陽射しはまだ燦々と輝いている。外に出た男はサングラスを弄り、鎧を身に纏う。
「試しに、このままで走り込みだな」
男は建物の周りを走り出す。走り込みをしながら、SPへと口へ開く。
「SP、この装備に付いている兵装について説明をしてくれ」
{はい。・・・まずは初期から搭載済みの充填式の銃、頭部に充填式のバルカン砲、片方の肩部に
「前の物と変わらないか・・・。ん?、筋力の補助機能が無い様な?・・・」
男は自分の力だけで動かす事に若干の違和感を感じるが、別段、問題無いと思えていた。
{え?、在ったんですか、そんな機能?}
AIがそんな質問をして来た事に、男は「え?」と声を発する。
{あっ・・・いえ、その、・・・筋力補助機能は無いです}
「無い、か。・・・まあ、良いか。BY・・・以前のAIには、『その機能が無くとも使えるのでは?』と言われたのだしな」
{・・・そうですか・・・}
男はおもむろに、背中の推進装置を意識し、背中の推進機から光が迸ると同時に空へ飛び上がった。
急な加速に男の姿勢が飛ぶ為の姿勢になった。
筋力補助機能。体全身の筋力を補助する機能。通常は空中飛行での空気抵抗と重圧で手足を動かせなくなる。それを装着した鎧に取り付けた機械の力で補助する。
以前の装備にはその機能が在ったのだが、今男が装備している者にはそれが無い。
しかし、男は力を込めると、空中移動中に腕を動かし始めた。鎧の各所に取り付けられた補助推進装置を活用、姿勢を制御し始める。
「む、加速が速い・・・。意識を強く保たないと、持って行かれるな・・・」
{気を付けてください。本装備は試作第1号の作品で、使用者が使いこなせなかった物です}
「それに、前の装備での最高速度で、九割の出力か。少し余裕が在るな・・・」
空中を飛びながら、背中に付いている剣の柄を取り出し、振り回した。
「ふっ!」
空気圧と重圧に負けじと飛びながら、息を強く吐き、腕を振るっていた。
暫く腕を振った後、剣の柄を背中に戻し、飛んでいる体を急角度、上下左右へ動かした。
(・・・並の人間じゃ、気絶してしまう様な、出来ない動きの筈なのに)
AIは驚いた。並のヒトならば精々腕をその姿勢のままに保ち、銃のトリガーを押す位だというのに、この男は移動しながら腕を振るという動作をやってのけたのだった。
だが、同時に理解もしていた。
(でも、今も『この装備』を使おうとするって事は、こんな事を出来るだけの能力が有るからこそ・長年生きて来たからこそなのよね・・・。そうで無ければ、艦娘が居るんだから、この男性も引退している筈)
男は暫く習熟の訓練をして、
「・・・良い物だな。今の自身の状態なら、前の装備の延長線上だ。体に合う」
この装備の出来に満足。
「明石に言えば、以前の装備もこのぐらいに改造出来るかな?・・・既に少しずつ取り掛かっているか。私の考えている事を解っている気がするし」
{あの・・・、まだ、貴方は戦場へ出るつもりなのですか?}
そのSPの問いに「む、そうだが?」と男はにべもなく答える。
{本装備は、深海棲艦との戦闘だと、使用してもこちらの被害過多。艦娘に任せることが決定していた筈。貴方は・・・その・・・頑丈な建物に入り、艦娘の士気を上げる事に身を投じても良いのですよ?}
「・・・勘なのだがな・・・」
{勘?}
「近々、艦娘でも損害が出る強敵が出てくる気がしてならないんだ」
別段、男の感は当てにならない。・・・だが、まだまだ深海棲艦と戦う以上、敵が見た事の無い種類が出現してくる可能性は在る。艦娘達が新しい武器を作ると同様、敵も新しい武器を持っているかもしれない。
{艦娘でも損害は付き物ですが、・・・艦娘に任せれば深海棲艦など・・・}
「その深海棲艦との戦争中、第1次艦娘は如何なったと思う?」
{・・・多くが損耗、失われました。『私が防壁の完成をもっと早く出来ていれば』と思う時が数多くありました}
「艦娘だって無敵ではないよ。第3次だって、死ぬ時は死ぬ」
{どれだけ攻撃を受けても死なないと噂されていた、あの第3次が、ですか?}
第1次と同じく、第3次も防壁を持つ。いざ死ぬ間際に、命を保護する為の防壁が展開される。だが、その1戦が終了したと思い込めば、次の戦闘後には防壁が機能しなくなる。再度、生命維持防壁を展開するには、その艦娘が
「私はまだ、この世で完全無欠なんて物は見た事が無いよ。何処かには、そんな物が存在するのかもな・・・」
男が飛行している姿を、ティータイムを堪能している艦娘3名が発見。男が手を振るとその艦娘1名が持っていたティーカップを机に置き、男へと手を盛大に振り出す。もう2名もカップを置き、男へと手を振る。その光景を見ながら男は遠ざかって行く。
男が手を振り終えるまで男へと大きく手を振っていた艦娘は、ピタリと手を止める。そして、共に茶会を満喫していた艦娘へと、疑問を持った表情の顔を向けて質問を投げ掛ける。
「・・・はて? 榛名、さっきのは
「提督ですよ。金剛姉様、あの装備は男性専用です」
「ああ、そうだったんですか・・・」
「知らなかったんですか?」
金剛の様子に榛名は『当たり前の事なのに何故知らないのか?』という顔をして訊く。
「私は、テートクともう1人しか知りませんから」
「・・・光陰水の如し、ですねぇ・・・」
榛名は今、時の流れを感じる。彼女は、男が使用している様な装備の者達と一緒に戦いながら、1度は力尽きた者で在るから・・・。
「榛名。貴女の戦時中の話、話してくれますか?」
茶会に参加しているもう1名の艦娘が榛名へと
・・・榛名はしばらく黙し、ゆっくりと口を開いて話を始める。
「この鎮守府で、
数年前まで、この星で人間と深海棲艦の戦争が在った。戦争中、人間達は艦娘を造り出し、深海棲艦との戦いへと投入。
多大な犠牲が、人・ヒト・妖怪・艦娘・深海棲艦・地上の動物・水生動物、この星のありとあらゆる生物に出た。
この星に於ける強大な力を持つ2大勢力(人間と深海棲艦)が地上の津々浦々迄戦いを続け、2大勢力共に戦力維持が出来なくなった。深海棲艦達は陸上の制圧を断念、海へと逃げた。
その逃げた深海棲艦を艦娘達が追う。深海棲艦は逃げはしたものの、自らの土俵へと艦娘達を誘い込んだ。
艦娘達は深海棲艦を血眼になって探す。艦娘達の直掩に就いた空飛ぶ人型(歩兵)も一緒になって探す。
・・・なかなか見つからない。
深海へと逃げた深海棲艦達を探すのは至難の業。当時の艦娘達にはほぼ全てに水中性能が無く、潜水出来る空飛ぶ人型に任せるしかない。その人型達は、『待って居たぞ。共に死ね!!!』と言わんばかりに深海棲艦達の待ち伏せを受け、深海棲艦の自爆に因る爆圧で次々と戦没。深海棲艦を倒そうという者達は爆雷に因る立体的面制圧、又は水上に待ち伏せて倒すという方法を取らざるを得なかった。
深海棲艦達も疲弊していく。
頭上(水上)では艦娘や人が右往左往し、水中探信儀(又は聴音機)を用いて深海棲艦を探している。
深海棲艦と思しき反応が見つかれば爆雷の嵐が降って来る。
度重なる爆雷の音に発狂した深海棲艦が、怒りに任せて艦娘の集団を襲う。その戦う深海棲艦の中に、海戦特化型の深海棲艦が居たのを艦娘達は知らなかった。
艦娘達は治療型艦娘を喪失していく。海戦特化型に対応しきれず、後方支援型艦娘を喪失し、今度は戦艦型や空母型の主力が狙われた。それと同時期には補給物資の前線供給が円滑に行かなくなる。拡大した戦線維持への、弾薬や食料、生産する為の人員、届ける為の人員が不足していたのだ。
戦艦型や空母型を優先的に狙われ、決定打を与えられる艦娘を失う。艦娘と深海棲艦共に補給の
深海棲艦の数が少なくなっていくに連れ、空飛ぶ人型はほぼ100%戦死した。戦場で、真に地上の平和を憂う者は1名を除いて居なくなった。
たった1名だけ戦場に立ち続ける空飛ぶ人型、『隊長』。戦争初期から戦場に立ち続け、今も尚生き続ける戦争の英雄である。
『隊長』を知る艦娘達は彼を守る。『隊長』を知る艦娘達には彼が必要であったし、彼と共に居るAIが必要だったからである。彼への恋愛感情、又は盲信の様な感情が無いとは言い切れないが・・・。
彼女達は付かず離れず彼を守り、多数の戦没者を出しながらも終戦を終える事が出来た。
・・・『隊長』が、よもや、深海棲艦側の総統を連れて来たのは予想だにしなかったが・・・
話変わって、この榛名が戦没したのは治療型艦娘が全て居なくなる少し前。準戦艦型の榛名は深海棲艦達から『脅威の存在』であるとされ、集中砲火を受ける事多々。流石の回避運動も、『予測可能、回避不能』の弾幕には損傷も免れず、傍に居た仲間の艦娘の肩を借りなければ生還出来なかった。
しかし、生還したは良いものの、肝心の治療型艦娘が傍に居ない。仕様が無しに存命中の治療型艦娘の所まで行ってみれば、大量の治療・施術待ちに因る順番までの待機。完治する迄は艦娘治療用の大きな施設で寝泊まりする毎日だった。
そんな時に、『隊長』が艦娘用のその施設に運び込まれて来た。
運び込まれた原因は頭部への狙撃。貫通していた。貫通しただろう弾は無く、弾痕らしき場所は溶解していた。
これは光学兵器に依る傷。深海棲艦が用いる兵器は主に実弾系であり、光学兵器は空飛ぶ人型用を除き、対深海棲艦への攻撃能力が欠如していたのだった。但し人とヒトには貫通する。ましてや、急所を狙われたら即死である。
榛名達は人間達に激怒。人間と艦娘と一緒に深海棲艦と戦って来た『隊長』を、人間達は、邪魔という理由で闇に葬るつもりだったのだから。
榛名達は更に、『隊長』側近の艦娘達にも激怒。偶の休日への喜び、長期戦に因る疲労、そして『まさか人間達がこんな事をする筈が無い』と思い込み、狙撃を許したから。
・・・『隊長』の艦娘達にとって、とんだ
艦娘用の施設へと運び込まれた『隊長』は、何と、生きて居た。頭部の弾痕は残っておらず、ただただ、彼は泥の様に眠って居た。過労に因る昏睡状態であるが、よくぞここまで生き抜いて来たと言える程の身体状態であった。体に弾が貫通し完治した
『隊長』がここまで生きて居たのは、そして頭を撃ち抜かれて尚も生きて居るのは奇跡としか言い様が無い。
(生きて居た原因・理由を知らないというのもあるが・・・)
連戦に次ぐ連戦を生き抜いて来た『隊長』を、榛名は一目見たいと休んで居る部屋へと行くが、彼の艦娘達が行く手を阻む。「やっと、・・・やっと熟睡出来ているのだから、彼に近付かないで!!」と言われ、堪忍し、待つ事5日が経過。彼は一向に姿を見せない。『本当は死んでしまったのでは?』と榛名は思い、『隊長』の居る部屋へと行ってみると、同じ心持ちになっていた艦娘達がぞろぞろと居た。
堪忍袋の緒が切れた艦娘1名が部屋の扉を乱暴にノックする。「隊長を見せろ」と扉をガンガンと握り拳で叩く。
・・・暫くすると、
会って見たかった彼の様相に、一同黙する。様変わりした『隊長』。別段、幻滅はしなかった。当然だと思った。彼の戦果はほぼ毎日届き、戦う艦娘達の心を鼓舞していた。
・・・だが、戦って失う物が在る。戦友である。
艦娘以外の戦友をほぼ全て失ったその『隊長』の後ろには、立ちはだかる敵の首を刈らんと剣を持って目を光らせる男達の幽霊が見え、彼を見ていた艦娘達を震え上がらせた。
そんな状態で「何だ?」と言う『隊長』の物言いに、榛名は辛うじて出た声で彼に「大丈夫ですか?」と話し掛けた。
「この通り、ピンピンしている」と彼は言い、余りの威圧感に榛名も含めた艦娘達はゆっくりと「そうですか」と言って会話は終わった。
『隊長』は榛名達へ話し掛けた後、そのまま直ぐに寝ていた部屋を後にしてしまった。
彼の側近の艦娘達が通る時、榛名達は側近への八つ当たりの怒りをぶつけた。
『貴方達が付いて居ながら守れなかったのか?』という思いを込めて。
『如何して分からなかったのか』という疑問を込めて。
『自分達も現場に居られれば良かったのに』という自責の念も込めて。
彼の側近達は、余りにも多くの視線とその怒りの様相に、体を震え上がらせながら彼の後を付いて行く。その内の1名が転倒。転倒したその艦娘は自責の念と周囲の視線に耐え切れず、頭と体が上手く動かない状態となってしまう。見かねた『隊長』が彼女を背負い、艦娘達の横を通り抜けて行った。
「私(榛名)が知っているのはこれ位です」
話を終えた榛名はこう言う。
「え?」と金剛は疑問符を口にする。まさか、もっと長話だと思ったのに、意外と早く終わってしまった事に納得がいかぬ表情になる。
金剛のその表情に、榛名は困った顔をする。
「この数日後、どうも、施設が爆破された様なんです。後に『隊長』のAIから、『施設全部が跡形も無くなっていた』と聞かされたので、施設に居た皆、死んでしまった様です。ですから、戦中の私は戦争中期前半で、完全に戦線離脱していたんです」
榛名の言に、茶会に参加しているもう1名の艦娘が『そんな事が在ったな』という表情で何度か頷く。
「確かに、その事件が有りました。その所為で第1次艦娘を、治療型艦娘含めて数多くを喪失。・・・犯人は、深海棲艦でした」
その言葉に、榛名は「大和。・・・やはり、人間に擬態されていましたか・・・」と口にする。
大和と言われた艦娘は榛名の言葉に頷く。
擬態服。深海棲艦が戦中に用いた物。人間や艦娘に化ける事が出来、深海棲艦とは思えなくなる程の完璧さ。
時には迷彩服を着ていて、深海棲艦が居るとは全く判らなかったという話もある。
それを用いて破壊工作を行う深海棲艦は、呆気無い程に、次々と戦争用の主力施設を破壊する。
艦娘建造施設、武器・弾薬の製造所、果ては作戦司令部までもが破壊された。追い詰めた主犯格はその
艦娘用の治療施設も爆破された1つ。収容されて居た艦娘達は、施設諸共、影も形も無かった・・・。
「『さあ、もう一度この星で戦うぞ!』と気合を入れて建造機から出てみれば、何と『隊長』が提督として目の前に居るんですから、感極まっちゃいましたよ・・・」
榛名がそう言うと、
「建造機から出て来た時、『
金剛が訳が分からない顔をして榛名に訊く。それに榛名は苦笑・『仕様が無い』という顔をする。
「・・・それは、まあ、・・・提督は私の事を覚えてないでしょうね」
「
金剛の問いに、榛名は遠い目をする。
「私が戦中に『隊長』と顔を合わせ、言葉を交わしたのは、その時だけ・・・ですから・・・」
たった一度の戦神との巡り会い。この星での彼との出会いは榛名にとって嬉しくもあり、又、双方共に戦場へ舞い戻ったという哀しみでもある。