「なに食べる?」
「お腹にたまるものが良いですかね。あの二人のせいで、時間食いましたし」
「晩御飯には早いけど、俺もなんだか腹減ったな。うん、無駄に疲れた」
「ユウスケにはあの二人は強烈でしたかね」
「くる……じゃなくて、馬車に酔ったみたいな気分だよ」
「酔いましたか。優しい私が背中擦ってあげましょうか? まあどちらも付き合っていけば良い人ということがわかるんですけどね。……ごめんなさい。嘘吐きました。悪人ではありませんが迷惑な側ですね。良いところもなくはないです。んー、でも、良いところより迷惑側の方が明確に大きいような」
あれっ、これ弁護になってますかと自分で言っててめぐみんは不思議がる。
あのめぐみんが他人をそう評価するのは珍しい。普段は本人が振り回す側だからな。それに彼らのことを決して嫌っていなかった。めぐみんは彼らのことを結構好きなようである。
警察の会議がようやく終わって俺達は帰宅途中にどこかに寄る相談をしていた。
夕方には少し早い。今は五時前ぐらいだろうか。
あの二人が来てからはとにかく大変だった。もう終わり間近だった会議を荒らした。いつの間にか時間はそこから一時間は経っていたのだ。
あの二人から逃れた俺達はとぼとぼと敗残兵じみた足取りで歩いていたのだが、逃げられたと思ったのは勘違いだったらしい。
背後から凄い勢いで追いかけてくる足音と声。
「待ちなさーいいいいい!」
あいつだ。
振り向かないでもわかる。
どちらともなく俺とめぐみんは顔を見合わせる。
「待ってろって言ってるのよ!」
いや待ってるけどな。
足を止めて、追い付くのを俺は待っていた。
ドダダダダ! とこちらの世界のモンスターである走り鷹鳶みたいな足音で背後から奇襲してくる。
「ここであったが百年目! くらえこの変態ロリペド男爵!」
三下の台詞すぎる。すぐ返り討ちに会いそうな感じの。
当然、敵意は察知している。
そうじゃなくてもこいつのやりそうなことなんてわかるものだ。
「あれっ?」
俺は彼女が背中を叩く直前に、すっと動いて彼女の手をかわす。
「う、うわっ!?」
自然、地面へと彼女は頭から突っ込む。
その勢いがついたまま彼女は豪快にヘッドスライディングしそうなので、咄嗟に彼女の手を掴んで引き留める。女性だからな。自分で治せるだろうとはいえ、顔を傷つけるのは見過ごせない。
掴んだ手は、日常的にダラダラしているとは思えない細さだ。
他のついているあだ名はともかくとして、一つまったく意味の分からないものがあったので、俺は倒れそうな彼女を片手で支えながらも質問する。
「……なんで男爵?」
「ほら、男爵って格上の変態っぽいじゃない」
凄い偏見だ。
俺はプリーストの格好をした女性を、痛い思いをしないように気を付けながらも立たせる。
立ち上がった彼女はこちらを親の仇みたいに強く睨んでいる。不満気だ。敵意満点だ。俺が悪者みたいな眼付きである。なにか悪いことしたかな……。いや、実はめぐみんとゆんゆんにはこっそりと悪いことはしていたのだが。
彼女の名前はセシリー。
アクセルの街の教会を任されているアクシズ教のプリーストだ。一つの教会を任されているだけあって腕は良い。元々プリーストの適正を持っている人は少ないが、その中でもかなり上に入るぐらいである。
それに美人だ。アクア様と同じ水色の瞳。綺麗なロングな金髪をしていて、知らない人が見れば上品なお姉さんと言ってもいい。
しかしだらしなさとぐうたらな人で、これだけ外見が美人にもかかわらず俺の股間が反応しない珍しい女性である。
「あの……ユウスケのことをロリコンやペド野郎と言いますが、もしかしなくとも私をロリ扱いしていますよね。もう私も大人枠に入ったと思うのですが」
「ああ! ロリーが背伸びする姿は可愛いわよ! 最高だわ! もっとぷんぷんと怒りながら言ってくれたら小遣いあげるわよ!」
「だれがやりますか! 大人枠に入った私が怒ります! ぷんぷん! ……はい。お小遣いください」
「ベネ! 素晴らしいわ! 持って行って! さっき警察からせしめたお金を持って行って!」
めぐみんが上手いこと手のひらで転がしてお小遣いをもらっていた。
転がされている方も大満足なようなので、問題ないだろう。鼻血出しそうなほど興奮しているし。
「というか、セシリーさん」
「なによ男爵」
男爵は別にけなし言葉じゃないからね。
ロリペドはまあ最近の俺の身近な出来事を考えるに否定できない。本当にできない。できないにしてもだ。
「セシリーさんは子供の男の子や女の子が好きだろう。そんなあなたからロリペド言われるのはおかしいんじゃないか」
「一緒にしないで欲しいわね! ユウスケ男爵は邪! 私のは聖よ! 聖の子供好き!」
高らかに歌い上げるように言う。
周囲の視線が気になるのでもう少し音量は下げてほしい。
シスター服の上からでも巨乳であることがしっかりわかる胸を張りながら、宣誓する。
「子供というのは神様に近しい存在よ! なにせ生まれる前は神様のところにいたのだからね! そんな存在を好きというのは、私の信仰心の深さを感じさせることね!」
「その理屈なら老人はどうなんだ?」
「……えっ?」
「いや、神様に近いと言ったら老人も好きなのか? こういうこというのは失礼だけど、ご年配の方は神様に近づいているといってもいいし。セシリーさんご老人好きなの?」
「年上好きというのは聞きますが、老人フェチというのは新しいですね」
俺の疑問が鋭い刃のように刺さったのか、彼女は胸を痛めたように抑える。
「ぐぅっ!?」
子供が好きなセシリーに老人フェチ呼ばわりは思いのほか効いたようだ。効果は抜群だった。
だが、これで崩れ落ちることなどないのがアクシズ教徒である。
「……ふんふふーん」
彼女は今のことはなかったかのように鼻歌で誤魔化す。
うめえ。
鼻歌が上手い。
なにこの無駄な上手さ。……そういえば、アクシズ教徒は芸事が達者なんだっけ。
「……というかですね。今日はセシリーさん機嫌が悪いですね」
「セシリーさん? 誰ですか。わからないわー。私の名前はお姉ちゃんだよ」
私わっかりませーんと怪しい外国人みたいにめぐみん相手に知らないふりをするセシリーさん。いい年した大人のやることではない。
ヤンチャな子供を相手にするかのようにめぐみんは合わせてあげる。
「はぁ……ではお姉ちゃん。今日はやけにうちのユウスケに突っかかりますよね」
一応俺はアクシズ教徒にちょくちょく金を落としている。怪我の治療や聖水はセシリーさんから買ってるし。
めぐみんとゆんゆんという可愛らしい少女と仲間を組んでいる俺の事は普通に気にいらないようだが、金づるでもあるのでここまで激しい憎悪はなかった。
今日は様子がおかしいとめぐみんの言葉に頷く。
「そうだぞ。お姉ちゃん」
「誰が筋肉ムキムキの男のお姉ちゃんよ! マジでキレるわ! 怒りで変身しそう!」
地面に唾を吐き捨て怒鳴る。
だって名前お姉ちゃんらしいから。
ふーふーと獣のような目をしているセシリーさんに、アクシズ教徒なら本当に変身しかねないと若干距離を取り始めている俺。
若干金髪の毛が逆立ってきているように思える彼女と俺の間に、ゆったりとめぐみんが割り込む。
「まあまあ。落ち着いてください。ユウスケも悪ふざけしない」
「むっ!? ちっこいかわいいめぐみんさんに言われたら私も矛を収めるしかないけど、でも私がユウスケに怒っている理由はめぐみんさんも関係しているんだからね!」
「私ですか?」
「めぐみんなにかしたのか?」
「うーん、覚えがないですね」
そもそも俺もセシリーさんに怒られるような覚えがない。
最近出会ったのは聖水を買った時だし、その時は怒っている素振りはなかった。誰かに彼女の悪口を言ったこともない。
「どうやらわからないようね。ふふ、じゃあ教えてあげるわ! 私がこれだけ激おこしている理由を! あれは、そう! 一週間前ぐらいのことだったかしらね!」
「語りだすんですか」
「みたいだな」
「そんなに興味なさそうにしない!? 大事な話だからね!」
一週間ほど前というと、キールのダンジョンかエロ遺跡に入った時辺りか。
深刻なこと――まるで危篤の人を話すみたいに重苦しい雰囲気をだしながらセシリーさんは話し始める。
「あれは……高級なお酒が入って気分が良い夕方の頃だったわ。私は言うまでもなくウキウキ状態よ。そのスキップはさながら宙に浮いてたぐらい。幅跳びの記録を測っていたらきっと新記録は出ていたに違いないわ。そんなスキップしていた私は、これまた嬉しくなるものを見つけたわ。もちろん、めぐみんさん! いつもと違う格好をしたなんだか強そうな魔法使い衣装を着たレアめぐみんさんを見つけたの!」
「あー……あそこから帰っている時ですね」
「やったぁ。良いことに良いことは重なる。やはりアクア様は私を見ているのね! 日頃の行いが良いからこんなことが起こるんだわ! そう確信を持った私がめぐみんさんにお酌でもしてもらおうと声をかけようとしたとき、見たわ! ……ユウスケさん早くなにをって言いなさい」
「えっと……なにを見たんだ?」
「ありがと。……そう。それはめぐみんさんがね、愛おしそうにとある人の横顔を見つめているところよ!」
彼女はその時の光景を思い出したのか足から崩れ落ちる。
そしてダンダンと力強く地面を殴りつける。この世の終わりを叫ぶみたいな迫力である。映画でいうならクライマックスシーン。
「見ていた相手が私なら良かったわ。それならセシリーお姉ちゃんもにっこり。でも、よりによって筋肉ロリペド男爵を、大事なものをかけがえのないものを見つめる目でね。そんな目で見て、あろうことかクスッと笑ったのよ! ……なにこの恋愛小説みたいな挿し絵! 気が付いたときは教会に帰って浴びるほど酒を飲んでいたわ。わかる!? 朝起きたら酒瓶を抱っこして起きたときの気持ちが!?」
「いやそれは……」
うん、気持ちがわかると言われても。
「酒瓶抱いて起きるのはセシリーさんよくあることじゃないか? 用事で教会行ったとき、何回か見た姿だぞ」
「それもそうね。よくあることだったわ」
アクセルの街のアクシズ教会に最初に入った時、綺麗な美人お姉さんが酒瓶を抱きしめてグースカ寝ているから、一体なにが起こったのかと本気で悩んだからな。
傷ついているパラメーターとしては全然使えない。
あははと朗らかに笑うセシリーさんに比べて、めぐみんは不機嫌な表情である。セシリーさんの言っていることはよくわからなかったが、こいつが俺を見て微笑んでたんだっけ。
あの時は新服を手に入れて興奮していたからな。その理由の微笑みだろう。よくわからない理屈をつけられためぐみんの機嫌を悪くするのは当然だ。
「……私としては異議を唱えさせてほしいのですが。そんな顔してませんし」
「してたわよ! セシリーさんのお姉ちゃんアイをなめてはいけない。めぐみんさんってば今まで見たことないような雌の顔してたわ!」
「どういう顔ですか、それ……。してませんけど」
「してーた!」
「ふぅ……もういいです」
何度もしつこい彼女に対してめぐみんは諦めたようだった。何を言っても仕方ないと思ったのかもしれない。
魔法使いはカツンと一度杖で地面を叩いてから、ぴょんぴょんと俺の側に来る。
「そんな顔してたことでいいですよ」
「あー、認めたわね! 子供がそんな顔してはいけないの! ピーー! アクシズカード! 三枚集めればアクシズ教徒の一員!」
「嫌なコンプ要素ですね。……まあ、たとえ認めたとしても、問題ありませんよ。私は子供ではありませんから。……ユウスケはそのことを知っていますよね」
「うん?」
彼女は俺の袖を掴んで甘えるみたいに笑いかけてくる。
どこか影のあるような色気を漂わせているような、確かに子供にはできない表情だ。
こういう時のめぐみんはろくでもないことをすると俺は確信をもって言える。何をする気だこいつ。
「でも、セシリーさんは知らないでしょうし、私が大人だという証拠を今ここで見せつけてあげましょうか?」
くいっと腕を引っ張られる。
身長に差があるめぐみんに体を引っ張られる。抵抗もしてないのでなされるがまま俺の体はめぐみん側へと傾く。
「ちゅ。……こうやってキスしたり。かぷっとしひゃり」
めぐみんは俺の耳に可愛らしく口をつけ、耳を軽く甘噛みする。
それを目の前で見せられたセシリーさんはというと、半狂乱である。
「うっ。うわあああああん! なにしているの!? めぐみんさんなにしているの! そればっちいからペッしなさい。ほら、ペッ!」
「嫌です。お腹減ってますし、おやつ代わりにかぷかぷします」
「そんなの食べたらお腹壊すわ! いい子だからお姉ちゃんの言うこと聞いて! 反抗期!? これが噂に聞く反抗期なのね!」
「百歩譲ったとしても、反抗期は親にするものであって姉にするものではありませんよ。かぷかぷ」
耳をカジカジされる俺も、驚くことはなかった。
ここ最近大分彼女のやる突拍子もないことに耐性がつき始めている。俺は至極冷静に小声ですぐ近くにいるめぐみんに尋ねる。
「……いきなりなにしてんの? ここ公道で恥ずかしいんだが」
「私も恥ずかしいのでおあいこですよ」
「それでおあいことは言わない。セシリーさん杭を心臓に打たれた吸血鬼並みにダメージを受けているんだが」
今にもさらさらと砂になって散らばっていきそうである。
俺が耳を噛まれるたびに、セシリーさんの体がびくんびくんと跳ねる。シスターのそんな姿はエロいような、やっぱこの人なのでエロさは感じられないような。
「良い薬ですよ。今回は無駄に喧嘩を売られたのだから、大ダメージを負わせて勝ちましょう。ところで、ユウスケは昼も温泉に入っていたんですね。良い匂いがしますよ」
「モンスター退治で動いたし、警察署に行く前に汗を流す程度にな」
俺は前衛職でよく体を動かさないといけないからめぐみん達より汗をかくので、人に会う時の礼儀だな。
うーむ、しかしここからどうしたものか。
目の前にはビクンビクンしている聖職者。耳を甘噛みしてくる魔法使い。なにをするでもなく立っているだけの俺。
この混沌とした状況にどう終止符を打てばいいかわからない。
「さて。今からどこかで食事でもしようかと思うのですが、セシリーお姉ちゃんもどうです? そこで甘々なトークでも聞かせ上げましょうか」
「うご……うぐぐぐ……」
死体に更に鞭を打つ真似をしているめぐみん。
獲物が弱っていると思うや追い打ちをかける狩人だった。容赦なしだ。
邪悪な笑みを浮かべるいじめっ子めぐみんにそろそろ止めるよう言おうとしたとき、めぐみんとは反対方向から声がする。
「喧嘩ですかね。喧嘩はよくありませんよ」
「うぐぐぐ……あ、ゼスタ様」
ビックリした。
いつの間にか俺の隣にゼスタさんがいた。気配もなにもなしに現れたので、普通にビビる。
急に現れたアークプリーストの彼は、外見はごく普通だ。白髪が混じった少しダンディーなおじさんといった感じすらある。
能力的には人類最高峰。つまり紅魔族級とすら噂されている彼のことを、俺は警戒していた。伝聞だけで人を決めつけるのは恥ずべき行為だが、それにしたって聞く評判がへんてこなものばかりだ。
火のないところに煙は立たないともいうし、体勢が引き気味になるのは仕方ない。めぐみんと一緒に彼から少し距離を取る。
「この男爵とめぐみんさんが酷いんですよ! 私をのけ者にするんです! 代えて! 今すぐ私と男爵の立ち位置を代えて!」
「あまり無茶を言うものでもありません。他人になりたいなどというのは自分をないがしろにした行為です」
「うわ、ゼスタ様! 何聖職者みたいなことを言っているんですか!」
「ははは、おかしなことを言いますね。私はれっきとした聖職者ですから」
ニコニコと顔を張り付けてそう言う彼はアークプリーストの模範となる存在のようだった。
隣にいるめぐみんはあからさまに警戒しているが。
「……注意してください。なにかを企んでいますよ。悪人がよく使う手口です」
おいめぐみん。悪人ではないと言ってたよね?
「根っからの悪人ではないですが、少々悪いことをするには頓着しない人ですから」
こちらの心を読んだのか、付け加えてくる。
両手を広げて俺達とセシリーさん両方に差した後、パチンとその手を合わせた。
「どちらも仲良くしなさい。そのためには会話が大事ですよ。会話することによって人は誰しも仲良くなれる……とはまあアクア様はまったく言ってらっしゃらないですが」
言ってないのかよ。
俺も喧嘩したいわけではないので、どうせならその案に乗りたい。
「俺は仲良くしたいですよ。セシリーさん」
「私は嫌ですー。ロリコン男はこっち来んな。ばっちい! ロリコンバリアー!」
セシリーさんは両手をバッテンの形にしてこちらを拒否する。
小学生の時にやってたことだ。子供かよこの人。
「ふふふふ、仕方ありませんね。両者とも会話する気ないとは……困ったものです」
「いや、俺は会話する気あると……」
「ははは、もう困ったものです」
やべえ、この人話聞いてない。
まともじゃないわ。アクシズ教の最高責任者がまともなわけがなかった。
「それならば、あれを使うしかありませんね」
にちゃあという笑顔と共に言うあれに――俺は悪寒が体中を走る。
あの長身の男に当たった時と同等、もしくはそれ以上の嫌な予感だった。大きな舌に体をベロリと舐め回されたような背筋が凍る勘だ。
その勘を証明するようにセシリーさんが恐れおののいている。
「も、もしやゼスタ様! あの部屋ですか!?」
「ええ。その部屋です。というか私の部屋です。全員でアクシズ教会の私の部屋に行って語り合いましょう。良い考え。うむうむ。これは良案ではありませんか。時間をたっぷり使えば、皆仲良くなれます! それはもう! めぐみんさんも素晴らしいロリっ子ですし、ユウスケ……さんでしたっけ? あなたもなかなかのハンサム細マッチョ。……良い筋肉しているじゃないですか」
ね、ら、わ、れ、て、い、る。
獣のような目つきで舐め回すように見られる俺は鳥肌が立ちまくった。
早くめぐみんを連れて逃げないとと思うと、めぐみん側でない手が誰かに掴まれる。
「せ、シリーさん?」
「ほら、早く行くわよ。めぐみんさんも行きましょう」
細い手でグイッと引かれる。
何事かという目で見ると、アイコンタクトで合わせなさいという意思を送ってきた。
「ゼスタ様。何を言っているのですか? 私達仲良しですよ。これから一緒にどこか食事に行くつもりです。ですので、あの部屋は勘弁です。本当に勘弁です。ユウスケさんも、私と仲良く食事するんですよね?」
「ああ、まあ」
「めぐみんさんも行きましょう。お姉ちゃんが奢ってあげるんだから」
「奢りと言われたら紅魔族はどこにでも行きます」
グイッと引かれた腕が彼女の大きな胸に当たる。
くそう、胸に腕が当たっただけでちょっと興奮する。こいつ外見だけはマジで美人なんだもの。
それを反対側で歩くめぐみんに咎められる。
「……鼻の下伸ばしてますね」
「嫉妬するめぐみんさん可愛い。ユウスケさんは可愛くない。この腕鍛えすぎよ。硬いわ。子供っぽいプニプニさが足りてない」
「俺がそんなプニプニしようと思ったら脂肪蓄えないといけないぞ」
「デブになっちゃえ。デブになってめぐみんさんから嫌われちゃえ。今日は私があーんして食べさせてあげるから存分に食べていいわよ」
「嫌。遠慮する」
「こんな美人なお姉さんからのあーん攻撃を拒否するなんて男なの! やっぱ可愛くない!」
子供っぽく頬を膨らませるセシリーさん。
子供が好き好き言ってるけど、誰よりも子供の性格をしているのは彼女の方かもしれない。めぐみんも彼らアクシズ教徒を悪人と断言できないのはそれが理由だろうか。
「仲良くしているなら私の部屋は必要ありませんね。……ちっ」
セシリーさんおススメの店に連れていってくれると腕を引かれて案内される中。
背後の舌打ちがやけに耳に残っていた。
まあ完全な悪人でなくても、決して善人でもないよね。うん。
流石は地元の人。
セシリーさんにおススメされた店はなかなかの美味だった。
何故かめぐみんに宿屋から教会に宿泊を代えることを熱烈に押してくるセシリーさんを振り切って、俺達はいつもの宿屋に戻ってきた。
戻ってきた俺は、宿屋のロビーのところで主人に呼び止められる。
「ユウスケさん。今日で週が代わったので、改めてサインよろしいですか」
「そういえば、そうでしたね。わかりました。あ、めぐみんは先に部屋に戻っておいていいから」
「お腹空かしているだろうあの子にお土産渡してきますね」
美味しいお店だったので、ゆんゆんの好きなものを何品かテイクアウトしておいた。もう夜だしな。めぐみんが先に行くのを見送って、俺はロビーの椅子に座る。
この宿では長期で宿泊するとしても、週を代わる度に金の精算と新しくサインをしなければならない。当然といえば当然の制度である。長期居座られてお金が払えないといわれたらたまったものじゃないしな。
俺はポケットの中から前に言われていた分のお金を机の上に置く。この宿をこんな値段で宿泊できるのは、やっぱちょっと悪いよね。
「お預かりします。では、こちらにサインを」
「えっと、これでいいですね」
「はい。今週もよろしくお願いしますね。まあ、外はあの男のことでゴタゴタしていますが」
「ほんと、早く解決すればいいですよね」
俺は苦笑しながらサインの書いた紙を彼の方に押す。
温泉毒混入事件はいつになったら解決するのか。帰る時も街の至る所にこの男を見たらアクシズ教まで連絡をという貼り紙があったし。それも超特徴を捉えていた見事な貼り紙。
なにか妙な物足らなさを感じながらも、俺も部屋に戻ろうかとすれば、めぐみんが何故か戻ってこちらの様子を伺っていた。
「ユウスケユウスケ」
「どうした?」
「二時間後ぐらいに部屋尋ねますからね」
あの二人の強烈さで記憶の片隅に押し込まれていたが、警察署で約束してたな。
「おう。来てくれ」
頷いて改めてお願いする。
俺はめぐみんに、彼女の親友のことについて話さなければならないのだ。
なにやら俺に好意を持っていると――そう勘違いしているゆんゆんのことを。