生きていたとは・・・いや、生きている全員がそう、か」
パシンッ!
響はタ級から、頬にビンタを張られた。
「貴様が、戦争を起こさなければ、私の家族が生きて居たんだぞ・・・」
タ級が涙ながらに言った。
「・・・だが、戦争を起こさなければ、環境汚染により、皆死んでいた事も事実だ」
「・・・クソッ、チクショーウッ!」
タ級が膝を付き、
ダンッ!
タ級が涙を流しながら、床を叩いた。
「・・・父さん、母さん」
「・・・羨ましいよ。誰かを弔う、言葉を言えるなんて・・・」
「貴様は違うと言うのか!?」
タ級は響に涙を流しながら問いかける。
「元々、私は人間だった。・・・私の両親は、私を捨てた。
その後、私は養成施設で育てられ、艦娘となった9日後に死んだ」
「・・・元人間が事を起こしていたなんて・・・しかも、艦娘だとは、な」
「人間を殺したくて仕様が無かった、元人間。・・・それが、今の私だよ。
・・・人間を根絶やしにする夢は潰えた、ね」
「貴様に、大切な人は、大切だった人も居ないのか?」
「居ない。深海棲艦側でも居ない。私に従って、滅びの道を行くんだ。
あそこに居た、生き延びた全員が怨んでいたよ。人間、深海棲艦、誰からも信頼されない。
・・・私はもう、生きている事に疲れたよ」
「・・・」
タ級は響の境遇に言葉を発せ無かった。
ガチャリ
不意に扉が開き、悪魔が武装状態で入って来た。
「まだ人間が攻撃されているぞ」
声に怒りの色が見えている。響とタ級、どちらも身震いした。
「待って、話の通じる奴と連絡を取ってみる」
響は慌てて、無線を受け取り、連絡を試みる。
「応答せよ!」
『如何した?。裏切り者』
連絡に応じた者が居た。
「何故人間側を攻撃しているんだ?。死にたくないだろう!?」
『知能を持たない、考えない奴が言う事を聞かないんだ!』
「思考を持たない者達が言うことを聞かない!?」
『人型の我々が居ると、何体かは大人しく出来るのだが、一定数以上だと、もう手に負えない』
「・・・分かった、人間側に伝えておく」
『・・・頼む』
懇願の声が聞こえた。そこで無線を終了し、悪魔の方へ向き直った。
「私たちの人型じゃない者達が暴れ続けているの。
そして人型の私たちの絶対数が少なくなり過ぎて制御不可能になっている」
「終わったのに終わらない訳か・・・。響、もう一度放送が必要だ。やってくれるな?」
「うん」
今回は人間側に伝えるだけで良い。・・・そう思うと、気が楽になった。
「この放送を聞いている陸上に住む生物達よ、私は深海棲艦と陸上生物との戦争を起こした
張本人である。前回、深海棲艦が姿を現さない、と言ったが、あれは嘘だ。
我々が繁殖させた、個体達が、制御不能に陥り、今なお陸上生物達に危害を加える事が発覚した。君達に駆除をして貰わねばならなくなった。我々も尽力するが、如何せん手が足らない。
申し訳ない。申し訳ないが・・・本当の、本っ当!、に申し訳ないが、
陸上生物達も我々が繁殖させてしまった個体の駆除を頼む。
・・・最後に、本当にぃ!、申し訳ない。・・・終わり」
放送を終えた後、響は先ずタ級を見た。・・・悪魔の方は、怖くて向けなかった。
タ級は顔を真っ青にして、響の見ている真後ろを見ていた。
ゴツンッ!
響の頭に拳骨が落ち、響は昏倒した。
□
「何か、私だけぞんざいな扱いじゃないかい?」
悪魔がどこかへ出かけて数日。響はずっと、簀巻きの状態だった。
「首謀者が良く言うよ」
「・・・タ級の方は自由に動ける身なのに、逃げないのかい?」
タ級は拘束されていない。外に居る艦娘は怖いが、
あの悪魔に比べれば、何とでもなる位ではある。
「あの悪魔が、私にとって恩人だ」
タ級が少し顔を赤らめていた。
「その顔、好きになったんだね」
「そっ!?、そんな事は・・・」
「敵だった我々に、あの人が心を開くのは当分先になると思うよ?」
「・・・それでも、この感情を止められないんだ・・・」
「・・・そう」
■
数日後、悪魔が武装した状態で、またやって来た。
「これから、私は隠居しようと思う。付いて来るか?」
開口一番の言葉がこれだった。
「行くよ」
「私も貴方と一緒ならば行く」
響は、例え今は怖くても、誰かの傍に居れるという感動と、死の恐怖から。
タ級は、恋する人と居れる事を楽しみにしている感情から。
悪魔1人と深海棲艦2体、
「このロボット、持って行くの?」
「そうだ、私が世話をしようと思って、な」
半壊ロボット(他の奴、しかも深海棲艦が一緒だなんて、・・・勝ったと思うなよ)1体の
計4名が新天地で生活を始める事となった。
響とタ級は全身を覆う合羽を着せられ。肌の色が見えない様に護送された。
移動している最中で、悪魔がサングラスに手を掛け、武装を解いた。
人間と思えたが、響には、これまでの所業を考えると超人と思えていた。
悪魔も見分けが付かなくなる程の変装をした。
・・・移動している最中、響は人間の女性達が、集団で武器を持って居るのを見た。
「・・・」
武装集団が進んでいる方角的に、響達の居た場所だった。
新天地で暮らし始めて、幾ばくかの日数を経た後、不意に悪魔が笑顔を見せるようになった。
「・・・」
全く見せなかった表情を見た事に、響は胸が高鳴った。
響とタ級、両者に心のゆとりが出始めた瞬間だった。
だが、タ級が笑顔になるのは良いが、
響が微笑1つでも見せると、途端に悪魔の顔色が悪くなった。
それでも、響は彼の笑顔が間近で見たくなっていた。
「タ級は良いよね・・・」
響は彼の笑顔が見れない事に苛立ちの言葉を口にする。
「如何した、急に?」
「君は一介の兵士として戦場に居た存在。
でも私は、断頭台にでも掛けられて、死んでいただろう存在」
「・・・詰まるところ、何が言いたいんだ?」
「私も、彼が好きになったのかも、ね」
「・・・そう、か」
「私は告白してみる」
「急過ぎじゃないか!?」
響の言葉にタ級が焦る。
「彼に棄てられない為だ。ここに来る時、あれを見なかったのかい?」
「何をだ?」
「生身の人間達が武器を持って、私達が捕らわれて居た所に、来ていた事だよ」
「・・・いや、分からなかった」
タ級が青ざめていた。
「私達を生かしているのは、後々はここを離れて、
イ級達の管理を担って欲しいから、だと思っているよ」
「その為にわざわざ、我々の様な存在が居ない、人間も居ない場所を選んだと?」
「勿論、彼自身の精神状態も一因の1つである、と思うよ?。
最近彼の表情が変化し始めたのは、彼の心が変化してきたから、だと私は思っているよ」
「・・・やっと、彼は笑顔を見せてくれる様になった。
私はこの生活が続いてくれる事を願っている。そして、ゆくゆくは・・・キャ///」
タ級が頬を赤らめて頭を振っている。
「・・・ホント、羨ましいよ。妬ましい位に・・・」
響は、恋敵の様子に、ギリギリと歯を鳴らしていた。
後日、タ級が彼の傍を離れて、彼が1人で居る所に出会えた。
「貴方が好きです」
響は意を決して告白する。
「いきなりどうした?」
彼が、悪魔となり、殺気を放ってきた。
「好き、じゃない。愛してます」
響は恐怖心を抑え、言葉を発する。
「どちらにせよいきなりだな」
殺気がオーラとなって見えている。
「貴方には感謝しているよ。出会いは最悪だけど戦争を終わらせてくれた」
響は恐怖心を抑え、早口で言葉を発する。
「・・・」
「そして、戦争首謀者として、敵と味方どちらからも
恨まれる立場の私とあのタ級をこうして匿ってくれている」
響は恐怖心を抑え、チビりそうになりながらも、更に早口で言葉を発する。
「・・・」
タ級の単語を使った途端、彼の殺気が和らいだ。
「今私は幸せだよ。その最たるは貴方が
傍に居てくれること、に気づいたんだ。あのタ級も同じ気持ちだよ」
「あいつも、か」
「あの子も貴方が近くに居てくれるから笑顔なんだよ」
・・・恐怖心に負け、タ級を利用してしまった。
だが、今はこれで良い、言いたい事は言えたのだから。・・・そう思った響だった。
翌日、響が留守を任されて、菜園の手入れをしていると、
ドスンッ!
「・・・え?」
腹部に何かの衝撃、
ボウゥーン!
その後、発砲音が聞こえてきた。
「撃たれた!?・・・うぐぅ!」
平凡な日常に安心しきっていた。
強烈な痛みが体を襲うが、今の、動ける内に自宅の中へ逃げ込んだ。
その後、全ての扉と窓に鍵を掛けた。
響は急いで自身の止血をするが、止血完了と同時に体が動かなくなった。
・・・ややあって、炎が家の中に立ち込めてきた。
火を点けられたのだろう。
響は往生の時を覚悟した。
ベキィッ!
彼が火の中から、ロボットを背負って、部屋に飛び込んで来た。
響は彼の腕に抱きかかえられた。
「罰が当たったんだね。貴方ともこれで終わりか・・・」
響は、止血は終わっていたが、少しずつ心臓が弱まっているのを感じていた。
もうすぐ、死ぬのだろうと思っていた。炎に巻かれて死ぬのと、どらちが早いかだった。
・・・最後は恋した人の腕の中で死ねるのか。あの時の死に方よりマシ、か・・・
「喋るな、まだ終わっていない。目を瞑っていろ」
そう言われて、響は目を閉じる。
・・・何かの鳥が見えた気がした・・・
暫くすると、体に血の気が戻った。
「あ、あれ、まだ長生き出来そう?」
目を開けると体が動かせた。この部屋の火が収まっていた。
「とにかく、ここを離れるぞ」
そう言って彼はサングラスを掛けると武装した姿になった。
直後、凄まじいGにより、響は気を失った。
響が目を覚ますと、寝具の中で寝ていた。
辺りを見回すと、響以外いないようだ。
「此処は・・・」
『気付いたかい?』
小人の様な存在が響の腹の上に居た。
「君は何だい?」
『妖精だよ』
「妖精?」
『・・・結構顔を見せるようになったんだけど、まだまだ認知されて無い見たいだねぇ』
「ところで、何の用かな?」
『ああ、そうそう。You、やっちゃいなYo!!』
「・・・はぁ?」
響は訳が分からなかった。
『君の体は、人間で言う艦娘の存在になったんだよ』
「艦娘、か。・・・あの人の思惑は今、身近ではタ級だけになったか・・・」
言われてみれば、響自身、違う存在になったと思えていた。
響は艦娘になった事でイ級達を、まとめる存在から、駆除する存在になったのだった。
『?、何の事?』
妖精が、訳が分からない様子で、疑問を投げかけて来る。
「個人的な事だから、気にしないで」
『・・・ま、良いや。君に人間とセ{ピーー(自主規制)}がしたくて仕様が無い体にしたから、
子育てとかバンバンやってね!。よろしくー』
「は?、なんだって!?」
『あ、勿論、時間と場所等は弁えるようにしてあるから大丈夫だよー!』
「・・・ふざけやがってぇーーー!!!」
響は妖精を、ムンズッ、と掴む。
『な、何をするー!?』
響は、妖精を持っていない方の手で、近場の窓を開ける。
「ウラァーーー!!」
ブゥンッ!、ヒューーー!
「チクショウ、お前は、馬鹿だぁーーー・・・!」
妖精が羽ばたいて、飛んで逃げて行くのが見えた。
英語で言うと、フライアウェイ。・・・・・・えっ?、艦これの妖精さんは羽無s(ry
「・・・」
今の、妖精の話、本当なのだろうか?。
もし、その感情を常に持っていたとしても、
彼が響に心を開いてくれるまでは、表情に出してはならない。
「・・・うぅ・・・、そんなのって、無いよ」
響は泣いた。これからの事を思い、今の内に泣いていた。
「司令官。・・・?、司令官って・・・彼の事か」
泣き止んだ響は自身の彼への呼び方が司令官になっている事に気付く。
「・・・司令官と名前、どっちで呼べば良いんだろう?。・・・まあ、今は司令官で良いか」
この後、強制的に変えられてしまうが、今の響にとって、この呼び方となった。
コンコンコン、ガチャリッ
扉が開き、彼が居た。
響は ドクンッ!、と、心臓が跳ね上がった。
体から出てしまいそうな気もしていた。
「・・・響、起きていたか。身支度をして外に来てくれ」
彼はそう言うと出て行った。
心を落ち着かせて、外に行く支度をする為、寝具から出る。
「・・・服、寝巻きに着替えてなかった。弾の後は・・・無い、か」
服と体の弾痕を確認したが、無かった。
響が外に行くと、彼とタ級が、海上からこちらへ近づいて来る何か、を待って居た。
「響、何か変わったような気がするが?・・・」
タ級が言ってきた。
彼はこちらに来る者達に夢中の様だ。
「艦娘になったんだよ」
「・・・また、人間に戻ったのか?」
「体を確認する限りだと人間でも無い、艦娘という種族、になったと言えば良いのかな?」
「・・・我々深海棲艦は、絶滅、まっしぐらかもな・・・」
「もう、最低必要数が居ないんだから、純種だけでの繁栄は無理だよ。
それに、私は元艦娘だったんだし、ね・・・」
「そう、だな」
「し・・・」
「し?」
響は司令官と言いそうになったのを堪えたが、タ級が次の言葉を待っている。
「君が彼と居る時点で、純種の繁栄はもっと困難になってるよ?」
「・・・」
タ級が言葉を失った。
「でも、好きになったんでしょ?」
響の問いに、タ級は頷いた。
「愛に、種族は関係無いと思って、彼に付いて行く」
「私も同じだよ」
「恋敵、だな」
タ級が好敵手に言った。
「どうも・・・」
響は言葉を濁し、頭を掻く。
「如何かしたのか?」
「艦娘の体になって分かったんだけど、この惑星全体で、男性の数が極端に少ないらしいよ」
「・・・と、いう事は、一夫多妻制が標準になる・・・」
「うん、なる。・・・今来ているのが、女性だった場合は・・・」
「・・・ハアァーーー・・・」
響の言葉にタ級が、深く溜め息を吐き、項垂れてしまった。
向かって来ていたのは、艦娘の2体だった、
「ダ゛イ゛ヂ゛ョ゛ー!」
「また、お会いできて私は幸せです」
「生きていたか、本当に良かった」
2体共、陸に上がると、彼に抱きついた。彼もそれらに抱きついていた。
響とタ級には絶対にしない様な、出会ってから即抱擁を交わすという行動。
「羨ましい、というか妬ましい。ライバルが増えたね」
「私もそんな気分だわ」
響は嫉妬の言葉を言う。
タ級が、あまりの事に、普段の言葉を崩していた。
響とタ級は彼に鋭い視線を浴びせていた。
「自己紹介だ。私は・・・まあ分かっているか。先ずは、ここにあるロボットだ。
・・・後は、4人とも、簡単に自己紹介をしてくれ」
「睦月です」
「鳳翔です」
「名前は・・・タ級で良い。呼ばれ慣れてしまったんでな」
睦月と鳳翔から殺気が漏れているが、彼の殺気よりも弱かったので、タ級は無視出来ていた。
「響だよ。睦月と同じく駆逐艦級だよ」
響は自身が別の存在になっていると思えたが、この名前で呼ばれる事にした。
・・・響は睦月と同じ駆逐艦と言ったが、目の前の睦月は何故か違う艦種に思えた。
「ヴェールヌイでしょ?」
睦月が響へ疑問の声を上げる。・・・そう、響はその名前の存在になっている。
・・・睦月と鳳翔には、自身が深海棲艦だったと、バレていない様子だ・・・
「ホントはそうだけど・・・司令官の前では響で居たいんだ」
響は彼の腕に抱きつく。
彼は引き剥がす事はしなかった。これくらいの事は、許して貰えるに至ったようだ。
「そう・・・」
睦月がそう言って、『この恋敵め・・・』とでも言いたそうな、視線を響に向ける。
「そうだよ」
響も負けじと威圧する視線を睦月へ向ける。
他者から見れば、視線の火花が散っている様に見える。
睦月と響が対峙していると、
ポンッ
と、両者の頭へ手が置かれ、その手で撫でられてた。
彼が撫でているのだった。
睦月は、すぐに嬉しそうな顔をになって、彼を見ている。
響も、撫でられている事を認識して、嬉しかった。
・・・が、笑う事は出来なかった。
・・・まだ、司令官には信頼されていない・・・
今、響はそう思っていたから。
響は、自身が信頼した彼に、いつの日か、信頼・愛される時を夢見て、彼の傍に居続ける。