男は目を疑った。
『結婚体験イベント』という特殊なマッチングアプリに応募したのは一週間前のことだ。
珍しく男性無料だったため酒に酔った勢いで応募したが、この手のイベントに応募する参加者に過度な期待はできないと考えてキャンセルするか悩んでいた自分を殴り飛ばしたい気分だった。
「「「「よろしくお願いいたしますね」」」」
マリア・カデンツァヴナ・イヴとセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。
そして男は理解していないが、両者の並行世界存在が二名。
計四名の美少女は男に頭を下げて気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
その光景だけでここに来た甲斐があると思えるほど、四人は見目麗しい。
あまりにも怪しい広告だったためか男性の応募者が少なく、もしよければと一対四のマッチングが組まれたのだ。
重婚を前提とした体験など常識的に考えておかしな話だが、女性陣は納得しているようだし男としてもこれほどの美貌を持った四人に囲まれて断る選択肢など選べない。
外見も似ているし、仲の良い四姉妹で応募したのだろう。
そう己を納得させ、五人でスタッフの案内を受けることになったのだった。
イベントの内容は退屈なものだった。
提携している式場の案内、各種プランの紹介、形式上のあれこれが続き男は気が滅入ってしまう。
目を輝かせてスタッフの話に聞き入る美少女四名が傍にいなければ、適当に理由を付けて逃げ出していたかもしれない。
そして案内された式場に入り──。
リーン、という甲高い鐘の音が聞こえた気がした。
意識を刈り取られたような錯覚は一瞬で、音源の鐘らしき物体はどこにも見当たらない。
彼女たちにも聞こえたのだろう。不思議そうに周囲を見回し、なんだったのだろうかと首を傾げ、そして忘却した。
彼女たちの瞳が虚ろに濁っていることに同じく濁った瞳の男では気付くことが出来ず、そのままスタッフの案内で更衣室へと案内される。
似合わないタキシードに身を包み、女性陣を待つ。
現れた彼女たちが身に纏う衣装はジャンルで呼ぶなら、確かにウエディングドレスだろう。
だが、それを式場でウエディングドレスと呼ぶのは純真な花嫁にとって侮辱でもある。
マリアと並行世界のセレナは、乳首がギリギリ隠れるサイズのブラとオープンクロッチのショーツ。腰布と見間違うほどに丈の短い透けた生地のスカート。
痴女のような恰好を多量のフリルやベールで彩り、これはウエディングドレスだと言い張っているような恰好は、しかしその場の全員が違和感を覚えない。
セレナと並行世界のマリアが来ている衣装はもっと酷い有様だ。
ドレスらしい部分は花で作られたティアラとベールくらいのもので、レースのリボンで乳首と股を隠しただけの恰好。
写真を所有しているだけで法に引っかかりそうな恰好を彼女たちは誇らしげに見せつけている。
「「「「私たちは妻となり、いついかなる時も夫のために尽くし、まぐわい、子種を受け取り、淫らな生活を送り続けることを誓います──」」」」
誓いの言葉、指輪の交換。
結婚式の体験は“何の問題も無く”進み、次は誓いのキス。
「──ぶちゅっ、じゅるぅッ……!」
合図と共に、待てを受け続けた犬のような素早さでマリアは男の唇を奪った。
清楚なバードキスとは程遠い、舌を絡めた淫猥なディープキスだ。
「ぷはっ」
絞り尽くす、という言葉が似合うようなキスは酸素を使い尽くすまで行われ、満足気にマリアは唇を離した。
お互いの口端から唾液の線が垂れ、舌をぺろりと出すマリアの姿はより一層淫猥に映る。
そしてそれでは終わらない。
順番待ちをしていた残りの三人は、繰り返すように男の唇を堪能し尽くすのだった。
キスだけで腰砕けになった男を差し置いて、結婚式は滞りなく進行する。
次に案内されたのは併設された全面がピンク色の一室だった。
中央に大型のベッドが置かれ、四方にはアダルトグッズが所狭しと配置された空間。
“新婚初夜の体験”とスタッフは説明していたが、どう考えても高級ラブホテルと表現するしかないだろう。
力の入らないままベッドに寝かされ、四人に囲まれる男。
手早く服を脱がされると、雄々しくそそり立った肉棒が露出された。
「んっ……」
マリアは亀頭に、並行世界のセレナは金玉に、セレナと並行世界のマリアは男の両乳首に、啄むようなキスを繰り返す。
ちゅっ、ちゅっ、とわざとらしく音を鳴らし、焦らすように行われるキスは先程とはまた趣が異なる。
雄に媚び、挑発し、悦ばせるためだけの性的なキスだ。
全身を奉仕される感覚と、視界の中で四人の花嫁が己に奉仕している光景という優越感。
我慢は既に限界に達し、過剰生産された精液が解き放たれる刹那。
マリアは肉棒を根元まで咥え、放出された精液を全て飲み込んだ。
「ん、んぐっ、ぐ、ぶっ……!」
喉を鳴らし、頬を膨らませ、注がれた精液を全て飲み干し、ようやくマリアは口を離す。
恍惚の表情を浮かべるマリアを押しのけるように並行世界のセレナは男に跨ると、出したばかりの肉棒を己の秘部へと突き入れた。
「次はわたしの番ッ!」
お気に入りの玩具を取られた子供のような反応を見せ、セレナは騎乗位の姿勢で男を犯す。
腰が上下に動く度に九十八センチの乳が激しく揺れ動き、尻肉は餅つきのように男の肉体を打ち据える。
「──ッ!」
射精直後で敏感な肉棒がそんな刺激に耐えきれるはずも無く。
連続で白濁液を搾り取られ、男は形容しがたい多幸感とうっすらとした恐怖を感じていた。
「次は」
「私たちの番ですね」
セレナと並行世界のマリアの瞳が肉食獣のようにギラつき、男を見据える。
せめてもの抵抗として男に許されたのは傍に置かれた精力剤を飲み干すこと位だった。
男が目を覚ますと、そこは見知らぬベッドの上だった。
夢だったのだろうか、しかしあの幸福感と肉感的感触はと目を向けると。
「おはようございます、旦那様ッ」
裸エプロン姿でこちらに歩み寄る並行世界のセレナと、壁に書かれた“新婚性活体験場”の文字が目に入った。
「ご飯にする? それとも私にする?」
扉を開けて入ってきたのは、ベビードール姿のマリアだった。
胸元を大きく露出させ、谷間を見せてこちらを誘惑している。
「次は私の番でしょッ?」
「選ぶのは夫……旦那様? ご主人様……どう呼べばいいですか?」
傍らに目をやれば、セレナと並行世界のマリアが裸のまま同じベッドに入り男へと抱き着いていた。
男にとって、もはや時間も空間も曖昧だ。
天国のような状況で、贅沢な四択を迫られ、それでもなお微かに残った恐怖心が消え失せていく。
男はただ今のみを満喫すると決め、四人全員をベッドに誘い、新婚生活を堪能すると決めたのだった。