ここは物語の主となる鎮守府とは異なる、とある別の鎮守府。ノルが管理する拠点である。恒星は正午前の位置に在り、その鎮守府を明るく照らす。
「我々の提督にも困ったものね・・・」
「良いじゃない。同じ提督同士、顔合わせも重要よ。それにあの隊長だし、ね?」
「むう、私も行きたかったのだがな・・・」
「それを言ったら、私だってねぇ・・・」
巡洋艦型の艦娘達が恨み節を口にする。あの鎮守府に行きたがっていた艦娘達は、この鎮守府の全員である。
ここに居る艦娘達は全員が第1次艦娘。人間との共同生活に馴染めず、この前線へと舞い戻って来てしまった者達。非人間・人外で在ると言う迫害から居場所を追われ、結局は海の近くで生きる事を余儀なくされた。
勿論、深海棲艦の攻撃から自衛出来るので、何とか問題は無い。
・・・深海棲艦との戦闘があれば、明日・早ければ今日、自分や自分達が如何なっているかは分からないが・・・
彼女達が羨ましいと口々に言っていると、1名の艦娘が彼女達へと近付いて来る。
「提督代理~!補給を求める部隊から通信が来ていますよ~」
「む・・・。そんな事前連絡は無い。丁重にお断りしろ」
提督代理は言うが、報告に来た艦娘は申し訳なさそうに言う。
「それが、もう視認出来る距離でして・・・」
「視認出来る?・・・見えていないぞ。・・・見張りは何をやって居た?!」
「そ、それが、
提督代理の叱責に、その艦娘はハッと気付く。『奴等』が来たと。
「敵襲!迎撃準備!!直ちに襲撃に備えろ!!」
提督代理は無線開き、近辺に居る艦娘達全員へと敵襲を伝えるが、もう遅い。砲弾が1発飛んで来た。建物へと当たり、着弾した部分は粉砕。
「クソ!!襲撃、襲撃ーー~!!」
艦娘の1名が深海棲艦を視認。
「ぎ、擬態服だとぉ?!」
迷彩形の合羽を羽織り、それが何体も居た。深海棲艦達の各々が艤装を展開し、合羽は無理矢理艤装を展開した為にビリビリに破けている。
「純種!!?」
「純種が攻めて来たぞぉー!!!」
「防衛兵器は如何した?!」
防衛兵器。自衛設備である。
深海棲艦達を上陸させない為、固定砲台を設け、深海棲艦撃滅活動の拠点を守る兵器。その威力は、直撃すれば、戦艦型をも屠る。
「照準合わせ中・・・発射!」
固定砲台が深海棲艦の1体へと向かって行き、直撃。爆発とその煙で、攻撃対象が一時的に見えなくなる。
「やったか?!」
着弾時の煙の中から高速で防衛兵器へと飛ぶ物が在った。防衛兵器の
・・・防衛兵器に穴が開いたとほぼ同時に大爆発を起こした。
防衛兵器の攻撃に依る煙から出て来た深海棲艦が居る。身に纏っていた迷彩服がもっとボロ切れになり、機能しなくなった為、それを脱ぎ捨てる。
その深海棲艦を見た艦娘は驚き、そして
「・・・ば、馬鹿な・・・。奴が来るとは・・・」
艦娘達はたじろぐが、我々が最後の防波堤であると気を引き締める。彼女達は最後の1隻まで攻撃を行う決心をする。どの道、徒歩・海路ではもう逃げ切れない。最後の悪足掻き、敵を1体でも多く道連れにする為、戦闘を行える艦娘達は艤装を展開。深海棲艦達へと砲撃を敢行する。
その鎮守府の壊滅・人員全滅まで、後、・・・数分。
「提督と大本営への通信急げ!この防衛拠点が突破されると!!」
ここは、人間の安全を守る為の総本部。又の名を大本営。ここでは、地上に深海棲艦を上陸させない為、日夜情報を取り入れている。
そんな中、大本営と
「局長・・・。重要拠点が、・・・占領されます・・・」
「何?!一体全体如何して・・・いや・・・奴が現れたか」
「奴?・・・まさか?!」
奴。防衛兵器で倒せない深海棲艦というのは数少ない。今現在確認されている鬼級や姫級を重傷にまで追い込む事が出来、敵の砲撃では1撃で壊されない強度を持っている。ましてや最新型を導入している所を破壊されたのだから、もう局長の中では、どんな深海棲艦が来たかを確信していた。
「戦車隊は訓練中だったな?」
「はい。出撃・・・ですか?」
「上陸を許すのは、今回が最後だろう。それに、頑固な戦争を知らない死にたがりを出撃させなければ、俺達が批判を受け、この弱体化した本部が今度こそ瓦解してしまう。・・・悔しいが、それは避けなければならない」
「守るべき人を、むざむざ死なせるんですか?!」
戦車隊は殆どが人間で構成されている。今日の様な日の為に、上陸して来た深海棲艦達を倒す為に日々訓練をしていた。・・・艦娘達の方がより良い戦果を挙げるのに・・・だ。
「死を望む奴らを生かす余裕は今、・・・無い」
反対をしていた部下は黙す。別の者が電話の受話器を取る。
「私よ。戦車隊を即時出撃。戦闘地点の座標はもう送ってあるわ。・・・いいえ、訓練では無いわ。実戦。・・・そう、実戦。幸運を祈るわ」
連絡が終わった後、局長は電話連絡をした者へ別の場所へ連絡を取る様に言う。
「これを、あの男にも伝えろ」
「もう伝わってます。ノル提督は、あそこに逃げ延びていました」
「凄いな。・・・直感で、か?」
「第1次の治療の為に一緒に行っていたそうです」
局長は手間が省けたと安堵すると共に、悲しみに包まれる。
「出掛けたら、家が無い。・・・悲しいな。こんな事がいつまで続くのやら・・・」
「その言葉、彼にも言ってあげましたか?」
「その件については悪かったよ! ・・・あれは、俺の一生の不覚だ」
局員の棘の有る言葉に局長は昔の事を猛省。局長は気を取り直して立ち上がるとその場にいる皆へと大声を出す。
「皆、人間の住む近辺へ、敵の上陸を許すのは今回が最後だ。そして、早急に今回のカタを付けるぞ!」
局長の言葉に、その場にいる全員が頷き、持ち場へと就いた。
「直ぐに戦車隊を出撃、戦闘機隊も出せ! 人間の住処を、1つたりとも、見つけさせるな!!」
「私、連れて来た艦娘達の修復が完了するまでここに滞在させて貰うわ。彼女達が居ないと、どの道活動出来ないし・・・」
「ん?。戻らなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。待機させている人員で、防衛は可能だわ」
ノルが自信満々にそう言った途端、ノルの艦娘が血相を変えた。
「ノ、ノル提督!、我々の鎮守府が攻撃を受けました!!」
「え?!そ、そんな馬鹿な!!?」
「『防衛兵器沈黙。我々の戦力では生存不能。救援に来るな。お』・・・通信、絶えました」
報告をしたノルの艦娘はそう言って俯き、涙を流した。
「・・・負ける? 負けたの? ・・・嘘よ。防衛兵器が在るのに。・・・彼女達が? 精鋭で、長年の付き合いなのよ・・・嘘よ。ねえ、嘘よねぇ?・・・」
ノルは問うが、艦娘達は肯定しなかった。
・・・ノルは脱力して足の力が抜け、ペタリと尻を地面に付けた。
「こ、こんな・・・仲間が、・・・家族が、・・・こんな呆気ないなんて・・・」
男は何も言わない。深海棲艦との戦争が今も続いているとの実感を得ているのみだ。悲しい事ではあるが、次の事を考えなければならない。如何やって奪還するか、である。
ノルの艦娘の1人が男を見た。彼女は重々しく、男へと口を開く。
「隊長、準備が出来次第で良いです。・・・我々の鎮守府の奪還・生存者の確保をお願いします」
彼女は男へと頭を下げ、彼女に続いて、ノルの艦娘全員が頭を下げた。
その言葉に、隊長と呼ばれた男は空を見上げ、思案する。
{・・・オス・・・なのかしら?}
SPが小さく呟いていた。その呟きは思考中の男にも、誰にも聞こえていなかった。
しばらくして、男が誰か、又は何かを探すように周囲を見回した後で口を開いた。
「如月、近くに居るんだろう?」
「・・・はい」
男がそう言うと物陰から、呼ばれて出て来たであろう、如月が現れた。
「至急、睦月と大淀、金剛の3人を工廠前へ呼んでくれ」
「・・・了解・・・」
如月は男の指示に従い、無線で連絡を始めた。
その間に男は急ぎ足で工廠の中へ入って行く。
「ノル提督。私達の鎮守府を取り戻す準備をしましょう。ここにはあの睦月と鳳翔、それに彼が居ます」
「・・・待って。彼の艦娘が来るまでで良いわ。・・・放って置いて」
「・・・はい・・・」
ヒュウと風が、俯いているノルの長い髪を横にする程に吹いた。髪は顔を覆い隠し、その長い髪に隠れながら、顔からキラキラと水滴が飛んで行った。
「明石。私が使用可能な武器は何かは出来ているか?」
工廠へと入った男は北上と一緒に作業をしている明石へと話し掛けた。
男の言葉に、明石は作業をしながら男へと振り向く。
「今の所、不採用だった追加兵装だけです。提督は余り、空気抵抗になる物は装着したくないでしょう?」
「・・・そうだな」
「それに、装備自体が以前の物と違うんです。標準装備での出撃を推奨します」
「分かった。それで行く」
男は明石の提案に迷う事なく頷いた。明石は直ぐに工廠から出て行こうとした男へ「
「提督、・・・この補充用の誘導弾を渡しておきます」
明石は
「おお、補充分が完成していたか」
「現在、他鎮守府で確認された姫・鬼級でも、1発であの世へ堕とせるよう、改良した物です。理論上はどんな物質でも爆発範囲内を、原子も破壊します。爆発の威力と効果半径は、試験無しの為、未知数です。有効に使ってください」
「・・・ああ」男は言葉と共に頷く。
作業をしながら、北上も男へと口を開いた。
「提督。救援要請で行くんでしょ?。最高戦力で行った方が良いよ?」
「元よりそのつもりだ。人選は金剛に任せるよ」
『提督ー!』
男と北上が話している最中、外で男を呼ぶ声が聞こえた。男はその声に導かれ、明石と北上へ手を振り、工廠の外へと出て行った。
男が出て行くのを見送った明石と北上。
「・・・前の面子と第3次を何名かで出撃なんだろうねぇ。・・・全く、妬けちゃうよホント・・・」
「まあまあ。信頼と実績が有り、それに生還率激高ですから・・・」
北上の吐露に明石が理由を言う。
「そうなんだよね・・・。・・・そうなんだけどさぁ・・・」
「第1次用の更なる防壁改良型の理論構築が終わりましたから、試作品が出来たら北上に装着をしますよ」
「ホント?!、頼んだよ!?」
「ええ。それには、早く今やっている事を終わらせましょう。幸い、手伝いが結構増やせるんです。増やすだけ増やして、チャチャッ!、と片付けましょう」
「・・・そうね」
相槌を打った北上はチラと横を見た。昨日、明石を急かした艦娘達が少々おぼつかない手付きで物の製作をしている。
「ほら、手が遅いわよ!!」
『昨日の今日なのに、勘弁してぇー!!』
「急かしておいて何言ってるのよ!? あんた達もキリキリ働きなさい!」
『ごめんなしあ、許して下しあ~!』
第1次の明石が助っ人を依頼し、それを先の艦娘達が引き受けたのだった。この後、作業員がもっと増えるだろう。
(望外、あたし達が再活躍する機会、早く到来しそうだね・・・)
北上は生きていた第1次の明石に感謝した。
・・・しかし、あの男が生きてくれねば意味が無い。今回、男が戦場に行く事へ北上は不安になった。