首を回す。肩を軽く回す。
パンを一口齧ったあと俺は筋肉をほぐすような動作をした。
次の日の朝。夜の内に頼んでいたパンとサラダとスープを食べていた。
なかなかパンも美味しい。個人的には日本の料理には勝てないと思っているが、それでも決して馬鹿にしたものでもない。味付けは然程変わらないし、十分すぎるほど楽しめる朝食だ。
それにしても久々の筋肉痛だ。
いや筋肉痛にはよくなるが、それは慣れたものである。剣道で慣れ親しんだ筋肉痛はもうまったく気にならないものとなっている。
昨日剣を買って一日中振っていたことで、いつもと違う筋肉を使ったので、ちょっと体に違和感がある。
剣道で竹刀は毎日振っていた。
手はマメが潰れた上に更にマメができて潰れて、もう岩のように硬質化している。
しかし、剣道はあくまで如何に速く相手の体に当てるかを目的としている。実際に斬って殺すことを目的とした振り方とは随分違う。それに剣と竹刀では感覚では大体三倍ぐらい重さの違いがある。重心も違うし、いきなり慣れるのは難しい。
はずなんだが……そうでもない。
おそらくだが、ソードマンのスキル。両手剣のせいだと思う。
スキルポイントはレベルアップして得られる分とアイテムで得られる分と個人の才能によってあらかじめ持っている分がある。
俺も最初から幾分かスキルポイントは持っていた。平均から見ると多めの。
それで取ったスキルである両手剣。これのせいか初めて実物の剣を触ったにも関わらず、ある程度見れるぐらいには振えてしまっている。達人には程遠いが、一ヵ月か二ヵ月ぐらいは剣の練習をしていたような下地が勝手に出来上がっている。
サラダを食べて、スープを飲む。
この世界は俺の世界より文化レベルが劣っているのかと最初は思ったが、そうではない。
ただ単に進む方向が違っただけだ。
冒険者カードからしてもそれはわかる。相手の名前と力量が一瞬でわかる装置。そしてスキルという人を一瞬で強化してしまうシステム。とてもではないが、俺のいた世界にこんな力はなかった。圧倒的に上回られている場所も確かに存在する。
それに下水道も完備してるし、風呂も魔法で普通に入れる。
居心地がいいだけに、改めてこの世界をなめてはいけないと思いなおす。慎重に動くという俺の方針は間違ってないな。
しかし、このパンは美味いな。
一個おかわりは無料といってたしもらいたいが、腹八分目にしておこう。
食べ終わった俺はトレーを持って、カウンターの場所に置き、ここからでは見えないが奥で食事を作っている店主に声をかける。
「ご馳走様でした。今日も美味しかったです」
「おう。今日から冒険者の依頼を受けるんだよな。踏ん張って来いよ」
「まあなんとか宿屋には帰ってこられるように頑張りますよ」
宿屋の一階にはまだ俺と店主しかいなかった。
朝早くなので冒険者はまだ寝ている人が多い。俺は早起きするのが癖になっているので、この時間から冒険者ギルドで依頼を受けるつもりだ。ゴブリンやコボルトといった雑魚モンスターの退治のついでに試したいこともあるしな。
それにしても、だ。
ムラムラする。
こっちの世界に来てから下の処理は一度もしてないし、朝起きたときも俺の下半身はうるさかった。神器を見ると、制限時間は十七分。神器の実験もあるし、あまり使うことはできないんだがな。
俺は扉のノブに手をかけて、誰も見てないことを確認してから神器のスイッチを押した。
時間は停止しているはずだが、朝早いので元々喧騒がないからわかりにくい。まあ止まっているだろう。
俺は扉を開けて急いでこの宿屋の馬小屋へと行く。
時間はない。この後のために十分は残しておきたいからだ。
馬小屋の中にいる一人の少女を見つけ、俺はいやらしく笑った。
「何度か見たことがあるな」
体の左半分を下にして寝ているのは魔法使いの女の子だった。彼女が持っている中では高価なものなのか、胸にぎゅーと杖を抱きしめており、特徴的な帽子は彼女の近くに置かれている。
赤く長い髪はウェーブしていて、触り心地が良さそうだ。群青色の服を身にまとっていて、動きやすいようにか長いスカートの部分には大きくスリットが入っている。
どことなく薄幸そうな顔がそそるものがある。
「やっぱ馬小屋に泊まるのは危ないわ」
白々しいことを言いながら俺は彼女の髪の毛を触った。良い手触りである。赤の髪の毛が前から気になっていたんだよな。
彼女の癖っ毛を俺は撫でる。こんなところで寝ている割には、髪の毛は傷んでいない。アクセル街は宿屋の値段が高いだけで、公衆浴場の値段なんかはそんなにかからないので風呂はちゃんと入っているのだろう。
大事にしているだろう赤毛を俺が勝手に弄っているなんて、彼女は夢にも思わないに違いない。寝ている彼女はどんな夢を見ているのか。それはわからない。
もちろん、髪を触るだけで収まるはずがない。
俺のちんこが出番だといきり立っている。こんなままごとみたいなので許してくれない。
俺はボロンとちんこを取り出して、あろうことか彼女の髪に擦りつけた。
女性にとって命とも言われる髪に、顔を見たことある程度の俺のちんこがぶちゅりとついてしまっている。前から一度したいことがあったんだよな。
俺は彼女の髪の毛を使ってシコる。
髪シコだ。
腰を動かしてウェーブした赤毛を俺のちんこの道具とする。ただ射精するため彼女の髪の毛は使われる。まさかこんなことは夢にも思っていないだろう。
が、擦っても擦っても俺のちんこには良い刺激がなかった。
「気持ちいいような少し痛いような……」
ダメだこれ。
髪だけを使ってのシコりは、出せる気がしない。もしローションみたいなぬるぬるしたものがあればいけるかもしれないが、俺には無理だ。
髪シコは俺にとっては幻想だったのか。
どっちかというと、女の子の髪を汚すというシチュエーションに興奮するのかもしれない。
「時間がないのにな。早く出さないと」
髪だけで済ますつもりだったが、俺はスリットの中に手を入れて彼女の尻を揉む。
うん? 意外にデカいな。もっと貧相な尻だと思っていたが、かなりのボリュームを感じる。安産型で、桃尻と言いたくなるような手応えだ。それもスリットの中を見ると、下着は遊びのない白。その清楚さに俺のちんこは更に硬さは増す。
もう時間がない俺はとうとう禁断の行為をする。
目をつむった彼女の顔に俺のちんこを近づけ、なんと魔法使いの口に俺はちんこを当てた。柔らかな唇の感触が俺のちんこから伝わる。
キス。接吻である。
ああ、もしかしたら彼女にとって初めてのキスが俺の鈴口なのかもしれない。
ちゅっちゅっと俺の鈴口にキスをする彼女。
まあ俺がさせているのだが。
赤毛を俺は掴みながら彼女の口に執拗にちんこを押し当てる。まるでただのオナホみたいに、性的欲求を解消させるために、もしかしたらファーストキスやセカンドキスに当たるかもしれない大事なものを散らしていく。
ただ朝にムラムラしたからという理由だけで、赤毛の魔法使いは俺のちんことキスするはめになっていた。
口紅を塗るように俺の先走り汁を唇に塗っていく。汚くて臭い汁を彼女の口紅代わりとする。
鈴口に三十回は無理矢理キスさせただろう。
時間もないし、元から溜まっていたので、俺は我慢させることなく射精する。
といってももちろん彼女の口にではない。
ハンカチの中にである。
こういう時のために何枚かハンカチを用意してある。多分彼女の口はこの後カビカビになってしまうと思うので、水で濡らしたハンカチで拭っておかないといけないだろう。
後処理は大切だ。時間停止は実際使ってみると万能というわけでもない。
緊張と高ぶった性欲で心臓の鼓動が早くなっていた俺の息は若干荒くなっていた。
「はぁふぅ……性欲解消を手伝ってくれてありがとう。名前も知らない魔法使いさん」
射精し終わったちんこでまた彼女の口にちゅっとお別れのキスをする。
門番に頭を下げて、アクセルの街を出る。
アクセルの街。別名始まりの街。
始まりという名前の由来は、冒険者にとってここが始まりの土地だからだ。この国において魔王の城から最も遠く、出る魔物も弱い。領主は今一評判は良くないが、大貴族ダスティネス家のお膝元ということで領主も好き勝手できなく、治安はすこぶる良い。
普通の冒険者はここから始めるのが、いつからかの決まりみたいなものになったらしい。
だからあえて周辺にいるモンスターを根絶せず、冒険者がレベルアップできるように数を管理している。
まあ絶滅させようにもできないモンスターもいたりするようだが。
今回俺が冒険者ギルドから受けたのはコボルトの退治。数は五匹。
森に棲むコボルトはモンスターの中でもかなり弱いらしい。少なくとも俺のステータスなら一対一なら負けることはないそうだ。
なんでも森には初心者殺しという強力なモンスターもいるらしいから、そいつだけに気を付けて俺は森に入ってコボルトを探す。
森に入って三分ぐらいで俺はコボルトの姿を見つけた。都合の良いことにいるコボルトは一匹だけだ。
俺は押しやすいように外套の内ポケットに入れていた神器の力を開放する。
時間が止まる。森の鼓動が止まる。木々のざわめき、鳥の鳴き声が止んだ。
俺は速足でコボルトに近づく。接近して思ったのはまるで3D映画のモンスターがそのまま飛び出してきたようだ。緑色の化け物は、確かに生きてそこにいる。
モンスターがそのまま飛び出してきたようだ。緑色の化け物は、確かに生きてそこにいる。
俺は剣を腰から抜く。
まずは猫や人間では試すことができないことをするつもりだ。
神器の説明にあった――生命に致命傷、またはそれに類することも不可能。
これがどういうことかをモンスターを使って実験する。実験したいと思うのだが、なかなか斬りにいけない。
心に拒否反応がある。
生き物に剣で斬りかかるというのは、普通に辛い。中学生の頃にやったカエルの解剖実験なんかも正直あまり好きではなかったし、グロいのはできれば見たくない。
でもここはそういう世界だ。
これからもモンスターを斬らないと生きていけない。
大きく深呼吸を二回する。
「よしっ!」
覚悟を決めた俺は、コボルトに向かって全力で斬りかかった。
ずぶずぶと刃はコボルトの肌に沈んでいく。嫌な感触が手に伝わる。モンスターを半分ほど斬ったところで、俺は手を止めた。
「あれ……これ死んでね?」
半分まで斬られた生命が生きているはずない。
このモンスターがそんなにタフなら雑魚モンスターと言われることはないと思う。
どういうことだろう、と俺は剣をコボルトの体内から抜き取る。
そうすると、まるで世界が修正されたかのように――コボルトの傷が治る。斬ったことがなかったことにされたようにだ。
「なるほど。こうなるのか」
だから致命傷を与えることは不可能なんだな。
それならと俺は地面に転がっている石を集め、もう一度コボルトを半分まで斬って、その体内に石をありったけ突っ込む。
おらおらおらと石を体内に詰め込む。赤ずきんの狼を思い出すな。子供心にこいつら主人公側のくせに残酷すぎだろうと引いていた。本来ならもっとえげつない話だと後々聞いて更に引いた。
これだけ石を突っ込まれれば、時間を再開させれば石により勝手にコボルトは死ぬだろう。常識的に考えるならばだが。
俺は剣をコボルトを斬ったままにしておき、自分は物陰に隠れて時間を再開させる。
その瞬間俺の手にはなぜか剣があった。
この手にあるのが自然だとでも言いたげに俺はいつの間にか剣を握っている。
そしてコボルトの足元には大量の石。ごく普通にコボルトは動いている。
再度――時間停止。
どうあっても致命傷に類する危害を加えることは不可能か。なにかしら裏技があるかもしれないが、直接は無理のようだ。
俺はコボルトの口を軽く開け、腰にかけてある水筒の水を口内に入れた。滅茶苦茶入れたら溺死判定されるかもしれないので、そんなに大量には入れないでおく。
結果を確かめるために物陰に隠れてスイッチを押す。
コボルトの口から水が垂れる。
何が起こったのかとモンスターも驚いている。
これぐらいなら修正がかからないのか。あくまで大きな危害を加えようとすると、なかったことにされるだけなんだな。
斬る感覚もなんとか我慢できるようになった。
俺は物陰から出て堂々とコボルトの前に出る。
俺の時止めは制限時間がある。今日のような十分以上ある日ならいいが、一日から五日辺りまではろくに時間を止めることができない。だから素のままでも戦えるようにしておかないといけない。戦闘での時止めはあくまで保険だ。
「ウインドソード」
ソードマンの一つのスキルを使う。剣が僅かに緑色に染まる。効果は剣速が上がる。ソードマンの武器のエンチャント系の一つだ。
まだ慌てているコボルトに向かって俺は、一歩踏み出す。
「接近」
二つ目のソードマンのスキル。敵に近づく速度が上がる。後ろから押されているみたいだ。足が軽い。グッと踏み込む足にあまり力を入れなくても、進む距離は長い。
敵に近づかなければ剣士は意味がない。特に接近スキルには多めのスキルポイントを振っている。
トットットッ、と地面を蹴る足音。コボルトに構えさせることすらない。
俺は風のように接近して、コボルトの首を跳ね飛ばした。
あえて首を斬り飛ばしたのは、剣道にこんな技はないからだ。首を横凪ぎするなんていうのは一本取ってもらえるわけがない。わざとだとしたら反則として取られかねない。
それでもそうしたのは、剣道とは違うことを自分に実感させたかったからだ。
竹刀ではなく剣を。自分の心を正すためではなく、モンスターを倒すため。それに今後俺は剣を振う。
残心。
達成感があるが、集中力は途切れないようにする。
コボルトの緑色の血を布でぬぐって、俺は次の獲物を探すことにする。
残りは四匹。
結果からいえば、特に苦労することなく俺はこの依頼を達成することになる。
初めてのモンスター討伐から大体一ヵ月が経った。
あれからもコボルトとゴブリン。雑魚モンスターと言われる程度の依頼を受けてレベルは五になった。一度大型獣みたいな初心者殺しと呼ばれるモンスターに出くわしたが、時を止めて逃げた。
今は一日間の稼ぎは三千エリスちょっと。大体一日宿屋と食事に三千エリス使ってるからトントンだ。
剣も消耗品だし、怪我でもしたら治療費がかかる。とてもではないが、これではやっていけない。格安である馬小屋なら宿屋代がほぼ丸々浮くから、それなりにやっていけるんだが、もしもを考えると踏ん切りがつかない。
といっても、この一ヵ月だが、モンスター退治でやっていけるかもという僅かな自信はついた。
これから俺もレベルアップしていけば、稼ぎの良いモンスターを退治できるようになるだろう。それなら遠慮なく宿屋で暮らせるし、果ては自分の家まで持てるかもしれない。本当に早く風呂付きの自分の家が欲しい。
「レックス達王都に行ったらしいぞ」
「レックスなんてどうでもいいわ。ソフィの姉さんが行ってしまったことはショックだけどな。あの気の強そうな目。んー、たまらなかったのに。ちくしょう。今夜の夢はソフィのSMプレイで決まりだわ」
「しっ! 声でけえよ。まああいつらは強かったし、そろそろ出るのも納得なんだが。あー、俺達もレベルは充分だし、どっか他の街でも行こうかな」
「行かねえだろ」
「うん、ねえわ。この街から離れることは無理。俺も今日の夢はソフィにする」
冒険者ギルドのテーブルに座っているので、近くに座っている冒険者の声が丸聞こえだった。
なにやら盛り上がっている冒険者二人組はなにが楽しいのか、肩を組んで出ていく。
冒険者ギルドの飯もなかなか美味いが、俺はちびちびとシュワシュワを飲む。えらく飲み心地がいいけど、酒でも炭酸飲料でもないらしいがなんなんだろうこれ。まあ美味いからいいけどね。
何人かいるウェイトレスが目に入る。ルナさんには届かないとはいえ、ここのウェイトレスはかなりの美少女揃いで正直嬉しい。宿屋では絶対敵わない点である。あっちは気の良いおっさんだからな。
なぜ俺がここでよくわからないものを飲んでいるかというと、パーティーを作ろうかと思っているのである。
冒険をするためのパーティー。基本的に冒険者は四人一組のパーティーを作る。
俺は人より冒険者の才能はあるようだ。けどそれでも突出しているわけではない。もし魔剣や聖剣を選んでいたら一人でも冒険をできてただろうが、そうではない。
戦闘において時を止めるという保険を使いにくくなるのは痛手である。しかし、後最低でも一人かもしくは二人は仲間が欲しい。
俺の目的は魔王討伐だ。まあ能力からしてそれは無理だとしても、魔王を討伐する手助けはしたい。あの女神アクア様にもらった恩は大きい。せめて少しは返しておかないと。
俺の職業はソードマン。接近戦は得意だが、遠距離戦は不得意だ。ちょっとしたタンク代わりもできるし、欲しいのは遠距離に強いウィザードと回復が主体のプリーストか。
冒険者ギルドの募集欄に募集の紙を貼った。
自分の職業とできれば入ってきてほしい職業。報酬はきっちりと山分け。できれば一度試しにパーティーを組んでみませんかというのを丁寧に書いてある。
別に男であろうが女であろうが構わない。
男のがどっちかというと楽か。
時止めもパーティーには使いたくないし。バレる可能性が上がるしな。
シュワシュワを飲み終わり、暇なのでコップを中指でこつんこつん叩いていると、えらく可愛らしい声がした。
「ふっふっふ、募集の張り紙見ましたよ。ウィザードの募集ですね」
コツコツとわざとらしい地面を杖の先で叩く音。
「運命の時来たれり。世界の祝福はあなたに微笑みました。ここより伝説が始まります。謂わばこれは深淵な伝説の序章の出会い!」
声だけではなかった。
その女の子は顔も可愛かった。
バサッとマントを翻す。紅色のマントがたなびく。
「我が名はめぐみん! ウィザードを超えるアークウィザードに座する者。最も強力な破壊力を持つ技を習得せし、紅魔族の天才!」
人間ではないような真紅の瞳。まるで元の世界でも滅多にないとされるレッドダイヤモンドのような美しさ。その瞳は吸血鬼を思い出させるが、その顔の整い方は可愛らしさが優先される。十字架が書かれた眼帯を左目にしているのは、何かしら意味があるのだろう。
服は全体的に赤を基調としている。とんがり帽子をして杖を持つ彼女の姿からは、魔女を連想させる。しかし魔女といえばしわくちゃのおばあさんが基本で、こんな可愛らしい魔女はいないだろう。
肌には幼さ特有の柔らかさが見て取れ、ルナさんとは真反対の薄い胸。年齢は俺より四歳か五歳は年下か?
彼女の容姿とその言動に見惚れていた俺だが、慌てて席を立つ。
紅魔族と彼女は言った。どうやらこの世界には人間にも種族があるらしい。独特な言葉だったが、失礼に当たらないようにちゃんと返さないと。
俺は見様見真似でマントを翻す。
「俺の名前はミシマユウスケ! 神に選ばれし存在。剣を取りし、魔王討伐を目的とする者!」
今まで会った人達の挨拶は普通だったから油断していた。
「おお」
それを見た紅い少女はというと、軽く拍手していた。
「まさか紅魔族以外でこの挨拶に応えられる人がいるとは。里から出てきて初めてです。なかなかやりますね」
……あっ、別にこの挨拶は紅魔族だけがやる挨拶で俺はやらなくて良かったのね。
ヤバい。普通に恥ずかしい。
俺の顔が彼女の瞳より赤くなるのを抑えながら、俺は向かいの席をすすめる。そして、ウェイトレスさんを呼び、彼女の分のジュースを頼む。
「奢りですか?」
「うん。それで君はあの募集の紙を――」
「あっ、じゃあウェイトレスさん。唐揚げとパンももらえませんか。パンは三つで」
「わかりました。ご注文は以上ですね。少々お待ちください」
「……いや、別にいいけどね」
俺もそこまで金あるわけではないんだけどな。
可愛らしい外見とは裏腹に中身はなかなかふてぶてしいようだ。
しかし、アークウィザードと言われたらそれを咎めることはできない。上級職。それが本当ならこのような姿をして俺の何倍も強いのだ。
元の世界と違ってこの世界では見た目の強さはあてにならない。ステータスと職業とスキルさえ強ければ、子供だろうが強さは保証される。そんな職業の人がパーティーを組んでくれるなら心強い。
「さっきも紹介したけど俺の名前はミシマユウスケだ」
「ユウスケとお呼びしても」
「いいよ。じゃあこっちもめぐみんでいいかな。俺の職業は書いてある通りソードマンで、そうだな、これ見せた方がいいか」
俺はポケットの中から冒険者カードを取り出してめぐみんの前に持っていく。
「レベルはまだ恥ずかしながら五だ。駆け出しの冒険者だな。スキルは……接近に多めにポイントを振っている。小デコイも獲得してるから本職のナイトやクルセイダーより効果は低いが、ちょっとしたタンク役もできる。後は武器へのエンチャント系のスキルと斬撃威力に振って、それと魔法耐性にも振ってるかな」
子供ながら上級職の相手に見せるのは恥ずかしいが、パーティーを組むなら実力は正直に話しておいた方がいい。
何ができるかわからない相手では共闘できないしな。
「レベル五にしてはステータス高いですね。上級職になれるまで二、三歩。スキルも充実していますし、期待の新人ってところですか」
彼女はそこまで言ったところでドヤ顔を決める。
「しかし、所詮は期待の新人止まり! ハンバーグについてるパセリが如く! 紅魔族の天才少女にして期待の大型新人の私のステータスを括目せよ!」
めぐみんの冒険者カードが見せられる。
すごっ!
普通に俺は驚いた。
レベルはそんなに変わらないのに知力と魔力がずば抜けている。魔力に関しては俺の十倍以上ある。才能の差というのも感じさせられる。自分でいうだけあってこの子は天才の部類だろう。
「本気ですごい。優秀なんだなあんた」
「んふー、そうでしょうそうでしょう」
「スキルの欄も見せてもらってもいい? 指で隠れているからちょっとこっちからは見えなくて」
「…………」
なぜか脂汗を流す天才魔法少女。
ここ暑いだろうか。俺はそんなに暑いとは思わないんだけどな。
「こ、これが私のスキルです!」
彼女は少しだけ指をずらす。
そこで見えるのはスキル一つだけだった。
「爆裂魔法。威力ありそうな魔法だ」
「威力あるなんてものじゃありません!」
唐突にヒートアップする少女。
飛び込むようにしてテーブルに身を乗り出すめぐみん。
コップに当たりそうになったので、危うくどける。
ルナさんと同じく胸元が少々緩い服を着ているので、危うく見えそうになる。おっぱいが。
「最高の破壊力を持つ選ばれた技が、爆裂魔法です。どんな相手だろうが絶対に通用するのが素晴らしいところ!」
そんなことにも気づかないように彼女は熱弁する。
「その破壊力たるや及ぶものなし! あまりにも威力がありすぎてダンジョンで弱いモンスターに使う意味がない。だからネタ魔法などと呼ぶ人がいますが、大きな間違い。勘違いです!」
あっ、乳首見えそう。
「撃てば跡形も残らない。それはロマン! 格好いい! 一撃必殺。これほどこの魔法を表した言葉はあるでしょうか! いやない」
反語まで駆使しやがる。
そこまでの熱意か。
「スキルポイントを大量に使う。普通のアークウィザードだと一発すら撃てない魔力を使う。そんなものは関係ありません。そこに爆裂がある。だから使うんですよ。わかりましたか!?」
「あー。爆裂魔法がリスクが多いだけあって、素晴らしい威力を持っているのはわかった。よーくわかった。……でも、そんなリスクが多い魔法だけでやっていけるのか。魔力を大量に使うなら、そんな連発できるものでもなさそうだし」
隙があったのは彼女の体だけではない。
彼女の冒険者カードにもだ。高いステータスを持つ彼女のスキル欄には一つしか刻まれてなかった。爆裂魔法以外のスキルは書かれていない。
アークウィザード。上級職の彼女は驚くべきことに一つのスキルしか使えない。
顔を凍結させ、ゆっくりと姿勢を正す彼女。
どう言うつもりなのかと思ったら、彼女は叫んだ。
「確かに一日に一発しか使えませんよ! 悪いんですかこれが悪いんでしょうか! おかげでパーティーに入ってもほぼ解雇状態! 唯一成功したパーティーの人達は王都に行ってしまいましたし!」
「他のスキルを覚えたり使ったりする気は――」
「一切ありません!」
言い切るのか。
レベルアップしてスキルポイントを得てもこれからずっと爆裂魔法につぎ込む気なんだな。
じゃあ、どうしたものか。
パーティーを募集してみたはいものの、来たのは高威力魔法しか使えない上級職。
彼女は爆弾だ。一日に一回しか使えない。
初心者がパーティーを組むには癖が強すぎる性能である。
それは彼女もわかっているのか、やさぐれた表情をしている。どうせ今回は機会がありませんでしたと言うつもりなのでしょと恨み言をつぶやいている。
まあ、普通なら追い返すべきなのかもしれない。
「なにもパーティーを断るとはいってないだろう」
「本当ですか!」
再度テーブルに乗り出して上目遣いに見てくる。
チラッとブラジャーの中にある乳首が見えたかもしれない。
「言質! 言質取りましたからね!」
「まだパーティー組むとは言ってない! 爆裂魔法。その威力次第では組んでもいいかもしれないとは思ってる」
「あなたはなかなか見る目ある人ですね。紅魔族の挨拶も返してくるし、外では笑われる紅魔族特有の名前も聞いても笑いませんし」
変な名前なのか。異世界だからそんな名前ぐらいあるのかなと思って流してた。
日本人の俺からしたら外国の名前でも変に感じるものも多いしな。
なぜパーティー組むかもしれないと言ったのは彼女が可愛いからではない。一瞬見えた乳首がピンク色をしていたからでもない。
俺はできれば魔王を討伐したい。できなくても魔王討伐の手助けがしたい。大物をいつかは倒すつもりなのだ。
でも神器の能力的に倒すのは困難を極めるだろう。
しかし、彼女ならば。高い魔力とスキルポイントを惜しげもなく一つのスキルにつぎ込んでいる彼女なら――大物も食えるかもしれない。
そういう打算を込めての結論だ。
……正直可愛いからというのもちょっとはある。仲間を組むのは男の方がいいとはなんだったのか。今までは関わってきたことなかったからわからないだけで、もしや俺って可愛い子に弱いのか?
「任せてください。威力に関しては他の追随を許しません。本当の最強魔法をお見せしますよ!」
何度も練習したのか。
ビシッとしたポーズを決めながら、彼女は意気込みを語る。
子供が背伸びしたように感じるその姿からは、とてもではないが高威力の魔法をぶっ放す魔法使いには見えない。