※この作品はR-18です。

別に素晴らしくもない時止め屑野郎が来た   作:伏見透

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十話

 

 

 

「なんだこれ」

 

 街の外にいるモンスターを見たときに口から出たのは驚きだった。

 

 ドデカい。

 亀の化け物といえば日本人ならあの回転する怪獣を思い出すだろうが、それとはスケールが違う。よくある東京ドーム幾つ分という数え方では、少なくとも三つや四つはあるだろう。戦うという発想すらわかない自然そのものといった外見だった。

 この巨大亀が帰るリミットは夕方までだが、これを冒険者が掘り切るのは不可能だ。幾ら欲望に塗れた冒険者共といえど、この物量相手は厳しいだろう。

 亀のモンスターは優雅に寝そべっており、冒険者がロープをかけてその甲羅の上に登っていた。ちょっとしたロッククライミングである。

 

 もう鉱物を採掘している冒険者も結構いる。

 冒険者達は亀の甲羅にこびりついている鉱物。宝の山にしか気にしていない。狂ったように押しかけて、狂ったような形相で鉱物掘りに熱中している。控えめにいって、凄く怖い。目が血走っているのだもの。興奮のあまり涎垂らしながらツルハシ振っている人までいるし、外で見ている分には地獄絵図だった。

 金の力は魔の力よ。

 

「めぐみん達はどこら辺に……おっ、いたいた」

 

 俺はぐるりと周囲を見渡し、めぐみんとゆんゆんを見つけた。

 まあ、目が金のマークと化している冒険者に色々言ったが、俺もそこまで変わらない。なんだかんだいってできることなら金が欲しい。特にこれからは冬本番だ。冒険者の特性上、財布の中はパンパンになっていた方が、ありがたい。

 

 俺は金のために神器のスイッチを押した。

 

 三十分間。この世界には俺だけだ。神獣とはいえ、動作を止める。この状況、他の冒険者は俺なんて路傍の石にすら思ってないからこそ気軽に時間停止ができた。

 

 今回の時間停止は性的な意味を目的としたものではない。

 

 俺は時間が止まっている中、急いで誰かが使っただろうロープを伝って甲羅の上に乗る。

 そして、冒険者ギルドで借りてきた本を俺は開ける。題名は高価な鉱石とクズ石の見分け方。冒険者ギルドバージョン。

 

 後に鉱石の鑑定を待っているときに聞いた話だが、本格的に幾らかと決める鑑定は当然専門の人にやってもらうが、ある程度価値のある鉱石かそれ以外なのかは冒険者ギルドの職員が見分ける。なんせ山ほどの量だ。他の街の専門家まで呼ぶが、それでも人手不足である。なので、あらかじめ作っておいた本を見ながら冒険者ギルドの職員が不眠で分別していく。……本当に職員の方々お疲れ様です。

 

 俺が貸してもらったのはそんな本だった。中には玄武の甲羅についていやすい鉱物の特徴と価値の高さが書いてある。

 

「しかし、まさかこんな美味しい話があるだなんて……情報不足にもほどがあるな」

 

 十年に一回の大イベント。

 

 これを知らなかったのは俺の甘さに他ならない。

 ちゃんと知っていたら、もちろん鉱石の情報をあらかじめすべて覚えていただろうに。

 

 そうはいっても、準備不足だろうとここまで来てしまったら仕方ない。如何に挽回するかが大切だ。

 本の他にはペンと紙も取り出して、今できる俺の準備は万端である。

 

 なにをするかといえば、ルート構築である。

 

 運が良いことに今日は三十日。三十分も止めていられる時間がある。

 その時間を使ってどう採掘すればいいかを見極める。必死に鉱物を掘って得たのがクズ石ばかりでは意味がない。時間制限があるということで、どうしても冒険者はとにかく掘って掘って掘りまくるしかない。一々これが価値があるかなんて見極める時間はないのだ。

 

 しかし、俺には神器がある。

 この余分な三十分を使って、どう掘っていけば一番効率がいいかを時間ギリギリまで使って調べる。

 ゲームでも良いアイテムがどこにあるかわかっていれば、どういう道を通ればいいかわかる。

 

「お、これマナタイト石とかいうやつか。今の内に貰っておこう」

 

 マナタイト石。装備に使えば魔力を増幅させたり、魔法で使う魔力の肩代わりをしてくれる石である。

 そんな石をポケットに入れる。

 そしてここからの時間の使い方は本を片手に持ちながら、鉱物を調べて紙に記していく。こういった細かい作業は得意だ。集中して、書く。見て、書く。高価な鉱石。そこそこの価値の鉱石。まったく価値がない本当にクズ石。その場所を紙に写していく。

 

 十五分もそれをやっていれば大体価値のある鉱石と価値のない鉱石の特徴は頭に入ってるから、速度アップしていく。

 

「これは……鉱石に擬態しているモンスターか。ここは注意っと」

 

 記す。記す。記す。当然これだけ広大な甲羅だ。全部の範囲を調べることはできない。

 宝の山はあまりにも莫大で、三十分如きではとてもではないが完ぺきな地図を作ることは不可能である。

 

 しかし、時間の許す限り俺は記帳をつづけた。

 

 二十八分。制限時間のギリギリの時間。

 俺は下りになっている甲羅を全力で駆け下り、ジャンプ。ロープを使わず着地。

 

「いって! うー、足痺れる。でも急げ急げ!」

 

 そして、大体元の位置にまで戻る。

 残り一分。巨大亀と地図を照らし合わせる。

 出来上がったのはちょっとした宝の地図だ。その地図にはここを掘り進めると美味しいだろう道がいくつか出来上がっていた。様々なルートが地図からわかる。

 

「……うわ、もしここを通っていたら悲惨なことになってたな」

 

 ただしそうでない道も見つかる。

 ある一本道では最初に幾つか価値のある鉱石はあるが、そこから先はゴミクズのような石しか取れないようなルートもあった。まあよほど運の悪い人以外はこんなところ通らないだろう。

 

 俺は美味しいルートを覚えて、ペンと地図をズボンのポケットにしまってチャックしておく。地図の方は後で処分だ。

 残り時間は二十秒。できるだけのことはしたが、今はただの準備時間だ。

 

 ここからが本番だと気を引き締めて、時間を再開させる。

 動き出した時間の中、俺は走ってめぐみん達の下に行く。デカい鞄を担いだめぐみんは殊更小さく見える。

 

「悪い! 待ったか」

「もう……遅いですよ。これがユウスケの分の鞄ですけど、遅れた分気合入れないと許しません」

「そんなに待ってないでしょめぐみん。ユウスケさん、これツルハシです。どうぞ」

「サンキュー」

 

 鞄の小さなポケットの一つに本を入れておく。鞄を背負い、ツルハシを担いでようやく俺も装備を整える。

 小柄な体に不釣り合いの鞄とツルハシを背負っためぐみんは、本を目ざとく見つけていた。

 

「その本が冒険者ギルドから借りたものですか」

「まあな。鉱物の見分け方と価値がわかる本。これを行きしな軽く覚えて離れたところから、価値のありそうな場所を見ていた」

 

 素直に言うわけにはいかないので、ある程度嘘を混ぜ込みながら俺は答える。

 まさか時間を止めて、近くで観察してましたとは言えない。

 

「効果はありました?」

「うーん、遠いし短時間だしでそこまで効果があるかはわからない。でも俺の勘も合わせて考えると、めぐみんとゆんゆんはあそことあそこを進んでいくのがいいと思う。めぐみんはあの赤い石、ゆんゆんはあの黒い石を目印に一直線に」

「ユウスケの勘は実績がありますからね。ピタリと当てるところを何度も見ています。ちょっと当て過ぎじゃありません? ……最近益々人体実験の欲に負けそうです。まあユウスケの提案で行きましょう。ゆんゆんも良いですよね?」

「なんだか今めぐみんってば怖いこと言わなかった!?」

 

 聞いてない。聞いてない。

 たまに怪しい目で俺の頭をじーと見つめているめぐみんに気付いてなんかいない。

 

 俺はあまり踏み込みすぎると危険だという勘に従い、聞いてないふりをして、巨大亀に向き合う。

 

「よし、じゃあやるぞ!」

「おー!」

「お、おう、です!」

 

 拳を突き上げ気合を入れる三人衆。

 さっきと同じようにロープを使って俺達は甲羅へ登っていく。

 そしてそれぞれ鉱物を掘っていった。もう登っていたウィズさんはというと必死な形相で鉱物にツルハシを振り下ろしているところだった。怖い。美人なだけに鬼気迫るものを感じる。今度商品でも買ってあげよう。ヘンテコな商品も多いが、めぐみんやゆんゆん曰くポーション類はとても上質らしいし。

 

 ルートを思い出しながら、ザクザクと掘っていく。

 ここから先は肉体労働だ。確実に出る金を掘っていると考えれば、その疲労も誤魔化すことができる。素晴らしきかなゴールドラッシュ。

 

 必死に掘っていると、俺の横の冒険者が掘っている場所に見覚えがあった。ここは危険だとバツ印してあった場所だ。

 

「そこ危ないですよ、っと!」

 

 剣を引き抜くと同時に勢いを利用して投げる。

 その投げた剣は鉱物に擬態しているモンスターにぶっ刺さった。ナイスコントロール。剣道ではなく野球でも通用したかもしれない。

 

「うわっ! 刺さったってこれ鉱物もどきか!? どうしてわかったんだよあんた。盗賊の敵探知スキルか!」

「まあそんなところです。気を付けてくださいね」

 

 剣を回収するときに助けた人の感謝の言葉を聞きながら、俺は内心冷や汗をかく。

 危ない。モンスターの位置がわかっているならあらかじめ対処しておけばよかった。俺は引っかからないけど、他の冒険者が引っかかることもあるよな。

 恥ずかしいことに調べることで頭が一杯で考えつかなかった。

 そういうトラブルも途中あったりしたが、俺達は冒険者ギルドのもう危ないので降りてくださいというアナウンスがある夕方になるまで掘り続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ここ数日の冒険者ギルドは熱気が凄い。

 かつてここまで人で溢れかえっていることはない。それに街全体が祭りみたいなものだ。大量の鉱物は金を生み出す。金がある場所に人が集まるのは当然の摂理だ。懐が暖かくなった冒険者の財布の重さを減らしてやろうと大量の商人が押しかけるし、気分がいい冒険者はその誘いに簡単に乗る。こうして経済は回る。

 

 あれから二日経った俺達三人は鉱物の鑑定待ちだった。

 あの後すぐ重たい鞄を担いで冒険者ギルドに行ったが、鑑定待ちの冒険者も多いので俺達は整理番号と二日後にまた来てくださいと言われた。冒険者の労働はあそこで終わりだが、職員の戦いはそれからなのだ。大量に集められた鉱石を死にもの狂いで整理している職員に文句を付けられるはずがない。

 つけようとしたら殺されるぐらいの勢いである。

 

 めぐみんはまだかまだかと貧乏ゆすりしている。ゆんゆんはそんなに焦っていない。行儀悪いよとめぐみんに注意している。族長の娘といってたし、元々金持ちでそこまで金に執着はしていないのかもしれない。

 

 先ほどウィズさんが鑑定の結果を終わらせ、お金を受け取っていたがダバダバと滝のように涙を流して喜んでいた。これで借金が返せると天にも昇るような表情というか、若干本当に透けていなかったか? それは見間違いだと思うが、この人本当に凄腕元冒険者なんだよね……?

 あの喜びようは演技とは思えないんだよな。

 

 整理番号が一つ前の人が呼ばれ、次はとうとう俺達の番だ。

 俺も緊張してきた。大丈夫だ。他の人よりは儲けているはずだ。そんなに少ないというのはないと、思う。

 宝島では大体一人頭八十万から百万エリスというのが相場らしい。それよりは高くあって欲しい。

 

 とうとう俺達の順番が回ってきた。整理番号を呼ばれ、小走りで駆け寄っていく。

 

「ユウスケさん、めぐみんさん、ゆんゆんさん。鑑定が終わりました」

「ど、どうでしたか。どれぐらいに」

 

 真っ先にめぐみんが聞く。

 ルナさんはそれに息を吐いた。今でも信じられないといった声だ。

 

「凄い金額ですよ。よっぽど運が良かったのかお三方が取ってきた中には希少な鉱石が多かったです。全部合わせて……千二百万四千エリスでした」

「……せん」

「にひゃくまん」

「よんせんエリス――!」

 

 俺を含めた三人共驚きを隠せないといった様子である。価値のある鉱石を取ってきたはずだが、こうして金額で表すとビックリする。そんなになったのか!

 今まで一番良かった日で一日十万程度の稼ぎだったのが、今日一日で百倍以上の稼ぎである。桁が違う。臨時収入にしてはあまりも巨大な額。こんなボーナスは普通ありえない。

 

 あまりの大金に興奮で手が震える。

 その震えた手をめぐみんが握った。めぐみんはもう片方の手でゆんゆんの手を取る。

 

「やりましたね。ゆんゆんとユウスケ!」

「おうマジでやったな! 一気に俺達全員小金持ちだぜ!」

「やった。やったね! 今日は豪勢にパーティー! 仲間と一緒にパーティー。良い響き……」

 

 輪になってぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねる。

 だが、あくまでここは冒険者ギルドだ。三人で大興奮しているところを他の人から見られていることに気付き、俺達は顔を赤らめてやめる。恥ずかしい。めぐみんとゆんゆんはともかく、こんな歳になって俺ははしゃぎすぎだ。

 

 しかしここから三分割するとはいえ、こんな大金現実として感じるのは初めてだ。少々はめを外すのは容赦してもらいたい。

 

 俺は代表として整理券を渡して、新たに鑑定済みの券を貰う。

 これを持って行ったら自分の鉱石を返してもらうか換金をしてもらえる。鉱石を返してもらう利点としては、装備などに使うことがあるためだ。

 俺は恥ずかしい気持ちを隠すために一度咳をしてから提案する。

 

「ゴホン。えっと、鉱石は全部換金してもらっていいか?」

「あー、私の場合ですと、マナタイト石を貰っていいですか。三十万ぐらいのです。これで杖を強化すると更に私の爆裂魔法の威力が高まるのですよ。もっと更にです。ふふふ、爆裂魔法の威力が上がる。これほど甘美で極上の言葉はありますか! 神の音色です。ああ考えるだけで、もう……!」

「めぐみん素直に怖いぞ。冒険者ギルドで危ないことしだすのはやめてね。本当に。……同じ魔法使い職だし、ゆんゆんも杖の強化にマナタイト石を使うでいいか?」

「えっと、そうだと私も嬉しいんですが……いいのかな」

「ゆんゆんが必死になって掘った石だろう。遠慮する必要ないぞ。それにな、ゆんゆん。魔法の威力が高くなるってのは前衛の俺もありがたいからな。むしろ俺がお願いしたいぐらいだよ」

「はい! それじゃあ私もめぐみんと一緒で!」

 

 合計六十万はパーティーの必要経費だな。

 俺も剣は新調した方がいいだろうか。鉱石が大量に入荷するということは、貴重な鉱石で作られる剣も増える。暫くしたら鍛冶屋を覗いてみるか。

 

「じゃあ後は換金して山分けということで」

 

 残りは千百四十万四千エリス。三人で分けるとしたら三百八十万ちょっとか。三だし割り切れないのがなんか嫌だ。その端数のお金は今日皆で食べる晩飯のお金にでもしよう。

 そんなことを考えていると、めぐみんがおずおずと口を開く。

 

「……でも、ユウスケ。今回の報酬はユウスケの手柄が大きいですし、いつものように山分けではなく取り分多めでいいですよ」

「それを言うなら私なんて一番取ってくる鉱石少なかったですし、マナタイト石だけでも充分です!」

「……いやまて、ゆんゆん。それは遠慮というか流石におかしいぞ」

 

 んー、どういうことだ。

 パーティー募集の頃から全部山分けとして、今までずっとそうやってきたのに。

 

「どうしたんだ。遠慮するなんてめぐみんらしくないだろう」

「事実は事実ですから。いやだって、まさかここまでの大金と思っていませんでしたし……。普通なら八十万ぐらいのところを四百万程は貰い過ぎですよ。ユウスケが一番掘る量も多くてルートも決めてくれなかったらここまでの結果は出ませんでした」

 

 ……なんか変なところで真面目だよねめぐみんって。

 まあ実際今回に限っては俺の功績は大きいと思う。しかし、普段はめぐみんの爆裂魔法は役立ってくれてるし、ゆんゆんの魔法で安定性は増してくれている。今回たまたま俺が活躍しただけのことだ。

 

 それに一人だけ多めに貰うのは俺が気持ち悪い。最初に決めたことはやり遂げる。妥当か妥当ではないかではなく、単純に嫌なのだ。

 

「山分けという約束だろう。一人だけ多く貰う方が嫌だわ。金はいくらあっても困らないんだから、何かしらの使い道を見つけ……ああ、そういえば、前から機会があれば手に入れたいと思ってたものがあったんだ」

 

 途中にあることを思いつく。

 大金すぎて遠慮してしまうなら、パーティーのために使ってしまえばいい。遠慮されるよりも俺もそれならすっきりするし。

 

「なんです?」

 

 彼女の問いに俺は二本指を立てる。

 

「欲しいものは二つあってな。一つはめぐみん達と同じくマナタイト石なんだが、どれぐらいの値段の石ならめぐみんの爆裂魔法の魔力の肩代わりができる?」

「私ですか。私の魔力といいますと、かなりの値段になりますよ。超高品質のマナタイト石が必要となります。それこそ……今の私の魔力だと五百万エリスにはなるかと思いますが……」

「じゃあそれ買おう」

「え、ええええええええ!?」

 

 大金の商品をあまりにあっさり購入を決意するものだからゆんゆんは驚愕している。

 めぐみんというと絶句していた。口がポカーンと開いている。こんな姿を見るのは初めてでなんか可愛らしく見える。

 停止して再起動しためぐみんは、俺に詰め寄ってくる。

 

「ほ、ほほ本気ですか! 五百万! 五百万エリスですよ! 私の家なら四人で十年は暮らせる金額ですよ! 本気というか正気ですか!」

 

 それだと一年一人当たり十二万五千エリスしかかってない計算になるんだが……。

 

 俺も何も考えなしに言っているわけではない。

 

「正気も正気。俺のところの最高威力はめぐみんだろう。爆裂魔法を二発撃って欲しい場面、なんて来てほしくないが、ないとは限らない。それぐらいの用意はしておくべきだ。ゆんゆんも強力なアークウィザードだから魔力切れで使う時がくるかもしれない。もしもの用心だよ」

「でもだからって五百万エリスは……」

 

 なおも言いよどむめぐみんに俺は説得の言葉を重ねる。

 

「それにマナタイト石なんてのは劣化しないしな。長い間持っていても、価値は然程変わらない。金が必要となればいざとなったら売り払ったらいいし、損をするということはないと思うんだが」

 

 その言葉にめぐみんは形の良い顎に手を当てて考える。

 損をしないという言葉に惹かれるものがあったようだ。

 

「確かに購入するといっても必ずしも使わなくてはいけないということもないですしね……。……ふむふむ。そう言われれば悪くない選択に思えてきます。口が上手いですねユウスケ。詐欺師の素質がありますよ」

「誰が詐欺師だ」

 

 失礼な。

 詐欺なんて成功するかの一か八かを何度もするなんていうのは、俺の性に合わない。

 

「その購入するマナタイト石は……ゆんゆんに管理しといてもらってもいいだろうか」

「わ、私ですか!? いや、無理無理。無理ですよ! そんな責任重大なものを受け取れません!」

 

 首をぶんぶん振って拒否の体勢を作る。

 やめてね。体を大きく揺らすの。おっぱいが揺れるから、重要な話してるのに股間が硬くなるんだけど。

 

「一番しっかりしているのは俺はゆんゆんだと思っているからさ。ゆんゆんが持っていてくれたら俺も安心できるんだが」

「そんな私なんかに信頼を!? うー、どうしたら! 信頼には応えたいけど、もしものことがあったら……」

 

 ゆんゆんは両手を頭に乗っけて悩む。

 この中で一番任せられるのはゆんゆんだ。物を預けてもしっかり管理してくれるだろう。

 そう考えていたら、めぐみんは何を思いついたのか、嬉しそうな表情をしながらゆんゆんに近づく。

 

「ゆんゆん。ユウスケがあなたに託すと言っているのだから受け取るのが道理というものではありませんか」

「けど、もしもの時があったらどうすればいいか私わからないし……」

「もしもの時なんてもしもが起こってから考えればいいのですよ。――それとそのマナタイト石は預かったら親友である私に貸してください。……爆裂魔法が一日二発撃てるんですよね」

「し、しし親友!? もちろん仲間だし貸しても問題ないよね!」

「…………」

 

 聞いていて完全に近づいた理由がわかった。

 ……誰にでも優しいゆんゆんだが、めぐみんには特に甘いんだよな。

 仕方ない。俺が管理するか。

 

「あー、ゆんゆんごめん。やっぱり石は俺が預かっておくわ」

「あ? うん。その方がいいですよ! 私が預かっておくよりユウスケさんが預かっておいた方がずっと安心です!」

 

 嬉しそうなゆんゆんと反対につまらないという表情のめぐみん。

 まあ実際めぐみんはやらないと思うが、爆裂魔法が関係することとキレた時はなにやるか予想つかないからな。その時、貸してしまいそうなゆんゆんより俺が持っていた方が安全だろう。 

 不満そうなめぐみんは杖を弄りながら聞いてくる。

 

「……それで一つ目はわかりましたけど、二つ目はなんなんですか」

 

 二つ目。これが最も重要視しているものだ。

 こっちの世界に来てからずっと欲しかったもの。必要不可欠なものがあった。

 

「五百万エリスは石に使って残りは六百万エリスほどか。実は……前々から思っていたんだが、家が欲しいんだ。二人とも宿屋暮らしだろ? 纏まったお金も入ったことだし、三百万エリスぐらいの家をアクセルの街に買わないか」

 

 あのおっさんの宿屋の生活にも慣れたし、本当に良い宿屋だが、俺は家が欲しい。

 銭湯の度に神器を手放さないといけないし、なによりやっぱり現代っ子の俺としては、他人の家では安心できない。物とかもろくに置けないしな。今回でも思い知らされたが、俺はこの世界の情報が足りていない。情報収集のための場所が欲しいのだ。

 

「アクセル街なら凶暴な魔物に襲われて壊される可能性も少ないですし、ここに私達の拠点を作るのは悪くないとは思います」

 

 めぐみんもそれほど否定はしない。

 だが、ゆんゆんは頬を赤く染めて恥ずかし気に聞いてくる。

 

「あの……それって三人の家なんでしょうか?」

「……そう、なるのか。三百万で家三つは無理だよな」

 

 あれ、そういうことなのか? 

 うわっ、俺の言うことはそういうことなのか。本当に考えてなかった。

 大金入って浮かれているのかもしれない。そんな簡単なことを忘れるなんて。

 物が置けて風呂が浴びれる拠点さえあればいいと思っていて、三人同じ屋根の下に住むなんていう下心は一切なかった。クズの俺も今回ばかりはうっかりだ。

 

 めぐみんは杖を触りながら、自然な口調で言う。

 

「別に私は大丈夫ですよ。今の宿屋とそう変わりませんし」

「それは全然違うと思う」

 

 今も同じ家の同じ階で住んでいるとはいえ、一緒に住むっていうのはやはり特別だ。プライベートを共有するということだし。まあでも今も殆ど一日中一緒にはいるんだが。

 ゆんゆんは問い詰めるようにめぐみんに近づく。

 

「めぐみん、本当によく考えて喋ってる!? 同じ家に住むってことは! ことは! ことは……その、ね。……うん」

 

 勢いよく話し始めたはいいが、途中からどんどん恥ずかしくなって声が小さくなっていく。

 先ほどの何倍も顔が赤い。破裂してしまいそうな赤さだ。

 純情なゆんゆんには難易度の高い話だったらしい。どこまで想像しているのゆんゆん?

 

 めぐみんは鬱陶しそうにため息を吐く。

 

「そんなことわかっていますよ。もしそうなったら責任を取ってもらえばいいのでしょう」

「せ、せせせせせ、責任ってめぐみんなんの責任!?」

 

 突然何を喋りだしてるのこいつ!

 呆然としている俺を気にもしないで、特に表情もなく答えを言う。

 

「責任って――子供ができたらですよ。初心なねんねじゃあるまいし、もし万一私とユウスケがセック――」

「うあああああああああああ! めぐみんめぐみん! どうしたのねえ!? 頭がおかしくなったの! 紅魔族随一の天才はどこに行ったの!? 今起こっていることは私の夢なの! むしろ夢であって!」

「お前。冒険者ギルドでなに口走ろうとしてるんだよ!」

 

 慌てて二人でめぐみんの口を抑える。

 

「むむぅー!?」

 

 公衆の面前でとんでもないことを言おうとするめぐみんを止めた。

 んんーと反抗しているが、流石に俺達二人に抑え込まれたらめぐみんは脱出できない。焦る。めぐみんはやっぱりとんでもないわ。何を起こすかわからないビックリ箱だ。問題児にもほどがある。

 

「もおー! めぐみんがユウスケさんと一緒に住むなら私も住むからね! こんな歳でまだめぐみんをお母さんにはさせないからね!」

 

 優等生のゆんゆんが断固とした決意をあらわにする。

 そうすることで、なし崩し的に同じ家で暮らすことが決定してしまった。余るだろう三百万ぐらいは百万ずつで三人で分けるかな。

 

 それにしても大声で喋るゆんゆんも気づいてほしい。

 周囲の冒険者や職員から俺が凄い危険人物に見られているということを。いやまあ、実際危険人物なのだが。

 

 

 

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