陽は傾き、もうそろそろで陽射しが暗くなりそうな時間帯。まだ陽射しは明るく降り注いでいる。
妖精に連れられた大井は、訓練場へと来る。大井の他にも訓練をする者は居り、妖精の指示によって、教官を待っている。
1名、駆逐艦型の艦娘が微笑しながらも超弩級戦艦並みの威光を効かせて、やって来た。
訓練を行おうとする面々は、数名を除き、緊張した面持ちでその艦娘へと姿勢を正す。
「本日の訓練教官を務めることになった睦月です。今日の初めは、的当てです。当鎮守府は現在、訓練用の弾が不足しています。なので、初めは実弾で的を撃ってください。勿論壊して良いです。・・・始め!」
『了解!』
各々が散らばり、標的へと向かい合う。
この星では、艦娘は人の姿のままで戦う。勿論、深海棲艦も同じだ。
艦娘と深海棲艦は、人の様な身で在りながら、艦砲と同等以上の威力を撃ち出して戦っている。
艦娘は顕現直後は、艦で在ったという特性上、人型で戦う事に慣れていない。その為、修練が必要になる。
慣れてしまえば即戦力として徴用・重用される。現状、艦娘が最も、深海棲艦との戦闘に、適している為である。
訓練している艦娘達を見てみよう。
・・・海上へと置かれた的へと撃つが、なかなか当たらない。
それもその筈、その体
こうして訓練をする事で現在の健康状態の確認と共に、自身の癖を掴んでいく。
千里の道も1歩から。・・・しかし、艦娘は、9里の道も1歩からに短縮出来る。艦娘は将来を約束された戦闘特化の人型生物なのである。
その訓練者の中に大井が混じって居た。
「体、鈍っているのかしらねぇ?」
そう呟きながら、大井は愛用の単装砲を的へと照準を合わせ、
・・・突如轟音が鳴り響き、大井の狙った的が粉微塵となった。
『キャー!!』
隣に居た駆逐艦級の艦娘(朝潮)が発砲時の爆風で吹き飛んだ。朝潮の隣に居た艦娘が飛んで来た朝潮を抱き留める。朝潮が吹き飛んだ時の力が強く、足が浮いてしまう。抱き留めた艦娘は足が浮いた後、9歩分飛んだ後、尻から着地。尻餅を着く。
「あ、朝潮?!大丈夫!!」
「・・・ほぁ~~~・・・」
朝潮を抱き留めた艦娘が彼女へ声を掛けるが、朝潮は放心してしまっていた。
他の一緒に的を狙っていた艦娘達が驚いた。自分達の物ではあんな威力ではなかった。
全員が呆気に取られた表情で大井を見たが、睦月のひと睨みで、慌てて自身の訓練に戻った。
(私がもう1人現れてくれた)
睦月は大井を見て、確信した。彼女は心の中で歓喜の声を上げていた。
朝潮から離れた艦娘は尻を
朝潮の方は怪我は無いがまだ放心している様子。
「だ、大丈夫?!」
心配した大井が声を掛け、駆け寄ろうとするが、
「す、すみません!。足の踏ん張りが足りませんでした!」
ハッと気付いた朝潮は急いで立ち上がり、大井に謝った後、急いで元の場所へ行き、訓練へと戻る。
「単独訓練でないと、周囲に迷惑ね・・・。如何しようかしら?」
大井が大いに困った様子でその場に佇む。その大井へ睦月が近寄って来る。
「今はこれを使いと良いです。それよりも威力が抑えられていますぞよ?」
睦月がおちゃらけながら、武器を1つ、大井へ見せた。
「最新型で再装填が楽になった物です。ええと・・・」
「大井よ」
「大井、貴女の持っているその旧式もあるにはありますが、・・・そっちにしますか?」
「・・・私が今使っている物と、同じ形の物をお願い」
睦月は頷き、妖精に指示を出した。妖精は首を傾げながら武器庫のある建物へと向かって行く。暫くして妖精が大井が持っている物と同じ形の物を持って来た。
『本当にこれで良いのですか?装備更新して新しい物の方が、慣れれば使い勝手は格段に良いですよ?』
「長く使い過ぎて、同型が一番良いのよ」
『・・・貴女がそう言うならば問題は無いです。構造が簡潔で、整備が楽で助かりますし』
「整備、か・・・そう言えば私のこれ、点検して貰って良い?」
妖精は頷く。大井は元々持っていた艤装を妖精に渡す。
手渡された妖精はその艤装に乗った想いを、思念を読み込んだ。
恒星からの光が燦々と差し込む。その中で海岸近くに在る城を破壊する怪獣。その光景の中、水平線の向こうから、大井を含めた艦娘達が城を破壊した怪獣へと自身の持った艤装の砲口を向け怪獣へと砲撃。
体へと直撃した怪獣が痛みによがり狂う。怒った怪獣が口から光線の様な息を吐き、艦娘達へと攻撃。直撃を受けた艦娘が爆発、その艦娘は自身の艤装全てを溶かされ、最後まで光線が当たっていた手足が徐々に消滅、海面へと倒れた。
大井やその他の艦娘は怪獣に対して尚も攻撃を行う。攻撃を浴びせ続けた怪獣の動きが徐々に鈍くなると共に、怪獣の攻撃を受けて艦娘達は徐々に戦闘可能な艦娘達を失っていく。
艦娘達の砲撃・銃撃を受け続けた怪獣は、やがてゆっくりと、大きな地響きを立て、その巨体を地面へと横たえた。絶命。
海上には死屍累々。倒れた艦娘達の残った体は光の粒子と消え、空へと没して行った。
・・・その時、海上に立って居たのは大井だけであった。彼女は近くに浮かんで倒れていた1名の艦娘を担ぎ上げる。その他を探すが見当たらず、諦め、担いだ大井は水平線の向こうに在る自分達の家へと帰還の途に着く。
『大井姉さん。・・・俺は、俺達はもう駄目だ。捨て置いて、行ってくれ』
担がれた艦娘が大井へと言う。彼女の息は荒く、家に帰る迄には死ぬであろう状態。
『馬鹿言わないで!この日まで、折角怪獣を全滅させた今日まで生きて居る貴女を、・・・せめて貴女だけでも連れ帰るわ!!』
『姉さん。俺達はこの世界・この時代に生きて居てはいけないんだ。この星に住む者達の脅威が居なくなった今、俺達は人類同士の殺し合いに参加させられるか、今度は俺達があの化け物達の扱いを受ける』
『だから何よ!?私達は生物として生きてる。私だって恋がしたい。人並みの生活がしてみたい。私は、私は諦めないわ!!』
『・・・俺だってなあ、・・・俺だってしたいさ!!・・・だが、この剣と弓の時代で、俺達は未来過ぎる。生まれる時代を間違えたんだよ。・・・なぁ?』
『・・・私は・・・私は諦めないわ。せめて、貴女だけでも生きて、家族として暮らしましょう? もしかしたら、父さんが何とかしてくれるかもよ?』
『・・・ふっ、父さん、か。・・・ふふっ、やってくれそうだな・・・』
父さん。彼女等の父なら何とかしてくれる。そう思える人だった。
だが・・・
『でしょう?』
『姉さんの往く道に、幸あらん事を、祈ってるよ・・・』
『勿論、貴女も一緒に・・・!』
『姉さん。俺の・・・この時代に生まれた俺達の幸せ全てを・・・頼んだぜ!!』
大井に担がれていた艦娘が光り輝き粒子状になる。その粒子は大井の艤装へと入り込んで行った。
・・・・・・大井は帰路を進み続ける。
『・・・私だけに・・・しないでよ・・・』
背中が軽くなった大井は、重い足取りで進む。
夕陽が沈み行く。その黄金の様に輝く夕陽を前にし、帰り行く大井の顔。その瞳から、光り輝く涙が海面へと落ちて行った。
日は没し、大井の帰りを待っていた男性と女性が居た。
『オオイ。お帰り』2人共に、大井へと労いの声を掛ける。
『・・・あの、ね。・・・他の皆は』大井は言おうとするが、それを男性は身振りで制止させる。
『さあ!食事にしましょう!腕によりを掛けて作ったのよ!』
女性は気丈に振る舞い、大井を含め3名で家の中へと入る。美味しそうな食事の匂い。厨房では、今食事をしようとする者達の倍以上の料理を用意していた。
大井を含め、努めて明るく振る舞う全員の一家団欒の中、皆は食べ切れない量の食事を明日へと持ち越す。
その日の寝静まった夜、大井は自分以外の
その声の主は、大井達の帰りを待って居た、男性と女性。
『ありがとう、ありがとう。・・・さようなら・・・』
『私達、これで、・・・本当にこれで、もう、死に目を見るのは自分達だけなのよね?』
『その筈だ。・・・いや、勿論だとも・・・!』
男女、夫婦は涙声で互いを慰め合う。一緒に苦楽を共にした者達が没した事を悼み、居なくなった事を嘆いていた。
大井は更に涙する。自分達を家族と思い、家族として迎え入れてくれ、戦いの中で犠牲となった自分達の事を想ってくれた者達への感謝の涙を流した。
大井の声に、家族の子供が1名、目を覚ましてしまう。うっすらと目を開け、大井を見て話し掛ける。
『オオイ姉ちゃん。如何したの?』
『何でも無い。何でも無いわ』
『・・・ねえ、大井姉ちゃん。--姉ちゃんや、--姉ちゃんは何時帰って来るのかな?』
その子の問いに、大井は言葉が詰まる。だが、戦いの終わった後に思い浮かべていた光景を想い、口にする。
『・・・彼女達はね。・・・嫁ぎに行ったのよ。遠い所へ、お嫁さんに成りに行ったの』
『へえ、あんな男勝りの姉さんが嫁ぎに行ったんだ!?・・・あれ、オオイ姉さん、結婚に失敗したの?』
『・・・馬鹿・・・早く寝なさいな』
大井は、泣き笑いをしながら、その子へ軽く拳骨を落とした。その子は大井へと笑みを浮かべながら、又眠りに就く。
大井から艤装を手渡されていた妖精は涙を流す。
「ど、如何したの?」
心配した大井が声を掛けるが、
『・・・この艤装、大事にされて来たんですね。末永く使ってやってください』
「被弾した時如何するの?」
『この艤装に傷なんか付きません。彼女達が守ってくれますから・・・』
妖精は大井に渡された艤装を返す。
「・・・そう」
大井は返された自身の艤装を見つめていたのだった。
大井が的を破壊した光景を見て、朝潮が興奮していたのだった。
「わ、私もあんな風な威力が出るのかな?」
スチャ、ドン! ドゴォッ!(朝潮が狙った的へ命中。穴が開いた程度)
「私の持てる兵装だとこの程度なのかな?・・・巡洋艦級以上だとあの威力が出る、・・・なのかなぁ?」
チラッ、と朝潮は隣を見る。そこには(おかっぱ頭に近い)ショートヘアの軽巡洋艦級が的へと砲口を向けている。
ドン!! ドグォッ!!(命中。もう少し大きい穴が開いて、穴の周りに亀裂が入った程度)
「・・・あるぇー?」
朝潮は首を、腰も一緒に、傾げた。