男は敵機を撃ち墜とす。
(おかしい。敵の練度が低いのか?この敵機に我々は苦しめられたというのに、この弱さは何だ?!)
「・・・なぜ、この程度で出て来た?!この程度で?!!」
男は叫ぶ。深海棲艦へ怒りを込め、男は叫びながら敵機と対峙する。
《お前の所為だ!!》
《何?!》
男の声を察知したメス型の1名が男へと心を繋ぐ。これは・・・念話。
男とそのメス型の間に、精神的な空間が広がる。魂が繋がり、互いに肌の温もりを感じ取れる様な、それ程の近距離に居る様な感覚。
《お前が我々にこうする事を強いたのだ!!お前さえ居なければ!!!》
《貴様達が仕掛けた戦争だろうに!?!》
《お前達陸上生物が私達の居場所を汚染しなければ、こんな事にはならなかった!・・・見ただろう、汚れた海を?!あんな状態では、皆が死を待つのみだったんだぞ!!!》
《では何故、早期に話の場を持たなかった?!》
《そんな事はやった!!だが、『この後話し合う』と言って、結局聞く耳を持たなかったのが人間だ!!・・・お前達は私達を迫害した。そして、絶滅へと追いやった。今日が私達の命日だ。そして今日、陸上の人間全ても命日にしてやる!!!》
《・・・》
男は押し黙る。この戦いを今直ぐに止めたいと思う。願わくば、彼女だけでも生きて欲しいと思う。深海棲艦達が戦争を起こした理由を聞いていた男は、深海棲艦も、生きられるならば生きるべきだとも思い始めていたのだ。お互いに手と手を取り合えるならば、互いに共生し、距離を取った関係で居れば良いと思う。
《ダンマリか?!何か言ったら如何だ?!!》
その問いに、男は言う。
《・・・終わりにしないか?生きられるならば、生きるべきだ。死ぬ事なんかない》
《・・・死ねと言っている者に、・・・生きろと言うか・・・》
彼女は、俯く。まさか、『悪魔』から、こんな台詞を聞くとは思わなかったのだ。
《私の所へ来れば、少なくとも、今現在は安全地帯だ。憩いの場は提供出来る。・・・どうだ?私達と共に生きよう!》
《・・・それは私達・・・私にとって、嬉しい提案だとは思う。だが、もう遅い。私達はもう戦い始めてしまった。人間達が、お前達が私達への矛を収める事は無い筈だ。お前の案は、遅過ぎたんだ・・・》
《遅過ぎた、か・・・》
男は、彼女の諦めた想いを、残念に思う。
《何故お前は今も戦う?・・・海の便りに聞いていた。我々を数多く倒した英雄が住む所を追われ、辺境に住んで居る、と・・・。お前はもう、・・・陸の仲間達の為に戦う理由は・・・もう無い筈だ》
《私はまだ、私自身の夢を諦めていない。貴様だって諦めていない夢があるだろう?》
《もう・・・ない》
彼女は無いと言うが、男は深層心理を読み、彼女へと訴える。
《嘘だ!・・・少なくとも君は、まだ生きていたいと思っている。そうではないのか!?》
男の問い掛けに、彼女は涙ながらに叫び始める。
《安住の地だ、家族だ!!だが、もう家族は居ない!今、この場から脱出する手段は何だ?!お前はそれを提示出来るか?!》
彼女の訴えに、《・・・出来ない・・・》と男は否定。
《・・・運命は残酷だな。・・・お前と会うのがもっと早ければ、お前の様な大きな存在と争いを起こす前に出会えていれば、こんな!・・・こんな事にはならなかったのに・・・》
彼女の生涯。物心が付いて間も無く、深海棲艦と人類の戦争が始まる。彼女の両親共に、戦中に居なくなり、深海棲艦の寄り合い所で育てられ、そのまま海の底から出られなくなる。陽の目を見ようとすれば、艦娘達が襲い掛かって来る。自由が欲しいと、彼女は今回の戦闘に参加。こんな退屈な生よりも、例え何も出来なくとも、何かを起こして死んで行く道を選ぶ。
だが、本当は生きて居たい。楽園が在るならば、そこで生活したい。のうのうと働き、子を育て、そして真っ当な寿命を迎えたい。
・・・そう思ってはいるが、・・・それはもう叶わない。
「熱線砲、メス型への効果圏内に入れり!」
「メス型へ照準合わせ!急いで!!」
「・・・合わせました!」
「熱線照射!!」
「照射!!」
有効圏内に入った戦車は、人間の為、メス型へと攻撃を始める。
「がっ!ギャアァーーー~~~!!!」
熱線がメス型へ照射され、浴びたメス型達が爆発・炎上する。
戦車の攻撃を見たオスが、メスを守る様に戦車から守る位置へと陣取る。オスの片足が焦げるが、オスにとっては熱い程度。膝を地面へ付け、横からの熱線から、少しでもメスを守れる面積を増やす。
オスが戦車へ向けて発砲。
「右へ90度、最大速度!!」
「ま、間に合いません!!」
「・・・ここまで、か・・・」
車長は俯く。
・・・砲弾が至近距離で爆発した戦車は爆風で転がる。そのまま横転し、沈黙。
オスの進行はメスを守る為に止まる。敵の戦車と航空機を威嚇し各々へと発砲を開始。
《がっ!ギャアァーーー~~~!!!・・・》
《おい、おい!?!》
《・・・》
無情にも、男とメス型の誰かとの念話が途切れる。男には、目の前で絶叫を上げた、メス型の魂がこの世から消えた様な感覚だった。
(・・・死んだ、のか・・・。私も敵も、・・・哀れだな)
男は、憎しみに囚われた過去の自分を鑑み、メス型を哀れに思う。復讐心に駆られ、それだけで深海棲艦と戦っていた時期が在った。・・・だが、深海棲艦達は、人間と戦わなければ生き残れなかったのだ。説得出来なかった事を、分かり合えそうだった者が死んだ事を残念に思う。
(奴等とは・・・死んだら、分かり合えるのか?)
{何をしているんです?!敵機接近中!特攻を掛けて来てます!!}
現実へと急に戻された男は迫り来る敵機へと気を向け、バルカン砲を打ち出す。敵機が爆散する。
《悪魔め!死なば諸共!!!》
「むっ!」
それを避ける敵機が1機、男の盾へと体当たりを掛け、自爆。男の持っていた盾諸共、敵機は粉微塵となった。
「出来る奴が紛れていたか?!」
休ませる暇無く、後ろから敵機が男へと機銃掃射を掛ける。
{ひ、右、右へ回避!回避!!}
「むぅ!!」
回避行動を取るが間に合わず、男の脇腹へと数発が命中し、体を突き抜けて行った。
「ぐっ!!・・・ちぃ、バケモノ共め!!!」
男は敵機との距離を取る為、急上昇を始めた。頭から邪念ともいうべき先程の会話をも振り払う。
(貴様達が人間達と争わなければ、私を平穏に過ごさせてくれれば、戦う事も無かったのに!!)
男の武装している片方の肩の鎧が少し横へとズれる。そこには複数の穴が開いている。その穴から誘導弾が射出され、敵機へと向かって行き、接触又は近距離で爆発を起こした後に敵機を爆発四散させた。
尚も男は上昇をして行く。敵機は寒さに因る上昇限界高度に達し、男が下に降りて来た所を攻撃する態勢に入る。
しかし、男の味方機が敵機を撃墜する。敵機がそれに気付き、味方機の撃墜態勢に入り、追い掛け回す。
『コナクソぉーーー!!』
妖精搭乗員が雄叫びを上げながら敵機からの銃弾を急旋回・宙返りで回避。敵機の後ろを取って発砲・撃墜する。
撃墜した敵機の後を爆撃機が通過、機体の腹から爆弾を投下。投下した爆弾は止めとばかりに深海棲艦のメス型へ向かう。
オス型がメス型守る様に手をかざし、爆弾はオス型の手に収まり、爆発。爆発に巻き込まれた手は焼け焦げた。
『畜生、防がれた!!』
爆撃を防がれ、悪態を吐いた妖精は背後からの機銃掃射に因って撃墜された。
5年もの間、鳳翔の爆装型機体の搭乗員だった者。ここに
「有難う。・・・でも、私の事はもう良い!空母型を守って!!」
オスに守られた深海棲艦のメスは、他のメスを守る様に言う。そのメスは、四肢が焼け焦げ、何も行動の出来ない達磨と化していた。
「ウ、ウオオオォォォーーー~~~!!!」
オスは叫びながら涙を流し、そのメスを置き去りにする。その両者の表情は、・・・哀だった。
「痛い、痛いよ。・・・私、こんな甲斐の無い生なんて嫌。・・・私が生きて来たのはこの日の為だけだったの?・・・何も、本当に何もやってないのに・・・」
動けないメス型の瞳から涙が溢れ、零れ落ちた。
「航空機隊、まだメス型を仕留め切れないの?!」
イムヤは苛立ち始める。男を、最後の切り札を突入させなければならない事に。自分の無力を嘆きながら・・・。
『やってます!!・・・やってますが、オスが手強いです!!今爆装型を突貫させても良い敵の的です!』
『敵機が体当たりを覚悟で邪魔をして来るの!仕留めようにも仕切れない!!』
「くっ!!・・・バケモノっ!!!・・・そうだ、敵偵察機は発見したか?!」
『偵察機、発見出来ず。既に遠方と思われる!本部は如何か?!確認されたし!』
「了解!」
イムヤは大本営へと指向性無線で連絡を繋ぐ。
「本部、本部、応答願う!!」
『こちら本部!』若干のノイズが在りながらも、ハッキリと返答が聞こえる。
「敵の偵察機を発見出来ず。そちらは見つけたか?!どうぞ!」
『接触するも、最後の1機を撃墜出来ず。人里の被発見まで殆ど時間が無いと予測される』
その報告に、イムヤは沈黙。
『頼む。もう、現地の君達が希望だ・・・』
「・・・最善を尽くします。終わり」
大本営との連絡を切ったイムヤは、近距離無線で戦場の全員へと叫ぶ。
「メス型を倒して、早く!!」
イムヤは力の限り叫んだ。