トシの指示で、既に対局室前に3台のストレッチャーが運び込まれていた。救護隊は、急いで3人を対局室近くの医務室に運び込んだ。
この様子は、テレビでは一切放送されなかった。
咲と和は、見てはいけない惨劇を見て全身が硬直した。顔面からは血の気が引き、今にも倒れそうになった。
ストレッチャーで、倒れた3人が医務室に運び込まれると、そこには、既に小蒔、霞、春、明星、湧の5人が来ていた。初美と巴は、善からぬ者を探るため、霧島神境に残っていた。
「では、霞ちゃん、春ちゃん。三人をテレポーテーションで霧島神境まで運びます。そして、悪しき者を祓わなければならないようです。心してください。」
「「はい、姫様(小蒔ちゃん)。」」
「湧ちゃんは、大将戦をお願いします。」
「はい、姫様。」
「明星ちゃんも湧ちゃんの心の支えになってあげてください。宮永咲が相手ですから。でも、ズルは駄目ですよ。」
「はい、姫様。」
この中で、小蒔のことを『小蒔ちゃん』と呼べるのは、霞だけだった。
小蒔、霞、春の3人の身体が輝いた。そして、その光が消えた時、小蒔、霞、春の3人と、ストレッチャーの上に寝かされていた里奈子、加奈子、留美子も姿が、その場から消えていた。テレポーテーションしたのだ。
対局室では、急いで清掃が行われていた。里奈子が血を吐いたのだから当然だろう。
これで、対局は30分程中断することになった。
この頃、阿知賀女子学院監督の赤土晴絵と、白糸台高校監督の貝瀬麗香は、大会会場の小会議室にいた。そこで、熊倉トシから、現状おかれた内容についての詳細を聞かされていた。
「おっと、副将戦が終わったみたいだね。」
そう言うと、トシはチャンネルを切り替えた。そこには、一般には放送されていない対局室の状況が映し出されていた。
血を吐く里奈子、倒れる加奈子と留美子。想像を超える壮絶さだった。
晴絵と麗香は、あまりの衝撃に目の前が真っ暗になった。自分の教え子が、こんな状態になっているなど、想像もしていなかった。
2人は、トシから、
「あとは、神代小蒔達に任せて、2人は、一先ず…そうね…、生徒達には自分のところの副将が体調不良で病院に行ったとでも伝えておいて頂戴。」
と言われた。しかし、それで部員達をうまく誤魔化せるかどうかは分からない。結構面倒な役回りだ。
多分、どこかで部員達には話さなければならない時がくるだろう。しかも、それは、そう遠くない。
その時は、覚悟を決めよう。2人は、そう思っていた。
この頃、泉はイーヴリンから莉子やニーマン姪の試合の録画を見せてもらっていた。
「(みなもを相手にした3人は、能力の使い方が悪かったに違いない。清澄の補欠とか、補欠のくせに、あんなに能力を使いこなしているのが証拠だ。それに、この日本人。たしか劔谷の大将で高鴨に山越しの七対ドラ2を狙われて逆転された奴や。それで、守備力をもらった。たしかに使いこなしている。まるで、洋榎さんそのものや。)」
莉子は、恐ろしい選手に生まれ変わっていた。
そして、その次に登場したニーマン姪は、霞の麻雀のコピー。これも、染め手を連発する恐ろしい打ち手だった。
きちんと能力を使いこなせれば、これだけのプレイができる。泉は、食い入るように映像に見入っていた。
そんな泉を横目に、イーヴリンは電話をしていた。
ただ、ドイツ語だったため、泉には、何を話しているのか、さっぱり分からなかった。
相手はニーマンだった。ニーマンは、今、マホを連れてネズミの国にいた。
「マホ。今まで一回も行ったことが無いんですぅ。」
と言われて連れてきたのだ。そして、泉には、ドイツに来るよう口八丁手八丁、イーヴリンにうまく丸め込んでおいてもらおうとニーマンは思っていた。
その手のことは、ニーマンよりもイーヴリンのほうが多分巧い。それで、帰ったと嘘をついた。
「…彼女、もうドイツに行く気満々です。それと、強くなりたいと言う気持ちが並みではありません。多分、ニーマンの期待に応えられるでしょう。」
「なら良いがな。じゃあ、よろしく頼む。」
「はい。」
ニーマンがスマホの通信を切った。
ただ、ニーマンには一つ気になることがあった。
自分の姪や莉子は問題なく能力を使えているのに、何故、昨日能力を貸し出した3人は、途中で力が尽きていたのだろうか?
「なあ、マホ。あの3人は、何で能力を最後まで使えなかったんだ?」
「それは、まだ能力と選手が、きちんと一つになっていなかったからなんですよ。だから、能力が力を発揮するために選手の体力を奪ったんですぅ。」
「でも、だったら何故、ローザ(ニーマンの姪)や莉子は、倒れたりしないんだ?」
「それは、能力と選手が、きちんと一つになったからです。」
「本当なのか?」
ニーマンは、マホが何か隠していないか、気になっていた。すると、
「先生は、マホのことを疑ってるんですか?」
マホは、そう言いながら笑顔を見せた。
「いや、そう言うわけじゃないが…。」
「心配しないでも大丈夫ですよ。体力を奪うことはありませんから。」
とにかく、ニーマンは、今はマホを信じるしかなかった。
それにしても、とんでもない化物を手に入れたと、ニーマンは、つくづく思った。これは、みなも以上の化物…、いや、最強の魔法使いだ。
まさに、夢の魔法少女。夢乃マホ…。
その名のとおり、こいつは人間じゃないとさえ、ニーマンには思えた。
対局室の清掃作業を終え、大将戦が始まろうとしていた。
咲は、和に連れられて対局室に向かう通路を歩いていた。
「和ちゃん。」
「なんですか? 咲さん。」
「さっきの3人の姿が頭にこびりついて、今は、全力が出せそうにないんだ。勝つ麻雀ができないかも…。」
「そうですね。もし、私が咲さんの立場でも同じだと思います。でも、だったら、今日は解禁してもイイですよ。咲さんが最も慣れ親しんだ、決して打ち破る事のできない最強の打ち方を…。」
「でも、あれは…。」
「イイんです。あれなら、みなもさんにも、お義姉さんにも破ることはできないんですよね。」
ちゃっかり和は、『お義姉さん』と呼んだ。しかし、言葉にすると、『お義姉さん』も『お姉さん』も、『おねえさん』である。
咲は、『お姉さん』と言われたものと理解していた。
「うん。」
「でも、今回だけですよ。明日までには、私も咲さんも立ち直りましょう。それと、みなもさんもですね。」
「そうだね。」
「じゃあ、優勝を決めてきてください。」
「うん。」
咲が、対局室に入っていった。
既に他の3人は対局室に来ていた。
場決めがされた。起家は淡、南家は穏乃、西家は咲、北家は湧になった。
恭子の調査では、湧はローカル役満や古役としての役満ばかりを和了る選手とのことで、このことは、既に咲や閑無に伝えてあった。
東一局、淡の親。絶対安全圏が発動し、淡以外は、のきなみ五~六向聴だった。淡のみ軽い手牌。そして、
「ロン。7700!」
湧から淡が直取りした。
続く一本一本東一局場、サイの目は7。
最後の角が最も早く来る、淡にとってチャンスの目。
「ダブルリーチ!」
穏乃の山支配が発動する前に稼ぐ。それに、何故か今回は、咲の雰囲気が弱々しい。ならば、ここは押してみる。と言ったところだ。
そのまま、何事もなく9巡目、最後の角の直前に来た。
「カン!」
淡の暗槓だ。以前は、ここでの嶺上牌を咲に狙われたが、今回は、特にそのようなことはなかった。
そして、次巡、
「ツモ! 6100オール。」
淡のダブルリーチツモ槓裏4が炸裂した。
東一局二本場は、
「ダブルリーチ!」
またもや、淡がダブルリーチをかけた。
この時、湧の配牌は、
{二五六[⑤]36東南西北白發中}
これが、7巡目には、
{二三四五六七[⑤][⑤]23456}
欲しいところにバンバン牌が入ってきた感じだ。
そして、次巡、
「ツモ! 3200、6200!」
湧がツモ和了りした。和了り形は、
二三四五六七[⑤][⑤]23456} ツモ{7} ドラ{二}
これを見て閑無が、
「恭子ちゃんの調査も外れたようだな。これは、さすがにローカル役満じゃないだろ。」
と言った。すると、恭子が、
「いいえ。これは双竜争珠と呼ばれる古役で、しかも、この{⑤}をアタマにして萬子と索子の同じ数字での各々2連続順子。この形は役満とされるものです。」
と解説してくれた。
しかし、さすがに信じられない。
「なに? これが役満?」
「はい。」
「ドラが無かったらタンピンツモだけの手だぞ。」
「そうです。しかも、1から6の二連続順子なら、平和ツモだけになります。信じられないようでしたら、スマホで調べてみてください。」
閑無は、一応調べてみた。すると、たしかに双竜争珠と呼ばれる古役がある。しかも、今回の和了り形を役満として認める場合が、たしかにある。
「なんじゃ、こりゃぁ!」
さすがに、閑無も大声を上げた。
東二局、穏乃の親。ドラは{③}。
ここでは、淡はダブルリーチをかけなかった。湧の様子を見ることにしたのだ。
「カン!」
これは、咲ではない。淡でもない。湧が{發}を暗槓した。そして、数巡後、
「ツモ。3000、6000。」
湧がツモ和了りした。
和了り形は、
{一二三四五六七八北北} 暗槓{裏發發裏} ツモ{九} ドラ{③}
これは、青函連絡船と呼ばれるローカル役満だった。
{北}が北海道を表わし、{發}の槓が『アオ』の『カン』、つまり青カンで青函を表わす。そして、一気通関が連絡線を意味している。
ドラが無かったため、これは面前清自摸混一色発一気通関のハネ満になった。
東三局、咲の親番。
今回も淡はダブルリーチをかけなかったが、良形になってきたので勝負することにした。
「リーチ!」
しかし、これを咲が
「カン!」
大明槓した。そして、
「ツモ。嶺上開花。4000オール。」
得意技の嶺上開花を決めた。
春季大会は、大明槓による責任払いは無く、これはツモ和了りとされた。
ただ、これはリーチ宣言牌に対するロンではないため、淡のリーチ棒は、和了った咲に手渡された。まさに、リーチかけ損であった。
続く東三局一本場、咲の連荘。
ここでは、
「{中}。ポン。」
湧が鳴きに出た。そして、数巡後に、
「ツモ。3100、6100。」
またもや湧がツモ和了りした。
和了り形は、
{2244666888} ポン{中横中中} ツモ{2} ドラ{⑦}
これは、紅一点と呼ばれる古い役満で、緑一色よりも歴史は古いとされる。
ただ、本大会では役満として認められておらず、今回は、中混一色対々和三暗刻のハネ満となった。
東四局、湧の親番。
この半荘での獲得素点は、湧が約2万点でトップであった。逆に最もマイナスなのは穏乃で、3人のツモ和了りで、約2万点削られていた。
誰の目から見ても湧が走っている状態だ。ならば、この親で稼がせてはならない。
淡も穏乃も、安手で流そうとしたが、
「{東}。ポン!」
「{北}。ポン!」
湧が鳴いて、早く手を進めていた。
しかし、湧が聴牌して捨てた牌を、
「ロン。タンピン三色ドラドラ。12000。」
咲が平和手で湧から直取りした。
南一局、淡の親。
急に卓の周りに靄が立ち込めてきた。深山幽谷の化身、穏乃のスイッチが、とうとう入ったのだ。
これは、湧には初めての経験だった。
「(なにこれ?)」
淡の絶対安全圏は解除され、普通の配牌になった。しかし、良く分からないけど視界が悪くなった。
そして、湧が不用意に切った牌を、
「ロン。7700。」
穏乃が和了った。
南二局、穏乃の親番。
湧の視界は、さらに悪くなった。
ここでも状況が良く分からないまま湧が切った牌を、
「ロン。11600!」
またもや穏乃に和了られた。
湧としては、二連続で大きな手への振込み。正直、痛い。
南二局一本場、靄がどんどん深くなる。
この局は、
「ツモ。2700オール。」
穏乃がツモ和了りした。
そして、南二局二本場も、
「ツモ。2200オール。」
やはり、穏乃が和了った。まさに深山幽谷の化身。深い山の主。局が進むに連れて支配力が増していた。
しかし、南二局三本場、
「ポン!」
穏乃が捨てた{二}を咲が鳴いた。長野で育った咲には、靄は関係なかった。咲の住んでいるところは、吉野の山と同じくらいの高さにある。
咲は、次のツモで、
「カン!」
{二}を加槓した。そして、
「ツモ。嶺上開花。600、800。」
嶺上開花のみの手。しかも、{二}の明槓のため30符。つまり、ゴミ手だった。
南三局、咲の親番。
ここで湧は、自分達の基本に戻って考えた。
何のために麻雀をやっているのか?
遊ぶためではない。
ただ、麻雀に勝つためでもない。
修行の一環として使えないかとの考えでやっていることだ。
相手の能力で視界が悪いなら、霊力者の心の目で見てゆけばよい。
悪魔祓いを依頼されて、相手が強かったので諦めますとは言えない。五感を…、霊力を研ぎ澄ますしかない。
幸いなことに、ここでも絶対安全圏は発動していない。配牌は普通だ。そして、
『ツモ。1300、2600。』
湧がツモ和了りした。
和了形は、
{二三四五六⑤[⑤]234567} ツモ{七}
再び双竜争珠を和了った。
ルールとしては、タンピンツモ赤1の手だった。
ただ、この和了りは、麻雀の基本形となる平和と、湧の基本形となるローカル役満の複合技とも言える。
オーラス、湧の親。
湧は、大きな手を和了っていたが、振込みも多く、結果的にマイナスになっていた。やはり、ここで稼ぎたいところ
しかし、ここで長野最大の…いや、今の高校生最強の魔物が、
「ロン。平和タンヤオドラ1。3900。」
湧からさくっと和了った。ただ、とんでもない高い手が来るのではないかと思っていたところ、然程高くない手だったので、湧は安心した。
ただ、それがどんな高い手を喰らうよりも傷付くことをされているとは、湧は思っていなかった。
これで前半戦が終了し、各校点数は、
暫定1位:清澄高校 233100
暫定2位:白糸台高校 66300
暫定3位:阿知賀女子学院 64100
暫定4位:永水女子高校 36500
獲得素点は、高い順に穏乃が+9500点、咲が+5000点、淡が+900点、湧が-15400点となった。
咲は、25000点持ち30000万点返し(ウマなし)で考えた時に、完璧なプラスマイナスゼロを達成した。
清澄高校の控室では、恭子が、
『また、やりやがった!』
と言いたげな顔をしていた。
「でも、清澄に来て、あれがナメプじゃなかったって聞いて、びっくりしたわ。まあ、プラマイゼロをやるようになったきっかけを聞いて、正直、咲が可哀想になったけどな。でも、プラマイゼロは、和が禁じていたんじゃ…。」
すると、和が、
「今回は、解禁しました。副将戦の後の現場を私と咲さんは目撃してしまって…、みなもさんもですけど…。それで、精神的に参っていたようでしたので、一番なれた打ち方にしてもらいました。考えようによっては、5000点はプラスになりますし。」
と答えた。
「なるほどね。まあ、でも今回の場合は、それで正解だろうな。プラマイゼロの強制力がかかったら、この点差をひっくり返すことは不可能だし…。」
「どういうことです?」
「全員の点数を足して、そこに親の役満の48000を足しても、大将戦開始段階での清澄高校の点数に届かないから、プラマイゼロの発動イコール、逆転は基本不可能ってことになるってことだ。」
「そう言われれば、そうですね。そこまで頭が回っていませんでした。」
「まあ、それだけ和にとってもショックが大きかったんだろうな。もし、ダブル役満とかトリプル役満とかが出て、どこかをトバすとかなれば別だけど…。」
「でも、そんな和了りは、現実的ではありません。」
「そう言うことだな。それに、あの状態の咲だと、役満を和了られそうになっても、事前に察知して支払う分を調達しそうだしな。まあ、咲のところに誰か行って、トイレにでも…。」
すると、優希が、
「もう、エイちゃんとミナちゃんが行ったじぇい。」
と答えた。
対局室に、みなもと栄子が入ってきて、咲のところに駆け寄ってきた。
「咲。ここで、それを出すなんて、性格悪い。」
「なんで?」
「まあ、ちょっと、その前にトイレに行こう。」
みなもは、そう言いながら咲を卓から離してトイレに連れて行った。
とりあえず、みなもは、咲に用をたさせた。そして、トイレから出てきた咲に言った。
「あれってさ、私にも照ねーちゃんにも回避不能じゃん。しかも、それをやられたら、後半戦開始時点の咲の点数に5000点足すわけでしょ。」
「5000点…、だいたいそうだね。」
「そうすると、他家の点数を全部誰かが取って、その上で親の役満を和了ったとしても咲に追いつけない計算だよ。ダブル役満とか、トリプル役満が出て、途中でどこかがトバされたら別だけど、それって、万に一つの可能性だし…。」
みなもは、恭子と同じことを言っていた。
「たしかに…。言われて初めて気が付いた。」
「じゃあ、戦略としてやってたわけじゃなかったんだね。」
「うん。副将戦の後のを見ちゃったから、参っちゃって。それで、この打ち方しかできなくなっちゃったんだ。」
「そうだったんだ。」
「みなもは、大丈夫?」
「大丈夫とは言えないけど、でも、咲や和よりは耐性あるよ。」
みなもは、地下麻雀での記憶を克服してきた。その強さがある。それゆえに、咲や和よりは、今日の惨劇に精神的に耐えられたようだ。
3人が、対局室に向けて歩き出した。
「そっか…。でも、プラマイゼロで守るか…。これは、みなもまでのリードがあればこそってことだね。」
「まあね。でも私は、本当はマイナス。私のプラス分のうち、72000点は、タコス神優希ちゃんにもらったものだから。」
「あれ、来たんだ…。」
これを聞いて、栄子は、
「(何言ってるんだろう、この姉妹?)」
と思っていた。タコス神って意味が分からない。
「うん。驚いた。でも、72000点を引いたら、私は、むしろマイナスじゃん。結局、優希と栄子で稼いでくれたんだよ。」
「そうだね。」
これを聞いて、栄子は、
「そんな、私なんて大して稼いでないし…。」
と謙遜していた。
栄子は、長野県大会では、咲の脅威の550000点とか444400点とかを見てきているし、今日も優希やみなもの大量得点を見ている。
それ以外にも、これまで、みなもや咲の大量得点を何回も見てきており、本当に自分の獲得点数が大したことないようにしか思えていなかったのだ。純粋な子かも知れない。
「ううん。稼いでくれたよ。だから、今、私はこの打ち方ができる。誰にも破れない守りの打ち方がね。」
「そうだね。咲のプラマイゼロは、最強のディフェンスかもね。そうそう、守りって言えば、栄子のディフェンスも凄いよね。人間業じゃないよ、あれ。」
「そんな、私は、別に…。」
「謙遜しなくてもイイよ。あのうち回しは綺麗だよ。でね、私さ。栄子の二つ名を考えてみたんだ。」
これには、栄子も興味を示した。
「二つ名って、咲さんの『嶺の上の女王』とか、みなもさんの『北欧の小さな巨人』とかよね。私が、そう言うのを名乗れるだけの人間とは思っていないけど、でも、あったら嬉しいな。」
「あっておかしくないと思うよ。栄子の実力なら。でね、『魔境に聳え立つ棘の城壁』なんてのはどう?」
「まきょうにそびえたついばらのじょうへき?」
「うん。今、長野は高校女子麻雀界の魔境って言われてる。そこに聳え立つ最強の盾をイメージしてみたんだ。」
「うん。気に入った。ありがとう、みなもさん。でも、私…。」
そう、栄子は、もうすぐ魔境長野を離れる。魔境に聳え立つものではなくなる。
なんとなくだが、その心情に咲が気付いた。
「じゃあ、魔境が生んだ棘の城壁ならどうかな?」
「えっ?」
「実はね。私もみなもも知ってるんだ。転校のこと。優希ちゃんが、職員室で話しているのを偶然聞いちゃってね。」
「そ…そうだったんだ。」
「和ちゃんも数絵ちゃんも知ってるよ。」
「じゃあ、みんな知ってたんだ。」
「うん。でも、最後に栄子ちゃんと団体戦ができて良かった。」
すると、みなもが、
「あとは、どこを2位にするかだね。個人的には、憧のところにしてあげたいな。」
と言った。これには、
「そうだね。淡ちゃんは、私と同じ側の人間って思ってたのに、いつのまにが和ちゃん側になっちゃうし、永水は1年で和ちゃん体型がいるし。」
咲も激しく同意していた。
ただ、理由は違っているようだが…。
「そっちか…。まあ、咲の気持ちは分かるよ。でもさ、今回は、やっぱり栄子の都合で決めていいよ。」
「えっ? そんなことできるの?」
「だって、目の前でピッタリ5000点だけ稼いでいるのを見たでしょ。点数調整に関しては、咲の右に出るものはいないよ。」
これに関しては、咲も否定しなかった。
元プロの母親に、照に、みなもと卓を囲んで、毎局プラスマイナスゼロを達成できるのだから、むしろ謙遜されたほうが、腹が立つ。
「うーん。そしたら、じゃあ、できたらでイイんだけどね…。」
栄子が、咲に耳打ちした。どうやら、2位にしてあげたいところがあるらしい。
対局室に咲が戻ってきた。
みなもと栄子のお陰で迷子にならずに済んだ。
場決めがされ、後半戦は起家が湧、南家は淡、西家は咲、北家は穏乃になった。いよいよ、春季大会団体戦最後の対局が開始される。
双竜争珠は、私も驚きました。
最悪、平和のみですから_。