俺はとある町にいた。
というのも、気が付けば知らない場所に立っているのである。
テレビの外国の光景で見るレンガで作られた家々。前方を馬車が通る。人々の日々の暮らしの喧騒がする。子供達が無邪気に遊んでいる。路上の端では食料を売っている人が地べたに座っている。質素な服をきたおばさん達は会話を弾ませ、鎧を着た男やマントを羽織った女性が杖を持ってごく普通に歩いている。
まるで映画に入り込んだような不思議な感覚。
しかしこれがここでは自然な光景なのだろう。
太陽の傾き的に昼頃だろうか。元のいた世界と同じように太陽が昇っているのであればだが。
ここが、異世界か。
俺の手にはいつの間にか懐中時計が握られている。古い作りのようで、外側は銀で作られているがかなりくすんでいる。手にすっぽりと収まる程度の大きさ。時刻を知らせる場所はなぜか三十一までの目盛と普通の半分ぐらいまでしかない。
つまりこれが時間を止められる限度ということかな。
三十一日。
今その目盛の十四のところにあるから、十四日ということなのだろう。
カタログの時計の説明欄に異世界の日付に準じると書いてあったので、今日この異世界は十四日ということなんだろう。しかし、一月が最長で三十一日までっていうのは、元いた世界と変わらないんだな。
俺はそうして、時計のスイッチを押した。
喋り声が一瞬で止む。一切合切の喧騒が消えた。
顔を動かさず周囲を見回すと、動いてる人間はいなかった。
一分経つ。どうしても人間は生きている限り瞬きはする。これが何人も瞬きしないというのは、確かに俺が見ている場所では、人間が止まっているらしい。
「ふぅ」
息を吐き出したのは興奮している自分を抑えるためだ。
落ち着いて考えなくてはならない。
今日の限度は残り十三分。六分間で今後の方針を考えよう。エロいことしたい。あの赤毛魔法使いの女の子にエロいことしたい。髪の毛を触りたい。服の中を見てみたい。ちょー見たい。落ち着け! 落ち着くんだ俺!
まだ、早い。
何事も急いては事を仕損じるという。
バクバクと鳴る心臓を落ち着かせる。竹刀を握った自分の姿を想像する。エロから頭を切り替える。
「失敗したな」
冷静になった頭でまず思ったのは、発動する瞬間に普通に顔を見せていたことだ。
時間を止める。その中を俺だけは動くことができるということは、時間を再度動かし始めたときに他から見たら、動く前の姿と同じでないとおかしい。
これは重要なことだ。特に人というものは顔で判断するもの。顔の表情の判断能力が特に優れている。時間を止めるなら顔は誰からも見られないようにして止めた方がいいだろう。できれば誰もいない場所で時間を止めるのが最良だが。
まあやってしまったものは仕方ない。
微動だにしないようにして、思考だけを働かせる。
時間停止を人に活用させるのは色々と実験がいる。詳しくどこまでできてどこまでできないとか内容を書いてなかったし、自分で試してみないといけないだろう。
とりあえずは、宿か。
衣食住の内、住は真っ先に確保しないといけない。その次に服と食事、そしてどうやってお金を稼ぐかだな。服も今着ているのは制服である。この世界にあった服を買わなくては。
六分。俺はそこで思考を止め、再度時計のスイッチを押した。
音が世界に戻る。
なにもなかったかのように動き出す人々。
とりあえず、俺に注目している人はいないようなのでホッとする。
時計をゆっくりとポケットの中にいれる。手で持っていた方が安全に思えるかもしれないが、もし不審がられたら怖い。何もないようにポケットの中に入れておくのがいいだろう。
少なくとも今見た感じでは、そこまでこの町は治安が悪いようには見えない。
何が起こるかわからないので、常に意識は尖らせながら俺は町の中を進んでいく。人に宿屋の場所を聞いた方がいいかと思ったが、どこでも常識は然程変わらないようで、店にはここがどういう店かというのを表している印みたいなのがある。
剣のマークがあるのは、剣を売っている場所と推測できる。
流石魔王軍と戦争真っ最中。剣なんて売ってるんだな。でもこうやって剣を売ってる店があるということは、銃みたいな遠距離武器はまだできていないんだろうか。
地理を頭に叩き込みながら俺は宿屋っぽい場所にたどり着く。一階では食堂や酒場の役割もなしているのか、窓から楽しそうに食事を取っている若い連中が多く見える。
あまり物怖じしない性格である俺だが、世界が違う相手に喋りかけるのは勇気がいる。
僅かの時間の逡巡の後、俺は宿屋に入る。こういうのは本人が気にしているほど、相手は気にしてないものだ。堂々としていれば大丈夫。
俺は宿屋の主人と思われる人に話しかける。
「部屋空いてますか? 泊りたいんですけど」
宿屋の主人は俺の服装に少し怪訝な顔をした後、そんなに気になるものでもなかったのか普通に返答をする。
「馬小屋、大部屋での雑魚寝、個室のどれだい」
多分馬小屋ってのは安いのだろう。これからなにがあるかわからない。できれば宿を安く取りたいところだが。
「ここの個室はどれぐらいかかります」
「一泊二千エリスで食事はつかずだ。ここで飯食いたければ、一階で別に金払ってくれ。宿屋の料金は前払いでもらうことになっている」
「んー。じゃ三泊でお願いできますか」
まだどんな場所かはわからない限り、安全はできるだけ買っておくべきだ。
「三泊ね。了解。じゃあ名簿に名前書いた後、六千エリスもらうよ」
ずらっと並んだ宿の名簿には名前だけが書かれている。
俺も浮かないように名前だけを名簿に記入する。
――ユウスケ、っと。
しかし、習ってもない言語を読めて、自分でもすらすらと書けるのはちょっと気持ち悪いな。
一万と書かれたお札を机の上に置いてみる。店主はその一枚を受け取り、鞄の中から金貨を取り出して机の上に並べた。
「はい、お釣りの四千エリスね」
「どうも」
良かった。使えたか。
どうもこれがお札というのは違和感がある。一万といえば諭吉さんの顔が見えるものだ。玩具の貨幣を出した気分になった。外国に旅行に行って初めて買い物をするときの感じに似ているのだろう。外国なんて行ったことないが。
「これが鍵ね。二階の一番奥のところになるから。ベッドのシーツは二日に一度取り換えるから、明日の朝にでも畳んで部屋の前に出しておいてくれ。泊まるのは十五日の十二時までだからな。それまでに出てくれたらいい」
「もし長期に泊まることになったらどうしたらいいですか」
「あんた。そういう予定あるのか?」
「まだわかりませんけど、ここの宿がよほど居心地良かったら頼むかもしれません」
「はっはっは。それならその時は一日千八百エリスにまけてやるから何日も泊まればいいさ」
豪快に笑う宿屋に俺も笑顔を返しながら、番号が書かれた鍵を受け取る。
二階に行こうとする前に、背後から疑問の声がする。
「飯はどうする? まだ昼過ぎだが、夜に食いたいものを言ってくれたら十七時頃に呼びに行くが」
「あー、良いです。ちょっと長旅で疲れてまして。あまり腹に入りそうにないんですよ」
「兄ちゃんは見るからに遠いところから来てるしな。旅疲れをゆっくり癒してくれ。疲れを取るならここに浴場はないから公衆浴場に行くのもいいと思うぞ」
「ありがとうございます。寝る前に行ってみます」
親切そうな人で良かった。
俺は礼を言った後、二階に上がる。言われた通り奥にある部屋に書かれた番号と鍵の番号が合っていたので、鍵を入れて中に入る。
「……はぁ。疲れた」
ふと自分が随分疲れていることに気付いた。
「無理もないか」
ついさっき俺は死んだところなのだ。
精神的にはかなり疲れていてもおかしくない。
死んだか。死か。
まるでジェットコースターのような一日だった。
俺は鍵を閉めてふらふらとベッドに倒れ込む。
色々とやることがある。神器の実験もしなければならない。
そう思っているのに、体はピクリともしない。意識が落ちていくのがわかる。急激な睡魔に勝てそうにない。
「寝る前に、お風呂に行かないと」
その言葉を最後に俺の意識はぷっつりと切れた。
「なんだか恥ずかしいなこれ」
俺は服屋を出て自分の格好に素直な感想を言った。
動きやすくここの世界に合った格好になったが、どうも普段の服装と違い過ぎてくすぐったさがある。
特にこのマントだ。時間を再開させたときの差異を気づかれにくくするために腕を隠す程度のこの外套はどうも慣れない。
時計はズボンのポケットの中にあるが、今までと違ってポケットの中に更にチャックがあるからかなり安心できる。外套の内ポケットもチャック付きだ。
本当に用心深いというか心配性だな俺。
まあ慣れてない環境なだけに石橋を叩けるだけ叩いても不利益はないだろう。
さて、今日の予定は神器の実験である。
俺はできるだけ人目にさらされていないような路地裏に入る。目当ての生き物を探しながら歩く。
いた、と心の中で思う。
俺はゆっくりと周囲を見回しながら、誰の目もないことを確認して、ポケットの中のスイッチを押した。
時間が――止まる。
もしものために地面に靴の爪先で軽く線を引く。これでどの位置にいたかの大体の印をつけることができた。
時間を止めることで、物質を動かせなくなるのではないかと考えたこともあったが、そうでもない。
既に実験済みだ
朝に一度部屋で物を上空に投げて俺は時を止めてみた。その物はピタリと空中に止まったが、俺が触ることで動かせるようになった。その物質を手に取り、時が止められている中で軽く上に投げてみると、物理法則通りの動きで俺の手の中に帰ってきた。
それならと強く上に投げてみたら、俺の体から一メートルぐらいまで離れた瞬間ピタリと止まった。そして時を動かしてみると、時を止めている最中に投げた力なんて加わっていなかったというように落ちてきた。
まあ、ある程度俺は時を止めている最中にも物質に干渉できるらしい。
できないと服が邪魔して動くこともできないし、当然といえば当然か。しかし、時を止めて動いてると空気の壁とかあってもおかしくないけど、本気でどうなっているんだろうこれ。重力は? 太陽の光は? わからん。どういう原理が働いているのだ。科学の常識が壊れてしまう。
転生をしている時点で今更かと思いながら、俺はターゲットに近づく。
愛らしい顔。
細い手足。
もふもふとしてそうな柔らかな体。
だらりと伸びた尻尾。
そう。猫である。
俺のターゲットは猫だ。
「いや、そういう危ない性癖じゃなくてな」
ヤバい趣味を持っているといっても猫に欲情するといったものではない。可愛いとは思っても、性的な意味では一切ない。
あくまで実験のためであって、本気で違う。生命を持っていない物質については少しわかったが、生き物についてはわかっていない。それを調べるために警戒心が強く、実験が悪い方向に転んだとしても影響が少ない猫を選んだのである。服屋に向かっているときに俺の世界と同じ生き物を見つけたことに驚いたが、実験相手としては最適である。
俺はなぜか焦ったように自分の擁護をしながら猫に近づいた。
毛づくろいしている猫。
おそるおそる手を伸ばし、猫の頭に軽く触る。手を置いたまま十秒。
「動くことは、ないか」
もしかしたら物質のように俺が干渉すれば、動き出すのはではないかと思ったが、今のところその様子は見られない。
軽く撫でた後、俺は元の位置まで戻ってスイッチを押す。
毛づくろいしている猫はそのまま毛づくろいを再開している。
んー。時間が止まった最中に触ろうが相手への感覚はすべて遮断されているのか? 触り放題撫で放題?
俺は再度、時間を止めてその猫に近づく。残りの時間は十一分だ。
次は頭を何回か強く撫でる。体温を感じるし、肌の柔らかさが伝わってくる。もしも石のような感触だったらと思ったが、杞憂だったようだ。さすがに石のような感触の女性を相手に興奮はしにくいしな……。良かった。
戻って、時を動かすと、さっきとは違う猫の反応に俺は注目する。
何かに気付いたようにパッと頭を動かす。しかしそこまでだった。ちょっと何か起きたと思ったぐらいで周囲を軽く確認すると、元の毛づくろいに戻ってしまう。
これは……どう判断すべきだろう。
時を止めている最中の感覚が時が動き出した後に伝わるということなんだろうか。最初のは気づかれなかったことからして、その感覚は時間が動いているときに比べて薄いものであるようだが。
それを確かめるために俺は今日四度目の時止めを開始した。
全身を本当に軽く触った後、時を動かすと警戒心が強いはずの猫は気にした様子はない。時を止めていると触っても相手への感覚は薄いようだ。
じゃあと俺は五度目の長い時間停止をする。
田舎に暮らしていた俺は、猫と触れ合うことも多かった。だから猫の気持ちいいところは知っているつもりだ。
首まわりをさすってあげる。こちらも気持ちいい。
頬や耳裏まで猫の気持ちいい場所をさすりまくる。
マジでこれに変な意味はない。実験としてやっているだけである。
五分ぐらいはしただろうか。
今日の制限時間が少なくなってきたところで俺は元いた場所に戻り、時間の停止を解いた。
「にゃ!?」
今度の動きは劇的だった。
猫は驚いたように立ち、周囲をしっかりと見回した後、逃げるように去っていった。
実際逃げたんだろうけど。
これで生き物への実験がある程度終わった。
少なくとも猫相手には、時間停止中に触っても動き出すことはない。時間停止中に触ったら時間再開後に感覚として伝わる。しかしその伝わる感覚は時間が動いている最中よりかは随分薄い。
あの猫には悪いことをしたが、実験の結果としては満足いくものだった。
これが猫だけの効果なのか、生物全体に対しての効果かわからないけど、次は人間に試してもいいと思える結果だった。
さて。残り時間はもう少ない。
今日はこのまま、アクセルの街を見回ってみよう。
心配してたけど、この街はかなり治安が良いようだ。日本とは流石に比べようがないが、朝や昼にいきなり襲われる心配はあまりしなくていい。きちんとした警察署や裁判所まであった。とりあえず様々なところを見て、自分の世界との差を明らかにしていこう。
昨日は風呂に入ってないし、今日は公衆浴場に行きたい。ただ神器を風呂を浴びるときはどうするかだな。どうにかして風呂付きの一軒家が欲しいものだ。
後、今日やることは神器の残りの時間を使って、人間相手の実験だな。
他に誰もいないところを見計らって店主にでも試させてもらおう。
しかし――
「猫の次は、おっさんかよ……」
折角の時間停止能力を得たのに使う最初の相手は人間外で、その次はごついおっさんである。
話としては盛り上がりに欠けすぎるぐらいだ。
ちょっとげんなりした気分で、俺はアクセル街を歩き回った。
十六日。
俺は冒険者ギルドと呼ばれる場所の前にいた。
冒険者というと俺の頭には中折れ帽を被って鞭を持ったインディな人を想像するが、ここで言われる冒険者は何でも屋みたいな役割らしい。様々な依頼を請け負ったり、モンスターを倒すなどして報酬を受け取る。魔王軍なんて言ってたから予想はしていた。やはりここにはモンスターという存在がいるらしい。
昔友達の家でRPGをやってるのを見たことがあったが、ああいう風のだろう。
依頼などの仲介役やモンスターの死骸を買い取ったりをしてくれるのがここの冒険者ギルドだと昨日聞いた。
他にも冒険者をやっていく上で重要な物が手に入るらしいが、こればかりは実際に試してみないとよくわからない。
俺は冒険者ギルドに入ると、良い匂いがする。
ここも食事を販売しているようだ。俺は受付と書かれた場所が四つあって、そこの並んでいる人が多い場所に俺も並んだ。何故かと言われたら、受付嬢が美人だったからだ。
金のウェーブがかかった髪の毛。黄金の蜂蜜のように綺麗だ。顔だちも整っており、柔和な印象を与えるその容貌は美人なお姉さんと言いたくなる。
なにより抜群のスタイル。主に胸。胸! おっぱい! でかい!
その素晴らしい胸を谷間が見える服装をしている。屈んだらぽろりとでもしてしまいそうである。むしろなんでその服がずり落ちないのか。不思議な力?
外にはクールに内心ドキドキしながら俺は待つ。
ようやく俺の番まで回ってくる。
「今日はどうなされましたか」
「冒険者になりにきました。ここで合ってますよね」
「合ってますよ。では登録手数料千エリスかかりますがよろしいでしょうか」
「はい。えっと、これで」
俺は袋の中から金貨を二枚取り出し、彼女の前に置く。
その時、おっぱいを直視してしまいたくてたまらなかったが鉄の意思で耐える。女性は人の視線。特に性的な視線に敏感だと聞いたことがある。警戒されるわけにはいかない。
「預からせてもらいます。では、冒険者の登録をさせていただきますので、少々お待ちください」
彼女は受付の窓口から引っ込み、向こうの扉から出てくる。彼女の手には一枚のカードと大事そうにアンティークっぽいものが握られていた。
それを窓口のところにおいてぺこりと頭を下げる。俺! 自然に胸を見ようとするのやめろ!
「これから冒険者登録をしてもらうに従って説明をさせてもらいますね。この小さいカードが冒険者カード」
免許証みたいな大きさのカードだ。
何とか読み取ろうとすると筋力やら生命力やらが書かれている。
「冒険者になるにあたって大事なカードです。身分の代わりもなるもので大切にしてくださいね。もしなくしたら500エリスで再発行となります」
益々自動車の免許証っぽい。
母親は車には乗らないが、免許証は身分証代わりとしていつも持っていた。
「モンスターの討伐はここに記載されます。嘘誤魔化しはできません。そしてこの左下の部分がステータス。自分の力が詳しく書かれているところですね。これによって自分のなれる職業が決まります。生命力や筋力に優れているならソードマン、敏捷性に優れているなら盗賊、知力と魔力に優れているならウィザードになれたりしますね」
「職業によって大幅にかわることがあるんですか」
「まず取れるスキルが違います。冒険者という例外を除けば、その職業によって取れるスキルは限られています。それにステータスの伸びなんかにも関わってきます。あっ、言い忘れてましたが、スキルはモンスターを倒すことでレベルアップすればスキルポイントを得て、自分でカードを操作して取ることができます」
モンスターを倒して強くなるか。
本当にRPGみたいなんだな。
「では。この水晶のところに手をかざしてもらってもいいですか」
「わかりました。これでいいんですか」
アンティークに冒険者カードをセットしながら言うので、俺は言われた通り水晶の部分に手をかざすと、水晶が淡い光を発する。
その光はどんどん下に落ちていき、ビームのように冒険者カードに文字を記載していく。
なんというかすっごいファンタジー。
「はい。ありがとうございます」
すぐにその記載は終わった。
彼女は冒険者カードを両手で取って、カードに書かれたものを見る。
「ミシマ、ユウスケさんですね。んっと、ステータスは……かなり高いですね。魔力は低いですが、筋力。生命力共に高水準です。敏捷性と知性も悪くないですね」
おお、褒められているようだ。
自分がクズであると気づいた九歳の頃の俺。健全な肉体は健全な精神が宿ると信じ、そこからは剣道に熱中した。毎日毎日竹刀を振り続け、その甲斐はあったのか。
「前衛職は大体全部にはなれるのではないでしょうか。まだステータスは足りませんけど、レベル十五の頃には上級職に転職もできると思います」
魔法なんていうものは性に合わないし、前に出て戦えた方がいいので丁度良い。
「両手で持てる剣を使う職業というと、どれになりますか」
「ソードマンはどうですか? 悪くない選択だと思いますよ。単体になったとしても強いのがソードマンの強みですし、ソードマンの上級職のソードマスターは、全職業中の最高の攻撃力を持っていると言われています」
「じゃあ俺はそれにしようかな」
職業は決まった。俺は冒険者カードの操作の仕方やソードマンのスキルの効果を教えてもらい。
他には冒険者ギルドでの仲間の募集の仕方や入り方。依頼の受け方や初心者はどういうものを受ければいいかを教えてもらった。
「長々と時間取らせて本当に申し訳ないです」
「いえ。大丈夫ですよ。これが私の仕事ですしね」
「でもこんな丁寧に教えてもらって、受付してもらえたのがルナさんで良かったです」
「お上手ですね。そんなに感謝してもらえるなら、ユウスケさんが稼げるようになったらシュワシュワでも奢ってもらおうかしら」
「もちろん。いつか喜んで奢らせてもらいます」
そんなちょっとした軽口を叩いた後、再度お礼を告げて俺は彼女と別れる。
まだまだ仕事があるわけだし、俺がこれ以上拘束するわけにはいかない。
俺は冒険者ギルドのお手洗いに入って――ポケットの中にある神器のスイッチを押した。
用も足さずに、俺はお手洗いから出るとそこは変わってないようで変わってしまった世界である。
音はなくなる。存在するのは俺の靴音と心臓の音のみ。ごくりと唾をのみ込んだ音がやけに大きく聞こえた。
さっきまでいた場所に戻ってくる。
そうすると、そこにいるのは営業スマイルで次の冒険者を相手しているルナさんだ。
「……マジ糞クズだな」
仕事とはいえあれだけ丁寧に接客してもらっておいて、俺は最初のターゲットをルナさんに決めた。
三つ子の魂百まで。
馬鹿は死ななきゃ治らないというが、クズは死んでも治らなかったようだ。
宿屋の主人で確かめたが、人間も猫の時と変わらない。触っただけで停止が解けるということはない。だから俺は彼女にエロいことをしようとすれば、することができる。
指が震える。まだやり直せると理性は告げているが、本能が俺の指を震えながらも伸ばしていった。
胸元の服に指を引っかけて、下に引っ張る。
それだけで世界がひっくり返った。
「これが本物……か……」
大きい。わかっていた。大きいのはわかっていた。それでも言わざるをえない。彼女の胸は大きかった。
どうやって服に入ってたのかというほどたわわなおっぱい。
染み一つないハリのある胸の頂点にはほんのりと赤く染めた桜色がちょこんとある。
綺麗な外国人みたいなお姉さんの生乳。
その姿にどれほどの価値があるだろうか。
いやらしさがない営業スマイルでおっぱいを露出しているギャップ。その姿にとてつもないエロスを感じる。
罪悪感。後悔。そんなものを吹き飛ばす現実がそこにはあった。
クズの俺はその偉大な光景に思わず拝む。
「ありがてえありがてえ!」
生きててよかった。いや一度死んだけど。
十秒以上そのエロの塊に合掌していただろう。
「なにしているんだ俺……」
ただただ時間を無駄にしていることに気付き、自分の馬鹿っぷりに変な顔になる。
ポケットの中にある時計の時間を見たら残り八分である。予想以上に変な行動で時間を取ったらしい。馬鹿かな? 大馬鹿かな?
少なくとも三分の余裕を持たせておきたいので、彼女への悪戯は五分が限度だ。服をちゃんと直す時間も考えたら、四分半か。
俺はおそるおそる手を伸ばして、露出されたおっぱい、その頂きを触る。
女性の乳首の感触ってこんな風なのか。柔らかく、ゆっくり押すと形を変える。
そのままおっぱい全体を軽く触る。まるでこの女性のすべてを征服したかのような絶対感。吸い付かれたかのようにおっぱいから手を離すことができない。
揉んでみると、弾力がある。
初めておっぱいを触った感触に驚きを隠せなかった。
想像してたよりおっぱいの中には詰まっている感触がある。風船みたいなイメージをしていたが、それとはちょっと違う。でもルナさんのおっぱいは柔らかい。
クニクニと乳首をこねる。
ルナさんは彼氏はいるのだろうか。もしくは結婚しているのだろうか。二十歳は越えているだろうにまるで誰にも触られたことのないような綺麗な乳首を触る。
もう一度おっぱいを手のひら全体でこねる。ルナさんのおっぱいが俺の意思で動く。ぶるんぶるんと大迫力だ。こんな美人のおっぱいを俺が触っているなんて信じられない。
彼女の肉。彼女の熱。彼女の隠しておきたい場所。
それらのすべてが俺によって暴かれている。今日会ったばかりの俺に、ルナさんはおっぱいを触らせていた。
ずっと喋っていたせいか、汗が浮かんでいる胸の谷間を見ながら俺は彼女のおっぱいを楽しんでいた。誰だってこのおっぱいを見れば揉みたいと思うだろう。股間を膨らませるに違いない。
これだけしてもルナさんのスマイルはまったく曇ることがない。
まるでなにもされてないのと同じ。振り払うこともしない。ただ変わらず俺の変態的行動を一身に受けるだけ。時間が止まった世界で、あまりにもルナさんは無防備だった。
輝くような金の髪の毛の匂いを嗅ぎながら、ルナさんの乳房を掴む。
ルナさんの乳房は俺のような童貞には衝撃的である。
おっぱいに対してささやかで可愛らしい乳首を、口に含んでちゅーちゅーと吸い取りたい。
このおっぱいを時間無制限で、思うままに弄れたらどれだけいいことか。
宿屋のおっさんに試したのは、触っても時間停止が解除されないことと軽く触っても気づかないことぐらいだ。猫の時のように強く触るとどうなるかは調べていない。おっさんを猫みたいになでなでしたくないし。
それに好き放題してしまえば、制限時間のことを忘れて無茶苦茶にしてしまいそうだ。
初めてのエロに興奮しすぎてしまっている。
俺は名残惜し気に一揉みだけして、そのおっぱいから手を無理矢理離させる。
下半身は受付窓の向こうにある。
なので俺はルナさんの顔に手をかけた。
頬を触る。そしてその甘い唇を軽く触ると、
「あっ、やべ」
口紅が手についた。
そりゃそうだ。この世界の住民も化粧ぐらいするか。
このぷりぷりとした唇にキスしたいけど、今日はお預けにしとこう。
最後に口紅がついていない方の手でおっぱいを一撫で。二撫で。三撫で。四撫で。きりがねえ!
これから何度もこういうことができるのだと自分で自分を納得させ、俺は彼女の服に手についた口紅がつかないように気を付けながら服を元に戻す。
再度合掌した後、誰にも当たらないように気を付けながらトイレの中に戻る。神器の制限時間を見てみると、残り二分しかなかった。
「時間の感覚も掴まないといけないな」
時計を見なくてもどれぐらい時間がかかってるか把握できた方がいい。
でも体内時計の作り方なんてどうすればいいのか。ボクシングなんかは三分間の練習が多いせいで三分間なら大体誤差なくわかるというが、高校の剣道にそういうものはない。
今後の課題を考えながら俺はトイレで口紅がついた手を洗った後、扉を出る。
さて、これからどうしようか。今すぐギルドの依頼を受けるってわけにもいかない。お金の減りも気になってきたので、できれば明日か明後日には受けたいが、今日は剣を買ったり防具を買ったりとやることが多い。本当に自分がモンスターを相手に戦闘が可能なぐらいの力があるかもわからないしな。
ギルドの窓口は盛況だ。
特にルナさんがいるところは男の冒険者がずらりと並んでいる。
変わらず懇切丁寧に冒険者に対応している。まさかついさっきそこで胸をさらけ出していたなんて欠片も思ってない営業スマイル。
叫びたくなる。
俺はその人のおっぱいを弄ったと公言したくなる。
にこやかな笑顔を絶やさず対応する彼女のおっぱいを見て触ったんだぜという興奮。自分のド外道さへの後悔、そしてもしかしてばれるのではないかという恐怖。
最初の時止めエロは、あっさりとしたものだったが、おおむね大成功をおさめた。