※この作品はR-18です。

別に素晴らしくもない時止め屑野郎が来た   作:伏見透

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十四話

 

 

 

 俺は頭にタオルを頭巾みたいにして巻く。

 髪の毛が落ちることを心配してというより雰囲気作りだ。気合を入れるためである。

 

「よっし!」

 

 自分の手のひら同士を繋いでグッと握る。

 握力も戻っている。気だるさもまったく感じない。

 

 どうやら風邪もすっかり良くなったようだ。

 あの記念日から二日間ほど寝込んでいたが、ゆんゆんのこちらが申し訳なくなるような手厚い看護で全快である。後意外にもめぐみんは果物買ってきてくれたり、リンゴを剥いて食べさせてくれたりと世話を焼いてくれたし、そのやり方も手慣れていた。

 

 そういえば、めぐみんは四人家族で妹がいるんだったか。

 案外家では妹に優しいお姉ちゃんだったのかもしれない。

 

 俺は外の物置にあったバケツに水を入れて、リビングまで運ぶ。随分使われてないので、もしかしたらバケツに穴が開いているかもしれないと思っていたが、杞憂のようだ。

 

 今日は二十八日。年末である。年末といえば、割と忙しい時期である。年が変わるのは大きな節目となるわけだし、新年に向けてやることが多い。というわけで、今は大掃除のための準備をしている。

 新居に引っ越してきた時も掃除はしたが、長い間住民がいなかったせいで汚れは多かった。細かいところなんかはまだ綺麗にできていない。

 それに日本人としては、家を綺麗にしないと年を越せない。

 

 俺は水が入ったバケツをリビングに置く。暖炉の中も掃除するつもりなので、火をつけてないから寒い。また風邪を引かないように気を付けないといけないな。

 とんとんと二階から降りてくるのはゆんゆんだった。

 

「ユウスケさん。雑巾になるのが見当たらなかったので、これでいいですか?」 

 

 階段から降りてきたゆんゆんは、頼んでいた用事を終わらせてくれたようではいと渡してくる。

 水だけ用意しても拭くものがないと始まらない。俺達はいままで宿暮らしだったし、掃除道具は持っていない。この家にもバケツや箒なんてのはあったが、雑巾はなかった。

 

 彼女から渡されたのはかなり大きな布地だった。

 カーテン? にしては小さいしと広げてみる。

 

「えっ、服じゃないか。それもたまに着ているのを見るけど……」

 

 普段着を雑巾に使うわけにはいかないぞ。

 それもこれは、この前も着ているところを見た覚えがある。

 

「ゆんゆん。これって雑巾にしてしまってもいいものなのか?」

 

 不思議に思って聞くと、ゆんゆんは顔を赤く染めた。

 

「それは、いいんです。その……その服は……ですね……。私は着れない……着れなくなったというか」

 

 耳まで赤く染めながら、もごもごと口ごもる。

 めぐみんもゆんゆんもとても白い肌をしているので、恥ずかしがるとわかりやすい。

 何故かゆんゆんはどことなく胸を隠すように腕を組む。

 聞いてはいけない話だったのだろうか。まさかそんなことはないと思うんだが……。

 

 ゆんゆんは段々と声を小さくしながらも、どうして雑巾に服を持ってきたのかという理由を喋る。

 

「ちょっと、ほんの少し、あの……胸がきつくて……最近また大きく……なってしまって」

「…………」

 

 思わず無言になる俺。

 ……うん! 聞いてはいけない話だったね!

 しかし、このままでは気まずい沈黙が続いてしまうことになるので、俺はなんとか声を出す。

 

「そうか。ゆんゆんも成長期だもんな! うん、これは切り取って雑巾にさせてもらってもいいだろうか。……でもこれかなり良い布地だし、雑巾にするのは勿体ないと思うぞ」

 

 受け取った服の手触りが良いし、かなり高い服だと思われる。

 安いシャツとかだったら雑巾にするのは再利用できるしいいが、これを雑巾にしてしまうのは惜しい。

 

「うーん、でも私はこれから使う機会ないし……」

「まあ捨てるのは勿体ないけど、本人には必要ないってものは多いよな。そういう時の扱いは難しいか。服なんてのはゆんゆんがよければ友人にあげるって手もあるんだけど」

「あの。……私、そんなに友達いないんですけど」

「…………」

 

 今度こそ気まずい沈黙が場を支配する。

 忘れていた。

 ゆんゆんは人見知りが激しいんだった。可愛いし性格良いのだが、初対面の人どころか三回あったぐらいの人にも馴れない。テンパって変なテンションになる。

 調べてみた限りでは紅魔族は皆が皆、めぐみんみたいに派手好きなようで、常識人なゆんゆんはそのせいで引っ込み思案になったのだろう。

 

「な、なにを言ってるんだよゆんゆん! 俺やめぐみんやウィズさんや後クリス達なんかはゆんゆんの友達だろ!」

「そ、そうですね! 私も昔と比べて両の手が必要なぐらい友達できましたもんね! もうぼっちとか一人で飯食っているなんて言われませんね! ご飯だって皆で食べてますもん!」

 

 なんとかフォローしようと頑張るも、聞いていて辛い。

 でも、本人としては過去と比べて案外喜んでいるようなので、なんとも言えなかった。

 

「そうだ! この服はめぐみんにあげようっと!」

「そんな残酷なことをしてはいけない」

 

 良い案を思いついたみたいにゆんゆんは自分の手のひらに拳で叩いたが、俺は彼女の両肩を持って真顔でゆんゆんに忠告する。

 驚いたようで紅い瞳をパチクリとさせる。

 友人にあげるという案は良いと思うのだが、渡される人が喜ばなければ邪魔になるだけのものだ。

 

「ゆんゆんの服は確かにめぐみんには入るけど、まあその大きさ的にちょっとな……」

「あ……ああ。そうですよね。私ってばなんてことを……」

 

 ゆんゆんには小さくなったとはいえ、めぐみんには大きすぎる。特に一部分が。

 

「めぐみんがここから急成長するんだったら置いといてもいいんだが、その可能性はあると思うか」

「私と発育勝負していた時はその……あまり大きくなっては……」

 

 最後まで言いきらなかったのはゆんゆんの優しさなのだろう。

 まあどっちかというと、年齢的にめぐみんもそこまでおかしくないんだけどな。むしろゆんゆんの発育が良すぎるのだ。

 

「……うん、今度俺がめぐみんに服買ってあげようかな」

「み、皆で行きましょうよ。私も小物ぐらいならめぐみんにプレゼントします!」

 

 それでも同じ年齢のゆんゆんとの差は激しすぎて、いたたまれないものがある。

 

 ふと――ビクッと体が震える。理解するより反射が先だった。

 嫌な気配がして俺とゆんゆんは錆びた機械のようにおそるおそるそっちの方向に視線をやる。

 

 噂をすれば影が差すだろう。

 二階から降りてきていた女の子。紅の瞳が特徴的な俺達のパーティーの切り札である。朝は日課となった爆裂魔法を撃つのに一緒に出掛けて、帰ってきて自分の部屋で休んでいた彼女である。

 感情を押し殺した声がリビングに響き渡る。

 

「……堂々と言われるのは怒ります。闇討ちをかけてやります。紅魔族随一の天才としては舐められたままでは終わらせません。夜になる度に思い出す恐怖を撃ち込んでやりましょう。……それはそれとして……あからさまに気を使われるのも許せぬ!」

 

 野生のめぐみんが襲い掛かってきた。

 

 どうすると隣にいるゆんゆんと瞬時にアイコンタクトを取る。意識が伝達される。確実に俺の考えていることと一緒なようだ。俺よりかめぐみんとの付き合いが長いだけに、こういう時の対処法を熟知している。

 頼りになる仲間だった。

 

 ――もちろん、選択としては逃げる一択である。

 

「ごめん! ごめんって! 悪気はないんだよ」

「そうなのよめぐみん。私も百パーセント善意だったって! 許して! 悪いことしてないけど許して!」

 

 謝罪しながらリビングの床を蹴る。

 しかし、そんな言葉が獣と化しためぐみんに通用するはずない。

 虎だ。彼女は虎になったのだ。

 

「善意だからこそ人を傷つけるのですよ! 良い人が報われるとは限りません。今後の参考のためにも覚えておいてください!」

 

 ゆんゆんは玄関の方に。俺は応接間に逃げ込む。

 二手に別れることで、どっちかは助かる作戦だ。向こうに行ってくれと思っていたが、変わらず後ろから迫ってくる音がする。

 振り返ることなく叫ぶ。

 

「なんで俺のところにくるんだよ!?」

「ゆんゆんなんていつでも仕留められます。ちょろい獲物ですから。強い獲物ほど先に仕留めるのが私のやり方です! それに――前衛職としては真っ先に盾となって守るものでしょう?」

「今は勤務時間外だ!」

 

 応接間に置いてあるソファーの周りをぐるぐると回る。

 こんなことをしていたらバターになってしまう。

 

 めぐみんは途中、咄嗟に方向転換して、俺を追い詰めようとするが、そこは自分でもいうのはなんなんだが、流石俺の勘。フェイントにでも騙されることなく、捉えられることはない。

 三分ほどソファーの周りでドタバタしていたが、めぐみんはらちがあかないと思ったのか舌打ちをしながら足を止める。

 

「ちっ。ユウスケはほんと無駄に良い勘してます。敵に回すと厄介な男ですよ。しかし紅魔族随一の天才である私を敵に回したのがあなたの終わりです!」

 

 俺としてもこいつから逃げ切れる気がしない。

 なんとか言葉で納めてしまう他ない。対話だ。人間に許された唯一の力である。虎となっためぐみんとて、まだ言葉が通用するはずだ。

 

「落ち着け! 落ち着こう! まずは深呼吸だ。深呼吸しよう!」

「ふふふ、私は落ち着いてますよ。ええ、なにを言ってるのですかユウスケ。これ以上といってないほど落ち着いてます。例えるなら爆裂魔法を今すぐ撃ちたいぐらい落ち着いています」

「それはぶちギレ寸前だ!」

 

 なんかこういうやり取り前にもやったな。ゆんゆん加入の時だっけ?

 

 それにしても良かった。朝の内に一緒に爆裂魔法を撃ちに行っていて良かった。いい仕事をしたぞ朝の俺。グッドジョブ!

 

 ソファを挟んで俺達はにらみ合っていた。俺が背もたれの方で、めぐみんが座る側だ。

 いや事実をいうなら俺は完全に怯えた目をして、めぐみんが睨んでいるのだった。狩られる側と狩る側である。

 

「別に体の小さい大きいで差はないって! そこに貴賤はない!」

「……ほーう。それではゆんゆんの胸に視線を釣られていた男は誰でしたっけ」

 

 はい、俺です。

 などど言ったら本当にどうなるかはわからない。虎の尾を踏むどころか虎の尾にロケット花火を結んで遊ぶぐらい危険である。虎の口の中に自分から入っていくことと同意義である。

 俺は必死になりふり構わず説得する。

 

「男は確かにそういうのも好きだけど、俺としては別にめぐみんの体も悪くないと思っている! うん、めぐみんの容姿は可愛くて好きだぞ!」

 

 そう叫ぶと、めぐみんは睨むのを止めた。

 あれっ、どうしたんだ?

 まさか虎と化しためぐみんに本当に言葉が通じるなんて。

 

 彼女は夢見る少女のように頬を赤く染めて、帽子を脱いでその帽子で口元を恥ずかし気に隠す。控えめに顔を俯かせて、こちらを上目使いで見る。

 

「それは……どうもです。ユウスケは――私のことが好きなのですか」

「いやっ、えっと……」

 

 そんな乙女みたいな反応されたらどうしていいかわからない。

 

 今更ながら、目の前にいる魔法使いはとてつもなく素敵な女の子であることを思い出す。

 綺麗に輝いていた紅の瞳が潤んでいる。小柄な体は縮こまっているから余計に小さく見える。今すぐ抱きしめたくて、それでも触ってしまったら壊れてしまいそうな儚さ。

 

 次の言葉が出てこない。

 汗をかく。喉が渇く。思考がぐるぐると回転する。

 おかしな雰囲気に俺はひたすら困惑していた。それでもこの状況を打破しようと、なにか言おうと俺は口を開く。

 

「その――」

「かかりましたね! とりゃー!」

「なっ――!?」

 

 めぐみんはソファーのクッション部分を強く踏み込み、こちらに向かってジャンプする。

 完全な不意打ち。俺は思いっきり虚をつかれることになった。

 

 それにしてもこいつ――演技がえげつねえ!

 そういえばめぐみんという魔法使いはこういうやつだった!

 

 滞空するめぐみん。僅かな間が生まれる。避けることなんてできない。避ければめぐみんが危険だし、そもそもあまりに見事に虚をつかれたので、体がろくに反応しない。

 驚きが体の支配権を奪っている。

 だからなすすべなく俺の体に飛び込んでくるめぐみんを迎え入れるしかなかった。

 

「おぐ!」

 

 胸に衝撃が走る。

 待ち構える体勢もできていなかったので、その衝撃のまま後ろに倒れていってしまう。

 片手はめぐみんを抱くようにして、もう片方の手は自分の後頭部を守るようにして床との間に挟む。ドンッと俺は床に倒れた。

 

「いたた……」

 

 腰を打ったので思わず言葉に出るが、めぐみんが軽いのでそんなに痛くはなかった。

 想像していたより痛くなかったので、俺は油断してしまっていた。

 

 その油断をめぐみんが見逃すはずない。

 彼女は俺の両手を取って腰の横へと移動させる。俺は床に仰向けに寝転がっており、彼女は体勢を変えて俺の上に跨るようにして乗っていた。

 そして俺の腰の横へと移動させた腕ごと腰をグッと太ももで挟んでいる。両腕がめぐみんの太ももで挟まれている。それも……あのー、めぐみんの小ぶりなお尻がなんというか不味いところに当たっているのだが。

 

「これぞ紅魔族に伝わる養殖の体勢。もう逃げられませんよユウスケ。ふふふ」

 

 興奮によって目が真紅に光っているめぐみん。

 ヤバい。今日俺は死ぬかもしれない。

 

「だから一先ず話し合いをしよう。めぐみんも俺の腰上から離れてテーブルにつこうじゃないか。良い紅茶があるんだ。それ飲んでまったりと会話しようぜ」

「会話ならこの姿勢でも充分できますよ」

「明日も爆裂魔法に付き合うから! 後生だ!」

「……もしかしてなんですけど、ユウスケって私のことを爆裂魔法の言葉を出しとけば片付く女と思っていませんよね?」

「いやそんなことないよ」

 

 早口で否定する。

 うん、ははは、まさかそんなはずないじゃないですか。……ごめん。ちょっと思っている。

 

 両腕がめぐみんの太ももで固定されているので、ろくに動くこともできない。感触としては最高に気持ちいいのだが、股間が不味い。俺が動こうとする度に、逃がさないようにとめぐみんはグリグリと足とお尻を動かすものだから、あそこへの刺激がとんでもない。

 めぐみんは裾の短いワンピースみたいな服装なので、下着越しの彼女のお尻が陰茎体の部分を前後左右に擦る。

 

 エッチなサービスみたいになっている。

 

 ここで大きくすれば本当に殺されかけかねないので我慢しようと必死だが、生殺しにもほどがある。確かにこれは罰だった。

 こちらをジッと見つめていためぐみんだったが、ふっと表情を和らげた。

 

「そんなに怖がらなくとも。まあ私も悪魔ではありません」

 

 当社比という単語を心の中でめぐみんの言葉の後に付け加える。

 

「ユウスケの普段の貢献とそれと……さっき私の容姿を褒めてくれましたからね。あれは……嬉しくないわけではなかったです。だから今回は心の底からごめんなさいと言うだけで許してあげましょう」

 

 ほんの僅かに頬に朱が差している。……うん、演技?

 

「えっ、それだけで許してくれるのか」

「はい。ごめんなさいと言うだけです」

 

 めぐみんはにこりと天使のような笑みで頷く。

 地獄に垂らされた一筋の糸だった。

 若干怪しいものを感じながらも藁にも縋る思いで、俺は言われた通りのことを実行する。

 

「――ごめん――にゃひゃい」

 

 変な言葉になってしまったのは、邪魔が入ったせいだ。

 こちらの顔を見下ろしながら、楽しくて楽しくて仕方がないといった表情でにまにまと笑う悪魔が見える。

 

「どうしたのですかユウスケ。そんな言葉では心からの謝罪とはいえませんよ。さあ、もう一度チャレンジしてください」

「あにょにゃーおひゃへ」

 

 何もふざけているわけではない。

 おかしな言葉しか喋れてないのは、めぐみんが俺の口に悪戯しているからである。

 

「はひゃくはにゃへよ」

「なにを言ってるかわかりませんね。残念ながら私の知能でも解読することは不可能です。これでは許したくても許すことができません。私としても非常に心苦しいのですが、ユウスケが許してほしくないなら仕方ありません。……あぁー、本当に私としても心苦しいのですよ」

 

 めぐみんは俺の口に両手の人差し指を突っ込んで、口を無理矢理開けていた。めぐみんの細い指先が俺の歯肉に当たっている。

 横に伸びた唇では、ろくに喋ることもできない。

 そんな俺を見て本当に楽しそうにしているのがめぐみんだった。

 

「ひひきゃげんにすれよ」

「んー? なんてですか?」

 

 彼女は素知らぬふりで首を傾げる。

 めぐみんの背中に黒い羽根が見える。尻尾もついてそうだ。まさに小悪魔といったやり方である。

 

 ……こいつ。指噛んでやろうか。

 

 そろそろ逆襲してやろうかと隙を伺っていると、聞いたことがある声が遠くから聞こえてきた。

 

「あーそーぼー」

 

 軽い口調で言われたそれはやはり聞き覚えがある声だ。

 玄関からの方だ。誰だろう?

 

「誰か来ましたね。声からして女性の人ですが、私は約束した覚えがありませんし、ユウスケは約束してましたか?」

「それひゃ」

「ああ。このままだと喋れませんね」

 

 めぐみんはようやく口に突っ込んでいた手を離してくれて、ギュッと俺の腰を締めていた太ももを緩めてくれた。

 誰かが来たので、お遊びは終わりである。

 俺はポケットの中からハンカチを取り出して、俺の涎が手についているめぐみんに渡す。常にポケットにはハンカチが用意されている。

 

「ありがとうございます」

 

 軽く手を拭いているめぐみんに向かって、俺は言う。

 

「俺も思い当たる節はないかな。というか今日は大掃除の日だからな。わざわざこの日に人は呼ばないよ」

「あれっ、今日は掃除の日でしたっけ」

「……前々から言ってただろう。今日やるからな。玄関の方にはゆんゆんがいると思うから対応してくれるだろうけど、まあ誰が来たか見てくるからどいてくれ」

 

 俺は体の向きを変える。

 うつ伏せになるようにして、めぐみんが上から退くのを待った。

 それなのに、背中にかかる重さが増える。体重を全部こちらに預けたような重さだ。背中には人の感触が伝わってくる。俺の首に彼女の腕が回る。

 

「私も誰か見たいので、このまま連れていってください」

「はぁ? 面倒くさいな」

「今日寒いですしこれだとぬくいです。というかやけに家の中が寒いと思ったらもしかして暖炉の火をつけてないのですか」

「大掃除だからな。暖炉の中の煤なんかを掃除するためだ」

 

 といっても、あまり俺がめぐみんの言うことを拒否することはない。

 なので、俺は背中にくっつき虫を引っ付けながら手の力だけで、床を進む。なんだか筋トレしている気分だ。

 いつもは彼女を抱っこして帰っているので、背中の重みは新鮮だった。

 

 なにやらゆんゆんが必死に感謝の言葉を告げている声が聞こえる。何度も何度も言ってるので、相手としては困っているような感じだ。

 上に乗っているやつからの急かす声を聞きながら応接間を抜け、リビングにまでたどり着き、リビングの扉を上に乗っているめぐみんに開けてもらい、玄関に誰がいるかと覗きこむ。

 

「やあ。遊びにきたよーって、キミなにしてんの?」

 

 ひょいっとめぐみんも後ろから覗きこむ。

 

「……本当にキミ達なにしてんの……カタツムリごっこ?」

「お邪魔するぞユウスケ」

 

 聞き覚えのある声のはずだった。

 ゆんゆんに何かを渡していた二人はよく見覚えのある二人だった。

 

「無作法な格好で悪いが、今日はどうしたんだ。約束はしてないよな?」

「そのお土産っぽいやつ。もしかして酒でしょうか」 

 

 ゆんゆんが貰った山盛りの荷物を目ざとく見つけてめぐみんは興奮する。

 体を乗り出すようにするので、めぐみんの小さい胸が俺の後頭部に強く押し付けられていた。やはりエッチなサービスかもしれん。

 

「うん。酒だよー。それだけじゃなくて美味しい食材も持ってきたんだから」

「今日は新居祝いにな。クリスと話してて気づいたんだが、そういえばまだ来てないだろうということで来させてもらった。邪魔だっただろうか」

「めぐみんめぐみん。こんなに一杯貰っちゃったよ!」

「おお、これは素晴らしいですね。二人ともありがとうございます」

 

 両手一杯のお土産を持って、嬉しそうにトテトテとかけてくるゆんゆんにこけないかハラハラする。

 うーん、邪魔と言うわけにはいかない。

 わざわざ新居祝いに来てくれたのは素直に嬉しい。しかし、今日大掃除のつもりなんだけどな。どうしたものか。でも折角来てくれたわけだし。

 

「いや、歓迎するよ。こんなに多く本当にありがとうな。外は寒いし、とにかく中に入ってくれ」

 

 俺は入り口に立っているクリスとダクネスに入るように言う。

 背中にめぐみんを乗せて、寝そべりながらだったが。

 しかし、流石にクリスもいつものあの薄着じゃない。ダクネスも大人っぽいスーツみたいな服装だし。

 今日は寒いからな。

 ただ今だけはめぐみんの子供のように温かい体温が背中に引っ付いているので、俺はあまり寒いとは思わなかった。

 

 

 

 

 

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