戦闘終わった鎮守府跡地。睦月達の鎮守府とは経度が違い、陽が頂点まで昇り過ぎた所。
建造物全てが廃塵と化し、元々の鎮守府主語に務めていた艦娘の遺体と深海棲艦の遺体が横たわっている。
少し遠方には対深海棲艦用の戦車が鉄の塊と化した状態でその場に鎮座して居る。
あちこちで煙が立ち、燃えている箇所も在る。
先に上陸した睦月と大井。
少し後には、金剛、榛名、鳳翔、イムヤ、木曾、五十鈴、吹雪が。
大幅に遅れて、加賀、敷波、大和が睦月達の元へと来ている。
「オスが生きている可能性が有ります。確認に行きましょう」
睦月が言い、大井が手を上げる。
「
「・・・大井、任せました。・・・生きていたら、奴の生を終わらせて」
「・・・了解」
大井は睦月から離れ、彼女だけでオス型の所へ行く。
大井は急ぐ。まだ息が有るかを。有れば、そして話せれば何かを聞き出したいと走る。
オス型の近くまで来た。大井は巨大化しているオスの顔の部分まで走り、彼の向いている方向へと体を晒す。
オスは大井を見て、直ぐに彼女を思い出したように、
「オオイ・・・姉さん?」と呟いた。大井はそれで、この者が義弟だと判った。
「義弟・・・やはり、貴方だったのね。・・・どうしてこの時代へ来たの?貴方は、元の時代に居れば、安穏と暮らせたでしょうに・・・!」
「僕は、父さんと、母さんが心配で帰省した所だった。急に島が光ったと思ったら、この時代だった。同族から話を聞けば、陸に住む者達と戦争をして負けたと聞いた。・・・良い機会だったのに」
大いに義弟と呼ばれたオス型は怒気を強め、大井を睨み付ける。そして、大井へと口走る。
「・・・姉さん達さえ居なければ、地上生物を駆逐出来たのに・・・!」
「・・・」大井は閉口する。・・・もう、息も絶え絶えなこの者には、何を言っても無駄なのだと。
「オオイ姉さん、僕は貴女を怨む。・・・僕を撃った事にではない。地上生物の・・・味方を・・・した事・・・を・・・・・・」
そこでオスの言葉は途絶える。オスは動かず、息をしなくなっている。・・・敵のオス型、絶命。
「何言ってるのよ・・・!父さんと母さんが貴方達へ、『時を超えるから島へ来るな』って・・・『生涯のさようなら』って、お別れの言葉を掛けていたじゃないの。私だって、貴方へさんざっぱら言ったでしょう?! それを忘れたと言うの?!・・・このっ・・・親不孝者ぉーー~!!!」
・・・大井は、もう聞く事も出来ないオスへ対して、涙ながら怒鳴る。
「・・・折角、過去を捨てて来た筈だったのに、こんな・・・こんなの・・・あんまりじゃないのよ・・・」
昇っている日差しが、天を仰いだ大井から零れた涙を
この地を照らす恒星が、水平線に没する為、傾き始める。
睦月達から大きく遅れて陸へと着いた敷波と加賀、大和。
敷波に肩を借り、大和と加賀は戦場となった鎮守府後へと上陸する。
大和と加賀の艤装は大きく壊れ大破。行動不能となっていた。敷波の助けを借りてようやく上陸出来た。
大破した2名は全身打撲状態で激痛が走っており、とてもとても歩ける状態に無い。
先に上陸していた睦月と大井以外の7名は敵味方双方の遺体を1ヶ所に集めたり、上空を飛んでいる航空機用に滑走路を作るために勤しんでいる。
『あそこで・・・提督が・・・討たれました』
遠くに居る睦月はそう言って加賀達3名へ、炎が燃え盛る場所、艦娘達の海上移動用の動力源、油の貯蔵庫を指差した。
「嘘・・・睦月、嘘でしょ?」
敷波は信じられない様子で睦月に問う。
睦月はその問いに対し、黙して別の場所へ行ってしまった。
「・・・嘘。・・・どんな時も、提督は生きていたのに。こんなのって・・・」
敷波は、『信じたくない』気持ちで言う。
「敷波。提督だって無敵ではない。・・・貴方も分かっていた筈よ」
加賀は意気消沈気味に言い、敷波は涙を流す。
「分かってたよ!・・・でも・・・でも、生きてるって、ずっと生きてるって信じたいじゃないか。あの戦争を生き残って、折角、あたし達艦娘の楽園に辿り着いたのに・・・・・・!!」
「・・・結局、あの人にとって、戦後に平穏無事な日々は無かったのかもしれないですね・・・」
大和は思い出す。
深海棲艦との戦争が始まってから、大和自身の記憶上では、男はずっと戦い続けていた。
勿論、男が床に伏した話も聞いた。それ以外では、ほぼ毎日、男の話題が戦線にいる艦娘達の間で話が出ていた。
今日は何処に居る? 今日は此処に居る。どんな怪我をした?生きている。まだ生きている。あそこで何かしていて・・・終戦の放送が流れた。
空飛ぶ人型が深海棲艦と戦っているという、珍しい話題は終戦まで尽きる事が無かった。
深海棲艦と戦う『空飛ぶ人型』の話題は、終戦と同時に途絶えた。男が戦場から消えたからであった。
戦争という枷から解放された男は深い眠りに就いたのだと皆が思って居た。しかし、実の所、男は忘れ去られた存在として、戦い続けていたのだった。
・・・それも、今日で終わりの日なのだろうか? ・・・いや、まだ、生死不明なだけだ。
「隊長・・・提督にとって、あたし達はただ、戦友にしか過ぎなかったのかな・・・?」
「・・・いいえ、そんな事は無いわ」
「じゃあ、何だったの?」
「・・・家族よ」
「家族。・・・そう、だね・・・」
「・・・私達が心の置ける、心の拠り所だった。勿論、私達はあの人がそうだった。・・・でしょう?」
「・・・それが今日、居なくなった・・・」
敷波の答えに、3名は無言になる。
加賀は何かを見つける。自分以外には見えない何か。それを目で追いながら呟く。
「・・・いえ・・・違う。ごめんなさい、違ったわ。・・・生きてる?」
その呟きに敷波が反応。
「何が違うのさ?!提督は死んだ。あの人は、今のあたし達とは違う。
「だった、じゃない。・・・提督は今、・・・戻って来る」
加賀は燃え盛る油の貯蔵庫へ目を止め、見続けながら言う。
「・・・戻って来る?・・・何を言ってるの?」
「・・・随分とまぁ、奇妙奇天烈な気がするけれど、ね・・・」
加賀は激しく燃え続ける炎の場所をずっと見ている。敷波と大和もそれに釣られて見る。
3名の視線の先にある炎が、不思議な揺らめきを始めていた。
「なに、あれ・・・?」
「不死鳥?・・・鳳凰?かしら・・・」
「・・・そんな、架空の様な事が?」
「私達艦娘の事はどう説明するの?」
「・・・そりゃぁ、人間、又は妖精の技術の粋を結集して・・・して?・・・」
「して?」
「・・・なんやかんや、不思議な事が起こって・・・」
3人の目の前で、炎が形を成していく。
「その時、不思議な事が起こった」
炎が消えると、そこには・・・ヒトが座って居た。そのヒトがおもむろに立ち上がる。
「・・・あっ・・・」
敷波と大和の顔がクシャリと歪む。加賀は安堵して口を開く。
「我等が隊長は、不死鳥も斯くやの如し。・・・何時だってそうだった。・・・でしょう?」
「・・・うん・・・!」
敷波は大和と加賀を置き去りにして、そのヒトへと走って行く。
「「ムギュン!!」」自分で体を支えて居られない加賀と大和は、盛大にうつ伏せに倒れた。
別の場所。木曽は睦月へと話し掛ける。
「睦月。・・・隊長・・・いや、提督は?」
「・・・オスと・・・相打ちとなりました」
木曾の問い掛けに、睦月は無情にも男の死を告げる。
「そうか。・・・今回こそ、逝ったか・・・」
「ごめんなさい。私が、急いたばかりに・・・」
「戦場で戦う以上・・・今日がその日だったんです。イムヤ、気を落とさないで・・・」
「・・・ぅ・・・くっ・・・」
「・・・馬鹿・・・・・・老衰まで生きるって、約束したのに!!・・・」
「そんなの・・・
「司令官が死ぬ筈は・・・死ぬ筈は!!」
言われた7名は、思い思い、言葉にし、涙する。
睦月も泣いているが、男達の宿命だったのだと理解はしている。だが、この後、鎮守府の皆に何と伝えれば良いのか、全く考えたくなかった。
しかし、今後も深海棲艦との戦いは続く。
「私達は・・・これからも、死者を踏破して行かなければなりません。・・・この悲しみも、越えて行きましょう・・・」
長年付き従った男を喪失した。しかし、彼女達は明日へと歩まなければならない。深海棲艦との戦いはこれからも続くのだから。・・・だが、今だけは、この時だけは男と共に居た過去を懐かしむ。
・・・なんか男が戦う、戦闘シーンだけしか思い浮かばない艦娘達が居るんですけど・・・(泣)
無理もない。あの男と関わった艦娘達は、休息の時間以外、ほぼ全てを敵との戦闘に費やしていた。
男の方も、艦娘達との記憶の約9割超が戦闘時の記憶。ほぼ戦いの日々でしか艦娘達と交わる事が無かった。
睦月は気持ちを少しでも切り替える為、口を開く。
「この度の敵味方全ての死者に哀悼の意を表し・・・黙祷!」
全員が黙祷する。散って逝った男へ。航空機に搭乗して居た妖精・妖怪達へ。戦車の搭乗員へ。深海棲艦達へ。鎮守府を守ろうと散った艦娘達へ。
戦闘に参加した艦娘達の損失・・・0。大怪我を負った者は居るが、致命傷ではない。
・・・これが、この星に於ける、今時の艦娘達。戦闘後に誰も撃沈されず、帰りの途に就ける。
人間とは違う事を彷彿とさせ、人外からしても『怪獣』と言われる
だが、この睦月達の提督は、彼女達を怪獣とは言わなかった。むしろ、艦娘から見れば彼が怪獣、いや・・・怪獣を超えた怪獣だった。怪獣を愛する怪獣。彼の死は、部下の彼女達にとって余りにも大きい。修正されテ
・・・ふと、木曾は誰も居なかった隣に気配が在るのに気づき、目を開けチラリとそちらを見る。
一緒に黙祷を捧げて居る姿・・・・・・男性?
「うわぁぁぁーーー~~~・・・!!!」
木曾は驚いて大声を上げる。そして尻餅を着いた。
その者が隣に立って居た事に、盛大に驚いたのだった。木曾の声に、全員が驚いて木曾を見る。
「ど、如何した?!」
「て、提督?!提督、ナンデ?!!」
・・・そう、木曾は、目の前に自身の提督、男が居るのだった。幽霊ではない。足がちゃんと在る。
男は生きて居る。蘇って来たので在る。
「・・・ああ、私の事だったか・・・」
男は木曾が言った意味を分かり、周囲を見回し、すまなさそうな顔をする。
「皆、心配を掛けたかな?・・・運が私に味方した様だ。・・・装備は粉々に成り果てて、紛失したがな・・・」
男が言い終わるや否や、不意に木曾は男の腹へと飛び付いた。
「お、おい木曾・・・」男は離れない木曾へ困った顔する。
「・・・死んだと思った。・・・もう、この世で顔を見れないと思った・・・」
「・・・まだ此処に居るともさ」
男の言葉に木曾は無言のまま、男にしがみ付いて居た。
睦月がそれに見かねて咳払いをする。それに木曾は慌てて男から離れる。
男は艦娘達を見回す。
「睦月。榛名と・・・もう1人は?」
「榛名は飛行場の整備の手伝いを。大井は・・・オス型の生死の確認に行っています」
「死者は?」
「提督の所属では、妖怪達の死者は出ましたが、艦娘の死者は在りません。・・・この地では妖精・艦娘共に生存者0です」
「・・・そうか。・・・ん?戦車隊の生存者は?」
「・・・生体反応は・・・探知出来ません。・・・居ないものと推測します」
そう言って睦月は俯いた。男は戦車の残骸をぐるりと見渡すと1つの鉄の塊と化した戦車へと目を止めた。
「そ・・・いや・・・・・・居る!!」
男はそう言って目を向けていた残骸へと走り出す。
「あ、提督!?!」
艦娘達は慌てて男の後を追い始めた。
「・・・・・・・・・ちょ、ちょっと・・・!?」
疲労している金剛は、皆が足早に移動している事に気付くまで、9拍遅れる。睦月達を追おうとした所で、動く何かを見つけ、立ち止まる。
「・・・ん?」
金剛はそれに近付いて行く。