4月になった。みなも達は、2年生に無事進級した。
咲は和と栄子、京太郎と同じクラス、みなもは優希と数絵と同じクラスになった。
一応、初日から部活は行われることとなった。
みなも達2年組みが部室に入ると、既にまこが来ていた。まこは、見知らぬ20代後半の女性と話をしていた。
「おお、きたか。今度、顧問兼監督をしてくださる石飛先生じゃ。」
そこにいたのは、閑無だった。麻雀プロの瑞原はやりや、世界大会監督の白築慕の同期にあたる。
「石飛閑無だ。朝酌女子から転任してきたんだ。よろしくな。」
「朝酌女子って、たしか準決勝戦で戦った高校ですよね…。」
一応、その存在を数絵は覚えていた。しかし、対戦したはずのみなもは、すっかり忘れていた。
それどころか、咲も和も絹恵の失禁のほうに気を取られていて、朝酌女子のことを覚えていなかった。絹恵事件は、それだけインパクトが強かったようだ。
「ああ。一応、春大まで監督だったんだ。全然、清澄には歯が立たなかったけどな。」
「でも、朝酌女子のほうは、監督とか顧問は、どうなるんですか?」
「私の同期の本藤悠彗に顧問をお願いした。それと、臨時コーチを稲村杏果が引き受けてくれた。悠彗は高校から、杏果は小学校からの同期でな。特に悠彗は、慕、はやり、悠彗でシノハユと呼ばれていた当時の朝酌女子のトリプルエースの1人だよ。それと、杏果の家は旅館で、はやりは、今でもそこの温泉に浸かってる。」
咲は、
「(結構、マシンガントークな人だな。)」
と思っていた。
たしかに、もともと物静かな咲のレベルからすれば、スイッチが入ったら止まらないように感じるだろう。
「それと、1人、2年間だけになるけど、コーチになりたいって大学生がいてな。そろそろ来ると思うんだけど。」
「どんなかたですか?」
咲が聞いた。
「おお、お前が宮永咲だな。実は、コーチ志望者は、お前の顔見知りの人だ。」
「私の…ですか?」
「ああ。1~2年が長野の校舎で、3年からは都内の校舎に移る予定らしいんで、2年間だけ、ここでコーチを勉強したいそうだ。プレイヤーとしてよりも、人を育てるほうに回りたいらしい。それで、学部も心理学部にしたらしい。」
うーん…、話が長い。
咲は、話が長いのは余り得意ではない。
丁度この時、ハアハアゼイゼイ言いながら、誰かが階段を駆け上がってきた。グッドタイミングだ。そして、
「結構、きついなあ。こんな坂だらけとは思わなかった。」
その女性、末原恭子が部室に入ってきた。
「石飛先生。もういらしてたんですか?」
「おお、きたか。実は、この最強軍団が早く見たくてな。」
咲は、恭子の姿を見て硬直していた。相手のデータを解析し、対局中も色々と試してくるやりにくい相手。現高校生チャンピオンに唯一、
「次、勝てません。」
と言わせた人間だ。
「おお、宮永。久しぶり。なに、硬直してるん?」
「いえ、あのう…、聞いていなかったもので、驚いてます。」
「久には、話しといたんだけどな。まあ、宮永を驚かせたかったんで、黙っといてくれとは言ったけど。」
「でも、なんでコーチに?」
「お前と出会ったから。それが理由や。」
「私? ですか?」
「そう。自分自身は、こんな化物には敵わないけど、化物と対等に戦える人間を育てることはできる。そう思ってな。それで、姫松の元監督の善野さんに相談したら、いっそのこと清澄に行って化物相手に勉強しろ言われてな。それで、教養課程の校舎が清澄に近いところに進学したんや。偏差値が足りなくて、合格するために結構頑張ったんやで。」
こっちも結構マシンガントークだ。
おとなしい咲には、こっちの人も、ちょっと苦手な雰囲気かも知れない。
「そ…それは、合格おめでとうございます。」
「まあ、いいって。それにしても、まさか前チャンピオンの妹だったとはな。どうりで強いわけだと思ったよ。ただ、その強さをいつも出せるわけやない。むしろ、その点では、みなものほうが勝ってる。」
この言葉に、みなもが自分を指差して、
「私?」
と聞いた。
「そう…。お前がみなもだな。2年間よろしくな。」
「は…はい…。」
「まあ、話を戻すわ。これは怜が言ってたことなんやけどな、咲は平和主義って言うか、あまり相手を叩けない。だから、世界大会のメンバーで練習した時は、あの鬼神のような迫力を出せていなかったそうやな。」
やっぱり話が長い。
まあ、それはさておき、恭子の言うことは当たっている。これには、咲も言い返せなかった。
麻雀を楽しみたいけど、人を不幸にはしたくない。そもそも、プラマイゼロの原点もそこにあった。
「私は、お前には、もっと高いところを目指して欲しい。私なんかには、到底届かないところをな。勿論、これからも、お前みたいな怪物が出てくるだろうし、その選手が育つ手助けをしたい。そう思っとる。」
「べ…別に私は、そんな大それたものじゃ…。」
「謙遜すんなって。2年間、よろしくな、日本の守護神。」
恭子は、握手をしようと笑顔で咲に右手を差し出した。
咲は、オドオドしながら、なんとか恭子の手を握った。やはり、インターハイで刷り込まれた苦手意識が強く出ていた。
新入生のオリエンテーションも終え、麻雀部には、今までにはない大人数が押し寄せてきた。その中には、和と優希の中学時代の後輩、室橋裕子、通称ムロの姿もあった。
清澄高校は、団体戦で夏春連覇。
個人でも咲が夏春連覇。しかも、嶺の上の女王とか日本の守護神とか言われ、世界大会でも活躍した高校生一万人の頂点。
そこに個人2位のみなもが入った。北欧の小さな巨人と言われ、世界で戦っていた超人的プレイヤーだ。しかも、前チャンピオン宮永照と現チャンピオン宮永咲の妹でもある。
さらに、夏の長野県予選個人では、デジタルの化身、原村和が2位、南場の鬼神、数絵が5位。昨年3年生だった福路美穂子と竹井久を除けば、長野県個人1位から3位を占めることになる。
他にも東風の神、片岡優希とか、様々な局面を記憶したプレイヤー、染谷まこもいる。
勿論、受験生は春の大会を見てから志望校を決めるわけではない。それでは、受験に間に合わない。しかし、少なくともインターハイからコクマ(国民麻雀大会)、秋季大会、世界大会の内容はフォローするだろう。
学費が安い公立高校で強い人と切磋琢磨できるなら、ムリに学費が高い私立高校を選ぶ必要はない。当然、安い公立高校を目指す。
その結果、麻雀部での活躍を目指す者達が、一斉に風越女子高校を蹴って、大量に清澄高校に入学してきたのだ。
きっと、まこも活躍の場が超高速時間跳躍ではなく、対局の記憶を利用して勝ち星を多数上げているほうに傾いていれば、
『清澄のAI!』
とか言われて、新入生の尊敬の眼差しを受けていたかもしれない。
同じことが、阿知賀女子学院でも起こっていた。
インターハイ準優勝で、春の大会は3位。春の個人戦は憧が8位入賞と、奈良の歴史を変えた。しかも、チャンピオン宮永咲を苦しめた深山幽谷の化身、高鴨穏乃は、奈良女子中学生麻雀プレイヤーの憧れの的であった。
結果的に、今までなら偏差値70の晩成高校を目指していた者達が、晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に流れてきた。
中高一貫校の阿知賀女子学院は、高校から入学する場合は、一応、偏差値66が必要とされた。玄や穏乃が偏差値66あるとは思えないが…。
ただ、それが、今年は偏差値72を突破した。つまり、阿知賀女子学院には、勉学に優秀な新入生に溢れていた。
逆に晩成は偏差値68に下がったと言われた。
新入生の中に、奈良王者、小走やえの妹、小走ゆいの姿もあった。
清澄高校では、夏の大会に向けて、部員の総当たり戦が繰り広げられていた。
恭子の叱咤激励もあり、咲は、新入生相手でも鬼神のような強さを見せ付けることができるようになってきていた。
「そう言えば、来年は、ここにコピーマシンが入ってくるって聞いたけど?」
恭子がムロに聞いた。
「まあ、合格できればですけどね。」
清澄高校も、受験倍率が一気に上がり、少し偏差値が高くなった。多分、優希が来年の受験だったら受からなかっただろう。
「でも、マホのことを、どうして知ってるんですか?」
「久からの引継事項でな。牌譜も見た。」
「でも、不思議ですね。」
「なにが?」
「末原コーチはデジタルですよね。」
「まあ、一応、凡人なんでな。」
「そんな、凡人だなんて。」
「凡人は凡人だ。咲とか、みなもを見て、自分が非凡と言えるヤツは、天江衣とか荒川憩、それから神代小蒔くらいだろう。他に言う奴がいれば、それは自分のレベルが分からない単なる馬鹿だ。」
この頃、千里山女子高校では、
「ハックション!」
泉がくしゃみしていた。
また、同じ頃、射水総合高校では、
「ハックション!」
寺崎遊月の妹、寺崎弥生が、同様にくしゃみしていた。
「まあ、それはそうですが…。でも、マホの麻雀のことを受け入れているみたいで、不思議に思いました。原村先輩とかは、マホのコピー能力を受け入れられていないみたいですから…。」
「まあ、和は超が付くほどデジタルだから仕方がないだろうな。あそこまで行くと、むしろデジタルが能力になる。ただ、私は、色々理不尽なことを麻雀で経験してきた。その理不尽を産むのが能力だろう。私には、それが無い。でもな、その理不尽さを受け入れて、それにどう立ち向かうかを考えるのが凡人の仕事だと思ってる。それは、ムロにも忘れないでほしい。」
「は…はい…。」
結構、恭子は色々なスタイルに理解があるのだろう。そう言う意味では、人間として奥が深い。
世の中には、自分のやり方を他人に押し付ける視野の狭い年長者が多い。しかし、恭子には多分それがない。そう思うと、ムロは恭子がコーチでいてくれることを喜ばしく感じていた。
部内戦はクライマックスを迎えていた。
1位と2位は、宮永姉妹。3位に大差をつけてのツートップだった。
3位は和、4位は数絵、そこから少し離れて、まこが5位だった。
ただ、優希と栄子も、逆転5位に入れる位置にいた。部内最終戦は、まさに5位を賭けての、まこ、優希、栄子の戦いだった。
麻雀は4人でやる。当然、この5位決定戦に担ぎ出される巡り合わせの悪い人間が1人いることになる。
案の定、その役はムロに割り当てられていた。対戦表で最初から決まっていたことなので仕方のないことだったのだが…。
優希は、東場で稼ぐが南場で毎回失速する。咲やみなもが相手でなければトップも取れるが、苦手な南場で格下にまくられたり、トバされたりすることもあり、得失点の波が非常に大きかった。
まこは、安定した打ち方が特徴だった。ビギナーズラックにやられることはあったが、格下相手に滅多に負けることは無かった。ただ、ダントツトップもあまり取れなかった。
栄子は、守りの麻雀が得意で、新道寺女子高校の花田煌と姫松高校の愛宕洋榎を足したように見えた。
煌は、通常20000点以上削られない特性を持っていたが、栄子は、相手のレベルによって削られる点数が異なっていた。優希、まこのレベルでは10000点削るのが限界、数絵は15000点を削るのが限界、和は18000まで。トバせるのは咲とみなもだけだった。
例えば、咲が東一局で栄子から12000点和了ったとする。そうすると、優希の限界値である10000点を超えるため、これ以上、優希は栄子を削れなくなる。つまり、栄子への直撃どころかツモ和了りもできなくなる。この状態でも数絵は和了れるが、栄子から3000点までしか削ることができないし、和も栄子から満貫を直取りすることができなくなる。そう言った不思議な強制力を持っていた。
その特性ゆえ、秋季の信越大会では、咲が不在の時に代理で打っていたが、10000点にも満たない失点に納まっていたのだ。
洋榎のように、相手の和了り牌を見抜く能力も持っていた。しかし、そこから自分の手を和了り形に持ってゆく力は、まだ発展途上だった。これが確立されると相当な打ち手になるだろう。
結構、閑無と恭子は、今後の栄子の成長に期待していた。
「ツモ! 2000オールじゃ。これで和了り止めじゃ。」
5位決定戦は、まこの勝利で終わった。優希が6位、栄子が1点差で7位になった。
「うーう。まこ部長には敵わないじょ。私の分まで、頑張ってくれだじぇ。」
優希は、負けて悔い無しといった感じだった。
一方の栄子も、自分が7位にいられることを、むしろ喜んでいた。
ムロだけが、この対局で疲弊していた。
この部内戦の成績と、これまでの対外試合の成績を参考にオーダーを決めることになる。これが、監督である閑無とコーチである恭子の仕事だ。しかし、
「これで、レギュラーと補員が決まったな。これから、恭子と私で…。」
閑無が、こう言うかけたところで優希が、
「ちょっとお願いがあるんだじょ。」
と話を割ってきた。
「実は、夏の大会を確実に優勝するため、私も色々と考えたんだじぇ。それが受け入れられるかどうかは分からないけど、一応、聞いてほしいんだじょ。」
優希は、みなもが団体戦に出られるようになった時点で、自分が補員に回される覚悟をしていた。それで、咲、みなも、和、数絵、まこを、どのようにオーダーすればよいか、彼女なりに色々とシミュレーションしていたのだ。優希が頭脳労働したので、きっと明日は雨が降るだろう…などと和は思っていた。
優希の考えたオーダーは、ライバル校となる龍門渕高校や阿知賀女子学院、白糸台高校、臨海女子高校のオーダーも予想した上、さらにマスコミ受けまでも狙ったものだった。
一方、阿知賀女子学院でも、部内戦が繰り広げられていた。
今のところ、レギュラー確実なのは、穏乃、憧、灼、玄の4人。
他の部員で、最後の椅子を巡っての戦いが繰り広げられていた。
「ロン! 8000!」
初瀬が、小走やえの妹、ゆいに満貫を振った。これで、初瀬はラスに転落、逆にゆいはトップに立った。
ラス親は、ゆいだった。
ゆいは、配牌二向聴、ここに絶好のツモが続き、3巡目で聴牌した。しかし、リーチはかけなかった。
2位の下家がリーチをかけてきた。そこに、ゆいが危険牌をツモってきた。
「(やっぱり引いたか。これは捨てられない。でも…。)」
危険牌を取り込み、手を回した。そして、数巡後に別の形で張り直した。しかも、既に一盃口のみとは言え役有りで、和了り牌はリーチをかけた下家のリーチ宣言牌だった。
初瀬は、ゆいの聴牌に気が付かなかった。そして、リーチ者の安牌であるリーチ宣言牌を切った。当然、
「ロン! 1300。」
ゆいが和了った。
これで、レギュラー5人目は、ゆいに決定した。初瀬は補員に回されることになった。
初夏を迎えた。
インターハイに向けて、各都道府県での予選がスタートした。
ルールは、昨年の県予選やインターハイと同じだった。
昨年覇者の清澄高校は、第一シードでAブロックの二回戦からの出場だった。同様に、昨年県予選2位の龍門渕高校も第二シードでBブロックの二回戦からの出場だった。
昨年3位の鶴賀学園と4位の風越女子高校は、一回戦からの出場となった。
大会初日の午後、清澄高校と龍門渕高校が姿を現した。
清澄高校の相手は、城山商業高校、北天神高校、辰己高校だった。
閑無は、中堅まで回さずに優勝する自信に満ちていた。こんな楽な監督業は生まれて初めてだった。
「じゃあ、改めて登録したオーダーを発表する。基本的に優希が発案したオーダーだ。まず、先鋒は和。昨年長野2位、春季大会全国ベスト16の実力なら、先鋒を任されておかしくない。」
「はい。」
すると、優希が、
「マスコミも、いきなり、のどちゃんのおっぱいを見れて安心するじぇ」
と付け加えた。
「次鋒は、みなも。基本的に、みなもまででインターハイ優勝まで決めてこい。」
「はい。」
閑無は、『県予選優勝』ではなく、『インターハイ優勝』と言った。次鋒レベルの選手なら、みなもは、全員余裕でトバすだろうとの考えだった。
「中堅は、まこ。万が一、みなもで終わらなかった場合、一番点数が低いところを狙い打ってシャットアウトしろ。副将まで回したら、お前の負けと思ってくれ。」
「まかせんさい。」
「副将は数絵。ここまで回ってくるとも思えんが…、回ってきた時は、大将まで回さずに終わらせろ。」
「はい。」
「そして、大将は咲。もし回ってきた時は、容赦なく相手を叩き潰せ。」
「はい。」
このオーダーを聞いて、栄子は、
「(多分、中堅まで回らないよね、これ…。普通、次鋒って、レギュラー5人中一番目か二番目に弱い人が多いから…。少なくともエースを配置する高校はないし…。)」
正直、和とみなもの2人だけで優勝するだろうと思っていた。
「補員は、優希と栄子。もしもの時は、頼んだぞ。特に優希。」
「な…なんだじぇい?」
「補員だってメンバーなんだ。久からの伝言だ。ツキの波の管理は忘れるなよ。」
「しょ…承知したじぇい!」
そう答えながらも、優希は、閑無の言いたいところが、十分理解できていなかった。彼女は、その理由を随分先になって理解することになる。
龍門渕高校のオーダーは、先鋒龍門渕透華、次鋒井上純、中堅沢村智紀、副将国広一、大将天江衣と、春季大会のオーダーと同じだった。補員は杉乃歩一人だけだった。
その頃、ムロはロビーに出てマホに電話をかけていた。応援に来ると言っていたのに、なかなか姿を現さないので心配になったのだ。それに、閑無と恭子にも折角なので合わせたい。
と言うか、むしろ閑無が会いたがっていた。
しかし、電話からは、
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません…。」
信じられない電子音声が聞こえてきた。
閑無が恭子を連れて会場から出てきた。
「ムロ。例のヤツは、どうだ? あのコピーっこ。」
「それが、スマホが繋がらないんです。」
「電池切れか何かか?」
「いえ、『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』って…。」
「家電は?」
「これからかけます。」
ムロがマホの家に電話をかけた。すると、マホの母親が出た。
「室橋ですけど、マホはいますか?」
「あら、ムロちゃん。久しぶり。実はね、マホはドイツに麻雀留学してるのよ。」
「えっ? 留学ですか?」
「うん。そうなの。」
「いつからですか?」
「一週間前からよ。なんか、みんなには内緒にして欲しいって言ってたけど、本当にムロちゃんにも言ってなかったのね。」
「でも、なんでマホが突然留学を?」
「ほら、今、清澄高校にみなもちゃんがいるでしょ。そのみなもちゃんのコーチをしていたって人が家に来てね…。」
一応、和や優希から、みなもの過去のことを聞いていた。どうやら、みなもの過去の関係者…ヤバイ人間とマホの留学はリンクしていそうだ。
「…そうですか。では、失礼します。」
スマホを切ったムロは、青ざめていた。マホは、ニーマンに連れ去られたに違いない。
「あのう、監督。」
「なんだ?」
「マホが、ドイツに行ったみたいです。」
「マジか?」
「はい。私達に内緒で…。それも、みなも先輩の過去に関係する人のところのようなんです。」
閑無は、頭を抱えた。和も優希もみなもも、これを知ればショックを受ける。
「このことは、県大個人戦が終わるまでは他言しないでくれ。」
「はい…。」
「ただ、念のため協会側には連絡を入れておく。」
閑無は、急いで慕とはやりに連絡を入れた。
この頃、和が対局室に姿を現した。
「わしまで回るかのう?」
まこが呟いた。
次の瞬間、
「試合終了! 清澄高校次鋒、宮永みなも。3校同時トバしで優勝を決めたー!」
大会二日目の決勝戦まで終わっていた。超高速時間跳躍が発動したのだ。
決勝戦は、和との戦いを意識してか、冷たい透華は発動しなかった。鶴賀学園の先鋒は昨年と同じ津山睦月、風越女子高校の先鋒は吉留未春。普通に、和が1位、透華が2位、未春が3位、睦月が4位だった。
しかし、次鋒戦、純は、みなもを相手に色々仕掛けたが、みなもは、そんなのお構いなしで和了り続けた。鶴賀学園の次鋒は昨年と睦月のクラスメート、風越女子高校の次鋒は文堂星夏。どちらも、みなもを相手にするには、役者不足だった。
衣は、自分まで回ってこないで終了し、唖然としていた。
「団体戦では、麻雀を楽しめなかったぞ。今年は、衣も個人戦に出る。咲とみなもと対決するんだ!」
個人戦は、昨年のインターハイ出場枠は3名だったが、今年は6名に増やされた。
理由は簡単だった。まず、昨年長野から個人戦出場した3人が、インターハイ個人戦で活躍し、全員がベスト16に入っていた。しかも、優勝者まで出ていた。
団体戦では、清澄高校が優勝し、長野のレベルの高さを世間に知らしめた。
さらに春季大会では優勝と準優勝校がともに長野県の高校であった。そして、個人戦でも1位から4位を長野県勢が独占し、魔境長野の言葉が浸透した。加えて、和と数絵も個人戦でベスト16に入っていた。
6名枠でも少ないのではとの意見もあったが、人口バランスを考えると、これが限界だったようだ。
一週間後、個人戦が行われた。
まず、南北に分かれて東風戦でスイスドロー式の予選が行われた。強い者同士が潰し合わないようにAIを導入して巧く対戦表を作っていた。また、極力同じ高校同士の選手が当らないような配慮もされた。
各校8名まで参加が許され、清澄高校からは、咲、みなも、和、数絵、まこ、優希、栄子、ムロが出場し、ムロ以外は二日目の本戦出場を決めた。
龍門渕高校からは、衣、透華、純、智紀、一の5人が出場した。歩は辞退した。5人とも予選を勝ち抜き、二日目の本戦出場を決めた。
鶴賀学園は、睦月、佳織、大将の東横桃子の3人が本戦出場となった。
ちなみに、団体戦は、睦月と佳織のクラスメートが入ってくれて、なんとか出られるようになった。ただ、部員は相変わらずギリギリの5名だった。これで夏の大会が終わると、麻雀部員は桃子1人になってしまう。まさに最後の戦いだった。
風越女子高校は未春と大将の池田華菜が本戦出場となった。
個人戦本戦も、強い選手同士が潰し合わないようにAIで巧く対戦表を作っていた。そのため、咲、みなも、衣の直接対決は無かった。
結果は、優勝咲、2位衣、3位みなも、4位和、5位数絵、6位桃子で、この6名が全国大会出場となった。透華は7位で全国出場を逃した。冷たい透華が発動しなかったのだから仕方がないだろう。
衣は、咲やみなもとの戦いが先送りになり、不完全燃焼だった。当然、残念がっていたが、全国の舞台で2人を倒すことを胸に誓った。
超高速時間跳躍は一先ず、ここまでとなった。
大会翌日、閑無のところに電話がかかってきた。慕からだ。
「閑無。例の件だけど。」
「なにか分かったか?」
「関係者以外他言無用でお願いね。」
「ってことは、もしかして。」
「うん。私のお母さんとか、みなもちゃんと同じだった。まあ、お母さんは、あの時30歳を越えていたから、例の対局には出ていなかったけどね。」
「やっぱり、ニーマンの魔法に?」
「そうみたい。熊倉さんのほうでも、つてを使って調べてくれて、映像コピーが入手できた。見てみたけど…とんでもないね、あの子。」
「麻雀がか?」
「うん。あれじゃ、誰も勝てない…。ニーマンも、すごい教育をしたよ。私も、あの子に勝てる自信がない。」
「そんなに凄いのか?」
「うん…。映像は、熊倉さんが閑無のところに直接持っていくって。」
「そうか。」
「マホちゃんには、会ったことある?」
「いや、私は無い。」
「そっか…。映像コピーをくれた人の話では、地下麻雀の会員達は、凄くフィーバーしてるみたい。」
「フィーバー? なんでだ?」
「映像を見れば分かるよ。それと、恭子ちゃんのほうは?」
「コーチ…と言うか、参謀だな。よくやってくれている。」
「恭子ちゃんにも、事情を話してくれるかな。多分、来年の世界大会は、彼女の力も借りることになる。」
「分かった。」
「じゃあ、また、なにか分かったら連絡するね。」
「おお、ありがとうな。」
「うん。じゃあ。」
長野の誇る麻雀コピーマシン、夢乃マホ。その力は、優希、和、咲、久の打ち筋までも正確に再現する。
それが、昨年のインターハイの観戦を通じて、さらに多くのバリエーションを得ているだろう。永水女子高校や宮守女子高校、白糸台高校、阿知賀女子学院、有珠山高校など、まさに能力者達の見本市であった。
今では、日本以外の選手の活躍も見ていることだろう。
ニーマン傘下では、このマホを中心に、ことが動き始めていた。
ラスボスは、マホですかね。
恭子は出す予定でおりました。ただ、閑無は勢いで出しました。