「吹雪、敵の反応は有るか?」
人間女性が大人しくなった後、男は吹雪へと問う。吹雪は自身の電探で周囲を確認。
「鎮守府周囲に敵影は・・・?・・・ん~?・・・在りません?」
最後、疑問形で吹雪の言葉が終わる。
「む、・・・何か引っかかりが有るか?」との男の問いに、吹雪は肯定。
「反応探知の限界距離に何か居たような、居なかったような気がしたんですが・・・」
吹雪はそう言って海の方を指差した。男は急いで言葉を発する。
「鳳翔!!」
鳳翔は、その呼び掛けに直ぐ様、偵察機を海へと向けて発進させる。何かが居るかどうかの発見の為、偵察機に乗った妖精が確認へと向かう。
『鳳翔偵察機01より鳳翔へ、鳳翔偵察機01より鳳翔へ。生命体を確認出来ず、何も無い。繰り返す、深海棲艦を発見出来ず、何も無い』
海へと飛んで行った偵察機妖精が報告。
「鳳翔、了解。・・・何も発見出来ず、です」
「了解。気のせいだった、と思おう」
「良いのですか?敵だった可能性も・・・」
「無くなった反応を探すのは骨が折れるだろう?・・・諦めも肝心だ」
鳳翔の問いに男は諦めるように言う。
それに鳳翔は悔しさを滲ませ、「はい」と言う。
逃したモノ。それは一体何だったのだろうか。そう、男と艦娘達は思う。
発見出来なかった以上、何も無かった事と同義。思い違いだったのだとし、次の事を考え始める。
男はおもむろに睦月へと話し掛ける。
「睦月、本部へ作戦終了の連絡はしたか?」
「・・・オスの生死確認に向かった、大井からの連絡がありません。それを待ってからです」
「大井の所へ行こう」
「その必要は無いわ」
大井の所へ行こうとするも、大井が集まっていた睦月達の元へと戻って来る。
「大井。・・・如何でしたか?」睦月が問う。
「・・・死亡を確認。・・・・・・終わったわ」大井は彼が死んだと言う。
「・・・大井、そうか、君は・・・」男は大井を見て納得しながらも、悲しんだ表情をする。
男のその顔を見て、大井は「何よ?」と言うが、
「・・・いや、・・・何でも無い・・・」
大井を
「睦月。本部へ連絡」
『大本営へ。明日、暁の陽は陸を照らす。繰り返す。明日の暁の陽は陸を照らす』
その言葉に聞いて居た者達は歓声を上げる。
・・・今回、
「よしっ!!!・・・局長。やりましたね!!」
思わず握り拳を作った作業員が局長へと語り掛ける。
・・・しかし、話を振られた局長は悲しそうに鼻を鳴らす。舞い上がっている者達は局長の心に気付かない。
「・・・純種・変異体。何れにせよ、深海棲艦は地上を滅ぼそうとどんな手でも使って来る。生半可で無くとも、ヒトの兵器は大損害で役に立たずも同然。艦娘達に頼るしかない。・・・結局の所、どちらかが死ぬまで終わらない、悲しい代理マラソンをやるのか・・・」
局長は小さく呟く。局長の横に
「・・・種の共存というのは、全く以て、難しいものだな」
局長の言に、その艦娘は「・・・それは人間を言っています?」と訊く。
「いや。生きとし生ける者全てに言える。・・・しかし・・・」
「しかし?」
局長は傍に居る艦娘の頭を撫で、終わらない戦いに沈む、自身の心を慰める。
「個々人の共生は何とか成るものだな」
そう言われた艦娘は苦笑を浮かべる。
「今回は、提督が神様と言った人が居なければ、成した事が全て泡となるところでした」
「泡も無くなる所だったかも、な・・・。今回も助けられてしまった。もう、こっちが頭が上がらないな」
局長は立ち上がり、周囲をぐるりと見回す。
「次の段階へ移行。鎮守府の再建。駐屯部隊派遣と物資の投下だ」
破壊された鎮守府復興へ向け、準備を促す。
「さて、この後の手筈は・・・拠点再建の為、物資投下だったかな?・・・どこに投下するんだろうな?・・・」
男はそう言って金剛から
「キャ///」
背負おうと手を伸ばしたところで捕虜が何か声を上げる。
捕虜を睦月がすかさず、男から奪い取り、鳳翔に渡す。鳳翔が捕虜を抱きかかえた。
「提督。無闇矢鱈と女性にお触りは厳禁ですよ?」
睦月が
「今、私は非戦闘員になってしまったから、・・・君達に預けてしまうのもな・・・」
「ほら、提督。これでも持ったら如何だ?」
男は木曾から剣の柄を渡される。木曾が女性から奪い取った物。男は装備無しに、これを持ったのは初めてだ。
「まさか、装備無しでこれを持つ機会があるとはな」
「ま、今、提督がそれを使う機会は無いだろうがな」
「・・・はは、・・・そうかもな」
そう言って男は周囲を1周、見回した。見渡す限りの廃墟、そして死体。
鎮守府襲撃から奪還まで1時間も経っていない。残骸からは煙や火災がまだ立ち込めており、硝煙の臭いの他、建築物や何かの貯蔵庫、生物が燃えた臭いが漂っている。
「純種は・・・」
男が独り言の様に言った台詞に、「ん?」と木曾が反応する。
「今回で、もう全滅した・・・で良いのか?」
「ふむ。・・・敵側は、全滅した可能性が在るな」
「敵側は?」男が問うと、木曾は頷く。
「戦時中に、地上生物に味方した奴で、生きてる奴は居るぞ。勿論、戦死した奴もいる。・・・俺と睦月で、如月を護送した鎮守府の提督も深海棲艦だった・・・」
「・・・そうだったのか・・・」
男の鎮守府に居る如月は、期限付きで派遣された事が在る。だが、期限が終了しても、帰って来る事が無かった。男は、辛うじて生きて居た如月を救出。自分の鎮守府へと連れ帰ったのだった。
「・・・あれが俺達の敵になったのは信じられなかった・・・」
木曾は如月が派遣された先の提督(女性)が敵に成ったのだと思い込んでいる。
男はそれを「彼女は敵になっていなかった」と否定。
「何?・・・如何言う意味だ?」
「・・・如月から聞いていないのか?」
「・・・何も・・・」
木曾は如月とは会話出来ていなかった。
如月は男の鎮守府に戻ってから、男と第1次艦娘にしか心を開かなかった。最近になってから、第3次艦娘と、会話をし始めるようになった。
「その鎮守府の提督が殺されたんだ。ポッと出て来た女性にな。そして、その鎮守府には何処かへ運営・通信記録を送信する装置が仕掛けられていたそうだ。我々の敵へ繋ぐ為の・・・な。・・・如月は我々を守る為に、我々との連絡を絶った。・・・その結果、あの鎮守府で我々の味方として残って居たのは・・・」
「提督が連れ帰って来た、如月ともう1名のみだった・・・」
木曾の回答に男は頷く。暫しお互いに沈黙した後、木曾が口を開く。
「提督、如何やって事の顛末を知ったんだ?」
「・・・まあ、教えられたと言うべきか・・・な?・・・」
「誰に?」
「装備であるあのサングラスな、装着者へ物事を瞬時に覚えさせる事が出来たんだ。記憶力が良いのはアレの御蔭なんだ」
脳によって物事を覚える生物は、よく忘れる。例外は居るが、大体はそうだ。
それを思い出させたり、新しい知識を瞬時に覚えさせる事が出来たなら、それは素晴らしい事である。
この星では、機械に依って、知識の即時習得が可能になった。勿論、専用機械は必要だが、過去の事や解らなかった数式等を直ぐに知れる、覚えられる。
「・・・それにしては、提督は忘れる事が多くないか?」
木曾が茶々を入れ、それに男はムッとする。
「・・・君は味覚を忘れてるんじゃないか?」
「ハッハッハ! ・・・提督、何を仰る?」
男の問いを、木曾は笑い飛ばす。男は問い詰める姿勢だ。
「私が作ったカレーを、期待外れの物を食した様な顔は中々に傷付いたぞ?」
「・・・ソ、ソンナコトナカッタ・・・ウマカッタゾ?」
木曾は内心、汗をタラリと流す。そんな心情が反映されてか、片言の様な言葉になってしまう。
5日位前、男が腕によりを掛けて料理を作った事がある。
それを木曾や、その他複数の艦娘が、『美味い!(テーレッテレー♪)』という顔をしなかった。見当違いという顔をしたのだった。
「・・・木曾、今度、どんな味が良いのか・好みなのか、作ってくれ」
「・・・ぅ~・・・」
男の頼みに、木曾は唸る。
木曾自身、調理をした経験が殆ど無い。自分の好みの味でさえ、作れるのかどうか怪しいと思う。それでも、人並みな技量は有ると自負している。・・・が・・・
「・・・木曾、まさか私以上の作品を作れないって言うんじゃあ・・・」
「マ、マカセロ!!・・・最高の物を作ってやろうじゃないか!!」
上ずった声で言いつつも、木曾は内心、ダラダラと冷や汗を掻く。並の技量はあるが、この男程ではない。木曾は自身の鎮守府へ帰ったら、真っ先に間宮に教示願おうと誓う。
「じゃあ木曾、帰ったらイの一番で期待しているよ。君が帰り次第、直ぐに1回、調理担当だ」
無情ともいえるその言葉に、木曾は帰り次第、炊事担当に助力を乞えるか悩み始める。
そんなやり取りの中、瞬間移動にて現れた男の鎮守府の輸送機が現れる。
「提督、帰りの便が来ました!滑走路に行きましょう!!」
「・・・あれだけの物的資源を、もう賄えるとはな・・・」
「今日の戦闘で一旦、空になるがな・・・。妖怪達の御蔭ではあるんだが、こうでなくては地上生物全てが絶滅していたんだろうな・・・」
「妖精様々と言う事か・・・」
「まさか。隊長様々だよ」
「ん?誰の事だ?」
「提督、貴様の事だよ」
そう言った木曾は提督へ『滑走路の方へ行こう』という合図を送り、滑走路と向かう。
「もう、老兵が生かされているだけなんだがな。・・・君や、君達が居て良かったよ・・・」
男は呟くと木曾の後を付いて行く。
「提督、装備が無い状態で、この場に留まらせる事は出来ません。この便で提督と捕虜だけで帰還してください」
「・・・皆、交代要員が来るまで頼んだぞ」
『了解!』
提督と捕虜を抱えた鳳翔が航空機へと乗り込む。
提督の搭乗に気付いた操縦手の妖怪が声を掛ける。
『提督、お疲れさまでした。座ってください。鳳翔、捕虜を座席に括り付けて』
「了解」
提督は座席に座る。鳳翔は捕虜となった深海棲艦を提督の隣へと座らせ、耳打ちする。
「この飛行機を爆破して貴女だけ生きて逃げ延びたら、あの世の果てまで追い掛けて殺しますからね?」
「シナイワヨ。・・・私ダッテ、楽園ハホシイモノ・・・」
鳳翔は捕虜の様子に大丈夫だと思い、飛行機から降りる。
鳳翔が出た事を確認した妖怪は出入り口の開閉ボタンを押す。出入り口が閉じると、間も無く。
『発進します』
エンジン出力を上げ、男と捕虜を乗せて航空機がゆっくりと加速をつけて動き出す。滑走路を走り、空へと飛び立った飛行機は・・・一瞬にして消えた。
「・・・妖怪・妖精様々、か。・・・提督、・・・貴様は寒い時代を終わらせた、俺達第1次艦娘で知らぬ者は居ぬ程に名を轟かせた、功労者なのにな・・・」
木曾は先程の男の言葉を思い出して独り言ちる。
「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
「何?昔の短歌なんか詠んじゃって。・・・自省の句?」
木曽の歌に、それを聞いたイムヤが質問。
「今の、世の中の方。時世の句として、だ」
「何の?」
「英雄の存在を忘れたヒト達と艦娘の話、だ」
「・・・ああ・・・時代よね。・・・もう実物を見て今も生きているなんて、3桁居れば良い方よ」
「この人間、途中で思い出したような顔をしたが、・・・気付くまで遅かったな・・・」
木曾は歩かせてはいるが、先程の捕虜を殺そうとした女性を歩く以外に行動出来なくしている。
「忘れるのは生物の権利、よ?」
「こんな数年で忘れるのか?」
「熱さは冷めるもの・・・でしょう?」
「沸騰したままのような奴は、・・・ほんの一握りか・・・」
「・・・そうでしょうね。ただ、憎しみ・・・悪感情の熱さは冷め難いわ・・・」
「そうだな。・・・俺も、そうだしな」
「鎮守府再建部隊が私達の常識と掛け離れていれば、私は帰還するわ」
「当然だ。俺は、俺達は提督の利の為に、まだここに残ったのだから」
「ま、本部直属の部隊が来るんだろうし、問題は無いと思いましょう」
「まあ、な」
・・・この数分後、鎮守府再建の為の人的資源と物的資源が来る。
「しかし、アレだな」
「何?」
「俺達、ただの人間とは話せなくなったんだな」
女性が口を動かして何か言っているのだが、木曾とイムヤはさっぱり聞き取れないでいる。女性も木曾達の言っている事を理解出来ない様子で居る。
「・・・表情的に、関節を極められて、痛がっているわよ」
「おっと、そうか。・・・ところで、イムヤ」
締め付けを弱くしながら、木曽はイムヤへ声を掛ける。それにイムヤは「何?」と問う。
「料理指南、・・・願えるか?」
「・・・私、提督以上の腕が有るとは思って無いわよ?」
「マジか・・・」
「こっちは大真面目よ。この星で生まれてから、調理経験なんて無いからね」
「・・・やった事無かったか?」
「水中警備は交代要員が少なくて忙しいのよ。代わってくれる?」
イムヤの言葉に、木曽は返答に迷う。
「水泳がてら、なら出来る」
「戦闘もやって」
木曽は『不可能だ』と言わんばかりに首を動かした。
「俺は水上戦闘専門だからな」