※この作品はR-18です。

みなも-Minamo-   作:おこそとのほもよろを

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第二局:魔物の協奏、救われた華菜

 高校生麻雀世界大会は、日本チームの優勝で幕を閉じた。

 区間賞は、先鋒が宮永照、大将はドイツチームのミナモ・A・ニーマンが受賞した。また、大会MVPは、奇跡の逆転優勝を決めた宮永咲が受賞した。

 ミナモは、日本を飛び立ってからの7年間の状況をイーヴリンから説明された。その内容は、たしかに自分の記憶と合致していた。魔法がかかっていた間のことを、ミナモは思い出していたのだ。

 一先ず、ミナモはイーヴリンを信じてドイツに戻った。

 

 日本では、信越地区の秋季大会が世界大会終了後に行われることになっていた。

 県大会は世界大会前に行われており、咲が所属する清澄高校麻雀部と、衣が所属する龍門渕高校麻雀部は、既に信越大会への出場を決めていた。

 信越大会は、長野県、新潟県、富山県、石川県、福井県の5県の代表校によって2日間に渡って行われる。1日目が一回戦と準決勝戦、2日目が決勝戦である。

 信越5県のうち4県は、3校が代表校として選ばれ、信越大会に出場する。直前の夏のインターハイで県代表校が最も優秀な成績を収めた1県のみ4校が信越大会に出場することになる。

 インターハイでは、新潟県、富山県、石川県、福井県の4県の代表校は準決勝に残っておらず、この時点で長野県が信越大会に4校出場することが決まっていた。

 

 秋季大会の各地区上位校が、春季の全国大会団体戦に出場する。信越地区からは、決勝戦での上位3校が春季全国大会に出場することになる。

 また、春季大会の個人戦は、春季団体戦メンバーと捕員のみが参加を許される。

 2年前、東京都の秋季大会が世界大会終了後に行われたが、宮永照が帰国する前日に航空機トラブルがあり、宮永照の帰国が遅れた。そのため、白糸台高校は秋季大会を初戦敗退し、春季の全国大会には出られなかった。

 当然、宮永照は春季の全国個人戦にも出られなくなった。それで、宮永照の個人戦優勝は2年生のインターハイと春季大会のみとなった。

 

 今回の世界大会メンバーのうち、1年生の宮永咲と、2年生の天江衣、荒川憩の3人が秋季大会に出場する。

 世界大会終了翌日の成田直行便で帰国し、そのまま成田から東京に移動して、翌朝には咲と衣は信越地区大会会場のある新潟に、憩は大阪に向けて出発するはずだった。

 ところが、一度あることは二度あるとの言葉どおり、ボストンから日本への直行便にトラブルがあり、出発が1日遅れることになった。

 

 龍門渕高校は、衣に代わって補員の杉乃歩がメンバーとして参加した。歩は、自分のせいで敗退することを恐れていたが、歩に回す前に他のメンバーが一回戦、準決勝戦ともに他校を飛ばし、危なげなく決勝進出を決めていた。

 一方、清澄高校は、2年染谷まこ、1年片岡優希、1年原村和、転校生の1年南浦数絵、そして咲のクラスメートで補員の園田栄子の5人で一回戦、準決勝戦を勝ち抜いた。

 栄子の入部は、テレビで見たインターハイがきっかけだった。インターハイでの咲の活躍が栄子には衝撃的だったのだ。そして、咲への憧れから夏休みが明けると同時に麻雀部に入部した。一方の咲は、栄子に特殊な何かを感じていた。

 同じ学年の優希、和、数絵が活躍する中、二試合とも栄子だけがマイナスだった。

 どちらも1万点にも満たない失点であり、他のメンバーは、特段問題視していなかったが、栄子自身は不甲斐ない気持ちでいっぱいだった。

 ただ、余りにも栄子が落ち込んでいたので、

 「インターハイ県予選決勝の染谷先輩とか、インターハイ決勝のノドちゃんのほうが、よっぽどマイナスだったじぇい。」

 と優希が励ましたりしていた。

 

 信越大会初日の夜に、咲と衣は宿に着いた。

 決勝進出校は、清澄高校、龍門渕高校、風越女子高校、そして射水総合高校の4校だった。4校のうち3校が長野県代表校であったことから、如何に長野県が激戦区であったかが伺えた。

 長野県のもう一つの代表校である鶴賀学園は、残念ながら準決勝で敗退した。

 

 咲と衣は大将戦に出場した。

 大将戦が始まった時点で、既に清澄高校と龍門渕高校が、他の2校を引き離していた。

 風越女子高校の大将は池田華菜、射水総合高校の大将は、インターハイで先鋒を務めた寺崎遊月の妹、1年生の寺崎弥生だった。

 

 大将戦起家は射水総合高校。

 各校の点数は、

 東家:射水総合高校  87900

 南家:風越女子高校 18700

 西家:清澄高校 153300

 北家:龍門渕高校 140100

 既に信越地区代表3校が決まったといっても良い状態だった。

 

 弥生は、インターハイの少し前から、ある能力に目覚めた。しかし、インターハイでは団体戦メンバーに選ばれていなかった。それどころか、補員にすら入っていなかった。

 団体戦メンバーも補員も県予選前に登録するため、その時点での成績で弥生は篩にかけられていた。能力開花は、メンバー登録の後だったのだ。

 でも、今は違う。2年生の時にインターハイ個人戦で15位になった姉、遊月よりも確実に強い。

 今では、魔物と称される宮永咲や天江衣を超える力が備わっていると自負していたし、それだけに、咲や衣が世界大会で活躍したのが気に入らなかった。当然、同じ学年である咲が世界大会のMVPに輝いたことも、弥生としては面白くなかった。

 「(あの場に立っていたのは自分だったかもしれないのに…。)」

 との思いが強かったのだ。

 そういった気持ちがあるからか、弥生は咲達を挑発した。

 「もう代表3校は決まったものね。まあ、今回は私が逆転優勝する前に、どこかが飛んじゃうから3位なのはしょうがないけど、全国では私が優勝して見せるから…。」

 「華菜ちゃんだって、ここから逆転するし。」

 口だけなら華菜も負けなかった。

 一方、衣はキョトンとした顔をしていた。

 「奇なことを云う。衣には、そなたが衣や咲を凌駕するだけの力があるようには、到底思えぬが…。」

 「まあ、衣ちゃんも池田さんも、ええと、射水総合の人も麻雀を楽しもうよ。」

 咲は、作り笑いをしながら言った。

 ところが、弥生の目には、これが余裕のようにしか映らない。しかも、名前も覚えてもらえていないらしい。

 「ふん。」

 弥生は、敵意をむき出しにしてサイを回した。

 ドラ表示牌は{③}。

 

 本大会ルールは、世界大会と似ていた。赤牌ありで、ダブル役満以上の和了りも認められていた。しかし、単一役満でのダブル役満は認められておらず、複合役満になっている必要があった。

 また、大明槓からの嶺上開花に対する責任払いは適用されなかったが、役満に対する包は適用された。

 ただ、頭ハネはなく、ダブロン(二家和)、トリロン(三家和)が認められていた。これは、インターハイでも世界大会でも適用されていなかったルールだった。

 

 6巡目に、華菜が聴牌した。

 「リーチだし!」

 打{1}で先制リーチをかけた。華菜の手牌は、

 {三三三[五]五五⑧⑧34[5]67}

 

 この時、咲の手牌は、

 {一一一①②②②③11西西西}

 {8}ツモで打{①}。

 華菜の危険牌を察知して{8}を止めたのだが、他にも何かを感じているようだった。

 

 衣の手牌は、

 {④⑤[⑤]679北北白白發發發}

 {白}ツモで打{9}。

 

 そして、弥生の手牌は、

 {一三四五六七九九③④345}

 平和三色同順の一向聴。一応、一気通関の目もある。

 {八}ツモ。

 彼女は、聴牌すると、壁牌にある自分の和了り牌の場所が分かる。これが、インターハイの少し前に開花した能力だった。

 ただ、全ての和了り牌の位置が分かるわけではない。常にツモ牌に近い壁牌の2枚の和了牌しか見えない。

 それでも、1枚目を見送れば、2枚目と3枚目が見られるようになるわけだし、ロン牌を見逃しても、次にツモれることが分かれば、戦略的に見逃すことも出来る。和了り牌が見えなければ壁牌にはなく、誰かが持っていることになるし、それならば下手にリーチをかけすにダマで待ったほうが良い。

 衣からすれば、

 「衣のほうが、支配力が遥かに上だ! 大したことは無い!」

 と言いたいところだろう。

 一巡先が見える園城寺怜からも、

 「うちなら十分回避できるわ!」

 と言われそうである。

 しかし、世の中一般の非能力者からすれば、アドバンテージがあるだろう。

 射水総合高校には能力者がいなかった。つまり、自分以上の怪物はいなかったのだ。それで、弥生は自分を過信した。咲や衣のような魔物と称される者達の本当の力を知らなかったのだ。

 次の華菜のツモ牌は{⑤}。弥生の1枚目の和了り牌だった。

 2枚目の和了り牌は、3巡後に自分のツモ牌の{⑤}。

 ここで、打{一}でリーチをかければ、リーチ一発平和三色同順赤1の18000点で風越を飛ばして3位確定。春季大会にコマを進められる。

 当然、弥生は打一でリーチをかけた。

 すると、

 「カン!」

 咲が仕掛けてきた。大明槓だ。

 「(この射水総合の人。山を意味無く見ていた。多分、昔の私が槓財を見てしまうのと同じで、無意識に山を見ている。)」

 かつて、咲が久に指摘されたことだった。それで、咲は、なにかあると思い、槓でツモ順をずらした。そして、嶺上牌を引くと、

 「もいっこ、カン!」

 連槓で{②}を暗槓した。弥生の待ち牌が一気に4枚潰された。

 嶺上牌は{1}。

 槓ドラ表示牌は{二}と{中}。

 そして、咲は、衣の顔を見ながら打{③}。

 衣は、咲が何かを言いたいのだろうとは思った。しかし、それが何なのかまでは分からなかった。

 ただ、これをチーして聴牌したら、弥生の和了り牌である{⑤}を捨てることになる。

 「(鳴いちゃダメだよ、衣ちゃん!)」

 ふと、衣の頭の中に咲の声が聞こえたような気がした。

 別にテレパシーを送信したわけでも受信したわけでもなかったが、なんとなく、そんな感じがした。

 「(知れたこと!)」

 衣は、鳴かずに牌をツモった。

 すると、ツモ牌は{[⑤]}。

 「(なるほど。咲が衣に言いたかったのは、これか!)」

 そして、打{④}。衣は弥生の和了り牌を取り込んだ。

 

 次は、弥生のツモ番。

 何か嫌な感じがする。

 ツモ牌は{8}だった。自分の和了り牌でない。

 リーチをかけているので、仕方なく、そのままツモ切りした。

 すると、

 「ロンだし!」

 華菜が威勢良く牌を倒した。

 しかし、牌を倒したのは下家の華菜だけではなかった。上家も対面も牌を倒していた。

 「今大会ルールでは、二家和も三家和もありだったな。ならば、衣もロンだ!」

 「私もロンです。」

 華菜が裏ドラを見た。

 裏表示牌は{2}、槓裏表示牌は{四}と{⑦}。

 「リーチタンヤオ、ドラ11の数え役満だし!」

 「衣は白發三暗刻ドラ5の倍満、16000だ!」

 「私は、西対々三暗刻の8000点です。」

 リーチ棒を含め、一気に57000点を失った。弥生は、顔面から一気に血の気が引いてゆくのが分かった。

 

 これを風越女子高校控室のモニターで見ていた久保貴子コーチは、急に安堵の表情を見せた。弥生の牌譜を調べていた彼女は、華菜がリーチをかけた瞬間にトビ終了、敗退が決定したと思ったのだ。

「池田…。魔物二人の連携に助けられたな。どうやら、天江と宮永は、友情からか、お前を助けたいらしい。とはいえ…、後で説教だな。」

 

 リーチ棒は上家取り。よって、各校点数は、

 東家:風越女子高校 51700

 南家:清澄高校 161300

 西家:龍門渕高校 156100

 北家:射水総合高校  30900

 

 動揺する弥生を、衣が一気に攻める。

 「ロン! 16000。」

 これで龍門渕高校が暫定1位になった。

 「これで池田と衣が32000点ずつ、咲が8000点の和了りだな。どうだ、咲。より多く点を取ったほうが、獲得点差を1000で割った時間だけ、獲得点数の少ないほうを自由に出来るってのは?」

 「ちょっと良く分からないんだけど…。」

 「つまり、今、衣は32000点取った。咲は8000点だ。獲得点差は24000点だから、その千分の一の時間、つまり24時間だけ衣が咲を自由にできると言うことだ。」

 「分かった。じゃあ、衣ちゃん、覚悟してね!」

 「ちゃんではなく…。」

 咲と衣が、ふざけた会話をしていた。弥生には、非常に腹立たしかったが、それ以上に、弥生の中では、焦る気持ちのほうが強かった。さっきまでの華菜と完全に立場が逆転したのだから当然だろう。

 そこに、この咲と衣の会話だ。弥生の心は、完全に平静を失っていた。

 

 各校点数は、

 東家:清澄高校 161300

 南家:龍門渕高校 172100

 西家:射水総合高校  14900

 北家:風越女子高校 51700

 

 最悪の精神コンディションの中、弥生は、なんとか一向聴まで持っていった。

 {三四五①③[⑤]22345[5]6}

 対面の咲は、{中}をポンしていた。

 ここで、弥生のツモは{④}。両嵌のうち、彼女にとって都合の良いと思われる方が入ってきた。

 ドラは{2}。平和タンヤオ三色同順ドラ2赤2の倍満手。

 これが、不幸への道などとは思えない。まだ、ツキに見放されていないと信じ、当然のように{①}を切って勝負に出た。

 しかし、これを「待ってました」とばかりに清澄の魔物が鳴いた。

 「カン!」

 大明槓。そして、

 「もいっこ、カン!」

 嶺上牌の中をそのまま加槓した。さらに、

 「もいっこ、カン!」

 白を暗槓。続いて、

 「もいっこ、カン!」

 發も暗槓した。そして、咲は、当たり前のように次の嶺上牌を表にして自分の前に静かに置いた。

 「ツモ、嶺上開花。大三元四槓子。ともに射水総合の包で、96000点です。」

 咲が和了った。

 

 各校点数は、

 1位:清澄高校 257300

 2位:龍門渕高校 172100

 3位:風越女子高校 51700

 4位:射水総合高校  -81100

 

 「きーまったー!」

 アナウンサーの声が会場いっぱいに響き渡った。そして、それを追いかけるように高々とブザーの音が鳴り響いた。

 14900点しかないところに96000点のオーバーキル。大将前半戦東三局で射水総合高校のトビで試合は終了した。

 弥生にとって、魔物と普通の能力者の歴然とした差を思い知らされた瞬間だった。

 これで、信越地区の代表3校は、清澄高校、龍門渕高校、風越女子高校と、長野県勢が独占することになった。

 「じゃあ、私の和了り点は合計104000点で、ここから衣ちゃんの和了り点の32000点を引いたら72000点だから、72時間か。丸3日、衣ちゃんを自由に出来るんだね。何してもらおうかなぁ。」

 衣の額に、どっと冷や汗が流れ出てきた。




みなもを主人公にするつもりなのですが、ここでは、咲が主人公でした。
次も咲の回の予定です。

みなもの出番は、もう少し先になりそうです。
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