鎮守府の夜。闇は深まり、時計は深夜帯の時間を指し示す。
深海棲艦との戦いは続いている。
鎮守府への襲撃は稀によくある事。どちらにも受け取れない、この言葉が当てはまる。
全く襲撃を受けないような場所も在れば、何度も襲撃を受け、壊滅した場所も存在する。大抵は艦娘と拠点防衛用兵器が配置されている為にさして問題は無いが、大群で来られた場合には援軍が必要になったりもする。
男が住み込みで働く鎮守府は孤島。防衛の為の設備は輸送の都合上殆ど無い。しかし、艦娘が多く居る為に襲撃の対処は比較的容易となっている。
男の住む島へ、深海棲艦による襲撃はほぼ無い。それには理由が在るが、それはこの島に居る男と艦娘達の功績である。時に喜び、時には涙を流した事もある。苦楽を共にした仲間達が殆んどな、寄り合い鎮守府。
苦難を乗り越えたからこそ、その代償も又ある訳で・・・
「ああぁーーー!!!!!」
・・・今日は男の叫び声が聞こえる。
睡眠時、夢を見る事がある。夢を見るというのは、浅い眠りの時である場合が多い。夢には思わず現実の自分が叫ぶような夢がある。
うなされていた男は先程叫んだ後、思わず上体を起こして起きる。自分が叫んだ事で起きてしまったのが分かったし、眠る事を阻害する夢であったからだ。
{て、提督。・・・大丈夫ですか?}
SPが心配するが、男はSPへ
{ですが、尋常ではありませんでしたよ?}
「戦争を生き抜いて、まだ、生きいるからな。・・・そろそろ、お迎えでも来るかな?・・・」
男の言葉に、SPが{縁起でも無い・・・}と諭す。だが、男は真剣な表情だ。
男は『自分は何時死んでもおかしくない』と戦い続け、今だに生きている。
男は助けようと手を掴んだその者が、手だけを残して消えた経験が在る。ついさっき見たのは、そのような夢。助けられなかった事を悔やむ。何度も、何度も救えない。目の前で仲間の体全身が蒸発する地獄の戦場の中、硝煙と血の匂いでむせ、心が冷えた。敵は幾万、幾億。自身だけでは限界があった。限界は知れども、割り切れなかった。その記憶が男の心を今も蝕む。
最近は睡眠導入剤を入手出来るようになり、それを服用して寝ている。それでも寝付けない時は今回の様に起きてしまう。生物の基本的本能である、種の保存欲求。性交渉をすれば、快感に身を任せた疲れの中で
一番の問題は男の深層心理。理知的な生物という存在は、考えている事と行動が全く伴わない場合が在る事。
昔、彼はこれに因って死にそうになった。・・・が、もう何かの切欠があれば払拭する事が出来る事柄である。
『司令官。私、今日が誕生日なの。・・・子種の贈り物が、欲しいなぁ~・・・ねっ!(はぁと)』
今日も彼女からの猛烈な誘いをサササと躱している。その他からも熱い視線を自身へ当てられているのは男も凡そ理解している。流石に付き合いの短い者から『好きです、どうぞ突いてください』と言われて突っ込むような、色を好む性格はしていない。幸い(?)、この鎮守府の中であれば全員が『バッチ来い!!』の気持ち。男か艦娘、どちらかの行動さえあれば万事解決である。
「まさかオスとの激戦を夢に見るとはな」
男は、夢を見て出ていた、冷や汗を拭う。
{オス・・・怪獣とも言える大きさまで巨大化し、たったの1体を倒すだけでも、最低1個師団以上を投入したという話の、あのオス型・・・ですか?}
「メス型が随伴して居れば1個師団以上が損耗するものだったよ。巨大化したオスは、とてもでは無い程に、相手をする事はしたくなかった。だが放置した結果、オスの榴弾の
{私も覚えています。思わず耳を疑う程でした。昨日まで連絡が取れていた研究所からの定時連絡が無くなり、偵察用人工衛星で見ると、その研究所は更地になっていたんですから・・・}
「人工衛星か・・・今も残っているのか?」
{・・・む?・・・衛星からの応答が無い?・・・変ですね。深海棲艦との戦争直前に偵察衛星を1基打ち上げており、それ位はまだ耐用年数範囲内で稼働している筈なのですが・・・}
SPのその答えに、男は「してやられた」という顔をする。
「破壊されていた、かぁ~。・・・つくづく、奴等は邪魔をしてくれたな」
男はそう言って溜め息を吐いた。
{一体全体、何があったのですか?}
「・・・深海棲艦との戦争中に、邪魔が入ったと言うべきかな? 知らないならば、それで良い事だ。奴等との戦いは全て終わった。艦娘という存在を甘く見た結果、手痛いしっぺ返しを食らって自滅しただけだ」
この星には宇宙人が居座っており、人間と深海棲艦との戦争では人間側に味方していた。しかし、艦娘と深海棲艦には無力であり、この星の宇宙人は深海棲艦に因って、約9割が戦争の中で命を散らした。
・・・その戦争が終われば、各々が私欲か他欲の為に動き始めた。
それが鎮守府間の対立に発展。
『他の鎮守府は深海棲艦と戦う事だけをしているのだろうか、いや違うだろう』
深海棲艦と戦いながら、余力を他鎮守府の諜報活動へと向ける。
・・・艦娘と深海棲艦の方が余程厄介な存在なのに・・・
{・・・この星の宇宙空間近辺に何か居るという可能性は?}
「無い。全て討ち払ったそうだ。・・・しかし、やられたな。我々は遥か上空からの偵察支援が受けられなくなっていたのだな・・・」
{現代戦が、近代戦になった。・・・他の星では、今の状態が現代戦という事もありそうですが・・・}
「まあ、それは有りそうな話だな。兎に角、この星の技術水準は格段に後退した。・・・それに、深海棲艦と言う敵が居る限り、科学技術を向上させるのは、妖精達に頼むしかないのだな」
{・・・そうでしょうね。私でさえ、妖怪達の進歩には付いて行けませんでしたから・・・}
SPは『出番を持って行かれた』とばかりの音声を出す。男は嬉々として他者自慢をし始める。
「妖怪達は
{へえ!・・・}
寝られない男とSPの話は盛り上がり、再度男が眠くなるまで話題は続く。
・・・その様子を、妖怪・妖精達が見て居た。
『提督。私達は貴方
『ねえ、提督ってそんなに凄いヒトなの?』
1名の妖怪の言葉に、周囲の妖怪は哀愁を纏う。
『ああ、・・・もう、我々の妖怪でもそんな時代か』
『我々も死に過ぎた。深海棲艦に太刀打ち出来ず、な・・・』
(?の顔をする)昔を知らない若い妖怪に、当時を知る妖精は語る。
『君には解らないだろうが、その昔、オス型と言う怪獣が居た』
『怪獣?』と言う若者に『そうだ』と老者が言う。
『当時の我等が提督は、我々妖怪にとって、そして人間にとっても、最後まで生き残った希望の星。怪獣殺しだ』