会場近くの喫茶店では、前半戦を見終わって、雅恵が、
「なあ、泉。この半荘を見てどう思う?」
と泉に問いかけた。
「阿知賀が白糸台に鳴かせ過ぎですわ。自分の手しか見てないんじゃないですか?」
「その通り。この半荘での宇野沢の稼ぎは、全て阿知賀がプレゼントしたみたいなもんや。対する清澄や永水は、そこを巧く立ち回ろうとした。」
「それは、見ていて分かります。」
「ああ。麻雀に関しては、泉もそれが分かってる。ただ、麻雀プレイヤーの人生として考えた場合、泉も似たようなもんやった。自分しか見えてない。周りを正当に見ようとしない。ただ、それを認めざるをえなかたんやろ。だから、会場から逃げてきた。」
「そうです。今まで、自分が同学年以下で最強でありたいと思ってました。だから、原村に勝ちたかったですし、誰にも負けたくはありませんでした。」
「しかし、それ以上の怪物がぎょうさん現れた。しかも、下級生にまで。」
「はい…。それは、前から認めておりましたけど、やっぱり、心のどこかで認めたくなかったんです。でも、今日、それを心底理解して…。そうしたら、自分の価値が無意味なものに思えて、それで逃げてきたんです。」
勝気な泉の目に、涙が溢れてきた。
「まあ、なんとなく分かるわ。ただ、前半戦最初に、清澄の片岡が天和を和了った時、泉は『運のエエ奴』くらいにしか思えんみたいに言うたなぁ。」
「そうです。いくらなんでも、天和を狙って出すなんて不可能です。」
「でも、それが片岡にはできる。」
「えっ?」
「ただ、毎回って訳やないがな…。どうも、東場での勢いの波があるみたいや。その波が決勝戦で最高のところに来るよう、自己管理しとるみたいやで。」
「そんなことって、あるんですか?」
「実際に見たやろ、天和。」
「そうですけど、狙って出すなんて。」
「できるから、昨年、一昨年のインターハイと、今回の試合で出しとるんや。決勝戦は、一番強い奴らが出てくる。だったら、そこで48000点、ただで和了れたほうがチームのためになるやろ。」
「それは、そうですが…。」
「やから、片岡は、その道を選んだ。自分のためやなく、チームに貢献するために自己管理し、天和を和了っとるんや。やから、どんなに麻雀を打ちたくても、打たない日があるって話や。管理のため、対局数制限をかけてるそうやからな。」
「信じられませんが…。」
「ただ、この千里山にいて、怜みたいなんも見とるやろ。それに、うちの洋榎のディフェンスみたいなのもある。」
「はい。信じられない能力がたくさんあるのを見てきました。」
「それと同じやで、片岡の天和は。周りからは理不尽としか思えへんけどな。」
「でも、そんな情報を何処から?」
「監督会議でな。閑無…清澄の監督から聞いた。どうせ誰にも破る事のできへん能力やからな。あの宮永照と辻垣内智葉でさえ止められへんかった天和やしな。まあ、天和じゃ止めようがないけどな。」
「そ…そうですね。」
「まあ、泉は、自分に何ができるかを、もう一辺考えてみたらどうや?」
「はい…。」
「あとな。誤解しないで欲しいんやけど、怜、竜華、セーラの代は特別や。その二つ前は、絶対的な強さを誇るんは藤白だけやったし、それより前やと…小鍛治の代の『椋千尋』まで飛ぶで。」
「…。」
「今の千里山は、たしかに二年前よりは弱い。でもな、例年の平均的な強さはあるで。昨年春からイイ成績がだせてへんのは、早くから清澄に当たるからや。」
「たしかに、そのクジ運の悪さは認めますわ。」
「やから、これ以上、自分を責めるんは、やめとき。」
「分かりました…。ああ、そう言えばですね、例えばですけど。」
「なんや?」
「麻雀が強くなる薬なんてものがあったら、監督は飲みますか?」
「なんか、けったいな話やな。どこからそんな話が出たん?」
「いえ、なんとなく思っただけです。そんなんがあったら、怪物相手でも勝てるんではないかって思いまして…。」
「そりゃぁ、飲んでみたいわ。ただし、副作用がなかったらの話やがな。」
「それは、そうですね。」
ただ、この時、泉の心は、イーヴリンに会場で聞かされた言葉に揺れ動いていた。
本当に、この団体決勝戦で宮永みなもと対局する者達が、宮永照、神代小蒔、治水状態の龍門渕透華と同等の力を示せるのか。
最初は胡散臭いとは思っていたが…。
でも、もし、それが本当なら…。自分が取るべき道は、そこにあるのではないか?
もともと自分が最強でありたいと願っていた彼女の中では、次第に、そう思う気持ちが強くなっていた。
決勝次鋒後半戦が開始された。
起家は優希、南家は春、西家は初瀬、北家は美由紀となった。
初瀬は、
「(とにかく、白糸台に鳴かせるなって憧に言われたからな…。白糸台に、安易にポンもチーもさせないようにしないと…。)」
一先ず、憧に言われて、甘い捨て牌は気をつける方針。
前半戦は、美由紀の下家だったので、美由紀にチーされることはなかった。しかし、今度は美由紀の上家である。後半戦は、特に気をつけなければならない。
雅恵は、後半戦開始と同時に、泉に、
「この半荘。まず、片岡はどう出ると思う?」
と予想させてみた。
「一応、東風の神と言われるくらいですからね。やっぱり、まずは和了りにくるんじゃないですか?」
「なら、私は東場も南場も守るほうと予想するわ。宇野沢マークでな。」
東一局は、優希の親だが、和了る気配はなかった。それどころか、優希は春に鳴かせまくり、その挙句、1000点の手を差し込んだ。当然、美由紀はハネ満狙いで一向聴まで手を進めていたが、それを巧くかわした。
東二局は、優希が初瀬に3900を差し込み、続く東三局は優希が春に2000点を差し込んだ。そして、東四局、美由紀の親番。ここは、優希は鳴いて攻めて、1000、2000をツモ和了りし、美由紀の親を流した。まるで、『東風の神』の二つ名のプライドにかけた和了のようにも見えた。
南一局は、優希は春に差し込んだ。はなから連荘する気はなく、むしろ美由紀が高い手を聴牌する前に流す方法を選択しているとしか説明できない打ち方だった。
南二局は、優希がなんとか1000、2000を和了り、南三局、四局は、ともに優希が春に2000点を差し込んだ。
これにより、美由紀をヤキトリで終わらせたのだ。
各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 148800
暫定2位:永水女子高校 109200
暫定3位:白糸台高校 94300
暫定4位:阿知賀女子学院 47700
後半戦の点数の動きは小さく、最大で永水女子高校が6000点増やしただけだった。優希が5000点程度減らし、初瀬は2000点程度増え、美由紀は3000点程度減らした。
阿知賀女子学院控室では、
「あれって、去年のインターハイ決勝戦、後半戦の南場でやったやつと同じじゃ…。」
憧が優希の打ち方を見て、優希の企みを理解していた。
自分の下家の連荘はさせないように、下家の親の時は自分で和了り、それ以外の時は、自分の下家を支援して安手を和了らせる。
前半戦で大量得点をあげた優希ならではの作戦だろう。そして、それを永水女子高校は甘んじて受け入れている感じがした。
この時、雅恵は、自分の予想が当たり、上機嫌だった。
「泉。やっぱり、うちの言うとおりやったやろ?」
「そうですけど、なんで清澄と永水が結託してたんです?」
「簡単な話や。永水が優勝する方法は、先鋒の石戸明星が、あの高火力でどこかをトバすか、もしくは大量リードを作って次鋒では、その点数を守りきり、中堅までにどこかをトバす。それだけや。」
「そんな、極端な…。」
「副将まで回ったら、清澄の優勝しかない。あの副将と大将相手に、勝つビジョンは見出せへんやろ。」
「たしかに、そうですねど…。」
「しかしや。先鋒では石戸が思ったほど稼げんかった。」
「結構なプラスでしたけどね。」
「でも、あれじゃ不十分や。しかも、次鋒では片岡の天和。そして、逆転された。そうなったら、永水の取る道は唯一つ。準優勝すること。」
「優勝じゃないんですか?」
「そう。準優勝や。もともと麻雀は修行の一環くらいにしか考えておらへんみたいやからな。優勝にはこだわっておらへんのやろ。ただ、準優勝するためには、副将戦に入る段階で、2位でいる必要がある。宮永みなもの怒涛のツモ和了があるからな。」
「だから、永水は清澄と結託して白糸台を和了らせない作戦に出たってことですか?」
「そうやろな。」
「しかし、優勝を目指さないっていうのは…。」
「別に麻雀で上に行こうなんて発想がないだけやろ。それに、もし永水が優勝を目指していたとしても、諦めざるを得ない。それだけ、宮永姉妹が強烈ということや。まだ、あの3人…、照、咲、みなもが同じ高校にいなかっただけでもマシやで。」
泉は、ちょっと想像した。
もし、咲とみなもが白糸台高校に入学していたら、一昨年のインターハイは、先鋒に宮永照、次鋒に宮永みなも、そして保険として大将に宮永咲を置いて、あとは、中堅か副将に大星淡が配置される。もう一人は、弘世菫か…。
たしかに、今の清澄高校よりも、えげつない。それこそ、そんなチームに勝てるビジョンは皆無だ。
たとえ、当時の大阪総動員…先鋒荒川憩、次鋒園城寺怜、中堅愛宕洋榎、副将江口セーラ、大将清水谷竜華…のドリームチームでも勝てないだろう。
それから十分ほどが経過した。これより、中堅戦が始まる。
一見、有名どころが出場していない戦い。泉は、先鋒戦、次鋒戦と比べて興味が薄い感じに見えた。すると雅恵が、
「この清澄の補員の子。たしか園田栄子って子。要チェックやで。」
と言った。
「チェックって、補員じゃないですか。」
「でも、多分、うちの洋榎よりもキツイで。」
「そんなんが補員って、有り得るんですか?」
「まあ、それは自分の目で確かめてみるほうがイイやろな。」
泉には、にわかには信じられなかった。しかし、監督の言うことだ。何かある。
場決めがされた。
起家は白糸台高校多治比麻里香、南家は阿知賀女子学院小走ゆい、西家は栄子、北家は、永水女子高校狩宿萌になった。
東一局、麻里香の親。ドラは{二}。
全員が平凡な配牌よりスタートし、序盤はヤオチュウ牌処理がなされた。そして、中盤に入り、麻里香、萌、ゆいの3人が聴牌した。3人とも、割と効率の良いツモが続いた。
麻里香の手牌は、
{三四五[⑤]⑥⑦3456777} {23568}待ち聴牌
ゆいの手牌は、
{二二②②②③④⑤⑥⑦4[5]6} {二②⑤⑧}待ち聴牌
萌の手牌は、
{三四[五]六六六七③④[⑤]234} {二五七八}待ち聴牌
その時、栄子の手牌は、
{二四六七八②④⑥⑦5678}
まだ二向聴だった。
周りの捨て牌は、ヤオチュウ牌がメインで、チュンチャン牌は殆ど無かった。それでは待ちが完全には読みきれない。しかも、全員がダマ聴。
ここに、栄子は{三}をツモった。14枚中7枚が他家の和了り牌の状態だった。いきなりの大ピンチ。
しかし、ここから栄子は、迷わず打{⑦}。
次巡、ツモ{8}で打{⑥}。
そして、その次巡、
「ツモタンヤオドラ1。1000、2000です。」
ツモ{③}で和了った。
この打ち回し、誰かに似ている…。
泉は、驚きの余り言葉を失った。
それは、小学校の頃から身近で見てきた打ち方。しかし、一度として泉には真似できなかった脅威の打ち回しであった。
自分の二つ上の盾(洋榎)と矛(セーラ)と比喩される2人のうちの盾のほうだ。
アナウンサーの福与恒子は、大興奮状態だった。
「この打ち回し。振り込み回避で和了りまで持っていた。凄いぞ、清澄高校園田栄子!」
一方の解説の小鍛治健夜は、落ち着いた声をしていた。
「まさに、愛宕洋榎選手を思わせるディフェンスです。一昨年の秋季大会では、ただ当たり牌を止めるのが、精一杯のようでしたが、秋季大会からは、和了り形をイメージしながら打ち回すことができるようになったのは大きいと思います。」
驚きの余り、硬直する泉に雅恵が言った。
「この子、宮永咲に憧れて、一昨年の秋から麻雀を始めたらしい。それまでは、一度も牌に触れたことも無かったし、ゲームの麻雀もやったことなかったって話やで。」
「それって、本当なんですか?」
「本当や。それと、この打ち回しやけど、うちの洋榎と同じで直感的なもんらしい。まあ、能力の一種やな。」
「能力って…。」
「やから、差し込みとか、自分でリーチをかけた時以外での振り込みは、皆無らしいで。能力って聞くと、非能力者からすれば理不尽にしか思えへんやろけどな。」
「はい…。」
非能力者である泉にとっては、まさに雅恵の言うとおりだった。
「あとな、この子の恐ろしいところは、ここからや。」
しかし、雅恵が、そう言った割には、振込みこそないが、東二局で親のゆいに4000オール、一本場で6100オールを和了られた。別に他家の和了を邪魔していたわけでもない。ツモで削られていた。
泉は、
「これの、どこが恐ろしいんですか?」
と雅恵に疑問を投げかけた。
「白糸台と永水の顔を見てみ。」
こう雅恵に言われて、画面に映る麻里香と萌の表情を見た。なにか、驚いた顔をしていた。それも、その視線を向けている先は、和了ったゆいではなく、栄子だった。
「なんで、あの2人、どうかしたんですか?」
「白糸台と永水は、ここから先は清澄に直撃できん。それを告げる衝撃波が白糸台と永水を襲った。」
泉は、あまりにも突飛な話で意味が分からなかった。
雅恵の言葉が続いた。
「清澄の園田は、元あった点から削られる点数の限界値ってのがあるらしいで。プレイヤーの力量で限界値は変わるらしいけど、どうやら白糸台と永水は7000点が限界みたいやな。さっきの阿知賀の和了りで園田の点は、元の点から6100点下がった。麻雀の出和了りの最低点は1000点。つまり、失点が7000点を超えてしまうから、もう白糸台と永水は園田に直撃できん。その通達や。」
泉は、
「(ますます意味が分からん。)」
と思っていた。
「ただ、阿知賀は白糸台と永水よりも格上みたいやな。園田を削る限界値がもう少しありそうや。」
この雅恵の説明からすると、栄子は、どのような状況に置かれても、麻里香と萌には振り込まないと言うことになる。果たして、そんなことがあるのだろうか?
東二局二本場。
ここで、ゆいがツモ和了りした。
「ツモ。700オールの二本場は900オール。」
すると、強烈な衝撃波が麻里香と萌を襲った。失点が丁度7000点になった今、麻里香と萌は、ツモ和了りも許されなくなった。その強制力による通知だった。
この時、栄子は、
「(白糸台と永水は、7000点が限界みたい。あと、あの様子だと阿知賀は1万点くらいかな。優希ちゃんレベルってことみたいね。)」
と相手の限界値を見定めていた。
東二局三本場。ゆいの連荘。
ここでは、なんとか麻里香が聴牌できたが、和了り牌が全然ツモれないでいた。ただ、ゆいの親は流したい。
これに気付いたからか? 萌が麻里香に振り込んだ。
「ロン。1300の三本場は2200。」
解説の健夜の声が、スピーカーを通して対局を見る人達で賑わう会場に響き渡る。
「園田選手は、守りが堅く振り込みも殆どありません。それに加えて、元の点数から削られる限界の点数が、どうやらありそうです。」
「なんですか? それ?」
恒子も意味が分からなかった。普通、それが当たり前の反応だ。
「園田選手は、中堅戦開始当時から見て、点数が7000点削られました。」
「はい…。」
「この段階で、白糸台の多治比選手と永水女子高校の狩宿選手は、園田選手は、直撃どころか、ツモ和了りさえさせない。そんな何かを感じます。恐らく、阿知賀女子学院小走選手も、園田選手の失点が1万点に達した時、同じことになるでしょう。」
「ええと、バリヤーが張られているとか、核シェルターにいるとか、そんな感じ?」
「そう言った喩えが、一番近いかもしれません。」
恒子にとっては、ますます意味不明だった。
しかし、健夜の解説どおりに、ことが進んでいった。
東三局、栄子の親。ここでは、ゆいが1300、2600をツモ和了りした。そして、それと同時に栄子の身体から一発目の警告とも言える衝撃波が、ゆいに打ち込まれた。
続く東四局、萌の親。ゆいが、300、500の手をツモ和了りした時、ゆいを強烈な衝撃波が襲った。栄子の失点が9900点になったのだ。ここから先は、ツモ和了りさえ禁じられることの通達だ。
南一局と南二局は、ゆいが萌に、それぞれ1300点と2000点を振り込んだ。
南三局では、ゆいが麻里香に2000点を振り込んだ。
この間、栄子は危険牌が来ても、自然と手なりに取り込める状態であり、普通に打って振り込むことはない。失点しない強制力が働いていたのだ。
健夜の予想したとおりの展開と言って良いのだろう。そして恒子は、
「良く分からないけど、まさに小鍛治プロの予想が当たった~! 清澄の園田選手。まさに、魔境長野が生んだATフィールド。」
と訳の分からないことを叫んでいた。
そして、オーラス、萌の親。
ここでまた、健夜の解説が入った。
「ここでは、清澄高校園田選手が、何か仕掛けるかもしれません。」
「何かって、和了りに出るってこと?」
「そうです。今までは、下手に和了ると、その後に失点限界値まで再度削られる可能性がありますが、オーラスの後は削られません。」
「なるほど…。」
恒子は、分かったような、何かいま一つ理解しきれないような…、そんな感じだった。
この局では、栄子が、
「リーチ!」
珍しくリーチをかけた。
これにより、栄子の点数は、ゆいの限界値までも超えたことになる。
すると、強制力は、このリーチ棒を栄子の元に戻すほうに働く。つまり、栄子以外の誰も和了ることを許されなくなる。そして、
「ツモ! リーチツモタンヤオ三暗刻ドラ3。4000、8000です。」
ツモり三暗刻の手だった。
この和了りを見て、恒子が再び興奮してマイクを手にした。そして、
「またまた小鍛治プロの予想が当たったー! オーラスに清澄高校園田選手からロンギヌスの槍が飛び出したー!」
と、また訳の分からないことを言っていた。
各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 154900
暫定2位:永水女子高校 88500
暫定3位:白糸台高校 79900
暫定4位:阿知賀女子学院 76700
順位は変わらず、清澄高校が1万点ほど点数を伸ばす結果となった。一方、永水女子高校は、2位をキープしたが、2万点以上失点した。
ただ、一番点数を伸ばしたのは阿知賀女子学院で、3万点近く稼いだ。白糸台高校は、1万5千点程度失点した。
泉が、居てもたってもいられない表情で、立ち上がった、
「ちょっと、会場に行ってきます。」
「おお。気をつけてな。ここの支払いはやっておくから。」
「あ…ありがとうございます、監督。」
そして、泉は喫茶店を飛び出して会場に向かった。
この泉の後姿を見ながら、雅恵は、泉が今の等身大の自分を受け入れて、どのようなプレイを目指すのがベストかを模索してくれることを願っていた。
泉が会場についた時、既に中堅後半戦の東一局二本場に入っていた。起家は麻里香、南家に萌、西家がゆい、北家が栄子になっていた。
電光掲示板には、
暫定1位:清澄高校 148300
暫定2位:白糸台高校 99700
暫定3位:永水女子高校 81900
暫定4位:阿知賀女子学院 70100
との点数が表示されていた。
解説の話だと、麻里香が東一局で6000オール、東一局一本場で600オールを和了ったらしい。
ただ、既に栄子は6600点を失った。それでの二本場。栄子の能力の話が本当なら、麻里香と萌は、ここではツモ和了りはできない。
「ツモ! 3200、6200!」
ゆいがハネ満をツモ和了りした。これで、後半戦での栄子の失点は9800点になった。もう、ゆいですらツモ和了りが封じられたことになる。
そして、その後は雅恵から聞いたことが、再び繰り返された。
東二局は、ゆいが麻里香から2000点を和了り、東三局は萌がゆいから3900を、東四局は萌が麻里香から同じく3900を和了った。
南一局は、ゆいが萌から5200を和了り、南二局は麻里香がゆいから2000を、南三局は萌が麻里香から5200を和了った。
麻里香、萌、ゆいの間で繰り広げられる空中爆撃の中、栄子は一人、無傷なまま、ゆうゆうと歩いているように見える。恒子がATフィールドと比喩したもの頷ける。
そして、オーラス、栄子の親番。
ここで、栄子は前半戦と同じように先制リーチをかけた。これによって、栄子以外は誰も和了ることを許されない強制力が働く。そして、
「ツモ! 8000オールです。これで和了りやめします。」
親倍ツモで、中堅戦を終了させた。恒子の言うロンギヌスの槍が、ここでも飛び出したと言うことだ。
これで、各校の順位と点数は、
暫定1位:清澄高校 169100
暫定2位:永水女子高校 78500
暫定3位:白糸台高校 76400
暫定4位:阿知賀女子学院 76000
となった。
「(やっぱり、勝つには能力が必要なんや。その能力を使いこなしてこそ、勝利に繋がるんや。園城寺先輩もそうやったし…。)」
皮肉にも、この栄子の活躍が、泉にイーヴリンの話を受け入れる最終判断をさせた。
あとは、その話が真実か否かだけである。真実ならば、今夜にでも、自分からイーヴリンと接触しよう。泉は、完全にそう決意した。
これから副将戦が始まる。
みなもが控室を出ようとしたその時だった。清澄高校控え室の隅のほうに強烈な光が発生し、そこから小蒔と霞が姿を現した。テレポーテーションしてきたのだ。
これには、幽霊でも出たのかと思い、清澄高校一同、一瞬身体が硬直した。そして、
「キャ…キャーーーーー!!!」
お約束だ。和が悲鳴を上げた。そして、
「(こんなオカルトありえません。こんなオカルトありえません。SOASOASOA……。)」
和は、ひたすら祈り始めた。
「驚かせて済みません。瞬間移動してきたものでして…。こうでもしないと、こちらの控室には入れませんから。それと、幽霊ではありません。きちんと足はあります。私は、この春で永水女子高校を卒業します神代小蒔です。訳あって霧島神境から来ました。」
一方の優希は、この超常現象を受け入れていた。
「永水の巫女さんだじぇい! インターハイぶりだな!」
「はい。あの時は、お世話になりました。」
「それで、今日、ここに来たのは、どういった理由かな?」
「善からぬ者と化した魔法少女の力が、この副将戦を混乱させる。そう啓示を受けました。その魔法少女に心当たりはあるかと思います。名前は…。」
これを聞いて、閑無が答えた。
「夢乃マホだね。」
「そうです。」
「それで、具体的なことは分かるかい?」
閑無も、意外と、この超常現象を受け入れていたようだ。普通に対応している。
「九面の神が仰るところでは、白糸台の大場選手が私のコピーに、阿知賀の浦木選手が冷たい時の龍門渕選手のコピーに、そして、私共の身内の失態で大変遺憾ではありますが、補員の越智留美子が宮永照選手のコピーとして参加します。」
これに、みなもが、
「椿加々美さんは、どうしたの?」
と聞いた。コピーのことよりも加々美のほうに興味があるのだろう。すると、小蒔が、
「実家のトラブルで、家に戻りました。大鳥居が倒壊して…。それで、代わりに補員が出ます。」
と答えた。
今度は、閑無が小蒔に聞いた。
「コピーを今回投入するのは、みなも潰しのためか?」
「いいえ。ある少女を手に入れるためだそうです。今日限りのコピーだそうです。」
「じゃあ、その子を渡さないようにすれば良いのではないか?」
「それは無理でしょう。もう、この副将戦を見たら、本人の意思で魔法少女のところに行くことは明白です。学校を退学してでも…。それに、オカルトが理由では副将戦を止めるわけにも行かないでしょう。」
「まあ、そうだけどな。」
「今の法律では、オカルトを事前制圧することはできません。今の段階で事件性があるとは言えません。」
「まあな。」
「それに、その少女を手に入れなくても、世界のどこかで別の少女を手に入れる。結局、今回を防いでも防がなくても結果は同じです。」
「まあ、たしかにそうだな。」
「ですので、私は二つのことを理由にここにきました。一つ目は、宮永みなみ選手に、このことを事前にお伝えするためです。知らずに対戦したら、平静を失い大敗するかもしれません。ですので、宮永みなもさん。」
「はい?」
「心してかかってください。」
「うん。分かった。」
「それと、もう一つは、みなもさん以外の副将の、対局後の状態を気にしています。九面の神が仰るには、死にはしませんが、相当なダメージがあるようです。ですので、私達がテレポーテーションで霧島神境に連れてゆき、治療いたします。そのフォローをお願いしたいのです。」
「分かった。じゃあ、その辺の手配のために、慕とかはやりに連絡を入れてもいいか?」
「お任せします。では…。」
小蒔と霞が、床の上に正座した。
「ここで、試合が終わるまで見させてください。折角ですので。」
「あの…。普通にソファーに座って構わないが…。」
「そうですか。監督さん。有難うございます。では、お言葉に甘えて。」
小蒔と霞が恭子を挟むようにして座った。さすがに恭子は、
「(この胸の差…。どんな罰ゲームやねん。それに、なんで永水の控室に行かんのや。)」
と心の中で呟いていた。
泉は、今後、話の上で重要な人物の一人になる予定です。