今日という日が終わり、明日が来る。今日、戦場を生き延びた者達は「生きている」と実感する。
まだ陽は出ていないが、日付は変わった。たった小半刻以内の激戦が在った昨日は終わった。
日付が変わった深夜。男とタ級、カ級は自分達の住む拠点、鎮守府へと帰還。
『提督、お帰り(なさい)』
戻った男達の前に、明石と北上が来た。
「只今帰った。変わりは無いか?」
「睦月達が帰投しました」
明石の言に、男は「え?!」と驚く。何日間かあそこに缶詰めになる予定だった睦月達がもう帰って居ると言うのだ。男は驚愕の色を隠せない。
「現地に派遣された妖精がですね・・・」
男が去った後、睦月達艦娘と妖精達の元へ本部から派遣された航空機が到着。支援部隊から補給物資と
補給と治療を済ませた睦月達が周りを見回す。
・・・すると、廃墟と焼け野原だった一面が、何故かそんな風景は無かったと思える程の状態になって居たのだと言う。
およそ100名が寝泊り出来る程の宿舎。作戦指令室を有する本館。物資・武器貯蔵庫。工廠。2つ目以上の飛行場の整備。元々在った設備が全て復元されていたという。妖怪有能。
そして、妖精が工廠の中に入ったかと思うと、
『ヒャッハー!!』『汚ぶっ・・・新しい艦娘の誕生ダゼぇーーー!!』
妖精達が次々と艦娘を造り出していき、見る見るうちに、鎮守府としての機能を回復させたという。
全ては支援部隊(派遣された妖精達)のおかげ。
・・・ただ・・・
『鎮守府よ、私は帰って来た!!』(野太い声)
『ノル
『この建物・・・有ったような、無かったような・・・どっちだっけ?』
『無かったんじゃない?知らないけど・・・』
『機械の体じゃないから、うろ覚えになっちゃったね~』
提督不在の艦娘達が困り果てて居た姿がそこにあったと言う。
しかもその後、帰りの便も用意され、
『この度の件、誠に有難う御座いました!帰りの便をご用意しましたので、それに乗ってください』
夜目の利く妖精の操縦に依り、戦車に搭乗して居た女性を残し、帰投したのだと言う。
帰りの便で、ノルとその艦娘達も帰った。勿論、治療依頼に来た艦娘は直してから帰っている。
「妖精達は損耗が激しかったみたい・・・だね・・・」
北上は悲しむ。オス型との戦闘で、苦楽を共にした妖怪・妖精が多数居なくなっていた。
帰りの便で、帰って来なかった者は死んだ者達である。艦娘以外の魂は還って来ないのがこの星の現状である。
・・・尚、『還して堪るか!!』が地獄に居る者の言である。
「・・・やっぱり、オスが出現したの?」
北上の問いに男は肯定する。
「多数のメス型に囲まれたオス型。あれ程に戦いが酷なものは無い。・・・願わくば、あれで絶滅してくれたなら良いな・・・」
男は戦時中の光景を思い出そうとするも、直ぐに頭を振って現実を見る。今は現在と未来を見据えなければならない。
この後も、男は深海棲艦と戦う為、艦娘と共に活動をしていく。
・・・その先に在る未来が、太平の世である事を信じて・・・
深海棲艦と戦う場合、艦娘の損耗は少ないが、その他の生物は多大な犠牲を払う。
今回の戦闘では戦車に乗った人間と、航空機に乗った妖怪・妖精の犠牲が多数。
この男の様な装備の者が戦場に出たとして、今回の男達の様に、一撃を加えるまでに死ぬ者達が大部分を占める。それ程までに深海棲艦との戦いは戦死率が高い。この星では、艦娘という存在に深海棲艦の掃討を任せるしか選択肢が無くなったのだ。
今回の男が生きて帰って来た事は異常な事。勿論、味方の航空機や艦娘達が生還させようとした事も作用している。・・・が、現実的には、握り潰された者の様に、帰らぬ人となる。
男の生還は鎮守府の皆にとっては嬉しい事であるが、男達の戦いを見た事が有る者にとって、夢でも見ている様な気持ちなのだ。
それでも男は帰って来た。男を知っている者、皆がこう思う。
数多の屍の山を乗り越え、血を吐きながらも、又も
男は空飛ぶ人型装備を外すと深く息を吐く。
「ああ、今日は疲れた・・・」
男はサングラスを胸ポケットへ仕舞うと、眠い目を擦り始める。頭と体を全力で動かし、更には長時間の飛行。この約半日という時間の騒動を終えた男は足がふらつき始めた。隣に居たタ級が体を支える。そのタ級に、男は今だけ自重の管理を任せる。
「提督。戦闘後に、直ぐの長時間の移動は流石に疲れますよ。・・・体をちゃんと労わってくださいよ?」
「明日1日は、流石にゆっくりさせて貰うよ」
男は今この場で寝てしまいそうな声音で言う。
「今日がその明日ですか?」
明石の発言に男が「えっ?」とした顔をする。
「日付、・・・変わってますよ?」
「・・・長かった1日が、終わっていた、か。長く感じた1日だったな・・・」
この日・・・いや、昨日の出来事である。
深海棲艦との約10年という長きに渡る戦争が転換期を迎えた。
今後、敵として現れる深海棲艦は、純種が居なくなった。脅威となる大部分は艦娘が深海棲艦となった成れの果て。変異体である。
何年続くか誰にも分からない。艦娘が死ぬ限り、そして深海棲艦が生き続け人を襲おうとする限り、艦娘と深海棲艦の戦いは続く。
オス型が出現した場合、現代の艦娘達でも対処する事は可能だ。先日の様な事はもう起きない。
もう巨大化薬は無くなったのだから。・・・だが、艦娘がオス型と対峙する場合、艦娘・物資の消耗は激しい。
だが、この先、純種の大怪獣級が敵として出て来ない事は確定したのだった。
1日後。男の鎮守府では皆が、少々・・・いや、かなり暇を持て余している。
妖精達が物資・資材の生成を行っているが、やっと貯まった弾薬等をほぼ全て消費してしまっていた。弾が無くても動ける艦娘は居るが、格闘戦距離まで突撃するという危ない橋を渡る事はしないし、男は基本的にさせない。
男自身が戦場へ出ても良いのだが、現状、戦う・戦闘の回避をするにせよ対策を練られて満足に戦う事が出来ない。艦娘と共に戦場へ赴くことが必須なのである。
深海棲艦達は空飛ぶ人型を怖がる。出会いたくない、速攻で死にたくはない為に人型が飛んで居るのを極端に嫌う。そして深海へと逃げる。追って来たら、生きる事を諦め、自分諸共に自爆をしようとしている。
男もそれを理解しているからこそ、自信を救命要員として現場に駆け付ける程度にしている。
・・・艦娘達からすれば、救命活動でさえも、自分達の大事な者が戦場へ行くのを止めたい。しかし、現状、貴重な人的資源を喪失するのは痛い。物資の減少よりも人的資源は補給に時間が掛かるのを、男の鎮守府の面々全員が理解しているのである。
「提督、オスとの戦闘に因る物資消費を数値化しました」
執務室。大淀から書類を受け取った男は、その紙を見て、深く嘆息する。
「もう、一昨日に請け負った、討伐対象へ動かせる物資が無いか。・・・本部に頼んで融通して貰うか・・・」
「その事ですが、融通は依頼してありますが、
「居ない?」男は不思議そうに大淀へ訊き、大淀が頷く。
「昨日、攻撃目標を見失ったそうです。見張っていた艦娘が、逃げられたと悔しがっています。最新鋭の電探を使用しても、敵を発見出来なかったそうです」
「・・・不思議な事だな。居なくなるだなんて、今回が初の出来事か?」
「実は、提督が大和を救出した所も、深海棲艦達が居なくなっていたそうです。今回が2例目です」
「・・・敵が攻撃後即撤退をするようになったと考えるべき、と思うか?」
「この2件ですが、この星に住む人族・艦娘への被害は0です」
「占拠はされど、実害は無し、か・・・」
「又出現するようなら討伐。捕獲出来るなら捕らえましょう」
「そうだな」
男と大淀は意見が一致。
・・・男と、この逃亡した深海棲艦達が出会うのは数ヶ月後の出来事である。
「・・・ところで、提督?」
大淀が質問をしたい様子なので、男は「何かな?」と聞いてみる。
「昨日戦闘に用いたあの装備、AI入りだったそうで・・・」
「・・・ああ、そうだ。・・・しかし、ものの見事に壊れた」
「何のAIが入っていたんですか?」
「第1次艦娘の開発者だったそうだ」
大淀の「開発者?」と言う疑問に、男は肯定。
「君と同じく、元は人間だったそうだよ」
「・・・そのAIの、元々の名前は聞きましたか?」
その問いに、男は「しまった、忘れた!!」と否定。大淀は溜め息を吐いて顔を
「AIの自分を、愛称でサンプット、略してSPだと言っていたのは覚えているよ」
男は焦って記憶していた事を言う。それを聞いた大淀は、少々考える。
「・・・私以外に、AIになった人間は居ない筈なのですがねぇ・・・」
大淀の呟きに、男は「えっ?」と声を出す。
「私がAIにされた装置。あれは『電脳世界を、悪意を以って支配されては困る』という事で、私の事件後、その装置自体が私にも秘匿状態だったのです。故に破壊されたのだと思っていましたが、違ったようですね」
且つてAIだった大淀にも秘匿されていた重要事項。
大淀自身、電脳世界を支配しようと思った事は有る。様々な記録にハッキング・アクセスして情報を見ていた事がある。AIの所為で、強固なパスワードをアナログで記録して置かなければ、全ての情報が盗まれる時代となっていた。
しかし、AIに成り果てた彼女の目の前で『すまない、本当にすまない・・・』と滝の様に溢れる涙を流しながら言う実の家族。その姿を思い出す度、電脳世界侵略の気が失せた。
ともすれば、大淀は電脳世界の深海棲艦と成っていた可能性も在ったのである。
そんな大淀でさえ知らないAI。大淀は彼女が何者であったのか、全く見当が付かない。
「提督。AIの元になった人は生きて居るのですか?」
「・・・いいや。『研究者達は皆死んで、最後にその研究所で生きて居たのは第1次の五十鈴のみ』と言っていた」
男のその答えに、大淀は思考。暫く間が空く。
「ここの五十鈴だったりしたのでしょうかねぇ・・・」
大淀の呟きに、男は「さあな・・・」と答える。
この男の下に居る五十鈴は自身の出生を誰にも語った事が無かった。
単に訊かれなかった為に、話した事が無かったのである。この男が五十鈴へと訊けば彼女は喜んで話す。
この男自身もほぼ忙しい毎日を過ごして居た為、この鎮守府の誰とも、身の上話をした事が無い。そんな話をチラとした事が在るのは、ここに居る第1次の明石と、もう死んで居る歩兵達の前でだけ。明石はこの秘密を誰にも言わない。その他に聞いた者は皆、この世に、もう居ない。
少しでも知っているのは、大淀と、生き残った歩兵もう1人だけ。男の人間との『人脈』という名の山脈は戦争に因って崩れ去っている。既に平地、更地と化した。この男は艦娘との絆が残っているのみである。
『提督。そろそろ、稼働させた建造機から、艦娘が誕生する時間です』
「おお、いよいよか!」
妖怪の連絡に、男は建造機の在る工廠へと小走りで向かう。大淀や男の近くに居た艦娘達もそれに
小型な建造機は3日前に稼働させていた。3日も在れば、第3次艦娘は誕生する。時にはもう少し長い事も在るが、艦娘が9日以内には誕生。大型建造機も同様である。誕生する艦娘は全てランダム。但し、建造の際は重複は一切しない。同じ第3次艦娘の魂は重複して所有する事は出来ないのである。
誕生する艦娘と提督との間に何かしらの接点が在る場合、その艦娘の記憶を持っていたりする。良い行いをしていればその提督にとって良い行動を。悪い行いをしていればその提督を殺しに来たりもする。ヒトデナシは抹殺される。
・・・まあ、この男は、艦娘にとって良い行いばかりをしているので、嫉妬はされても怒られる事は無い。
男が建造機の所まで行くと、そこには沢山の艦娘達が居り、新規艦娘の誕生を今か今かと待っている。
先日のオスを倒しに言った面々や工廠に居る連中、北上2名、その他諸々が建造機の前に来て居る。
・・・この場に居ないのは、鎮守府周辺警戒に出掛けた者達と大井だけ。
「お、皆揃って居るのか」
「そりゃあ、暇だし。今居る人員との顔合わせは大切でしょ?」
男の言葉に、近くに居た艦娘が答える。
「顔合わせねぇ。・・・君達の場合、新人でも会った事が在る様に話し掛けているのは、何故かな?」
「う~ん、・・・『会えば、名前が何となく判る』と言えるかなぁ」
「私はBYが無いと、誰も判らないな・・・」
「それが普通。提督はそれで良いんだよ。提督は記憶力良い方だけど、知らない人を見て名前を分かれって言われても困るでしょ?」
それを言われた男は、少し口ごもった後、
「・・・ま、まあな・・・」
と、苦し紛れの様に答える。間の空いた答えに、彼女は疑問に思う。
「・・・何、今の間は?」
男の変な回答に彼女は訝しんだ。
「な、何でも無いよ」
「気になるなぁ~・・・!」
「そんな事より、艦娘が出て来るぞ!」
男は話を逸らし、もう誕生しますよとばかりに煙を吹く建造機の方を向く。後で問い詰めれば良いと、艦娘達も建造機を見る。
建造機の扉が開く。そこから
建造機から出て来た艦娘は、男を見てビックリした後、周囲を見回しながら口を開ける。
「はーい、・・・皆、お待たせ? SP変わって、夕張博士、到着いたしました!」
男はそんな夕張を見て表情を緩める。その艦娘が、極めて短い期間で在ったが、戦友だったから。
「・・・ゆ、夕張・・・博士ぇー?! 第1次艦娘原案者であり、開発者の、あの夕張博士だと言うんですか?!」
博士と言う単語に、大和が反応。大声を出して説明する様な言い方をする。それに夕張は肯定する。
「そうよ。・・・いつも艦娘名で通していたから、人間名はすっかり忘れたわね・・・」
「・・・でも、博士。もう第1次は・・・」
大和は言い辛そうに言い、それに夕張は苦い顔。
「そうなのよねぇ。・・・でも、生きて居る第1次達の為に、私は頑張るわ!
自分で気を持ち直した夕張は明石の方に向かって言う。
「明石、今日から私も頑張るから!」
『はーい!』と2名の明石から返事が返って来る。両名からの返事に、夕張は苦笑。
「何か、明石達1人1人の言い方考えなきゃぁね・・・」
夕張の呟きを男は聞き取り答える。
「第1次の明石は、『ロボット』の愛称で行こう」
「・・・提督、良いんですか? 明石が1人、聞こえた様子で、貴方を睨んでますよ?」
夕張は小声で言いながら、小さく指差す。指差されている方の明石は、地獄耳でも持っているかの様に、男が『ロボット』と言う単語を使った事に対して怒った様な表情をしている。膨れっ面。
「なぁに、あれはいつもの事さ。それに、個別に居る時は、彼女の名をちゃんと呼ぶよ」
明石をネタに少し笑った後、
「提督。私、SP。今度は艦娘、夕張として、微力ながら貢献させて頂きますね!」
「・・・ああ、頼んだ!」
男と夕張は固い握手を交わす。
「あの、ところで提督・・・」夕張が突然、モジモジし始める。
「何かな?」
「今日の夜、私と突き合ってくれません?///」
男はその言葉の意味を探る表情をする。・・・そして急に真顔になった男は、
「おい、馬鹿、やめろ。この話は早くも終了ですね」
夕張へとキッパリと言い放つ。
その言葉に、夕張は呆気に取られた顔をした後、吹き出す程に笑い出す。
「あっはっは。貴方感染したんですねぇ!?」
「な、何をだ?」
「今の言葉使い、流行していた星が在ったそうなんですよ。そこの星人が、この星で感染症みたいに広めていたとかって話が在りますよ?」
夕張の言葉に、「・・・整備兵か・・・」と男は懐かしむ様な顔をする。
男の表情に、夕張はハッとして、バツの悪そうな表情になる。
「ご、ごめんなさい。・・・あの、貴方が整備兵と言ったその彼も死んだのですね・・・?」
夕張の問いに男は「消息不明だ」と答える。
「不明。・・・そうですよね。・・・深海棲艦と戦って生存した男性は、ほぼ貴方のみ・・・」
夕張は悟った。その男性は死んだのだと。
だが男は
「本当に消息不明なんだ。今も生死・行方不明の中で『もしかしたら、生きているかもしれない』という候補は、彼だけだ」
と、もう一度答える。
「えっ?・・・如何言う意味です?」
夕張は自分で出した答えと違う回答を不思議に思った。
夕張の疑問に答えさせる為、男は大淀を呼ぶ。呼ばれた大淀は答える。
「そのヒトは戦時中、装備を変えて海戦の中、戦闘を継続して居ました。私が最後に分かるのは、戦争当時、彼は数少なくなった第1次治療型艦娘の直掩の任に就きました。彼のAIに依る定時報告が無くなってから・・・その後の消息は分かりません」
「分からない?」と言う夕張に、大淀は苦笑しながら「彼は特別なヒトでしたから・・・」と前置きして言う。
「彼は歩兵用装備を着用するよりも、元々着込んでいた鎧の方が頑丈でしたから」
大淀の言葉に夕張は意味が分からず、「は?」と
大淀は「彼が良く言っていた台詞を言ってみましょう」と言い、エヘンと咳払い。彼を真似る様に声を真似て言葉を紡ぐ。
『
・・・・・・
事実、男は数年後に彼を見掛ける事になる。如何やって生き抜いたかは、彼とクリスタルの輝きを放つ宝石だけが知っている。
彼が死ぬ?・・・いやいや、そんな事は無い。もし仮に死んだのだとしても、HPという場所へ一時帰還しただけであって、又舞い戻って来る。
彼と、彼の星の住人はとある神様の様な存在の加護を受けている。その者達の生は、寿命か、生きる事を諦めた時にその生涯が終わるのだ。
我々の想像では思いもよらない事。宇宙規模のアンビリィバボー。その星に住む者に訪れる奇想天外な出来事。
それは今、・・・深海棲艦に起きているのかもしれない・・・