※この作品はR-18です。

みなも-Minamo-   作:おこそとのほもよろを

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第十五局:冷たい支配、再び

 準決勝第二試合終了より30分のインターバルを置いて、決勝戦が開始された。

 決勝卓に残った4人は、すべて長野県勢であった。しかも、その先鋒と大将。団体戦で最優秀選手に輝いた1名と優秀選手に選ばれた3名だった。

 透華は、いまだ冷たい透華の状態を維持していた。

 前半戦の場決めがされ、起家は透華、南家は衣、西家は咲、北家はみなもになった。

 下馬評では、本命は咲で、みなもと衣がどこまで食い下がるかが見ものとされた。透華は、完全に蚊帳の外と言ったところだった。

 しかし、今のパワーバランスは下馬評とは全く違っていることを、咲も衣もみなもも良く分かっていた。

 果たして、この状態の透華とどうやって戦うべきか、咲は考えていた。

「(準決勝前半戦のプラマイゼロは、最後に私が和了って調整したわけじゃないから、和ちゃんは『偶然のプラマイゼロですね』って言って許してくれたけど、あれって、私がみなもの支配に干渉して和了り点を操作したからなんだよね…。)」

 咲は、照やみなもの支配を小さい頃から受けており、その中でもプラマイゼロを達成するために2人の支配力を操作する方法を身に着けていた。

 ただ、それがいきなり透華に対してもできるわけではなかった。

「(この前半戦は、和ちゃんには怒られるかもしれないけどプラマイゼロで行く。それが私にとっての最強の支配力を出せる打ち方だから…。多分、衣ちゃんもみなもも支配力を最大に上げて対抗してくるはず。そうなれば、いずれ冷えた状態を維持できなくなって透華さんは元に戻るはず。決勝トーナメント一回戦から冷えているんだし…。)」

 冷えた透華の解除。それが咲の狙いだった。

「(でも…、ちゃんとおトイレ、行っておけば良かったよぅ。)」

 透華から放たれる冷気に曝され、さすがに咲は身体が冷えてきた。今までは漏らさせる側だったが、今は漏らす側に回るのではないかとの恐怖があった。

 

 東一局、透華の親。

 全てが透華に支配され、牌が鳴けない静寂な場だった。そして、透華が静かに、

「ツモ。1000オール。」

 小さな手を和了った。これが、衣が治水と表現した冷たい透華の本来の打ち方だった。派手な手は和了らないし和了らせない。常に穏やかな場で支配してゆく。

 東一局一本場、

「ツモ。2100オール。」

 また、透華が静かに和了った。

 しかし、続く東一局二本場、

「カン。」

 咲が二を暗槓した。そして、

「ツモタンヤオ嶺上開花。1200、2200。」

 面前手ではあったが、一応鳴きが入った。しかも、嶺上開花。

 派手な動きを嫌う冷たい透華の表情が曇った。

 

 東二局、衣の親。

 咲の嶺上開花への怒りからか、透華の支配力が増した。そして、

「ツモ。700、1300。」

 平和ツモドラ1の安和了り。まるで、治水の支配下では、こうでなければならないとでも言いたげな和了りだった。

 

 東三局、咲の親。

 今まで様子を見ていた衣のオーラが急激に増した。そして、衣の支配による一向聴地獄が始まった。

「ポン。」

 衣が、みなもの捨てた{北}を鳴いた。これは、透華支配下に置ける禁忌行為だ。

 場は、そのまま終盤に入った。その後は、誰も動けないツモ切り状態が続いた。

 そして、海底牌。

「ツモ! 北、海底撈月、ドラ3。 2000、4000!」

 この派手な和了り。完全に冷たい透華への挑戦状だった。これに、さらに怒りが増したのか、透華のオーラが、より一層強まっていった。

 

 東四局、みなもの親。

 この場では、衣の支配よりも治水支配が上回った。

「ツモ。1300、2600。」

 タンピンツモドラ1の和了りだった。

 団体戦での、みなもとの戦いは、本来の治水スタイルではない。これが、派手な和了りを嫌う冷たい透華の場で、本来、最も高い和了りになるであろう手と思われる。

 

 南入した。南一局、透華の親。

「ツモ。700オール。」

 また、透華が和了った。

 続く南一局一本場、

「ツモ。1100オール。」

 透華の、怒涛の三連続ツモ和了りだった。これは、東三局での衣の和了りに対する透華の怒りであろう。

 ところが、南一局二本場、

 ここで、今まで、なりを潜めていたみなもが、一気に支配力を上げた。

「(全員が支配力をマックスにして潰し合いしても意味がない。順番に透華さんと対峙して透華さんの冷気を吹き飛ばす。)」

 この局は、衣の一向聴地獄は出ていなかった。ここは、みなもに託された場であることを、みなもは感じた。そして、

「リーチ!」

 みなもが攻めに出た。次巡、

「リーチ一発ツモタンヤオドラ2。3200、6200。」

 この局一番の大きな手を和了った。

 

 ここで、現段階での順位は

 暫定1位:透華 37200

 暫定2位:みなも 26200

 暫定3位:衣 21100

 暫定4位:咲 15500

 透華のトップは変わらず、咲が最下位だった。しかし、咲の目は死んでいなかった。むしろ、ここにきて目に活力が湧いてきた。

 

 南二局、衣の親。

 ここでも、衣の一向聴地獄は出ていなかった。そして、中盤に差し掛かった時、

「カン!」

 咲が面前手で{西}を暗槓。閃光が走った。

「ツモ! 面前自摸嶺上開花ドラ1。60符3翻は、2000、3900です。」

 治水への反乱だった。

 さすがに、冷たい透華の怒りがマックスに達した。

 

 南三局、咲の親。

 透華の支配力が、今日一番の状態になった。衣の一向聴地獄を遥かに凌ぐ。誰も手が進められない。ただ一人を除いて…。そして、

「ツモ。700、1300。」

 静かに透華がタンピンツモを和了った。治水下での和了りの手本のようだった。

 

 とうとうオーラスに突入した。みなもの親。

 ここにきて、咲のオーラが急激に増した。この雰囲気を、みなもはよく知っていた。

「(プラマイゼロ…。やる気だね、咲。この支配力、誰にも止められない…。)」

 6巡目、咲のツモ番。ここで、咲が面前から{西}を4枚晒した。

「カン!」

 暗槓だった。そして、{⑤}単騎待ちで、{[⑤]}を王牌からツモってきた。

「ツモ! 嶺上開花赤1。2000、3900。」

 強烈なエネルギー波が透華を襲った。この直撃を受けて、透華は、その場で気を失い、卓に顔から突っ伏した。

 

 前半戦が終了した。順位は、以下の通り、

 1位:透華 35900 ⇒ +26

 2位:咲 30000 ⇒ ± 0

 3位:みなも 19600 ⇒ -10

 4位:衣 14500 ⇒ -16

 透華が1位になった。

 一方、咲は、狙い通り完全なプラマイゼロを達成した。

 

 ストレッチャーが対局室に運び込まれた。

 スタッフが透華をストレッチャーに乗せた。透華は、一旦、医務室に運び込まれた。ここで彼女の様子を見ることになったのだ。

 本来であれば、後半戦は15分後に開始されることになっていたが、一先ず、1時間だけ透華の回復を待つことになった。もし回復が見込まれなければ、透華は、止むを得ず棄権失格となる。

 透華には、透華付きのメイドである一が付き添うことになった。

 

 30分後、

 透華が目を覚ました。特段、何の問題もないように見えた。

「あれ? 一、ここは、どこですの?」

「医務室だよ。透華は、決勝前半戦が終わったところで倒れたんだ。」

「決勝? 前半戦?」

 治水状態の記憶が透華には無かった。

 一が、一回戦から決勝前半戦までの牌譜を見せた。

「なんですの? これ?」

「なにって、透華が打った牌譜だよ。」

「却下ですわ。これでは、原村和の打ち方と全然違いますわ!」

「だから、これは原村の牌譜じゃなくて透華の牌譜だってば。」

「分かっております。」

「じゃあ、なんで?」

「私の理想は完全なデジタル。その先にあるのが原村和ですわ。だから、こんなデジタルの欠片もない打ち方は却下なのですわ!」

 そう言いながらも、透華は牌譜をマジマジと見ていた。

「それにしても、あの衣と宮永ツインズを相手に、これだけの戦いをするなんて、信じられませんわ。まさか、一。」

「な…なに、透華?」

「わたくしを担いではいないでしょうね?」

「そんなことしてないってば。それ、本当に透華の牌譜だよ。」

「たまに記憶が無くなって、よくわからない牌譜が記録に残る怪現象が起こりますが…、ただ、これが真実であれば、後半戦で大敗しなければ、わたくしが全国個人優勝ってことで宜しいのですね?」

「そうだよ。透華。」

「では、こんなところには、いられませんわ。対局室に急ぎます。」

 透華は、ベッドを降りると、身だしなみを整えて医務室を出た。

 

 透華が目を覚ます10分ほど前、咲はトイレを探し当ててホッとしていた。透華が運び出されたゴタゴタがあって、みなもは、それにすっかり気をとられていた。気が付いた時には、対局室に咲はいなかった。1人でトイレに行ってしまったのだ。

 透華の冷気に曝されて、咲の尿意はマックスに達していた。

「やっと見つけたよ。」

 そして、用を足して生き生きとした表情でトイレを出ると、

「あれ? どっちだっけ?」

 迷子になった。

 急に涙目になった。

 案の定、咲は逆側に向かって歩きだした。

「(対局室がどっちか分からないよぉ…。ここ、さっきも通ったような気がするし…。)」

 咲が、その場でオロオロしていると、ここに透華と一が通りかかった。

「あれ? 宮永さん。どうかしましたの?」

「ふえぇぇぇぇぇ。」

 透華達は、すぐに咲が迷子になっていたことを理解した。

 数分後、対局室に透華と咲が戻ってきた。

 

 各自、場決めの牌を引いた。後半戦も、前半戦と同じで起家は透華、南家は衣、西家は咲、北家はみなもになった。

 透華の治水モードは、もう解除されていた。しばらく、スイッチは入らないだろう。

 東一局、透華の親。

 いきなり、衣の一向聴地獄が始まった。咲とみなもは、支配力を抑えて様子を見ている感じだった。

 誰も鳴けずに、場が進んでいった。そして、17巡目、衣はツモ切りした牌を横にした。

「リーチ!」

 そのまま、一発を消せずに海底牌が衣の手に渡った。

「ツモ! リーチ一発ツモ海底撈月ドラ3。3000、6000!」

 衣の必殺技が決まった。

 

 東二局、衣の親。

 今度は、咲が支配力を上げた。そして、衣の捨て牌を

「カン!」

 大明槓した。そして、次巡のみなもの牌を

「もいっこ、カン!」

 また、大明槓した。

 衣は、みなもの手牌から強大なエネルギーを感じた。

「(この気配…。これは、咲のカンか。みなもの手にドラが大量に乗ったな。)」

 衣のツモ順。危険牌を引いてきた。

「(これは、さすがに切れない。)」

 みなもの和了り牌を手に取り込み、衣は別の牌を切った。この時だった。

「ロン。2000点です。」

 咲が衣から和了った。みなもの手牌を囮にしたのだ。

「(くそう。咲の奴ぅ。)」

 衣は、この光景に見覚えがあった。これは、夏の長野県大会決勝で、池田華菜に大量のドラを乗せた時と同じパターンだったのだ。

 

 東三局、咲の親。

 ただ、この局、咲は無警戒に、みなもに振り込んだ。

「ロン。平和ドラ2。3900。」

「はい。」

 

 続く東四局、みなもの親。ここでも、咲は、ダマ聴とは言え、みなもに振り込んだ。

「タンヤオ一盃口。3900。」

「はい。」

 そして、東四局一本場、衣の支配が強くなった。

 中盤に衣が捨てた{東}を咲が鳴いた。

「ポン!」

 しかし、この鳴きで海底牌は衣のツモに変わった。

 残り一巡、

「リーチ!」

 衣がリーチをかけた。リーチ一杯海底撈月を狙ってのことだ。しかし、

「カン!」

 咲が{東}を加槓した。これで、衣のツモはなくなった。

 そのまま流局。衣の一人聴牌となった。

 

 南入した。流れ二本で透華の親。さすがに、前の局で咲に海底牌をなくされたことに腹を立てたのか、衣の支配が本日最強状態に達した。そして、

「ツモ! 2200、4200!」

 衣が満貫を和了った。

 

 後半戦の得点は、この段階で以下の通りであった。

 暫定1位:衣 46600

 暫定2位:みなも 26600

 暫定3位:透華 13800

 暫定4位:咲 13000

 衣のダントツトップ、咲の最下位であった。

 

 南二局、衣の親。

 ここで急に咲のオーラが強力になった。ここで高い手をツモ和了りできれば、トップの衣は親被りで手痛い失点になる。

 6巡目、既に河には{②}が4枚切れていた。

 透華のツモ番。彼女は、{①③⑤}と持っていたが、これでは{①}が使いにくい。デジタル打ちの彼女は、躊躇せずに{①}を切った。これを待ってましたとばかりに咲が動いた。

「カン!」

 そして、嶺上牌を引くと、咲は、それを表にして手元に置いた。

「ツモ。混一混老対々三暗刻小三元嶺上開花。8000、16000です!」

 {⑨⑨⑨白白白發發中中}  明槓{①横①①①}  ツモ{發}

 {發}と{中}のシャボ待ち。数え役満だった。

 これで一気に咲がトップに躍り出た。

 

 南三局、咲の親。

 衣は、ここで咲を逆転すべく支配力を上げて高い手を張っていた。ここに、

「カン!」

 咲が面前手から暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓した。

 またもや、みなもの手牌から強烈なエネルギーを衣は感じた。そして、次巡に引いた衣の牌は、みなもの危険牌だった。

「(また、このパターンか。さすがに、みなもには振ることはできない。)」

 そして、振込回避で捨てた牌を、

「ロン。1500。」

 安手とは言え、また咲に和了られた。

 

 南三局一本場、咲の連荘。

 衣は、逆転を狙って支配力を上げた。そして、ハネ満手を聴牌した。しかし、

「ロン。平和ドラ1。2300。」

 咲がみなもに差し込んだ。

 衣は、東一局一本場からペース配分を間違えた。それで、エネルギーを消耗し、オーラスを戦う力がほとんど残っていないことに、今気が付いた。

「(またしても咲にやられたか。衣も、もう少し鍛えないとな…。)」

 この局は、衣の支配力が低かった。それ故か、透華が後半戦初めて聴牌できた。

 しかも、

 {一一一一二三①②③1399}  ドラ{一}

 リーチをかけてツモれば三倍満。

 

 現在の得点は、

 暫定1位:咲 42300

 暫定2位:衣 29100

 暫定3位:みなも 22800

 暫定4位:透華 5800

 透華がダンラス。

 

 しかし、もし、ここで三倍満をツモ和了りできれば、

 1位:咲 36300

 2位:透華 29800

 3位:衣 23100

 4位:みなも 10800

 透華はプラマイゼロで2位。しかし、前半戦と合わせれば+26になる。

 一方の咲は、後半戦は+26だが前半戦がプラマイゼロなので、前後半戦のトータルは+26になる。つまり、トータルでは、咲と透華の同時優勝となる。

 優勝は2人ではなく1人でなりたいが、もし、一発ツモで裏ドラが乗れば、その可能性もある。勿論、咲からの振込があれば、完全優勝だ。

 透華は、迷わず

「リーチ!」

 攻めに出た。

 衣と咲は、一先ず透華の安牌を切って一発を回避した。そして、みなもは、

「リーチ!」

 攻めてきた。

 みなもの手牌は、

 {五[五]③④[⑤]⑥⑦234[5]67}

 リーチ平和タンヤオ赤3のハネ満手。咲から直撃できれば逆転だが、それは期待できない。ならば、一発ツモの倍満か、裏ドラ期待での倍満を狙う。被りの牌がないから、裏ドラが乗る確立は比較的高い。勝つには、これしかなかった。

 そして、透華のツモ牌は、まさかの{⑧}だった。

 リーチをかけた透華は、これをツモ切りするしかなかった。力強く打{⑧}。そして、

「ロン! メンタンピン一発、一盃口、ドラ…、」

 一発で、みなもに振り込んだ。

 ここで、一枚でも裏ドラが乗れば、後半戦はみなもがトップ。+38になる。しかも、前後半戦合わせて+28で優勝。これを期待しての和了りだった。

 みなもが裏ドラをめくった。しかし、裏ドラは白。乗らなかった。

 

 後半戦の得点は、五捨六入で

 1位:咲 42300 ⇒ +32

 2位:みなも 42100 ⇒ +12

 3位:衣 29100 ⇒ - 1

 4位:透華 -13500 ⇒ -43

 咲のトップとなった。

 

 そして、総合得点は、

 1位:咲 +32

 2位:みなも + 2

 3位:衣 -17

 4位:透華 -17

 咲が夏春個人戦連覇を成し遂げた。個人1位2位を清澄高校が取り、衣と透華が同着3位となった。

「みなもに、やられたね。前部長に言われてた持ち点1000点からの仮想プラマイゼロでトップを取ろうとしてたんだけどね。」

 咲が、そう言うと手牌を倒した。1000点の手で、透華のリーチ後に和了る予定だったようだ。仮想とは言え、みなもが一応プラマイゼロを破ったことになる。

 しかし、みなもには、本当のプラマイゼロに比べると咲の支配力が劣っていたように感じた。なので、プラマイゼロを破ったとは思えなかった。

 

 決勝戦の裏では、5位決定戦(半荘1回での戦い)が同時進行で行われていた。その結果は、5位入賞が憩、6位入賞が淡、7位入賞が姫子、8位入賞が憧となった。

 ただ、憧は、

「(多分、一回戦は、みなもが私を2位にしてくれただけよね。何もできずにいたから、原点のままで、いつのまにか他がトンで、それで、たまたま2位だもんね。)」

 と謙虚に物事を捉えていた。順位では穏乃や灼よりも上になれたが、全然、その実感は無かった。

 

 その数日後、ニーマンが日本を訪れた。

 イーヴリンに渡された資料を眺めながら、

「神代小蒔。巫女の格好で、スター性もあるし、打ち方も意外性があり面白い。たしかに強いしな…。それから、龍門渕透華か。変身するとは面白い。それから…。」

 どの選手がニーマンの手に落ちるのか?

 まだ、日本側では、この動きを把握できていなかった。

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