月が替わって四日目。
このアルカンレティアに来てからも四日経った。
朝は昨日と違ってめぐみん含めた三人でぶらぶらしてからモンスター退治。昼過ぎには呼び出しを食らって俺だけが連行されて、夜は食事が終わった後、俺は食器洗いを手伝ってから、今は宿屋の主人に祝われていた。
小さなカステラを目の前に置かれてパチパチと拍手されているのだ。
……なんで?
「ユウスケさんが警察に連行された祝い! ただものではありませんね。それでいてすぐに帰ってこれるとは、やはり貴方にはアクシズ教の才能があるのではないでしょうか!」
「まさかの出所祝いみたいな感じ!?」
そんな理由で祝われるとは思ってもみなかった!
「違いますって!俺が犯罪を侵したのではないです!」
真面目に否定する。
確かに昼過ぎに俺は警察に呼ばれて連れていかれた。
とうとうクズ行為を露見して俺が警察に捕まったのか、もしくはめぐみんの爆裂魔法でなにかやらかしたのかといった話になりそうだが、今回ばかりは俺のせいでもめぐみんのせいでもなかった。
むしろ逆で頼りにされた。
「ほら、店主さんも知ってるでしょ。あの事件のことですよ。温泉に毒が混入されている事件。あれについて良い案はないかと聞かれまして」
普通は余所者かつ一般人である俺に警察が力を借りる意味などない。しかし、あのララティーナお嬢様の紹介ということで頼りにされてしまったのだ。
まあ俺も警察には力を借りたわけだし、力を貸せるものなら貸したかった。
宿屋の主人は苦虫を噛み潰したような表情をする。これに関してはそうなるのもわかるというものだ。
「例の事件ですか。やはりまだ解決は遠いのですね」
アルカンレティアには今とある事件が起こっている。
どういう意図によるものかはわからないが、ここしばらく客が温泉に入ると肌がかぶれる。ただれる。悪い時には失神するなどといった事件が起こっていて、どうやら誰かがアルカンレティアの色んな温泉に毒を入れているというのが判明した。
悪戯ですませられる話ではない。明確な悪意があってやっていることだ。
観光客もそのせいで減少気味らしい。アルカンレティア。そしてこの街に住むアクシズ教徒の危機である。
「まだ私のところの温泉には被害はありませんが、いつそうなるかと冷や汗ものですよ。客も減ってきていますし、なんだかんだ老舗の宿屋の店主ということで、温泉危機管理対策チームのリーダーに流れで任命されましてね。一々他の温泉宿にも見回りに行かされるはめになって、もう大変なんですよ」
「それは……お疲れ様です。ほんと酷いことするやつもいるものですね」
店主は大きくため息を吐いてから、顔を近づけて尋ねてくる。
「ユウスケさんが警察の手伝いして、犯人の情報が少しでもわかったりしましたか?」
めぐみんみたいな可愛い女の子ならともかく、おっさんに顔を近づけられるのは嫌なので、顔を引き気味にしながら俺は昼にあったことを思い出す。
「あまりですよ。観光客が多いということは人の出入りが激しいということですからね。犯行ができる人も多いです。俺一人が加わったぐらいでそんな急激に捜査が進むなんてことはありません。ただ……一人だけ気になる人がいました」
「それは誰ですか!?」
「彼らと話し合った結果、背が高い筋肉質の男が怪しいのではということになりました。この街にあれだけ長い間観光している人間っていうのも珍しいとかで、それもその人はアクシズ教徒じゃないみたいだし」
昨日背中をぶつけた人は大量のアクシズ教勧誘の紙をポケットに入れていた。そして、警察官も長い間、この街に逗留しているなと不思議に思っていたらしい。アクシズ教徒以外がこの街に長居することはないとか。逆に精神的に病みそうとかで。
それとなにより、当たった背中が痺れるような勘がした。俺の勘が正しければ、そいつの方こそただものじゃないはずだ。
店主はどんと勢いよく立ち上がって、いない男に怖い言葉を捨て吐いた。
「あの野郎か! 一度長々と根掘り葉掘り話を聞いてくるから変なやつだと思っていたけど、あいつが犯人だったか!」
「まだ犯人と決まったわけではないですよ! 警察官が宿屋を探して事情聴取をしてみるだけで!」
今にも殴りに探しに行きそうな迫力なので、慌てて止める。
「アクシズ教徒が見つけたらゼスタ様と同じ部屋で一晩過ごす刑にしてやる! この世の地獄が見れるぞ!」
「ですから、犯人って確定したわけ……って、え? ゼスタさんってアクシズ教の最高責任者ですよね。その人と一緒に過ごすのが刑になるんですか、えっ?」
どういう人なんだよゼスタさん……。
リッチの事件で依頼したけど、ルナさんも能力はある変人扱いしてたっけ。
その最高責任者は今も俺達の依頼でアクセルの街にいるらしく、事態が深刻化してきたので手紙でアクセル街にいるアクシズ教のプリースト経由で早く戻ってくるように知らせたらしい。
「……ふぅ、失礼。少し興奮してしまいました。カステラ美味しいですね」
「怒る気持ちは当然なので仕方ないですよ」
ムシャムシャと主人はカステラを頬張る。
あっ、それ自分で食ってしまうのね。俺も食いたかった。
彼が食っている間は手持無沙汰である。なので俺はポケットの中に手を入れて、そこにあるものを確認する。
二つ持っている神器の内の一つ。信頼されていることに比例して洗脳じみたことができるヒュプノスの笛。鎖の部分がばらけないように細い紐で縛っている。
俺は笛の部分を手で弄ってから、食い終わった宿屋の主人と話を再開させる。
再開させると言っても事件の話の続きではなく、アクシズの街に少しの間滞在して当然浮かび上がる疑問をぶつけた。
「ぶしつけな質問かもしれませんが、どうしてそこまでアクシズ教に熱心になったのですか」
「ほほー、ユウスケさんもどうやらアクシズ教に興味が出てきたようですね。良い傾向です。アクシズ教の紙に判を押す日も近い。そう考えさせてもらってもよろしいかな?」
「よろしくないです」
この店主は何度もあの手この手でアクシズ教徒にさせようとしてくれるな。その気はないと何度も断っているのに。
ただアクシズ教徒に興味は出てきた。
「ないですけど、やっぱ何故そこまでアクシズ教に熱心なのかは気になります。他にも様々な神様がいて、様々な宗教に入っている人が殆どですが、ここまで見てきた全員が力を入れている教徒ってのは見たことがありません」
アクア様の素晴らしさに惹かれるというのはわかる。ゴッド中のゴッドであるアクア様を崇拝するのはわかる。
しかし彼らが信奉するのはそれだけが理由ではないように思える。
「そんなことですか。……まあ、私も幼い頃はアクシズ教というのは変な宗教だなと思っていましたよ」
「ええ!? 驚きですけど」
最初から性格がぶっ飛んでいたわけではないのか。
彼はカステラで口の中が渇いたのか、熱いお茶をずずずと飲んだ。
「それはそうですよ。学校では人の迷惑になることをするなと教えられているのに、アクシズ教徒はそんなに他人様の役に立つという風でもないですからね。親がアクシズ教徒でしたが、私は正直どうかなと思っていました」
「そう思っていたなら、どうしてアクシズ教に傾倒したのでしょう」
人に歴史ありだな。
結構本気で気になって俺は先を促す。
「というのも、アクシズ教は自由だからですから」
「自由、ですか」
曖昧な言葉であまり俺の印象としては掴みにくい。
「ユウスケさんは私のところ、つまりアクシズ教の教典というのはどれぐらいの厚みがあると思います?」
「んー、エリス教の教典は分厚いと聞きますが、そんなことをわざわざ言うならアクシズ教はこんなところですか」
俺は手でかなり薄めに表す。普通の文庫本程度の厚さだ。
宿屋の主人にしてアクシズ教の信徒である彼は首を振って実際の教典の厚さを教える。
「いえいえ。これぐらいです」
「うっ」
うっすううううー!
……滅茶苦茶薄いな。とても教典とは思えない。文庫本の厚さの半分にも満たないんじゃないか。
「内容もああしろこうしろだなんて書いてません。楽しめと書かれています。生を楽しめ。今を楽しめ。したいことをするのが一番生きていて楽しいことじゃないか。今の生、いや死んでさえも楽しめる。……なんと自由なのでしょう。間違いなくアクシズ教がこの世界で最も自由です」
「…………」
彼は敬虔な信徒のように拝んでいる。
……うーむ、良いことを言っているようで傍からしたら物凄い迷惑そうだな。実際世間からの評判は散々だ。
けど、それを悪いことだと切って捨てることはできない。――だって彼らは本当に楽しそうだ。非常に明るい。水の女神アクア様を拝んでいる彼らはなんだか太陽みたいにカラッとしている。
半端に自分を隠して、良い子ぶっていることがあるクズな俺には、ある意味その自分に正直な生き方は羨ましくも映る。
「他では迫害されるような趣味趣向さえも許容してくれますからね」
「それは普通に素晴らしいことですね。未来的です」
「かくいう私も猫耳な女性が好きなのですが」
「ああ。ああいうのですか」
テレビなどで見たことがある。
アニメとかをよく見る人は猫耳をしている女性が好きならしい。
それなら俺でも充分わかる趣味だ。
「そして。そんな猫耳で爪が鋭い女性とイチャイチャしていたら、ふと興奮した猫少女に引っかかれて大怪我を負ってしまい、彼女に必死に謝られているなんていうシチュエーションは素晴らしいですよね? ああ、ああああ。その光景を想像しただけで、もう堪りません! ご飯五杯はいけます」
わっかんねー!
これぽっちもわかんねー!
さっぱり言っている意味が分からなかった。
俺もエロな男だ。エロだけならかなりのものだと自負しているが、謝罪されて興奮するってなに!? わからない。
……これが自分をさらけ出した男のわからなさか。やっぱ人間ある程度は自分を抑えた方がいいのかもしれない。
その光景を実際に想像してしまっているのかトリップしちゃっているし。
しかし、チャンスだ。
俺はポケットの中から彼には絶対に見えないようにこっそりと笛を取り出す。有効範囲は一メートル。めぐみんのように数十メートル離れた位置でも、精確に測れるようなことはできないが、自分の口元から距離一メートルなら流石にわかる。
宿屋の主人は射程範囲内だ。
手で隠しながら俺は笛を口に持って行って、音のしない笛を吹いた。
俺が授かったわけではない神器が発動する。
あまり凄いことを頼まないとはいえ、俺は彼の信頼を少しでも得られているのだろうか?
髪の毛と体を洗い終える。
タオルの水気を切って頭に載せる。元日本人のマナーだ。お湯にタオルを付けないのは。といってもこっちでも同じマナーは存在するわけだが。ビックリした。日本人の文化を持ち込みすぎた人達がいるせいで、たまに異世界にいるというのを忘れそうになる。
滑ってこけないように注意しながら俺は露天風呂の側に近づく。そしてゆっくりと足から湯に入っていく。
「ふぁあああ……」
口から恍惚の吐息が漏れた。
「効くわー」
おっさん臭いことを口走ってしまう。言おうとしてもいなかったのに自然と出てしまった。
子供の頃はわからなかったが、温泉ってこんなにも良いものだったのか。体の疲れそのものが抜けていくようだ。
十八歳にして温泉の良さを身に染みてわかった。これはおじさんが温泉に行くわけだわ。今なら父さんとも温泉の価値を共有できるかもしれない。
空を見ると、半月だった。一週間ほどで満月になるだろうか。綺麗だ。綺麗すぎて、なんだか涙が出てきそうだ。
「空は月。下は温泉。これで女の子の裸が見れたら最高だな」
うむ。見れるのだ。
女の子の裸が見れてしまうのだ。
そんな夢のような状況をセッティングした。何を使ってかといえばもちろん神器を使ってである。
神器によって宿屋の店主にかけた洗脳は、看板を間違えることだ。この宿は曜日の時間で男と女と混浴が入れ替わる。絶対どの場所が男湯や女湯だと決まっていない。
ということは、俺は混浴に入る。そして、夜遅くあまり人が入ってこない時間帯である今に混浴と女の看板を店主が入れ替える。
そうすることで女湯に入るはずだった女性の裸を一瞬だけ見れる可能性がある。
なんと素晴らしい発想! 天才だな俺!
拳を半月に突き上げ、自画自賛を心の中で叫ぶ。
――叫んだあと、大いにため息を吐いた。
「……ったく、なにやっているんだろうな俺」
本当になにやっているんだか。
馬鹿げた行動に出過ぎだ。マジで馬鹿すぎる。
自己嫌悪に陥った俺は突き上げた拳を勢いよく振り下ろし、湯にばちゃんと音を立てた。
今の時間帯なら女性は来ない可能性も多いし、こんなことやっても店主に迷惑かけるだけだ。何を思って俺はこんなことをしているの?
めぐみんに性的欲求を解消してもらって今は溜まっているというわけでもないし。
「もしかして疲れてるのかな……」
思い当たる理由としてはそれだろうか。
色々と考えないといけないことが多かった。
めぐみんとの関係。あいつとよくわからない関係性になっている。今後どう付き合っていけばいいか悩ましい。
仲間である。
性的関係である。
なのに恋人でもない。
温泉の毒入り事件。アクア様に恩があってこの街にもダクティネス家の力を借りたとはいえ良くしてもらったんだから恩を返したい。……あの長身の男。あいつが疑わしいとしたが、本当に関係あるのだろうか。
それになんだか最近夢見が悪くてな。体の疲れが取れにくい。こんなこと自分でもいうのもなんだが俺っておっさんみたいだな。まだ俺も若いはずなんだが。
色々と重なってこんな奇行に走ってしまったのだろうか?
「さっさと上がって主人に看板間違ってますと言ってくるか」
奇行であると気づけてしまったなら直さないといけない。後始末は得意だ。
神器の力まで借りて馬鹿なことをしたなと俺は思いながらも、露天風呂に入ったばかりだというのに早く出ようとして、出入り口が開くのが見えた。
「んっ……!?」
遅かった。
女湯の看板をかけてあるのだから当然入ってくるのは女性だろう。
時間がゆっくりと動き出している。止めることはできてもスローモーションにすることはできない。だから俺は集中しすぎて、そういう錯覚を起こしているだけだ。
扉が引かれ、その女性が姿を現す。
いつもは赤いリボンで止めている髪は解かれ、大人っぽい。化粧をしてなくても潤っている綺麗な肌。タオルで隠そうとするも、まったく隠せていない豊満な肉体。
「あっ」
「あれ?」
思いっきり見た覚えがある女性だった。
「なななななな、なんでユウスケさんがここに!? へ、へへええええっ。ええええ!?」
というか、ゆんゆんだった。
仲間のゆんゆんである。朝めぐみんと一緒に観光していたゆんゆんである。相変わらず素晴らしい肉体をお持ちのゆんゆんだ
「え!? ゆんゆん!? ゆんゆんが来た!?」
ここでの出会いがまさかゆんゆんになるとは想像もしていなく、演技でも何でもなく本気で驚きの声をあげる。
その勢いのまま事前に言おうと決めていた演技に繋げる。
「ここは今混浴のはずだぞ!」
「……あっ、それで前に聞いていた時間と看板が違うかったのか。うーん、おっかしいなー、と入る前に思って看板を何度も確認したんです。でも、合ってるのか店主さんに聞けなくて」
それが理由なんですねわかりました、などと頷いて見せるゆんゆん。
この状況で大物なのか。
「……そういう事情なら、仕方ないですよね。間違いは誰にでもあることですし、店主さんが忙しくて間違えたのかな」
こんな状況だというのに人を思いやれるとか天使か。
そして、俺は悪魔か。クズだクズだと思っていたが、こうやって違いを見せつけられると死にたくなるわ。
どうして俺はこんな馬鹿なことをしたのだろうか。
再度自分の心に問いただす。俺がクズで馬鹿だからじゃないかという心からの返答が来た。
「あの……ユウスケさん……」
「なんでしょうか天使」
「天使? いえ、その……ですね。……こっちをそんなに見てもらわないでくれると嬉しいのですが……」
彼女は羞恥に頬を染め、キュッと自分の体に巻いてあるタオルを強く抑える。
強くタオルを自分の体に押し当てたせいか、体のラインが益々わかるようになる。むき出しになっている足は白く透き通るようで、赤くなった頬とのギャップで更に綺麗に見える。
「恥ずかしいんです」
小鳥の羽音のような小さな声で呟いた。
髪を束ねていない彼女は大人びていて、格好も相まってこちらを誘惑するような色気があるのに、幼い子のような表情で恥ずかしがる。
その可愛さに――心臓がグッとくる。
「ご。ごめん! 向こう見ておく!」
露天風呂の中で反対方向に体ごと入れ替える。
ドキドキした。すごくドキドキしてしまった。してはいけないドキドキだった。
その心臓の鼓動に罪悪感を抱きながらも、俺はゆんゆんが間違った場所から出るのを待った。
扉の音が聞こえるの待つ。ただ扉の音が聞こえたからといって、すぐに出てしまってはダメだ。ゆんゆんが服を着替えるまで待たないといけない。
心を落ち着かせるようにさせながらも、俺は耳を澄ませてゆんゆんが出ていくのを待つ。
……おや? なんだか扉の音は聞こえないな。その代わりに椅子に座る音が聞こえた。
顔をそっちに向けないように気を付けながら俺はまだいるらしいゆんゆんに質問をぶつける。
「もしかしてなんだけど、ゆんゆん頭を洗っている?」
「ゆ、ユウスケさん。見ないで下さいね。ぜったいこっち見ないでくださいね。……はい。湯船に入る前には洗うのがマナーなので体も洗うつもりです」
「ま、マナーだもんな!」
マナーなら仕方ない。
「ど、どうしてこんな遅くに風呂入ろうとしたんだ?」
「うっ、それはめぐみんみたいな知っている人とならいいんですけど、知らない人と裸でいるのは恥ずかしく思えてしまうんです。いけないですよね、こういうの」
「同性でも自分の肌を他人に見せるのに躊躇う人は結構いると聞くぞ」
「ユウスケさんって物知りなんですね。私のような人もいると思うと、嬉しくなります」
日本では旅館で家族風呂ついているところもあるしな。
「いや、そうじゃなくて! なんでまだいるんだ!?」
本当になんでだ!
俺の奇行による看板替え神器使用もおかしな行動にもほどがあるが、ゆんゆんの今の行動もさっぱりわからない。
彼女は言うのに少し躊躇いながらもその理由を話してくれた。
「……私、実は少し前からユウスケさんに言いたいことがあったんです。言おう言わないか迷ったのですが、やっぱり言いたくて……だから、二人っきりで話したいんです」
言いたいこと?
さっぱり思い当たる節がなくて俺は頭の上にハテナを量産する。
俺が気にいらないとか。そういうことなのだろうかと思考を巡らせる。普段の行動が行動だ。良いことを言われるなど思えない。今回もこんなことしでかしているしな。
できるだけ悪い想像をしていると、別にここで話さないでもいいよなという当たり前のことにふと思いつく。
「じゃ、じゃあ、俺は先に出ておくよ。目をつぶっているから心配しないでくれ。店主に看板が間違えてることと今こっちに入っている人がいるってことも話しておくから」
俺はタオルで股間を隠しながら扉に向けて歩いて行く。
出ていこうとする俺に呼び止めるゆんゆんの声が飛んで来る。
「でも、私話したくて!」
「それなら、風呂から出た後に話そう。わざわざここでする必要ないしな。こんなところで話す意味もないだろう。落ち着かなすぎる」
風呂の時間も終わり間近だ。流石に人も来ないだろうけど、さっさと俺は退散するのが良いだろう。
いやー焦った。本当に焦った。
まさかゆんゆんがくるとは思っていなかったし、こんなことになるとは予想していなかった。
もうだいぶ扉に近づいてきただろうので、俺は目を開けて扉の位置を確認する。後二メートルほどだった。
俺は扉から出ようとして、
「待ってください! ……行かないで」
背中から抱きしめられる。
半月の下、俺はゆんゆんに囚われた。