団体戦は、清澄高校の三連覇で幕を閉じた。2位は、昨年と同じで阿知賀女子学院、3位も昨年と同じで白糸台高校だった。
姫松高校は4位だったが、3年ぶりにベスト4に入り、一応常連校の面目は保てたと言える。決勝戦では大敗だったが…。
表彰式が行われた。
最後に姫松高校をトバして、まこはハイになっていた。トロフィーを受け取った時の表情も、春季大会とは違って達成感に溢れていた。
優秀賞は、神代小蒔、高鴨穏乃、多星淡が受賞した。
そして、最優秀選手には、みなもが輝いた。
今回、咲の名は出なかったが、一回も団体戦の出番が回ってこなかったのだから、仕方がなかった。それだけ、みなもが凄かった。
咲と数絵は、金メダルをかけられて、
「「ねえ、これって、私たち貰ってもイイのかな?」」
と、春季大会の栄子と同じ状況になっていた。
勿論、栄子もメダルを胸に、
「これで2つ目(春季大会の分とあわせて)だけど、本当にイイのかな?」
と声に出していた。
また、今大会では、特別賞が用意され、優希が受賞した。決勝戦で大活躍し、昨年と同様に天和を和了ったのは衝撃的だった。恐らく、優希が高校を卒業した後は、天和を出した選手に『片岡賞』とかが与えられるかもしれない。
そういう意味では、再来年以降、咲の卒業後に四槓子を和了った選手には『宮永咲賞』が与えられるようになるだろう。
団体戦終了から1日置いて、個人戦がスタートした。
予選は、スイスドロー式で各都道府県代表者が対戦した。半荘十回戦で、上位16名が決勝リーグに進出する。
強い者達と打てずに欲求不満が溜まっていた衣は、容赦なく対戦相手をトバし続けた。
結局、予選リーグは、
予選1位:天江衣
予選2位:宮永咲
予選3位:宮永みなも
予選4位:荒川憩
予選5位:神代小蒔
予選6位:大星淡
予選7位:石戸明星
予選8位:原村和
予選9位:鷺森灼
予選10位:多治比真祐子
予選11位:高鴨穏乃
予選12位:愛宕絹恵
予選13位:東横桃子
予選14位:寺崎弥生
予選15位:新子憧
予選16位:南浦数絵
の16名が進出した。特に長野勢は凄まじく、県代表の6人全員が入った。
惜しくも16位以内に入れなかった者達は、
鶴田姫子17位、十曽湧18位、真屋由暉子19位、上重漫20位、多治比麻里香21位、船久保浩子22位、森垣友香23位、亦野誠子24位と言ったところだった。
「うちが西日本高2最強のはずやのに…。」
泉は30位にも入っていなかった。多分、春季には16位以内に入れると思うが…。
西日本の高2選手では、11位の穏乃と15位の憧が決勝トーナメントに出場していたし、高1選手としては明星が7位の快挙を成し遂げていた。
「もう、近畿…はダメか。大阪高2最強を名乗ろうかな…。」
この辺の切り替えは、泉らしかった。精神面はタフと言えよう。
翌日、決勝トーナメント直前に咲は電話を受けていた。
彼女がスマホで話をしているのは珍しかった。そもそも、電話で話をする相手が少ないタイプだった。
「…でも、そんなこと…。」
「やってほしい。ぜひ頼んだよ。」
「わ…わかりました…。」
咲が電話を切った。
一旦、咲は目を瞑った。そして、再び彼女が目を開いた時、その表情からは感情が消え去り、まるで無機的とも言える冷たい目をしていた。それは、照、みなも、アイ・アークタンダーを相手に自身の点数を全局プラマイゼロに調整し、しかも、数局打った後の全員の合計点を平たくすると言う脅威の支配力を見せていた時のような雰囲気を全身にまとっていた。
16位以内の選手は、ここから特に抽選等を行うことはなく、トーナメント表のシード振り分けの方法に沿って順に選手が貼り付けられた。つまり、
A卓は、1位天江衣、8位原村和、9位鷺森灼、16位南浦数絵
B卓は、4位荒川憩、5位神代小蒔、12位愛宕絹恵、13位東横桃子
C卓は、3位宮永みなも、6位大星淡、11位高鴨穏乃、14位寺崎弥生、
D卓は、2位宮永咲、7位石戸明星、10位多治比真祐子、15位新子憧
となった。
A卓の上位2名とB卓の上位2名が準決勝戦を、C卓の上位2名とD卓の上位2名が準決勝戦をそれぞれ行い、その各卓の上位2名ずつが決勝戦に進む。なお、各卓の下位2名同士で5位決定戦も行われる。
また、A卓の下位2名とB卓の下位2名が戦い、9位決定戦に進む2名を決める。C卓の下位2名とD卓の下位2名でも、同様に9位決定戦に進む2名を決める。そして、残る4名で13位決定戦が行われる。
これにより、1位から16位までを正式に決めることになる。
また、一回戦は半荘1回だが、準決勝戦と決勝戦は半荘2回で行なわれる。
同点の場合の取決めは、春季大会のルールと同じだった。つまり、一回戦では100点棒まで数えて同点だった場合、席順で順位を決める。二回戦では、25000点持ち30000点返しで、オカまで入れて100点棒を五捨六入で計算する。1000点を1として計算し、前半戦と後半戦のトータルで決めるが、同点だった場合は、後半戦の席順で決める。決勝戦は、前半戦と後半戦のトータルで決めるところまでは準決勝戦と同じだが、同点だった場合は、同じ順位とする。つまり、1位が2人とか、2位が2人とかが有り得る。
一回戦A卓は、強い相手との戦いに飢えた衣が大暴れだった。
起家が灼、南家が衣、西家が和、北家は数絵だった。長野勢6名中、3名が戦う場となったのは、長野県民にとっては不幸だった。
東一局は、いきなり衣支配による一向聴地獄により、誰も聴牌できず、最後の1巡で、
「リーチ!」
衣がツモ切りリーチをかけてきた。そして、
「リーチ一発ツモ海底撈月チャンタ三色ドラ3。6000、12000。」
三倍満を和了った。
続く東二局、衣の親。
東場に弱い数絵が、
「ロン! 12000。」
あっと言う間に衣に振り込んだ。数絵も、以前に比べれば東場でのガードが強くなっていたが、衣は、その遥か上をいっていたと言うことだろう。
そして、東二局一本場、ここも、
「ポン!」
衣が早い鳴きで仕掛けてきた。そして、数絵の捨て牌を、
「ロン! 8000。」
直撃した。これで、数絵のトビで終了した。この衣の超スピードは、それだけ欲求不満が溜まっていることの現れでもあった。
起家で親かぶりを受けた灼が3位、和は、何もせずに2位になった。
一回戦B卓は、順当に憩と小蒔が勝ち進んだ。神の力を前にして、絹恵は漏らしかけたが、なんとか踏みとどまった。これ以上の事故はマズイと、監督の郁乃から紙オムツ着用を命じられていたのは、あまり知られていなかった。
みなものいる一回戦C卓だが、みなも、淡、穏乃、弥生と、唯一2年生のみで行われる試合となった。
起家は弥生、南家は淡、西家は穏乃、北家はみなもだった。
東一局は、淡が絶対安全圏で弥生、穏乃、みなもの配牌を5~6向聴とし、5巡目の弥生の捨て牌を、
「ロン! 5200。」
淡が和了った。
東二局、淡の親番。ここも淡は、絶対安全圏で弥生、穏乃、みなもの配牌を5~6向聴とした。しかし、ダブルリーチはかけなかった。みなもの様子を見るほうが大事と考えていたからだ。
「ロン。タンヤオドラ3。8000。」
みなもは、弥生から満貫を和了った。
東三局、穏乃の親。ドラ{九}。
この局は、
「ポン。」
いきなり、みなもが鳴いてきた。みなもは、自分の手牌の中で、唯一対子だった{發}を鳴いて晒した。
そして、
「ツモ。發チャンタドラ2。2000、3900。」
ドラ単騎だった。強引な和了りだ。
東四局、みなもの親番。
この局が始まった時、みなもは、僅かに卓を囲む空気全体に靄がかかっているのを感じた。ただ、長野で生まれ、小学校3年まで長野で育ったみなもには、この程度の靄は、なんでもなかった。
ただ、その原因となる穏乃の力を見定めるため、みなもは様子を見ることにした。
この時、持ち点が10000点を切りダンラスだった弥生は、酷く焦っていた。そして、なんとか聴牌したが、和了り牌が見えなかった。
弥生は、聴牌すると、壁牌にある自分の和了り牌の場所が分かる能力を持っていた。ただ、全ての和了り牌の位置が分かるわけではなく、常にツモ牌に近い壁牌の2枚の和了り牌しか見えなかった。それでも、1枚目を見送れば、2枚目と3枚目が見られるようになる。
ロン牌を見逃しても、次にツモれることが分かっていれば、戦略的に見逃すことも出来る。和了り牌が見えなければ壁牌にはなく、誰かが持っていることになる。それならば下手にリーチをかけすにダマで待つことも考える。
ただ、今回の場合、少し様子が違った。壁牌に靄がかかって見えないのだ。
弥生は、一先ず聴牌に取った。しかし、
「ロン。3900。」
穏乃…靄の原因…深山幽谷の化身に振り込んだ。
南一局、弥生の親。
淡の絶対安全圏の効力が薄れてきた。穏乃の支配のほうが上回ってきたのだ。
弥生は、このような経験は初めてだった。秋季信越大会では、咲と衣にしてやられたが、その2人以外ならば楽勝と思っていた。しかし、淡の絶対安全圏に振り回された挙句、今度は牌が見えない。
しかも、その2人よりも稼いでいる魔物もいる。弥生は、ここに来て世の中の広さを痛感した。
「ツモ。タンピンツモドラ1。1300、2600。」
穏乃がツモ和了した。これで、穏乃が淡を逆転した。
みなもは、ここまでの動きを見て、穏乃の能力は、まだこの段階では自分を抑え切るものではないと踏んだ。むしろ、弥生と淡の視界を狭めてくれてラッキーと思っていた。
そして、もう少しリードを広げるため、攻めに出ることにした。
南二局、淡の親番。
もはや弥生は、正常な打ち方ができなくなっていた。持ち点が3300点まで落ち込み、トビ寸前で焦る気持ちが強く出ていたためだ。
しかも、何故か他人の捨て牌が靄で隠れて良く見えない。それが、余計に彼女の焦りに拍車をかけた。
「ポン!」
弥生が、みなもに{中}を鳴かせた。しかも、鳴かれてから気付いたが、それはドラだったのだ。完全に弥生の初歩的ミスだが、彼女は、靄のせいでドラ表示牌まで見えなくなっていた。そして、
「ツモ。中ドラ3。2000、3900。」
みなもが和了った。
この段階での4人の点数は、
暫定1位:宮永みなも 47500
暫定2位:高鴨穏乃 28200
暫定3位:大星淡 23000
暫定4位:寺崎弥生 1300
弥生がトビ寸前だった。
淡と穏乃の点差は5200点。淡は、面前3翻の手、すなわち5200点を出和了りすれば席順で穏乃を上回るし、ツモれば穏乃を逆転する。
5200点の出所が弥生なら、その段階でトビ終了の2位抜けになる。
淡は、ここで絶対安全圏を取り下げ、ダブルリーチの能力に自分のエネルギーを集中した。そして、赤ドラ1枚入りの配牌聴牌を手に入れた。
「リーチ!」
槓裏は必要ない。和了れば良いだけだ。しかし、なかなか和了り牌が出てこない。やはり、穏乃の支配が強いのだろう。
そして、とうとう、その時が来た。弥生が捨てた牌を、
「ロン。11600。」
穏乃が和了った。
これで、1位はみなも、2位抜けは穏乃に決まった。
一方、一回戦D卓は、最初から不穏な空気に包まれていた。
「(電話の人から、石戸さんに麻雀を楽しませるように言われてたんだっけ。たしかに、気に入らないモノをつけてるね。あれで1年生って、ナニソレ? 反則だよ。それで綺麗で巫女でって、ふざけてる。多治比さんは、いつものメニューでいっか。新子さんは、みなもの友達だから二回戦に上げなきゃね。多治比さんも新子さんも美人で都会的で羨ましい…。だからこそ女性の敵認定してるんだけどね…。)」
長野最強の魔物が、その心の闇で場の空気を真っ黒に染めていた。ターゲットは明星。その若き巫女は、とんでもない者に目をつけられた。
ただ、咲は、電話を切ってからずっと無表情だった、今でもそうだ。ガンを飛ばしているわけでもなかった。そのため、明星はターゲットにされていることに気が付かなかった。
起家は真祐子、南家に明星、西家は咲、北家が憧だった。
東一局、いきなり明星が、
「リーチ一発ツモ混一混老七対ドラ2。8000、16000。」
数え役満を和了った。混老七対子を25符3翻で数えるルールのため、これは数え役満として認められたのだ。いきなり大量リードを得た。
ただ、明星は、慌てて胸で牌を倒してしまった。去年の霞と同じだった。血は争えない。ただ、これが咲を目の前にしてやってはいけないことだと言う認識が不足していた。
「(ふーん。やっぱり、ふざけてるね。それをやったから、去年、コーチに槓ドラプレゼントして、まくらせたんだよ、明星ちゃん。)」
霞と同じことをやった明星に対して、咲の怒りがマックス状態になった。ただ、顔には一切出ていなかった。
東二局、明星の親。
7巡目、明星のツモ番。{①}か{1}のどちらかを切って混老七対子を聴牌するところ。どちらも初牌だが、明星は、ここで{①}を切った。すると、咲が、
「カン。」
落ち着いた声で大明槓した。そして、
「もいっこカン。もいっこカン。ツモ。嶺上開花。」
そのまま全く表情を変えず、まるで作業のように和了った。開かれた手は、
{1⑤[⑤][⑤]} 暗槓{裏五[五]裏} 暗槓{裏5[5]裏} 明槓{横①①①①} ツモ{1}
対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤4。32000です。」
明星は、どっちを切っても役満振込みだった。
東三局、咲の親番。今までにないプレッシャーが明星、憧、真祐子を襲った。
7巡目、明星のツモ番。彼女の手牌は、
{一東東南南西西北白白發發中} ツモ{中}
{一}か{北}を切れば聴牌。当然、大七星を狙う。しかし、{一}を切ると咲が、
「カン。」
またしても鳴いた。大明槓だ。嫌な予感しかしない。
「もいっこカン。もいっこカン。ツモ。嶺上開花。」
またもや、無表情なまま咲が和了った。ただ、何故か迫力はあった。
開かれた手は、
{五北北北} 暗槓{裏二二裏} 暗槓{裏三三裏} 明槓{横一一一一} ツモ{[五]}
「混一対々三暗刻三槓子嶺上開花赤1。24000です。」
1翻足りずに倍満だった。これで、明星の持ち点は、2000点になった。
東三局一本場、咲の連荘。
5巡目で咲が、
「カン。」
{西}を暗槓した。そして、
「ツモ。嶺上開花ドラ1。3900オールの一本場は4000オール。」
明星のトビで終了となった。
2位は、東一局で親かぶりを免れた憧だった。
真祐子は、咲の連槓の迫力と嶺上開花の恐怖から…、
「チョロチョロチョロ…、ジョー…。」
派手に漏らしていた。宮永家vs真祐子のお約束であった。みるみるうちに聖なる泉が広がっていった。
もはや、真祐子は条件反射になっていた(vs宮永家)。高校3年生最後の夏の戦いでも、やっぱりやってしまった。
「石戸さんは能力に頼りすぎだね。霞さんと同じで…。」
咲は、明星にそう言うと、対局室を足早に出て行った。何気に明星が怖かったのもあるが、それ以上にトイレに行きたかったのだ。しかし、出て5分もしないうちに、
「ここ、どこ?」
迷子になった。
咲は、これを予測した恭子によって10分後に救出され、無事トイレに連れて行かれた。
準決勝第一試合は、天江衣、原村和、荒川憩、神代小蒔で行われた。3年生3人と2年生1人の対決となった。
しかも、天江衣と神代小蒔は牌に愛された子、荒川憩は一昨年の個人準優勝、原村和は一昨年のインターミドルチャンピオンと、全員肩書きが凄かった。
今日の小蒔は、ずっと神による支配を受けていた。逆を言えば、ずっと寝ていた。
小蒔をこの状態にするため、昨夜は霞と初美が来て小蒔を寝かせなかった、別にHな意味ではなく、ゲームとかをしながら夜を明かしたのだ。
それで、小蒔は明け方から寝たままだった。
小蒔が降ろした神は、自らに制限をかけていた。そうでなければ、毎回天和でゲームが成立しないからだ。
例えば、小蒔を起家にし、二連続で天和を和了らせれば全員トビで終了になる。神の力ならば、これくらいできて当然だ。しかし、これでは人間界のゲームとして成り立たなくなる。それで、制限をかけていたのだ。
少なくとも、配牌は普通だった…と言うか、配牌操作はしていなかった。よって、小蒔以外の3人の配牌を全て合わせた中に{一}が2枚含まれるケースもある。この場合、小蒔は萬子の純正九連宝灯を作れなくなる。
しかし、ツモは異常だった。
ただ、配牌操作をしないため、染め手を和了れるのは中盤以降になってからだった。さすがに配牌操作なしでは、偶然配牌に偏りがない限り、序盤で染め手を作り上げるのは困難である。
また、自分の手牌のどれが誰の和了り牌かは完全に把握できた。振り込まないためだ。しかし、鳴かれる牌は判らないようにしていた。少なくとも、相手の手が透けて見えるわけではなかった。
前半戦は、小蒔が起家、衣が南家、和が西家、憩が北家だった。
東一局、小蒔の親。ここでいきなり、
「ツモ。九連宝灯。16000オール。」
神の力で役満を和了った。しかも萬子の純正九連宝灯だった。
東一局一本場、小蒔の連荘。
「ポン。」
早々と衣が鳴いた。そして、
「ロン。12300。」
和から和了った。これで、和のトビ終了となった。
後半戦も似たような展開だった。神の力には対抗できず、結局、トータルで小蒔が1位、衣が2位となった。この2名が決勝卓に進んだ。
ただ、これだけの力を持っていながら、何故、小蒔は、昨年の世界大会に出場していなかったのだろうか?
それは、霧島神境の姫として、勝手に日本を出ることが許されなかったためだった。それで、代表の座を辞退していた。
準決勝第二試合は、宮永みなも、高鴨穏乃、宮永咲、新子憧と2年生4人、しかも優勝校である清澄高校のダブルエース2名と準優勝校である阿知賀女子学院の中心選手2名の対決となった。まさに、春季大会個人決勝戦の清澄高校2名vs龍門渕高校2名の対決を髣髴させた。
宮永咲は、嶺の上の女王とか日本の守護神と呼ばれる現チャンピオン、宮永みなもは北欧の小さな巨人と呼ばれる世界的プレイヤー、高鴨穏乃は深山幽谷の化身と呼ばれる阿知賀女子学院の最後の砦。
憧は、今、自分がここにいるのが信じられなかった。春季大会個人の時と同じで、今回も2位抜けさせてもらえた感じが強かったし、自分だけ二つ名のない一歩劣る選手との自覚もあった。
場決めがされた。起家は穏乃、南家は憧、西家は咲、みなもは北家だった。
東一局、穏乃の親。
「チー!」
立ち上がりが悪い穏乃の捨て牌を憧が鳴いた。
「チー!」
副露すると、スピードが上がる。しかし、ここで捨てた牌を、
「カン! 嶺上開花! 8000。」
咲に責任払いで満貫を和了られた。この時の咲は、一回戦とは違って感情を取り戻しており、声にも元気があった。
東二局、憧の親番。
憧は、なんとか、さっきの満貫を取り返そうとするが、
「ロン。タンピンドラ3。8000。」
結果的に、みなもに振り込んでしまった。しかも、いきなり和了り役が2翻だった。これで、憧の持ち点は9000点に減った。
ここにきて、憧は確信した。予想はしていたが、咲とみなもは、自分をターゲットとしていた。しかも、南入する前に片付けようとしている感じがする。
それは、恐らく穏乃の山支配が発動すると面倒だからだろう。憧は、そう思っていた。
しかし、咲とみなもは、
「「(別に山を支配されても、吉野の山よりも長野の町のほうが標高が高いし、あれくらいの靄だったらなんでもないんだよね。)」
と思っていた。
東三局、咲の親番。
ここで咲は、憧をトバして1位抜けしようと考えていた。しかし、
「ロン。中三色ドラ3。12000。」
先にみなもが、憧から和了った。
これで、現在の順位と点数は、
前半戦1位:宮永みなも +35
前半戦2位:宮永咲 + 3
前半戦3位:高鴨穏乃 - 5
前半戦4位:新子憧 -33
みなもが大きくリードした。
後半戦が開始された。またもや起家は穏乃、南家は憧、西家は咲、みなもは北家だった。
憧は、コンパクトをポケットから取り出し、サイドテーブルの上に置いた。なんとなくだが、少しでも身を軽くしたほうが良いように直感的に感じていた。
ただ、それは、一応巫女である憧の予知だったのかもしれない。
東一局、穏乃の親。
牌が見えているのか、咲の聴牌が早かった。そして、
「カン!」
{②}を暗槓した。
「ツモ嶺上開花赤1。1600、3200。」
{北}の暗刻も持っていた。それで50符3翻の手だった。
東二局、憧の親。
まだ、穏乃の支配は殆どない。
憧は、鳴きの速攻で連荘を狙った。そして、捨てた{中}を、
「ポン。」
みなもが鳴いた。そして、
「ツモ。中ドラ2。1000、2000。」
咲の支配を受けているからか、みなもの和了りが思ったより小さかった。
東三局、咲の親。
次局辺りから穏乃の支配が目を覚ます。憧は、是が非でもここで和了りたかった。
「チー!」
穏乃の捨て牌や、
「ポン!」
咲の捨て牌を鳴き、ようやく一向聴まで進めた。しかし、
「ツモ。平和タンヤオドラ1。1300、2600。」
みなもに和了られた。
東四局、みなもの親。
この局は、急に咲の雰囲気が変わった。昨年のインターハイ二回戦で、恭子に槓ドラをプレゼントした、あの時に似ていた。そして、
「カン!」
この発生と同時に、憧のコンパクトが大破した。
「(ナニコレ?)」
この超常現象が、憧には理解できなかった。誰も手を触れていないのに壊れた。恐らく咲の槓が原因だが、
『槓したら割れたので弁償してください』
とは言えない。一般に因果関係が成立しないだろう。
咲が嶺上牌に手を伸ばした。そして、
「ツモ! 嶺上開花! 70符2翻は1200、2300。」
レアな和了りを見せた。ただ、4700点程度でコンパクトを失ったのでは割に合わないと憧は思っていた。
南一局、穏乃の親。
ここにきて、穏乃の支配力が上がっているのを憧は感じた。妙に視界が悪いのだ。そして、見えないが故に、つい甘い牌を切ってしまった。
「ロン。2900。」
穏乃に振り込んだ。
南一局一本場、穏乃の連荘。
憧は、ツモまで悪くなった。穏乃の捨て牌も鳴けない。
「(深山幽谷の化身とは、よく言ったものだわ。)」
憧は、心の中でそう呟いていた。
この局も、やはり、
「ツモ。600オール。」
穏乃が和了った。
南一局二本場。
憧は、より一層視界が悪くなったのを感じた。まさしくこれは、穏乃が最高状態になった時の空気だ。
「ロン。11600の二本場は12200。」
とうとう、憧は穏乃に大きい手を振ってしまった。
しかし、これはある意味、宮永咲を落とすチャンスだった。
後半戦の、現在の4人の点数は、
暫定1位:高鴨穏乃 35200
暫定2位:宮永咲 31900
暫定3位:宮永みなも 29700
暫定4位:新子憧 3200
次の三本場で憧が2900の手を穏乃に振り込めば、900点も加算されてトビ終了。その瞬間、自分は-31だが、穏乃が1位で+29。咲が2位で+2で、みなもが3位で±0。
すると、前後半戦の合計は、みなもが+35で1位だが、穏乃が+24で2位、咲が+5で3位となる。絶対王者を準決勝で敗退させることができる
ならば、狡猾な憧の取る道は、ただ一つ。穏乃に2900以上を振る。
憧に、自然と笑みが浮かんできた。
まこは、今後もキンクリ用に登場することがあると思います。
多治比真祐子の失禁も、もうこれで最後の予定です。