「{3}だったら高目だったんだけどね。でも、そんなの関係ない。ミナモ・ニーマン。48000点だ!」
ネリーが大声で点数申告した。
すると、みなもは、
「それ、チョンボなんだけど…。」
と言いながら、笑顔を見せていた。ある意味、笑っているところが性格悪い。
「なんで、チョンボなのさ。待ち牌は、カンしてもしなくても、{23568}で、変わらないよ!」
「待ち牌はね。でも、待ちは変わってる。」
「どう言う意味さ?」
「その和了り牌の{2}がヒントだよ。」
「だから、なんで?」
「両面の{258}、単騎の{36}は残ってるけど、嵌張の{2}が無くなってるってこと。」
「はぁっ?」
これは、みなもの説明のとおりだった。待ちが変わらないとは、待ち牌が変わらないのではなく、全ての待ちが変わらないかである。
ここでは、{1}を暗槓しても、一見、待ちが変わらないように見えるが、{1}を雀頭、{7}を暗刻とする{2}の嵌張待ちが消えてしまっている。
よって、これはチョンボになるのだ。
ネリーは、納得できない様子だったが、同じことを審判からも説明を受け、渋々だが納得せざるを得なかった。
場内観客席に、アナウンサー福与恒子の声がこだました。
「ななな…なんと。これはチョンボだー! 48000点の和了りと思ったら、12000点を逆に支払うことになったー! 思い描いていたことと現実の差は、60000点。これは痛いぞ、ネリー・ヴィルサラーゼ!」
これで、各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 193700
暫定2位:永水女子高校 73100
暫定3位:粕渕高校 70900
暫定4位:臨海女子高校 62300
再び、臨海女子高校が最下位に転落し、永水女子高校が2位に浮上した。
南三局は、芝棒を出さずに、やり直しになった。
ただ、このチョンボで、ネリーの運は逃げた。自分で逃がしたのだ。ここに、みなもが容赦なく叩き込んできた。
「ロン! タンヤオ一盃口ドラ2。8000。」
ネリーからの直取りだった。
オーラス。みなもの親番。
この局も、
「ロン! 南三色ドラ1。12000。」
{白}と{南}のシャボ待ち。どちらが出ても親満だった。
「一本場!」
みなもは、親の続行を宣言した。
オーラス一本場、この局も、みなもは、
「ロン! タンピン三色ドラ2。18300。」
運の落ちたネリーを直撃した。放っておいても、運を逃した者から高い手の和了り牌がホイホイ出てくるのだ。
「二本場!」
みなもは、さらなる連荘を宣言した。
そして、運命のオーラス二本場、
「ロン! リーチ一発東南チャンタドラ2。24600。」
ここでも、ネリーから一発で和了り牌が零れ落ちた。もう、どうにもならないほど、完全に運に見放された状態だった。
これで、各校の順位と点数は、
1位:清澄高校 256600
2位:永水女子高校 73100
3位:粕渕高校 70900
4位:臨海女子高校 -600
準決勝戦Aブロックは、副将戦で、ネリーのトビで終了した。
「「「ありがとうございました。」」」
みなも、加々美、神楽の3人が、終わりの挨拶をした。ネリーは、俯いたまま、ずっと黙り込んでいた。
加々美が、みなもに声をかけた。
「やっぱり、北欧の小さな巨人と言われていただけありますね。さすがです。」
「あ…ありがとうございます。」
「では、また。」
「は…はい。」
みなもは、妙に緊張していた。加々美は、みなものタイプ(?)なのだろうか?
ただ、まだ初対面なので、みなもとしては、憧の時ように打ち解けた感じが出せないでいた部分もあったようだ。
「あのう…。」
背後から神楽がみなもに声をかけてきた。
「はっ…はい?」
「最後の{2}。よく捨てられましたね。」
「多分、チョンボだと思っていたから…。それに、石見さんが、私のほうを見ていたので分かったところもあるよ。」
「私が…ですか?」
「多分、石見さんは、みんなの手牌が透けて見えてるでしょ?」
「えっ。私は…。えっ?」
「色々な能力のある人達と打ってきたので、何となく分かる。」
「そ…そうですか…。あの、それとですね…。これ、私の連絡先です。」
神楽が、自分の電話番号を書いた紙を、みなもに渡した。
「良かったら、御連絡ください。では…。」
そう言うと、神楽は恥ずかしそうに対局室から出て行った。神楽は、どうやら、みなもが意図してやった{2}の振り込みで、みなもに興味が湧いたようだ。
みなもは、神楽から貰った紙をポケットにしまうと、ネリーから逃げるように対局室を急いで出て行った。自分を敵視している人間をトバしたのだ。これ以上は、正直なところ余り関わりたくない。
加々美が控室に戻ってきた。
「ただいま。運良く残れたって感じ…。」
彼女は、そのままソファーに倒れこもうとした。すると、春が、
「加々美。大変なことになってる。」
深刻な顔で、そう言った。
「大変って?」
「加々美の実家の神社。たった今、大鳥居が倒壊したってニュースが…。幸い、怪我人は出ていないみたいだけど…。」
「えぇっ?」
加々美は、呆然とした。そして、余りのショックに脱力して、その場に座り込んだ。
「今、姫様と霞さんが、加々美の実家にテレポートして見てくるって。加々美も、急いで行ったほうがいいよ。」
「でも、私、テレポーテーションなんてできないし。」
「普通に電車で帰れば良いと思うけど…。ここからなら一時間半くらいで帰れる。」
「そ…そうよね。」
相当、加々美は気が動転しているようだった。
「じゃ…じゃあ、行ってくるね。荷物は、そのまま宿舎に預けておいていいかな?」
「問題ない。」
「それと、多分、明日は出られないと思うから。」
「分かってる。補員の留美子に代わりに出てもらうから、安心して。」
「ありがとう。それじゃ。」
加々美は、急いで控室を飛び出していった。
これで、逆に緊張したのは、補員の越智留美子だった。彼女も、加々美と同じプログラムで修行のために半年間だけ永水女子高校に通うことになっていた。この春季大会が終われば、彼女は春から2年生として粕渕高校に戻る予定になっていた。
留美子は、粕渕高校の石見神楽の幼い頃からの友人だった。しかし、留美子には特段霊力は無かった。
「(わ…私が、あの長野の魔物と…。)」
留美子は、妙に緊張してきた。そして、
「ちょっと、トイレに行ってきます。」
控室を一旦出た。
丁度この時だった。春の頭の中に霧島神境から初美が話しかけてきた。テレパシーだ。
「(ハルル。今、巴ちゃんが善からぬ者の侵入をキャッチしたようですよー。)」
「(善からぬ者?)」
「(海外からの侵入者みたいですー。既に、姫様と霞ちゃんには伝えてありますよー。)」
「(分かった。)」
「(詳細は、まだ掴めていないですー。もし、なにか分かったら連絡するですよー。ハルルのほうでは、変わったことはありませんかー?)」
「(今のところ、特に何も…。)」
「(分かりましたー。了解ですー。もし、何かあったら連絡してくださいですー。)」
交信が切れた。電話代も不要。移動はテレポーテーションのため移動料金も不要。非常に便利であった。ただ、六女仙に限るが…。
ただ、麻雀の時は、交信を禁じていた。これは、永水女子高校内の試合でも校外の試合でも同じだった。小蒔が、ズルをしてはいけないと命じたことだった。
それをきちんと守るところが、六女仙の真面目なところであった。
留美子がトイレから出てくると、通路に見知らぬ一人の外国人女性が壁に寄りかかって立っていた。
「永水女子の補員のかたですね?」
その女性は、イーヴリンだった。マスコミ関係者に化けて、うまく建物の中に紛れ込んでいたのだ。
「は…はい。」
「副将の椿加々美さんが、さっき血相を変えて出て行きましたけど、たしか、彼女のご実家の大鳥居が倒壊したとか…。」
「そうです。それで、急遽明日は、私が出ることに…。あっと、やばっ。」
留美子は、ついうっかり話してしまった。
「あらあら。正式な話が出るまでは、記事にしないであげるわ…。でも、そうすると、あなたが、あの宮永みなも…北欧の小さな巨人と戦うわけですね。」
「そうです。どうしていいのやら…。」
「このままでは、あなたのトビで終了…。」
「(ギクッ!!!)」
留美子は、痛いところを突かれた。今、まさに思っているのは、そのことだ。
「図星のようね。あなたのせいで負けたくはないでしょう。」
「は…はい…。」
すると、イーヴリンが留美子に紙を渡した。
「では、今夜9時に、ここに着なさい。ここに来れば、あなたは、1日限りだけど、宮永みなもにでも宮永照にでもなれる。しかも無償で…。それを約束します。」
「本当ですか?」
「はい、必ず。でも、他言してはなりません。それだけは、約束してください。」
非常に胡散臭い。
「分かりました。」
でも、他に方法が無ければ…、これを敢えて信じるのも一つ。
「では、今夜、会えるのを楽しみにしてますよ。」
そう言うと、イーヴリンは、その場を後にした。
みなも達が控室を出た。
決勝戦進出に、全員、意気揚々としていた。当然であろう。
通路のT字のところを出口に向かって曲がったところで、殺気を放つ人物が待ち構えていた。臨海女子高校の中堅、アグネスだった。
「ミナモ・ニーマン!」
いきなり、アグネスが拳を振り上げ、みなもに襲い掛かった。ナイフを所持していないだけマシだが…。そして、アグネスが拳を振り下ろした丁度その時、
「ボカッ!」
閑無が、みなもの前に割り込み、アグネスの拳を自らの頬で受けた。責任者として、みなもを庇ったのだ。
「おお、痛てぇ。お前は、臨海女子の…。突然、何をするんだ?」
「邪魔するな!」
再びアグネスが、みなもに殴りかかろうとした。
閑無は、またもや、みなもを庇ってアグネスの拳を受けた。ただ、閑無は決して殴り返そうとはしなかった。
昔の閑無なら、とっくに殴り返していただろう。ただ、大人になってズルくなった。被害者であることを貫き通すため、敢えて殴り返さないでした。
それに、閑無は男子顔負けの体力を誇る。身体も頑丈だ。成年男子のこぶしなら致命傷になりかねないが、これくらいの拳なら、彼女には別に大したことはなかった。
「(さすがにハエが止まるよりは痛いな…。でも、そんな激イタじゃない。杏果の蹴りのほうが、よっぽど痛いわ…。)」
閑無は、そんなことを考えていた。結構余裕があるのかもしれない…。
ここに、近くにいた警備員達が駆けつけてきた。
「大丈夫ですか!」
「大丈夫じゃないって。こいつを取り押さえてくれ。」
「はい。」
警備員の1人が、アグネスの腕を掴んで止めた。さすがに、男性の力には敵わない。すぐに取り押さえられた。
閑無が、もう1人の警備員に言った。
「彼女は臨海女子の選手だ。済まないが、臨海女子の監督を呼んでくれないか?」
「はい!」
警備員が本部のほうに連絡を入れた。警備員が、いちいち各校の監督の電話番号を知っているわけがない。本部に臨海女子高校監督のアレクサンドラへの連絡を依頼したのだ。
この頃、アレクサンドラをはじめ、臨海女子高校のメンバーは、対局室にいた。いまだに、ネリーが俯いて固まったまま動こうとしなかったためだ。
臨海女子高校レギュラーメンバーで、その場に居なかったのは、アグネスだけだった。
対局室備え付けの電話が鳴った。それにスタッフが出た。
「はい、こちら対局室…。はい、いますが…。少々お待ちください。」
そのスタッフが、送話口を手で押さえた。
「臨海女子の監督さんですよね。」
「は、はい?」
「大会本部から連絡です。」
「本部から?」
いったい、何の用だろう?
アレクサンドラは、余り良い予感はしなかった。呼び出しを喰らうと言うのは、たいてい宜しくないイメージのほうが強い。
アレクサンドラがスタッフから受話器を受け取った。
「はい。臨海女子監督のアレクサンドラですが…。」
「おたくの選手がですね…。」
予感が当たった。アレクサンドラは、アグネスが清澄高校に暴行を働いたとの知らせを受けたのだ。
「わ…分かりました。では、今すぐに…。」
泣きたくなった。ネリーと言いアグネスと言い、臨海女子高校の選手は全く…。
しかし、ここで泣いてもいられない。
「アグネスが、清澄の監督を殴ったらしい。」
「えっ?」
ネリーが顔を上げた。
「アグネスが?」
「今、大会本部のほうに連れて行かれたそうだ。今から、私はそっちに行ってくる。みんなは、先に帰ってきてくれ。ただ、ネリー。」
「な…なに?」
「おまえは、私と一緒にくるんだ。どうやらアグネスは、本当は、みなもに殴りかかったらしい。例のドイツでの件が絡んでいる。おまえも来るように言われた。」
「わ…分かった。」
アレクサンドラは、
「(非常に面倒なことになったな…。)」
そう思いながら、ネリーを連れて対局室を急いで出て行った。
それから数分後、アレクサンドラが、
「失礼します。」
大会本部の部屋のドアを開けた時、アグネスは部屋の隅の椅子の上で、縮こまるように座っていた。
そこには、閑無と恭子とみなもの姿があった。清澄高校の、他のメンバーは宿舎に帰らせたようだ。
また、そこにはトシの姿があった。閑無と恭子から栄子の話を聞いた後、そのまま会場に残っていたのだ。
アレクサンドラは、部屋に入って早々、頭を深々と下げた。
「状況は聞きました。今回は、うちのアグネスが、大変なことをしてしまい、スミマセンでした。」
「まぁ、やちゃったものは、しょうがないねぇ。でも、地下麻雀に絡んでいた者が臨海女子に2人もいたとは驚きだね。このアグネスって子が話してくれたよ。」
トシは、やんわりとした口調だった。ただ、何を考えているのかはアレクサンドラには読み取れなかった。
「それにしても、地下麻雀に恨みを持つ人間2人の距離を縮めてしまったのは、監督としてマズかったねぇ。恨みを持つことが、互いのコミュニケーションの中で正当化される。そして、歯止めが効かなくなる。」
「は…はい…。」
アレクサンドラは、ここに来るまでの間に覚悟を決めていた。不祥事を起こしたのだから仕方がない。
「本当に、スミマセンでした。こうなった以上、明日の5位決定戦は、臨海女子は棄権させていただきます。」
すると、トシは、
「それをされちゃ、困るんでねぇ。」
と答えた。
「何故ですか?」
「臨海女子が棄権したら、何故棄権したかをマスコミに探られるだろう。そうしたら、地下麻雀のことを掴まれる可能性があるからねぇ。」
「では、アグネスとネリー。この2名の参加を見合わせると言うのは…。」
「まぁ、今日の戦績からメンバーを代えたとするならばイイけどね。でも、ニーマンのことをスッパ抜かれる方向にだけは持って行かないで欲しいんだよ…。」
麻雀は、今までダーティなイメージが付きまとっていた。それが、やっとイメージアップ出来てきたところだった。それが、もし地下麻雀のことが知られたら…、再び麻雀のイメージは地に落ちるのは明白だろう。
これまで、多くの人達の努力でイメージアップを図ってきた。トシは、それを無駄にしたくはなかったのだ。
「では…。」
「無罪放免と言うわけにはいかないけど、このアグネスとネリーには、みなもと一緒に協力して欲しいんだよ。」
すると、ネリーが、
「それは、ネリーにはムリ。みなもと仲良くなんてできない。」
と言った。地下麻雀での出来事を、何も無かったことにはできない。
ただ、トシは、こう答えるであろうとことを大体予想していた。
「まあ、そう言うだろうとは思っていたけどね。でも、私に言わせれば、地下麻雀に出たこと自体が悪い。自業自得だよ。勝てば名が売れて、負けても大金が手に入るってそそのかされて、ホイホイついていったんだろう?」
「うっ…。」
「今更、思っていたのとは違うって言っても、それは筋違いってもんさ。イイこと尽くめの話なんて、ありえないんだからさ。そんな話、絶対に裏があるに決まってるさ。」
これには、ネリーも反論できなかった。
「折角の機会なんでね。この際、日本麻雀協会として、みなも、アグネス、ネリーの3人には、地下麻雀で知っていることを色々と聞かせてもらうよ。それで、今回の件は無罪放免とする。いいね。」
とは言っても、結果からすると、この3人からは、余り大きな情報は得られなかった。
アグネスは、実際に地下麻雀に参加していたわけではないし、ネリーも仲間の敗退で自分の大切なモノを大金と引き換えに失っただけだ。
みなもも、地下麻雀の経営側のことを知っていたわけではなかった。
唯一、
「地下麻雀のトップは、ニーマンじゃなくて、男の人だった。ニーマンは、その男の人に命令されていたみたいだった…。」
と、みなもから聞かされたことが、新しい情報だった。
この頃、Bブロックは、中堅戦後半戦に入っていたが、白糸台高校と阿知賀女子学院が、意外にも朝酌女子高校と新道寺女子高校に押されていた。
白糸台高校は、黄金時代のメンバーは淡だけ、阿知賀女子学院の黄金時代メンバーは穏乃と憧だけ。
淡と穏乃は大将に配置されており、中堅戦までに顔を出した有名どころは、憧(先鋒)だけだった。両校とも、その3人以外は、前と比べて戦力ダウンしているというのが、世間の勝手な評価だった。
白糸台高校には、多治比真祐子の妹多治比麻里香(中堅)や、佐々野いちごの妹佐々野みかん(先鋒)もいた。2人とも実力のある選手だが、清澄高校と比較すると、どうしてもネームバリューで劣っていた。
しかも、残る2人…次鋒の宇野沢美由紀(照の一級上の先輩宇野沢栞の妹)や、副将の大場加奈子は、秋季大会からの出場で完全に無名だったし、秋季大会での活躍も芳しくなかった。そのことも、総合力が低下したと判断される材料になった。
阿知賀女子学院も、小走やえの妹小走ゆい(中堅)や、初瀬(次鋒)もいたが、やはり清澄高校にはネームバリューでは敵わなかった。
残る1人の選手、浦木里奈子(副将)は、やはり秋季大会から出場の選手で、美由紀や加奈子と同様に秋季大会での活躍がいま一つだった。
たしかに清澄高校だと、
東風の神、片岡優希、
南場の鬼神、南浦数絵、
デジタルの化身、原村和、
北欧の小さな巨人、宮永みなも、
日本の守護神、高校生1万人の頂点、嶺の上の女王、宮永咲…。
レギュラー全員に二つ名がついていた。
結局、世間の評価は、名前が浸透しているかどうかだった。なので、大将戦に入り、淡と穏乃の活躍を目にすると、世の人々は白糸台高校と阿知賀女子学院の活躍に期待するように変わる。
どうやら、名前を聞いて安心できるかどうかが大きいようだ。
Bブロックは、大将戦で淡と穏乃が圧倒的な力を見せつけ、白糸台高校と阿知賀女子学院が決勝に進出した。
その日の夜、留美子は、指定されたホテルの一室に通された。
既に、そこには先客がいた。その制服から、その先客は白糸台高校の生徒だと言うことは、すぐに分かった。
彼女は、白糸台高校副将の加奈子だった。加奈子は、膝立ちになり、胸の前で両手を合わせていた。まるで祈りを捧げているかのような感じに見えた。
加奈子の前には、小~中学生くらいに見える可愛らしい女の子が立っていた。彼女は、ニーマンに連れ去られたはずの夢乃マホだった。
マホは、両手を加奈子の両肩に置いた。
「では、これから半荘二回だけですが、あなたは神代小蒔になります。」
突然、留美子は、まるで空間が歪むような錯覚に陥った。傍で見ていただけなのに…。
良く分からないが、目が回る感覚があった。
この時、マホの両手からは強烈な光が放たれていた。そして、
「ドスン…。」
人が倒れたような音を立てると、マホの手の輝きはおさまった。
「では、加奈子さんでしたよね。」
「はい。」
「この力は、明日の試合のためだけに使ってください。」
加奈子が、ゆっくり立ち上がった。
留美子と加奈子には面識が無かった。当然、互いに見られたくなかった。
2人は、一瞬目が合ったが、すぐに互いの視線を逸らした。
そのまま、加奈子は部屋から出て行った。
「次は、たしか永水の方でしたね。お名前は…。」
「越智留美子です。」
「留美子さんですね。ええと、神代小蒔は、さっきの人が借りてっちゃいましたから、他の能力になります。誰になりたいですか?」
「宮永咲に…。」
「ええと、宮永咲と小鍛治健夜の麻雀だけは、本質が見えなさ過ぎて超劣化コピーしか与えられないんですぅ…。これだと、絶対に宮永みなもには勝てないと思うんですよ。もう少し本質の判っているコピーのほうがよいとマホは思いますよ。」
「…では、宮永照を…。」
「分かりました。ただ、照魔境だけは、マホにも見えないので、連続和了だけでもイイですか?」
「十分です。」
「分かりました。では、膝立ちして胸の前で両手を合わせてください。」
そう。これは、さっき加奈子がやっていたのと同じ姿勢だ。
留美子の両肩にマホの手が乗せられた。
「ギュィーーーーン…。」
さっきは聞こえなかった音が、耳のすぐ近くでしている。マホの手から出ている音だ。
そして、加奈子に小蒔のコピーを渡しているのを見ていた時よりも、より激しく空間が歪む感覚に陥った。傍で見ていて目が回ったのだから、当事者ならば、もっと激しくても当然か…。
吐き気がする。しかし、これで麻雀が鬼のように強くなれるはず。みんなに迷惑をかけないで済むようになる。我慢だ。
そして、
「ドスン…。」
今回も、人が倒れたような音がした。ただ、これは、マホの両手から自分の体内に何かが送り込まれた衝撃によるものだと留美子は確信した。
身体中が、今までにないエネルギーに満ち溢れている感触がある。しかも、五感が鋭くなっているようにも思える。今なら、誰が相手でも…自分の後輩の明星にも確実に負けない自信がある。
「では、留美子さん。」
「はい。」
「この力は、明日の試合のためだけに使ってください。いいですね。それより前に使ってしまうと、試合で使えなくなっちゃいますから。」
「はい…。」
「では、明日の試合、頑張ってください。マホも応援してます!」
留美子がマホに一礼した。そして、部屋を出ようとしたとき、今度は阿知賀女子学院の制服を着た女性と擦れ違った。
留美子は、その女性と目を合わさないようにして部屋を出て行った。
「阿知賀女子学院の浦木里奈子さんですね。」
「はい。」
「あなたは、誰のコピーが…。」
「治水状態の、龍門渕透華を…。」
「でも、あれ、もの凄く浦木さんの体力を使いますけどイイですか?」
「はい…。背に腹は代えられません…。」
「判りました。でも、倒れないでくださいね……。」
コピー貸与の儀式は、まだ続くようだった。
ネリーのチョンボは、みなもが説明したとおりです。結構厳しいように思えますが、それがルールですので…。
大鳥居の倒壊は、それが今年あったことを書き記しておきたくて、今回、無理やり入れました。
そもそも、副将を留美子に置き換えるのですから、加々美の登場自体、特段意味はありません。
また、説明するまでも無いかと思いますが、
越智留美子は「落ちる巫女」
大場加奈子は「大馬鹿な子」
浦木里奈子は「裏切りな子」
です。
今回の春季大会以外には多分出ません。