陽射しは傾き、晴天の日ならば、その日の最高気温を記録する時間帯。
妖精に連れられた大井は、今後自身が住む部屋へと案内される。
部屋の扉の前に止まった妖精は扉を叩く。扉の奥から「どうぞ」という声が聞こえ、妖精は扉を開ける。
その部屋は2段ベッドを2つ配置し、真ん中にテーブルと椅子が置いてある。掛け布団等の寝具は干していた様子で、今は1ヶ所に山積みされている。
中に居た艦娘2名は妖精の後ろに居る艦娘、大井を見て「おっ」という顔をする。
「・・・へえ、大井姉さんが着任したか」
「他の鎮守府だとほぼ居るって話だったよね。長かったねぇ・・・」
『木曾、敷波。彼女は少し訳有りだよ。でも、我々と一緒に戦ってくれるってさ』
木曾と敷波の呟きに、妖精はそう言うと大井へと口を開く。
『大井、君は彼女達ともう1名、計4名で一緒の部屋に住んでもらう。異論はあるかな?』
妖精の言葉に、大井は『異論無し』と首を動かした。
大井は木曾をまじまじと見つめる。
「んぅ?大井姉さん、如何かしたか?」木曾は首を傾げる。その様子に大井は落胆。
「貴女は、別の木曾、なのね・・・」
「・・・すまないな。俺は、この世界で姉さんと一緒に戦った経験は無い」
「そう」と言い、気を取り直した大井は木曾へと次の言葉を投げ掛ける。
「ねえ木曾。貴女の、この世界での、戦争体験を話してくれる?」
木曾は頷き、何の話をするか悩む。
「・・・俺とこの敷波、そして
深海棲艦との戦時中。陸戦時のとある場所。時は、ヒトと妖怪も含めた地上生物は深海棲艦という等身大の化け物を相手に後退の一途を辿っていた。
艦娘という戦力を投入したものの、深海棲艦へどの位の威力を用いれば倒せるかが分かっていなかった。
そして、艦娘用の兵器を作ったは良いが、当時の艦娘専用の武器威力を以ってして、倒せない存在が居た。
後に、オス、又はオス型と呼ばれた存在である。個体数が余り確認されず、戦時中の戦闘で、満足に戦える敵側のオス型は居なくなったとされる。当時最大火力の広範囲爆弾で(瀕死ではあるが)死ななかった事が確認され、人類、そして艦娘達は当時最高威力の剣でオス型を倒すしかなかった。所謂、オス型を零距離戦で倒すのである。
この星の現代に於ける剣。通常は筒状の物、ただの柄である。剣としての使用時、粒子状の剣を柄から発生させる。
剣で切れば、この星の如何に硬質な物体でも豆腐でも切っているかの様な感覚で、全てを両断する事が可能。
勿論、どんな深海棲艦でさえも。・・・肉弾戦の距離まで近付けるものならば・・・。
オス型1体を守る様にメス型が輪形陣を組み、オス型を守る。オス型の砲撃能力は、当時のメス型全てを上回り、艦娘を木っ端微塵にする程。艦娘や人の兵器の攻撃が当たれども、それをモノともしない様子で歩きだして反撃をして来る有様。艦娘でさえ、オス型の脅威に恐怖し、逃げ出したい気分。
しかしこの時の地上軍の状況は背水の陣。背を見せたら三途の川へ飛び込むようなものだった。オス型へと背を向けたら、己を含め絶滅必至。
人も、そして艦娘達も必死になってオス型を守護するメス型を倒し、近接武器で以ってオス型へと肉薄。しかし、その首を討ち捕れず敗北を記す戦闘が数多かった。
更にオス型が巨大化。そして
とある部隊、空飛ぶ歩兵百人と艦娘6隻で構成された部隊が在った。その艦娘の中には、木曾と敷波、イムヤが居た。
オス型を含む深海棲艦の部隊を発見。攻撃へと移るが、オス型が突如大きくなった。通常の45倍以上の大きさ。
「オス型が薬を服用した」との報告が有った後、直ぐに巨大化していたのだった。
オス型はメス型と共に、増援諸共に歩兵千人を殺し尽くし、艦娘から繰り出された攻撃手段を全て無効化した。
深海棲艦側も被害はあり、オス型に随伴して居たメス型は全滅。残りはオス型と艦娘6名なったのだが・・・。
オス型が砲撃。至近距離に着弾した弾丸の爆発で艦娘1名が蒸発、跡形も無くなる。艦娘の戦艦型が砲撃をするも、オス型の艤装が弾いて効果無し。その戦艦型もオス型の反撃に因って粉微塵となる。
後ろから近付いていた、特攻型の艦娘がオス型の足へと剣を振るう。足を切り払われたオス型は背中から地面へ着く。オス型は直ぐ様剣を持った艦娘の胴を手で掴み、握り潰そうとする。・・・が、その艦娘は突然熔解した。死を覚悟した、自己犠牲技であった。艦娘を握った手は融ける。オス型は雄叫びを上げ、残る木曾達へと怒りの矛を向ける。
あの時、3名は死を覚悟。気配を消したのに、隠密行動でオス型が安心・油断したところへ止めを刺す役割だったのに気付かれた。オス型の察知能力は凄まじかった。自分達艦娘ではオス型に勝てなかったと、木曾達は絶望した。
「あの時に、俺はもう死ぬと思ったんだがな。延命出来た」
木曾は懐かしむ様に話す。敷波も遠い目をして昔を思い出している様子。
「延命?・・・今生きて居るじゃない?」
「俺、俺達は一度死んでる様なものだ。この星でどれだけの同型が如何なのかは知らないが、・・・今は妖精様々だな」
「・・・まあ・・・そこは置いといて、で?、延命出来たって?」
木曾達は自分達の死を覚悟した後、オス型が木曾達から視線を外し、空を見上げて対空弾を撃ち始めた。
木曾達もその方向を見ると、新たに空飛ぶ歩兵が2名、オス型の繰り出す対空弾を避けて肉薄し始めていた。
オス型は焦った様子で、自身の機銃を撃ちまくり、対空弾を繰り出す。・・・が、その弾幕の雨あられをものともせず、尚も歩兵が迫り、手には剣を持ってオス型へと最接近。1人が剣を振りかぶり、オス型へと振り下ろすがオス型は避ける。避けたオス型はその歩兵を腕を振って歩兵1名を水平にはたき、遠くへと吹き飛ばす。
しかし、もう1人の存在を見失ったオス型は、背後から自身の心の臓に剣を突きさされる事を許した。
野太い悲鳴を上げ、肺から息を出し切ったオス型はゆっくりとうつ伏せになって倒れ、動かなくなった。絶命。
地形の影響で艦娘達からは、倒れたオス型と、剣を突き刺した者の姿が見えなくなった。
吹き飛ばされていた者は、かなり遠方へ行って居たが、空中で姿勢を制御し戻って来る。オス型が斃れた所へ着地すると「衛生兵!エーセーヘー!!!」と叫び声を上げ始める。
木曾達3名はその声で自分達がまだ生きて動けると実感。歩兵の着用する装備から出る救難信号を頼りに彼等の元へ向かう。
・・・そして、
『止血剤を、止血剤をくれ!!』
木曾達の目の前には、オス型の機銃に因って体に穴が開いた仲間を必死に助けようとする歩兵の姿だった。
木曾達は持っていた注射薬を1つ、死にそうな彼へと打つ。
{今のは鎮痛剤です}歩兵の鎧に付属のAIが言う。
「すまない。止血剤は無いんだ」と返す。
{増血剤は?}という問いに木曾達は「無い」と言い、瀕死の彼は死ぬ事が確定。
彼の容体からして、飛んで行く事は出来ない。かといって徒歩で行こうものなら、そこまで体力が持たない。
『ヒヨッコ。・・・もう、良い・・・』
『隊長・・・』
隊長の生き絶え絶えの発言に、隊員は涙声で隊長を呼ぶ。
『まだ戦えると思ったが、俺はここまでの様だな。・・・俺は強かったが、貴様よりも生存能力が低かった。・・・ヒヨッコ。今から、貴様が隊長だ』
『そんな、俺はまだ、90日で隊長なんか・・・』
『指揮なんか、AIがやってくれる。ヒヨッコ、貴様は今や、俺に次ぐ撃墜王だ。これからは、貴様が撃墜王になるんだろうな。・・・貴様は、何処まで生き残れるんだろうな?』
『・・・どこまでも、生き抜いて見せますとも・・・』
『・・・ふっ、羨ましい台詞だ。・・・地上に住む者達の未来を、頼んだぞ?』
『・・・この命、尽きるまで・・・!!!』
『ハッ、・・・気負い・・・過ぎ・・・だ・・・・・・』
『・・・隊長・・・』
隊長の死と共に装備は消えた。生身になった隊長の体には、機銃で撃たれた跡が幾つも在り、よくぞそれでオス型を討つまで体が持ったと言える程であった。
隊長と呼ばれた方は死に、ヒヨッコと呼ばれた方は生きた。
ヒヨッコ。その時に彼の顔を見る事は出来なかったが、当鎮守府の提督の声だったと木曾は記憶している。
敷波も「当鎮守府の提督の声だった」と言う。イムヤへこの話をすれば、彼女もそう言うだろうとの事。
「長かったかな?要約すれば、当時、オス型というのが居て、それを昔の俺達艦娘
「ん?、待って。木曾達の戦闘中、メス型が居たって言ったわよね?それらは如何やって倒したの?」
その質問に、敷波が答える。
「そいつ等はあたし達艦娘が倒したの。オスだって、当時、艦娘が倒した事は有るんだけど・・・それには多大な犠牲を払ったよ。オス型1体を倒す為、その戦闘に参加した512隻中448隻が通信途絶、戦闘中行方不明扱い。その後、全く見つかってないよ。・・・オスを倒すには、艦娘がメス型を蹴散らし、決死隊である歩兵が必要だった。・・・適材適所だったの・・・」
「ヒト・艦娘、共に多大な犠牲を払いながらも深海棲艦を倒し、地上から海へと追い払った。・・・追い払ったとは言えど、工作員が破壊活動をしていたそうだ。その活動が無くなるまで、約2年掛かった。戦争から約5年が経過。その時には、100億居た人間の人口が、2億を下回っていたそうだ」
・・・木曾達が沈黙する。
「・・・で?」
大井の問いに「え?」と木曾は問う。
「続き等は?」と大井は木曾と敷波の両者を見ながら、先を促す。しかし、木曾は肩を
「俺と敷波は、戦時中の事をこれ以上は知らないんだ。ついでに、イムヤもこれ以上を知らない。彼女は俺達より90日早く戦闘中戦死になったしな・・・。この後の事を知っているのは、ここの提督、睦月、加賀、鳳翔、長良、北上。後は・・・五十鈴と金剛だったかな?」
「本当は生き証人の提督か・・・睦月、
「ハハッ。あいつ、提督へちょっかいを掛けて謹慎の処分貰って、部屋で暇を持て余してるんだったな」
「ちょっかい?」
「『いや~ん、足を挫いちゃいました(はぁと)』とか言って提督の背中に、おんぶされてたんだよ。当人は焦りながらも嬉しい様子だったかなー?」
「アレは焦っていたのか?提督の胸の方に回した手で、提督の胸を撫で繰り回していたが・・・」
「・・・前言撤回。羨ましい・・・」
「まあ、提督の方は嫌な顔はしていなかったな。そのまま走り込みをしていたし・・・」
「提督は戦時中の生き残りに好かれているのを理解したみたいだよ。大勢に注目されるのは、流石に恥ずかしいみたいだけど・・・」
「そうかそれで、さっき言った、如月を背負った走り込みが全速力に近かったのか。急いで明石の所へ駆け込んだ様な感じだったしな・・・」
「ええぇ・・・。駆逐型の艦娘とは言え、如月を担いで?提督、体力落ちてないのかな?」
「まだ、年取った事を感じさせないな。俺達が艤装を展開させたままだと、流石に動きが鈍くなるな」
「ああ、それが理由で行動が遅く見えただけなのかぁ・・・」
「提督は今が全盛期なのでは?」
「・・・ああ、提督がヒトデナシだって忘れてた・・・」
「大丈夫だ。一物はちゃんと人間と同じ位置に付いてる」
木曾の言い様に敷波は顔を赤らめて「木曾のヘンタイ・・・」と口にする。
「お?何だ?近くに行くと、いつも背面座位をして貰えるクセに?」
「五月蝿いやい。あたし、子供としか見て貰えてないんだよ?!」
「・・・奥さんは敷波以外、っとな・・・」
「えぇい!!」敷波が茶々を入れた木曾の泣き所へ蹴りを入れる。
「
木曾は痛みでピョンピョンと跳ね始めた。
その様子を大井は羨ましい様な表情で見る。
「木曾達は随分と提督を好いているみたいね?」
大井は木曾を見ながら問い、蹴られた痛みから立ち直った木曾は頷く。
「戦友であり、家族だ。俺達と身近に居た中で、たった1人生き残った、艦娘ではない存在の、な」
「先程話をしてくれた中で、もう最後の1人になったの?」
大井の問いへ木曾は否定する様に首を振る。
「さっきのは戦時中の初期の話。その時はまだ、補充要員の利く時だった。しかし、艦娘の建造が本格稼働すると、人の兵士は減少の一途を辿った」
「艦娘が戦場に立って居れば良い、という事だった?」
大井の出した答えに木曽達は否定。
「それは違う。先程のオス型の話で、艦娘だけで戦っては損失が多過ぎる。現在が深海棲艦の星となっていただろうよ。オス型の発見報告が無くなる迄、ヒトの兵士は俺達艦娘と共に戦っていたからな」
「当時のあの装備で戦場の空を駆けていた人達は、あの時のあたし(艦娘)達にとって、空の神兵だった。でも・・・最終的には、ここの提督を除いて戦場に立つ男性は居なくなったよ」
「戦後、俺達を怪獣と揶揄する人達が居たよ。伝聞だがな」と木曾はまた語る。
艦娘は怪獣。元は人々が深海棲艦を指して言っていた言葉。オス型が戦場から姿を消した後で、メス型と対等に戦える艦娘を畏れた心情から出た台詞。艦娘を恐れ、いつしか人々は艦娘から遠ざかった。
後に、ヒトの住む内地に居た1隻の艦娘は、偶然出会えた『戦争を生き延びた男性』にこんな台詞を言われたと語っている。
【部隊の男が自分1人だけ生存した中で、生き残った艦娘達は涙を流しながら俺に抱き着いて来た。だが、俺は抱き着いて来た彼女を直ぐさま振り解いて、その生き残った艦娘達を見る。その部隊の艦娘9割超が生きて居たではないか。その時、俺は彼女達が怖くなって逃げてしまった。『待って、ありがとう。貴方達が居なければ・・・!!』と言う制止を振り切り、人々が新たな生活を育んで居る所まで来て、俺は戦争と彼女達の事を忘れようと今を生きて居る。・・・君は、如何してここに居るんだ?手や足が無いから戦えない?嘘だ。君達はどんな状況でも深海棲艦と戦える傑物であり、怪物だ。深海棲艦との戦争は終わってないという話じゃないか。今度は君達が深海棲艦なのか?】
陸戦を生き延び、装備を捨てたヒトの兵士の1人、当時の彼女と一緒に戦った事の有る男性にそう言われる。
その後、彼女は逃げる様にして海へと走り出す。荒れた地にぺんぺん草の生えた平野を走り続け、やがて水平線に海原が見え始める。海辺へと着いた艦娘は座ると、足を抱えて暫くじっとして居た。
『こちら元副隊長、応答願う。こちら元副隊長、応答願う。・・・聞こえてる?』
懐かしい声の無線を聞き、顔を上げた彼女は自身の無線回線を開き、通信をして来た者との会話を行う。
(元の肩書きが付いた)副隊長は彼女へ『我々の元へ来ないか』との打診をし、それを了承。彼女は導きの元、提督の元へと来たのだった。
「俺と敷波で戦争の事を教えられるのは、この辺まで・・・かな?」
「あたし達は海戦が始まってから、敵と戦えるだけ戦って、戦争中期で居なくなったからね」
「その時は、どんな様子だったの?」
「ああ、オス型が戦線に居たんだ。この時、深海棲艦の大拠点を発見し、陥落させる事に必死でな。巨大化をして、俺達を撃って来た。俺と敷波は突撃兵兼陽動として突進中、敵弾幕に晒され続け、心臓部が無くなった。最後に見えた光景は、隊長・・・提督がオスへ超遠距離砲を放ち、オスを一撃の下に上半身を消し飛ばした光景だったな」
攻める方は守る方の3倍は戦力が必要、という言葉が在る。
度重なる戦闘。度重なる勝利。深海棲艦の優位は無いと見做される。
これまで、飛行場1つの整備をすれば面積がほぼ無くなるような島を維持するので精一杯だった。それが、その時、飛行場を複数整備出来る島を占領せよ、という命令が本部より下る。最後の歩兵となる男2名と艦娘48隻+8隻を動員して勝利・占領すること。
その時の作戦参謀は悩み、打診する。これではまだ戦力が足りないと。もっと増援を欲しいと。
しかし、深海棲艦との戦いは4年以上経過。人々は海戦になってから連日の勝利報告に沸き、安心しきっていた。艦娘は強い。艦娘達は強い。それが誤解を生んだ。誤解は敵の過小評価、そして味方戦力の過大評価。更には正攻法の正面突破で占領出来ると思われた。
そのまま当日の作戦日へと相成り、戦闘開始。
人間達の支援は艦娘達を輸送機に乗せ、作戦域近くへ運ぶ片道切符のみ。
いざ戦闘になると、巨大化しなくても強いオス型が居た事により、艦娘側の優位が失われる。更に、歩兵の数が足りない事に因る、オス型という脅威の排除が出来なかった。オス型へ近付こうにも、メス型と敵機の決死の抵抗により、困難を極めた。
その戦場は、深海棲艦優位の状況。艦娘達は制空権を確保出来ず、弾幕の嵐に一向に前進出来ない。戦線は上がらず、遮蔽物無しの海上で艦娘の損失が3割を超える。
木曾達の艦隊は敵の対潜航空機が飛来し、爆雷を投下。爆雷に因ってイムヤが撃沈。正に一瞬の出来事。
『作戦を終了する。撤退せよ。・・・繰り返す。作戦は終了。撤退せよ』
・・・撤退。本部からその通達が来たのは、イムヤが被弾・撃沈されて間もなくの事だった。
殿を高機動型の艦娘に任せ、敵機へ弾幕を張り、作戦海域を出る。その間にも艦娘が次々に撃沈され、海中へと没して行った。
敵は必要以上に追って来なかった。・・・理由は、空飛ぶ人型が艦娘達の上空を飛んで居たから。この時になっても、空飛ぶ人型を全て撃墜出来なかったからだった。
生還した艦娘は9隻+7隻。
本部は困惑した。深海棲艦達を陸から叩き出してから、艦娘達がこんなに倒された事は無かった。
本部へヒト達の非難が殺到。『こんな筈では無かった』と弁明するも時既に遅し。本部の機能は別組織、大本営へと吸収される。
深海棲艦達は恐怖していた。人とヒトを、そして艦娘を。対艦娘達との戦闘で敗戦続きだったというのもある。
だが、艦娘以上に、空飛ぶ人型が恐ろしかった。
『金色の盾を持つ人型を見たら、大勢居るなら弾幕で近寄らせるな。居ないなら急いで逃げろ。さもなければ、死ぬと思え』
たった1名の空飛ぶ人型を倒せず、撃退して死地から生還したオス型が言った言葉の通りだった。
事実、深海棲艦側が守り切ったこの1戦だけで、深海棲艦達は現地で飼っていた愛玩動物(イ級や航空戦の要となる生物)の大多数を喪失。特に空中で戦っていた愛玩動物達は、たった2名の空飛ぶ人型に殆どが倒され、海の藻屑となった。
人型を粉微塵にする事叶わず、3ヶ月後にもう1度艦娘達が来た。今度こそ奪取する為に、艦娘120隻+7隻を派遣。前回のほぼ3倍の戦力で迫り来たのだった。
『取られてなるものか』とオス型は、メス型の制止を振り切り、巨大化薬を飲み干した。オス型は巨大化。艦娘達を蹂躙し始める。
・・・しかし、戦争から4年以上の歳月は艦娘達へ対オス型戦を容易にする為の切り札を作り得た。
空飛ぶ人型用の念願の新兵器、充填式
木曾と敷波の体は、オスが斃れた事への賛辞の声を上げようとするも、砲弾に因って心臓部を喪失していた。身体の活動停止間際。持てる魚雷全てを見える標的全てに発射。別れの言葉を言いつつ、2名共に敵弾に被弾し四散。吹き飛んだ体の一部は海へと沈んだ。
オスが居なくなった深海棲艦側は脆い。1体、又1体と死体の山を築き上げていった。勿論、爆発四散し、死体も残らなかった者も居る。最終的には、深海棲艦側は守っていた島を放棄。海へと飛び込み、逃走したのだった。
「最後の部分は後で聞いた事の顛末だ。俺達は、実際には見てない」
「艦娘側が占領したけれど、最終的には艦娘側も放棄したってさ」
「その島には、深海棲艦が又占領して居るってこと?」
「いや、居ない。定期的に偵察活動を行っていて、敵性反応は約1年前の時点では無い。との情報だ」
「今は?」大井は今現在の状態を聞きたいのだが、木曾はお手上げだという仕草をする。
「生憎、当鎮守府は外部との接触が約1年間殆ど無かったんだ。今また報告が入り始めている所だよ」
木曾がそう言ったところで、放送が入る。
『午後の訓練開始まで後15分。要訓練者と希望者は練習場へ集合せよ。希望者は多い場合、抽選・又は訓練担当の許可制とする。繰り返す・・・』
「もう、そんな時間か。長話になってしまったな」
「木曾達は訓練をするの?」大井は訊くが、木曾達は否定。
「今は周辺海域の制海権確保の為、訓練用の物資生産を満足に行えないんだ」
「希望者は兎も角・・・要訓練者って誰か居たっけ?」
『先程、朝潮が建造機から顕現しました』経過を見守って居た妖精が喋る。それに木曾と敷波は首を傾げる。
「朝潮か。・・・生真面目が出たもんだな」
「第1次には居なかったし、何処かで提督との
敷波の言葉に木曾は「さあ、な」と返す。
『ところで大井。貴女は訓練に参加しますか?』
「参加しようかしら・・・」
『では、私と一緒に行きましょう』
「ええ、お願いするわ」大井は妖精に連れられ、部屋を出て行く。
『行ってらっしゃい』木曾と敷波は声を合わせて大井を見送る。
大井が出て行った後、木曾が敷波へと問う。
「敷波。姉さんを、大井を如何思う?」
「分からないよ。第1次じゃ無いから」
「あの戦争を何も知らぬ様子だったし、・・・妖精の言う通り、過去の遺物で在るんだろうか?」
「この鎮守府の睦月の様な底知れぬ力。超人ならぬ超艦娘だね」
「俺達も魔改造して貰えば、あの大井姉さんみたいに至れるんだろうか?」
「本部へ追加の物資補給が必要で、あたし達と提督の給料、最悪全部吹っ飛ばすかもよ?」
「睦月に怒られるか。・・・止めた。・・・さて、軽く汗でも流すか」
「お、自主訓練なら手伝うよ? 走り込み?」
「ああ、頼むよ。・・・さて、イムヤ、バレたか?」
木曾がそう言うと、寝具の布団が積み重なった一番下からぬるりと、イムヤと呼ばれた女性が顔を出す。
「ええ、私にも意識を向けていたわ。オス型以上の索敵能力と思って良いかもね」
イムヤはそう言い、「もし彼女が敵だったら、提督と睦月だけが頼みの綱ね」と付け足す。
「この鎮守府、唯一の希望の星・・・か・・・」
「今の所、睦月が止められるか如何か・・・」
木曾達は、いざ、大井が暴走した時に止められるかどうかが不安だった。
『ああ、その事ですけど、提督は新しい装備を手に入れましたよ』
妖精のその言葉に、3名は嘆息。
「又、頼りにしてしまうのかもな・・・」
木曾は今後の男の無事を祈った。