東一局、優希の親で、いきなり優希の先制リーチがかかった。
手牌は、
{一二三③③④④⑤78999} 打{3}
「チー。」
これを春が鳴いた。そして、優希と同じ打{3}字。
さすがに、二巡目リーチでは待ちを読みようがない。郝も不要な字牌、{北}を切った。
続く理沙は、
「(永水が欲しいのは、ここかな?)」
{南}を切った。すると、
「ポン。」
これを春が鳴いた。
結構、理沙は勘が良かった。偶然的要素は否定できないが、これで結果的に優希のツモを飛ばした。
春は、{南}を晒し、不要な字牌、{北}を処理した。
ここで、郝が引いたのはドラの{⑤}だった。優希の待ち牌でもある。春がポンしなければ優希はリーチツモ平和一盃口ドラ2の親ハネを和了っていたことになる。
郝の手牌は、
{一四六八④⑥356西西發發} ツモ{⑤}
ここから打{一}。
続いて、理沙が引いたのは、{[⑤]}。もし、春の鳴きが一回もなければ、優希は、これを一発でツモっていた。つまり、春は優希のリーチ一発ツモ平和一盃口ドラ3の倍満をつ潰したのだ。
当然、理沙は{[⑤]}を取り込んだ。そして、
「(永水が欲しいのは、これ?)」
{⑨}切り。すると、
「ポン。」
また、春が鳴いた。
「「(ドンピシャリ!)」」
春と理沙の心の中の声がハモった。これでまた、優希のツモを飛ばした。
この時、春の手は、
{六九⑥48} チー{横三一二} ポン{南横南南} ポン{⑨横⑨⑨}
鳴いた牌以外は、全てバラバラだった。優希にツモを回さないために、強引に鳴いていたのだ。
ここから打{九}。
郝のツモ牌は{②}。もし、春が{⑨}を鳴かなければ、優希が2600オールをツモ和了りしていたことになる。
ここで、郝の手牌は、
{四六八④⑤⑥356西西發發} ツモ{②}
郝は、中国麻雀の役づくりに拘った打ち方をする。
中国の役で五門斉と言う役がある。これは、萬子、筒子、索子、風牌、三元牌の五種類全てが手の中で揃っている役である。
また、中国の役にも日本の三色同順と同じ役がある。
優希の待ち牌は分からない。なら、狙うのは五門斉。そして、プラスアルファとして三色同順。当然、{②}か{3}のどちらかを捨てることになるが、ここで郝は{②}をツモ切りした。すると、
「ロン。リーチ平和ドラ1。5800だじぇい。」
優希が和了った。裏ドラは乗らなかった。
ただ、優希は、春と理沙の連携で親倍を潰され、親ハネも潰され、2600オールも潰された。結局、和了ったのは5800点と、元々の和了りから18200点も引き下げられた。
東一局一本場、優希の連荘。ドラは{④}。
「ダブルリーチだじぇい!」
今度は、優希のダブルリーチがかかった。打{9}。
優希の手牌は、
{二三四②③234[5]5678}
{①④}待ちだ。
「チー。」
これを、さっきと同様に春が鳴いた。
ダブルリーチでは、さすがに待ち牌は分からない。春は、不要な字牌を処理した。
郝も、自分の手を進めて不要牌を落とした。
理沙は、ツモった後、春の手牌を見詰めた。
「(うーん、どうだろ。これ…かな?)」
そして、根拠はなかったが{⑧}を捨てた。
「ポン。」
これを、またもや春が鳴いた。そして、不要な字牌を捨てた。
続いて郝がツモってきたのは{④}だった。優希の和了り牌だ。ただ、これは郝の手に入った。そして、不要な字牌が捨てられた。
そして、理沙は、{④}をツモった。連続してドラ。優希の高目和了り牌だった。彼女は、またもや春の手牌を見詰めた。
「(うーん、次は、これ…かな?)」
打{白}。すると、
「ポン。」
春が鳴いた。手牌は、当然のように晒し牌以外はバラバラだった。そして、打{發}。
ここで郝がツモってきたのは{①}だった。不要な牌。これを郝はツモ切りした。
「ロン!」
優希が和了った。裏ドラは、表と同じ{④}だった。
「ダブルリーチ平和ドラ1。11900。」
本来ならば、
{二三四②③234[5]5678} ツモ{④} ドラ{④} 裏ドラ{④}
ダブルリーチ一発ツモ平和タンヤオ三色同順ドラ2赤1の三倍満だった。それが一発を消されて倍満に落ち、それもツモらせてもらえず、結局、11600の一本付けまで点数を落とされた。
東一局二本場。
今度は、
「{1}、ポン!」
優希は鳴いて出た。その捨て牌から、索子に染めているのが分かる。
数巡後、
「(そろそろマズイかな?)」
理沙の直感が働いた。そして、郝の切った{⑥}を、
「チー。」
ムリに鳴いた。そして、打{八}。
「ポン。」
これを春が鳴いて優希のツモを飛ばした。打{九}。
郝は、{九}をツモ切り。そして、理沙がツモってきたのは、{東}だった。これは、理沙と春の鳴きがなければ、優希がツモるはずの牌だった。
「(さすがに、これは切れないでしょ。)」
理沙は、{六}を切った。
優希のツモ番。
「ツモ。」
この時の優希の手は、
{33677889東東} ポン{1横11} ツモ{3}
もし、優希が{東}をツモっていれば親満だった。しかし、ツモ{3}では混一色のみになってしまう。しかも、春季大会は、連風対子を4符ではなく2符で扱うルールだったため、この和了りの符は、ギリギリ30符だった。
「1000オールの二本場は、1200オールだじぇ。」
優希は、三連続の和了りで21300点を稼いだ。しかし、本来ならば親倍、親三倍満、親満の和了りで72900点を稼いでいるはずだった。春と理沙の連携プレイで51600点も得点を引き下げられた。
東一局三本場。
さすがに、優希のタコスパワーも尽きてきた。この局は、
「チー。」
理沙が、優希の和了りを邪魔するためではなく、自身の和了りに向かって、鳴いて手を進めた。そして、
「ロン。タンヤオドラ2。3900の三本場は4800。」
優希を直撃した。これで長い東一局が終わった。
東二局、春の親。ドラ{八}。
この局は、
「ツモ。1300、2600。」
郝が和了った。開かれた手は、
{一二三④[⑤]⑥79南南中中中} ツモ{8}
ツモ中ドラ1だった。
中国の役では、『花竜』と呼ばれる役がある。これは、日本のローカルルールで言う『三色一通』である。まさに、今回の郝の和了り手そのものであった。しかも、五門斉まで付いていた。
東三局、郝の親番。
再び理沙が、
「チー!」
和了りに向かって鳴いて出た。そして、
「ツモ。1000、2000。」
郝の親を流した。
東四局、理沙の親。
今度は、
「チー。」
郝が鳴いて出た。晒された牌は、{横123}。そして、数巡後、郝が、
「ツモ。1000、2000。」
和了った。開かれた牌は、
{一二三①①①②③11} チー{横123} ツモ{1}
鳴きジュンチャン三色同順だった。
ただ、これが中国麻雀ならば、四帰一(4枚使い)、全小(全て3以下の数牌で構成)、三色三同順(三色同順)、自摸(鳴きツモ)となる。
南一局、優希の親。ドラは{⑨}。
ここでは、
「ロン。2600。」
優希の捨てた{8}を郝が和了った。
開かれた牌は、
{二三四七七③④[⑤]56788}
中国麻雀の三色三歩高だった。
南二局、春の親。
春は、まだヤキトリだった。しかし、ここまでの失点は5800点のみで済んでいた。優希の11900点以外は、全体的に5800以下の和了りしかなかったためだ。
この局は、理沙が、
「ロン。平和ドラ1。2000。」
安手を優希から直取りした。
南三局、郝の親。この局も、
「ロン。七対赤1。3200。」
理沙が優希から和了った。
そして、オーラス。理沙の親番。
この局は、
「ポン。」
東二局からおとなしかった春が鳴いた。そして、
「ツモ。300、500。」
ゴミ手だが、ヤキトリを解消した。
各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 111700
暫定2位:永水女子高校 102000
暫定3位:臨海女子高校 95900
暫定4位:粕渕高校 90400
清澄高校が永水女子高校を抜いてトップに立った。また、粕渕高校が9000点稼いだことで、次鋒戦開始時と比べて、少しトップとラスの点差が縮まった。
休憩に入った。
優希は、気分転換のため、対局室を出て行った。そして、
「これを飲んで、気合いを入れ直すじょ!」
つぶつぶドリアンジュースを自販機で買って、それを一気に飲み干した。
丁度ここに、
「優希。それ、飲んだんだ…。」
みなもがタコスを持ってきた。
「おお。気合いを入れるためだじぇい。」
「気合いを入れるのは、これを食べてじゃないの?」
当然のように、みなもがタコスをさし出した。
「おお。これは、イヌ特製のタコスだな!」
早速、優希はタコスを食べ始めた。
「それにしても、あの永水と粕渕の連携は参ったね。優希の手を下げるために組んでいたからね。」
「言わなくても分かってるじょ。」
「でも、高い手を狙う人がいないみたいだから、一発逆転を食らうことは滅多にないと思う。せいぜい、満貫までかな。だから、優希は他家に和了らせないことを第一に考えて鳴きのスピードで他を圧倒すればイイよ。」
「一昨年のインターハイ準決勝みたいだな。あの時も、久先輩に、そんな麻雀を打つように指示されたんだじょ。」
「なるほどね。」
「それで、結局、中堅はカズちゃんが打つのか?」
「ううん。やっぱり、きついみたい。やたらと重いって。」
数絵は、旗日に当たった。昨年のインターハイでは、和が旗日になったと偽って優希を決勝戦に出場させたが、今回はフェイクではなかった。
「昨日の夕方からだしな。じゃあ、エイちゃんが打つのか?」
「うん。」
「そうか。いい思い出になるとイイな。」
「そうだね。」
栄子が転校する事を知って、みなも達は、栄子を春季大会のどこかで出場させ、且つ優勝できれば嬉しいと思っていた。
それに、栄子の麻雀部員としての活躍を考えると、彼女の転校は、決して悪いことではない。清澄高校と臨海女子高校以外なら、どこに行ってもレギュラーになれるだけの力がある。みなも達は、そう感じていた。
「じゃあ、優希。」
「おお。エイちゃんのためにも、下手な麻雀は打たないじぇ。」
そう言うと、優希は両頬を両手でパシンと叩き、対局室に戻っていった。
暫くして、優希が対局室に姿を現した。
「(エイちゃんなら、絶対に点数を減らさずにミナちゃんに繋いでくれる。そうすれば、清澄はミナちゃんと咲ちゃんのダブルエース。絶対に負けないじょ。なら、私のすることは、変な色気を出さない。スタンドプレイに走らないことだじぇ。今の点数を守る。これが一番だじぇ。)」
場決めがされた。
前半戦と全く同じで、起家が優希、南家が春、西家が郝、北家が理沙になった。
後半戦東一局、優希の親。
「(安くてイイ。確実に和了るじょ。)」
優希は、序盤から、
「ポン。」
郝の捨て牌を鳴いた。そして、
「ツモ。タンヤオのみの500オールだじぇ。」
速攻で安手を和了った。連荘狙いだ。
東一局一本場。この局も、
「チー。」
早々から鳴いて手を進めた。
「ツモ。タンヤオドラ1。1100オール。」
東一局二本場。
「ポン。」
1巡目に捨てられた{白}を鳴き、3巡目には、
「ツモ。白赤1。1200オール。」
さくっと和了った。
しかし、東一局三本場、この局は、
「ポン。」
春が動き出した。そして、
「ツモ。1300、2300.」
安和了ではあるが、春は優希の親を流した。
東二局、春の親番。
親は流れても、まだ優希の得意な東場であることには変わりはない。優希は、
「ポン。」
2巡目には春の捨てた{東}を鳴き、
「ツモ。500、1000。」
4巡目でツモ和了りした。恭子も真っ青の早和了りであった。
東三局、郝の親。
ここでも優希は、
「ポン。」
役牌を鳴き、
「ツモ。500、1000。」
速攻で和了った。
東四局、理沙の親番。
ここで再び、
「ポン。」
春が動いた。ここで東場を終わらせれば、優希の勢いは消えるはず。そう考えての鳴きだった。そして、
「ツモ。白ドラ2。1000、2000。」
この局は、速攻で春が和了った。
南入した。親は再び優希。しかし、ここからは、優希は攻めに出ない。振込みを避けて守る麻雀に徹することにした。
中盤に差し掛かった。
「リーチ。」
優希の上家…理沙がリーチをかけてきた。そう言えば、次鋒戦で優希以外がリーチをかけるのは、これが初めてだった。
一発を避けて、他家が理沙の現物を落とした。
理沙のツモ番。
「一発…ならず。」
理沙は、力強く牌を捨てた。そして、その次巡、
「ツモ。リーチツモタンヤオ一盃口ドラ1。2000、4000。」
満貫をツモ和了りした。これで、今まで優希と春にツモ和了りされてきた分を、取り戻した。
南二局、春の親。ドラは{5}。
ここに来て、郝が後半戦で初めての和了りを見せた。
「ツモ。2000、4000。」
開かれた手は、
{一二三七八九②③⑦⑧⑨5[5]} ツモ{①}
たしかに平和ツモドラ2赤1の満貫。
ただ、郝は、直前に手出しで{1}を2枚切っていた。{5}がドラでなければ、ジュンチャンを狙うところと多くの観客は理解した。
しかし、この手は、中国麻雀では三色双竜会と呼ばれる役であった。郝は、ドラだから{5}を捨てなかったのではなかった。中国麻雀の役に拘って捨てなかったのだ。
南三局、郝の親番。ドラ{8}。
ここでも、郝は中国麻雀特有の役を作っていた。
郝の手は、
{①②②⑤[⑤]2668899白}
七対子ドラ2赤1の一向聴だった。
ただ、この手は、中国麻雀では七対子以外に推不倒(上下区別のない牌のみで構成)がつく。また、もし{2}をツモって{白}切りなら喜相逢(二色)も役としてつく。
ここに、狙ったように{2}が来た。当然、郝は{白}を切った。すると、
「ポン。」
理沙が鳴いた。そして3巡後、
「ツモ。白ドラ2。1000、2000。」
そのまま理沙が和了った。
オーラス、理沙の親。
「(前半戦で清澄タコスの高い手を潰せたのはラッキーだったな。結局その後、タコスは安い手しか和了れてないし、11900は臨海が振ってくれた。結果的に清澄も臨海も走らせずに済んだのは大きい。)」
理沙は、対局前は、優希と郝が暴れまくって自分と春が大きなマイナスを被るのではないかと予想していた。まあ、春は先鋒戦で明星が作ったリードがあるので、多少削られても理沙ほどは痛くないが…。
それが、思った以上に善戦している。ならば、もう少し点差を縮めたい。
「(配牌とツモも噛み合っている。親だし、これなら…。)」
理沙は、聴牌即で、
「リーチ。」
捨て牌を横に曲げた。
一発では和了れなかったが、3巡目に、
「ツモ。メンピンツモ、ドラは…。」
表ドラは無かったし、赤ドラも無かった。そして、残念ながら裏ドラも乗らなかった。
「残念、1300オール。で…、一本場。」
理沙は、一瞬迷ったが親の続行を決めた。春の手は基本的に安く怖くない。優希も南場で高い手を和了ってくることはないだろう。
郝が何をしてくるかは読めなかったが、中国麻雀ルールに従っての手作りなので、中国麻雀ルールでは高い手でも、今ここで打っている麻雀のルールでは、必ずしも高い手ではない。
直感的に、次は和了れないような気もしたが、周りの手が安いなら少し無理をしてみたい。そう思った。
ただ、彼女の直感は正しかった。
「ツモ。1400、2700。」
郝が和了った。
開かれた手は、
{二三四四五六六七八④[⑤]66} ツモ{⑥} ドラ{⑧}
平和タンヤオツモ赤1だったが、中国麻雀では一色三歩高と呼ばれる役がつく。
これで、
「「「「ありがとうございました(だじぇい)。」」」」
次鋒戦が終了した。
この時点での各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 111100
暫定2位:臨海女子高校 97500
暫定3位:永水女子高校 96900
暫定4位:粕渕高校 94500
2位から4位が混戦状態となった。しかも、1位との点差も然程大きくない。どの高校にも決勝進出のチャンスはある。
粕渕高校控室に理沙が戻ってきた。
「次鋒でトップ。凄いじゃん!」
真澄は、理沙の健闘に大喜びだった。この準決勝戦での粕渕高校の事前評価は、良く言えば『絶望的』、悪く言えば『論外』だった。
先鋒戦での明星と、次鋒戦での優希の爆発力に耐えられないだろうとの予想だったし、世界で活躍する選手を揃えた臨海女子高校にも到底歯が立たないと言われていた。
それが、4位とは言え、1位との点差は17000点も開いていない。もの凄い善戦と言えるだろう。
一方、清澄高校控室では、
「栄子、ゴメンね。」
「ううん、気にしないで。数絵ちゃんこそ大丈夫?」
「大丈夫じゃない…。」
数絵が3人掛けのソファーの上で横になっていた。宿舎で寝ていれば良かったと、この時、彼女は心底思っていた。
恭子は、栄子なら大きなマイナスを作ることはないと確信していた。栄子のディフェンス能力が、ある意味、愛宕洋榎や花田煌よりも強力だったからだ。
各選手の力量によって栄子から削れる点数上限が決まる。しかも、他家が削った分も含めた上限である。
今回、中堅で出場する選手は、今日現在のコンディションも含めて考えると、全員が優希の力量を下回ると判断していた。せいぜい栄子が失点しても半荘一回で7000点程度だろう。前後半戦合わせても14000点のマイナスでしかない。
しかも、それは、あくまでも栄子が削られる側にのみいた場合であって、栄子が和了らないわけではない。
「みなもに繋いでくれればイイ。頼んだぞ!」
「はい、コーチ。」
栄子は不安な表情を見せていたが、これが彼女にとって清澄高校麻雀部員としての最後の戦いである。
「(絶対に、みんなの足を引っ張らない!)」
彼女は、両頬を両手で叩いて気合を入れた。