装備を身に纏った男はタ級とカ級を抱え、空を飛ぶ。徐々に速度を上げて行き、現状出せる、最高速度で飛行する。
目指すは深海棲艦純種、長老の家。
音速に近い速度で飛行、目的の場所へ着くまで数時間の高速な遊覧飛行となる。
男は抱えている2名を気に掛け、時折声を掛ける。
・・・しかし、何かは話したいもので、タ級が男の無線へと声を掛ける。勿論、カ級にも聞こえるように、だ。
「提督、今日行ッタ先デ、何カアッタ?」
「ああ、今日深海棲艦を捕虜として連れ帰った。大淀に、私の部屋に案内させた」
「エェ~、提督ノ部屋ナノォ~?ズル~イ!」
男の部屋に捕虜が居る。その言葉にズルいとはカ級の言。
カ級は未だ男の部屋には入った事が無い。見知らぬ者がこの男の下に来て日が経ってないし、尚且つ、この男がカ級を寄せ付けない雰囲気を纏って居るのだから行き辛い事やんごとなし。
「君達がどんな反応を見せるか分からなかったのと、今日は他の拠点で活動している提督が来ていた。私の部屋ならば、おいそれと入らないと思ってな」
「アア・・・。・・・ソレデ、部屋待機デ、知ラナイ声デ金切リ声ガ聞コエタ訳ネ・・・」
「連れ帰った捕虜は今の所、武装は全壊、体は両腕・両足無し。カ級と同じ変異体だ。・・・それと、タ級・・・」
男の呼び掛けに「何?」とタ級は声を掛けたが、中々、男が喋らない。言い辛い事を言う様だと察したタ級は男の言葉を待つ。
「今日、攻めて来たのは、ほぼ全員が純種だった。そして、純種をオス諸共に全滅させた」
男は結構な間を置いてから、はっきりとタ級へ言った。その言葉に、タ級は哀愁の混じった表情をする。
男は語る。今日、この男の島に来ていたノルの管理している拠点が襲撃に遭い、壊滅した事。襲撃をしたのは純種とオス型だった事。そして睦月や艦娘達が全て倒した、と。
「ソウ・・・」と、悲しそうにタ級は言う。
事実上、タ級の知り得る純種はほぼ彼女自身しか居なくなったと同義。今行こうとしている場所に純種が居るかどうかも怪しい状態となった。
「今日デ純種ガ私ダケニナッタノネ」
と、タ級は表情暗く話し続け、もうそれで良い、と言う。
復讐の鬼となっていた深海棲艦純種の彼等、彼女等は陸上に住んで居た者達への怨嗟の念に捕らわれ続けていた。遅かれ早かれ、このような事が起こるのは確実。それが今日起こったというだけ。ともすれば、タ級も今日の鎮守府襲撃に加わって玉砕していただろう。とタ級は語る。
男はタ級へ、「人や艦娘を怨まないでくれ」と言う。
それにタ級は「貴方ト出会ッテカラ、ソレハ出来ナクナッタワ」と答える。
タ級は男に救われ、今も生きて居る。彼女はその男の情に惚れた。
どんな形であれ、純種という一族を生き延びさせる切っ掛けを作った男。
男と一緒に、短い間だったが、家庭を築いた時のように暮らしたこともある。そこでタ級は男が居る事が当然の生活を送った。敵だった存在を、家族として見てくれた。
・・・そして運命の日、男は家を捨ててまでも、タ級達と共に見知らぬ島へと来た。
タ級は今も鮮明に覚えている。タ級と男と響の3名と、動けない生きた機械人形とで一緒に住んで居た家が人間とその他大勢に焼き払われた光景を。人とヒトが憎いと思った。安穏とした暮らしを破壊した奴等が憎い。だが、男は我関せずの様子だった。
タ級は憤慨するも悟る。『男は、人々はこういう者達だと理解している』のだ、と。
だから現在、誰もが寄り付けない所を見つけて、新天地として暮らし始めたのだと思っている。
人のような奴の言葉に艦娘が怒り、男が泣いた時も、ヒトというのは『そういう生き物だから仕様が無いのだ』とタ級は憤怒する胸中で殺意を押し込めた。
ヒトが憎くても男が生きている限りは、ヒトに殺される事が無ければ、タ級は死ぬまでヒトへ牙を向く事は無い。大抵の人間の性格を理解出来たと思っているから。
・・・いや、1番の理由は、男が人間への敵対意志を見せないからだ。
男が死ぬまで人間への敵意を見せなければ、タ級もそれに倣い、自身も死ぬ迄それに従う。
「提督。貴方ガ傍デ生キテクレル限リ、私ノ体ト、ソノ
タ級のその言葉に、男は「君は良い子だ」と言う。タ級はその言葉に拗ねた様に怒る。
「私ハ子供ジャナイワ!!」とタ級は訂正するが、男はクックと笑いながら「すまない。子供では無いな」と言う。
「今の君は、相棒(伴侶)だったな」
その答えにタ級は顔を赤らめ、そして「臭イ台詞ネ」と苦笑した。
この会話の中、カ級は声を出せなかった。唖然としていたのだ。
・・・この星の状態を知らなかったカ級は、酷い星へ生を受けたものだ、と思った。
夜。陽が沈んだ今宵の夜光は、衛星が恒星からの光を反射し、この星の海面を照らす。
雲一つ無く。夜の光が景色を薄暗く照らしている。
男達は目的地へと到着。男の装備は潜水服を兼ねており、装備を纏ったまま海中へと飛び込む。
勿論、海を潜れるタ級とカ級の、2名も連れたまま深海へと潜って行く。
男とタ級が勘頼みで辺りを見回す中、カ級は「ネエ、アソコカナ?」と方向を指差す。
淡く発光した海藻がこの世界の深海棲艦純種の住処を
男は片手に剣を装備、タ級とカ級は自身の持つ武装を展開し、敵との遭遇へと備える。
男達3名は注意深く中へと入って行く。
・・・道中、男達は警戒しながら進むが、誰とも居合わせない。身近な部屋全てを探索するが、誰も居ない。
部屋という部屋を見回しながら更に奥へと進み、最深部の部屋へと入ると、2名の深海棲艦が居た。
1名は寝具で寝て居る。もう1名は男達が入って来た気配に気付くと、男達へと振り向き、嘆息する。
「連絡ガ無イト思ッタラ。・・・我々ハ、負ケタノカシラネ?・・・」
タ級は目の前の深海棲艦を思い出し、「長老夫人」と声を出す。
「夫人ガ居ルトイウ事ハ、其処デ寝テイルノハ長老ネ」
タ級は目の前に居る2名を思い出して口にする。
男は意気消沈している長老夫人を見ながら、
「貴様達の目論見は潰えた。大人しく降伏せよ」と、言い放つ。
「降伏?・・・今更遅イワ。今、ココニ生キテ居ルノハ私達ダケ。海ニ住ム私達ハ絶滅シタノダカラ」
そう言うと長老夫人は男へと詰め寄り、懇願する様子で男へ口を開く。
「ネエ、私達ノ家族ヲ返シテ!!誰カハ生キテイルデショウ?!」
「全員、もうこの世には居ない」
無情な男の言葉に、夫人は「ソンナ・・・」と表情が抜け落ち、足の力も抜け落ちた。
「・・・貴様達が引き止めて置けば、こんな事にはならなかった」
「止メラレナカッタ。私ニハ、血気盛ンナ若者ノ彼女達ヲ・・・止メラレナカッタ」
「貴様達の所為で、貴様達の家族は死んだ」
その言葉に、夫人はキッと男へ顔を向ける。
「ア、ア、悪魔メ!キ、貴様ノ所為ダ!!貴様ガ居ナケレバ、皆・・・皆死シナナカッタノニ!!!」
怯え、涙ながらに憤怒に満ち、怒哀の強い様々な感情を込め彼女は男へと言い放つ。男はそれに
「全てを私の所為にするのか?! ハッ!!! 気が晴れるのなら、すれば良い! 私も貴様達の所為で、大勢の仲間が死んだ!私を戦場に立たせ続けたのは、全て貴様達の所為だ!! この、悪夢の残党共めがっ!!!」
声高にそう言い放った男は続けて「今までが、全てが夢なら、どれ程良かったか・・・」と悲しみ包まれた声を発する。
この男、好きでここまで戦って来た訳では無い。
『人間を守る』という事に己の使命を感じて、今も生き残っているだけ。随伴して居た者達の命が消えて逝く中、この男だけが現世に取り残された。
『未来を頼む』という仲間の言葉に、彼は懸命に戦い、現在まで生き抜いた。
たった1名の活躍で、戦況が大きく変わるという事は無い。変わるとするならば、『心の支えが今だ生きて居る』という安心感が士気に関わっていた位。
戦時中の友は、現在の拠点の艦娘を除き、1名を残して全てが死んだ。
男は深海棲艦達を怨む。深海棲艦に因って、多くの人間と交われない事を。友に成れたかもしれない人間達を数多く殺された事を。人を瞬殺出来る殺人生物を野放しにして今回の事態が起こった事を・・・。
夫人は俯き、「返シテ、返シテ」を繰り返し呟き続け、動かなくなった。
男はもう1名居る深海棲艦、寝て居るオス型をチラリと見る。男のHUD上に映る彼は生体反応が無い。彼の寿命は尽きたのだと、男は理解する。
「提督。如何スルノ?彼女ト長老ヲ連レ帰ルノ?」攻撃の意思は無さそうだと言うタ級。
しかし、男はタ級の言葉に、否定する仕草で首を動かす。男はクルリと体を回し、長老夫人を背にする。
「誰かが生きて居るのを信じて、ここで待つが良いさ。・・・さらばだ」
そう言い放った男は部屋を出て、深海棲艦の老夫婦を後して去る。タ級とカ級は『生かすのか?』と戸惑いながら男の後を、夫人達を警戒・睨み付けながらも追う。
・・・夫人は全く動かなかった。
「貴方、・・・私達の・・・何が・・・悪かったのでしょうかねぇ?」
長老と夫人だけになった空間で、夫人は嗚咽交じりの疑問を口にする。
長老は答えない。
「貴方?」
夫人は夫を見、暫くして、既に息をしていない事を悟った。
・・・夫人は亡骸を前にし、泣き崩れる。
「・・・貴方ぁ・・・」
最早、彼女には何も残って居ない。彼女自身、老い先短く、何をするにも、もう遅い。
最後の気力を振り絞って、彼女は自身を自爆させる。長老と夫人は爆発の中で最期の旅へと向かって行く。
・・・願わくば来世こそ、真っ当に、幸せな生涯を向かえられる事を信じて・・・
・・・海洋生物として生存権を獲得する為に戦った者達、没す。
・・・男達は深海棲艦の拠点から出る。拠点から出た男はそのまま海上へと浮上して行き、タ級とカ級もその後に続く。
その途中で轟音が響く。音の発信源は・・・深海棲艦の拠点だった。振り返った男達の目には、音を立て、深海棲艦達の住処が崩れていく光景を捉えた。
男は呟く。「馬鹿者共が・・・」と。
タ級は呟く。「サヨナラ」と。
その呟きが聞こえたカ級は、両者共に、アワれみを含んでいると感じ取った。
「帰リマショウ、提督。・・・モウココニハ、一生用ハ無イワ」
タ級の言葉に、男は「ああ」と生返事をし、全員その場を遠ざかって行く。
男はタ級へ「すまない」と言う。
「如何シタノ、提督?」タ級はそれに反応。男は語る。
「奴は、我々が連れて行った場合、道中か、我々の拠点で自爆する腹積りだった。連れて行かなければ、自分だけ死ぬかの2択を選んでいた。どちらにしろ、私は彼女を見殺しにするしかなかった。・・・これで純種は、ほぼ君だけになったのだろう・・・」
男はタ級へ申し訳なさそうに言う。それにタ級は先ず「良イノヨ」と言い、男を諭す。
「私達ハ行動ガ遅過ギタ。提督、
タ級は涙声で、しかし、当然の様に言う。
男達は空しさの中、帰路へ着く。