男は何度も時計を見ながら、待ち合わせ場所でそわそわとした動きを繰り返す。
生まれてから二十年弱、一切女性経験が無い男がなけなしの勇気を振り絞り、金を払って女性とデートが出来るサービスに予約を入れたのがつい先日の話だ。
金で恋人を買うという敗北感と、風俗に行くほどの勇気は持てなかった情けなさ、そして今からやってくる女性への不安と期待が男を挙動不審にさせていた。
「──お待たせしました!」
やってきたのは快活な少女。
立花響と名乗る彼女は男がサイトに掲載されていた写真で見た通りの美少女だった。
この手の界隈では加工や嘘は当たり前と聞いていたため、男はほっと胸をなでおろす。
「はい、『六時間お任せデートプラン』ですよね。では……ゴホン! よろしくねっ」
コースの確認、料金の支払いを終えると響は敬語を取り払い気安い空気感を纏って男と手を繋ぐ。
ここから先は恋人、ということなのだろう。絡ませてくる指の柔らかさにすら緊張する男は言われるがままに響の後をついていく。
風俗に比べれば安いとはいえ、サービス料金はアルバイト暮らしの学生には中々の出費だ。
少しでも安くするためデートプランは相手にお任せでオプションは全て無しにしたのだが……その先はいたって普通のものであった。
映画館、喫茶店、ブティック等、定番を回る一日。
慣れもあるのだろう、緊張してばかりの男を響は上手く連れ回し楽しませる。
「楽しかったです、またよろしくお願いしますね!」
別れ際、男は敬語に戻った響に少し寂しさを覚えつつも手を振り別れる。
最後に渡された名刺に現実へと引き戻されながら、男はその名刺を大切に財布へとしまった。
後日。
給料日を迎えた男は再び立花響を指名した。
月に一度の適度の遊びなら健全であるはずだと自分に言い聞かせ、結局は忘れ慣れなかっただけの自分を正当化する。
無論誰に責められているわけでもないのだが、小心者の男は奇妙な罪悪感を抱きながら響に料金を支払っていた。
「はい、『八時間お任せスペシャルプラン』ですね。ありがとうございます! では……久しぶり!」
以前より少し高いプランにしたが、相変わらずデート内容はお任せだ。
少し値段が安くなるのも理由だが、経験の無い自分に任せられるよりはその道のプロに任せる方がいいと男が判断したためだった。
そして何より、前回手渡された名刺。
指名料と『あなただけのスペシャルデートプラン○○円~』と書かれたサービスの内容が気になったためである。
期待と不安の入り混じった感情で響に連れられた先は、前回と同じブティックだった。
正確には別の店舗だが、デート内容に特別差は無いのだろうか、そもそも特別なデートとは何なんだと男が自問自答していると。
「どう、似合うかな?」
男は試着室から出てきた響に目を奪われた。
先ほどまでの快活さを前面に出した健康的でスポーティーなファッションとはまるで違う、露出の多い性的な衣装。
異様に丈の短く胸下で結ばれたブラウスと股下十数センチのスカート、丸見えになっている黒い水着生地の見せブラと見せパン。
アメスクと形容される漫画の中でしか見たことのない恰好を目の前の美少女がしているという事実に、男は思わず固まってしまう。
「ふふっ……」
悪戯気な笑みを浮かべ、衣装をそのまま購入した響はその恰好のまま男の腕へと抱き着いた。
腕を通して伝わる乳房の柔らかな感触に顔を赤くしていると、響は一瞬だけ恋人からキャストに戻り男の耳元で囁いてくる。
「あの名刺、誰にでも渡してるわけじゃないんですよ……? 気に入った人にだけ、特別サービス用なんです……だからもう一度指名してくれたの嬉しいなぁっ……」
まるで小悪魔に誘惑されている気分になった男を連れ、響は店を後にした。
現状、デート内容に特別な変化はない。
ブティック、喫茶店、ウインドウショッピング。
訪れる場所は定番ともいえる内容だが、しかし響の態度が明らかに違った。
以前のような恋人繋ぎで行われる健全さがまるで無い。
常に腕へと抱き着き胸を押し付け、電車の中では揺れてバランスを崩したふりをして更に大胆に体を密着させて来る。
周囲から感じる羨まし気な雄の視線に優越感と気恥ずかしさを感じつつ歩いた先は路地を抜けた怪しげな場所。
次に来たのは、知識では知りつつ一度も訪れたことがない建物。
所謂ラブホテルだった。
響は手早く受付を済ませ、混乱している男を引っ張り部屋へと案内する。
自分が注文したのは女の子とデートが出来るサービスではなかったと狼狽える男をベッドに押し倒し、響は怪しく笑っていた。
「わたしたちは恋人なんですよ、当然“そういうこと”をしても不思議じゃないでしょう?」
それはそうだ。
いくら男に女性経験がないとはいえ、世の男女が健全なお付き合いをしていると考えるほどピュアな脳味噌はしていない。
だがこれはそういうものを楽しむサービスではないのか、これでは風俗と変わらない。
「いや、ですか?」
コンドームを取り出し首を傾げる響。
本当に嫌なら、いますぐここから出ればいい。
監禁をされているわけでも拘束されているわけでもない。
黙って押し倒されたままでいるのが、既にどんな言葉よりも雄弁に男の答えを語っている。
響はクスクスと笑って男の服を脱がせ、肉棒を露出させた。
「ちなみに……どんなプレイをしてほしいとか、どんな設定で会話して欲しいとかリクエストはありますか? 追加料金はかかりますけど」
再び敬語に戻った響に、男は首を振った。
今はもう複雑なことは考えられないし、なによりこんな状況で発生する追加料金など怖くて仕方がない。
基本料金前払いのシステムであったことに感謝していると、響は再び営業用の言葉で口を開いた。
「じゃあ、わたしの好みでいかせてもらいますね……」
響はベッドで横になる男に覆いかぶさり、耳元で囁く。
「ご主人様ぁ……えっちで性欲抑えられない哀れな雌奴隷にご褒美下さぁい……」
突然囁かれた淫猥な単語に驚いていると、響は肉棒を扱きながら男と唇を重ね合わせた。
三度啄むようにキスを落とした後、舌を入れて濃厚なディープキスを行っていく。
「じゅるぅ……んちゅ、じゅ……ぷはっ!」
唾液を全て吸い尽くすほどのディープキス。
完全にスイッチが入ったように顔を紅潮させ息を荒げる響は、バキバキと血管を浮かせて勃起する肉棒を見下ろして舌をペロリと出した。
「ほらぁ……ご主人様のおちんぽ、こんなに大きくなって苦しそう……“いつもみたいに”わたしを押し倒して、ぱんぱんどちゅどちゅってハメ潰して下さいよぉ……」
響は男の首筋に腕を回し、ゴロリと己が寝転がる。
姿勢は反転し、男が響を押し倒したような格好だ。
いつものように。
つまりはイメージプレイの一種。
お任せで出力されたのがこの設定であり、響はこのまま乱暴に犯されることを望んでいる。
それでも突然湧いてきた状況に、響の肩を掴んだ男の手はおっかなびっくりというように震えている。
そして我慢が出来なくなったのは響の方だった。
彼女は男の腰に両足を絡ませると、一気に引き寄せたのだ。
「っ……き、たぁ……!」
格好だけ見れば男が響を組み伏せ肉棒を挿入しているように見える。
そして突然突き入れられた膣内は生き物のように男の肉棒を捕えて離さない。
この世の物とは思えない快楽に、男の理性は一気に溶け落ちた。
「んっ、んぉっ、ご、ご主人様ぁっ……!」
不慣れで乱暴な腰の振り。
しかしそれことが望んでいたものだと言わんばかりに、響は甘い喘ぎ声を漏らす。
「──ッ!」
射精の直前、中出しを避けようとした男の常識的判断を嫌い、響は全力で男の体を引き寄せて最奥にまで肉棒を差し入れる。
「~~ッ! め、雌を人とも思わぬご主人様の本能むき出し全力種付け射精ッ……いつもながら、最高です……!」
あくまでも男が響を犯しているという設定を崩さない響の台詞に、男の自意識が設定に寄っていく。
本能と性欲で薄れた理性と常識は、本当に己の意思で目の前の雌を犯しているのだという錯覚に陥りだしていた。
「もちろん、一回で満足するわけないですよね……?」
両手を広げ、未だ繋がったままこちらを誘う響に逆らう術を男は持っていなかった。
出したばかりの肉棒は再び勃起を開始し、下半身に血流が集中して脳は性欲に支配される。
「あっ……!」
今度は響に案内されてではない。
男が最初から最後まで己の意思で、立花響を犯す。
両胸を鷲掴みにしながらの後背位。
マシュマロのように指の間で形を変える乳房を堪能しつつ、暴力的ともいえるピストン運動が繰り返される。
経験が無いが故に、男の動きは乱暴で乱雑だ。
響の──相手の女性を気持ちよくさせようという気持ちが一片も感じられない赤点必死の性交。
「お゙っ、お゙ぉぉっ……も、もっと、もっとぉッ……!」
だが、立花響相手にだけは百二十点だった。
今の彼女は乱暴に物扱いされながら犯されることを望んでいるのだから。
「──ッ!」
二度目の射精。
注がれた精液は膣内に収まりきらず、結合部から溢れ出てベッドを汚す。
そしてその直後、サービス終了を知らせるアラーム音が響の鞄から鳴り響き二人は現実に引き戻された。
荒い呼吸を整え、二人は気まずそうに向き合っている。
「……その」
口を開いたのは、響の方だった。
「今なら、延長して貰えると色々お得ってことにしま……なりますけど、どうします……?」
即興のアイデアであることを隠しもしない、三回戦の実質的なお誘い。
男は料金内容を聞く理性も捨てて、迷わず頷き体を重ね合わせた。
翌日。
男が目を覚ますと、そこは見慣れた自室だった。
布地の少ないミニスカメイド服で部屋の掃除を行っている響が目に留まり、男は慌てて周囲を見渡した。
「おはようございます、ご主人様っ」
男の手元には安っぽい作りの十枚綴りのサービス券が置かれている。
『二十四時間雌猫躾プレイ無料券』『二十四時間新婚生活イメージプレイ無料券』『二十四時間ソープ嬢無料券』『二十四時間メスガキわからせH無料券』……十日分のイメージプレイが手書きの文字で書かれた無料券、そのうちの一枚『二十四時間メイドご奉仕無料券』には使用済みを示すのであろう響のキスマークが押されていた。
「ご飯にしますか、お風呂でさっぱりしますか? それとも……」
短いスカートを捲り、愛液でびしょびしょに濡れた股と太股を見せつける響を、男は抱き着き押し倒す。
「NG一切無し、どんな下品でマニアックなプレイでもドスケベメイドのわたしが請け負っちゃいますよ……? 強いて言えば、何度も何度もこうして押し倒しながら抱き潰してくれると嬉しいかなぁって……もちろん無料券を使ってもサービス券は新しくお渡ししますし……ずっと指名して下さいね?」
胸元から取り出された新たな十枚刷りの無地の券に、男は全てを理解した。
朝から男の部屋には、立花響という雌の嬌声が響き渡り続けるのであった。