※この作品はR-18です。

別に素晴らしくもない時止め屑野郎が来た   作:伏見透

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三十一話

 

 

 床の上で俺は正座をしている。

 冷たい床が心地良い。しかし、疲れた体でこの体勢は辛い。だから当然俺がわざわざ正座をしたくてしたいわけではなく、させられているのだった。

 

「……申し開きはなにかありますか」

 

 正座を命令しためぐみんはというと、少し汚れている俺のシャツを再度着ながら仁王立ちをしている。

 

「……やりすぎました」

 

 俺は素直に自分の反省の意を表した。

 こちらに人差し指で差しながら、彼女は俺を怒る理由を叫ぶ。

 

「五回ですよ。五回! 本当にヤりすぎです! 私も満足するまで付き合うとは言いましたよ。言質は取られました!」

 

 俺以上に疲労した顔つきを彼女はしていた。

 

「それにしたって五回はヤりすぎでしょう! 最後の方は私殆ど意識なかったですからね! ……あ……あ……とゾンビなうめき声で相手していました! 腰が、腰が痛いですし、あそこもヒリヒリします!」

 

 一回戦が終わっても俺のあそこは元気で、満足するまでというこの部屋の条件をクリアするために俺達は二回戦を始め――そこから五回戦まで続いた。

 俺が満足するためにはそこまでかかってしまったのだ。めぐみんの小さな体に五回も出してしまった。付き合わされためぐみんが怒鳴るのも仕方がない。

 

 しかし、こちらからも反論の余地はあると思われる。

 

「めぐみんも三回戦の時は……」

「なんですか?」

「三回戦の時はめぐみんもこっちの足に自分の足を絡めて、自分から腰振っていたし」

 

 あれで益々興奮してしまって俺も歯止めが効かなくなってしまったのだ。

 

 二回戦の後俺のあそこはまだ元気だったが、めぐみんが辛そうだったのでそこで一度休憩した。

 置いてあったポーションを股間に垂らして膣の痛みを治した後、趣向を変えてめぐみんが俺の上に乗ってしていたら、なにやら興が乗ってきたのか、ノリノリな感じでのセックスに三回戦はなってしまった。

 

 俺に体全身をべったりと纏わりつかせ、だらしない顔で腰を振っていた。

 

 ただそうなったのも今考えるとポーションのせいかもしれない。ポーションで怪我を治すと、少し興奮する。急速な回復は僅かな快感をもたらす。最高級ポーションを膣に浴びせためぐみんは、もしかしたらそれだけでかなりの快感があったのかもしれない。

 何度もキスしながら自分から膣にちんこを出し入れしていためぐみんはというと、大声で否定する。

 

「は、はぁ!? 一向に記憶にございませんけど! ないですね! 皆無です! 私とするのが気持ち良すぎて夢でも見ていたのではありませんか!」

「あー、確かに無我夢中だったからありえないことはないな」

「そうですよ。白昼夢です。幻です。幻覚です。うんうん、あなたが現実を直視できて私も嬉しいですよ、ユウスケ。……ふぅー、危うく記憶がなくなるまで折檻しないといけないところでした」

 

 今の状況も夢ではないかと頬を抓っていると、なにやら小声で不穏なことが聞こえた気がするが、勘が危ないと告げているので聞き返すことはなかった。

 

 頬を抓ると痛かった。

 夢じゃないのか。夢みたいな出来事なのに。

 

「……こんなにも中に出して……避妊の魔法薬飲んでもらっているからいいものを、飲んでなかったら絶対私妊娠していましたよ。……んんぅ」

 

 めぐみんがぺろりと裾をまくりあげて膣から白濁液をぽとぽと落としているのを見ると、やはりこれは夢ではないかと思うけれども。

 俺の精子を女性器から出していためぐみんと目が合う。

 

「そんなに見られても困りますが……なんですか、ユウスケ。まだ満足できないと?」

「している。俺も限界だわ」

「それはそうでしょう。あなたが出したのは上の階と合わせて合計七回ですからね。満足してなかったら驚きです」

 

 もし触手と戦うなどがなければ後二、三回はいけたかもしれないが、今日はもうからっけつだ。これだけめぐみんのエロい姿を見てもピクリともしない。

 彼女は俺の精液でたぷたぷになったお腹から精液を吐き出させ、女性器を水で洗った後、改めて最高級ポーションを膣に垂らしている。

 俺は彼女が床に零した精液をティッシュで拭き取り、穴に捨てて、俺もあそこを水で洗う。めぐみんの汁がべったりとついた男性器を、洗い流す。

 

 後始末というかぐちょぐちょだった体を少しはマシにする。

 地下六階は予想外に時間がかった。数時間はここに二人でいただろう。俺達もかなり疲れていた。本来ならもう寝てしまいたいぐらいだ。特にめぐみんは疲れている。

 

 だが、なんとか俺達は気合を振り絞り、次の扉の前に立つ。

 顔を見合わせることなく、呟いた。

 

「……次こそは終わりだといいな」

「それを願うしかありませんね」

 

 もう何を言っても駄目な気がして、なるようになれという気持ちで俺は扉の横にあるボタンを開ける。

 

 鞘を使わず手でだ。

 満足するまでセックスと書いてあるが、どうやって判断しているかもわからない。しかし、技術的には本当に大したもので、満足するまでセックスした俺達の前に扉はごく自然と開いた。

 そこは今までとは随分違った。

 

「ユウスケユウスケ! これってもしかして!?」

「ああ!」

 

 目に映るのは不気味な下へと降りる階段ではなく、部屋だった。大きな部屋である。明るく清潔なこの遺跡には似つかわしくない部屋だ。

 これだけでも上の階達とは大きく違うのがわかる。

 そして更に奥にはまるでエレベーターのように上の矢印が書かれたボタンと扉があった。まるでアクア様のお姿のようにボタンと扉は光り輝いていると錯覚する。

 二人で手を取り合って喜ぶ。

 

「出口だ。とうとうたどり着いたんだ!」

「……ようやくですね。私達の苦労が報われました! 苦節十数年。幻の土地へとたどり着いたのですね」

「入って六時間か七時間ほどだと思うぞ」

「つまらない男ですね。こういう時は大げさに言っていた方がより感動のシーンになるのですよ。物語の鉄則です」

 

 だが――それだけではない。

 

「もしやあの! あの柄と剣身は!?」

 

 床には見覚えのある物が剥き身で置かれている。

 なくなってしまったはずの一振りの剣。

 

「あれは俺の剣じゃないか!」

「もけもけ号」

「あれは俺のもけもけ号じゃないか!」

 

 めぐみんに訂正された名前の剣の元に俺は急ぐ。

 間違いなく俺の剣だ。皆から買ってもらった俺の剣だ。この剣をなくしてこのエロ遺跡に対するやる気も途中で結構下がっていたぐらい大事な物だ。

 

 良かったマジで良かった!

 俺は頬ずりしそうになるも、危ないと思いなおして鞘に丁寧に納める。

 

「これだわー。この重さが安心感があるんだよな」

 

 ずっしりとした重量感に俺としても大満足である。まさか触手に取られるとは思わなかったが、戻ってきてくれて本当に良かった。

 皆から金を出してもらったものが実質役立ったのはキールのダンジョンだけなんてあまりにも悲しすぎた。こうしてまた戻ってきたのは正直感涙しそうなぐらい嬉しい。

 地下二階で触手に奪われたのにどうしてここにあるのかという疑問はあるが、奪った装備などはここで返すようになっているのだろうか。

 

「見てくださいよ! これ凄いです!」

「ん? おおっ、凄いな」

 

 剣と奥の扉しか意識していなかったが、横には服がずらりと並びかけられていた。

 男性用はないが、女性用は山ほどある。一つのデパートの服屋の商品をすべて集められているかのような量だ。

 

「靴まであります! 悩みますこれ滅茶苦茶悩みますよ! こんなとこに来て散々な目に会ったというのに少し嬉しい自分がいます!」

 

 普段そこまで服に頓着しないめぐみんが、なにをそんなに喜んでいるかというと、普通の服だけでなく様々な衣装の服があるからだ。

 そんなにアニメは見たことはなかったが、アニメに出てくるような衣装もあって、めぐみんの琴線に触れそうな服が何着もある。着心地よりも派手さといったデザインを意識した服が多い。

 

 この遺跡の成り立ちから考えるのに、もしかしたら俺の世界の服を参考に作ったりしているのかもしれない。

 

「これ何着か貰ってもいいのですよね!」

「でも、ここに一人一着だけって書いてあるから一着だけにしといた方がよさそうだぞ。また何かしら罠でも発動したら本当に嫌だし」

「えぇー。この中で一着だけですか。残酷すぎます。この遺跡で一番辛い試練かもしれません……」

 

 黒い羽根を背中に生やした黒を基調とした服、小道具として本と十字架みたいな杖があるものを手に取って、自分の体に合わせているのを見ると、めぐみんも女の子だなと微笑ましい。

 鏡も置いてあって、いくつかの服を選んでから鏡の前で合うか合わないか試している。

 

 これはそこそこ時間がかかりそうだ。服を選んでいる間暇になるだろうなと服とは反対側を見ると、なにやら台を見つける。

 

「なんだこれ?」

 

 台の上にはなにか小さいものが二つある。

 気になって俺は近づく。

 小さく限定クエストクリア報酬と書かれた台座の上に、小さなスイッチとこれまた小さなピンク色の楕円形のものがある。見た印象としては、玩具みたいだった。

 子供の玩具か? 何故これが限定クエストクリア報酬なのだろう。謎だな。スイッチを入れてみればわかるのだろうか。

 

「これなんてどうでしょう? ユウスケ! 着替えるので見てください!」

「ん……ああ! わかった!」

 

 まあ今どういうものかと急いで理解しようとしないでもいいか。

 もう帰ることができるのだ。帰ってからゆっくり探ればいい。

 

 何かしら役立つ物ではあるかもしれないと俺はポケットの中に入れて、めぐみんのファッションショーを見に行く。

 

 しかし、エロ遺跡。

 

 噂通りとんでもない場所だった。

 かつてこのエロ遺跡を作った人達のことを稀代の変態集団。最悪の女の敵。技術を持った馬鹿などと揶揄されることは多く、そのどれもが正しい。

 自分と同じ転生者だろうが、本当にそう思う。馬鹿だ。本当に馬鹿ばっかりだ。

 

 しかし、敢えてその情報に付け加えるとしたらこうだろう。

 

「気づかいの天才でもあるな」

 

 無駄に日本人らしさが見える遺跡でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲労で重たい体を引きずるようにアクセルの街の帰路を歩く。

 夕方も終わりそうな時間帯。夜が近くなってきたので、影は俺達の随分前にまで伸びている。

 人通りも殆どない。俺とめぐみんは一日の大半を過ごしたエロ遺跡から脱出し、ようやく家に向かっているのだった。

 

 帰りに一応冒険者ギルドに報告はしてきた。あそこはエロ遺跡ですと報告すると、かなりの大金を貰うこととなった。口止め料込みなのでこれだけの大金なのだろう。

 

 情報屋に払ったお金は殆ど戻ってきたといってもいい。

 まあ情報屋としてもエロ遺跡の情報は冒険者ギルドに垂れ込んだとしても冒険者ではないので金がもらえないし、元々貴族が密かに管理していたが貴族を脅して金を取るのはリスクが大きいので、これしか情報を金にする方法はないと言ってたし、このお金はありがたくいただいておこう。

 

「ふふふふふーん! ふー、ふふふふふふふーん!」

 

 新しい服を手に入れて鼻歌交じりにスキップしているご機嫌なめぐみんを見ると、こいつタフすぎるだろうと思わざるおえない。

 マジで剣士としてやってもなんとかなってそうだ。

 

 普段とは違う格好をしためぐみんと共にアクセルの住宅街を帰っていると、俺達の家の前に見覚えのある人がいた。

 

「なにしているんですかね、あの子」

「さあ。誰かと約束していて待っているのだろうか」

 

 どうしてか家の前でゆんゆんが突っ立っていたので、俺は呼びかける。

 

「どうした。ゆんゆん。そんなとこにいて」

「あっ。めぐみんとユウスケさん! 家に帰ってもいないので待ってたんです! おかえりなさい二人とも!」

 

 ゆんゆんが嬉しそうにこっちに駆けてくる。

 ぱぁっと笑顔になって来るその姿は、まるで主人を見つけた犬のようだった。

 

「そうか。こっちの方こそ旅からおかえり。でも、別に家の前で待たなくても良かったんだぞ。いつから待っていたんだ」

 

 まだ夜になると少し肌寒いだろうに、遅くなっても帰ってこない俺達を心配して家から出たところに鉢合わせたのだろうか。

 ゆんゆんは少し考えてから、まるで食事の献立を教えるかのように呟いた。

 

「えーっと、たしか昼頃からですね」

「お、おう、ひ、昼からか……」

 

 ゆんゆんのさらりとした発言に俺は少し引く。

 軽く五、六時間は待っているのではないだろうか。犬は犬でも忠犬だった。……俺達がまだ帰ってこなかったとしたら、どれだけ待つつもりだったのだろう。

 

「たまに出るあなたのナチュラルな闇は本当になんなんですか。長年の付き合いである私も少し引きますよ。……まあ、そんなことより私の格好はどうです?」

「どうですって……うわうわ! なにこれ格好いい! めぐみんその服装どうしたのよ!」

「ふふふ、困難な試練を達成した報酬とだけ言っておきましょう」

 

 めぐみんが新衣装でばっちりポーズを決めていた。

 彼女の瞳のように真っ赤なズボンと上着。黄色の胸当てをしていて、白のブーツを履いている。頭には黒の鉢巻きをしてデカい肩当てが印象的だろうか。

 めぐみんがエロ遺跡でも守り切ったとんがり帽子は妙にその服と似合っていない。

 ただとんがり帽子とは合わないだけで、赤を基調にした服装だからかめぐみん自体とはかなり合っている。

 

 というかそれを着ているだけで滅茶苦茶強そうに見えた。例えば、ドラゴンも怖がって跨いで通るぐらいの。

 

「この服装についているいくつもの石はなんなの」

「ただの水晶です」

「見栄えだけの物ね! 素敵!」

「ここに魔力増幅材でもはめ込むのが正しいのかもしれません。動きやすいし、今後これで活動するのもやぶさかではありませんね」

 

 ゆんゆんは恥と照れがあるだけで、めぐみんと感性自体は似ていると思うことがある。

 目立つことや人と話すことは苦手で奥手な可愛らしい少女だが、それはそれとして深く付き合っていけばかなりぶっ飛んだ性格をしている。約束もなにもなく数時間外で待っているところからもわかる。なんだかんだで彼女も紅魔族なんだよな。

 後、それを普段着にするのはやめろ。なんとなく不味い気がする。

 

「このマントなんて外は黒で中は青色というのがオシャレポイントで高得点を叩きだすでしょう」

「きっとそれだけで十五オシャレポイントはあると思うわ。……んっ、めぐみん。それって紅魔族のマントとは違うようだけど紅魔族ローブはどうしたの。家に置いてあるの?」

「ああ。あれでしたら……なくなりました」

「なくなった!?」

 

 突然ゆんゆんが大声で驚く。

 もうそろそろ遅いのだから近所迷惑になるからと言おうとしたけど、言えなかった。あまりにゆんゆんの顔が本気だったからだ。

 

「なくなったって! 不味いでしょ! なんでそんな平然としていられるのめぐみんは!?」

 

 焦りまくっているゆんゆんと違って、めぐみんは澄ました表情だ。

 

「この服を手に入れるための致し方ない犠牲でした。その甲斐あってこんな服を手に入れられたのですから。格好いいですよね」

「格好いいけど! その服私も欲しいぐらい格好いいけど! どうするの! 本当にどうするのよ!」

 

 これはただ事でないと思って、傍観していた俺も会話に参戦する。

 

「紅魔族のマントがないとそんなに不味いのか?」

 

 ゆんゆんは俺の疑問に大きく頷いた。

 

「ユウスケさん! 紅魔族は紅魔族が作る専用のマントがないといけないことが起こるのです。それなのにめぐみんはそんな落ち着いた表情をして! どうせ替えのマントなんて用意していないだろうに! 何から手を付ければ……とにかく今すぐ速達で紅魔の里に手紙を送らないと!?」

「ちょっと落ち着け。こっちはよくわからない。一体どういう危機があるんだ」

 

 右往左往して焦るゆんゆん。

 本当にただ事ではない感じだ。

 ゆんゆんが焦る理由であるめぐみんはというと、少し気まずそうにしながら俺に説明する。

 

「前にウィズさんが私達の種族は、魔力の自然放出が苦手だと言っていたのを覚えていますか?」

「……ちょっと覚えてないな」

 

 いや、思い出してみればそんなこと言ってたような。

 あれは爆裂魔法のために高純度のマナタイト石を購入したときだろうか。

 

「実際そうなんです。魔力吸収率や体の魔力貯蓄率は他の魔法使いと比べたら雲泥の差なのですが、それと比べて魔力の自然放出は並み以下です。それを補うのが紅魔族ローブです。つまりはそれがなければ自然に排出されず、際限がないかと思えるぐらいの魔力が体には貯まっていくのですよ。それこそ不必要な分を遥かに越えて」

 

 もう夜だ。辺りに人はいなく、静かで、自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

 ある程度予測はついていたが、それでも俺はそうではないようにと思いながら尋ねる。

 

「……めぐみんの許容量を越えるぐらい魔力が貯まってしまえばどうなるんだ」

「それは当然――」

 

 彼女は手を閉じて、勢いよく開けた。

 

「ボンといくでしょうね」

 

 つまりは――いや、考えたくない。

 頭が思考停止する。今まで一番の衝撃によって壊れたようにショートする。

 ゆんゆんがめぐみんの肩を揺さぶっているのが見える。

 

「どうしようめぐみん! めぐみん死んじゃうの!?」

「死にませんよ! というかそんなすぐ死ぬようなものでないってあなたも知っているでしょう!」

「そ、そうよね! 毎日寝る前に魔法をしっかり撃って魔力を使いきれば、そうそうボンにはならないよね! とにかく紅魔の里に速達を頼んで、ケーキは四段重ねを用意すればいいのかな!」

「葬式の用意をするんじゃありません! ……もしやこのライバル! これを機に私を亡き者にするつもりですか!?」

 

 テンパる二人を尻目に俺はマントの中にある神器のスイッチを押す。

 今まで散々気を付けていたにもかかわらず、バレる危険性など一切考慮せず俺は時間停止をした。

 

 時間が――止まる。

 

 昼と夜の中間。狭間である夕方が俺視点では引き延ばされる。

 今日は三十一日。エロ遺跡でも結局一度も使っていないので、時間はたっぷり残っている。

 

「はぁ! ……落ち着け! 冷静になれ!」

 

 時間を停止した中で俺は頭を巡らせる。

 しかし、なかなか上手くいかない。めぐみんが死ぬ。その可能性を考えただけで俺が死にそうになる。死にたくなる。こんなことならエロ遺跡なんて行くべきではなかった。くそくそ!

 

「落ち着け! 俺が落ち着かなくてどうする!」

 

 言語化させることで少し落ち着きを取り戻す。

 そうだ。

 今すぐ死ぬようなものではないと言っていたではないか。魔法をしっかり使っておけば、大丈夫らしい。猶予はあるのだ。それならできるだけ早く紅魔族ローブを入手しておけば問題なくなる。とにかく手早く何よりも早く手に入れるのが重要だ。

 

 今更だが実は……紅魔族を調べた情報の中にそれに似た情報のもあった。

 あれを信じればよかったのに、信じられなかった。

 

 だって紅魔族は遥か昔からいる由緒正しい一族と言っている割には、そこまで昔の活動していた記録がなかったり、紅魔族全員が秘めた力を持ち覚醒するとか、他にも様々な意味不明な情報が盛り沢山すぎて、なにを信じればいいのかわからなかったのだ。

 満月の夜は変身するなど法螺を吹きすぎていて、調べれば調べるほど紅魔族はよくわからないと結論付けるしかなかった。

 

 なんなの! 紅魔族! 本当にテキトーなこと言い過ぎだろう!

 

「――いや、現実逃避している暇かよ! 考えろ考えろ!」

 

 必死になって考える。

 制限時間は三十一分もあったが、時間一杯まで使って俺は考え抜く。手紙。テレポート。どんな手段でめぐみんの元に紅魔族のマントを用意すればいいかを限界まで頭を振り絞る。

 

 流石に頭も幾らか冷静になって、幾つも案を考えてから俺は時間停止を解いた。

 言い争いしている二人に、俺は質問する。

 

「……結局紅魔族のマントを手に入れれば、解決する問題なんだよな」

「はい! ただ一度使ってしまえばその人専用になるので、私のは貸し出すこともできません。めぐみんってば無駄に魔力の吸収率が良いから二週間も三週間もそのままでいたら危ないです。なんでそんなにグイグイ吸っちゃうのめぐみん! 魔力ならなんでもいいの!? 誰彼構わないの!」

「おいそれは私が優秀な魔法使いであることの証明なんだが、そのような変な言い方しないで貰おうか」

「じゃあ今すぐ紅魔族の里から取り寄せる。もしくは俺達が行って購入するというのはできないのか?」

 

 ここまで焦っているなら、そう簡単にはいかないのだろうなと思いながらもとりあえず気になることを聞く。

 

「あー、そうですね。私達でもちょっと紅魔の里に行くのは厳しい難易度です。それと、取り寄せるとなると結構嵩張るので難しいのではないでしょうか。手紙ぐらいなら運べますが、手紙以上の重さのものとなると人の手によって運んでもらわないといけませんし。……特に今頃は魔王軍の幹部がよくウチの里に遊びにくる時期ですからね。配達の人に配送してもらうのも難しいかなと思います」

「遊びに来るというか攻めてきてるからね! ユウスケさん。手紙は一日かけて紅魔の里からアルカンレティアみたいな大きな町にへと飛行型ゴーレムで届けたりできるのですが、マントとなるとそういうわけにはいきませんので……」

 

 魔王軍がよく攻めてくる場所なんて紅魔の里か王都ぐらいなものだろう。

 それでなくても紅魔の里周辺は危険だ。とんでもないモンスターがうじゃうじゃいる。ドラゴンや伝説のモンスターなんかが普通に生息している危険地帯である。配達人も普段ならまだしも、魔王軍が攻めて来たら無理なのか。そこで普通に暮らしている紅魔族はもっとヤバいのかもしれないが。

 こちらから徒歩で買いに行くのも持ってきてもらうのも難しいとなると、徒歩以外の手段はどうだろう。

 

「アルカンレティアから紅魔の里へのテレポートは無理なのか?」

「無理ですね。他の街の転送屋が私の里への登録をするのは原則禁止していますし」

「行きはいいですけど、紅魔の里に戻れるぐらいの力を得てから里帰りしろという暗黙の了解みたいなのがあったりするんです、ユウスケさん。里に戻りたいなら自分の力で戻って来いという」

 

 なるほど。

 アルカンレティアの里から紅魔の里へのテレポートは無理。しかし、飛行型ゴーレムを使って手紙は送れる。

 あれ、それなら簡単な方法があるじゃん。

 

「え。それなら手紙で紅魔族に紅魔族ローブを持ってきてもらうように頼んだらいいんじゃないか。お金は少しの間立て替えてもらって。……めぐみんは紅魔の里の転送屋を使ってアルカンレティアにテレポートさせてもらったんだよな? なら、その転送屋を使ってアルカンレティアにマントを送り届けてもらえばいいのでは?」

 

 転送屋を使うことで金はかかるけれども、こればっかりは仕方がない。

 普段ならそんなに金のかかるような運び方はしないのだろうが、これについては金の出し惜しみをするつもりはない。金で解決できるならむしろ楽なものだ。

 

「…………」

「…………」

 

 あれだけ慌てていた二人が沈黙する。

 どうしたんだろうと思いながらも、最速だと思う方法を俺は喋る。

 

「時間も遅いしここから手紙を送るとなるとむしろ遅くなるだろうから、アルカンレティアに馬車で今から行こう。そこで手紙を飛行型ゴーレムで紅魔の里に運んでもらって、俺達はアルカンレティアで待つ。そして、転送屋から紅魔族のマントを受け取る」

 

 うん、この方法が最速ではないだろうか。

 ただこれだとまだあやふやなので細部を詰めていかなければならない。

 

「馬車も金を出して個人で頼もう。後は……どうしてもアルカンレティアで一日以上は待たないといけないよな。めぐみんは魔法で魔力を消費しなければいけない。だから、めぐみんの爆裂魔法を街の外で撃たないといけないし、もしモンスターが大量に出て来たら危険だ」

 

 爆裂魔法はとんでもいない威力だが、轟音がするためにモンスターを呼び寄せる弊害がある。

 その時に咄嗟に対応できないとまずい。アクセルの街近くはそんなに強力なモンスターはいないからまだしも、見知らぬ場所で大量にモンスターに襲われた時のために何かしら対応策を用意しておく必要はある。

 

「ゆんゆんにはウィズさんのところで頼んでいた高純度のマナタイト石を取ってきてもらってもいいか? そのお金は事前に払っているけど、一応のため更に追加で四十万エリスほどのマナタイト石も買っておいてくれ。……俺は色々と馬車や向こうの街で便宜を図ってもらえるようにダクネスに紹介状でも貰ってくるわ」

 

 彼女の家名の力は大きい。ダクネスの家柄を利用するようで心苦しいが、今回ばかりはその力を利用させてもらう。

 

「めぐみんは疲れているだろうから一回風呂にでも入って体を癒してくれ。二十分後にここに再集結しよう。……さっきからお前ら返事ないけど、大丈夫?」

 

 意識はあるのかと俺は手を振る。

 

「おーい、二人ともおーい」

 

 そんなに穴がある作戦だっただろうか。

 めぐみんとゆんゆんはそんな俺を放っておいて顔を見合わせた。少し呆れ顔である。

 

「……なんと言っていいやら困ります」

「この案だと多分二日ぐらいで手元に届くよね……」

「慌てる必要なにもありませんでした。……しかしそれにしてもこの男。いざという時に頭回りすぎでは?」

「……まあでも頼りになるということなんだから嬉しいことだよ」

「程があるといいますか。頼りになりすぎて、なんか嫌です。案外敵に回すと本気で恐ろしい男なのかもしれませんね」

「ユウスケさんって行動力あるもんね。うん、私もなんだか驚いたよ」

 

 褒めているのか引いているのか怪しい感じで彼女達は会話していた。

 まあ俺だけ三十分近く考える時間があったからな。これぐらいの方法は思いつく。

 

 予想外の危機に襲われた俺達は、個々に動き始める。

 

 誰もが真剣だ。これほどの一大事は今までなかった。

 

「よっし! 今すぐ行ってくる! 待ってろよめぐみん!」

「そうですか。頑張ってください。……はぁ、体が凝っていますし、お風呂に入りますか。アルカンレティアでも温泉に浸かってゆったりしたいですね」

「私も私も! あそこの温泉はとても気持ちよかったよね! 楽しみだなー」

 

 何故かそんなに慌てることもなくウィズさんの店に行くゆんゆんや風呂にゆったりと入るめぐみん。

 

 俺は猛速度でまずは紹介状を貰いにダクネスのとこにダッシュする。

 

 ――速く! 速く! 風になれ!

 俺のせいで――いやそうでなくとも絶対にめぐみんを死なせるわけにいかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本番回の感想欄がエロいよりも尊いなどが多いように見えて
あれーと首を傾げる
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