飛行訓練している男は海面に映る自身の鎧姿を見る。
ふと、男は戦時中にこの装備を見た記憶が無い事に少しばかり驚いた。
「なあ、SP」
{なんでしょう?}
「君は何所で作られたんだ?」
その問いに{・・・}SPは喋らない。
「この様な鎧を着用した人は見た事が無かった。これは一体誰が作ったんだ?」
{・・・}SPはまだ喋らない。
「言えないのか?」
男の要望に応え、渋々と言った声音で{これを作ったのは、歩兵装備の第1人者です}と、SPは話す。
「この装備を作っていた人で最も初めの人、と言う意味か?」
{はい。AI無しの状態で第1次艦娘開発者が受領し、AIを入れたのがこのSPとなります}
「当時、普及していたAIが存在していたようだが?」
{・・・あのAIを普及させる前に本装備は作られました。そして、当装備にAIを導入したのは深海棲艦との戦争中の事です。『第1次艦娘の製造場所で敵が攻めて来た時には、これを持っているんだから使おう』という場面で使用出来ず、死体の山に埋もれていたのが私です}
「その現場に居た人達は、全員死んだのか?」
{・・・はい。全員が死にました。襲撃をした深海棲艦側も全滅、相打ちと成りました}
「君が・・・敵を倒した、と?」
{・・・私ではありません。私は自立行動を出来ません。相打ちの様に最後の敵を倒した後、その施設の生存者は生まれ立ての第1次艦娘が1名、その者のみとなりました}
「第1次、か・・・その第1次の名は?」
{五十鈴です。当時はもう、第1次艦娘の研究開発者や建造技術者が殺害され、同時に第3次艦娘の利便性に押されていました。第1次艦娘用の生き残っていた研究者達が最後の総力を挙げて作った、最後の結晶にして最高傑作。・・・その時には、製作者全員が活躍を見る事無く、この世から消えましたが・・・}
「五十鈴ねぇ・・・」
男は話しながら低空飛行を始める。徐々に着地の準備に入る。
男の眼前に映る景色は、障害物の無い、比較的平坦な場所。着地と同時に前転。スライディングの姿勢で地面を擦り、飛行していた時の速度を殺す。走れる速さになった所で体を起こし、全速力で走る。
ある程度走ると女性が1名走り込みをしていたので、隣まで走ると同じ速さで同行する。
「あら?・・・提督、訓練中?」
横に付かれた、ツインテールが特徴の艦娘が男に話し掛ける。胸を強調させながらも、別段、強調をしていないように見える服を着ている。
彼女は男が見慣れない装備を着用しており、パッと見ただけでは判断が付かなかった。だが、この島でこの装備を装着出来る者を思い出し、男へと話し掛ける。
「おはよう、五十鈴」
男は五十鈴へ手を上げて話し掛けた。五十鈴も手を上げて挨拶を返す。
「もう昼過ぎよ。それより、走り込みなら、私もご一緒して良いかしら?」
「ああ、五十鈴。今日は何周付いて来れるかな?」
「適度に終わらせるわ。今日はまだ、他の訓練もやりたいし。十二分に鍛錬を積んでから貴方を追い越すわ」
「ハハ、待っているよ」
「ええ。後9日で提督を越すよう、体を仕上げるわ!」
「・・・早いな・・・」
提督は五十鈴の張り切っている言葉に呆れた様子。
3日会わざれば刮目して見よ、という言葉が在る。
妖精が造る艦娘達の成長は目覚ましいもので、人を訓練するよりも早い実戦投入が可能になる。
男は何年も掛けて戦闘技術を実戦で積み、筋力と技術を磨いた。
それに対して、第3次艦娘の成長は早く、艦娘1名、90日後には深海棲艦を計100体倒すことも夢ではない。勿論、多勢に無勢では無理がある。艦隊を編成し、適材適所の位置へ送り込む必要はある。相性の良い敵へ対し、損害無しで帰投する事も夢ではない。
先ずは3日間、静止目標へと黙々と当てる訓練をする事になる。勿論、その艦娘が望むならば、気絶するまで続けさせる。この3日間の訓練を終えた艦娘は、戦場へ行くトリガーハッピーコースか、戦術や戦略を学ぶ座学コースにするかを選ぶ。艦娘達の2択の傾向は半々。重度の戦闘狂か、己を知り敵を知れば百戦危うからずと思って居るかが分かる。
先の2択以外、その他の選択肢を選ぶ艦娘も居る。艦娘10名中3名の割合。
「まあ、君達はそんなものか・・・」
男は長年の艦娘達を思い出し、独り言ちた。
「それより、新しい装備を見つけたのね?」
五十鈴の問いに「ああ、AIも違うぞ」と男は返答。
「へえ、・・・ん?、その眼鏡の形、何所かで見たような・・・」
{初めまして、五十鈴、私はSPです}
「よろしく。・・・その音声も何所かで聞いた事が在るような・・・。あっ、思い出した!」
少し考えた五十鈴が声を出す。
「私が建造された時に聞いた声だわ!」
{私は貴女とは初見ですよ?}
「あれぇ?、・・・そう?」予想が外れた五十鈴は間の抜けた声を出す。
{貴女は第1次ではなく、私の記録に在りませんので}
「・・・ああ、記録、ねえ・・・。私、生き返ってから記録の共有はもう出来ないし、如何しようも無いわね」
{生き返る事なんて在り得ません。この世はそのような世界です}
「う~ん、・・・確かにそうなんだけど。如何とも形容がし難い事柄ね・・・。まあ、良いか・・・」
五十鈴は「話変わって」と言い、男へと話し掛ける。
「提督、睦月が呼んでいるわよ。もう行った?」
「睦月が?」
「お詫びを言いたいとかって・・・」
「何かあったか?」
「さあ?。提督を見つけたら呼んでくれ、って言われただけで、五十鈴からは何とも・・・」
「そうか。今から行ってみるよ」
そう言って男は五十鈴と別れ、呼び主が居るであろう建物へと向かう。
・・・男を見送った五十鈴は何かに納得をしていた。
「あの形、・・・最初にこの世界へ現界した時、あの時見た眼鏡がアレだったわよねぇ・・・」