※この作品はR-18です。

みなも-Minamo-   作:おこそとのほもよろを

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第十四局:みなもと憧のサシウマ勝負

「小蒔ちゃんは、誰が優勝すると思う?」

 六女仙トップの石戸霞が、そう言いながら小蒔の隣に座った。

「宮永咲さんだと思います。」

「でも、咲さんの妹のみなもさん? 彼女も強いわよ。」

「北欧の小さな巨人ですね。その巨人が勝つか、嶺の上の女王が勝つか、とても楽しみです!」

 小蒔は自分の心に素直だった。

『咲もみなもも負けちゃえ。』

 などと捻じ曲がった感情は、これっぽっちも無かった。霧島神境を統べる姫として真っ直ぐな人間だったのだ。

 

 一方、泉は、

「宮永姉妹なんか、クソくらえだ。私が高1最強なんや!」

 いまだに負けが認められずにいた。

 小蒔と比べると、やはり人間のスケールが小さかった。

 

 清澄高校の面々は、優希以外は全員大会会場に来ていた。

 補員の栄子は、

「咲もみなもも、和も数絵も決勝トーナメント進出で凄いな。私は103位だったし、まだまだな。」

 と呟いていた。

 ちなみに、まこは68位だった。

 今回参加した252人は、各地方を勝ち抜いた32校の上位8名であった。その中で103位なら、他の代表校にいたならば十分レギュラーになれる。

 ただ、同期の成績が余りにも凄過ぎて、感覚がマヒしていたのだろう。

 

 四卓全部が同時に対局を開始した。春休みは短いため、夏の大会ほど時間をかけられない事情があった。

 咲のいるA卓では、起家が鶴田姫子、南家が多治比真祐子、西家が咲、北家が多治比麻里香だった。

 本大会では、万が一のために紙オムツが用意されていた。このA卓に登場する前科者をはじめとする危なそうな選手達のために…。

 しかし、今まで、それをつけた人は1人もいなかった。さすがに、高校生にもなってオムツを着けたいとは思わなかった。プライドが許さなかったのだろう。

 姫子がサイを振り、出た目に従って順に配牌が取られていった。

 まずは様子見…といったところか、序盤は牌を打つ音以外しない静かな対局だった。しかし、

「カン!」

 この空気の流れを変えたのは咲だった。{西}の暗槓だった。

「ツモ! 嶺上開花。ツモ、西チャンタドラドラ。3000、6000です。」

 麻里香は、今まで咲の嶺上開花をテレビ越しには何回も見てきたが、生で見るのは、これが初めてだった。

 対面では、姉の真祐子が赤い顔をしてモジモジしていた。漏らしかけているのが手に取るように分かった。

 

 東二局、真祐子の親番。ドラ表示牌は{7}。

 この局は、姫子が仕掛けてきた。半荘一回勝負で現在4位。先は長いはずだが、長野の魔物が、いきなり何を仕出かすか分からない。ならば、他家よりも100点でも多く持っていたいところだろう。

 しかし、麻里香が捨てた{②}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、

「ツモ! 嶺上開花、タンヤオドラ4。3000、6000です。」

 赤ドラ2枚とドラの{8}を2枚含んだ和了り手だった。

 大明槓からの嶺上開花は、ここではツモ和了りとされた。インターハイとは異なるルールで、ここでは責任払いは適用されなかった。

 

 東三局、咲の親番。姫子は、これを安手でいいから、なんとか流したいところだった。

 ところが、

「ツモ、平和。700オールです。」

 早々と咲が和了った。ただ、槓が入らなかったので、姫子も真祐子も麻里香も、唖然とした顔をしていた。

 東三局、一本場。

「(必ずしも槓するわけじゃないのか。)」

 麻里香は、直前に真祐子が切った{⑥}を切った。すると、

「ロン! タンピンドラ1。5800の一本付けで6100。」

 咲に山越を狙われた。これで、麻里香の持つ点棒は12200点。姫子と真祐子に100点とは言え負けた状態だった。

「(また平和?)」

 咲との対局では、初牌切りを極力避けるべき。これが、白糸台高校の仲間からアドバイスとして受けていた言葉だった。ただ一人、淡を除いて…。

 たしかに、初牌を切らなければ大明槓からの嶺上開花を狙われることはない。しかし、嶺上開花以外の手も和了ってくるとなると、初牌がどうこうとは言っていられなくなる。

 それに、100点差とはいえラス。ならば、なんとか和了りに行きたいところだ。

 東三局、二本場。

 9巡目に麻里香が聴牌した。満貫手だった。

 当然、和了りを目指す。そして、切った{發}を、

「カン!」

 咲が鳴いた。今までよりも一段と迫力があった。そして、

「ツモ! 嶺上開花! 緑一色。16200オール。」

 全員トンだ。同着の姫子と真祐子のうち、起家の姫子が席順で2位となり、準決勝戦に進むこととなった。

「「チョロチョロチョロ…。」」

 真祐子と麻里香の足元には、

「「ジョー…。」」

 いつの間にか黄金色の泉が湧いていた。姉妹揃っての事故だった。しかし、それは放映されずに他の対局室の風景に切り替えられた。放送側も手馴れていたのだ。

 

 一方、B卓では、珍しくみなもが起家だった。南家が新子憧、西家が鷺森灼、北家が津秋優奈だった。事前にタコスを食べたからかもしれない。

 東一局、みなもの親。

「ロン! 12000。」

 早速、みなもが中ドラ3の親満を優奈に直撃した。

 東一局一本場、

「リーチ!」

 灼が攻めてきた。得意の筒子多面聴だった。

「チー!」

 憧が鳴いた。一発消しというのもあったが、自身の手を進めるためでもあった。

 しかし、憧の思うようには場は進まなかった。次巡、灼がツモ切りしたところを、

「ロン! タンピンドラ2。11900。」

 みなもが灼から直取りした。傍から見て、これは灼の不運にしか見えなかったが、実際には、完全に場をみなもが支配していたゆえであった。

 続く東一局二本場、

「ロン! タンヤオ三色ドラ3。18600。」

 みなもの親ハネが優奈に直撃した。

 これで優奈のトビ終了となった。

 準決勝には、1位のみなもと、結果的に点数が全然動かなかった2位の憧が、コマを進めることとなった。

 

 A卓とB卓は、ともに1強の卓だった。そして、C卓でも同じ現象が起こった。

 起家が荒川憩、南家が南浦数絵、西家が龍門渕透華、北家が高鴨穏乃となった。

 ここでは、憩と穏乃が勝ち進むと多くの人が予想した。しかし、対局開始早々、透華が冷たい透華に変身した。

 大きな和了りこそなかったが、終始、場を支配した透華が1位、憩が2位で準決勝に進むこととなった。

 

 D卓は、最初、衣の支配に淡と和が対抗していたが、途中から漫が爆発した。それで、他の卓とは異なり、一瞬混戦状態になった。

 しかし、やはりその中から、衣が1位、淡が2位と、牌に愛された怪物が順当に準決勝へと勝ち進んだ。

 

 一回戦が全て終了してから15分後、準決勝戦第一試合が開始された。

 咲とみなもの直接対決である。この試合は、多くの人の関心を寄せた。

 前半戦の場決めがされ、起家は姫子、南家は憧、西家は咲、北家はみなもになった。

「ねえ。マスコミの人から聞いたんだけどさ、みなも…って、北欧の血が入ってるって本当?」

 既に団体戦でみなもと二度戦った憧は、みなもに対して少しガードが解けていた。試しに、みなものことを呼び捨てしてみた。

 今のところ、阿知賀の仲間を相手にするように、ズケズケと話をするような感じではなかったが、傍からは、少し親しげに見えたかも知れない。

「うん。クォーターだけどね。お母さんが、日本人と北欧人のハーフって聞いてる。」

「当然、咲さんもだよね。」

 咲に対しては、まだ『さん付け』であった。憧にとって、咲とは今回初めての対局であり、まだ距離があったのだろう。

「双子だからね。」

「なんだか、ベートーベンの交響曲第四番みたいな状況だわ。」

「ナニソレ?」

「ええと、ベートーベンの交響曲第四番は知ってる?」

「第九があるんだから、四番もあることは分かる。聞いたことは無いけど。」

「ベートーベンの交響曲第四番のことを、ロベルト・シューマンが、『二人の北欧神話の巨人の間にはさまれたギリシアの乙女』って表現してるのよ。二人の北欧神話の巨人ってのは、第三番英雄と、第五番の運命だけど。」

 偏差値70超の憧らしい雑学知識であった。ただ、クラシックに興味のある人間以外にこんな話をしたら、普通引かれる。

 案の定、咲と姫子は引いていた。

「ギリシアの乙女ねぇ。まあ、憧、綺麗だし…。」

 ただ、みなもだけは、引いている様子はなかった。どうも、憧自身に興味があるような感じだった。

「べ…別にそんな…。」

「じゃあ、日本の守護神である咲が『英雄』で、私が憧には逃れられない『運命』ってことかな?」

 みなもが、イヤラシイ笑みを浮かべて見せた。

 憧は、

「ちょっと、何いってるのよ!」

 と言いながら顔を真っ赤にして照れていた。そして、

「(私にはシズが…。)」

 と自分に言い聞かせていた。別に憧は、穏乃と正式に付き合っているわけではなかったのだが…。

 

 この時、初瀬は、ムカついた表情で、みなもと憧が親しそうに話している映像を見ていた。そして、自然と手に力が入り、持っていたペンを折った。

「(なんなのよ。高鴨といい、あの長野の化け物といい…。私が、なんで阿知賀に転校したと思ってるのよ! これ以上、憧に近づくな!)」

 初瀬は、憧に近づく者達の敗北を心の底から祈り始めた。

 

 対局室では、

「じゃあ、憧が二回トンだら、憧が私の言うことを何でも聞くってのはどう?」

「それじゃ、私が一度もトバなかったら、みなもが私の言うことを何でも聞くってことなら。」

「じゃあ、勝負だね。」

 みなもと憧の2人で、勝手に話が進んでいた。

「それと、咲!」

「な、なに、みなも?」

「私と憧の勝負を邪魔しないで、静かにプラマイゼロでもやっててね!」

 勝手な言い草だった。

 

 姫子がサイを回した。

 ドラは{①}。

 咲は、みなもに『邪魔するな』と言われたからか、様子を見ている感じだった。

 一方、憧も鳴いて手を進めたかったようだが、姫子が捨て牌を絞っていたのか、鳴ける牌が出てこなかった。

 7巡目、

「ツモ。中ツモドラ3。2000、4000。」

 和了ったのは、みなもだった。

 

 東二局、憧の親。

 ここでも、憧の持ち味である鳴きを見ることができなかった。そうこうしているうちに、

「ツモ。タンピンツモドラ2。2000、4000。」

 また、みなもが和了った。手が早く、しかも高い。

 このままでは、削られるだけ。しかも、自分の下家には、みなもを超えるとされる化物がいる。

 憧は、なんとかして和了りたかった。

 たしかに、自分が勝てるとは思ってはいなかったが、最初から負けるつもりで卓に付きたくなどなかったのだ。

 

 東三局、咲の親。

 ここに来て、咲の雰囲気が変わった。

「カン!」

 みなもの捨て牌を大明槓した。そして、

「ツモ! 嶺上開花、タンヤオドラ3。4000オール。」

 咲が和了った。

 

 東三局一本場、

 みなもは、照と同じで、連続で和了っている間は和了り役の翻数が増えるが、途中で誰かが和了ると翻数がリセットされた。

 しかし、憧をトバそうと、

「ポン!」

 {中}を鳴き、

「ツモ! 中ドラ1。600、1100。」

 咲の親を流した。

 ただ、憧にとって、こんな安手を和了るみなもを見るのは初めてだった。

「珍しいじゃん。みなもが、そんな安いの。」

「咲と一緒だと、結構こうなるよ。」

「ふーん。」

「削れる点数も調整される。」

 これは、さすがに憧にも意味がわからなかった。しかし、この後、この言葉の意味を憧は理解することになる。

 

 東四局、みなもの親。

「ツモ! 2000オール」

 みなもが早和了りを決めた。ただ、これも、みなもにしては点数が低かった。やはり、削れる点数を調整されていると言うことなのだろうか?

 続く東四局一本場、

「ロン! 18300。」

 一気に高打点となり、みなもが憧をトバした。

 この時、咲は29900点だった。

 これを見て憧は、

「(しっかりプラマイゼロを達成している。いくら、妹に言われたからって、本当に点数調整するなんて…。って、和了って調製してたわけじゃない。もしかして削れる点数を調整されるって、そういうこと?)」

 みなものツモ和了りの点数が低く調整され、咲以外へ直撃の点数は調整されない。つまり、みなもが言いたかったのは、咲の支配力で、みなもは、あれ以上の点数をツモ和了りできない、つまり、咲を削れなかったと言うことだ。

 これは、みなもの和了り点まで咲に操作されていることを意味していた。

「(意味わかんないんだけど…。)」

 憧は、急に身震いした。

 二回戦が終了した時、みなもは憧に『咲は観察力と支配力が優れている』と言った。たしかに、支配力はとんでもないことが理解できた。

「(こうなると、やっぱり清澄の大将と遣り合えるシズも化物ってことよね。だったら、シズとみなもが戦ったらどうなるんだろう?)」

 これは、憧にも、どのような麻雀が展開されるか想像がつかなかった。ただ、この時、憧の頭の中には、2人が憧を取り合っている図が思い浮かんでいた。

「(ちょ…ちょっと、なに考えてるの、私?)」

 憧は、勝手に頬を赤らめていた。

 

 いずれにせよ、前半戦は、

 1位:みなも +54

 2位:咲 ±0

 3位:姫子 -18

 4位:憧 -36

 と憧の箱割れで、賭けはみなもが一歩リードした。

 

 10分休憩の後、後半戦の場決めがなされた。

 今度は、起親が憧、南家が姫子、西家が咲、北家がみなもだった。

「あまりプラマイゼロやると和ちゃんに怒られちゃうから、今度は本気でやらせてね。」

 現チャンピオンが、なにか不吉なことを言っていた。

 ただ、咲の心の中の声は違っていた。

「(この阿知賀の人、穏乃ちゃんの友達だよね。ってことは、吉野の人だよね。吉野って言ったら、私達のいる長野と大差ないよね。それなのに、穏乃ちゃんと違って都会っぽくて…。女性の敵だね。うん。麻雀を楽しませないといけないね!)」

 勝手に、憧をトバすターゲットにしていた。完全な嫉妬だった。

 

 東一局がスタートした。

 憧は、得意の鳴き麻雀で連荘を狙っていたが、みなもから鳴ける牌が、あまり出てこなかった。

 そう言えば、前半戦では、姫子の牌が全然鳴けなかった。

 警戒されているのだろうか?

 対面の咲は、萬子、索子を切った後に字牌を切り出していた。恐らく染め手と思われる。

 そうこうしているうちに、

「リーチ!」

 姫子がリーチをかけてきた。前半戦のマイナスを取り戻すため、攻めてきたのだ。

 しかし、一発ツモならずで{①}を切った、そとの時だった。

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 {②}を暗槓した。再び嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 今度は{③}を暗槓した。

 このパターンを憧は見覚えがあった。龍門渕高校に練習試合に行った際に、お屋敷で見た映像と同じだったのだ。あの時は、衣が32000点を責任払いした。

 咲の手が、嶺上牌に伸びた。そして、{[⑤]}を表にして手元に置いた。

「ツモ! 清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。8000、16000です。」

 違ったのは、今回のルールでは大明槓からの嶺上開花は、ツモ和了りとするルールだということだった。

 憧の点棒は、一気に9000点まで減った。

 

 東二局、姫子の親番。ただ、怪物二人が支配する卓で、姫子も率先して親をやりたいとは思っていなかった。ツモ和了りされて大きく失点する可能性が高い。

「ポン!」

 今後は、咲が{①}をポンした。カンではない。

 数巡後、

「カン!」

 咲が{①}を加槓した。そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {一}を暗槓した。さらに、次の嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。次の嶺上牌をツモると、咲は、それを表にして手元においた。

「ツモ。混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花。6000、12000です。」

 

 これで、四人の点数は、

 暫定1位:咲 82000

 暫定2位:みなも 11000

 暫定3位:姫子 4000

 暫定4位:憧 3000

 咲の完全な一人浮きだった。

 

 ここで東三局、咲の親番になった。

 このまま失点するだけの状況は嫌だ。いくら咲とみなもが相手でも少しは足掻きたい。これが憧の本心だった。

 みなもが捨てた牌が鳴ける。

「チー!」

 早速、{四}を鳴いて{横四三五}の順子を晒した。そして、打{一}。

 その2巡後、憧が捨てた{東}を、

「ポン!」

 咲が鳴いた。捨てたのは一枚切れの{北}。

 憧は、心の中で、

「(チャンピオンもきてる。でも、速攻!)」

 と自分に言い聞かせながら、決して諦めた表情を見せなかった。そして、次巡、

「チー!」

 みなもの捨てた{④}を鳴き、{④③[⑤]}の順子を晒した。三色同順狙いだろう。

 そして、憧は{⑥}を捨てた。すると、

「ロン!」

 咲が牌を倒した。{⑥}単騎待ちだった。

「ダブ東対々三暗刻。18000です。」

 これで、四人の点数は、

 1位:咲 100000

 2位:みなも 11000

 3位:姫子 4000

 4位:憧 -15000

 咲の点数は、まるで計算したかのように10万点ぴったりだった。

 

 後半戦の順位は、

 1位:咲 +90

 2位:みなも -19

 3位:姫子 -26

 4位:憧 -45

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:咲  +90

 2位:みなも +35

 3位:姫子 -44

 4位:憧 -81

 大方の予想どおり、咲とみなもが決勝にコマを進めた。

 

 憧は、何故、咲が{⑥}単騎で待っていたのか、理由が分からなかった。

 単騎待ちなら、もっと良い待ちがある。少なくとも咲は字牌を捨てていた。そっちのほうが、出和了りを狙うなら一般的だろう。

 しかし、みなもは、咲の意図に気付いていたようだった。

「憧。最後の{⑥}捨ては、完全に咲に読まれてたね。」

「どうして?」

「正直、素直すぎるんだよね。憧の打ち筋から、咲は多分、憧が三色狙いで、後から{⑥}とか{⑦}とかが出てくるって思ったんじゃない? まあ、これは咲じゃなくても読めると思うけど。」

 つまり、これくらいは咲にとっては、ほんの序の口と言ったところだろう。憧は、帰ったら赤土晴絵に鍛えて直してもらおうと強く思っていた。

「それで、私との賭けだけど、憧が、二回連続でトンだね。」

 みなもの目が笑ってた。

「でも、二回目はみなもがトバしたわけじゃないじゃん。」

「そうだけど、私がトバしたらとは言ってないよ。」

「えっ?」

 たしかに、憧が二回ともトンだらとしか、みなもは言っていなかった。つまり、この賭けは、みなもの勝ちだった。

「わ…分かったわよ。で、私は、何をすればいいの?」

「ええとね。友達になってくれないかな。」

「はっ?」

 みなもは、人付き合いが衣と同レベルだった。さすがに、憧も、このベタな展開が来るとは思っていなかった。

「イヤ…かな?」

「そうじゃなくて、もう、私は友達だと思ってたから。」

「ほんとに?」

「うん。」

「じゃあ、連絡先とか…。」

「LINEしよ。」

「うん!」

 みなもは、無邪気な笑顔を見せていた。

 この全国大会を通じて、憧はみなもにとって初めてできた友達だった。少なくとも、泉は、会話はあったが友人とは言えない。

 モニターには、2人が、なにやら親しげに会話している様子が映し出されていた。

 これを見ながら、

「(長野の魔物。殺す!)」

 初瀬の全身から怒りのオーラが激しく吹き出していた。

 

 準決勝第二試合は、冷たい透華の出すオーラで卓全体が凍りつくような寒さに覆われているのを、衣も憩も淡も感じていた。

 ただ、衣は強い相手と打てて、むしろ闘志が湧き、その寒さを吹き飛ばしていた。

 とは言え、この状態の透華の支配力には誰も勝てず、透華が前後半戦ともに1位、衣が2位で、この二人が決勝に進出することになった。

 ちなみに、憩は、

「(ちょっと漏れちゃった。)」

 冷気に震えて少しだけ漏らしていた。しかし、まともには出ていなかったので周りの人には誰にもバレなかったようだ。

 淡は、何とか耐えたが、対局終了後、急いでトイレに駆け込んだらしい。

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