ここは、人間と艦娘達によって深海棲艦達を絶滅の一歩手前まで追い詰めた世界。
人間達は、深海棲艦との激しい戦火の中で互いにその個体数を減らし、約1億人に成り果てた。
人間の絶滅まで後1億となった後、艦娘達の活躍により深海棲艦を陸から叩き出す事に成功。
今、艦娘達に依る、増え過ぎた深海棲艦に再上陸を許さぬ為、残党の掃討・戦闘を行っている最中にある。
・・・その艦娘達が戦っている中に混じって、戦う男が1人居る。
「明石。如何だ?、まだ直らないか?」
「AIを入れる基板が来ない事には、その他の修理ぐらいしか出来ませんよ。未だ、完全修復は不可能です」
・・・しかし今は、戦う事を強制的に休まされている最中である。
工廠で男は女性の明石に、依頼した事柄が完了したのか、確認に来ている。
「基板作成完了まで、数ヶ月掛かるそうです」
明石はまだ、頼まれた事が終わっていないと告げる。
「具体的な日数は?」
「未定です」
男は唸る。これ程に依頼した修理が遅くなるとは思わなかったからだ。
「明石は基板ぐらいは作れると思うが?・・・」
「板は出来ても、全ての回路構築はここの設備だと現状、
自分の装備が無いともどかしい。男は明石へそう言うが・・・、
「もう、この鎮守府で生活してくれるだけでも良いんですよ?」
「そう言う訳にはいかないだろう?」
「ところが、もう、そう言う訳なんですよ」
「・・・まだ、物が有る内は戦場に出るよ」
明石の言葉に、男はそう
この男、頑固である。・・・時代は変わっている。この世界・この星の今時代、男が、艦娘ではない者が深海棲艦との戦場に出る事は無い。ここに居る男だけが特殊なのだ。
この場に、
だが、現状はボロボロ。外観は良くても中身が無いスカスカの状態。とてもではない位、深海棲艦との戦闘では役立たない。ヒトと深海棲艦が戦うには、外見だけでは戦えないのである。
「・・・はあ。ちゃんと生きて帰って来てくださいね?」
「勿論だとも。ただ、大出力系の武器が欲しい所だな・・・」
明石は男の答えと要望に「今は無理です」と溜め息を吐く様に言いながら、人1人が抱えられる位の箱から、物を2個取り出した。
「で、AIが入った
1個は透明な袋に入ったサングラス。もう1つは頑丈な箱に厳重に保管され、『歩兵装備』と殴り書きされていた。
サングラス。日除けの眼鏡でありながら喋るAI入り。更には銃弾を弾く武装が出来る代物である。
出回り始めたのが深海棲艦との戦争であり、大量の戦没者を出した曰く付きの対人兵器。
「AI、・・・昔のAIか?」
「違う様です。着用してみます?。ちなみにAI違いで2つ来ています」
「・・・ああ、してみよう」
明石が先ず、箱を解錠し、中に入っていたサングラスを男に「どうぞ」と言いながら手渡した。
「今渡したのは最近の作品だそうです。性能はお墨付き、との報告です」
男は先ず、手渡された一つ目を眼鏡として掛ける。何やらAIが話しかけている声は聞こえる。
男はAIへ話し掛けるが、暫くして「駄目だな」と残念そうにサングラスを外す。
明石が「え?」と疑問を言う。
「AIが言っている事が頭に入って来ないんだよ。また、彼女の様なAIを待つしかないかなぁ~・・・」
「・・・え~、あともう1つも有りますから・・・」
明石は男を励ましながら、もう1つを男に見せた。
「・・・そうだな・・・」
男は諦め顔になりながら、1つ目を明石に返し、2つ目のほぼ裸状態で送られて来たサングラスを手に取って掛けた。
{・・・おー、私を、使うの・・・かぁー}
女性声のAIが感嘆の声を上げた。それが男の頭にAIの声が入って来る。
「え?」
男は間の抜けた声を上げた。慣れ親しんだ元々のAIとは反応が違い過ぎた為だった。
同時に、元のAIとは違うと確信し、男はどのように付き合うかを悩む。
{あっ、と・・・すみません。私の名前は・・・サンプット。SPと呼んでください。元々私は開発し・・・もとい、開発用に作られた・・・、え、AIでして、これを使用されるなんて思いもしなかったもので・・・}
「か、開発用?」
AIが随分と歯切れの悪い、考えながら話しているようにその場の全員が思った。男が困惑しながら、SPと名乗ったAIと会話する。
{そうです。だ・・・}
AIが話している途中で沈黙した。ここでも話す事を考えている様子。
「だ?」男は先を促す。
{・・・どうも、
「む、そうか・・・」
{ちなみに、今、何年なんでしょうか?。長らく着用されていなかったので、時計の電池が切れてしまったようです}
「では、SPさん。
明石とSPで時刻合わせをした。
男が欲していたこのサングラスは電気を使用するが、自身の動力源や、生物が動く為の静電気信号・着用者が動いた時の静電気に依って充電を行っている。その為、自身の電力と長らく生物と接触を行っていないと電池が切れる。・・・しかし、電池や蓄電技術の向上によって、何年も電池が持続する筈なのだが・・・。余程の長期間、生物との接触が無かった事が伺える。
ここで明石について。明石はロボットである。・・・正確には、『第1次艦娘』と呼称される機械型の艦娘である。同じく機械であるSPとは時間や
第1次で唯一無二となった第1次艦娘を治療する、治療用艦娘でもある。(その他の第1次は戦闘用艦娘)
第1次治療用が居ないと『第1次艦娘』全てが中破、大破時の修復を行えないと思って良い。
それ程に貴重な、古参となった艦娘である。
機械同士、リアル世界でのWi-FiやBluetoothのように、無線で情報のやり取りが出来る。
リアルタイムでの情報の同期・送受信も可能だ。当人達にその意思が在ればだが。
{深海棲艦との戦争が始まってから、10年以上が経過していましたか・・・。ちなみに、人間側の勝利で良いのでしょうか?}
「辛くも勝利した。・・・と言えるな。人口は100億以上だったのが、1億にまでなったからな・・・」
{そうですか・・・}とSPが呟く。
確かに人間側が勝利した。だが、その損耗は人間だけではない。
「艦娘側の被害も甚大だった。この明石が、第1次で最後の治療用艦娘だ」
{最後の・・・明石・・・さん、自身の点検が出来ていないのでは?}
「はい、出来ていません。自分で自分の事は外部だけしか出来ませんので。・・・ですが、AIに何か出来るのですか?」
{何か、
「データ移動用の
{知っているので大丈夫です}
さも、当然の様にSPは応えた。
「・・・SPさん、あなたは一体・・・」
明石はその言葉に驚いて質問。
{第1次艦娘のOS開発に携わった事があるので、知っているんです}
「そんな時からのAIなので?」
{・・・そうです}
「貴方の様な開発用AIが居た、という報告は無かったのですが・・・」
{実験的に私が組み込まれたのみで、間違っていなければ、この私のみです。後は他の、戦闘用などのAIが組み込まれている筈です。では、暗証番号は・・・・・・です}
SPはパスワードを言う。
「・・・認証、成功しました。で、では、
明石は驚きながらも、SPへ自身のデータ転送を始める。
暫し無言になり、手持ち無沙汰になった男は周囲を見回す。男の目は明石が作っていると思った物に留まった。
「明石、今何を作っているんだ?」と男が問う。
「第1次用の交換用腕部・脚部の部品です」
その答えに、「第1次用・・・か」と男は口ごもる。
深海棲艦との戦いが10年続いたこの時代、もう第1次艦娘達は数少ない。
この男からの評価は、
『高性能であるのは良いのだが、
それを男は気に掛け、死んで欲しくないと思い、第1次達を戦場へ送りたがらない。
現在の人的資源を鑑みるに、誰にも死なれては困るのだ。
深海棲艦との戦争は長期化しており、終わりは見えていない。近年では、一時的には減ったのだが、この男の鎮守府付近で深海棲艦がまた出没するようになり、再度、哨戒と掃海活動をする必要が出てきている。
「提督、第3次の働き手は徐々に増えていきます。しかしまだ、練度の事もあると思いますが、第1次の万能さには劣ります。生残性は劣りますが、私達第1次を使ってやってください。我々の心は、一緒に戦って来た貴方と共に在ります」
「・・・君には苦労を掛けるな」
「今まで、私が苦労を掛けて来ましたから、お互い様ですよ」
「あっ、と・・・そうだ。第1次用の防壁展開装置は増産出来るか?」
「少しずつですが、もうやってます。完成次第、順次取り付け・交換を行うので、それまでの辛抱ですよ」
「防壁の展開時間は無制限か?」
「そんな万能な代物、この星が消える間際になっても、完成は無いですよ。『装着者が被弾する時、強制的に被弾する瞬間に数分間展開する』のを、『装着者が被弾する時、強制的に被弾する瞬間のみ展開する』仕様で生産しています」
「被弾する瞬間のみ、になる・・・か」
第1次艦娘という存在は、同じ艦娘が大量に造られる切っ掛けとなった。そして、艦娘という存在が大量に戦没する切っ掛けにもなった。
深海棲艦と比べると、艦娘は正確無比な射撃で敵を倒すのに対し、相手は破壊力で押し通す。両者の戦いは深海棲艦の方が有利であったが、人間も一緒になって戦う事で何とか艦娘側が有利となり得た。第1次で生きて居るというのは、激戦の時代を生き残ったという証左なのである。
明石は自身の作った防壁について語る。先程の後者の方が、被弾しても無傷で活動出来る時間が圧倒的に長くなる。
長年の経験蓄積で砲撃に当たる事は滅多に無い。・・・しかし、敵機からの急所への機銃掃射、爆撃や広範囲攻撃に因って防壁が展開する。それでもその後でも数度、防壁が展開出来るので、利便性・生残性は格段に良くなったと自負している、と。
「そうか」と男は心配そうな声音で返す。それに明石はムッとする。男が我々を大切に思っている事は理解出来るのだが、それでも言いたい。艦娘という兵器として生まれたが為に。
「提督。私達は戦う為に生まれてきました。このまま、老兵器として朽ちるだけなのは我慢ならないんです。以前の様に私達だって、まだ、戦って活躍させて見せます!」
男は明石の言に、真剣な表情で明石を見つめる。
「・・・怪我・欠員が増える程、身動きが取れなくなる。全力で取り掛かってくれよ?」
「分かってますって!!」明石は威勢よく答える。
男は苦笑。・・・慣れ親しんだ戦友達が死なない事を切に願う。