No title 作:くけい 改め 休憩
【1】
ルームプレートを確認し、アスカは目的の部屋の正面に立った。
扉の近くには窓はなく、室内の状況は廊下から確認出来ない。
壁のスイッチを押すと、スライド扉が音もなくスッと開いた。
照明はなく、中は真っ暗。
「……酷いにおい」
生臭さが鼻につき、アスカは顔を顰める。
廊下から漏れる光が、微かに床を照らす。
足元を見ると小さな段差があり、部屋にはいくつもの水溜まりがあった。
「そのまま、前へ進みなさい」と、見えない部屋のスピーカーからミサトの声がした。
無言でアスカはゆっくりと足を踏み込む。
踏みつけた水面がねっとりと揺れる。
河の水のような冷たく爽やかな水音はしない。
ぬちゃっ、と生ぬるく湿った粘着音が響いた。
脚を上げると、足裏につららにも似た透明な糸が幾筋も引いている。
悪臭が強くなる。
生臭くて、青臭い。
性経験のある者であれば、すぐに精液臭と感じ取るだろうが、セックスの経験のない処女のアスカにはただの悪臭でしかなかった。
その不快さに吐き気すら感じながらも、アスカは前へと歩みを進める。
ぬちゃっぬっちゃっ……
10歩ほど歩いたその時、生暖かい何かが彼女の右頬にべっとりと張り付いた。
「ひっ」と、小さな悲鳴を上げ、アスカはおずおずと頬を見る。
透明な粘液が頬を濡らしていた。
ねっとりと天井から粘つく粘液が滴り落ちている。
床に広がる粘液湖はこれが原因のようだった。
アスカは恐る恐る顔を上げた。
まだ暗闇に眼が慣れていないせいで、何も見えない――と、音もなく天井から透明な粘液を纏った赤黒い触手が伸びてきた。
太さは少女の手首ほどあり、顎筋とプラグスーツの間にべちゃりと張り付く。
軟体動物のような不気味さと、柔肌に纏わり付く粘液と触手の生暖かさに、ぞっと悪寒が全身に走る。
「嫌ああぁーーっ」
アスカは顔を引き攣らせ、悲鳴を上げた。
触手は隙間のない肌とプラグスーツの間にじゅぬりと強引に身を滑らせる。
「っんっぁがっ」
柔らかな喉を押し潰され、悲鳴が途切れた。
呼吸が出来ず、少女は眼を白黒させる。
「……っはっあっんくっはぁ……」
気道を確保する為、アスカは顔を上げ、酸素を求め喘ぐ。
触手は表面から粘液を分泌しながら、スーツの中で蠢いている。
鎖骨の下で一際大きく身を震わせると、にゅぶっと先端が2本に分かれた。
一本が半分の太さになったものの、肌にぴったりと密着したプラグスーツの中では、締め付けの苦しさや得体の知れないものが肌を這い回る不気味な触感は変わらない。