クリスマスの後、ミナモは、イーヴリンに連れられて日本に帰国した。
戸籍上、一旦はニーマンの養女になっていたので、宮永家に出戻る形となった。これを機に、彼女の名前は『ミナモ・A・ニーマン』から『宮永みなも』に戻された。
みなもは、咲達の前では明るく振舞っていたが、咲とみなもの父、宮永界には、何か無理をしているような感じがしてならなかった。
年末年始に照が帰省した。
咲は、衣を誘って照とみなもと年越し麻雀を打った。衣を自由にできる72時間を、ここで使ったのだ。
さすがの衣も、しばらく牌を見るのが嫌になったそうだ。
1月より、みなもは、咲と同じ清澄高校に編入した。
清澄高校は、夏のインターハイで団体戦優勝、個人戦でも咲が姉の照を制して優勝し、一躍有名になった。
そこに海外からの転校生が来て、しかも前チャンピオン宮永照と現チャンピオン宮永咲の妹。さらにミナモ・A・ニーマンの名で、世界で大活躍したともなれば、学内のみならず、高校麻雀界の話題の中心になった。
一応、みなもは、麻雀部に在籍することになった。
みなもが麻雀部で活躍することを、当然のように誰もが期待した。これで、清澄高校の団体戦夏春連覇が磐石鉄板になることを疑う者はいなかった。
しかし、周りの想いと本人の考えは必ずしも一致しない。
「まこ先輩に優希、和に数絵に咲がいるじゃん。チームワークもしっかりしてるし、私は、栄子と一緒で、補員でいいよ。個人戦は出てもいいけどね。」
そういって、みなもは、団体戦メンバーになることを頑なに拒否した。
そんな清澄高校の状態など、他校が知るよしも無い。
白糸台高校では、新エース大星淡が、自分が大将で出場した昨年夏のインターハイの決勝戦ビデオを見ていた。
自分の敗戦映像だが、過去の自分が至らなかったところを反省する良い材料である。
今度こそは優勝をと強く心に誓っていた。
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インターハイ決勝戦は、前年度優勝校の西東京代表の白糸台高校と、長野県代表の清澄高校、東東京代表の臨海女子高校、奈良県代表の阿知賀女子学院で行われた。
先鋒戦は、起家の清澄高校片岡優希のダブルリーチ、天和、ダブルリーチから始まった。まさに、波乱の幕開けともいえる展開だった。
次鋒戦は、各校のクセのある打ち筋に翻弄され、序盤は清澄高校染谷まこの失点が目立った。しかし、阿知賀女子学院松実宥が赤い牌を集める分、まこには他の牌が集まり、結果として彼女は最も好きな役満、緑一色を和了った。
トータルでは若干マイナスだったが、まこは緑一色を和了れて満足だった。
中堅戦では、白糸台高校渋谷尭深がマークされた。彼女の第一ツモがオーラスの配牌として戻ってくる。これを白糸台高校ではハーベストタイムと呼んでおり、大三元程度なら意図的に役満確定に必要な牌の殆どをオーラスの配牌に持ってくることが出来る。
しかし、清澄高校竹井久と阿知賀女子学院新子憧の狡猾ペアが巧く場を流し、ハーベストタイムを潰した。
結局、中堅戦は尭深のみマイナスになった。
続く副将戦は大きく荒れた。
前半戦東一局、東二局は清澄高校原村和が小さな手を和了った。
しかし、東三局、和の先制リーチに対し、筒子多面聴を特徴とする阿知賀女子学院鷺森灼が追っかけリーチをかけた。
次の和のツモは、彼女の和了り牌ではなく{②}。これをツモ切りしたそのときだった。
「ロン! 48000!」
筒子多面聴の最高形、灼の筒子純正九連宝灯に振り込んでしまった。
二回戦で、自分の親のときに役満をツモ和了りされても全然崩れなかった和だったが、親の役満直撃には、さすがに心が折れた。和は、ここから、普段の彼女からは信じられないような振込みを連発した。
「ロン! 12300!」
灼に振り込んだ。
なんとか聴牌。しかし、和が不要牌を切ると、
「ロンデス。12600デース。」
臨海女子高校のメガ・ダヴァンに振り込んだ。全然、相手の捨牌が見えていなかった。
続く東四局、和の親では、
「ポン…。チー…。ポン…。ツモ! 4000、8000!」
和は、不用意に下家の白糸台高校亦野誠子に鳴かせ、倍満を和了らせてしまった。親被りの痛い失点。
結局、準決勝Aブロックで誠子が記録した大失点を更に大きく更新する超特大失点を前半戦だけで記録してしまった。
後半戦では、和は落ち着きを取り戻し、効率良く聴牌形にまではもってゆけた。しかし、一度逃げたツキを中々取り戻すことは、できなかった。いくら聴牌しても、それが全然和了れず、逆に3人に高い手をツモ和了りされ続けた。和は、いわゆる『ツモられ貧乏』の状態になった。ただ、点棒を削られるだけだった。
「(咲さん…。ごめんなさい…。)」
気の強い和だったが、今回ばかりは全国放送を忘れて派手に涙を流した。
ネット界隈では、この記録的大失点に、
「メシウマwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww by高1最強」
なる書き込みをするアンチ和もいれば、
「あれは、まるでドブス三人組が美貌と胸の脂肪を妬んで天使をなぶり殺しにしているようにしか見えませんでしたわ! 原村和を地に落すのは、わたくしでなければなりませんのに!」
とか、
「和ちゃんイジメタ(肉丸調)。あいつら、全部ゴッ倒す!」
とか書き込む和ファンもいた。
大将戦でも、前半戦は、この和の不運を引き継いだのか、清澄高校大将宮永咲は殆ど和了れず、3校のツモ和了りにより、さらに削られる結果となった。
ところが、後半戦に入って様子が変わった。
後半戦東四局開始時点の点数は、
東家:阿知賀女子学院 120100
南家:白糸台高校 96800
西家:臨海女子高校 133900
北家:清澄高校 49200
まだ清澄高校のダンラス。しかし、ここで、
「カン! 嶺上開花、中ドラドラ!」
咲が嶺上開花による満貫を和了った。
よって、南一局開始時の点数は、
東家:白糸台高校 94800
南家:臨海女子高校 131900
西家:清澄高校 57200
北家:阿知賀女子学院 116100
今度は、ここで咲が嶺上開花でハネ満を決めた。
よって、南二局開始時の点数は、
東家:臨海女子高校 128900
南家:清澄高校 69200
西家:阿知賀女子学院 113100
北家:白糸台高校 88800
さらに、咲が嶺上開花による倍満を和了った。
よって、南三局開始時の点数は、
東家:清澄高校 85200
南家:阿知賀女子学院 109100
西家:白糸台高校 84800
北家:臨海女子高校 120900
まるで宮永照の『連続和了』のような打点上昇であった。この追い上げで、清澄高校が3位に浮上した。
この咲の『三連続和了』は、長野県予選の決勝戦を髣髴させるものであった。清澄高校控室では、押せ押せムードが絶頂に達していた。
しかし、南三局の咲の親番で、
「ツモ!」
対面の淡が地和を和了った。ダブルリーチの能力を持つ淡だが、地和は生まれて初めての和了りだった。
そして、オーラス。
親は阿知賀女子学院の高鴨穏乃。彼女こそ、淡の天敵のような存在。天江衣が深山幽谷の化身と比喩した深い山の支配者だった。
オーラス開始時の点数は、
東家:阿知賀女子学院 101100
南家:白糸台高校 116800
西家:臨海女子高校 112900
北家:清澄高校 69200
清澄高校は、役満をツモ和了りしてもロン和了りしても優勝できない状態となった。もはや清澄高校の優勝を考えるものはいなかった。ただ一人を除いては…。
ドラは{八}。
穏乃の配牌は、
{一二三八①②④[⑤]⑥⑧69南南}
淡の絶対安全圏、つまり『他家の配牌を五~六向聴にする能力』は機能していなかった。
しかも、場風の{南}が対子でドラが二枚。
連荘での逆転も視野に入れれば、決して悪い配牌ではない。ドラが二枚とも使えれば、南を鳴いて5800点の手が作れるし、面前出和了りなら南ドラ2の7700点が、面前ツモなら南ツモドラ2の4000点オールが期待できる。
ここから打{9}。
しかし、淡の配牌は、その上を行った。
{一二二[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨7北北北}
本来であれば、淡のダブルリーチをかける能力は、場が進むにつれて強まる穏乃の無効果能力によって打ち消されるはずだった。
それが、ここに{6}ツモ。
「(地和のお陰で臨海に約4000点差をつけてのトップ。当然、臨海は逆転目指して勝負に出てくるはず。私には、ここで大きな和了りは要らないけど役無し。だったら…。)」
ここに来て、この状態。自分の能力が穏乃の能力を抑えたと思い、淡は、勝負に出た。
打{横一}。
「リーチ!」
ダブルリーチだ。
淡のダブルリーチは辺張待ちや嵌張待ちが多いが、今回は珍しく{5}、{8}の両面待ち。誰から和了り牌が出ても良い。ツモでも良い。とにかく和了れば優勝だった。
臨海女子高校ネリーの配牌は、
{一三四五⑧1[5]688東東東}
ここにも絶対安全圏は機能していなかった。決して悪くは無い配牌。
「(オーラスにも運が上がるようにしておいた。たしかに運は来ている。ここは、和了ってネリー達が逆転優勝する!)」
ツモ牌は{7}、淡の捨て牌にあわせて打{一}。
一方、咲の配牌は、
{一七九②③⑧126白發東西}
バラバラだった。
淡の絶対安全圏が、まるで咲にだけ効力を発揮しているように思えた。
{白}ツモで、いきなりの打{6}。まるで暴牌とも言える捨て牌だった。
国士無双狙いか? と誰もが思った。
しかし、ここで国士無双を和了っても優勝は出来ない。清澄高校控え室は、さっきまでとは打って変わって通夜のように静まり返った。
2巡目、穏乃は、{一二三八①②④[⑤]⑥⑧6南南}からドラの{八}を引き、咲にあわせて打{6}。
淡は{中}をツモ切り。
ネリーは、{三四五⑧1[5]6788東東東}から{[五]}ツモ。赤ドラツモで運の上昇をさらに確信した。そして、強気の打{⑧}。
続く咲は、{七}を切った。
3巡目、穏乃は、{一二三八八①②④[⑤]⑥⑧南南}から{南}を引き南ドラ2の聴牌。直前に、ネリーが{⑧}を切っているので余裕で打{⑧}。しかし、リーチをかけなかった。
彼女には、
「(まだリーチをかけるな!)」
と言う山の声が聞こえていたのだ。
淡は{九}をツモ切り。
ネリーは、{三四五[五]1[5]6788東東東}から{五}ツモ。そして、
「リーチ!」
打{横1}で{二五8}待ちのリーチをかけた。
続く咲は、{2}を切った。
4巡目、穏乃は、{一二三八八①②④[⑤]⑥南南南}からネリーの和了り牌である{二}を引いた。山の声に助けられたと言える。一旦まわして打{②}。
淡は{3}をツモ切り。
ネリーは、ドラの{八}をツモ切り。
続く咲は、{九}を切った。
5巡目、穏乃は、{一二二三八八①④[⑤]⑥南南南}から淡の和了り牌である{8}を引いた。ネリーも{8}で和了りだが、頭ハネルールのため淡のみの和了りになる。{8}を取り込み打{三}。
淡とネリーはツモ切り。
咲は、{一}を切った。
6巡目、穏乃は、{一二二八八①④[⑤]⑥8南南南}から{⑤}を引いた。打{一}。
淡とネリーはツモ切り。
咲は、{1}を切った。
7巡目、穏乃は、{二二八八①④⑤[⑤]⑥8南南南}から、淡の和了り牌である{5}を引いた。打ち回して打{南}。
淡とネリーはツモ切り。
咲は、{東}を切った。
8巡目、穏乃は、{二二八八①④⑤[⑤]⑥58南南}から、淡の和了り牌である{8}を引いた。さらに打ち回して打{⑥}。
淡とネリーはツモ切り。
咲は、{西}を切った。
9巡目、穏乃は、{二二八八①④⑤[⑤]588南南}から、淡の和了り牌である{5}を引いた。
「(これで七対子ドラ3の聴牌。大星さんの和了り牌は{5}が1枚、ネリーさんの和了り牌は{五}が1枚だけのはず。{①}も{④}も、まだ場に1枚も出ていない。だったら、私も阿知賀の優勝を目指して勝負に出る!)」
打{横④}。
「リーチ!」
穏乃がリーチをかけた。ハネ満確定の手だ。ロンでもツモでも和了れば優勝だ。
白糸台高校控室で、この一連の様子をモニター越しに、ずっと黙って見ていた宮永照の口が開いた。
菓子好きな彼女だったが、今は菓子を食べるためではない。部長であり親友である弘世菫と話をするためだ。
「3人とも、リーチをかけるべきじゃなかったと思う。」
「でも、私が淡の立場でも、ダブルリーチならかけたと思うぞ。」
「たしかに普通ならそうすると思う。でも、リーチは防御力をゼロにする。そして、3人の防御力が無くなるこのときを、じっと待っていた者がいる。」
「それって、まさか…。」
淡が{中}をツモ切り。すると、咲が動いた。
「ポン!」
咲は、第一ツモの{白}の後、{中、③、發、發、③、白、中}とツモっていた。
そして、打{⑧}で{②③③③白白白發發發} ポン{中横中中}の大三元を聴牌した。
次巡、穏乃、淡がツモ切りした後、ネリーが{發}をツモ切りした。
「カン!」
咲が、すかさず大明槓した。
嶺上牌は{白}。
「もいっこ、カン!」
この{白}を、咲は、そのまま暗槓した。
本大会では、連槓で役満確定の副露がなされた場合、連槓の最初が大明槓であれば、その大明槓をさせたプレイヤーの包となるルールを適用していた。
そのため、この連槓でネリーの大三元の包が確定した。
しかも、めくられた槓ドラ表示牌は{五}と{5}。これで淡とネリーの和了り牌は無くなった。
続く嶺上牌は、咲と穏乃の共通和了り牌である{①}だった。
これを清澄高校控室でモニター越しに見ていた須賀京太郎は、興奮した。
「やった、大三元嶺上開花!」
「でも、これで和了ったら優勝できないじょ。」
優希の言葉どおり、咲は和了り宣言しなかった。そして、打{②}。
和了り放棄だった。
このとき、和は、咲の思惑に気付いていた。しかし、打{②}はいただけない。フリテン回避が出来ないからだ。
和が身を乗り出して叫んだ。
「どうして{②}切りなんですか? 出和了り狙いで待ちを変えるなら、打{③}の対子落しのはずでは…。」
しかし、この咲の{②}切りを、清澄高校麻雀部の当時の部長を務めていた竹井久は、落ち着いた表情で見ていた。久は、口につけていたカップをテーブルの上に置くと、全てを見通した雰囲気で口を開いた。彼女も、咲の思惑に気付いていたようだ。
「たしかに、普通なら和の言うとおり{③}切りね。でも、合宿のときにも言ったけど、あの子は、普通じゃ見えないものも見えている。」
「でも、部長…。」
「大丈夫。今は、咲を信じなさい。」
続く穏乃はツモ切り。そして、その次にツモった淡の牌は、{③}だった。ダブルリーチをかけた淡は、自身の和了り牌ではないので、当然ツモ切りした。
すると、
「カン!」
咲が大明槓してきた。これで咲の待ちは、{①}単騎になった。そして、嶺上牌をツモると、それを表にして、そのまま自分の前に置いた。
「ツモ、嶺上開花。大三元。」
嶺上牌は、{①}だった。
この和了りには、ネリーの包と淡の大明槓責任払いが適用される。
「白糸台高校と臨海女子高校から、16000点ずつお願いします。」
穏乃が3枚目の槓ドラ表示牌をめくった。そこに、4枚目の{①}が隠されていた。
「(宮永さんの2枚目と3枚目の嶺上牌は、どっちも{①}だったはず。ということは、私がリーチをかけた段階で、宮永さんが{①}を切らない限り、宮永さん以外の和了りは無かったと言うことか…。)」
これで、各校点数は、
1位:清澄高校 104200
2位:阿知賀女子学院 100100
3位:白糸台高校 99680
4位:臨海女子高校 95900
清澄高校の奇跡の逆転優勝であった。
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卒業式を終え、前部長の竹井久が清澄高校を去った。彼女は、都内の有名大学への進学を決めていた。
それから少しして、咲達は春季大会に向け、東京に出発した。
宿泊先は、インターハイのときと同じところだった。優勝校だからといって阿知賀女子学院や千里山女子高校のように贅沢が許されるわけではなかった。それら2校のような太っ腹な後援会があるわけでもないし、それ以前に公立高校なので仕方が無いだろう。
大会参加校は、計32校。インターハイとは違い、一回戦から上位2校が次の試合に勝ち進むルールになっていた。
大会初日の朝、抽選のため、シード4校以外の28校の代表者が壇上に登った。シード校は、昨年の春季大会の成績で決められていた。
清澄高校の代表は、部長の染谷まこ。
誰もが、清澄高校がどのブロックに入るのか気になった。
インターハイ優勝校で、そこに、みなもが転入したとなれば、気にするなと言う方がおかしい。
清澄高校は27番。一回戦の相手は昨年の春季大会2位の千里山女子高校、愛媛県の大生院女子高校、神奈川県の東白楽高校だった。
まだ、咲が主役の座にいる感じですが、そのうち、みなもに変わります。
原作でも、今回の回想のような勝ち方があるのかななんて思っておりますが、どうなるのでしょうね?
今のところ、特にR-18指定する内容はありません。いずれ出てくる予定で、R-18にしましたが…。
また、
『今回の責任払い不成立では?』
とのご意見もございましたが、ここでは、
『連槓からも責任が発生するローカルルールが採用されている』
と言うことでご容赦ください。
連槓からの方が劇的に見えるため、このようにしました。
また、そのローカルルールを説明する文章を追記しました。