余りにもキンクリが多くて嫌だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、似たような面子では対局内容に変化をつけるのが難しくなってきました。
A卓は、咲と優希が勝ち抜けした。
BからD卓の試合も、平行して行われており、C卓は、予選順位の高かった淡と和が、D卓も同様に明星と穏乃が勝ち上がる結果となった。
B卓は、みなも、栄子、桃子、泉の対局だった。
場決めがされた。
起家は桃子、南家は栄子、西家は泉、みなもは、毎度の如く北家だった。
泉は、昨夜、イーヴリンから、
『素の力が強い人のほうが、より高い能力を移植しやすいようです。うちの魔法少女に、泉さんの力を見せ付ける意味でも、個人戦では本戦出場できるといいですね…。』
と言われていた。
「(一応、本戦出場で、第一関門はクリアしたはず。でも、これで私は満足したわけじゃない。)」
泉が、みなものほうを見た。
「(さすがに、今の自分に、この化物が倒せるとは思ってない。でも…。)」
泉の視線が桃子のほうに動いた。
「(この臨海の先鋒…。たしか、こいつは、以前、長野にいた選手や。ただ、何故かこいつと打った相手は、何故か勝手に崩れて、こいつに振り込むようになる。なら、自分が崩れなければ、いいだけの話。)」
これは、普通誰でも考える。さすがに、ステルスなんてものの存在は考えられないからだ。別に泉の考えが浅いわけではない。
さらに泉の視線が栄子へと移った。
「(あと、問題はこいつ…。たしかに振り込みがないし、小鍛治プロの解説を信じるならば、途中でこいつから削ることは不可能…ツモ和了りすらできなくなる。面倒な相手や。でも、だったら臨海のやつへの直撃を考えればいい。それだけや。)」
これも、一般的には当然の考え方だ。それは、桃子の能力を知る者からすれば、あさはかにしか思えないかもしれないが…。
ただ、その一般的とか常識的とかが通じない人間との戦いであることを、この後、泉は身をもって知ることになる。
東一局、桃子の親。
当然だが、まだステルスは発動していない。
桃子としても、みなもに勝てるとか思っていない。
なら、栄子の点数が桃子の削れる限界値に到達してからステルスで泉を直撃して2位抜けする。泉と同じ方法を考えていた。
勝算としては、泉よりも桃子のほうが高いだろう。
「タンピンツモドラ2。2000、4000。」
この局は、みなもが和了った。
東二局、栄子の親。
ここでも、
「タンピンツモ一盃口ドラ2。3000、6000。」
みなもが和了った。
この時であった。
「ドン!」
激しい衝撃波が泉を襲った。
「(なんだ、これ?)」
これには泉も驚いた。自然に栄子のほうに視線が向いた。
泉の挙動から、みなもは泉に衝撃波が飛んだことに感づいた。
「(8000点か…。千里山の人のレベルは、優希と同じか、ちょっと低いくらいって思っていたけど、想定よりも低いのかな?)」
部内成績では、栄子から削れる点数は、和で18000点、数絵で15000点、優希で10000点。トバせるのは自分と咲のみだった。
そこから、栄子から削れる限界値を、みなもは、選手毎にある程度予想していた。
淡、穏乃、明星で20000点から22000点、桃子とみかんは、和や数絵よりも予選順位は高いが、今回は和と数絵が不調であり、実際には、桃子もみかんも数絵以下…良くて15000点、悪くて12000点と見ていた。
ゆいは団体戦で10000点の実績を見せており、憧、麻里香、湧も、優希とゆいの間になるなら同様に10000点程度、泉も9000点から10000点くらいだろうと思っていた。
「(もしかして……。照おねえちゃんだったら、照魔鏡で見破れるんだろうけど…。)」
ただ、この想定値がズレた理由に、多少の心当たりはあるようだった。
東三局、泉の親。
ここでは、みなもが、
「ポン。」
鳴いて出た。そして、比較的早い巡目で、
「ツモ。南白混一。2000、4000。」
満貫を和了った。すると、
「ドン!」
この時点で、今度は桃子に栄子からの衝撃波が飛んだ。これも、みなもの想定よりも点数が低い。
「(やっぱり、そうなのかも…。まあ、二回戦には咲と優希がくると思うから、そこで咲に頼んで一緒に確認しますか。ただ、その前に、もう一つやらなきゃいけないことがあるんだよね。)」
みなもは、この一回戦で、どうしても栄子に気付いて欲しいことがあった。それを達成するために、東四局の親番は、和了りを放棄していた。
結局、東四局は、
「ロン。2000っす。」
桃子が泉から和了った。
南一局、桃子の親番。
訳あって、ここでの連荘を、みなもは避けたかった。ここは、
「ツモ。300、500。」
みなもがゴミ手で流した。
南二局、栄子の親番。
この時、泉は勿論、栄子も何か違和感を覚えた。いつも打っている麻雀と何かが違うような気がしていた。
「リーチっす!」
桃子が先制リーチをかけた。しかし、栄子も泉も、桃子の姿も捨て牌も見えなくなっていた。ステルスが発動していたのだ。
栄子の場合、相手がステルスでも振り込むことはない。問題は泉だった。
この桃子のリーチに、泉はノーケアーで振り込んだ。
「ロン。メンタン一発。5200っす。」
「えっ?」
この和了りは、泉としては納得できなかった。
ただ、それと同時に泉は気が付いた。今まで桃子と打ってきた選手が勝手に崩れて振り込むようになる。それと全く同じだと言うことに…。
栄子も、予め話には聞いていたが、驚いていた。
「(これが、咲さんや数絵さん、優希ちゃんが言っていたステルス…。この千里山の人も私と同じで東横さんが見えていない。いくら私が振り込まなくても、このままでは千里山の人が振り込んで終わってしまう…。どうしたらいいの?)」
みなもが、栄子のことをじっと見詰めていた。
この視線に、栄子が気付いた。それは、まるで何かを訴えかけているようだった。
「(みなもさん、何が言いたいんだろう…。でも、このままじゃ負けちゃう。オーラスでの最後の一撃なんて言ってる場合じゃない。だとすると、ここで和了るしかないってことだよね?)」
栄子は、腹をくくり。次の局で勝負に出ることにした。
南三局、泉の親番。
泉としては、最下位を脱出し、せめて2位になるべく、ここで和了っておきたいところだ。幸い、配牌は二向聴。しかも、絶好のツモが続き3巡目で、
「リーチ!」
勢いに乗って、泉はリーチをかけた。
ただ、このリーチが、してはならないものであることを泉は忘れていた。
まず桃子の捨て牌は見えないので当たれない。
栄子も強制力が働くため当たれないし、それどころかツモ和了りまで封じられている。
みなもが危険を冒して振り込んでくるはずもない。
それに気付いたのは、リーチ後、数巡してからだった。そして、その直後、
「リーチ!」
栄子がリーチをかけてきた。この発声と同時に、
「「ドドン!」」
痛烈な衝撃波が桃子と泉を襲った。ここで出されたリーチ棒は、栄子の強制力によって栄子の手に戻されなくてはならないとの通達だ。
不運にも、ここで泉がツモ切りした牌が、
「ロン! リーチ一発平和ドラ2の…裏が乗って12000です!」
栄子の和了り牌だった。
各自点数と順位は、
1位:宮永みなも 54100
2位:園田栄子 27700
3位:東横桃子 22700
4位:二条泉 -4500
南三局で、泉のトビ終了となった。
「「「「ありがとうございました(っす)。」」」」
一礼の後、泉は、再び椅子に腰を降ろした。
自分は、桃子に不用意な振り込みをしないと思っていたが、やってしまった。
今まで多くの選手が、何故桃子への振り込みが多発したのか…。その理由は不明でも、勝手に崩れたくらいの認識でいたことが間違いだった。これは、相手を甘く見過ぎていたと言うことだ。
少なくとも桃子は、あの魔境長野で、昨年夏は個人戦県代表の枠に入っていた選手だし、インターハイでも11位だったのだ。誰がどう考えたって泉よりも各上の選手なのに、泉だけが、それをきちんと認めていなかったのではないか?
最後のリーチも勢い余ってのこと。これも、良くない。
泉は、何故こうなったか、自問自答していた。涙が出そうになってきたが、
「(泣くもんか!)」
と、必死に涙を流すのを堪えていた。
この頃、みなもは、一旦対局室を出てスマホを取り出し、なにやらメールを打っていた。
「園田さんっすよね。おめでとうっす。」
桃子が栄子に声をかけた。
「えっ! あっ…、ありがとうございます。」
突然、桃子の姿が現れて、栄子は驚いた。
「園田さんのATフィールドは強烈っす。」
「ATフィールドって…。」
「絶対振り込まない特性の比喩っすよ。福与アナが言ってたっす。」
「そ…そうですか…。」
「だから、園田さんは私の限界点まで点数を減らしたら、私の姿と捨て牌を見失っても絶対に振り込んでこないだろうって思ってたっす。だったら、私のステルスにかかったもう1人の点数を全部奪えばイイ。そう考えていたっす。」
泉は、2人の会話に聞き耳を立てていた。
ここで出てきた単語…ステルス…。
あの違和感は、桃子と桃子の捨て牌が見えていなかったこと…。
もし、一級上の先輩、船久保浩子なら、事前データから、このことを見破っていたかもしれない。
それともう一つ気になったのは、ステルスの単語に栄子が驚いていなかったことだ。恐らく、最初から情報を掴んでいたのだろう。
「次はダブル宮永が相手っすね。」
「はい。この舞台で、高校女子麻雀界の頂点2人と打てるなんて光栄です。」
「光栄って…、部内では2人と打ってるんすよね。」
「はい。でも、こう言った大きな舞台で一緒に打てるなんて、夢にも思っていませんでしたから。」
「まあ、たしかにそうっすね。あなたには、ダブル宮永相手に、足掻けるだけ足掻いて欲しいっす。では、また、どこかで打てるのを楽しみにしてるっすよ。」
「私もです。」
「じゃあ、また…。」
桃子は、そう言うと姿を消した。
暫くして、咲と優希が栄子のいる対局室に入ってきた。
「おお、エイちゃんは、どうだった?」
「一応、2位抜けできたよ。1位は、みなもさん。」
「そうか。じゃあ、これから清澄メンバー4人で準決勝だな。」
「じゃあ、優希ちゃんも。」
「当然だじぇい!」
「でも、準決勝の対局はA卓のあったところでしょ。だったら、そこで待っていれば良かったのに。」
「それが、また例の事件が起きたんだじょ。」
「例の?」
栄子は、ピンと来ていなかった様子だ。
ここに、みなもが戻ってきた。
「ああ、咲。ちょっとイイ?」
「なに、みなも?」
「栄子の限界値が変わってる気がする。チェックしたいんだけど。」
「分かった。じゃあ、例のは、その後でイイ?」
「うん。」
みなもと咲の会話も、何気に泉は聞いていた。
今まで、泉は他校の人達の会話に全く興味が無かった。しかし、桃子からはステルスの単語が、そして今も栄子の限界値の話が出ている。
もし、ステルスのことを事前に知っていれば、別の戦い方ができたはずだ。
限界値のことは監督から聞いていたが、こう言ったところで情報が早く取れていれば、もっと前から準備ができていたかもしれない。
麻雀の名門校、千里山女子高校で1年生からレギュラーになれた数少ない存在であったことで、自分が怜やセーラ、竜華よりも上を行ける人間と思いこんでしまった。
たしかに、あの時のトリプルエースは、洋榎や憩くらいしか他校では交流を持たなかった。しかし、それは情報を他から取らないでも済むくらい3人とも強かったからだ。
むしろ、下手な交流は情報を取ってゆかれるだけで損をする。それくらいの存在だったのだ。自分とは次元が違う。それが理解できていなかった。
また、他校の情報に関しては、浩子が可能な限りフォローしていたのも大きい。
色々反省点が見えてきた感じだ。
「(勝てない理由…、沢山あったみたいや。でも、絶対強くなって戻ってくる。その時、改めて勝負や、宮永姉妹…。)」
泉が、そう思っていたその時だった。
「対局者以外は退出してください。」
スタッフが、泉にそう話しかけた。
「あっ、す…済みません。今すぐ出ますんで。」
泉は、急いで対局室から出て行った。
みなもが栄子に声をかけてきた。
「栄子、一回戦の最後、あれで良かったよ。」
「本当?」
「うん。でも、栄子の特性が知られるようになると、当然、他校は対策を考える。」
「対策? 私なんかが?」
「なんかがってことは、ないよ。むしろ、栄子だから対策が必要になる。」
「そんな、信じられないよぅ…。」
「でも、事実。だから、転校先では、それを考えて欲しい。転校先の監督には、うちの監督から引継ぎの連絡を入れてもらうようにするから。それとね、もし私達が栄子と団体戦で当たったら何をするか、この試合でシミュレーションする。」
丁度この頃、観客席では恭子がメールの受信に気付いていた。
それは、みなもからのメールだった。
「監督。」
「どうした、恭子?」
「みなもからメールが来たんですが…、あいつら、栄子の転校のこと、知ってたみたいですね。」
「やっぱりそうか。」
「やっぱりって、気付いてたんですか?」
「いや、気付いていなかったけどさ、でも自分があいつらの立場だったらどうかって考えてみな。多分、私だったら、率先して情報を取ってるよ。」
「そ…そんなもんですか?」
「おお。100%自信がある。」
「そ…そうですか…。それとですね。この準決勝で、咲とみなもの2人で栄子との戦い方を披露するそうです。」
「えっ? まさか…。」
「そのまさかです。その対策が、今後、転校先で栄子がやるべきことになるだろうって。そのことを監督から栄子の転校先の監督に引継ぎ連絡して欲しいって…。」
「それは、既にしてあるよ。それに、あいつ、私が連絡しなくても、先にそれに気付いやがった。だから問題ない。でも、栄子に自覚させる意味では、やっておくのもアリだな。みなもらしいな。」
「まあ、そうですね。あとですね…。」
「まだ何かあるのか?」
「栄子の限界値が変化しているかもしれないと、みなものメールには書かれてます。想定よりも限界値が小さいと…。多分、今回の団体戦出場で力が底上げされたのではないかとのことです。」
「なるほどね。そう言うこともあるのかもしれねえな。」
「その辺は、栄子の転校前に部内大会を開いて確認して欲しいそうです。それも併せて転校先に知らせてはどうかって…。」
「それは面白いな。」
「えっ? だって、敵に塩を送る上に、のしまで付けるってことですよ。」
「そうじぇねえよ。」
「えっ?」
「その限界値一覧を見せて、逆に転校先をビビらせようって魂胆だよ、みなもは。咲とみなもは例外として、清澄に勝つには、和以上を1人、数絵以上を1人、優希以上を1人揃えなきゃならないって誰でも思うだろ。それを数値化して見せてやる。」
「なるほど。たしかに…。」
恭子は、そう頷きながらも、
「(やっぱり、こいつら性格悪いわ!)」
と心の中では思っていた。
対局室では、場決めがされた。
起家は毎度の如く優希、南家は栄子、西家は、これも毎度の如く咲、そして北家は毎度の如くみなもであった。
傍から見て、これは同校4人による不幸な潰し合いであった。しかし、みなも、咲、優希の3人は、この展開を、むしろ喜んでいた。
東一局、優希の親。
優希は絶好の配牌…と言うか配牌聴牌だった。
しかも、これでダブルリーチをかければ、『ダブルリーチ平和タンヤオ三色同順赤2ドラ2の倍満。ツモで三倍満だった。
優希は迷わず、
「私だって、咲ちゃんやミナちゃんに、ただ負けるだけってわけには行かないじょ。ダブルリーチだじぇい!」
第一打牌の{横北}を、優希は横に曲げた。
すると、
「ドカン!」
今までにない衝撃波が優希を襲った。そして、優希の四方が棘の壁で塞がれ、しかも、激しく床が揺れ動いていた。
これは、優希だけに起こった現象だった。みなもや咲には、特段何が起こったわけではなかった。
優希は、
「(しまった。これは、エイちゃん相手にやっちゃいけないことだじょ。)」
こうなった原因に気が付いた。この手をツモることは栄子の強制力に反する。それで、こうなったのだ。
「(エイちゃんの能力の逆鱗に触れたじょ…。)」
栄子は、唯一の現物、{北}を切った。
咲の第一ツモは{北}だった。それをそのままツモ切りした。
そして、みなもは、{北}を手出しした。
四風連打で流局。すると、優希を取り囲んだ棘の壁が消え、床の揺れも収まった。
ただ、この四風連打で優希のツキは奪われた。
東一局一本場。
ここでは、咲が捨てた{中}を、
「ポン。」
みなもが一鳴きし、
「ツモ。中ドラ3。2100、4000。」
そのまま、みなもが速攻で和了った。
東二局、栄子の親番。
ここでは、
「カン! ツモ嶺上開花ドラ1。60符3翻は2000、3900です。」
咲が和了った。
東三局、咲の親番。
ここでは、みなもの捨てた{二}を咲が、
「カン!」
大明槓した。そして、
「ツモ。タンヤオ嶺上開花。1000オール。」
そのまま咲が和了った。ただ、春季大会では責任払いではなく、ツモ和了りになる。
この段階で、栄子の点数は18000点。まだ優希に、東一局以来の衝撃波が飛んだ様子は無かった。
東三局一本場。
ここでは、みなもの捨てた{⑧}を咲が、
「カン!」
大明槓した。そして、
「ツモ。タンヤオ嶺上開花。1100オール。」
そのまま咲が和了った。
すると、
「ドン!」
衝撃波が優希を襲った。ただ、限界値を超えた強烈な奴ではなさそうだった。
東三局二本場。
ここで咲は、
「ツモ平和。700オールの二本場は900オール。」
この時だった。
「ドドン!」
強烈な衝撃波が優希を襲った。
現在、栄子の得点は16000点。優希の限界点は、9000点のようだ。やはり、もともとの10000点よりも引き下げられていた。
東三局三本場。
今度は、限界値の達して動きにくくなった優希をみなもが狙い撃ちした。
「ロン。タンピンドラ2。7700の三本場は8600。」
「じぇ…じぇい…?」
そして、東四局、みなもの親。
ここでも、みなもが優希を狙い撃ちした。
「ロン。タンヤオ七対ドラ1。9600。」
「じぇじぇーーーー!」
これで優希のトビ終了となった。
各自点数と順位は、
1位:宮永みなも 47400
2位:宮永咲 39800
3位:園田栄子 16000
4位:片岡優希 -3200
「これが、私の対策方法ですか?」
栄子がみなもに聞いた。
「そう。優希には悪かったけど、これが栄子の倒し方…。」
限界値に達したなら、3校のうち2校が、最も守備力の弱い1校を狙い打つ。これで栄子を3位に落とす。
これをやられたら、栄子にとって、たしかに厳しい。
もっとも、みなもも咲も、まだ限界点には達していないのだが…。
だからこそ、栄子は、これが教育的意味合いで2人が敢えてやってくれたことだと理解した。そして、今後の課題として素直に受け止めた。
後半戦が開始された。
起家は、やはり優希、南家は栄子、西家は咲、そして北家はみなもと、前半戦と同じ席順であった。
後半戦は、咲とみなもが圧倒的な力で栄子と優希を蹂躙し、前半戦同様、南入せずに終わった。決勝戦には、言うまでもなく、みなもと咲の2人が進出した。
「「「「ありがとうございました(だじぇい!)。」」」」
最後の一礼を終え、4人は卓を離れると、一箇所に集まり、互いに抱き締め合って泣き出した。
観客席の巨大モニターに、その様子が映し出された。
みなもと咲の泣く姿を見て、殆どの女子高生麻雀部員達は思った。
「(鬼の目にも涙…。)」
この時、一回戦負けした数絵は、清澄高校が陣取っているところに戻ってきていた。
「数絵も、あの中に入りたかったんじゃないか?」
この閑無の問いに、数絵は、
「そうですね。ただ、今回はクジ運が悪かったです。」
と答えた。
「まあ、長野に戻ったら栄子の送別大会を開くからよ。そこで、思い切り暴れな。」
「は…はい…。」
C-D卓からの決勝戦進出者は、淡と穏乃に決まった。
その15分後に5位決定戦が行われた。半荘一回勝負。対局者は和、優希、栄子、明星。
和は、栄子の限界値が12000点まで落ち込んでいた。
対局前に状況を優希から聞かされてはいたが、和の場合、事前に知っていようと知らされてなかろうと関係ない。自分の麻雀をするだけだ。
一方、明星は栄子の限界値18000点を示した。当然、栄子の点数が7000点になってからは、ツモ和了りもできなくなった。しかも、明星はヤオチュウ牌待ちの可能性が高いことがバレているため、優希から直取りすることも殆ど出来ずにいた。
そう言った中で、和が巧く立ち回った。優希や明星から直取りし、5位和、6位明星、7位栄子、8位優希で終了した。
この頃、まこは引っ越し先で部屋の片づけをしていた。
「そうそう。今日は決勝トーナメントじゃった…じゃなくで、だった。」
標準語を話そうと、今日も努力していた。
彼女がテレビをつけると、丁度決勝戦が始まるところだった。
決勝戦進出者は、咲、みなも、淡、穏乃。
「ようし。頑張れ。咲、みなも!」
まこがそう叫んだ瞬間。
「試合終了! 1位は宮永咲選手。これで夏春夏春の4連覇を達成! そして、2位は宮永みなも選手。1位とは2ポイント差と、非常に惜しい。そして、3位は高鴨穏乃選手と大星淡が同着となりました。」
超高速時間跳躍が発動して個人戦が終了した。
まさか、決勝戦が飛ばされるとは…。前代未聞の能力発動だった。
みなもは、決勝戦直前に、
「今回は、点数調整の同着1位は嫌だからね。」
と咲に言っていた。
そうしたら、2ポイント差での2位になった。
みなもは、全てを理解していた。
「(高鴨さんと大星さんを同着3位にするために調整したな。4位だとメダルがもらえないから…。全員の合計点が奇数になることはないから、私と咲の点差は最小で2になる。まったく、あのクソアマ~~~!)」
そして、この華麗なる点数調整を前に、顔が引きつっていた。
表彰式が終わり、淡は、観客席の白糸台高校が陣取っているところに戻ってきた。
淡が、みかんから荷物を受け取った。
「ありがとう。」
カバンの中で、スマホが振動している。スマホを見ると、
「(ええっ? これからぁ…。)」
淡は、急に面倒臭そうな表情を見せた。
監督の貝瀬麗香が、
「これから一旦、学校に戻って反省会を…。」
と言い出したところ、淡が、
「ゴメン。今日パス。」
「なんで?」
「呼び出し喰らった。今日はアンドロメダ!」
「そう。じゃあ、気をつけて。」
「反省会は、また今度でお願いします。」
そう言うと、淡は荷物を持って観客席を出て行った。ただ、何故、こんな会話で監督はOKするのだろうか?
しかも、淡は部長だ。普通なら、こんなことは許されない。
ただ、前々部長の弘世菫や前部長の亦野誠子も、淡が宇宙の単語を出すと、訳の分からない理由なのに退席を許していた。
みかんと麻里香は、不審に思い、淡の後をつけた。
淡が会場のトイレに入った。しかし、なかなか出てこない。おかしいと思い、みかんと麻里香がトイレのドアを開けると、そこには誰もいなかった。
窓があるわけではない。何処に消えたのか、まるで分からない。
みかんと麻里香の顔面から一気に血の気が引いていった。
翌朝、
「あぁ、もう眠い!」
淡が寮に戻ってきた。
昨日、忽然と姿が消えたのは、なんだったのだろうか?
淡の姿を見つけたみかんが、
「淡ちゃん、昨日、大会会場のトイレに入ったよね。あの後、何処に行ったの?」
と聞いた。すると、淡からは、
「アンドロメダ! あのトイレがアンドロメダに通じていたの!」
と、ぶっ飛んだ答えが返ってきた。さすがに、これは信じられない。
「ちょっと、なに変なこと言ってるのよ。」
「だから、宇宙大戦争を止めに行ってたの。ゴメン。もう、全然寝てないんだから、もう寝る。おやすみなさい!」
そう言うと、淡は部屋に戻り、頭から布団を被った。
完全に意味不明であった。