「──失礼します」
マリア・カデンツァヴナ・イヴは憂鬱な気分でホテルのドアをノックする。
既にトップアイドルの地位を手にしているマリアにとって、肉体を売り渡してまで手に入れたい仕事など存在しない。
だからこの枕営業を受けた理由は、他のアイドルを守るためであった。
目の前で下卑た笑みを浮かべる権力者が切歌や調、翼の名前を口にしなければ、マリアは今すぐにでもこの男の横面を叩き踵を返したい一心なのだ。
言外の脅迫に屈する屈辱こそあるが、万が一にも彼女たちが毒牙にかかる危機は回避しなければならない。
挿入行為及び薬は無し。
なんとかその要求だけは通したマリアだったが、その行動が目の前の男の嗜虐欲を刺激することになっていたとは知る由もなかった。
「~~ッ!」
枕営業の開始から一時間。
男はマリアの肉体に一切触れていない。
目隠し、耳栓、手錠に足枷で完全に自由を奪われたマリアはベッドの上に転がされている。
両の乳房にはニップルドームが装着され、内部のブラシが絶え間なく乳首を刺激していた。
陰核には吸引機が、秘部にはバイブが固定されており、ベッドシーツは既にマリアの愛液でぐしょぐしょに濡れている。
男はマリアが芋虫のようにベッドの上をのたうち回りながら絶頂を繰り返す様を鑑賞しながら、別口で呼んだ新人アイドルに己の肉棒を奉仕させていた。
視覚も聴覚も奪われ、ただ快楽のみが与えられながら鑑賞され続けているマリアにはこの一時間が数倍にも感じられる。
無限に続く絶頂から解放されたのは、マリアの脱水症状を心配した男が休憩を挟もうとした二時間後だった。
無論、マリアの地獄がそれで終わるわけもない。
今度は椅子に座った状態で縛られ、身動きの取れない状態に拘束される。
足を大股に開かされ、丸見えの秘部に挿入されたバイブと乳首に装着されたピンクローターの振動は先ほどよりも弱い。
絶頂にギリギリ達しない快楽で焦らされ続けながら、目隠しを外され確保された視界には新人アイドルが男に犯される様が映り続けている。
先ほどまで男が座っていた場所で、先ほどまでマリア自身が転がっていたベッドの上の性交を見せられる。
自分が犯されているわけではないというのに、絶頂を繰り返したマリアの肉体は再びの絶頂を求めて疼いてしまっていた。
己の快楽のみに集中させられていた先程とは違い、視界、聴覚、その全てがマリアに欲求という蜜を垂らしている。
部屋に入ったころに溢れていた反抗心はいつのまにか薄れ、部屋に広がる甘い香りに包まれて、マリアの思考は徐々にぼやけていっていた。
サイン済の契約書を胸に抱きかかえ、目に涙を浮かべた新人アイドルが帰宅する。
男はマリアの拘束を解き、床に倒れ伏す彼女を見下ろしていた。
起き上がろうとするマリアの眼前に、男の肉棒が差し出されると、それだけでマリアの秘部からは愛液が零れ落ちた。
もう夜も遅い。
男はマリアを解放し、帰宅を促すとベッドに腰を下ろす。
口ではそう言っているがその表情は下卑た笑みに満たされ、マリアがどうするのか完全に理解したものであった。
じっくりと調教されたマリアには既に正常な判断ができない。
自我は薄れ、雌としての本能が彼女の肉体を動かしていく。
自然な動きで、マリアの手は男の腰に伸び、彼女の口は自然と男の肉棒を咥えていた。
精液と愛液に塗れた臭いを堪能するように、マリアの舌は男の肉棒を丹念に舐め回していく。
己の意志で雌として服従したマリアの姿を見下ろし、男の笑みはより一層深く邪悪なものへと変化する。
頭を押さえつけたり、言葉で責めたりもしない。
ただ笑みを浮かべ、マリアがしたいようにさせ続ける。
これは彼女が望んだ行動なのだと、マリア自身に突きつけるように。
「──ッ!」
男よりも先に絶頂したマリアは、己が快感を覚えているという事実に驚愕した。
肉棒から口を離し己の下腹部を見れば、己の右手が秘部を刺激している。
無意識に自慰を行っていたという事実に目を背けたくなるが、それを予期していたかのように鼻先には隆々と勃起した肉棒が擦り付けられる。
女を食い続け、女の悦ばせ方を熟知している男の駆け引きから、マリアは逃れることが出来ない。
ベッドに腰掛ける男に向けて、マリアは無抵抗のまま見せつける様に股を開く。
本番は禁止している約束だ。
男にそう囁かれると、マリアは躊躇うことなく己の意志で肉棒を挿入した。
濡れ切った膣内を満たす肉棒の感触で飛びそうになった意識を保ち、マリアは腰を動かし続ける。
初めて自慰を知った猿のように、脳内が一瞬で性欲に満たされる感覚。
獣のようなうめき声を漏らし、マリアは快楽を求めて“肉棒によるディルドオナニー”を繰り返す。
マリアの脳は、既に目の前の男が下卑た笑みを浮かべていることも理解できていない。
快楽に支配された思考回路は己が堕ちた事実を理解することもなく、あれほど嫌悪し拒絶していた性行為を喜んで受け入れている。
「──ッ!」
無数の絶頂を繰り返し、気を失ったマリアが正気に戻るのは、夜が明け男が去ったホテルで意識を取り戻した後だった。
数週間後。
同じホテル、同じ部屋の前でマリアはごくりと生唾を飲み込んだ。
これは他の子を守るための行為。
自分は男に堕ちてはいない。
自分にそう言い聞かせてはいるが、熱くなった吐息と濡れだしている股が客観的にそれを否定している。
そんな滑稽な言い訳を訂正する者は誰も居ない。
ノックをし、扉を開いた先にいる男は満足そうに笑いながらマリアを招くだけだった。