あの世へと1つの魂が連れて行かれる。その者に無念と後悔は無い。でも、心残りは在る・・・。
自分は精一杯やった。後の事は、生きている仲間達が果たしてくれる。その者はそう確信している。
・・・しかし、朦朧とした心持ちが支配している。幸せでも無く、不幸でも無い。
幸せだった時は・・・戦前に町で色々と悪戯をしていた時。色恋沙汰に首を突っ込んだのは間違いだったなと思う。
それは、余りにも短かった今は昔の出来事。乱世に呑まれ、深い悲しみと怒りに心を捕らわれていた時があった。
来世が在るならば、もっと真っ当に生きたいと思う。生まれはもっと良い所で・・・
『隊長?』
『隊長だ!』
『隊長、貴方はまだ、ここに居るべき存在じゃない!!』
『俺達では無理だ。もう、あの世界には行けない・・・』
『俺達はもう、地獄に堕ちた。ここから出る事は出来ない』
『運命はまだ、隊長をこっちへお呼びじゃない。だが、このままでは・・・誰か、誰か居ないのか!?』
誰かの魂が叫ぶ。魂達が輪唱する。助けたい魂を導いて欲しいと。ここではない所へ連れて行って欲しいと。
「俺が連れて行く。隊長、俺の手を取って!!」
その魂は朦朧とした意識の中で、言われた通り、誰かの手を掴む。
『頼んだぞ。船頭さん!!』
船頭と呼ばれた彼はうっすらと人型に浮かんだ魂の手を引っ張り、その場を離れて行く。
・・・その2名の姿を見ながら、呟く魂が2名。
『--さん。どうか・・・良い一生を迎えてから、私を迎えに来て・・・』
『隊長、
『え?』
『・・・
『さあ?貴女は誰です?』
『私は・・・隊長がこの世に来たら、一緒に旅行するんデース!!』
『私は結婚指輪を貰ったんですよ?・・・(本物ではありませんけど)・・・あの人が来たら、私が一緒に結婚記念旅行をするんです!』
『
1人目が睨んでから、口論し、お互いに睨み合う。・・・両者、睨み合いが続く。その光景を目にした者達は呟く。
『浮気はイカンね』
『案外、
『隊長は自身へ向けられる感情を、殺気以外感じ取れなかったしな』
『そも、鈍感だったし・・・』
『それよりも、敵を殺すだけの機械同然に成っていたしな・・・』
『・・・おおう、それで・・・』
1名が後ろを振り返る。後ろには女性と思しき魂達が羨ましそうに睨み合って居る2名を見ていた。
『モテた男は大変だね』
『あの世に着いたら大変だな』
睨み合って居る2名を見ていた、その中の1名は、
『・・・そうよねぇ・・・。こうもなるのかぁ・・・』
と、愚痴を言う。
『まあ、隊長もここに行き着くと分かったんだし、気長に待ちますかねぇ・・・』
彼女は爆散し、体が残らず粉微塵になって
その彼女は何度目となるか分からなくなった程に周囲を見回し、「不思議だ」と溜め息を吐く。
『おかしいねぇ・・・。あたしより先に、こっちに来ている筈の魂が居ない・・・。一体全体、如何言う事なのさ?』
「隊長、俺達は特攻隊とも言えました。でも、戦わなければ人が、地上の命全てが生き残れなかった。貴方はそんな中で、先陣を切りながらも生き残り、なんとか子孫が生き残れる未来へと導いてくれた。俺の子も生き残った。・・・今の俺の行動は、恩という私情も入っています。そして、あの世界で貴方の事を想っている人達が居るからこそ、肉体が在るからこそ、貴方はまだこの世には来てはいけない」
彼に手を引かれる魂は疑問に思う。ここに居るのは、自分が死んだから。死して、その後の世界へと来ただけなのだと思っている。
「貴方はまだ死んでいない。魂が一時的に抜けただけ。それを無理に、果てまで飛ばされたから意識が朦朧としているだけです。まだ仮死状態で、息を吹き返せば間に合います。さあ、早く!!」
彼に手を引っ張られ、1つの魂は進んで行く。赤暗い情景が、進んで行くと、次第に明るくなっていく。
・・・どれだけ進んだのだろうか。水平線は茜色に輝けど、まだ薄暗い。彼等の進んで行く先には長大な、広大な川が在った。
「ここまで来れば・・・むぅっ!!!」
2名の前に、1名、道を遮る様に仁王立ちしている者が居る。彼等は立ち止まる。
「死神の新入りよ。自分の持ち場を放り出すとは・・・君までこの世の理を乱すのですか?」
「・・・いいえ。乱すつもりは有りません。閻魔様」
閻魔と呼ばれた者は怒っている。死神は、閻魔の怒り様はこの魂を連れて来た事だけでは無いのだろうと思えた。
「では何故その者を連れ行くのです?!その者は殺し過ぎた。人々から深海棲艦と呼ばれる者達。その者達を絶滅へと導いた存在。地獄行きは確定事項。魂を直で行かせたことにケチを吐けるのですか?!」
「正当防衛で地獄行きですか?先代の1名は、殺しを行った者を天国行きにした事が有るのに?」
「私は先代とは違う。命を奪う事は、自らの命が掛かっていても許される事ではない」
「・・・貴方は、実にお堅い。先代は、人の魂を転生させた事もあるのに・・・」
「何とでも言いなさい。私はそのような事はしません。・・・が・・・」
閻魔は見上げる。釣られて新米死神もそちらの方に気を取られる。暗い空間に光が差し込む。その光は物体となって、死神達の元へ徐々に近付いて来る。
「ここまで来た生者を
近付いて来た光、それは・・・
「火の鳥・・・絶滅したと言う噂が在ったのに・・・」
炎に包まれた鳥。燃え盛るその体は光り輝く。神々しく、荒々しい。
鳥が口を開き言う。
{私は1人の体を依り代とし、寄生し、生き長らえた。今、私がここに居るのは、その依り代の魂を取り戻しに来た為だ}
「貴方程の長寿の存在が、短命の個にご執心ですか」
{まだ間に合う。・・・私の家族の時は来れなかった。今回こそは、友を・・・いや、家族を連れ戻しに来た}
「全く・・・貴方には、・・・貴方達の様な種族には沢山苦労させられる。この世界の
閻魔の悪態交じりの言葉に、鳥は可笑しそうに笑う。
{・・・ふふっ、そうか。まだ・・・我が種族で生きている者が居る、か・・・}
「彼等・彼女等は、死ぬ瞬間にこの世から別の世に移動しました。余程、閻魔の裁きと説教を受けるのが気に入らないと見える」
{ああ、気に入らないとも。どれだけ長く生きていようと、死を嫌うのが私達だ。・・・だから・・・}
「だから?」
{こうさせて貰う!!}
鳥が死神の近くに居る魂へと急降下。
火の鳥が
「あ
人の形を成した男は、ムンズと掴まれている頭を放すようにせがむ。
{おっと、すまない。目は覚めたか?}
火の鳥は足を離しながら男へと話し掛ける。
「ああ、覚めたよ。だが、戻れるのか?・・・私は死んで・・・」
{君は私を何だと思っている?}
「・・・火を喰らう、行水の出来ない」
{その辺の鳥と一緒にするな。私は何時でも綺麗だ。高熱殺菌は出来ている}
「・・・いざという時の・・・鳥?」
{・・・そうだ、いざという時の・・・}
火の鳥は男の両肩を掴むと羽ばたき始め、男共々、ふわりと宙を舞う。これで肉体が在ればタマヒュンものである。(今はそれどころではない)
鳥が輝き始め、それと同時に男も光る。段々と目も開けられない位の光量に閻魔と死神は目を瞑った。
{生へと羽ばたく鳥だ!!}
その声と共に一瞬だけ、辺りが恒星の光をも超す輝きを放った。そして一瞬にして元の現場の明るさに戻った。
閻魔と死神が目を開けると、鳥と男の姿は無かった。もうすぐで日没になる時間帯のような夕闇の光が辺りを照らす。
空から1枚、仄かに光る羽根が落ちる。それを閻魔が拾う。火を纏いはしているが、熱くは無い。暖かい。消えた命の
「現世に連れ帰られてしまったか・・・」
閻魔はそう言いつつ、苦笑。
「あれが不死鳥の力・・・」
死神は唖然としながら、不死鳥と男が消えた方角を見ていた。
「不死鳥?・・・違います。あれは不死鳥では在りません。魂の
「あれとは別に不死鳥が居るんですか・・・」
閻魔の説明に、死神は感心の声を上げた。
「それにしても、珍しい。働き始めてから、勤勉に見えた貴方がこんな事をするとは・・・」
「それは・・・俺だって色々、・・・人だった時の情があったんですよ・・・」
閻魔の問い掛けに、死神はバツの悪い顔をする。
「ほう、・・・あの男との話を聞かせて貰っても?」
「そうですね。・・・最後の良い思い出は、あの隊長と羊羹を食べた時でした。死ぬほど美味かったですよ!!」
「その後直ぐに死んだ、と?・・・」
「俺の運が尽きただけです」
「・・・貴方がニヤけた顔で私の裁きを受けている姿は、今でも思い出せます」
「・・・天にも昇る位の味で、浮かれ気分だったもので・・・」
「本当に昇って来ましたね」
「・・・はい」
死神の彼は、隊長達と一緒に食した、あの羊羹の味を今でも鮮明に思い出す。口に入れた瞬間、天にも昇るような味がした。余りの味の良さに、意識を失いそうだった。飲み込んだ瞬間、死ぬかと思う程だった。有頂天になった。
・・・あの時、栄養剤を飲むばかりで、固形物を食べていなかった所為も在るのかもしれない。だが、それでも、あの時は生きて居た実感を得れた。・・・その直後の戦闘で、ヒトで在った彼は散ってしまったが・・・。
「・・・今度、現世に行って、その羊羹を持って来て貰っても?」
閻魔は死神へと頼む。死神程、閻魔は時間を取れる訳ではない。この場に居合わせたのは、偶々、休憩出来る時間が存在したから。死神の彼が魂を元の世へ戻そうとしているのを見咎める為、閻魔は颯爽と追い付き説教をしたのだが、生者がこの世へ来るとは予想だにしなかった。
「俺は、作り手が誰で、そもそも生きているのか、が分かりませんよ?」
「大丈夫。その者を裁いた履歴は在りません。作る名人が誰か、特定も出来ています」
「貴方が裁いた中で、職人は沢山居ましたよね?その人と同等の腕の人が居たのでは?」
「私の舌を唸らせる者は居ませんでした」
「・・・羨ましい」
「貴方も私と同じ味覚を持っている。普通と思う物を食べていてはすぐ飽きる。・・・でしょう?」
「俺は、チクワは飽きませんね。幾らでも食べられますよ!」
「・・・私も、何か好物が欲しかったですね・・・」
「自分の焼き土下座が好みでは?」
「貴方を閻魔にさせましょう。今、手が足りていませんので・・・」
「はいすみませんでしたやりたくないので謝りますごめんなさい!!!」
「・・・全く。・・・ところで、この羽根は要りますか?」
漫才の様な問答が終わった後、閻魔は拾った羽根を死神へと見せる。
「その羽根は一体何です?」と、その羽根を死神は興味深そうに見つめている。
「死者蘇生の羽根です。1名のみ、死なない程度の身体状態まで回復。その者へ使用出来る消費時限は、魂がこの世に着てしまう迄、・・・ですかねぇ・・・」
この閻魔は魂を管理する立場上、生死に関する事は見える。この羽根に因って何度も頭を抱えていた閻魔を見た事が在るのだから、あの鳥に係わった者の苦労が窺えるというもの。
閻魔から説明を受けた死神は、興味は有っても、乗り気にはなれない様子。
「・・・自由に好き勝手出来る扱いにして貰いましたけど、今更あっちの世に行っても、ねぇ・・・」
「ふふ・・・そうですか。・・・ま、お使い方、お願いしますよ」
「羊羹、本当に俺が買って来るんですかぁ?・・・」
「勿論。魂を逃がした罰です。行けば、こんな楽な償いで良いですよ?」
「はぁ・・・」
死神は、「何時行けるかな?」と、ぶつくさ言いながら溜め息を吐く。
「盾見習い。・・・お前も俺も、トンデモナイ星に来ちまったなぁ・・・」
「ほら、貴方も終わったのだから、早く持ち場に戻る!」
「へいへい・・・」
「この後、大量に貴方の持ち場へ行く予定なんですから、頼みましたよ」
閻魔の言葉に、死神は「また大量死ですか・・・」と肩を落とす。
ふと、死神が閻魔の顔を見ると、閻魔が怒り顔になっているのを見てビックリする。
「ど、如何したんです?・・・俺が何か?」
(アワアワしている死神を見ていない)閻魔は口を開く。
「求めれば、生きながらにして、平穏な生活が出来たのに。・・・進むべき未来は、変えられたのに。こんな、こんな芝居をしよって・・・」
閻魔は、哀れな者達へ掛ける言葉を見つけている様子。
・・・死神は、感傷に浸る閻魔を残し、この後来るであろう者達の為に、そそくさと持ち場へと戻って行く。