「では、記憶さえも戻ってしまったというのか?」
「多分な。その、昨日言ってた事が当てはまればってとこだけどよ」
発令所で弦十郎へ事情説明を行うクリス。今、シキは医務室でエルフナインが診察中。若干クリスが離れる事に不安を見せたものの、何とかそれをなだめて彼女はここへ来ていた。
「ギャラルホルンも昨日から休眠状態。その原因が彼だとすると、これはどういう意味だ……」
「分からねーけど、一つ仮説を立てるならあいつが向こうと同じ外見になるまで平行世界の、いやあいつのいるべき世界の時間を止めるためかもしれねー」
「……信じられないが有り得ると思ってしまえる何かがあるな。もしそうなら、彼の今後の暮らしをどうするか……」
「そ、それなんだけどよ」
片手を顎に当てて考え始めようとした弦十郎へクリスがどこか照れくさそうに切り出す。何か名案でもあるのかと彼が視線を向けると、彼女は少しだけ横を向いて頬を掻いた。
「あ、あたしが引き取るってのは、ダメか?」
「クリス君が? いや、別にそこまで問題はないかもしれないが」
「あたしは一人暮らしだし、学院の方も一年もねーからさ。卒業後は、装者やりながらあいつの面倒を見てくってのが一番やり易いだろ? それに、あたし以外に面倒を見たいって奴はいないだろうし」
「それはそうかもしれないが、クリス君にやりたい事などがあれば俺はそちらを」
「そのやりたい事がそれだっての。……いつだったか、おっさんはあたしの面倒見てくれた。だから、あたしが今度はそれをしてやる番だ。あいつは向こうのあたしにあったかい場所や時間をくれた。ま、その恩返しって訳じゃねーけどな。あたしなりに考えた結果なんだよ」
クリスの申し出に弦十郎は腕を組んだ。年齢差だけで言えば姉弟と扱っても差し支えないが、他人は他人である。しかも、シキは別の世界の住人であり、いつかは帰らなければいけないのだ。それを踏まえて弦十郎はクリスへ尋ねた。
「辛い結末になるかもしれないぞ?」
「……承知の上だ。だがなおっさん、ここであいつの面倒をちゃんと見てやれない方があたしは後悔するってんだよ」
「そうか。なら、俺からは何も言わん。とりあえず、彼の戸籍などを用意しなければならないし、それが終わるまでは正式な同居は無理だ。そこは理解してくれ」
「ああ、分かってる。じゃ、あたしは行くぜ」
部屋を出て行ったクリスを見送り、弦十郎は大きく息を吐いた。
「厄介な事になったな……」
医務室にシキを迎えに行ったクリスを待っていたのは、困り果てたエルフナインと似た顔をした彼の姿だった。
「あ、クリスさん」
「クリスお姉ちゃん」
「一体どうした? 二人して疲れた顔しやがって」
「実は……」
検査のためにと医療スタッフが注射器を取り出した瞬間、シキが全力で嫌がったのだ。そのため、エルフナインが今までその必要性と痛みは最小限で済むという説明をしていたところだった。
「……そうか。苦労かけたな」
「いえ、本当に要さんが外見相応になったと実感出来ました。昨日はあんなにもあっさり協力していただけましたし」
「ま、とりあえずあたしに任せてくれ」
「はい、お願いします」
小さく息を吐いてクリスはシキへと近付いた。そしてそっと彼の体を抱き寄せる。
「シキ、お前も男なら我慢しろ。たしかに痛いだろーが、ほんの一瞬だ。それに、どうしても嫌だって言うなら、姉ちゃんがこうして傍にいてやっから」
「……ホント?」
「ああ、本当だ。だから男らしく注射ぐらいされやがれ」
「……分かった」
シキの口から了承の意が得られた事で、クリスはエルフナインへ小さく頷き検査の実施を促す。こうしてシキの血液は採取され、クリスは腕に乗せた脱脂綿を押さえた彼を連れて医務室を後にする。向かうは彼女の自室、のはずだった。
「クリスお姉ちゃん、どこ行くの?」
「お前の服を買わないといけねーって思い出したんだ。だから服屋に行くぞ」
シキの手をしっかりと握り、クリスは少しだけ照れくさそうに歩いていた。だけど、本心ではどう思っているかはその握っている手が物語っている。
シキが帰る手段を失った事と記憶までもなくした事は、クリスの中にあった保護欲の歯止めを無くすのに十分だった。彼が戻れるようになるまでは誰かが面倒を見なければならない。そうなれば優しく母性本能をくすぐられていた彼女が名乗りを上げないはずはなかったのだ。
「とりあえず、上着を一週間分とズボンは三枚は確定だからな? それと、下着は自分で選べ」
「う、うん。分かったよ、クリスお姉ちゃん」
「……おう」
にっこりと笑顔を向けるシキにクリスは顔の赤みを増しながら答えた。昨日はどこかからかいやおふざけの雰囲気があったお姉ちゃんが、今日は紛れもない本当の意味になっていたからだ。こうして衣料品店でシキの当座の着替えなどを購入したクリスは、意気揚々と部屋へ帰り、買った物の洗濯を始める。その様は、本当に弟の世話を焼く姉そのものだ。
「クリスお姉ちゃん、僕にも手伝える事ない?」
「あ? そうだな……」
自ら進んで手伝いを申し出たシキに内心で喜びながら、表情にはなるべく出さないようにするクリス。だが、良く見れば顔がほころんでいるので分かる者には分かるだろう。
そんな風に過ごして、昼食はスーパーへ買い物へ行って作ったミートソースのパスタとなり、夜も当然クリスが面倒を見続ける。そしてその夜、二人にとっての転機が訪れる。
「そろそろ風呂入れよ~」
「うん、分かった」
それは何気ない事から始まった。バスタブに湯を張ったクリスがシキへ入浴を呼びかけ、それに彼が返事したまでは良かった。だが、ふとそこでクリスに不安が湧き起こる。今のシキは心なしか精神年齢が見た目よりも幼く感じている事だ。
実は、彼がああなった原因の一つに弦十郎や了子との触れ合いがある。男気に溢れる大人な彼と、自由気ままで奔放な彼女と接する事で、気弱なままで物怖じしていてはいけないと思った結果、シキの性格は形成されていったのだ。つまり、元々の彼は今のように素直ではあるが、甘えが多く見える人格だったのである。
「一人で大丈夫か?」
「え、う、うん。大丈夫だよ。クリスお姉ちゃんに迷惑かけたくないし」
「……迷惑なんて思ってねーから心配すんな。何だ? 何か心配事でもあんのか?」
不意に漏れた本心を感じ取り、クリスがソファから立ち上がってシキの傍へと近寄る。そして彼の顔を覗きこむようにしゃがみ、その頭を優しく撫でた。
「……えっと、一人になるのが、ううんクリスお姉ちゃんと離れるのが怖いんだ」
ぽつりと呟かれた本音がクリスの心を掴む。かつて、彼女も一人きりになり、恐怖と不安の中で過ごした事がある。今のシキはそんな頃の自分と重なって見えたのだ。思い返せば、医務室でエルフナインへ預けた時も不安に揺れる目をしていた。そうなれば優しく面倒見のいいクリスがどうするかは言うまでもない。
「ったく、うし、なら一緒に入るか。その方が色々節約にもなるし」
「い、いいの?」
「ああ。ほら、さっさと着替えやらタオルやら準備しやがれ」
「うんっ!」
嬉しそうに動き出す姿を見てクリスは知らず微笑んだ。もう気分は姉というか母である。こうして彼女はシキと共に入浴する事となったのだが、脱衣所で服を脱いだ彼を見て思わず驚きの声を上げる事となる。
「なぁ!?」
「? どうしたの?」
シキのペニスは、勃起こそしていなかったが年齢から想像するものよりも幾分大き目であった。初めて見るペニスにクリスは顔を真っ赤にするも、その反応にシキが不思議そうにしている事で若干冷静さを取り戻す。自分が狼狽えてはシキに余計な不安を与えると、そう思って。
「な、何でもねーから」
「そう? ね、クリスお姉ちゃんも早く脱いでよ」
「さ、先に入ってろ。あたしもすぐ行く」
「そっか。じゃ、待ってるね」
素直に従いバスルームへと入って行くシキを見て、クリスはやはり彼が子供なのだと実感する。スケベな目を向ける事もなければ、勃起させる事もなかったからだ。そこに安堵を感じながら、自分へは若干の情けなさを感じてもいたが。
(情けねー……。たかがガキの裸だろ。あれが中身大人とかなら問題だろーが、今のあいつは本当にガキだ。なら、あたしが狼狽えてる方が馬鹿みてーだ)
意識を切り替え、服を脱いでいくクリス。下着も外して、一度だけ深呼吸をすると彼女もバスルームへと入った。そこではシキがシャンプーなどのボトルを眺めて首を傾げていた。
「何やってんだ?」
「これって体を洗うのと頭洗うのだよね?」
「ああ」
「なのに何で三本あるの?」
「……リンスって言って分かるか? ま、中にはシャンプーと一緒になってるのもあるけどな。ほら、手ぇ出せ」
いかにも男の子らしい疑問にクリスは笑みを浮かべつつ、ボディーソープを手に取った。それをシキへ差し出し、その手へ中身を出す。
「それで体を洗え。頭はあたしが洗ってやる」
「ありがとう!」
「……ん」
満面の笑みと感謝の言葉。それにクリスは照れくさそうに頬を掻く。そうやって体を洗い始めたシキだったが、そこで彼は自分の異変に気付いた。
「あれ?」
「どうした?」
「クリスお姉ちゃん、僕、病気かも」
「は?」
「これ……」
そう言ってシキが指さしたのは勃起したペニス。その大きさにクリスは目を見開いた。たしかに成人男性の大きい者には負けるだろうが、それを知らないクリスからすれば十分巨大と感じるサイズである。それに黙り込んだ事で、シキは自分の予想が間違っていないのかと不安に思った。
「や、やっぱり病気?」
「い、いや、そうじゃねー。その、これは男ならなっちまう事だ」
「そうなの?」
「……何でこうなったか分かるか?」
「ううん、気付いたらなってた。あ、でもクリスお姉ちゃんが来るまではこうじゃなかったよ」
「……そうか」
やはりと思いながらクリスは顔が熱を持つのを抑えられなかった。自分の裸を見て勃起したという、当然と言えば当然の事実。それが彼女には何ともくすぐったく恥ずかしい事に思えた。こんな中身でも男なのだなと思う反面、自覚がない辺りが子供らしいとも思うのだ。
「ねぇ、クリスお姉ちゃん、何かこれだと苦しい感じがする……」
「苦しい……」
「うん。辛いよぉ」
これが昨日のシキであれば分かってて言ってるだろと怒り狂ったクリスだが、今の彼は下心なしである。そのため、クリスとしてはどうしたものかと迷った。言葉だけで説明して納得させられるか。いっそ少しだけ行動でも示してやって対処法を教えるべきかと。
そして、出た答えは簡単だった。目の前にいるのが無知な少年である以上、クリスが選ぶのはその不安や心配を消し去る方だったからだ。
「じゃ、椅子に座ってくれ。あたしが、姉ちゃんが元に戻してやるから」
「ホント?」
「ああ。ほら、座ってくれって」
「うん」
まだ不安が消えないのか、声と顔に元気がない。それを感じ取り、クリスは腹を括ってシキの背後からその体をを押し付けるようにしてペニスへ手を伸ばす。
「うぇっ!? く、クリスお姉ちゃん?」
「いいから。あたしのやる事ちゃんと見てろ」
「う、うん」
クリスの大きな乳房を感じてより硬さを増すペニス。それに驚きを浮かべるものの、クリスは手を離す事なくペニスを優しく扱き始めた。
「ふぁぁぁぁ、な、何これ? クリスお姉ちゃん、僕、何だか変な感じがするよ」
「気にすんな。それに全部任せちまえばいい。そうすれば元に戻るからな」
「う、うん……」
世の男性が見れば、羨ましいと口を揃えて告げるだろう。クリスのような巨乳美少女に全裸で密着されながら、ペニスを手で扱いてもらっているのだ。心が幼いシキは、その未知の快楽に身を委ねてクリスの奉仕に酔いしれる。そして、呆気なくその時はきた。
「な、何か出ちゃう! おしっこ出ちゃうよぉ!」
「心配するな。ほら、そのまま出せ」
「う、うんっ! あああああっ!」
「うおっ?!」
勢い良く放たれる精液。初めて見るそれにクリスは思わず魅入った。その熱を手に感じながら、彼女はそっとその手をペニスから放して眼前へ持ってくる。
「実物は初めて見るが……良い匂いがするのは、生命のスープって奴だからか……」
どこか呆けた顔をしながら手に付いた精液の匂いを嗅ぐクリス。その鼻腔へ何とも言えない良い匂いが入り込み、思考を溶かす。それは、クリスが初めて感じる生命のスープの匂いだった。そのため、気付けばクリスはそれを舐めていた。そう、平行世界のクリスが響と共に堕落の道を歩き出した時のように。
(な、何だこれ……メチャクチャ美味ぇ……)
手に付着した精液全てを舐め取り、クリスは蕩けた表情のまま立ち尽くす。と、そこへ聞こえてくるシキの声。
「ど、どうしよ? まだおっきなままだ……」
今のクリスに、それは誘いにしか聞こえなかった。彼女は視線を動かすと、未だ勃起しているペニスを確認。その瞬間、クリスは躊躇う事なくシキの前へと回り込んだ。
「へ? クリスお姉ちゃん?」
「じっとしてろ。また、姉ちゃんが楽にしてやるから」
「う、うん……」
どこか期待に満ちた目でクリスを見つめるシキ。彼も本能で悟っているのだ。目の前の相手が何をしてくれるのかを。それは、彼の奥底に刻まれた体験が教えるもの。発情した女が何をするか。それを知っているのだ。
そしてクリスはシキのペニスへ舌を這わせた。未だ残る精液と流れ出るカウパーを舐め取り、どんどんその思考を溶かしていくと知らずに。
「レロレロ……レー」
「く、クリスお姉ちゃんっ! これ、気持ちいいよっ!」
「へへっ、そうか。なら……はむっ」
「ああっ! オチンチンがクリスお姉ちゃんの口の中にっ!」
最早今のクリスはシキの事を心配する姉ではなくなっていた。ただ、そのペニスから出るものを欲する一匹の雌となっていたのである。無垢な少年を食べる淫乱な雌。その構図はかつてのシキとクリスとは正反対であった。
バスルームに響き渡る淫靡な水音。気付けばクリスは自らの乳房を揉み、性器を愛撫していた。シキはそれに唾を何度も飲みながら、与えられる快感に身を震わせる。
「クリスお姉ちゃんっ! クリスお姉ちゃんっ!」
「ジュルルル……っぷは! レロレロレロ、はむっ」
「だ、ダメぇ……また、また出ちゃう! また白いおしっこ出ちゃうよぉぉぉぉっ!」
その言葉に出せとばかりに強くペニスを吸引するクリス。そのバキュームフェラに耐え切れず、シキは彼女の口内へその遺伝子を吐き出した。無意識にクリスの頭を両手で押さえながら。
「出るぅぅぅぅぅっ!」
「ふんんっ!? ……ごくっ、ごくっ」
「はぁぁぁぁ……クリスお姉ちゃぁん」
「ちゅ~……っぱ」
最後に尿道の中のものまで吸い出して、クリスはペニスから口を放した。すると、シキは腰砕けになったのか、彼女へと倒れ込むように体を倒す。
「おっと」
「クリスお姉ちゃん、僕、眠い……」
「疲れたんだろうな。仕方ねぇか。少しだけ風呂浸かって出るぞ」
「……うん」
その後、クリスの胸に顔を埋めるようにしながら湯に浸かり、シキは至福の時を過ごす。当然ベッドで一緒に眠り、クリスはシキの体を抱き締めるようにして眠った。そう、そのまま二人での生活が始まるとクリスは思っていた―――のだが。
「では、ついてきてくれ」
「う、うん。クリスお姉ちゃん、またね」
「……ああ」
翌朝、クリスの部屋を翼が訪れた。その彼女から弦十郎の伝言を聞かされ、クリスは己が失態を悔やむ事となる。あの少年がまだ大人の中身であった時のやり取りを失念していたからだ。
―――翼やマリア君へも預けてみる話があったそうだな。ならば、彼女達にも預かってもらい、その上で彼に判断してもらうべきだと思う。
あの夜、シキが翼やマリアへ言っていた言葉。それを翼が弦十郎へ教えたのである。理由は一つ。翼としては、クリスだけにシキの事を押し付けるようで気が引けたためであった。それがクリスも分かっていたため、すんなりと受け入れたのである。
遠ざかっていく背中を見送り、クリスは拳を握った。
「嘘、吐いた事になんのかな、これ」
去り際の眼差しは、どこか裏切られたような色を宿していたようにクリスには見えたのだ。勿論そんな事はないと思っている。シキへは、色々とクリスにも準備があるので少し時間が必要と翼から説明がされていた。
「……シキ」
見えなくなった背中に届かぬ呟き。それは、紛れもなくクリスの中に何かが芽生えた瞬間だった。
「あの、翼お姉ちゃん、これからどこへ?」
「私の部屋だ。その、少々散らかっているが気にしないでくれ」
「へ? うん」
クリスによって作られた簡単なお泊りセットを背負い、シキは翼に手を引かれて道を歩く。ただ、多少気になっている事があった。それは翼の変装。帽子と眼鏡をかけているのだ。それが妙に似合わず、違和感を放っていた。
「ね、翼お姉ちゃん」
「何だ?」
「帽子、あまり似合ってないよ?」
「ぐっ、はっきりと物を言うのは変わらずか……」
子供らしい残忍性とでも言えばいいのか、シキは躊躇いなく思った事を口にする。それに翼が若干苦い顔をした瞬間だった。
「でも、眼鏡は可愛いよ!」
「っ!? そ、そうか……」
世辞などではないと分かってしまうからか、思わず赤面してしまう翼。輝く笑顔と共に告げられた言葉が彼女の心を打ったのだ。だが、そんな笑顔も翼の部屋へ入った時には消え失せる。
「……これ、泥棒でも入ったの?」
「うっ!」
服などがあちこちに散乱している状況に、シキは本気で心配するような声で翼へ尋ねた。それが、余計彼女の心を傷付けると知らずに。
「片付けないといけないね」
「そ、そうだな。頼めるか?」
「うん、分かった。翼お姉ちゃんは何するの?」
「仕事に関する資料を読んでいる。終わったら教えてくれ」
「はーい」
こうしてシキはかつて響もやった翼の部屋の片づけを経験する事になる。すると、どこかで似た事をしたような気がしてくるのだ。だが、そんなはずはないと思い直して彼は真面目に片付けていく。翼はそんな様子を眺めながら小さく笑みを浮かべていた。響の時は後輩であり、同じ装者ともあって色々と思う事もあったが、シキに関してはそういうものは一切ない。そのため、本当に親戚の子を預かっているような気分になっていたのだ。
(可愛いものだ。懸命に働いている。……少々情けなくはあるが、見かけのためか恥じらいよりも微笑ましさが強いものね)
最後には素の感想が出てしまう程、少年は健気に片付けていく。服を洗濯機へ持っていき、部屋の掃除を始め、それが終わる頃には洗濯機が止まっており、それを干そうとしたところで翼も動いた。さすがにそれは色々と思う事があったのだろう。
「翼お姉ちゃん、これはどう干すの?」
「し、下着は私がやるからいい! 他の物をお願いっ!」
「はーい」
シキの手にしていた物を見て慌てて動いたと言うのが正しいかもしれないが。この辺りがクリスとの大きな違いであり、シキに翼を年上だけど可愛いと思わせる要因となる。洗濯物を干し終えたところで、シキは首を傾げて翼へ尋ねた。
「どうしてこれだけ部屋の中で干すの?」
「その、女性のこういう物を盗んでしまう者がいるからだ」
「そうなんだ。悪い事する人だね」
「そうだな。まぁ、男性の中にはそういう者もいるのが現実だ」
「そんなに欲しければ自分で買えばいいのに」
そのシキの意見に翼は少しの間呆然となって、やがて笑い出した。その楽しげな笑い声に彼は理解出来ないとばかりに首を傾げ、翼を見つめ続ける。腹部を押さえて笑う彼女は、とても愛らしく見えてシキの心を弾ませた。
「……ふふっ、久しぶりにこんなに笑った。中々愉快な事を言うな」
「そう?」
「ああ。ふふっ、たしかに欲しいだけなら買えばいいか。きっとそれも中々難しいからだろうが……」
「そんなに高いの?」
「あははっ! 値段の問題だけじゃないの。でも、そうね。それもあるかもしれない」
無邪気に接してくるシキへ翼も遂に素の自分を見せた。弟と思って接してみようと、そう思ったのだろうか。あるいは、子供と思って接する事にしたのかもしれない。とにかく、ここから翼のシキへの接し方は変わった。姉のように優しくも厳しくあろうとしたのである。ただし、最初に見せただらしない一面の影響で、そこまでの迫力は得られなかったが。
「ねー、翼お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「お腹すいたぁ」
「……そうか、もうお昼だった。分かった。じゃ、何が食べたい?」
そう言って翼が見せたのは宅配系のメニューの数々だった。それにシキは目を輝かせる。あーでもないこーでもないと言いながら、空腹も忘れメニューとにらめっこ。そんな様子を笑みを浮かべながら翼を見つめる。やがて一つのメニューを手にして、シキは希望のオーダーを告げた。
「じゃ、これでいい?」
「うんっ!」
電話をかけ、注文を始める翼。その様子を待ち切れない様子で見つめるシキ。注文が終わると翼はシキへ視線を合わせてこう告げる。品物が届いたら受け取りをして欲しいと。そこには、風鳴翼がここに住んでいるとばれる事を恐れている事が窺えた。そんな事を知らないシキではあるが、翼の雰囲気から何が事情がある事は察したのだろう。力強く頷いたのだ。
「任せて。僕がちゃんと受け取るよ」
「お願い。代金は用意するから」
「うん」
もう気分は親戚の姉である。素直なシキに翼もクリス同様絆されており、頼んだピザを一緒に食べる時には自然と笑みが零れていた。
「お~っ、伸びる~」
「こら、食べ物で遊ばないの」
「はーい……」
「食べ終わって片付けをしたら、買い物に行くから。夕飯は、さすがに店屋物じゃあね」
「てんやもの?」
「宅配の事。夜は、その、私が作るから」
「じゃ、僕も手伝うね」
「ええ、お願い。その、実は少し自信がなくて」
かつて味噌汁を作って失敗した事のある翼にとって、自炊と言うのは中々ハードルの高い事ではあった。だが、こうして幼い存在を預かった以上、いつも外食などではいけないと思うぐらい責任感は強いもの。なので彼女は今再び自炊の道を行こうとしていた。
スーパーでの買い物では、翼は変装の仕方を変える事にした。帽子ではなく髪型を変え、ポニーテールではなくツーテールとし、眼鏡をかけて服装を普段の動きやすさ重視から、ある時の事件を切っ掛けに取り戻した振袖を着たのである。
勿論目は引いたが風鳴翼だと思う者は皆無であり、意外にも変装として機能していた。シキもその美しさなども相まって彼女によく似合うと褒めちぎり、翼の心証を良くした事は言うまでもない。
「それで、夜は何をするの?」
「そうね……」
良家のお嬢様だろうかと思われるような翼の立ち振る舞いに、周囲の者達は小声で何事かを話しているが、それを意にも介さず、彼女はただ献立をどうするかだけを考えていた。さすがに米を炊く事は出来る。とはいえ、米を研いで水加減さえ間違えなければいいだけであるからなのだが。
「……魚でもいい?」
「うんっ!」
「そう。じゃ、鮮魚売り場へ行きましょうか」
仲の良い姉弟の姿がそこにはあった。少なくても周囲からはそう見えるものだろう。こうして翼が購入したのは旬の秋刀魚。それに合わせて大根を購入し、おろしとみそ汁の具とする事にしてスダチも購入。シキが欲しがったアイスも買って、手を繋いで歩く様はどこから見ても赤の他人とは思えない。
「帰ったら、僕が大根おろすからね」
「じゃあお願いしようかな?」
笑みを向け合いながら翼は自分の中にある母性を自覚していた。奏と過ごしていた日々とも違う感覚。捨てたはずの女性らしさが戻ってくる。いや、この場合は母性だ。母親らしさとでもいうのだろうか。その感性を取り戻しながら、翼は繋いだ手に少しだけ力を込める。暮れ始めた夕日を見ながら、二つの影が仲良く揺れていた……。
「お風呂はどうするの? 雪音のところでは一人で入った?」
「えっと、一緒に入った。僕が一人は不安だって言ったら、クリスお姉ちゃんが一緒に入った方が節約になるって言ってたけど」
「……そう」
夕食は大きな失敗もなく無事食べ終わっていた。秋刀魚はシキがネットを使って焼き方を調べた事もあり、上手に焼けたので二人して焼き上がりを見た瞬間、両手をそっと合わせた程だ。
大根おろしはシキが頑張った事もあって、秋刀魚をより美味しく食べる事へ貢献していた。翼としても、誰かと自室で食事をしたのは初めてに近いため、不思議な感覚に陥りながら楽しんでいたのだ。
「でも、昨日の感じなら大丈夫だよ。ちょ、ちょっと困った事もあったけど、もう対処の仕方は教えてもらったし」
「困った事……?」
(一体何だろうか? 対処法があると言う事は雪音が知っている問題だったという事だと思うけど……)
クリスとあった事を考える翼ではあったが、おそらく思いつく事はないだろう。自慰行為を教えたばかりかフェラチオまでしたのだ。そんな事を思い付くはずもなく、翼はシキへ尋ねるもクリスから口止めされた彼は言う事を出来ないと拒否。
こうして翼は不安を感じてシキと一緒に入浴する事にした。そこで翼もシキのペニスを見て思わず息を呑んだ。陰毛こそ生え始めという感じではあるが、陰茎そのものは肉体年齢に比べると大きいと感じたために。
「翼お姉ちゃん、どうしたの?」
「い、いや、何でもないから」
「? 変なの。昨日のクリスお姉ちゃんも似た感じだったよ?」
「ゆ、雪音もか……」
そこでやはり似た事を思うのだなと感じ、翼は下着姿へとなる。それを見たシキは惚けたような顔で彼女を見つめた。それと共にペニスが勃起していく。
「うぇ!?」
「な、何?」
「え、えっと……何でもないから。先にお風呂へ行ってくれる?」
「……うん」
若干後ろ髪を引かれるような顔でバスルームへ入って行くシキを見送り、翼は熱くなった顔をそっと両手で抑えた。初めて見た勃起したペニス。その強烈な見た目が焼き付いたのだ。
「あ、あれで子供と言うのだろうか? だ、だとしたら一体本来は……」
翼は知らない。似たような事を昨夜クリスも思ったとは。それでも意識を切り替え、下着も脱いで彼女もバスルームへと足を踏み入れる。すると、シキが困った顔で首を傾げていた。その手にはシャンプーやリンスなどが握られている。
「どうしたの?」
「翼お姉ちゃんもりんすって言うの使ってるの?」
「ええ。それが?」
「昨日クリスお姉ちゃんに聞いたんだけど、説明してくれなかったんだ。体を洗えって、そう言って手に洗剤を出してくれた」
「面倒だったのか、あるいは理解出来ないと思ったか。……両方か」
笑いながら告げられた内容に翼も思わず苦笑。クリスらしさをそこに感じ取ったためだ。その後、彼女はシキに背中を洗ってあげると言われ、少々戸惑いつつもならと椅子へ座った。するとシキはボディーソープを両手で泡立て、そっと翼の背中を優しく洗い始める。
「んっ」
「あれ? 痛い?」
「ち、違うの。ちょっとくすぐったかっただけ」
「よかった。じゃ、続けるね」
タオルを使わない事に翼は何も言わなかった。おそらくクリスからの助言などがあったのだろうと思ったのだ。実際、クリスは女性の肌は優しく扱えと言って、下手なスポンジなどよりも手で洗う方がいいと教えてはいた。疲れ果てた頭でも、女性関係の事は覚える辺りがシキらしいかもしれない。
そうやって翼の背中を洗いながらシキは無意識に呟いた。
「綺麗だなぁ……」
「え……?」
「あ、その、翼お姉ちゃんの背中って凄く綺麗だなって」
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして! じゃ、そろそろ流すね?」
「え、ええ……」
さて、こうなると次は翼がシキの背中を洗う番だ。その交代の際、翼は再度見てしまう。彼の勃起したペニスを。それに思わず赤面しつつ、シキがまったく気にしていないので自分が気にするのはおかしいと思い直し、彼女も背中を洗い始める。ただ、彼女はボディースポンジを使ってだが。
「これでいい?」
「うん、気持ちいいよ」
「そう」
一旦洗い始めれば小さく微笑みを浮かべるぐらい、今の翼は母性の人となっている。あの平行世界の翼にもあった女の面。それを彼女も持っているという証拠であった。
「ね、翼お姉ちゃん」
「何?」
内心上機嫌で背中を洗っていた時、シキが少しだけ不安そうな声を出した。それに不思議そうな顔をする翼へ、彼は振り向かずに問いかける。
「僕、明日はどこへ行けばいいの?」
「っ?!」
その問いかけが意味する事と理由を考え、翼は思わず手にしたスポンジを落としそうになった。クリスと共に暮らすと思っていたのに、たった二日で別の人間の部屋へ連れてこられる。そこから彼がたらいまわしにされると考えても不思議ではないと。
(私は、私達は何と愚かな事を。今の要さんは大人ではない。多感な年ごろの少年なのだ。それを忘れ、私も司令も動いてしまった……)
そう自責の念に駆られて手を止めてしまう翼に気付き、シキはそっと振り向いた。
「翼お姉ちゃん……?」
「っ……大丈夫。今ね、貴方を預かりたいって思っているお家を回ってもらっているだけなの。その中で、貴方がずっと居たいって思うところを最後に教えてもらうから。だから、後一回だけ他の人と過ごしてみて。それで、絶対終わりだから」
「ホント? ホントにそれで終わり? 僕、捨てられたりしない?」
「しない。それは、絶対にないから。だから安心して。ね?」
気付けば翼はシキを抱き締めていた。その慎ましやかな胸を押し付ける形となりながら。
「……翼お姉ちゃん」
「心配しないで。誰も貴方を、面倒に思ったりしていないから」
「…………うん」
そこからしばらく言葉はなかった。静寂が室内を包む。だが、それも次第に変化する。シキの荒い呼吸が聞こえてきた事で。
「はぁ……はぁ……」
「? どうしたの?」
「つ、翼お姉ちゃんに抱き締められてオチンチンが辛くなってきたんだ。だから……」
「おちんちんが辛く? っ!?」
不思議に思って覗き込んだ翼が見たのは、勃起したペニスを自らの手で扱くシキの姿だった。既にカウパーがとめどなく流れ、その匂いを漂わせ始めている。覗き込んだ事で翼の嗅覚がそれを捉えてしまう程に。
「何、この匂い……」
「ああっ! 出るっ!」
「出る……?」
「つ、翼お姉ちゃぁんっ!」
翼の名を呼びながら射精するシキ。その光景に翼はどこか遠い世界の出来事を見ているような気分になっていた。それでも、シキがぐったりと体を倒すやすぐに意識を切り替える。彼の体を抱き止めたのだ。
「大丈夫!?」
「……うん。白いおしっこを出すと凄い疲れるんだ」
「白いおしっこ……」
「うん、ほらこれ」
「っ?!」
そこでシキが見せたのは、自分の手に付着した精液だった。その強い匂いに翼は思わず赤面し、同時に思考が蕩けるのを覚えた。
(これは……いい匂い。ああ、これはあの時の立花と暁から漂っていたものだ。生命のスープの、とても好きな匂いだ……)
熱っぽい目でシキの手を、精液を見つめる翼。そして、彼女もクリスと同じ道を歩き出す。その見つめていた物を舐め取ったのだ。
「えっ!? 翼お姉ちゃん?」
「じっとして。私が綺麗にしてあげるから」
「く、くすぐったいよぉ……」
シキの声を無視するように一心不乱に精液を舐め取っていく翼。そう、平行世界の彼女もシキのスープの匂いにやられ、あっさりと堕落した事がある。そういう意味では、翼がこうなるのは当然と言えた。手に付いていた分を舐め取った後は、クリスのようにシキの前へ移動してペニスへしゃぶりつくのも同じだった。
「ジュルッ、ジュルルッ……」
「翼お姉ちゃんっ! き、気持ちいいよぉ!」
「っぷは、そう? なら、もっとしてあげる。このままだと辛いよね?」
「うんっ! お願い!」
「ふふっ、あむっ! ジュプジュプジュプ……」
蕩けた顔でペニスをしゃぶる翼。そこに普段の凛々しい彼女はいない。残っていた精液と流れ出るカウパーを飲み干すようにして、情けない顔をシキへ見せる。それがより少年の劣情を煽ったのだ。
(つ、翼お姉ちゃんがこんな変な顔してる……っ!)
雄としての興奮と昂りがカウパーを流させ、その味へ変化を与える。シキの気持ちがこもればこもる程、スープの味は良くなっていく。それを翼は知らぬまま、ひょっとこのような顔となりながら上目でシキを見つめ続けた。
性的な事への耐性がなく、我慢する気もないシキではこみ上げてくる射精感に身を委ねるのみである。故に彼はあっさりと翼へ告げた。
「翼お姉ちゃんっ! もう出るよぉ!」
「ジュプッ! ジュプッ! ジュルルルッ!」
「あああああっ!」
容赦なくペニスを口で扱く翼に、シキは堪らず腰を突き出すようにしながら彼女の頭を両手で押さえ付けて射精する。迸る大量の精液に翼は驚きつつも、口内で味わう味で軽く絶頂しながら彼女は恍惚の笑みを浮かべたまま飲み干していく。
(こんなに美味しいなんて……これが、生命のスープの味……)
この後、シキは射精による疲れで翼へもたれながら湯に浸かり、上がった後は共に同じベッドで眠る。翼はそのあどけない寝顔を眺めて愛しく思いながら抱き締めて眠った。
「では、行きましょうか」
「うん。よろしくね、マリアお姉ちゃん」
「マリア、一日でいい。そうしたら私か雪音のどちらかを選んでもらうから」
「はいはい」
どこか寂しそうな翼の眼差しに違和感を覚えながらも、マリアはシキを連れ立って歩き出す。シキも翼から言われた言葉を胸に寂しさを押し殺して歩き出す。ただ、最後に一言だけ見送る翼へ振り返ってこう告げた。
「翼お姉ちゃん、またね」
「っ……ええ」
優しく笑みを返して小さく手を振る翼。その姿はまるで弟を見送る姉そのものと言えた。
「随分翼と仲良くなったのね」
「うん、一緒にお風呂にも入った」
「えっ?」
「その、クリスお姉ちゃんが一緒の方が節約になるって言ってくれて、それを翼お姉ちゃんに言ったら、そういう事ならって」
「ああ、そういう事」
一瞬シキがスケベ心を起こしたのかを思ったマリアだったが、どこか申し訳なさそうな彼の表情と内容である程度察した。きっと今の彼は内面が見た目以上に幼いのだろうと。マリアも記憶を無くしたシキの様子はエルフナインから聞いていた。その際、クリスと離れる事を嫌がったという事を思い出していたのだ。
「でも、マリアお姉ちゃんは妹さん達と暮らしてるんじゃないの? 僕が行っても大丈夫?」
「心配いらないわ。今日行くのは私がたまに使っている部屋なの」
「そんなのあるんだ。マリアお姉ちゃん、おっとなぁ」
「ふふっ、そうよ。私は大人なの」
内面が成人であった時とは違い、心から凄いと思っての言葉にマリアも笑みを浮かべて応じる。前回とは違って、シキが完全に子供となった事はマリアの母性本能をより刺激する事となっていた。純粋に輝く眼差しを向ける彼に彼女は嬉しく思ったのだ。
こうしてシキが案内されたのは、都心からは離れた場所にある静かなアパート。とてもではないが、世界的有名人が住んでいると思えない物だった。
「ここ?」
「ええ」
さらりと返して鍵を取り出すマリア。二階建てアパートの一階部分の一番奥、そこが彼女の借りている部屋だった。中は最低限の家具しかない。ベッドとクローゼット、それにテレビなど。冷蔵庫もあるにはあるが、小さな物であるところからもここが生活の場ではない事が分かる。
「さ、上がって」
「お邪魔します」
1DKの小さな部屋。まさしく隠れ家といったところだろう。マリアとしても、ここへ来るのは多くて月に二度か三度程度なのだ。そこで初めて入れる相手が異性とは彼女も思ってもみなかった。しかも、年齢だけで考えれば妹分達よりも年下である。
「それにしても、翼は本当に相変わらずのようね」
「でも、あの時の翼お姉ちゃん可愛かった。部屋を散らかしちゃうぐらいなら僕が掃除してあげればいいし。仕事は、僕には出来ないからさ」
「……家事をやるのも立派な仕事よ。翼はきっと感謝していたと思うわ」
「そうかな? なら良かった」
心から安堵するように笑みを浮かべるシキを見て、マリアは優しい微笑みを浮かべた。シキの本質を見ているように思えたからだろう。そこには、いつかの時にもう一人の自分から聞いた事も影響しているのかもしれない。耳を塞ぎたくなった程の行為をした相手。それはつまりそれだけ委ねられる相手であると言う事なのだから。
素直で純粋で優しく、少し気弱なところが見える今のシキ。それはマリアにはある相手を思い出させるには十分であった。そう、在りし日のセレナである。
「それでマリアお姉ちゃん、僕に何か出来る事はない?」
そんな問いかけも、何でもいいから役に立ちたいという気持ちが見え、マリアの胸を打つ。だけどそれを顔に出さず、彼女は何て事ないようにこう返した。
「そうね。なら私の肩を揉んでもらえるかしら」
「肩もみ? 分かった」
言われるまま笑顔でマリアの肩を揉み始めるシキ。その上機嫌さが伝わるのか、マリアも笑みを浮かべている。強過ぎず、弱過ぎもせずの力加減は彼の配慮を物語っていた。それにどこかで弟を持ったような気にもなっていたのだ。
(うふふ、何かしらね、この感じ。本当に弟が出来たみたいだわ……)
切歌や調とは違う感覚。それは、きっと力加減などもあるのだろう。あるいは、接し方や雰囲気もあるのかもしれない。
「どう? 痛くない?」
「ええ、丁度良いわ」
「じゃ、今度は……」
「ああ、上手よ。その調子でお願いね」
リズミカルに叩くシキにマリアも気持ち良さそうに言葉を返す。そして彼女は彼から色々と聞くのだ。二人と過ごした時間の事を。それを嬉しそうに、楽しそうに話すシキにマリアは笑みを返して相槌を打った。時には苦笑したり、あるいは呆れたりとしながらも、クリスと翼がそれぞれに姉らしく振舞っていた事を知り、マリアも想うのだ。
(きっと、二人なりに今の彼を思いやったのね。帰るべき場所を失ったに近い、彼の事を……)
例え帰れるようになったとしても、今のままでは色々と悲しませてしまうだろう事も。それらを踏まえ、マリアも考える。どうすれば彼を帰してやれるのかを。だがそんな事を思い付くはずもなく、ただ徒に時間は過ぎる。マリアの心に天涯孤独の少年への想いを募らせて。
夕食はシキがマリアに頼まれた物を買いに行って作られる事となった。メニューはハンバーグとポテトサラダ。マリアに教えてもらいながらひき肉をこねていくシキは、どこからどう見ても食事の支度を手伝う弟にしか見えない。こね終わったら二人で形成して空気抜き。笑みが絶えないその時間は、マリアに切歌や調といる時とは違う感覚を与える。
「これでいい?」
「うん、上出来よ。じゃ、手を洗いましょうか」
「はーい」
こうして出来上がった料理にシキは目を輝かせて喜んだ。その姿がマリアにはやんちゃな弟としか見えなくなってきていた。後片付けは任せてとやや危なっかしい手つきではあったが、無事に食器を洗い終え、今は二人でソファに座ってまったりしていたのだが……
「マリアお姉ちゃん、ここってお風呂はどうなってるの?」
「シャワーしかないわ。それが?」
「……僕、一人で入るしかない?」
そのどこか寂しさを秘めた瞳に見つめられ、マリアは思わず息を呑む。シキはどこかで気付いているのだ。自分に居場所がない事を。正確には、無条件に自分が居ていい場所だろう。今、彼が抱えている恐怖はそこだ。今、彼が得ている居場所は誰かによって奪われてしまうものばかり。本部も、彼女達の部屋も、彼が心から安心して居られる場所ではないのだ。
「一人は、やっぱり嫌?」
「……うん。だって、クリスお姉ちゃんは僕の家族だって言ってくれたけど、今一緒にいてくれないし、翼お姉ちゃんはマリアお姉ちゃんのとこで過ごせばもう離れなくてもいいって言ってた。それってさ、クリスお姉ちゃんも翼お姉ちゃんも僕のお姉ちゃんじゃないって事だよね? 僕、家族がいないんだよね? だからこうやって色んなとこを」
「っ……いえ、それは違うわ。クリスも翼も貴方の事を心から思っているの」
「ホント? ホントに?」
「ええ。だから、明日にでも二人が貴方の意見で住む場所を決めて欲しいと思ってるのよ」
言い終わると同時にマリアがシキを優しく抱き締める。施設暮らしだったマリアは今のシキの気持ちが分かった。いつ居場所がなくなるのか分からない不安。何かしていないといけないのではと思う恐怖。それが今のシキには渦巻いているのだと。
マリアが抱き締めた事でシキは彼女へ抱き締め返して泣き始めた。それに何も言わず、彼女は黙ってそっと頭を撫でる。どれぐらいそうしていただろう。やがてシキはゆっくりとマリアから体を離した。
「ありがとう、マリアお姉ちゃん。僕、クリスお姉ちゃんや翼お姉ちゃんを信じる」
「そうしなさい。大丈夫よ。あの二人は貴方を見捨てたりしないわ。勿論、私も」
「うんっ!」
無垢な笑み。それがマリアの心を和ませる。切歌や調はどこか彼女へ遠慮があり、甘えるのを良しとしない時もあるがシキは違う。彼は全て素直に彼女へぶつける。そう、我慢を二人程しないのだ。それが、マリアには嬉しくも思えた。気を遣わないでもいい。それは、一種の信頼でもあるのだから。
「ね、マリアお姉ちゃん」
「何?」
「えっと、出来ればマリアお姉ちゃんの背中も洗ってあげたいんだけど……ダメ?」
「そうね……」
可愛い申し出ではある。ただ、シキは内面が幼いとはいえ男性であり、体も成人してはいないが第二次性徴は始まっているだろう。そう考えたマリアであったが、クリスや翼と同じ事をしてきた事がその背中を押した。
「なら、お願いしようかしら?」
「任せて! マリアお姉ちゃんをピカピカにしてあげるからっ!」
「クスっ……私は車とかじゃないんだけどね」
そんな和やかな雰囲気でシャワーへと向かう二人。そしてマリアも目の当たりにするのだ。シキの年に似合わぬ立派なペニスを。
「なっ……」
「どうしたの?」
「え、ええっと……ちょっと驚いただけよ」
「そう? クリスお姉ちゃんや翼お姉ちゃんもそうだったんだけど、僕のオチンチンって変なの?」
「そ、そんな事はないわ。その、立派よ」
どう言えばいいか分からず、それでも迂闊な事を言って心に傷をつけてはいけないと思い、マリアはある種の本音を告げる。するとそれにシキは嬉しそうに笑った。大人の女性に男として立派と言われたと思えたために。
「そっか! 良かったぁ!」
「……やはり、考え過ぎね」
無邪気な反応に自分を恥じながらマリアも服を脱いだ。そのクリスや翼以上に女性として完成されている肢体に、シキは思わず息を呑み股間を反射的に押さえた。勃起したと気付いたのである。
「ま、マリアお姉ちゃん! 僕、先に入ってるね!」
「え、ええ……?」
慌ててシャワールームへと入って行くシキを見送り、マリアは小首を傾げる。だが、最後の動き方などから何が起こったかを察したのか、少しだけ赤い顔をして小さく笑う。
「勃起が恥ずかしいのね。ふふっ、可愛いじゃない」
まだ彼女は知らない。反応こそ可愛いが、それが意味する事はとても恐ろしい事に。
そして、シャワールームでシキは完全に感嘆の声を上げた。マリアの裸体はそれほど美しかったのだ。それは、これまで容姿を褒められる事が多かったマリアにとっては、ある意味で最大級の賛辞であった。世辞でも何でもなく、下心さえもないものだったからだ。
「嬉しいけれど、照れてしまうわね」
「あっ! ごめんなさいっ!」
「いいのよ。それにしても……」
「こ、これ、お姉ちゃん達の裸を見るとなっちゃうんだ。クリスお姉ちゃんや翼お姉ちゃんは男なら仕方ないって」
「そう、ね。そうなのだけれど……」
視界の隅に映るペニスは、雄々しく反り返っていて、可愛らしさもあるシキには似つかわしくない迫力を有していた。マリアは知らない。それがクリスと翼を女として目覚めさせたものだとは。シキさえも知らないのだから当然ではあるのだが。
「す、すぐに元に戻すから!」
「え?」
そう言ってシキは教わった通りに自慰を始めた。それにマリアは大きく驚きを見せる。シキがそれがどういう事かを正しく把握していないと思ったからだ。自慰を勃起を鎮める方法としか聞いていない。そう判断した彼女は正しい知識を教えるべきだと考えた。ここがマリアと二人の明確な違いである。長きに渡り姉をやっているため、注意すべき時にする事の大切さを分かっていたのだ。
「待ちなさい」
「へ?」
「それ、誰に教えてもらったの?」
「く、クリスお姉ちゃんにだけど……」
「そこが大きくなったらそうしなさいって?」
「う、うん……違うの?」
「はぁ……違ってはいないけど、それは本来人前でやる事じゃないの。えっと、本当は自分の部屋や一人きりになれる場所でするのよ?」
「そうなの?」
シキへ正しい自慰の意味合いを教えるマリア。内心は悶えていたが、ここで自分が教えなければ彼が間違った道を歩いてしまう。そう思う事で必死に耐えていた。やがてマリアが教え終わると、シキは小首を傾げる。
「えっと、マリアお姉ちゃんに聞きたいんだけど」
「……何かしら?」
慣れない事をしたため精神的に疲弊したマリアであったが、それでもシキの質問に答えようとする辺りはさすがだろう。ただ、告げられた内容に耳を疑う事になったが。
「白いおしっこって、舐めてもいいの?」
「…………どうしてそんな事聞くの?」
「ええっと……気になったから」
そこで目を逸らした事でマリアは察した。クリスか翼のどちらかが精液を舐めたのだと。実際は両方なのだが、まさかそうとは思わないのが普通である。だが、今のマリアに大事なのはそれだけではない。聞かれたくない事を隠そうとするも、オドオドし出したシキを可愛いと思ってしまったのだ。
「ふぅん……ねぇシキ?」
「な、何マリアお姉ちゃん」
「一体どうやってその白いおしっこを出したの?」
「え? えっと……こうやって?」
「おちんちんをシコシコしたのね?」
「う、うん……」
マリアの様子が変わったとシキは感じていた。どこか嗜虐的な色が見える彼女だが、それも無理はない。怯えているシキが震える子犬のようにも見え、マリアの内側にある嗜虐心を刺激していたのだから。
自分の言葉一つで怯えながらも反応するシキにマリアはゾクゾクするものを感じていた。それがいけない事だとどこかで自覚しながら、それでも彼女は彼を軽く虐める事を止められないとばかりに目を細めながら質問をぶつけた。
「出した時、どんな感じだった?」
「き、気持ち良かった……」
「クリスにどうやって教えてもらったの? 言葉だけ? それとも、実際にしてくれた?」
「こ、言葉っ! 言葉で教えてくれた!」
その言い方でマリアは理解した。クリスが実際にやって見せた事を。なので、より一層目を細めてシキへ体を密着させる。豊かな乳房がシキの二の腕で潰れるように形を変えた。
「じゃ、翼と一緒に入った時は大丈夫だった?」
「う、うんっ!」
「そう……翼がそれを聞いたら落ち込むでしょうね」
「えっ?」
「だって、クリスや私にはおちんちん大きくしたのに自分はしなかったって、それはつまり翼が女性として魅力がないってシキに見えたって事だもの」
とてもイイ笑顔で告げるマリア。まさしく悪魔か魔女である。そんな彼女に少年はどうしようと頭を抱えそうだった。翼の事を女性として魅力的と思っているが、それを言うと今よりも不味い事になると感じているのだ。それでも、自分か翼かと言われればシキがどちらを選ぶかは変わらない。
「……った」
「何? どうしたの?」
「な、なった! 翼お姉ちゃんの時もおっきくなったぁ!」
「うふふ、そう。嘘吐いちゃダメじゃない」
「あっ……」
その瞬間、シキのペニスをマリアの綺麗な手が優しく掴んだ。その熱さと硬さにマリアは内心で興奮しながら、表向きは聖母のような笑みを浮かべていた。
「そんな悪い子はおしおきしなくちゃ」
「え? はうっ!」
マリアが始めたのはペニスを強めに扱く事だった。その強すぎる刺激にシキは何度も瞬きさせながら体を震わせる。その様さえも興奮の材料としながらマリアはペニスを扱いた。
「シキ、辛い? なら、どうすればいいか分かるわよね?」
「ご、ごめんなさいっ! 嘘吐いてごめんなさいっ!」
「もう姉さんに嘘言わない?」
「言わないっ! 言わないから止めてぇ!」
「っ~~~~っ!」
泣き叫ぶような声にマリアは今まで感じた事のない快感を覚えた。その瞬間、彼女もヴァギナから愛液を噴き出したのだ。そして、それがマリアの今後を決めた。その匂いとマリアの恍惚の表情、それらがシキの雄を刺激したのだ。ペニスが一度大きく動いたかと思うと、大量の精液を放ったのである。それはマリアの顔へもかかり、その匂いを彼女へ叩きつけた。
「こ、これは……何て濃厚な匂いなの……」
「ま、マリアお姉ちゃん……」
「それに……ペロッ、何て強い味なの……」
蕩けた声で顔に付いた精液を舌で舐め取るマリア。その妖艶な姿にシキのペニスがたちまち硬度を戻す。それを視界の隅で見つけたマリアは、舌なめずりをしてゆっくりと顔をペニスへと近付ける。瞬間嗅ぎ取る濃く強い雄の匂い。
「はぁ……凄いわぁ」
「マリアお姉ちゃん、ちょ、ちょっと怖いよ」
「あら、ごめんなさい。でも、いいでしょ? これから貴方の期待している事をしてあげるんだから」
「期待してる事?」
「ええ。レ~……」
ペニスを這うマリアの長い舌。その快感にシキは思わずペニスを動かす。それがより彼女の行為を加速させた。陰茎を這っていただけの舌は動きも見せ、亀頭や尿道まで攻め始めたのだ。が、ここでシキの中に眠る雄の本能が目を覚ました。
「マリアお姉ちゃんっ!」
「んむっ!?」
マリアの頭を両手でしっかりと掴んだかと思うと、そこから腰を振り始めたのだ。イラマチオである。その呼吸さえ許さないような激しい腰振りにマリアは喉をまるでオナホールのように使われる事となった。それで、彼女は気付いた。気付いてしまったのだ。
(私、この子に乱暴にされて感じてる!? ……ああっ、そうか。そうなのね! これが、これがあの私の言っていた事なんだわ!)
今、シキがやっているのは紛れもなく自分の快楽しか考えていない行為だ。だけど、それを何故しているかと言えば、彼のどこかでマリアならこれを許してくれると思っているからと言える。それぐらい、マリアはシキの事を信じていた。そう、信頼関係があるからこそのSMである。マリアはそれを知らずでも体で理解していた。
「マリアお姉ちゃん、僕もう……っ!」
「ごぼっ! ごぶっ!」
「ああっ! 出るぅぅぅぅぅっ!」
喉奥へ放たれる熱い精液。それに食道を焼かれながら、マリアは再び絶頂する。そして流し込まれる味と匂いで三度達するのだ。そうやってうっとりとした表情で意識を手放したマリアに、荒く呼吸をしたシキが気付くのは実に五分は経過した後であった。
その後、シャワーのお湯で自分やマリアを綺麗に洗い流し、シキは彼女の体を何度も揺らして意識を取り戻させる事となる。意識を取り戻したマリアは、恥じらいなどを強く覚えながらもシキへ後始末などの感謝を述べ、一緒のベッドで眠る事にした。
「あの、シキ? えっと、シャワーでの事だけど……」
「僕、誰にも言わないから。だから、マリアお姉ちゃんも誰にも言わないでね。その、僕が翼お姉ちゃんを女の人として魅力がないって嘘吐いちゃった事」
「……ええ、誰にも言わないわ。今夜の事は、二人だけの秘密よ?」
「うん、分かった」
こうしてシキは三人のお姉ちゃん達との秘密を抱え、その中の誰かを同居相手に選ぶ事となる。そう、三人の中からだ。
「シキ、姉ちゃんだよな?」
「し、シキ? 姉様と言って?」
「調や切歌もそろそろ独り立ちさせるべきだし、姉さんが面倒見てあげるわ」
優しくシキを見つめる三人の女性。姉としてと口では言っているが、その内心では女が息づいている。シキのスープに魅入られ、その愛らしさに陥落した、一人の女としての顔が。
そんな事は分かるはずもないシキ少年は、それぞれの気持ちを嬉しく思ってこういう案を提示した。それは……
「ぼ、僕は、お姉ちゃん達と一緒に暮らしたいっ!」
仕事で部屋を空ける事が多いマリアと翼では一人で留守番となる事が増えるため、シキはクリスを選びたかった。だけど、そうすると二人を泣かせてしまう。そう思った彼はハーレム的選択をしたのである。まさに要シキらしさがそこにあった。
「「「シキがそういうのなら……」」」
彼の本心を察して三人は渋々応じる事となる。だが、それが思いもよらぬ事に繋がっていくとはこの時誰も想像出来なかった……。
と、言う訳でもう一話だけ続きます。だけど、おねしょたっぽく出来たかどうか不安です(汗
次回は……ある種の逆転もの? まぁ、今回でも若干片鱗は見えてますけどね。