春季大会後、清澄高校では栄子の送別麻雀大会が行われた。
そこで、改めて栄子を削る限界値を測定した。春季大会時と同様に、和が12000点、優希が9000点であった。また、数絵は11000点が限界値だった。
昨年入学した部員の殆どは、麻雀の腕に自信があり、風越女子高校を蹴って清澄高校に来ていた。
彼女達の以前の限界値は6000点、インターハイ一回戦レベルくらいの腕がありそうな部員でも7000点だった。それが今、軒並み5000点程度に限界値に変わっていた。
やはり、春季大会の出場で栄子自身の力量が上がり、相対的に各人の限界値が引き下げられたと言うことなのだろう。
このデータは、栄子の転校先の監督…赤土晴絵の元に、閑無よりメール送信された。
晴絵は、現在では閑無と監督会議等で話をする機会が増えているが、学生時代から一応交流があった。
小学校時代には晴絵は慕としか会っておらず、その時点では閑無やはやりとの交流は無かったが、中学では晴絵が1年生、閑無達が3年生で、共に大会で顔をあわせ、そこから交流が始まったのだ。
晴絵が高校1年生のインターハイ以降、一旦、この交流は途切れたのだが…。
始業式前日、清澄高校麻雀部員は、休日とは言え、部活動で集まっていた。
咲、和、優希、数絵が対局する間、みなもは粕渕高校の石見神楽からのメールを読んでいた。
「監督。」
「どうした、みなも?」
「粕渕高校の人から、練習試合がしたいので、正式連絡を入れさせて欲しいってメールが着たんです。」
「また、何故粕渕?」
「春季大会の準決勝の後、そこの副将の子が連絡先をくれたんです。」
「他校との交流か。お前らもやるねぇ。でも、粕渕か。その子の連絡先、私に教えていいかどうか聞いてくれるか? それで先方がいいと返事をくれたら、私からその子に連絡を入れる。それと、ちょっと面白いことを考えた。この件、一旦、私に預からせてくれないか?」
「いいですけど…。」
「じゃあ。まず、その子への連絡を頼む。」
そう言いながら、閑無はイタズラ好きな少年のような目をしていた。
一方、阿知賀女子学院麻雀部では、穏乃、憧、初瀬、ゆい(小走やえ妹)をはじめ、麻雀部員に集合がかかっていた。こちらも始業式前日だった。
「(なんで晴絵のやつ、急に…。)」
せっかくの最後の休日を潰されて、憧は不満タラタラだった。
ここに、LINEが届いた。みなもからだ。
『爆弾落としたナウ』
「(なにこれ?)」
丁度、ここに晴絵が入ってきた。
「みんな、春休み最終日に来てもらって済まないね。でも、どうしても、今日。紹介したくってね。」
すると、憧が、
「紹介って、晴絵の男ですか?」
と聞いた。
「いや、違うって。転校生を1人紹介したい。」
「転校生?」
「そう。しかも、麻雀部員で全国でも活躍した人だ。じゃあ、入って。」
晴絵に言われて、その転校生が部室に入ってきた。
「清澄高校からきました、園田栄子です。」
栄子の姿を見て、穏乃が指差した。
「え…ATフィールド…。」
「指差すな!」
憧が穏乃に言った。しかし、指を差していたのは穏乃だけではなかった。
「ロンギヌスの槍!」
ゆいも指差していた。彼女の場合は、実際に栄子と戦ってオーラスの一撃を喰らったのだ。気持ちは分かる。
「ゆいも指差すな!」
憧が、ゆいの手を掴んで降ろさせた。
「(さっきの、みなもの『爆弾落とした』は、このことか。でも、春季個人7位が入ってきたんだ………て私より上じゃん。まあ、阿知賀の戦力増強にはなるし、悪いことじゃないわよね。)」
基本的に、憧の考えは正しい。これで、春季大会ベスト16の選手が4名になる。これを上回るのは清澄高校だけだ。
「今日は、栄子の歓迎会をしたい。これから、栄子と卓を囲みたいやつはいるか?」
晴絵が部員達に聞いた。
これに真っ先に喰らいついたのが穏乃だった。
「はい!」
「じゃあ、シズと…。」
その後で、ゆいも静かに手を上げていた。春季大会のリベンジがしたいのだ。
「ゆいか。あと、もう1人…。」
すると、憧が手を上げた。
「そのATフィールドを実際に見てみたい。私やります。」
「分かった。じゃあ、シズと憧とゆいで頼む。それと、ATフィールドって言い方は、ちょっとってことで、宮永姉妹が、それに替わる名を考えたらしい。」
「へー。なんて名前?」
「ええと、『魔境が生んだ棘の城壁』だそうだ。」
「棘の城壁ねぇ…。」
ならば、その城壁を崩してみたい。憧の中で、そんな気持ちが芽生えてきた。やはり、より上位の者に挑んで勝ちたい気持ちがある。
場決めがされた。
起家は憧、南家はゆい、西家が栄子、北家が穏乃になった。
東一局、憧の親。
ここでは、憧が得意とする鳴き三色手を、
「ツモ! 2000オール!」
速攻でツモ和了りした。
東一局一本場、憧の連荘。
スピード重視で、ここでも憧が、
「チー!」
鳴いて手を進め、
「ロン! 2900の一本場は3200!」
穏乃から安手を和了った。
東一局二本場。
ここでも、憧が鳴いて手を進めた。しかし、
「リーチ!」
ゆいがリーチをかけてきた。
「チー。」
栄子が一発を消した。そして、捨てた牌を、
「ポン!」
今度は憧が鳴いた。これで憧も聴牌。しかし、
「ツモ! リーチツモ平和ドラ2。2200、4200!」
ゆいにツモ和了りさせる結果となった。
東二局、ゆいの親。
ゆいも憧と同様に春季個人戦では全国ベスト16に入った選手。底力はある。
「ツモ。七対赤1。3200オール!」
これで、栄子の失点が合計7400点になった。
この時だった。
「ドン!」
穏乃が栄子からの衝撃波を受けた。
当然、何事かと穏乃は驚き、栄子のほうを見た。
一方、栄子も驚いていた。全国3位で深山幽谷の化身と呼ばれる穏乃が、7000点程度で衝撃波を受ける対象になるとは思っていなかったからだ。
これだと、全国大会に出てくる多くの選手と同じレベルで、少なくともベスト4に入れるような力量ではない。
ただ、晴絵は、こうなることを予想していた。
「(やっぱり、シズは、こうなったか。でも、それだけでシズを判断すると大変なことになるよ、栄子。)」
東二局一本場。
今度は、
「チー!」
憧が、
「ツモ! 三色ドラ2。1400、2700!」
赤牌を2枚抱えた手で、{7999}の待ちから{7}をツモって和了った。
この時、今度は憧とゆいが、
「「ドン!」」
栄子から発される衝撃波を受けた。ゆいは、春季大会で経験していたが、憧は、これが初めてだった。
「(なにこれ?)」
そして、憧とゆいは、周りを棘の壁で囲まれる幻を見た。棘の城壁を崩すどころか、むしろ棘に絡まれて全身が傷だらけになりそうだ。
この様子を見て、晴絵が心の中で呟いた。
「(栄子の点数は16200。となると、憧とゆいは片岡さんレベルってことか。閑無さんが送ってきたデータ。結構プレッシャーだな。和が12000点、南浦さんが11000点ってことは、憧もゆいも、和と南浦さんに劣ると言うこと。それに、あそこには宮永姉妹がいる。ええと、宮永姉妹の限界値は…。)」
ただ、そこに記載されていた数値は、ともに『>50000点(測定不能)』だった。
晴絵は、言葉を失った。
東三局、栄子の親。
憧は、穏乃の捨て牌を鳴きまくり、なんとか聴牌した。しかし、どうしても和了り牌がツモれなかった。
たしかに、春季大会で恒子が『ATフィールド』と表現していた時と同じ現象が起きていた。そこに、ゆいから憧の和了り牌がこぼれてきた。
「ロ…ロン! 3900。」
これで栄子の親を流した。
東四局、穏乃の親。
「ピシッ!」
突然、栄子に『視界がひび割れる』ような錯覚が見えた。
これは、栄子にも初めての経験だった。
東二局に穏乃に放った衝撃波が、今になって時間差で跳ね返され、逆に栄子が衝撃波を受けてバリヤーの一部が破損したように感じたのだ。
「(これって、高鴨さん? やっぱり、みなもさんとか咲さんが言っていたとおり、前半と後半で力量が変わるの?)」
どうやら、この局で深山幽谷の化身としてのスイッチが穏乃の中で入ったようだ。
卓上にも、うっすらと靄がかかってきた。
今までなら棘の城壁に阻まれて栄子の点数を一切削ることができない状態だったはずの穏乃が、
「ツモ。2000オール。」
何事もなくツモ和了りを決めた。
現在の点数と順位は、
暫定1位:新子憧 34200
暫定2位:小走ゆい 32600
暫定3位:高鴨穏乃 19000
暫定4位:園田栄子 14200
東四局一本場。
栄子は、このままではラスを引くと理解した。原因は穏乃だ。
とは言え、穏乃は限界値が変わっても、現段階では、まだ和レベルよりは低そうだ。
仕掛けるなら今のうち。恐らく、これが南入したら和レベルを遥かに凌ぐレベルに跳ね上がるだろう。
幸いにも、この局の栄子は好配牌。ならば、ここで勝負に出る。
これまで鳴いて手を進めていた憧の鳴きが少なくなった。上家である穏乃の捨て牌が甘くなくなったのだ。
ゆいは、面前で進めるほうが多いイメージ。今回も面前で手を進めている。
穏乃も面前手作りが普通のようだ。
全体的に手が早くなさそう。そう言った中で、なんとか栄子は聴牌した。そして、
「リーチ!」
栄子が捨て牌を横に曲げた。
憧、ゆいは勿論、穏乃にも衝撃波が飛んだ。
リーチ棒を合わせると11800点を既に栄子は削られたことになる。
この衝撃波は、このリーチ棒をきちんと回収できる方向に強制力が働くことを通達したのだ。これが穏乃にも及ぶと言うことは、東四局段階の穏乃は、限界値が11000点以下と見てよいだろう。ならば、ここは、栄子以外は和了れないはず。
この予測どおり、この局は、
「ツモ! 4100、8100!」
栄子が一発逆転の手を和了った。
これを見て、ゆいと憧は、
「(ロンギヌスの槍だ!)」
と心の中で呟いていた。
これで現在の点数と順位は、
暫定1位:園田栄子 30500
暫定2位:新子憧 30100
暫定3位:小走ゆい 28500
暫定4位:高鴨穏乃 10900
南入した。
南一局、憧の親。
卓上の靄が深くなってきた。それでも、栄子からは和了り牌は出ない。相手が見えようと見えまいと、和了り牌だけは分かるからだ。これは、桃子との対局で証明済みだ。
しかし、憧とゆいは、そうは行かない。
「ロン。7700。」
この局は、ゆいが穏乃に平和タンヤオドラ2を振り込んだ。
南二局、ゆいの親。
ここでは、
「ロン。7700。」
憧が、穏乃に平和タンヤオ一盃口ドラ1を振り込んだ。
南三局、栄子の親。
卓上の靄が深い。
能力者の栄子には、現在、どれだけの支配力を穏乃が出しているか、良く分かった。
「(凄い…。でも、この状態でも、咲さんは、お構いなしに嶺上開花を和了れてたって、改めて考えると、それはそれで凄いな。)」
栄子は、振り込むことは無かったが、今の状態では誰も限界値に達していないため、他家のツモ和了りは誰に対しても許してしまう状態にある。
とは言え、穏乃の山支配が強力であり、憧もゆいも和了るのは結構厳しい状態にあるのだが…。
結局、
「ツモ。2000、4000。」
穏乃が満貫をツモ和了りした。
これで現在の点数と順位は、
暫定1位:高鴨穏乃 34300
暫定2位:園田栄子 26500
暫定3位:新子憧 20400
暫定4位:小走ゆい 18800
穏乃が逆転し、トップに立った。
オーラス、穏乃の親。
穏乃の山支配が最強になる。この局も、
「ロン。2000で和了りやめにします。」
ゆいから穏乃が和了って終了した。
点数と順位は、
1位:高鴨穏乃 36300
2位:園田栄子 26500
3位:新子憧 20400
4位:小走ゆい 16800
春季大会個人戦順位が、そのまま反映したような結果になった。
「感想は?」
晴絵が栄子に聞いた。
「高鴨さん、面白いです。途中で限界値が変わる人って初めて見ました。」
「そうか。大体…そうだな。憧とゆいの限界値は9000点ってとこかな?」
「そうですね。」
「だとすると、やっぱり片岡レベルってとこか。」
「優希ちゃんですね。それくらいだと思います。」
「で、穏乃のレベルは分かるかい?」
「今のだけでは分かりません。咲さんが一緒にいてくれると、点数をこまめに調整してくれるので、きちんとした数値が出せるのですけど…。」
「(栄子がいる状態で点数調整か…。やはり化物だな、宮永咲…。)」
ただ、これで間違いなく阿知賀女子学院の戦力アップは保障された。あとは、全体の底上げをどう行うかだろう。
その日の夕方、一方の清澄高校麻雀部では、
「突然だが、今度のGWに粕渕高校と朝酌女子高校との合同練習試合をする!」
との発表が閑無からあった。
王者清澄高校自らが島根県に赴く。ただし、費用の関係上、島根県に行けるのは監督とコーチ、レギュラーの計7名のみだった。
粕渕高校からの誘いを断るのも申し訳ないし、折角島根県に行くなら、朝酌女子高校も巻き込んだほうが面白いと言うのが閑無の考えるところだった。
朝酌女子高校の現監督兼顧問の本藤悠彗も、臨時コーチの稲村杏果も、喜んで閑無の提案を受け入れた。
また、清澄高校メンバーの宿泊のため、杏果が自宅の旅館の部屋を一つ確保したのは言うまでもない。
そして、閑無の発表から三週間が過ぎた。
閑無、恭子、咲、みなも、和、優希、数絵の7人は、島根県に渡った。午前出発でも到着は夜になる。
その日、みなも達は、杏果の旅館でゆっくりと温泉に浸かった。
「ここは、はやりもよく来るんだよ。」
「じゃあ、ここなんですか? 瑞原プロが、いつまでも若々しい肌でいられるって言っていた温泉は。」
「実は、そうなんだ。家は市内の洋菓子店でな。実家に戻ってきた時には、結構ここに来るって…。」
丁度この時、扉が開き、1人の巨乳の持ち主が入ってきた。
「はやや…。」
はやりだった。
翌日、朝酌女子高校にて、清澄高校、朝酌女子高校、粕渕高校の麻雀部練習試合が開催された。
そこには、何故か、はやりと慕も来ていた。
咲が慕に話しかけた。
「お久しぶりです。」
「咲ちゃんも元気そうで。」
「あ…ありがとうございます。それで、白築プロは、今日はどうしてここへ? それと瑞原プロも?」
「ああ、やっぱり閑無ちゃんは、話してなかったんだ。」
「話って何ですか?」
「練習試合するのには、4校いたほうがイイでしょ。」
「たしかに、そうですね。」
「でも、今日は3校しか来ていない。それで、残る1チームなんだけどね。私とはやりちゃん、閑無ちゃん、杏果ちゃん、悠彗ちゃんの、12年前の朝酌女子高校チームが参加するよ!」
「えー!」
「それから、ルールも、今年の夏の大会は今までと変わるの。今度の世界大会に沿ったルールに切り替えるってことでね。」
「それは、昨夜、監督から聞きました。今日も、そのルールに従ってやると…。」
ルールは、今までの点数引継ぎではなく、慕達が中学時代に採用されていた星取りの形式に変えられることになっていた。ただし、トビ終了の可能性を下げるため、10万点持ちで行われる。
前後半戦の半荘二回勝負の場合は、前半戦と後半戦を、それぞれ10万点持ちで行われ、その収支の合計(獲得素点の合計)で順位を決める。オカやウマは付かない。先鋒から大将までの5人で、1位を3回取ったチームが間違いなくチームとしての1位となる。
1位になった回数が同じだった場合は、全員の収支の合計で順位を決める。
また、大明槓による責任払い、赤ドラ、ダブル役満以上ありのルールになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。大枠、そう言ったルールになる。
さらに、ローカルルールの槓振り(嶺上ロンまたは嶺上振込み)が今回は採用されることになった。槓したプレイヤーが嶺上牌を引き、嶺上開花できなければ何らかの牌を捨てるが、この牌でロンした場合につく役である。和了り役としても認められる。
各チームに分かれて、オーダーを決める。
閑無は、恭子に今日の監督を任せ、既に旧朝酌女子高校チームのほうにいた。そこで閑無は、
「絶対に先鋒と大将だけは嫌だから。それと次鋒も。」
と我侭を言っていた。
「じゃあ、先鋒は高校の頃と同じで、はやりがやるよ! 大将も慕ちゃんで。それならイイでしょ! 閑無ちゃん。」
「お…おう。頼むわ。」
「じゃあ、次鋒は私がやるわ。」
悠彗が次鋒を名乗り出た。
「閑無は中堅がイイ? それとも副将?」
こう聞いてきたのは杏果だ。昔と全く変わらない。今でも閑無の我侭に付き合ってあげている感じだ。
「じゃ…じゃあ、副将で。」
「それじゃ、私が中堅ね。」
これで、旧朝酌女子高校チームは、先鋒はやり、次鋒悠彗、中堅杏果、副将閑無、大将慕と決まった。
各チームからオーダーが提出された。
粕渕高校は、先鋒石見神楽、次鋒坂根理沙(坂根千沙の娘)、中堅春日井真澄(春日井真深の姪)、副将緒方薫(亦野誠子の従妹)、大将石原麻奈だった。麻奈は、慕が中学1年生の時の島根県大会決勝戦で、慕と戦った姫原中先鋒石原依奈の姪であった。
なお、粕渕高校のオーダーは、霊力の高い石見神楽が受けた啓示によって決められていた。これは春季大会の時も同じだった。何気に、春季大会で清澄高校とは同じメンバー同士が当たっている。この組み合わせがベストと言うことなのだろう。
清澄高校のオーダーは、先鋒みなも、次鋒優希、中堅和、副将数絵、大将咲であった。しかも、この日の優希は、最高の仕上がりであった。
閑無は、このオーダーを知っていたので、我侭を言ったのだ。
今回は、半連荘1回ずつの勝負となった。また、時間短縮のため、5卓同時並行で試合が行われることとなった。
「そうだ、みなも。」
閑無が、みなもを呼び止めた。そして、周りに聞こえないように、小さな声でみなもに話した。
「そう言えば、はやりが、牌のお姉さんの後釜に、阿知賀の新子さんを狙ってるみたいだね。」
「憧ですか?」
「そう。ただ、牌のお姉さんになれば知名度も収入も安定するから、結構ライバルは多い。それを知って、はやりは憧に迫って、牌のお姉さんにしてあげる代わりに、あーんなことや、こーんなことをしようとしてるらしい。」
みなもの頭の中に、はやりに犯されまくる憧の姿が浮かび上がった。
自分の出世のために、涙を流しながら、はやりに身を任せる憧。そんな憧の身体を執拗に攻めるはやり…。憧の股間に挿入される極太の…。
「ちょっと、それ。職権乱用じゃ…。」
「まあ。その辺の怒りは、麻雀で語って来いや。」
「うん。そうする。」
突然、みなもが、かつてのミナモ・A・ニーマンの雰囲気に変わった。真の『北欧の小さなな巨人』…いや、破壊神に…。
次に閑無は、
「おお。咲。ちょっといいか?」
咲に話しかけた。そして、さっきと同様に、周りに聞こえないように、小さな声で咲に話し始めた。
「実はな。慕は、小学校の頃に叔父に引き取られて、ずっと2人暮らしだったんだ。」
「はい。それ、聞いたことあります。」
「慕はな。叔父が大好きでな。それも、likeではなくてloveの意味でな。それで、小学校の頃に、叔父に迫ってヤッちゃってな。」
「ヤッちゃったって。えっ?」
「まあ、叔父とは言え独身男の家に転がり込んだんだ。しかも、養ってもらっている。無償って訳にはゆかねえよな。」
「それは、そうですけど。」
「それに、慕自身、叔父が好きだってのもあってな。それで、慕から迫ってヤッちゃったらしい。それこそ、中学の頃は、あーんなことや、こーんなこともヤリまくりでな。高校の頃は、×××とか、×××なんて当たり前、そりゃ常識でしょみたいな感じで。」
「でも、小学校の頃からなんて…。」
「互いに愛し合ってるからな、あの2人は。愛があれば、年の差なんてって感じかな。」
「で…でも、叔父だと三親等だから、マズイんじゃ…。」
「そう。だから、2人は結婚できない。それで、慕と慕の叔父は、共に独身でいるんだ。昨日も叔父のところに泊まってきたみたいだし。久々に濃厚なのを…。」
「でも、それって、やっぱり、いけないことじゃないですか。」
「ま…まあ、そうだな。いけないことだな。うん。」
「けがれています。」
「それは、たしかに、そうなるけどさ…。」
「これは、麻雀を楽しませなくてはならないですね。」
「そ…そうだな。よろしく頼む。それと、優希から一つくすねてきた。タコスだ。」
「分かりました。これを食べて、全部ゴッ倒します!」
咲がタコスを食べ始めた。
閑無が、みなもと咲に言ったことは、でっち上げた話なのだが、これで2人に最強の力を発揮させようとしたのだ。
随分と性格が悪い。
5卓同時に試合がスタートした。
先鋒卓は、はやりが起家、みなもが北家だった。
東一局、はやりの親は、
「ロン。タンヤオドラ3。8000。」
「はややー。」
みなもが、はやりから和了った。
東二局、神楽の親番でも、
「ロン。タンピンドラ3。8000。」
「はややー。」
みなもは、はやりから直取りした。しかも、これは、上家が捨てた和了り牌を見逃しての和了り。徹底したはやり狙いだ。
東三局も「ロン。タンピン一盃口ドラ2。8000。」
そして、東四局、みなもの親番になると、それは一気に加速した。
「ロン。18000。」
「ロン。24300。」
「ロン。24600…。」
「はややーーーー…。」
結局、はやりのトビで終了となった。
一方、大将卓では、先鋒卓以上に最悪の展開となっていた。
東一局十九本場、咲の連荘。
「カン。嶺上開花。5900オール。」
これで、咲以外が全員0点になった。
そして、運命の二十本場。
対面が捨てた{中}を、
「ポン。」
咲が鳴いた。そして、次巡、
「カン。」
{中}を加槓した。そして、
「もいっこ、カン。」
{白}を暗槓。
「もいっこ、カン。」
{發}を暗槓。
「もいっこ、カン。」
{西}を暗槓。そして、嶺上牌は{北}。
「ツモ。嶺上開花。大三元字一色四槓子。トリプル役満ありのルールですので、48000オールの二十本場は、50000オールです。」
昨年秋季大会の再現だった。閑無が、慕に頼まれて咲にやらせたやつと同じだ。
これが、今回、慕の目の前で行われた。
そして、今日、ここにいる粕渕高校と朝酌女子高校の麻雀部員全員が理解した。あの時の550000点は偶然ではなく、意図的だったと…。