1両の戦車跡へと着いた男は戦車の乗降口だったような場所を掴み、開けようとする。・・・が固くて開かない。
「ぐぅおぉぉぉーーー~~~!!!」
男は唸り声を上げながら、全力で、尚も開けようとする。・・・開かない。
男が開けようとしている間に、艦娘達が駆け寄って来る。その中で、
「提督。こんなになった鉄屑の中で、人が生きていると言うんですか?!」
鳳翔が声を荒げる。開ける事に夢中な男は鳳翔の声に助けを求める。
「勘だ!この損傷であれば生きている人が居ると思っただけだ!!これを開けるのを手伝ってくれ!!」
「
「私は時期が来れば、どの道、
「陸上守護の任に就く深海棲艦でも、殺そうとするのが人間なんですよ?!」
「人は気まぐれだ。ふとした切っ掛けが在れば、又は時間がわだかまりを解決してくれる」
「人間にとって、9年もの戦争は長過ぎました。そして今、戦時・戦後教育に因って、深海棲艦は絶滅させるべき存在という認識になっています!」
「その教育は間違いだったと周知させれば良い!」
「人間は今後、深海棲艦を歴史上の悪とします。これは語り継がれます。和解させるなんて無理です!」
「和解なんてしなくて良い。人間と手を取り合おうとする個々の存在のみと協力出来れば良い。どうせもう、話の出来る深海棲艦など、一握り程度しか生きて居ないのだろうからな!」
当人達だけにしか答えの無い問答に、鳳翔は男を見ながら泣く。
「・・・如何して・・・・・・如何して人間を嫌いにならないんですか?!提督は恩を仇で返されたも同然。
「子孫を残せる体であることを願って、個体数維持に貢献してくれる事を期待するだけだ。私は人々の繁栄した姿をもう一度見たい。それが私が望んだ、ここまで、戦って来た理由だ。そしてこれからも、その為に私は戦う!」
男は鳳翔との問答の間、ずっと、扉を開けようとしていたが開かなかった。
「・・・」鳳翔は無言になる。男が戦う理由。『人間の為に』。戦時中に睦月から聞いた男の回答を、男は曲げていなかった。
鳳翔は彼の心が、あの時からブレていないのだと理解。『頑固者』なのだと、何も言えなくなった。
「・・・くそっ!開かない!!」
男は自身の非力さに悪態を吐く。
「提督、私が開けます!」
「睦月、頼む!」
男は近付いて来た睦月に代わってもらう。睦月は扉を掴み、開ける為に力を込めて引く。
男では開かずの扉が・・・先ず金属扉の
そのまま直角の角度まで開ける。そこまでで良いと判断した睦月は手を止める。
「提督、どうぞ!」
「有難う!」
男は空いた隙間へと体を滑らせ、戦車の中へと入る。
男が戦車跡の中へ入ると、血の臭いと、生ものが焦げた臭いが充満していた。
・・・中に居たのは5人。
何かの席だった所は穴が開いている箇所からの被弾で上半身の一部が消し飛んでいる。
操縦席だったであろう場所に居る1人は粉々の破片が散弾の如く突き刺さったのであろう、死亡。
1人は戦車の凹んだ部分に因り圧殺。
1人は凹んだ箇所が針となって伸びて刺さったのであろう、それが体へと突き刺さって死んで居る。
もう1人は破片が刺さった者の後頭部が激突した様子で、鼻から血を流して気絶している。
「おい、生きているか?!」
男は最後の1人、気絶している女性に声を掛ける。
「う・・・痛たた・・・」
女性は鼻をすすりながら目を開く。・・・目の前の光景を見て呟く。
「・・・私、また生き残ってしまったのね・・・」
「この中では君だけだがな・・・」
女性は男の声に驚いて振り向く。オス型にでも乗り込まれたと思ったが、男の顔を見て、違うと気付く。
「救助しに来た。出口は確保した。さあ、出るぞ」
「待って、目の前の隊員達は・・・」
その言葉に、男は否定する様に首を動かす。その様子に女性は俯くが、直ぐに顔を上げる。
「彼女達の認識票を取ってから行くわ・・・」
「・・・外で待って居る」
「ええ・・・」
男は外に出る。
女性は車内の動かなくなった仲間を見て回り、首に掛けてあった・床へ落ちている認識票をそれぞれ手に取る。1名分が無い。上半身の無くなった女性の物が無い。手当たり次第探し、彼女は破壊されたと判断して諦める。
女性は車内から見える外の景色を見る。・・・外には、艦娘と呼ばれるであろう生命体が周辺を警戒している姿が見える。
「・・・妖精型艦娘が居れば、良かったのかもしれない。・・・でも、私達人間の未来を・・・自分達、人間の手で掴みたかった。・・・その為に、今日という日まで、訓練して来たのに!・・・私達は、こんなにも・・・無力だったの?!」
女性はそう吐き捨て、車内の外へと向かう。出口に着いた女性は少し前まで生きていた搭乗員を見る。
「皆・・・あの世で待ってて・・・」
そう言って女性は、金属の塊と化した戦車を後にする。
戦車から出た男は、金剛が何かを抱いている様子に気付く。
「提督、敵の生存者を発見しました!」
金剛の報告に「何体だ?」と男は言う。
「1名のみで、達磨状態です」
敵、メス型。手足が黒く焦げ、先の部分が焼失している。
その深海棲艦はまだ喋ってはいないが、話す事が出来そうな状態。
「手足を捥がれても、数ヶ月後には再生していた。という報告が有ります。・・・殺しますか?」
「・・・いや、捕虜として連れ帰る」
「・・・悪魔ガ、情ケヲ掛ケルノカ?」初めて、捕らえた敵が男達の前で声を発する。
「私は悪魔と呼ばれる為に戦っていた訳では無い。貴様達の敵として、戦場に居続けただけだ。称号に興味など無い」
「・・・」
「貴様は今、生きたいか?・・・それとも、もう、生を終えたいのか?」
「・・・生キタイ。・・・マダ、死ニタクナイ。・・・デモ、生キ殺シニスル位ナラ、・・・殺シテ・・・」
男は、まだ生きたいと言う彼女を見、暫くして何度か頷く。
「睦月、コイツを捕虜として連れて帰る」
「了解しました」
男の言葉に、睦月は了承。
・・・しかし、この場には、それを許さない者も居る。
「その敵を殺しなさい!!さもなければ!!」
その声に男と艦娘達は振り向いた。戦車の残骸から出て来た女性が男達に寄って来る。その手には人間が深海棲艦をも殺せる剣を持ち、
「私が引導を渡してやる!!!」と、正に
「木曾!」
やらせはしないと、男は木曾へと声を掛ける。
木曾はその声を聞き、女性へと迫り、剣を持っていた手を掴む。掴んだ手をグルンと回し女性をフワリと空中回転させ仰向けで地面へ背中から着地させる。掴んでいる手ごと体を移動、直ぐ様ゴロンとうつ伏せに寝かせ、地面へと組み伏せた。
女性が地面へと叩きつけられた反動で大きく急に息を吐いた。組み伏せた時に、剣を持つ手が緩む。弛んだ手の剣を木曾が女性から奪う。
「提督がやれとお望みなら・・・」
木曾が男へと目を向ける。木曾の目は、『殺せ』と命じれば、実行する眼をしている。だが、男は静止させる。
「ここまでで良い。我々の守るべき者だ」
「・・・分かった」
木曾はそう言いつつも、何とか抜け出そうとする彼女の関節を極めて動けなくする。
「ぐぅ・・・」
動けなくなった女性は顔を、己の敵、深海棲艦へと向ける。殺意満々。拘束を解けば、真っ先に首絞めでもしそうな様子。
男は殺意剥き出しの女性へと話し掛ける。
「もう、この場での戦闘は終わった。・・・攻撃をしてくる者達は全て死んでいる」
「居るじゃないのよ!目の前に、・・・まだ!!」
「この場での戦闘は終わり、この者はもう、非戦闘員だ」
「さっきまで戦闘員だった!そんな奴を生かすと言うの?!私は認めないわ!!!」
「認めなくて良い。・・・過去にそこまでの事をしたのだから・・・。だが、過去に囚われるな。今を生きている者には、まだ未来が在る。君も戦場を離れ、君自身の幸せを求めなさい。・・・この場を生きた君には、辛い台詞だが・・・」
「私の幸せは、深海棲艦を倒す事よ。そして今、私の前に生きている奴が居る。絶好の好機なのよ!」
「この者は、我々が捕虜として連れ帰る。殺させはしない。・・・それでも殺したいと言うなら、艦娘を用いて、敵である他の深海棲艦を殺すが良い。しかし、今、艦娘を用いたとして、この
「貴方は深海棲艦を許せと言うの?そして、貴方は許せると言うの?!私に家族は居ない。深海棲艦に全て奪われた。今さっきだって、家族同然の部下を!!・・・それを許す?冗談じゃないわ!!殺し尽くして、この星から一掃してやる!!!」
男は彼女を哀れみと悲しみの目で見る。
「それは君が、・・・人が、・・・人間が出来る事じゃないんだ。人間と人間が争っている訳じゃない。艦娘と深海棲艦の戦いだ。人間が戦闘に参加しなくなってもう数年・・・深海棲艦を倒すのは、もう、艦娘達に頼るしかない。・・・君はもう、本当は十二分に理解している筈だ・・・」
「・・・ぅっ・・・分からないわよぉー!!・・・この恨み、ここで晴らさないで何所で・・・!」
怒りと悲しみを交ぜた表情。涙を流し、彼女は鬼の形相で敵を見つめている。
・・・彼女は本当は分かっている。
今現在人間が深海棲艦との戦闘に参加しても、艦娘1名と同じ様な戦績は挙げられず、戦場で9分を持たずして死ぬ。人間は脆い。超人でも無く、怪獣でも無い。艦娘や深海棲艦と比べれば、自分達人間は殺虫剤を噴き掛けられながら進む、蜜蜂程度でしかない。
でも、彼女にも意地が在る。戦って来た者として。そして今、生きて敵へと肉薄出来た者として。彼女は1体でも多くの深海棲艦を討ち倒そうとしている。彼女以外の戦車搭乗員は死に、幸運な不幸にも、彼女は生き残った。
彼女は今、
彼女は今、自分と同じような立場の者で無ければ 、聞く耳を持って居ない。
男は、彼女を見ていて、『戦時中の自分の鏡の様だ』と思う。
この男自身も彼女の様に、深海棲艦と戦っていたのだ。それ故に、深海棲艦達からは『悪魔』と呼称された。・・・転機は、ただの気まぐれだった。1名の敵を助けた事で、この男は、ほんの少しずつ変わって行った。
この人間には、彼女には、まだまだ生きて居て欲しいと思う。彼女が、笑顔を取り戻す日が来ることを願って・・・。こんな長期に
「・・・生きている限り、怒りや不満は増え、幾つも抱える。今、この場は、それを増やさせて貰う。・・・今ここで、私は人類防衛軍の隊長として、君に命令する」
男は勿体ぶって、彼女へ、考えながら言葉を紡ぐ。・・・昔の、約1年前までの事なのに余りにも昔に思える、『防衛軍の隊長』の肩書きを使って。
「・・・え?・・・防衛軍の、隊長?・・・そんな、男で・・・」
彼女は頭を巡らす。『防衛軍隊長』。そんな肩書きを言える様な男性はもう1名しか生存して居ない。
ならば、この男は紛れもなく、戦争を生き延びた英雄、『怪獣殺し』・・・。
「平時の暮らしをして欲しい。・・・それが出来ないと言うのなら、艦娘の指揮を取る者となって、海の保全に務めて欲しい」
男は言う。人間の彼女に『どんな形であれ、長生きして欲しい』と。
彼女は無言になる。
彼女も戦争を生きて来たが、この男程の活躍は出来なかった。そして、この男程長期間戦争に参加していた訳では無い。途中参加で、本当に運良く生き残っただけ。戦時中の仲間は死に、今度も又仲間が死んだ。
だが、それ以上に、目の前の男はそれを経験している。
憎悪が彼女を支配していたが、敵にとっての『悪魔』が自身の憎悪を抑えて言うのだ。彼女もこの男と同じ様に、自分の怒りを押し殺し始める。
・・・彼女は、それきり、静かになった。