「あら、やっぱり、ここの提督は男性なのね」
この鎮守府では聞かない女性の声が響いた。
追いかけっこをしていた男は、聞いた事の無い声音に、思わず止まって振り向いた。明石も男へ抱き着いた後ピタリと止まり、知らぬ女性を見る。
「ほら、提督。今日来る予定になっていた方ですよ」
明石がヒソヒソと男へ耳打ちし、男が昨日の執務室での会話を振り返って「そうだった」と思い出す。
男から見た女性への感想として、その女性は白肌白髪、赤黒い瞳の美女と言って良いだろう。人間でいえば、生を受けてから20年前後に思えた。
{ん?。艦娘でもない者から金属反応?}
SPが
「貴女は・・・今日来る予定だった方で良いのかな?」
「そう。初めまして、ここから北西の方に在る鎮守府の管理を任されている提督よ。名はノルスィー・ウェストン。ノルと呼んでちょうだい」
「初めまして、私は・・・」
「ああ、言わなくて良いわ。第1次達から話を耳が痛くなる程聞かされていたのよ。・・・ここに来た理由も、第1次達の治療で仕様が無くだし・・・」
「た、大変だったな・・・」
少し疲れた風に言うノルに男は労いの言葉を掛けた。
この男も提督であるが、大抵は事務仕事を進んでやってくれる者に任せっきりである。この男には他の役割が在るので、誰も何も言わない。しかし、その他の役割も艦娘に任せても良いので、何年かすれば引退となる予定だが・・・。
「外に私の所に配属されている艦娘達が居るわ。会ってくれる?」
「勿論だとも」
外を指差したノルが提督を外へ連れ出した。ノルが提督の腕に体を巻きつける。
「すまないが、離してくれないか?」男は嫌な顔をしている。
「良いじゃないのぉ~!? 同じ提督として少しは
「・・・」
「・・・ふふっ・・・」
何も言わなかった提督へ、了承と受け取ったノルが眩しい程の笑みを浮かべた。外に出るとノルの白い肌が光に反射し、更に眩しく思えた提督だった。男の掛けているサングラス越しでも、肌による光の反射の眩しさが際立っていた。
・・・この感じ、鈴○そ○子!! ・・・いや、日の光である。スポットライトの明るさではない。
『キャー!!、本当に居たぁー!!』
『ああ、嬉しくて、もう死にそう・・・』
『ライバルが減るよ!、やったね!』
『ザッケンナオラァー!!』
『痛っ!! じょ、冗談だってぇ~・・・』
『今度冗談を言ったら、その口を・・・』
『もういい!分かったよ!。・・・この男を摘み出せ!!』
『何の映画よ?・・・あんた
『せやなぁ!』
『・・・あのねぇ・・・』
男の姿を見たノルの下で働いているのであろう艦娘達が歓喜の表情をした後、頭をどついた艦娘とそれに頭を抱えた艦娘が無言ともいえるコントをしていた。声には出していない。全員が器用である。
「ああー!我等が提督が腕に巻きついてる!!?」
「おのれ!、篭絡するつもりか?!役得を上手く使いおったな?!」
「提督、その汚い手を放せ!。不敬であるぞ!?」
ノルの艦娘達が次々に野次言葉を発する。嫉妬や叱咤の言葉が飛び交っていた。
「・・・そこまで言う~?・・・」
ノルは自身の仲間達の言葉に渋々男への腕組を解いた。
男はノルの艦娘達の態度を見て苦笑。そんな男へ、ノルが少し興奮しながら言う。
「今日艦娘を連れて来たのは、第1次の治療型艦娘が生きていたと知って、治療を受けたい者が来たのよ。私は数日前まで、男性が居るとは知らなかったけどね・・・」
「私達は知ってましたよ? 明石が居たのは、本当に嬉しい予想外でしたけどね」
ノルの言葉にノルが連れて来た艦娘が突っ込みを入れた。
「え?、初耳なんだけど・・・」
「提督、貴女には言いませんでした。男だと言ったらスッ飛んで行きそうでしたから」
「・・・ケチ! こっちは最大戦力の睦月と鳳翔が『私達の提督が帰って来たので、お暇させて頂きますね^^』とか訳分からん事言って急に居なくなって、戦力的に滅茶苦茶な痛手だったんだからね!」
「提督、貴女は睦月と鳳翔が居なくなるちょっと前に『
「え?、・・・アレが原因だったの?!いつも聞いていたけど、アレは何だったのよ?」
ノルの質問に、『・・・』ノルの仲間達が全員無言になる。
「もう、この話になるといつもダンマリを決め込むんだから・・・」
ノルは連れである仲間達と問答をしていた。戦力が急に無くなる。何時の時代もこれは痛手である。現実的には、抑止力である兵器が
ノルの艦娘達は無言のまま彼女の事を想う。この男の事を知らなければ、分からないままで良いと思っているから・・・。
男は睦月・鳳翔という単語に反応していた。
「なあ、その睦月と鳳翔は・・・」
「うん?、・・・ああ、貴方の所で大活躍しているであろう睦月と鳳翔よ」
「・・・有難う。2人が世話になった」
「良いのよ。色んな意味で、『私達的には大助かりだった』、それだけよ」
ノルは男の感謝にあっけらかんとした物言いで応えた。
「それに彼女達のお蔭で時間を稼げたわ。今は規格外な艦娘に頼らずとも、自衛出来る設備は整ったのよ。鎮守府の被害は無いから、後は艦娘の敵掃討力次第ね」
「自衛設備?」
「・・・あら?、ここにはそういう物を設置して無いのね?。・・・まあ、あの睦月が居るんだし、問題無いのかなぁー?・・・」
この星、深海棲艦達は陸上侵攻し、多くの陸上生物を死に至らしめた。
人間だけではなく、それ以外の生物も対象として目に見える物を等しく、精一杯、殺戮の限りを尽くした。
最終的には物量に負け、島を占領したまま海へ撤退。その島々も激戦の後、陸上生物側に占領をされてしまった。
今、深海棲艦達は遊撃で、占領出来ればする、という
終幕のカーテンが降りる未来は見えない。
「いや、ここで活動を始めて7日以内の時に、大群が押し寄せて来て窮地に立ったよ」
「・・・そうよね、そうなるわよねぇ・・・。・・・で、その時の解決方法は?。大量に建造をした、とか?」
「皆で懸命に撃退した。・・・かな? その時に在った建造機は1個だった。何より物資が不足していたから、建造機は使えなかった」
「1個? 通常、大型機を含めて、最低2機は導入される筈なんだけど・・・。辺境に近い此処だとそんなに配備されないのかしら?・・・」
「さあ?、他の鎮守府は見た事が無・・・いや、有るか。・・・2個か3個、作っていたような、いないような・・・」
男はうろ覚えになった記憶を思い出し口にするが、希薄な記憶を余り言いたくない。口にするのを止める。
ノルは「随分と曖昧ね?」と言うが、男はそれに「すまない」と言う。
「
「5年位前・・・。たしか・・・半年近く占領していたのを『敵に再占領を許した』とか、ラジオで大きく批判していた事があったような・・・。・・・その現場に貴方も居たの?」
「ああ、・・・居たよ。最終の敵からの攻撃で建物含めて全て1から作り直す必要になり、『今後も敵からの攻撃が予想される。建築物全て破壊された上に設営材料が不足。作戦は失敗、この島に留まる理由はもう無い』と言う意見で一致して島を放棄したのだよ。敵に占領されたかどうかは・・・知らないな」
この男にとって、長年連れ添った戦友達が散った島が在る。それが、今話題にしている島。
島全てに言えるが、360度全てが海。海に潜伏出来る深海棲艦にとって、強襲・急襲戦がやりやすい環境だった。防衛・索敵設備が整っていなければ格好の標的。何度も襲撃に遭った。
戦略兵器の転換期であった為に、一部弾薬の互換性が無くなる。最も、補給物資の輸送遅延・人的資源が満足に供給出来なかったのが原因となり、結果、占領した島を放棄。人類側としては補給の切れ目が勝敗の決め手になった。
「その島で良いと思うわ。放棄したその島はそのまま誰も統治していないわ」
「なんと?! ・・・ん?、深海棲艦側も、か?」
「ええ、そうよ。艦娘達はその島に居たがらないし、深海棲艦側も何故か避けているみたいよ? それでも統治しようとした人がいたんだけど、・・・幽霊が見える体質じゃないのに毎日大量の幽霊が見えて、怖ろしくて帰ってしまったわ。帰ってから精神病院に入院しているって話も聞くし、現場復帰は無理でしょうね」
「・・・そう、か・・・」
敵味方、戦没者の数が半端ではない。死者達の屍が花となって咲き誇るには十分な年月が経っていた。
とある者の話では、あの世での事務作業が追い付かず、死者の魂を一時的に花に移して地獄の沙汰の時を待たせていた。今はやっと、全ての者に沙汰を言い渡せたらしい。