切っ掛けは、ある聖遺物の回収任務だった。
S.O.N.G.所属の装者が全員参加した、極めて大規模な作戦。
謎の多い存在であったために慎重に進められた作戦だったが、結論から言って作戦は失敗に終わる。
聖遺物の回収には成功したものの、それが何の、どんな聖遺物なのかが一切謎のままだったのだ。
故に、誰も気づくことはできなかった。
それが装者に関わる全ての人間の常識を改変する一種の世界改変を成し遂げていることを、誰も認識することはなかったのだ。
回収された聖遺物の正体は、ギリシア神話の主神であるゼウスが所有していた杖の欠片だった。
その聖遺物が秘めた特性は、男女の性の解放。
子孫の繁栄という遺伝子に刻まれた命題の優先順位を変更することで、無意識に男女は性的な行動を優先するようになるというものだ。
欠片とはいえ世界最高規模の存在の所有物が故に、その影響規模は他の聖遺物とは比較にならない。
そして極めて小さな欠片であるが故に、だれもその変化に気づけない。
回収した装者たちですら一切変化が起きていないと認識し、研究者たちの調査でも稼働こそしているものの外界には微塵の変化も見られないとの調査結果をだすだけだ。
結果、任務は完了と判断された。
若干の疑問を残しつつ、厳戒な警備体制の下で変化を監視するという判断が下されたのだ。
装者たちは任務を終え、日常へと帰還する。
数名はその終わりに疑問や不安を抱いていたものの、数日後には聖遺物の改変に飲まれ議題に上げることもなくなった。
監視する研究者たちも、すでに変化が起きている以上これから変化するはずもない聖遺物をただ見ているだけだった。
無論、こんな状況は誰も責められはしない。
これほどまでに大規模な改変が起きているなど誰も想像できないし、仮に想像したとしても改変に抗って正解にたどり着ける生物などこの世に存在するわけもない。
装者たちが性に開放的になっているという事実を、誰も違和感として捉えない。
世界と齟齬が発生すると、瞬間、極地的に世界の常識が書き換わる。
世界の方を書き換えて非常識を常識にしてしまう、前代未聞の聖遺物。
主神の力は、人の想像を超えて凄まじい。
世界の滅びを誘発する効果でなかったのは、あるいは幸運と呼べるかもしれない。
ゼウスの伝承には、世界を滅ぼす雷や宇宙規模の物まで存在するのだから。
そして、誰も認識できないがために解決は不可能。
そんな異常な日常が、装者の周囲で始まろうとしていた。