留美子が宿舎に戻ってきた。
春は、留美子の雰囲気に違和感を覚えた。特段霊力のない留美子から、普段感じられないエネルギーが放たれていたからだ。
善からぬ者の気配…。恐らく、この感じは間違いない。
春は、すぐにテレパシーを送った。
「(留美子に異変あり…。)」
すると、
「(ハルル…。)」
「(姫様!)」
「(今は、様子を見てください。九面の神様は、犠牲者は出さずに守ると仰っています。ハルルも、明星ちゃんも、湧ちゃんも、ことを焦らず、今は見守ってください。)」
「「「(分かりました。)」」」
「(私も、霞ちゃんといっしょに、明日には、そちらに向かいます。)」
既に、小蒔は何が起ころうとしているのかを予知している様子だった。
翌日、大会6日目は、決勝戦開催日。
決勝戦の前に5位決定戦が行われた。
5位は臨海女子高校、6位が粕渕高校、7位が朝酌女子高校、8位が新道寺女子高校に決まった。
トシに言われて臨海女子高校は辞退せずにベストメンバーで出場した。昨日の事件は、なかったことになっていた。
5位決定戦終了後、対局室に決勝戦出場校の選手全員が集まり、一礼した。その中には、栄子の姿もあった。やはり、数絵は今日もダウンしていた。
また、留美子は、加奈子と里奈子の顔を見て驚いていた。勿論、加奈子と里奈子も留美子の顔を見て驚いていた。しかし、3人とも、特に声には出さずにいた。
この時、みなもは、
「(あれ? 椿加々美さん、いないけど、どうしたんだろう?)」
加々美の姿が無くて残念そうだった。
そのまま、対局室に先鋒の選手…清澄高校の原村和、永水女子高校の石戸明星、阿知賀女学院の新子憧、そして、白糸台高校の佐々野みかん…を残し、他の選手達は控室に戻された。
原村和は、現在の高校麻雀界の誰もが認めるアイドル的存在。石戸明星も、整った顔立ちと、ひときわ目立つ胸で多くの人々の視線を釘付けにしていた。
新子憧は、小悪魔的な美しさからファンも多く、また佐々野みかんは、姉の佐々野いちごに似て痩身美人だった。
まさに、各校の綺麗どころが対局室に残り、報道側…特に男性カメラマン達は、大賑わいだったらしい。
場決めがされた。
起家は憧、南家に和、西家が明星、みかんは北家になった。
サイが振られ、いよいよ決勝先鋒前半戦、東一局がスタートした。
その日、泉は会場観覧席の後ろのほうで立っていた。
決勝戦を映し出す会場の巨大モニターを見詰めながら、泉は大きく落ち込んでいた。
「(結局、2回戦敗退。原村にも、永水のお…。)」
泉は、『おっぱいオバケ』と言いそうになった。
「(じゃなくて、1年生にも歯が立たずか…。園城寺先輩や清水谷先輩、江口先輩に合わせる顔がない…。)」
自分が1年生のときのトリプルエースは偉大だった。
姫松高校には江口セーラのライバル愛宕洋榎が、三箇牧高校には千里山女子高校のトリプルエースすら凌ぐ荒川憩がいた。
まさに、大阪最強の時代だったであろう。それが、たった二年で落ちるところまで落ちた感じがしてならない。自分が不甲斐ない。
決勝先鋒戦を戦う和の姿がモニターにデカデカと映し出された。
あの場所にいたかった。しかし、それだけの力がないことを泉は痛感していた。もう、自分が『最強と呼ばれる範疇』には無縁であることを認めざるを得ない。
「二条泉さんですね。」
見知らぬ外国人に、泉は声をかけられた。
「はい。そうですが、どなたですか?」
「私は、麻雀があっという間に強くなる方法を知る者です。」
その女性は、イーヴリンだった。
「はぁ? そんな都合のイイことあるわけないでしょう?」
「それが、あるんです。今日、それを証明して見せます。今日の試合で、もし副将戦まで辿り着いたらですけどね。」
「でも、副将戦になったら、宮永みなもが、あっという間に勝負を着けるんとちゃいますか?」
「昨日まででしたらそうです。しかし、今日の阿知賀副将浦木里奈子は、あの宮永みなもを追い詰めた時の龍門渕透華と同じような打ち方を披露します。体力的に、前後半戦全部と言うわけには行かないかもしれませんが、少なくとも前半戦は、イイ試合をすると思いますよ。」
「そんなわけ…。」
「それだけではありません。白糸台の大場加奈子は神代小蒔、永水女子は訳あって補員の越智留美子が副将戦にでますが、彼女は宮永照と同じような打ち方をします。」
「信じられませんわ。それに、永水は補員が出るって、なんでそんなことが言えるんですか?」
「100パーセント、全てを知る者だからです。日本には、百聞は一見にしかずと言う言葉があるそうですね。なら、自分の目で確かめてください。そして、それが真実と思えたら、ここに連絡してください。ただし、一切他言はしないこと。それが条件です。」
イーヴリンは、連絡先を書いた紙を泉に渡すと、会場から出て行った。
泉がモニターに目を向けた。既に前半戦オーラスだった。
「ツモ! 3000、6000!」
明星が得意の混老七対子(25符5翻とするルール)をツモ和了りした。
先鋒前半戦は、明星の1人勝ちだった。
東一局、憧の親では、和が1000、2000の手を和了った。
東二局、和の親では、和が2600オールを和了ったが、その一本場で憧が1100、2100を和了った。得意の4000手だった。
東三局、明星の親では、明星が{東}と{白}を立て続けに鳴き、結果的にダブ東白混一混老対々の親倍8000オールをツモ和了りし、大量リードを作った。一本場は、みかんが満貫2100、4100をツモ和了りして自分の親に回した。
東四局、みかんの親では、みかんが2000オールを和了るが、その一本場で憧が3900の一本付けをみかんから直取りした。
南一局は、憧が2000オールを和了った。一本場では、和が1100、2100を和了り、憧の親を流した。
南二局は、明星が4000、8000を和了り、和としては痛い親被りを食らった。
南三局は、和が2000、4000を和了って、さっきの親被りを取り返した。
オーラスでは、明星が3000、6000を和了り、前半戦が終了した。
現在の各校の順位と点数は、
暫定1位:永水女子高校 134100
暫定2位:清澄高校 96900
暫定3位:阿知賀女子学院 86700
暫定4位:白糸台高校 82300
決勝先鋒戦美少女対決は、明星が大きくリードした。
泉は、このスコアを見て、
「(原村に負けずと追いかけていたけど、それを越える1年生…。去年の宮永や大星みたいなのが毎年出てくるってことか…。自分が、そう言った存在であって欲しいと思っていたけど、これが現実…。)」
泉は、いたたまれず会場から出て行った。
そう言えば、一昨年のインターハイの時は、制服で外を出歩いていたら色々な人から声をかけられた。千里山女子の選手としてサインもねだられた。
しかし、今は、そんな身分ではない。
結局、あれは当時のトリプルエースや、その前にいた藤白七実、他の諸先輩方によって築き上げられた人気であって、自分自身が作ったものではなかった。そういうことが、今になると嫌と言うほど良く分かる。
泉は、何気なく近くの喫茶店に入った。
「アイスカフェオレを。」
「はい、かしこまりました。」
店内のテレビを客の1人がつけた。
画面に映し出されたのは、さっき、嫌になって逃げてきた高校女子春季麻雀大会団体戦の様子だ。
泉としては見たくない。しかし、何故か見てしまう。基本的に麻雀が好きなのだ。だから、見たくないと思っても、どうしても目が行ってしまうのだ。
注文もしてしまったし、泉は一先ず、そこからテレビを眺めていた。
既に、先鋒後半戦は南三局、架橋に入っていた。
親は憧、南家は明星、西家は和、北家はみかんだった。
ここまでの経緯をアナウンサーが話していた。
どうやら、東一局、和の親では、和が1000オールを和了したが、一本場で明星が倍満をツモ和了りしたらしい。
東二局では、憧が1000、2000を、東三局では和が1300、2600を、東四局では、みかんが2000、4000をそれぞれ和了した。
南一局では、憧が1000、2000を和了り、続く南二局では、和が1300、2600を和了ったようだ。
そして、南三局、憧の親番。
ここでは、明星の配牌が、比較的ヤオチュウ牌に偏っていた。ただ、{[⑤][⑤]}の対子を最初から持っており、これらを捨てずに手を進めていた。そして、七対子聴牌。
「ツモ! 七対ドラ2。2000、4000!」
明星が満貫をツモ和了りした。
オーラス、明星の親番。
誰もが思う。この親を和了らせてはならない。
解説者、小鍛治健夜が何か言っている。
「永水女子の石戸選手。準決勝では、東横選手への振込みが目立ちましたが、この決勝戦での振り込みは、前半戦東四局一本場の4200だけでした。」
「でも、インターハイでは、結構宮永姉妹にやられてましたけど。」
アナウンサーの福与恒子の声だ。
「はい。あれが、石戸選手の弱点でした。インターハイでは、端牌での振り込みが目立ちましたが、この春季大会…特に決勝戦では、そこを修正してきている感じがします。」
泉は、
「(あんな化物にも弱点なんてあったんか? それを克服って…。)」
自分よりも才能のある者でも弱点があり、それを克服する努力をしている。こう言った話を聞くと、
『自分も頑張らねば。』
と思う人もいるだろう。しかし、泉は、
「(そんな奴に努力されたら、ますます敵わなくなるやん。)」
より現実的な考えを持っていた。まさに、そのとおりである。
店員がアイスカフェオレを持ってきた。
泉は、ストローを挿し、それをゆっくり飲み始めた。
どうせ、明日の個人戦までヒマだ。個人戦でも勝てる気がしないし…、今は、ゆっくりしよう。
「ツモ! 1300、2600!」
オーラスは、連荘させずに、みかんがタンピンツモドラ1を和了った。
これで、各校の順位と点数は、
暫定1位:永水女子高校 147600
暫定2位:清澄高校 94600
暫定3位:阿知賀女子学院 79100
暫定4位:白糸台高校 78700
結局、決勝先鋒戦美女対決は、前半戦の順位は変わらず、明星の大勝利で幕を閉じた。
十分後、次鋒戦が開始された。
起家は毎度の如く優希、南家は狙ったかのように春だった。西家は白糸台高校の宇野沢美由紀、北家は初瀬だった。
東一局、優希の親。ドラは{八}。
「ダブルリーチだじぇい!」
打{9}で、いきなりのダブルリーチ。昨年、一昨年のインターハイ決勝戦を髣髴させる。しかし、これを春が、
「チー!」
一発消しで鳴いた。そして、打{西}。
美由紀は、一先ず{南}切りで通した。
初瀬は、チュンチャン牌をツモったが、現状、確実に安牌と言えるものは無かった。
春は、
「({1}を捨ててくれれば助かる…。)」
そう念じていた。
準決勝戦では、粕渕高校の次鋒坂根理沙が、勘を働かせて春の鳴ける牌を捨ててくれたが、残念ながら初瀬には、そう言った感覚は無かった。勉強はできるが、常に自分しか見えない、自分しか見ていない世界で生きてきたためかもしれない。
受験戦争ならば、それで良いだろう。しかし、麻雀の団体戦では、必ずしもそうではない。自分が1位を取れるのが理想だが、どうしても敵わない相手がいる時は、別の考え方も必要である。まさに、春がやろうとしていることが、それに当たる。
{1}は持っていた。しかし、結局、打{北}。これは、春には鳴けなかった。
そして、優希のツモ。
「ツモ。ダブルリーチツモタンヤオ平和三色ドラ3。8000オール。」
開かれた手は、
{五[五]六七八④[⑤]⑥⑦⑧678} ツモ{③} ドラ{八} 裏ドラ{①}
春の予測では、一発ツモは{⑥}。これだと、一発もついて三倍満になる。これは春が鳴いて阻止した。ただ、初瀬が鳴かせてくれれば、優希のツモは{⑨}になり、ハネ満まで下がるはずだった。
案の定、山を崩す時に、何気にツモ牌を確認したが、春の予想したとおりだった。
東一局一本場、優希の連荘。
ここで、何も起こらないことを春はひたすら祈った。しかし、
「天和。16100オール!」
決勝戦前半戦、お約束の天和が炸裂した。これで、清澄高校が一気に逆転した。
これには、恒子も大興奮状態だった。
「まさかの天和。しかも、昨年インターハイ、一昨年インターハイに続いての三度目の天和。これを狙ってできるのかー!」
喫茶店のテレビで見ながら、泉もこれには驚いていた。
「(なんなんだ、こいつ? 運のイイ奴だな…。)」
丁度、この時、
「なんだ、ここにいたのか。」
聞きなれた声がした。
声のする方を振り返ると、愛宕雅恵監督がそこに立っていた。
「相席するぞ。」
「は…はい。」
「しかし、会場から抜け出て、なんでこんなところに?」
「なんか、自分が不甲斐なくて、会場で原村の試合を見るのが辛くなって…。」
「それで、ここにきたっちゅうことか?」
「はい、済みません。」
「まあいい。それでだな、さっきの天和を見てどう思ったか聞かせてくれへんか?」
「なんか、運のイイ奴だなと…。」
「そう思っとるうちは、原村どころか、この片岡にも勝てへんで。」
ただ、泉には、雅恵の言葉の真意が分からなかった。
東一局二本場、ドラは{④}。
優希は、配牌聴牌だった。
{三四五②②③③④677789}
ただし、ドラ待ち。ここから優希は、打{9}だが、リーチはかけなかった。
これを見て、雅恵が言った。
「ほう、考えたな。」
泉には、これも意味が分からなかった。
「なんでです? これならダブリーじゃ…。」
「ただ、ダブリーをかけると永水が動く。それで安目をツモらされたら満貫や。」
案の定、優希は、2巡目で{④}をツモった。
「タンピンツモ一盃口ドラ2。6200オール。」
これを見て、雅恵は、
「(予想通り!)」
とでも言いたいそうな顔をしていた。
東一局三本場。
そろそろ、優希のタコスパワーも落ちてくる。前局でリーチをかけなかったのは、タコス力を無駄に使わないためでもあった。
この局は、初瀬に、配牌から北面前混一色チャンタドラ2が見えていた。ただ、これが顔に出ていた。
優希は、
「(タコス力が弱まった途端に、これだじぇ。上家よりも下家か対面に和了ってもらったほうがマシかもしれないじょ。)」
優希が{西}を捨てた。
「ポン!」
これを美由紀が鳴いた。
その後も、美由紀は鳴き、3副露した。そして、
「ツモ! 2300、4300!」
満貫をツモ和了りした。
東二局、春の親。
この局は、
「ポン!」
美由紀も早々に動き始めた。
「ポン!」
自風の{南}と{白}を鳴いた。そして、南白混一色対々を聴牌した。
一方、優希は{⑥⑨}待ちの平和のみの手を聴牌していた。
「(これに、永水か阿知賀が差し込んでくれればいいんだけどな。)」
2位の春は、これに差し込みたかった。しかし、残念ながら、こう言う時に限って{⑥}も{⑨}も持っていなかった。
初瀬は、{678}と{789}の三色を両天秤する手だったが、まだ二向聴だった。手には{⑥⑧⑨}と持っていたが、相変わらず自分が和了ることしか考えていなかった。
結局、初瀬からは優希の和了り牌は出てこなかった。
「ツモ! 3000、6000!」
結局、美由紀が和了った。
東三局、美由紀の親番。ドラ{東}。
配牌時点で、美由紀は暗刻が1つに筒子の対子が4つできていた。しかも暗刻は{東}で、対子の1つは{[⑤][⑤]}だった。
当然、ダブ東混一対々ドラ5を狙う。
それを察知してか、優希は、春に{白}を鳴かせた。
「ポン。」
さらに優希は、春に順子を鳴かせた。
「チー!」
晒されたのは、{横123}。
この時、春の手は、
{一二三七八11} ポン{横白白白} チー{横123}
{六九}待ちで、しかも高目で2000点の手。流す手であることを周りに知らせていた。
初瀬は、{五六八九}と持っていた。三向聴で、親と勝負する手ではなかった。しかし、春に差し込むところまで頭が回っていなかった。
優希は、振ろうとして筒子以外の端牌を切ったが、{六九}だけ持っていなかった。
そうこうしているうちに、
「カン!」
美由紀が、{⑥}を暗槓した。
槓ドラは、{二}。打{四}。
次巡、優希は{九}をツモってきた。
「(高目だけど、仕方がないじょ。)」
優希が春に{九}を差し込んだ。
「ロン。3900。」
阿知賀女子学院控室では、この様子を映像で見ながら、憧が、
「あの、馬鹿初瀬ぇ~…。」
イライラしていた。
東四局、初瀬の親番。ここは、初瀬としては、連荘して稼ぎたいところ。ただ、その気持ちが余りにも強過ぎた。
初瀬は、連荘狙いで自分の手を最優先し過ぎていたため、捨て牌が甘くなっていた。
そのため、
「{白}、ポン!」
美由紀に初瀬の捨て牌が鳴かれた。そして、
「{發}、ポン!」
さらに、
「{北}、ポン!」
初瀬は字牌を三つも鳴かせてしまった。
これを見て優希が、
「チー!」
クイタン狙いで鳴いた。そして、優希の捨て牌を、
「ポン。」
春が鳴いた。優希と春の目論見みは安和了り。
しかし、初瀬の目には、
「(3人して、私の連荘を流す気?)」
としか映っていなかった。
優希も春もなんとか聴牌した。優希は、クイタンのみ、春はクイタンドラ1。ともに安手だった。
あとは、どちらかがツモ和了りするか、それとも差し込むかのどちらかだった。
しかし、初瀬は、とにかく振らずに手を進めることしか頭に無かった。結局、
「ツモ! 4000、8000!」
美由紀に倍満をツモ和了りされた。
南入した。
南一局は優希の親番。
ここからは、優希は、ひたすら守りに入る。
美由紀は、まだ鳴きを仕掛ける。しかし、それで、美由紀の下家の初瀬のツモ番が増えたのは幸いだった。結果的に、初瀬が聴牌できた。
「リーチ。」
初瀬の初リーチだった。そして、
「一発ツモ、タンヤオドラ1。2000、4000。」
待望の満貫を和了れた。
南二局、春の親番。
この局も、美由紀が鳴きを仕掛けた。その結果、前局と同様に初瀬のツモ番が増え、手が進んだ。そして、
「リーチ。」
再び、初瀬がリーチをかけた。
一発ツモは無かったが、数巡後に
「ツモ。2000、4000。」
連続で満貫を和了れた。
南三局、美由紀の親番。
優希も春も、この親を速攻で流すことだけを考えていた。安くてイイ。ここで、高い手を連荘で和了られることだけは避けなければならない。
美由紀は、
「ポン!」
速攻で鳴き、手を進める。東南ドラ2赤2のハネ満が狙えそうな手。
優希も、春に鳴かせた。
「ポン。」
そして、優希が春に差し込んだ。
「ロン。2000。」
オーラス。初瀬の親番。
ダンラスの初瀬としては、ここで稼ぎたい。しかし、
「ポン!」
東四局の時と同じで、初瀬の捨て牌が甘くなり、美由紀にガンガン鳴かせまくってしまった。その結果、初瀬から美由紀は三回鳴いて聴牌。それも倍満手だった。
優希と春は、結託して互いを鳴かせたが、美由紀のほうが、聴牌が早かった。結果、
「ツモ! 發中混一混老対々。4000、8000!」
まるで、明星のような手を美由紀はツモ和了りした。
これで次鋒前半戦が終了した。
各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 153700
暫定2位:永水女子高校 103200
暫定3位:白糸台高校 97300
暫定4位:阿知賀女子学院 45800
清澄高校と白糸台高校が大きく稼いだ。一方、永水女子高校と阿知賀女子学院が大きく削られる結果となった。
阿知賀女子学院控室では、
「(全く、自分の手しか見えてないんだから!)」
憧の怒りが爆発寸前…、いや、爆発していた。
こんな打ち方を続けられたら、白糸台高校に高い手のツモで削られ続けてしまう。
一方、清澄高校の片岡優希は東風の神と呼ばれる選手だが、インターハイで戦った限りでは、さすがに天和を後半戦でも出してくるわけではない。後半戦の東場でも高い爆発力を見せる可能性は一応否定できないが、今までのパターンからすると、恐らく守りに出るだろう。
永水女子高校の春も守りの選手。
ならば、阿知賀女子学院としては、清澄高校と永水女子高校と結託して守りつつ、チャンスを見て稼ぐ。狡猾な憧なら、そう言った作戦に出る。
「ちょっと、初瀬に説教してきます。」
憧が、感情を露わにした表情で控室を飛び出そうとした。
すると、これを晴絵が止めた。
「ちょっと待て、憧。」
「どうして、晴絵?」
「ひとまず、落ち着いて。」
「だって、落ち着いてなんか…。」
「初瀬のメンタル面に影響するとマズイ。細かい指導は後にするようにして、今は、宇野沢に鳴かせ過ぎないようにだけ注意して欲しい。それ以外のことは、今はいい!」
「分かりましたぁ~。」
不機嫌な表情で、憧は控室を出て対局室に向かった。
憧が対局室に入ると、既に優希のところに、みなもが来ていた。
みなもが、憧に気付いた。
「休憩中に憧が来るとは思わなかった。」
「一応、伝言を頼まれたんでね。」
「そうなんだ。まあ、まだ後半戦があるし、また後でね。私は、一先ず控室に戻るから。じゃあ。」
そう言うと、みなもは対局室から出て行った。
憧は、
「あのね、初瀬…。」
初瀬に晴絵から言われたことだけ小声で伝えた。
麻雀は、メンタルが大きく左右することもある。細かい注意は、今、下手に行うと逆効果になる可能性もあるだろう。落ち着いて考えると、たしかに晴絵の言うとおりだ。
憧は、大会が終わってから、初瀬には反省点を告げることにした。